鍼灸医学の懐

黄帝内経の意訳と解説 最後に原文と読み下しを記しています。

標本病傳論篇第六十五.

 ともすれば、今現在目の前に現れた症状に対して、どのように捉え、どこからアプローチするのかという問題提示されているところです。

 これは、<傷寒論>における原則のひとつである「先表後裏」にも通じる概念であると思います。

 <傷寒論>の原則は「先表後裏」であっても、逆の「先裏後標」にすべき病態であったり、「表裏同治」すべき病態があります。

 これらのことは、原文中の以下の文章に端的に述べられています。

 

「夫れ陰陽の逆從、標本の道たるや、小にして大なり。一を言いて百病の害を知る。

少にして多なり、淺にして博し。以て一を言いて百を知るべきなり。淺を以て深きを知り、近きを察して遠きを知る。標と本とを言うは、易くして及ぶことなし。」

 

 また病の伝変に関しては、五行論的に解かれていますが、この記述をそのまま臨床に用いるには難があると思います。

 筆者なりに論旨を取るならば、病は一定のものでなく、伝変して変化するものであるから、やはり「陰陽の逆従、標本の道」に法り病態把握し、治療するのが良いと説いていると考えています。

 全体としては、本篇で述べられている標本の考え方の重要性を、改めて認識した次第です。

 

           意 訳

 黄帝が申された。

 病には、標本の区別があり、刺法にもまた柔逆があるが、これはどういうことであろうか。

 岐伯が答えて申された。

 おおよそ刺法の法則は、まず必ず陽病と陰病を明確に別けることであります。

 そして病が、どのような症状から始まり、新たにどのような症状が加わったのかなどの先病・後病、病の経過を明確に捉えます。

 このような前提を満たしますと、刺鍼に際しては正誤を正確に弁えることが出来ます。

 そしてさらには、標治・本治のどちらを優先し、どちらを後に施すのかが、自由に行えるようになるのであります。

 従いまして、標証を目標として標治を行う場合。

 本証を目標として本治を行う場合。

 本証を目標にして標治を行う場合。

 標証を目標にして本治を行う場合があります。

 

 また、標治を行って治るもの、本治を行って治るものがあります。

 また先病を治して治るもの、後病を治して治るものがありますので、この道理を知って正しく治療を行いますと、疑念すら生じません。

 そして、標本の道理を知れば、どのような治療に治療を施しても、すべて治すことが出来ます。

 反対に、標本の道理を知らないで施す治療を、妄行というのであります。

 陰陽の逆従と標本の道理は、簡素ではありますがその意味するところは広大であります。

 此の道理を心得ておるものが一言語る背景には、あらゆる病の害をすでに知り得ているものであります。

 数少ない症候をサッと聞いただけで多くを推し測ることができますので、語るに僅か一言であっても、すべてを見通しているものです。

 ですから表面から候って深部を知ることが出来ますし、現在の証候を聞いて病を発した過去にまでその見識が及ぶものであります。

 標本の道理は、簡単ではありますが、実際に用いるとなるとなかなか容易ではありません。

 治療して悪化するのは逆であり、効果を得る場合は、従であります。

 先に病が生じた後になって次第に気血が逆乱する場合は、先病を本として治します。

 先に気血が逆乱した後に病を生じたのであれば、本である気血の逆乱を先病として治します。

 先に身体が寒して後に病を生じた場合は、寒証を本として治します。

 先に病を得て後に寒証となった場合は、その先病を本として治します。

 先に身体が熱して後に中満を生じた場合は、邪実が進行するので、後に生じた中満を標として先に治します。

 先に下痢を起こし、後に他病を生じる場合は、正気が泄れますので下痢を本として先に治療します。

 このような場合、必ず時間をかけてでも下痢症状を調え治まってから、その後に生じた病を治すのであります。

 先ず病を得て後に中満とするものは、やはり邪実が進行しますので、中満を標として先に治します。

 先に中満となり、煩心するようでしたら、邪実である中満を本として先に治します。

 人の病の原因には、客気である外邪によるものと、同気である内邪によるものとがあります。

 病を得て大小便が通じなくなっているのでしたら、邪実を通利させるために大小便の不通を標として治します。

 反対に、大小便が通利しておりましたなら、先病を本として先に治します。

 

 以下、一般的な病の伝変していく証候を述べます。

 心の病は、先ず心痛するのが特徴で、一日しますと肺に伝変して咳をするようになります。

 三日しますと、病は肝に伝変して脇が支えて痛みます。

 五日しますと脾に伝変して大小便が閉塞して通じなくなり、身体が痛む上に重く感じるようになります。

 ここからさらに三日経って治らないようでしたら、死します。冬であれば夜半に、夏であれば日中がその死する時期であります。

 

 肺の病は、喘咳が起こります。

 三日しますと肝に伝変して脇が支えて痛みます。

 さらに一日経ちますと脾に伝変して身体が重い上に痛むようになります。

 さらに五日経ちますと胃に伝変してお腹が脹るようになります。

 さらに十日経って治らないようでしたら、死します。

 冬であれば日没時、夏であれば日の出がその死する時期です。

 

 脾の病は、身体が痛んで重く感じます。

 一日しますと胃に伝変して脹ってきます。

 二日しますと腎に伝変して少腹や腰脊部が痛んで脛がだるくなります。

 三日しますと膀胱に伝変して背部の筋骨が痛んで小便が出なくなります。

 十日経って治らないようでしたら、死します。

 冬でありましたら人が寝静まったころ、夏ですと夕食頃がその死する時期であります。

 

 肝の病は、頭や目がクラクラとしてめまいがし、脇が支えて満となります。

 三日しますと、脾に伝変して身体が重く感じるようになりまして痛みます。

 さらに五日経ちますと胃に伝変してお腹が脹ります。

 さらに三日しますと、腎に伝変して腰脊部や少腹部が痛み、脛がだるくなります

 さらに三日経って治らないようでしたら、死します。

 冬でありましたら、日没時、夏でしたら朝食頃がその死する時期であります。

 

 腎の病は、小腹や腰脊部が痛み、脛がだるくなります。

 三日しますと、膀胱に伝変して背部の筋骨が痛んで小便が出なくなります。

 さらに三日しますと胃に伝変してお腹が脹ってきます。

 さらに三日しますと、肝に伝変して両脇が支えて痛みます。

 三日経って治らないようでしたら、死します。

 冬でしたら夜明けの頃、夏でしたら夕暮れ時がその死する時期であります。

 

 胃の病は、お腹が脹滿します。

 五日しますと腎に伝変して少腹と腰脊部が慰安で脛がだるくなります。

 さらに三日しますと、膀胱に伝変して背部の筋骨が痛んで小便が出なくなります。

 さらに五日しますと脾に伝変して身体が重く感じます。

 六日経って治らないようでしたら、死します。

 冬でしたら夜半に、夏は夕方頃がその死する時期です。

 

 膀胱の病は、小便が止まります。

 五日しますと腎に伝変して少腹が脹り、腰脊が痛んで脛がだるくなります。

 一日しますと、胃に伝変してお腹が脹ります。さらに一日しますと、脾に伝変して身体が痛みます。

 二日経って治らないようでしたら、死します。

 冬は夜明けの鶏鳴の頃、夏は午後過ぎから夕方頃がその死する時期です。

 

 諸病は、上述のように、順序に従って伝変して参ります。

 このように次々に伝変する経過をたどるものは、すべて死期がありますので、刺鍼は行いません。

 ところが病の伝変が一臓の間で留まる場合、例えば木が土に伝変しただけの場合は刺鍼します。

 さらにまた伝変が三、四臓に至るも、そこで伝変が止まるような場合は、刺鍼して治すべきであります。

 

        原文と読み下し

 

黄帝問曰.病有標本.刺有逆從.奈何.

岐伯對曰.

凡刺之方.必別陰陽.前後相應.逆從得施.標本相移.

故曰.

有其在標而求之於標.

有其在本而求之於本.

有其在本而求之於標.

有其在標而求之於本.

故治有取標而得者.

有取本而得者.

有逆取而得者.

有從取而得者.

故知逆與從.正行無問.

知標本者.萬擧萬當.

不知標本.是謂妄行.

黄帝問うて曰く。病に標本有り、刺に逆從有りとは、いかなるや。

岐伯對えて曰く。

凡そ刺の方は、必ず陰陽を別ち、前後相い應じ、逆從施すを得、標本相移す。

故に曰く。

其れ標に在りて之を標に求むる有り。

其れ本に在りて之を本に求むる有り。

其れ本に在りて之を標に求むる有り。

其れ標に在りて之を本に求むる有り。

故に治には標を取りて得るもの有り。

本を取りて得るもの有り。

逆を取りて得るもの有り。

從を取りて得るもの有り。

故に逆と從を知れば、正しく行きて問うこと無し。

標本を知る者は、萬擧して萬當す。

標本を知らざるは、是れ妄行と謂う。

 

夫陰陽逆從.標本之爲道也.小而大.言一而知百病之害.

少而多.淺而博.可以言一而知百也.

以淺而知深.察近而知遠.言標與本.易而勿及.

治反爲逆.治得爲從.

先病而後逆者.治其本.

先逆而後病者.治其本.

先寒而後生病者.治其本.

先病而後生寒者.治其本.

先熱而後生病者.治其本.

先熱而後生中滿者.治其標.

先病而後泄者.治其本.

先泄而後生他病者.治其本.

必且調之.乃治其他病.

先病而後中滿者.治其標.

先中滿而後煩心者.治其本.

人有客氣.有同氣.

小大不利.治其標.

小大利.治其本.

夫れ陰陽の逆從、標本の道たるや、小にして大なり。一を言いて百病の害を知る。

少にして多なり、淺にして博し。以て一を言いて百を知るべきなり。淺を以て深きを知り、近きを察して遠きを知る。

標と本とを言うは、易くして及ぶことなし。

治して反するを逆と爲し、治して得るを從と爲す。

先ず病みて後に逆する者は、其の本を治す。

先ず逆して後に病む者は、其の本を治す。

先ず寒して後に病を生ずる者は、其の本を治す。

先ず病みて後に寒を生ずる者は、其の本を治す。

先ず熱して後に病を生ずる者は、其の本を治す。

先ず熱して後に中滿を生ずる者は、其の標を治す。

先ず病みて後に泄する者は、其の本を治す。

先ず泄して後に他病を生ずる者は、其の本を治す。

必ず且(しばら)くこれを調えて、乃ち其の他病を治す。

先ず病みて後に中滿する者は、其の標を治す。

先ず中滿して後に煩心する者は、其の本を治す。

人に客氣有り、同氣有り。

小大利ならざれば、其の標を治す。

小大利なれば、其の本を治す。

 

病發而有餘.本而標之.先治其本.後治其標.

病發而不足.標而本之.先治其標.後治其本.

病發して有餘なれば、本にしてこれを標とす。先ず其の本を治し、後に其の標を治す。

病發して不足なれば、標にしてこれを本とす。先ず其の標を治し、後に其の本を治す。

 

夫病傳者.心病.先心痛.一日而欬.

三日脇支痛.五日閉塞不通.身痛體重.

三日不已死.冬夜半.夏日中.

夫れ病の傳うる者は、心病むは先ず心痛す。

一日にして欬す。三日にして脇支痛す。五日にして閉塞して通ぜず、身痛し體重す。

三日にして已えざれば死す。冬は夜半、夏は日中。

 

肺病.喘欬.三日而脇支滿痛.

一日身重體痛.五日而脹.

十日不已死.

冬日入.夏日出.

肺病めば、喘欬す。三日にして脇支滿して痛む。

一日にして身重く體痛す。五日にして脹す。

十日にして已えざれば死す。

冬は日入、夏は日出。

 

肝病.頭目眩.脇支滿.三日體重身痛.

五日而脹.三日腰脊少腹痛.脛痠.

三日不已死.

冬日入.夏早食.

肝病めば、頭目は眩(くら)み、脇は支滿す。三日にして體重し身痛す。

五日にして脹す。三日にして腰脊少腹痛み、脛痠(さん)す。

三日にして已えざれば死す。

冬は日入、夏は早食。

 

脾病.身痛體重.一日而脹.

二日少腹腰脊痛.脛痠.

三日背月呂筋痛.小便閉.

十日不已死.

冬人定.夏晏食.

脾病めば、身痛し體重す。一日にして脹す。

二日にして少腹腰脊痛み、脛痠す。

三日にして背【月呂】筋痛み、小便閉す。

十日にして已えざれば死す。

冬人定、夏晏食。

 

腎病.少腹腰脊痛.【月行】痠.三日背月呂筋痛.小便閉.

三日腹脹.

三日兩脇支痛.三日不已死.

冬大晨.夏晏昳.

腎病めば、少腹腰脊痛みて【月行】痠す。三日にして背【月呂】筋痛み、小便閉す。

三日にして腹脹る。

三日して兩脇支痛す。三日にして已えざれば死す。

冬は大晨、夏は晏昳(あんてつ)。

 

 

胃病.脹滿.五日少腹腰脊痛.【月行】痠.

三日背月呂筋痛.小便閉.

五日身體重.

六日不已死.

冬夜半後.夏日昳.

胃病めば、脹滿す。五日にして少腹腰脊痛み、【月行】痠す。

三日にして背【月呂】筋痛み、小便閉す。

五日にして身體重し。

六日にして已えざれば死す。

冬は夜半後、夏は日昳。

 

膀胱病.小便閉.五日少腹脹.腰脊痛.【月行】痠.

一日腹脹.

一日身體痛.

二日不已死.

冬鷄鳴.夏下晡.

膀胱病めば、小便閉ず。五日にして少腹脹し、腰脊痛みて【月行】痠す。

一日にして腹脹す。

一日にして身體痛む。

二日にして已えざれば死す。

冬鷄鳴.夏下晡.

諸病以次是相傳.如是者.皆有死期.不可刺.間一藏止.及至三四藏者.乃可刺也.

諸病は次(ついで)を以て是れ相い傳う。是の如き者は、皆死期有り。刺すべからず。間一藏に止まり、及び三四藏に至る者は、乃ち刺す可きなり。

 

四時刺逆從論篇第六十四.

  本篇は、四時陰陽の消長により気血が浮沈し、それによって気血が大きく偏った場合の、モデルになる病症を挙げ、さらに鍼の深度の目安を述べているに過ぎないと考えています。

 本編で述べられている、例えば冒頭の厥陰が臓或いは経脉を指しているのかは定かではないように思います。

 そこにこだわるよりも、季節による病理変化の法則性を捉えることが、臨床上有益かと考えています。

 また、例えば意訳文中の狐疝風や脾風疝などの五臓風疝に関しては、様々な解釈がされていますので、意訳しておりません。

 また痹病に関しては、過去ブログを参照して頂けたらと思います。

  痹論篇第四十三.

 

          意 訳

 厥陰が有余すると、陰気が盛んとなって塞がるようになり、陰痺を病みます。

 反対に、不足すると相対的に陽気が盛んとなりますので、熱痺の病を生じます。

 脈滑であれば、狐疝風を病みます。

 脈濇でありますと、小腹が積気となり結塊を生じます。

 

 少陰が有余しますと、皮痺や小さなおできである隠疹を病みます。

 不足すると、肺痹を病みます。

 脈滑であれば、肺風疝を病みます。

 脈濇であれば、積して尿に血が混じるようになります。

 

 太陰が有余しますと、肉痹寒中を病みます。

 不足しますと、脾痹を病みます。

 脈滑であれば、脾風疝を病みます。

 脈濇であれば、積して時に心腹が満となる病となります。

 

 陽明が有余しますと、脉痺となり時に身体が熱します。

 不足しますと、心痹を病みます。

 脈滑であれば、心風疝を病みます。

 脈濇であれば、積して時によく驚する病となります。

 

 太陽が有余しますと、骨痹となり、身体が重くなります。

 不足しますと、腎痹を病みます。

 脈滑であれば、腎風疝を病みます。

 脈濇であれば、積してよく突然巓疾を起こす病となります。

 

 少陽が有余しますと、筋痹を病み、胸満となります。

 不足しますと、肝痹を病みます。

 脈滑であれば、肝風疝を病みます。

 脈濇であれば、積して時に筋が引きつり目痛を病みます。

 

 これらの理由は、人体の気が四時の気に応じているからであります。

 従って、春の気は経脈に在り、夏の気は孫絡に在り、長夏の気は肌肉に在り、秋の気は皮膚に在り、冬の気は骨髄に在ります。

 

 黄帝が申された。

 願わくばその理由を聞きたいのであるが。

 岐伯が申された。

 春は天の気が開き始め、地気は泄れ始める時であります。

 凍ったものは解け、氷は水となって流れるように、経脈もまた通じる時期であります。ですから、人の気もまた脉にあるのであります。

 夏は経がいっぱいとなって孫絡に流れ込み、その血を受けて皮膚もまた充実するものであります。

 長夏は、経も絡もすべて盛んでありますので、肌中にあふれるようになります。

 秋は天の気が閉じ始め、湊理もまた閉塞するので皮膚もまた収斂して縮みます。

 冬は臓の気を密閉する蓋蔵の時期で、血気は体内に在って深いところでは骨髄を満たし、五臓の気血に通じています。

 

 ですから、邪気もまた四時の変化に応じて動く気血に随って、侵入して舍るようになります。

 ところがその四時の変化に至っては、きっちりと予測はできませんが、その経気の流れに従って邪を取り除けば、邪によって気が乱れて病を生じることも無いのであります。

 

 帝が申された。

 四時の気の変化に逆らい、乱気を生じるというのは、どういうことなのか。

 岐伯が申された。

 春は、気が経脈に在ります。その春に絡脉を刺しますと血気は外にあふれ、息切れなどの少気を起こします。

 同様に春に肌肉を刺しますと、血気は同じところを逆流するので、上気致します。

 そして筋骨を刺しますと、血気は内にこもって腹脹となります。

 

 夏は、気が孫絡に在ります。その夏に経脈を刺しますと、血気が尽きてしまい、身体がだらりと無力になります。

 夏に肌肉を刺しますと、血気は内に退いてしまい、よく恐れるようになります。

 夏に筋骨を刺しますと、血気は上逆し、よく怒るようになります。

 

 秋は、気が皮膚に在ります。その秋に経脈を刺しますと、血気は上逆して健忘となります。

 そして秋に、絡脉を刺しますと、気が外に行らなくなり、横になって寝たがり、動くことを欲しなくなります。

 さらに秋に、筋骨を刺しますと、血気は身体内で散ってしまい、寒慄するようになります。

 

 冬は、気が骨髄に在ります。その冬に経脈を刺しますと、血気はすべて脱してしまい、目がはっきりと見えなくなります。

 そして冬に絡脉を刺しますと、体内の気は外に泄れてしまい、そこに邪が入り込んで留まり大痹となります。

 さらに冬に肌肉を刺しますと、陽気は絶えてしまい、よく健忘するようになります。

 

 おおよそこれらは四時の刺法に大いに逆したためであり、この法則には従うべきである。

 もしこの法則に反すると気が乱れ、また邪気も侵入して居座るので病となるのであります。

 ですから、刺鍼の際には四時の法則と、病がどこに生じているのかを知らないで逆治を行いますと、正気は体内で乱れ、邪気と精は互いにせめぎ合って病を生じるのであります。

 

 また誤って五臓を刺した場合、

 心に中りますと、一日で死にます。その兆候は、ゲップ、つまり噫(い)であります。

 肝に中りますと、五日で死にます。その兆候は、多語であります。

 肺に中りますと、三日で死にます。その兆候は、咳であります。

 腎に中りますと、六日で死にます。その兆候は、くしゃみ、つまり嚔(てい)とあくび、つまり欠であります。

 脾に中りますと、十日で死にます。その兆候は、飲み込む動作、呑を繰り返すようになります。

 このように、五臓に直接刺して傷るようなことがありますと、必ず死亡致します。

 五臓に中ってしまった場合、五臓それぞれの現す兆候によって、その死亡するのを知ることが出来るのであります。

 

              原文と読み下し

厥陰有餘.病陰痺.

不足.病生熱痺.

滑則病狐疝風.

濇則病少腹積氣.

厥陰有餘すれば、陰痺を病む。

不足すれば、熱痺を生ずるを病む。

滑なれば則ち狐疝風を病む。

濇なれば則ち少腹積氣を病む。

 

少陰有餘.病皮痺隱軫.

不足.病肺痺.

滑則病肺風疝.

濇則病積溲血.

少陰有餘なれば皮痺隱軫を病む。

不足なれば、肺痺を病む。

滑なれば則ち肺風疝を病む。濇なれば則ち積して溲血を病む。

 

太陰有餘.病肉痺寒中.

不足.病脾痺.

滑則病脾風疝.

濇則病積.心腹時滿.

太陰有餘なれば、肉痺寒中を病む。

不足なれば、脾痺を病む。

滑なれば則ち脾風疝を病む。

濇なれば則ち積して心腹時に滿つるを病む。

 

陽明有餘.病脉痺身時熱.

不足.病心痺.

滑則病心風疝.

濇則病積.時善驚.

陽明有餘なれば、脉痺を病む。身時に熱す。

不足なれば、心痺を病む。

滑なれば則ち心風疝を病む。

濇なれば則ち積して時に善く驚するを病む。

 

太陽有餘.病骨痺身重.

不足.病腎痺.

滑則病腎風疝.

濇則病積.善時巓疾.

太陽有餘すれば、骨痺身重を病む。

不足すれば、腎痺を病む。

滑なれば則ち腎風疝を病む。

濇なれば則ち積して善く時に巓疾するを病む。

 

少陽有餘.病筋痺脇滿.

不足.病肝痺.

滑則病肝風疝.

濇則病積.時筋急目痛.

少陽有餘すれば、筋痺脇滿を病む。

不足すれば、肝痺を病む。

滑なれば則ち肝風疝を病む。

濇なれば則ち積して時に筋急して目痛するを病む。

 

是故

春氣在經脉.

夏氣在孫絡.

長夏氣在肌肉.

秋氣在皮膚.

冬氣在骨髓中.

是の故は、

春氣は經脉に在り。

夏氣は孫絡に在り。

長夏氣は肌肉に在り。

秋氣は皮膚に在り。

冬氣は骨髓中に在ればなり。

 

帝曰.余願聞其故.

岐伯曰.

春者.天氣始開.地氣始泄.凍解冰釋.水行經通.故人氣在脉.

夏者.經滿氣溢.入孫絡受血.皮膚充實.

長夏者.經絡皆盛.内溢肌中.

秋者.天氣始收.湊理閉塞.皮膚引急.

冬者.蓋藏.血氣在中.内著骨髓.通於五藏.

帝曰く。余願わくば其の故を聞かん。

岐伯曰く。

春は、天氣始めて開き、地氣始めて泄れ、凍解冰釋し、水行きて經通ず。故に人の氣は脉に在り。

夏は、經滿ちて氣溢れ、孫絡に入りて血を受け、皮膚充實す。

長夏は、經絡皆盛んにして、内は肌中に溢れる。

秋は、天氣始めて收し、湊理は閉塞し、皮膚引きて急す。

冬は、蓋藏し、血氣は中に在り、内は骨髓に著き、五藏に通ず。

 

是故邪氣者.常隨四時之氣血而入客也.至其變化.不可爲度.然必從其經氣.辟除其邪.除其邪則亂氣不生.

是の故に邪氣は、常に四時の気血に隨いて入りて客するなり。其の變化に至りて、度を爲すべからず。然れども必ず其の經氣に從い、其の邪を辟除し、其の邪を除けば則ち亂氣生ぜず。

 

帝曰.逆四時而生亂氣奈何.

岐伯曰.

春刺絡脉.血氣外溢.令人少氣.

春刺肌肉.血氣環逆.令人上氣.

春刺筋骨.血氣内著.令人腹脹.

夏刺經脉.血氣乃竭.令人解【亻亦】.

夏刺肌肉.血氣内却.令人善恐.

夏刺筋骨.血氣上逆.令人善怒.

秋刺經脉.血氣上逆.令人善忘.

秋刺絡脉.氣不外行.令人臥不欲動.

秋刺筋骨.血氣内散.令人寒慄.

冬刺經脉.血氣皆脱.令人目不明.

冬刺絡脉.内氣外泄.留爲大痺.

冬刺肌肉.陽氣竭絶.令人善忘.

帝曰く。四時に逆らいて亂氣を生じることいかん。

岐伯曰く。

春に絡脉を刺すは、血氣外に溢れ、人をして少氣せしめる。

春に肌肉を刺すは、血氣環逆し、人をして上氣せしめる。

春に筋骨を刺すは、血氣内に著き、人をして腹脹せしめる。

 

夏に經脉を刺すは、血氣乃ち竭き、人をして解【亻亦】(かいえき)せしめる。

夏に肌肉を刺すは、血氣内に却(しり)ぞきて、人をして善く恐せしめる。

夏に筋骨を刺すは、血氣上逆し、人をして善く怒せしめる。

 

秋に經脉を刺すは、血氣上逆し、人をして善く忘せしめる。

秋に絡脉を刺せば、氣は外を行かず、人をして臥して動くを欲せざるしむる。

秋に筋骨を刺せば、血氣内に散じ、人をして寒慄せしめる。

 

冬に經脉を刺せば、血氣皆脱し、人をして目明らかならざらしむる。

冬に絡脉を刺せば、内氣は外に泄れ、留まりて大痺を爲す。

冬に肌肉を刺せば、陽氣竭絶し、人をして善く忘せしめる。

 

凡此四時刺者.大逆之病.不可不從也.反之則生亂氣.相淫病焉.

故刺不知四時之經.病之所生.以從爲逆.正氣内亂.與精相薄.

必審九候.正氣不亂.精氣不轉.

帝曰善.

 

刺五藏.

中心一日死.其動爲噫.

中肝五日死.其動爲語.

中肺三日死.其動爲欬.

中腎六日死.其動爲嚔欠.

中脾十日死.其動爲呑.

刺傷人五藏.必死.其動則依其藏之所變.候知其死也.

五藏を刺し、

心に中れば一日にして死す。其の動は噫(い)を爲す。

肝に中れば五日にして死す。其の動は語を爲す。

肺に中れば三日にして死す。其の動は欬を爲す。

腎に中れば六日にして死す。其の動は嚔欠(ていけつ)と爲す。

脾に中れば十日にして死す。其の動は呑を爲す。

刺して人の五藏を傷れば、必ず死す。其の動は則ち其の藏の變ずる所に依りて、其の死するを候い知るなり。

 

 

繆刺論篇第六十三.

 本編では、絡脉の病と経脈の病との違いで、巨刺と繆刺を使い分けることを説いている。

 実際問題として、絡脉と経脈の病証の違いや診断については触れられていない。

 また巨刺と繆刺を刺法として、明確に湧ける必要性も感じていない。

 痛んでいる部位がすなわち、病んでいる部位としているきらいがあるが、表現方法として単にこのように記したのだろう考えている。

 筆者は、左が痛んでいても右に補瀉を加えて病を治そうとする視点は、おそらくは、身体全体の気の偏在を時空間的に認識しえてこそ可能なのではないかと考えている。

 したがって本篇の著者は、時空間の気の偏在を捉える視点を持ち得ていたのであろうとも推測している。

 そうであるならば、左は左に、右は右に取るのが的を得る場合もあるだろう。

 いわゆる太極治療であるが、時に局所治療も行っているが、全体を視野に入れての事だろうと思われます。

          意 訳

 黄帝が問うて申された。

 余は繆刺について聞いているのだが、まだ自分のものにできていない。どのような考えの刺法を繆刺というのであろうか。

 岐伯が応えて申された。

 外邪が身体を犯します時は、まず皮毛に舍ります。そのまま外邪が去りませんと、孫絡、絡脉、経脈と次々に侵入し、ついに五臓に達しますと腸胃に蔓延致します。

 このように、陰陽表裏がともに外邪の侵すところとなりますと、五臓は傷害されてしまいます。

 つまり五臓が傷害されるまでの順序は、まず皮毛から外邪が侵入して五臓に至って極まり、重病となるのであります。

 このような場合は、経脈を治療いたします。

 今回の繆刺法は、外邪が皮毛から侵入して孫絡で留まり、まだ経脈に達していいない状態に行うものであります。

 孫絡で留まった外邪は、比較的浅い部位である大絡に満ちるようになり、奇病を生じることとなるのであります。

 大絡に満ちた邪気は、行き場所を探して右往左往し、上下に行ったり来たり致します。経絡に正気が満ちておりますと、互いに反発しながら邪気は次第に四肢末端に追いやられます。

 このように、正気と邪気のせめぎあう場所が移動するので痛む場所も一定せず、しかも絡脉や大絡に邪が留まっている状態を刺す場合の刺法を、繆刺と申すのであります。

 

黄帝が申された。

 願わくば、左は右に取り、右は左に取るという繆刺とは、どのようにいたすのか。また巨刺とどのように見分けるのかを、聞かせてもらいたいのであるが。

 岐伯が申された。

 邪が経に舍りまして、左が盛んとなりますと右が病みます。右が盛んでありますと左が病みます。

 さらに邪気が移動しやすい場合は、左の痛みが治まらないうちに右の脈が先に病み始めていることがあります。

 このような場合は、必ず巨刺をして必ず絡脉ではなく、病んでいる経に中てなければなりません。

 なぜなら絡を病んでいるのと経脈が病んでいる場合とでは、痛みの場所が異なっているからであります。

 この絡脉が病んでいる場合に用いる鍼法を、繆刺と称するのであります。

 

 黄帝が申された。

 願わくば、繆刺はどのようにするのか、そしてどのようにして取るのかを聞かせて欲しいのだが。

 岐伯が申された。

 邪が足少陰の絡に客するときは、人はにわかに心痛したり激しく腹が脹ったり、胸脇支満を起こします。

 もし腹部に積聚が無いときは、然骨の前を刺して出血させますと、食事を摂るわずかの時間に治るものであります。

 治らないようでありましたら、左は右に取り、右は左に取ります。

 また新たに病を発しましたら、5日間刺せば治るものであります。

 

 邪が手少陽の絡に客するときは、人は喉痺し、舌が巻き上がって口乾し、心煩がする上に上肢の外側が痛んで手を頭に持って行くことが出来なくなります。

 この場合、手の中指の次の指の爪甲上の端を去ること一分の関衝穴を刺します。

 壮者は立ちどころに治まり、老者はしばらくして治まります。

 左は右に取り、右は左に取ります。また新たに病みましたら、数日刺しましたら治まります。

 

 邪が足厥陰の絡に客するときは、人は突然睾丸が腫れて激しく痛む疝気をなります。

 足の大指の爪甲と肉の交わるところの太敦穴をそれぞれ一回刺します。

 男子は立ちどころに良くなり、女子はしばらくしてから良くなります。

 左は右に取り、右は左に取ります。

 

 邪が足太陽の絡に客しますと、人は頭や項、肩が痛むようになります。

 足の小指の爪甲と肉の交わる至陰に左右一回刺すと、たちどころに良くなります。

 もし、良くならなければ外踝の下の金門穴をそれぞれ三回刺します。

 左は右に取り、右は左に取れば、しばらくしてから良くなります。

 

 邪が手陽明の絡に客しますと、人は胸中に気がいっぱいとなり、喘息や脇の下が支えたりして、胸中に熱を生じさせます。

 手の大指の次の指の爪甲を去ること一部の商陽穴を各一回刺します。

 左は右に取り、右は左に取れば、しばらくしてから良くなります。

 

 邪が前腕内側の中央、つまり手厥陰に客しますと、前腕を屈することが出来なくなります。その際には、指で腕後を按じて痛む部位を探し、そこに刺します。

 刺す回数は、月の満ち欠けに随います。

 つまり新月初日は一回。二日目は二回。満月となります15日には十五回。月が欠け始める16日からは回数を減じて十四回といった具合です。

 

 邪が足の陽蹻脉に客しますと、人は目の内眥からから痛み始めます。

 外踝の下半寸のところ、申脈穴に各二回刺します。

 左は右に取り、右は左に取れば、凡そ十里を行く間の時間に良くなります。

 

 人が墜落して外傷を受け、瘀血が体内に停留すると、腹部が脹滿して大小便が通じなくなります。

 このような場合は、まず気血を通利させる湯液を服用させます。

 全身を打撲した場合、上は厥陰の脈を傷り、下は少陰の絡を傷ることになります。

 そこで足の内踝の下、然骨の前の血絡を瀉血し、足の甲の動脈拍動部を刺します。

 治らないようであれば、三毛すなわち大指の太敦穴を各一回刺し、出血が見られると立ちどころに治ります。

 左は右に取り、右は左に取ります。

 また墜落後、しばしば悲しんだり驚いたりして精神状態が落ち着かず、こころが楽しまないと言った症状が現れた場合にも、先ほどのように刺します。

 

 邪が手陽明の絡に客しますと、人は耳聾となり時に音が聞こえなくなります。

 手の大指の次の指の爪甲を去る一分の上を各一回刺すと、立ちどころに聞こえるようになります。

 治らなければ、中指の爪甲と肉が交わるところを刺せば、立ちどころに聞こえます。

 全く聞こえることがない者は、刺しても効果がありません。

 耳中に風のような音を生じる場合もまた、このように刺します。

 左は右に取り、右は左に取ります。

 

 凡そ痹証で、病変部位が往来して一定しない場合は、分肉の間にある痛所を刺し、月の満ち欠けに応じて刺数とし、鍼を用いる場合は、気の盛衰に随うようにいたします。 

 鍼数が日数を過ぎると気は脱し、日数に及ばなければ気を瀉すことが出来ません。

 その場合、左は右に取り、右は左に取れば、病は止みます。

 治らなければ、再度同法を行います。

 すなわち月が生じると一日一回、二日目は二回と次第に刺数を増やします。

 そして十五日目に十五回、十六日目に十四回と、次第に刺数を減じるのであります。

 

 邪が、足陽明の経に客しますと、人は鼻血がでて上歯が寒えるようになります。

 その際には、足の中指の次の指の爪甲と肉の交わるところを各一回刺します。

 左は右に取り、右は左に取ります。

 

 邪が足少陽の絡に客しますと、人は脇が痛んで息がし難くなり、咳をして汗が出るようになります。

 その際には、足の小指の次の指の爪甲と肉と交わるところを各一回刺します。

 息がし難いのは、立ちどころに治り、汗もまた立ちどころに止まります。

 咳は、衣服を着て飲食を摂り温かくしておれば、一日で治ります。

 左は右に取り、右は左に取れば立ちどころに治りますが、治らなければ再度同法を行います。

 

 邪が少陰の絡に客しますと、人は咽喉が痛んで食べることが出来なくなります。理由なく良く怒り気が上に走って噴き上がります。

 その際には、足下の中央の脉、湧泉を各々三回、凡そ六刺すれば立ちどころに治ります。

 左は右に取り、右は左に取ります。

 

 咽がはげしく腫れ、唾を飲み込むことも出すこともできないような場合は、然谷の前を刺して出血させると、立ちどころに治ります。

 左は右に取り、右は左に取ります。

 

 邪が足太陽の絡に客しますと、人は背部が引きつって動かなくなり、脇にまで引いて痛むようになります。

 この場合、項から順に脊椎の両傍を按じて、圧痛のあるところに三回刺すと、立ちどころに治ります。

 

 邪が太陰の絡に客しますと、人は腰が痛むようになります。

 その痛みは少腹から脇下にまで及んで、仰向けになって呼吸が出来なくなります。

 この場合、腰と臀部の合わせ目にある陽兪を刺します。

 刺数は、月の満ち欠けによって決め、刺鍼後立ちどころに治ります。

 左は右に取り、右は左に取ります。

 

 諸経の病を治療する場合は、その経に邪が客していない場合は、これを繆刺いたします。

 耳聾には、手陽明を刺し、治らなければ手陽明の流注が耳の前に出ているところを刺します。

 歯齲には、手陽明を刺します。治らない場合は、手陽明の流注が歯中に入っているところを刺しますと、立ちどころに治ります。

 

 邪が足少陽の絡に客しますと、環跳に固定痛が生じて下肢を挙げることが出来なくなります。

 環跳を指す場合は、毫鍼を用います。

 寒邪であれば、しばらく置針しておきます。

 この場合も、月の満ち欠けを基準にして、刺数を決めますと、立ちどころに治ります。

 

 邪が五臓の間に客しますと、経脉が引きつる様に痛み、時に痛んだり止まったりいたします。

 病の状態を良く確認して、手足の爪甲上に繆刺を行い、その脉のうっ滞を視て出血させます。一日おきに一刺し、治らなければ五刺で治ります。

 

 邪が誤って上歯に引かれて伝わり、歯と唇に寒痛が生じるようであれば、手背のうっ血を視て出血させてこれを去ります。

 そして足陽明の中指の爪甲上と手の示指の爪甲上をひと刺しすれば、立ちどころに治ります。

 左は右を刺し、右は左を刺します。

 

 邪が手足の少陰太陰と足の陽明の絡に客しますと、これらの五絡はすべて耳中で会し、そこから上って左角を絡っていますので、五絡の気がすべて尽きてしまいますと、人身の脈はすべて動じているのに、自分の身体が知覚出来なくなります。

 これはあたかも死人同様で、尸厥(しけつ)とも称されます。

 足の大指の内側の爪甲上の端を去ること一分のところを刺します。

 その後に足心を刺し、その後足の中指の爪甲上を各1回刺し、さらに手の大指の内側で端を去ること一分のところを刺します。

 さらに手の心主と掌後兌骨の端の少陰を、それぞれ1回刺せば、立ちどころに治ります。

 治らなければ、竹の管で両耳を吹き、左角の髪を一寸角に剃り、その髪を焼いて美酒で飲ませます。

 意識が無く、飲むことが出来ない場合は、口に注ぎこませると立ちどころに治ります。

 

 おおよそ、刺す回数は、まずその経脉を視て、実際に切してその状態に適うようにします。

 そして虚実を審らかに明確にして、これを調えるように治療します。調わないようでしたら、経脉に刺します。

 痛みがあるのに、経脉が病んでいなければ、繆刺致します。

 この場合、皮部を視て血絡がありましたら、ことごとくそれらを取って出血させます。これらは、繆刺の順序であります。

 

         原文と読み下し

 

黄帝問曰.余聞繆刺.未得其意.何謂繆刺.

岐伯對曰.

夫邪之客於形也.必先舍於皮毛.留而不去.入舍於孫脉.

留而不去.入舍於絡脉.

留而不去.入舍於經脉.内連五藏.散於腸胃.

陰陽倶感.五藏乃傷.此邪之從皮毛而入.極於五藏之次也.

如此則治其經焉.

今邪客於皮毛.入舍於孫絡.留而不去.

閉塞不通.不得入於經.流溢於大絡.而生奇病也.

夫邪客大絡者.左注右.右注左.上下左右.與經相干.而布於四末.

其氣無常處.不入於經兪.命曰繆刺.

黄帝問うて曰く。余は繆刺(びゅうし)を聞けども、未だ其の意を得ず。何をか繆刺と謂うや。

岐伯對えて曰く。

夫れ邪の形に客するや、必ず先ず皮毛に舍る。留まりて去らざれば、入りて孫絡に舍る。

留まりて去らざれば、入りて絡脉に舍る。

留まりて去らざれば、入りて經脉に舍り、内は五藏に連なり、腸胃に散ず。

陰陽倶に感ずれば、五藏は乃ち傷る。此れ邪の皮毛從りして入り、五藏に極まるの次(ついじ)なり。

此の如くなれば則ち其の經を治すなり。

今邪皮毛に客し、入りて孫絡に舍り、留まりて去らざれば、

閉塞して通ぜず。經に入るを得ず。大絡に流溢し、しかして奇病を生ず。

夫れ邪の大絡に客するは、左は右に注ぎ、右は左に注ぎ、上下左右.經と相い干(おか)して.四末に布ず。

其の氣常處無く、經兪に入らず。命じて繆刺と曰く。

 

帝曰.願聞繆刺.以左取右.以右取左.奈何.其與巨刺.何以別之.

岐伯曰.

邪客於經.左盛則右病.右盛則左病.

亦有移易者.左痛未已.而右脉先病.

如此者.必巨刺之.

必中其經.非絡脉也.

故絡病者.其痛與經脉繆處.故命曰繆刺.

帝曰く。願わくば繆刺を聞かん。左を以て右を取り、右を以て左を取るとは、いかなるや。

其の巨刺と、何を以てこれを別つや。

岐伯曰く。

邪經に客し、左盛んなれば則ち右病み、右盛んなれば則ち左病む。

亦た移易する者り。左の痛み未だ已えずして右脉先ず病む。

此の如きは、必ずこれを巨刺す。

必ず其の經に中りて、絡脉に非ざるなり。

故に絡病むは、其の痛み經脉と繆處す。故に命じて繆刺と曰く。

 

帝曰.願聞繆刺奈何.取之何如.

岐伯曰.

邪客於足少陰之絡.令人卒心痛暴脹.胸脇支滿.

無積者.刺然骨之前.出血.如食頃而已.

不已.左取右.右取左.

病新發者.取五日已.

帝曰く。願わくば繆刺はいかなるかを聞かん。これを取ることいかん。

岐伯曰く。

邪足少陰の絡に客せば、人をして卒(にわ)かに心痛、暴脹、胸脇支滿せしむ。

積無き者は、然骨の前を刺し、血出だせば、食頃の如くにして已ゆ。

已えざれば、左は右を取り、右は左に取る。

病新たに發する者は、取りて五日にして已ゆ。

 

邪客於手少陽之絡.令人喉痺.舌卷口乾.心煩.臂外廉痛.手不及頭.

刺手中指次指爪甲上.去端如韭葉.各一痏.

壯者立已.老者有頃已.

左取右.右取左.

此新病.數日已.

邪手少陽の絡に客せば、人をして喉痺、舌卷、口乾、心煩し、臂の外廉痛み、手頭に及ばざらしめる。

手の中指の次指の爪甲上、端を去ること韭葉(きゅうよう)の如きを刺すこと、各おの一痏(ゆう)。

壯なる者は立ちどころに已え、老なる者は頃有りて已ゆ。

左は右に取り、右は左に取る。

此の新病は、數日にして已ゆ。

 

邪客於足厥陰之絡.令人卒疝暴痛.

刺足大指爪甲上.與肉交者.各一痏.

男子立已.女子有頃已.

左取右.右取左.

邪足厥陰の絡に客せば、人をして卒かに疝暴痛せしむ。

足の大指の爪甲上、肉と交わるを刺すこと、各おの一痏。

男子は立ちどころに已え、女子は頃有りて已ゆ。

左は右に取り、右は左に取る。

 

邪客於足太陽之絡.令人頭項肩痛.

刺足小指爪甲上.與肉交者.各一痏.立已.

不已.刺外踝下三痏.

左取右.右取左.如食頃已.

邪足太陽の絡に客せば、人をして頭項肩痛せしむ。

足の小指の爪甲上、肉と交わるを刺すこと、各おの一痏。立ちどころに已ゆ。

已えざれば、外踝下を三痏す。

左は右に取り、右は左に取る。食頃の如くにして已ゆ。

 

邪客於手陽明之絡.令人氣滿胸中.喘息而支胠.胸中熱.

刺手大指次指爪甲上.去端如韭葉.各一痏.

左取右.右取左.如食頃已.

邪手陽明の絡に客於せば、人をして氣胸中に滿ち、喘息して支胠、胸中熱せしむ。

手の大指の次指の爪甲上、端を去ること韭葉の如きを刺すこと、各一痏。

左は右に取り、右は左に取る。食頃の如くにして已ゆ。

 

邪客於臂掌之間.不可得屈.刺其踝後.

先以指按之.痛乃刺之.

以月死生爲數.

月生一日一痏.二日二痏.十五日十五痏.十六日十四痏.

邪臂掌の間に客せば、屈するを得べからず。其の踝後を刺す。

先ず指を以てこれを按じ、痛めば乃ちこれを刺す。

月の死生を以て數と爲す。

月生じて一日は一痏。二日にして二痏。十五日にして十五痏。十六日は十四痏。

 

邪客於足陽蹻之脉.令人目痛.從内眥始.

刺外踝之下半寸所.各二痏.

左刺右.右刺左.

如行十里頃而已.

邪足の陽蹻の脉に客せば、人をして目痛せしめ、内眥より始む。

外踝の下半寸の所を刺すこと、各二痏。

左は右を刺し、右は左を刺す。

十里を行く頃の如くにして已ゆ。

 

人有所墮墜.惡血留内.腹中滿脹.不得前後.

先飮利藥.

此上傷厥陰之脉.下傷少陰之絡.刺足内踝之下.然骨之前血脉.出血.刺足跗上動脉.

不已.刺三毛上.各一痏.見血立已.

左刺右.右刺左.

善悲驚不樂.刺如右方.

人墮墜する所有り。惡血内に留し、腹中滿脹して、前後を得ず。

先ず利藥を飮む。

此れ上は厥陰の脉傷れ、下は少陰の絡傷る。足の内踝の下、然骨の前の血脉を刺し、血を出す。足の跗上の動脉を刺す。

已えざれば、三毛上を刺すこと、各一痏。血見われれば立ちどころに已ゆ。

左は右を刺し、右は左を刺す。

善く悲しみ驚し樂しまざるは、刺すこと右の方の如くす。

邪客於手陽明之絡.令人耳聾.時不聞音.

刺手大指次指爪甲上.去端如韭葉.各一痏.立聞.

不已.刺中指爪甲上.與肉交者.立聞.

其不時聞者.不可刺也.

耳中生風者.亦刺之如此數.

左刺右.右刺左.

邪手陽明の絡に客すれば、人をして耳聾し、時に音を聞からざらしむ。

手の大指の次指の爪甲上、端を去ること韭葉の如きを、各一痏。立ちどころに聞こゆ。

已えざれば、中指の爪甲上と、肉と交わるを刺せば、立ちどころに聞こゆ。

其の時に聞こゆるものにあらざる者は、刺すべからざるなり。

耳中に風を生ずる者も、亦たこれを刺すこと此の數の如くす。

左は右を刺し、右は左を刺す。

 

凡痺往來行無常處者.在分肉間痛而刺之.

以月死生爲數.用鍼者.隨氣盛衰.以爲痏數.鍼過其日數.則脱氣.不及日數.則氣不寫.

左刺右.右刺左.病已止.

不已.復刺之如法.

月生一日一痏.二日二痏.漸多之.

十五日十五痏.十六日十四痏.漸少之.

凡そ痺往來し行くに常無きは、分肉の間に痛み在りしてこれを刺す。

月の死生を以て數と爲す。鍼を用うる者は、氣の盛衰に随いて、以て痏數と爲す。鍼其の日數を過ぐるは、則ち脱氣す。日數に及ばざるは、則ち氣寫せず。

左は右を刺し、右は左を刺す。病已に止む。

已まざれば、復たこれを刺すこと法の如くす。

月生まれて一日は一痏。二日は二痏。漸くこれを多くし、

十五日にして十五痏。十六日にして十四痏。漸くこれを少くするなり。

 

邪客於足陽明之經.令人鼽衄.上齒寒.

刺足中指次指爪甲上.與肉交者.各一痏.

左刺右.右刺左.

邪足陽明の經に客すれば、人をして鼽衄せしめ、上齒寒からしむ。

足の中指の次指の爪甲上、肉と交わるを刺すこと、各おの一痏。

左は右を刺し、右は左を刺す。

 

邪客於足少陽之絡.令人脇痛不得息.欬而汗出.

刺足小指次指爪甲上.與肉交者.各一痏.

不得息立已.汗出立止.

欬者温衣飮食.一日已.

左刺右.右刺左.病立已.

不已復刺如法.

邪足少陽の絡に客すれば、人をして脇痛して息するを得ざらしむ。欬して汗出ず。

足の小指の次指の爪甲上、肉と交わるを刺すこと、各おの一痏。

息するを得るは、立ちどころに已ゆ。汗出ずるは立ちどころに止む。

欬なるは、温衣飮食すること、一日にして已ゆ。

左は右を刺し、右は左を刺す。病立ちどころに已ゆ。

已えざえば復た刺すこと法の如くす。

邪客於足少陰之絡.令人嗌痛.不可内食.無故善怒.氣上走賁上.

刺足下中央之脉.各三痏.凡六刺.立已.

左刺右.右刺左.

邪足少陰の絡に客すれば、人をして嗌痛み、食を内れざらしむ。故無くして善く怒しり、氣上上りて賁上に走る。

足下の中央の脉を刺すこと、各おの三痏。凡そ六刺すれば、立ちどころに已ゆ。

左は右を刺し、右は左を刺す。

 

嗌中腫.不能内唾.時不能出唾者.刺然骨之前.出血立已.

左刺右.右刺左.

嗌中腫れ、唾を内れること能わず、時に唾を出すこと能わざるは、然骨之の前を刺し、血出でれば立ちどころに已ゆ。

左は右を刺し、右は左を刺す。

 

邪客於足太陰之絡.令人腰痛.引少腹控.不可以仰息.

刺腰尻之解.兩(月申)之上.是腰兪.

以月死生爲痏數.

發鍼立已.

左刺右.右刺左.

邪足太陰の絡に客すれば、人をして腰痛し、少腹に引いて䏚(びょう)に控(こう)し以て仰息すべからざらしむ。

腰尻の解、兩(月申)の上を刺す。是れ腰兪なり。

月の死生を以て痏數と爲す。

鍼を發すれば立ちどころに已ゆ。

左は右を刺し、右は左を刺す。

 

邪客於足太陽之絡.令人拘攣背急.引脇而痛.

刺之從項始.數脊椎.侠脊疾按之.應手如痛.刺之傍三痏.立已.

邪足太陽の絡に客すれば、人をして拘攣し背急し。脇に引きて痛ましむ。

これを刺すに項從り始め、脊椎を數脊え、脊を侠に疾くこれを按じ、手に應じて如(み)し痛めば、これを傍に刺すこと三痏、立ちどころに已ゆ。

 

邪客於足少陽之絡.令人留於樞中痛.髀不可擧.

刺樞中.以毫鍼.

寒則久留鍼.

以月死生爲數.立已.

邪足少陽の絡に客すれば、人をして樞中に留まりて痛み、髀擧ぐべからざらしむ。

樞中を刺すは、毫鍼を以てす。

寒なれば則ち久しく鍼を留む。

月の死生を以て數と爲す。立ちどころに已ゆ。

 

治諸經.刺之所過者.不病則繆刺之.

耳聾.刺手陽明.

不已.刺其通脉出耳前者.

齒齲.刺手陽明.

不已.刺其脉入齒中.立已.

諸經を治するは、これを過ぎる所の者を刺す。病ざれば則ちこれを繆刺す。

耳聾するは、手陽明を刺す。

已まざれば、其の通脉の耳前に出ずる者を刺す。

齒齲は、手陽明を刺す。

已まざれば、其の脉齒中に入るを刺す。立ちどころに已ゆ。

 

邪客於五藏之間.其病也.脉引而痛.時來時止.視其病.繆刺之於手足爪甲上.

視其脉.出其血.間日一刺.一刺不已.五刺已.

邪五藏の間に客すれば、其の病なるや、脉引きて痛む。時に來たり時に止む。其の病を視て、これを手足爪甲上に繆刺す。

其の脉を視て、其の血を出す。間日に一刺し、一刺して已まざれば、五刺にて已ゆ。

 

繆傳引上齒.齒脣寒痛.

視其手背脉血者去之.足陽明中指爪甲上一痏.手大指次指爪甲上各一痏.立已.

左取右.右取左.

繆傳して上齒に引き、齒脣寒痛すれば、

其の手背の脉を視て血する者はこれを去る。足陽明中指の爪甲上一痏、手の大指の次指の爪甲上各おの一痏す。立ちどころに已ゆ。

左は右を刺し、右は左を刺す。

 

邪客於手足少陰太陰足陽明之絡.此五絡皆會於耳中.

上絡左角.五絡倶竭.令人身脉皆動.而形無知也.其状若尸.或曰尸厥.

刺其足大指内側爪甲上.去端如韭葉.後刺足心.後刺足中指爪甲上.各一痏.後刺手大指内側.去端如韭葉.後刺手心主.少陰鋭骨之端.各一痏.立已.

不已.以竹管吹其兩耳.鬄其左角之髮.方一寸.燔治.飮以美酒一杯.

不能飮者潅之.立已.

邪手足少陰太陰足陽明の絡に客するは、此の五絡は皆耳中に會し、

上りて左角を絡う。五絡倶に竭きれば、人をして身の脉皆動じて、形知ること無からしむる。

其の状尸(し)の若し。或いは尸厥(しけつ)と曰く。

其の足大指の内側爪甲上、端を去ること韭葉の如きを刺す。後に足心を刺す。後に足の中指の爪甲上、各おの一痏を刺す。後に手の大指内側、端を去ること韭葉の如きを刺す。後に手の心主、少陰の鋭骨の端、各おの一痏を刺す。立ちどころに已ゆ。

已えざれば、竹管を以て其の兩耳を吹く。

其の左角の髮を鬄(そ)ること、方一寸。燔治し、飮ますに美酒一杯を以てす。

飮むこと能わざる者は、これを潅(そそ)ぐ。立ちどころに已ゆ。

 

凡刺之數.先視其經脉.切而從之.

審其虚實而調之.不調者.經刺之.

有痛而經不病者.繆刺之.

因視其皮部有血絡者.盡取之.此繆刺之數也.

凡そ刺を図るには、先ず其の經脉を視て、切してこれに從い、

其の虚實を審らかにしてこれを調う。調わざる者は、これを經刺す。

痛み有りて經病まざる者は、これを繆刺す。

因りて其の皮部を視て、血絡有る者は、これを盡く取る。此れ繆刺の數なり。

 

難経 62~65難 臓腑井兪

六十二難曰

藏井滎有五,府獨有六者,何謂也。

然、府者,陽也。三焦行於諸陽,故置一俞,名曰原。府有六者,亦與三焦共一氣也。

六十二難に曰く。
臓に井栄は五有るに、腑は独り六有るとは、何の謂いぞや。
然るに.腑は、陽なり。
三焦は諸陽に行く。故に一兪を置き、名づけて原と曰う。
腑に六有るとは、亦た三焦と共に気を一つにすればなり。

臓には井・経・兪・経・合の五の要穴がある。

ところが腑には六の要穴があるが、これはどういうことだろう。

しかるに腑は陽であり、三焦の気は諸経にめぐっている。

この三焦の気を「原」として、一兪を五腑に加えているからである。

腑にある六の要穴はまた、三焦の気と共にひとつの気である。


六十三難曰

十變言,五藏六府滎合,皆以井為始者,何也。

然:井者,東方春也,萬物之始生。諸蚑行喘息,蜎飛蠕動。當生之物,莫不以春而生。故歲數始於春,日數始於甲。故以井為始也。

六十三難に曰く。

十変に言う、五臓六腑の滎合、皆井を始めと以てすとは、何ぞや。

然るに、井は東方の春なり。万物始めて生じ、諸は蚑行(きこう)し、喘息し、蜎飛(けんひ)し、蠕動す。当に生の物は、春を以て生ぜざるはなし.
故に歳の数は春に始り、日の数は甲に始まる。故に井を以て始めと為すなり。

古書の<十変>に、五臓六腑の滎合は全て井を始めとして、滎・兪・経・合と流れているが、これはどうしてなのだろう。

しかるに、井は東方で春に相当します。

東方・春は、万物が生じ始める時で、蚑(き=はう虫)は動き、息吹き、蜎(けん=青虫のように体を曲げる虫・ボウフラ)は飛び、全てが動き始める。

ゆえに1年は春から始まり、1年365日は、甲(きのえ=木の兄)から始まる。

そして経脉も、万物が生じ始める東方・春・甲(きのえ=木の兄)に相当する井をその始まりとするのである。

六十四難曰:

十變又言,陰井木,陽井金。陰滎火,陽滎水。陰俞土,陽俞木。陰經金、陽經火。陰合水,陽合土。陰陽皆不同,其意何也。

然、是剛柔之事也。陰井乙木,陽井庚金。陽井庚,庚者,乙之剛也。陰井乙,乙者,庚之柔也。乙為木,故言陰井木也。庚為金,故言陽井金也。餘皆倣此。

六十四難に曰く。
十変にまた言う。
陰の井は木、陽の井は金。
陰の滎は火、陽の滎は水。
陰の兪は土、陽の兪は木。
陰の経は金、陽の経は火。
陰の合は水、陽の合は土なり、と。
陰陽皆同じからず、其の意は何ぞや。
然るに、是れ剛柔のことなり。
陰の井は乙木、陽の井は庚金なり。
陽の井は庚とは、庚は乙の剛なり。
陰の井は乙とは、乙は庚の柔なり。
乙は木と為す。故に陰と言い、井木なり。
庚は金と為すが、故に陽と言い、井金なり。
余は皆な此に倣う(ならう)なり。

十変には、また以下のように言われている。
陰の井は木、陽の井は金。
陰の滎は火、陽の滎は水。
陰の兪は土、陽の兪は木。
陰の経は金、陽の経は火。
陰の合は水、陽の合は土であると。


これら陰経と陽経は井・滎・兪・軽・合の始まる順序が異なるが、その意味するところは、どういったことなのであろうか
それは陽経と陰経、それぞれの剛柔を性質を表しているからです。
陰経の井は乙木(きのとの木=陰木)、陽経の井は庚金(かのえの金=陽金)です。
陽経の井が庚であるのは、庚(かのえの金=陽金)が乙(きのとの木=陰木)の剛であるからです。
陰の井は乙(きのとの木=陰木)であるのは、乙(きのとの木=陰木)が庚(かのえの金=陽金)の柔であるからです。
乙は木で陰ですから、陰経は井木となります。
庚は金で陽ですから、陽経は井金となります。
このようにして、後はすべて同様にしてみます。

以下、同様にして整理すると、

陰経 井穴 乙木 きのえ  柔

陽経 井穴 庚金 かのえ  剛

陰経 滎穴 丁火 ひのと  柔

陽経 滎穴 壬火 みずのえ 剛

陰経 兪穴 己土 つちのと 柔

陽経 兪穴 甲木 きのえ  剛

陰経 経穴 辛金 かのと  柔

陽経 経穴 丙火 ひのえ  剛

陰経 合穴 癸水 みずのと 柔

陽経 合穴 戊土 つちのえ 剛

となります。

 
六十五難曰:

經言所出為井,所入為合,其法奈何

然、所出為井,井者,東方春也,萬物之始生,故言所出為井也。

所入為合,合者,北方冬也,陽氣入藏,故言所入為合也。

六十五難に曰く.
経に言う、出ずる所を井と為し、入る所を合と為す。其の法は奈何なるや。
然るに、出ずる所を井と為すとは、井は東方の春なり。万物の始めて生ず。故に出る所を井と為すと言うなり.
入る所を合と為すとは、合は北方の冬なり。陽気入りて蔵す。故に入る所を合と為すなり。

経に言うところの、出ずる所を井とし、入る所を合とするとは、その法はどういうことなのか。

出ずるところを井とするのは、井の性質が東方の春に相当するからである。

東方・春は、万物が生じ始める時であるが故に、出ずる所を井というのである。

入る所を合とするのは、合の性質が北方の冬に相当するからである。

北方・冬は陽気が深く入って蔵される時であるが故に、入る所を合というのである。

傷寒論 序文 意訳

 傷寒論の序文を、自分の感性に随って意訳してみました。

 明らかな誤りやご意見がございましたら、どうかコメントで正して下さるよう、お願いいたします。

                    底本 趙開美刊 「仲景全書」所収 『傷寒論』十巻

                              日本漢方協会学術部 編 東洋学術出版社

 

 【意訳】

 序

 越人である扁鵲が中国の古代国家、虢(かく)に立ち入った時、皆が太子が死んだと嘆き悲しんでいる有り様を診て、実は死んでいるのではないと診断し、蘇生させたことがある。

 また扁鵲が斉の国に滞在しているとき、国王である恒公の顔の気色を視て病の深さを知り得たということが、史記の扁鵲伝に記載されている。

 余は、この伝記に接するたびに、扁鵲の才能がずば抜けていた事が感じ取れて、気持ちが高ぶってため息が出なかったためしが無いほどである。

 

 【原文と読み下し】

余毎覧越人入之診.望斉侯之色.未嘗不慨然嘆其才秀也。

余は越人の虢(かく)に入るの診、斉侯の色を望むを覧(み)る毎(ごと)に、未だ嘗(かつ)て慨然として其の才の秀でたるを嘆ぜずんばにあらさるなり。

【註】

越人  戦国時代の名医扁鵲の名

虢(かく)   戦国時代の国の名

斉侯  斉の桓公。斉は山東省付近。

 

 【意訳】

 みなさま、おかしいとは思いませんでしょうか。

 世に言う、志し高く文武を志すと言われている士が、人を救わんがために医薬に心を留め、医術を精(くわ)しく究めようとしていないことを。

 しかも上は仕えてる君主や両親・親族の病を治療し、下は貧しく賤しいとされている人々の厄を救うとすることすら眼中には無い。

 翻っては、さらさら自らの心身の健康を保ち、長寿になるよう努めることも意識に無い。

 このように自他共にその生命を軽んじ、生を養う心も無いようである。

 【原文と読み下し】

怪当今居世之士.曾不留神医薬.精究方術.上以療君親之疾.下以救貧賤之厄.中以保身長全.以養其生.

怪しむべし、当今居世の士。曾(か)つて神を医薬に留め、方術を精究し、上は以って君親の疾を療し、下は以って貧賤の厄を救い、中は以って身を保ち長全し、以って其の生を養なわず。

【註】

当今居世之士:当今は現代。居世之士は世上(世間のうわさ)の士。 士は文武を学ぶ者の総称。

【意訳】

  このような一大事を捨て置いて、ただ目先の栄華の勢いばかりを追い求め、どうやって権勢のあるものに取り入ろうかなどと、そのことばかりに心を忙しく働かせている。 

 このような者の頭にあるのは、どうやって名を上げ、利を得ようかということばかりである。               

【原文と読み下し】

但競逐栄勢.企踝権豪.孜孜汲汲.惟名利是務.

但栄勢に競逐し、踝(きびす)を権豪に企て、孜孜汲汲(ししきゅうきゅう)として、惟(ただ)名利に是れ務む。

【註】

孜孜汲汲  努めて怠らない様。

【意訳】

  末である外見ばかりを飾り、もっとも大切であるはずの中身の事など、どうでも良いと捨て去り、外見は華やかなようであるが、その内面は心がすさんでまるで身体がやつれているかのようである。

 とりつくべき皮が無いのに、毛は一体どこに附くのであろうか。

【原文と読み下し】

崇飾其末.忽棄其本.華其外而悴其内。皮之不存.毛将安附焉。

其の末を崇飾し、其の本を忽棄(こっき)し、其の外を華とし、而(しか)して其の内を悴(すい)にす。皮之れ存ぜずんば、毛将(は)たいずくんぞに附(つ)かんや。

【註】

崇飾其末.忽棄其本  枝葉末節の権勢を求めるため、外見を勿体らしく飾り、身体をも粗末にして根本を捨て去ること。

悴(すい)やつれること。

皮之不存.毛将安附焉 皮がないと毛のつくところはないのである。名利は、命があってのことである。

【意訳】 

 そのような有り様である文武を志す居世の士が、ひとたび突然外邪に侵されたり、傷寒のような大病に罹ろうものなら、自分の身に起きたことが理解できず、ただただ怯え震え上がってしまうような有り様である。

【原文と読み下し】

卒然遭邪風之気.嬰非常之疾.患及禍至.而方震慄.

卒然として邪風の気に遭(あ)い、非常の疾に嬰(かか)り、患及び禍に至り、而して方(まさ)に震慄す。

【意訳】

  それだけでなく、それまで高らかに人に胸張っていた志を降ろしてしまい、曲げられないはずであった節を曲げ、恥も外聞もなく何もかも投げ捨て、ただ拝み屋を呼んでくれとばかりに、巫祝を頼りとするようになるのである。

 人は天から百年の寿命を授かっているものである。

 その入れ物である、この上ない貴重な器である身体を、医者の見極めも出来ず、ありきたりの医師にすべてを任してしまい、でたらめな治療を受け、結果むなしく死んでいくのである。

【原文と読み下し】

志屈節.欽望巫祝.告窮帰天.束手受敗。

賚百年之寿命.持至貴之重器.委付凡医.恣其所措。

志を降ろし節を屈し、巫祝(ふしゅく)を欽望(きんぼう)す。窮(きゅう)を告ぐれば天に帰し、手を束(つか)ねて敗を受く。

百年の寿命を賚(たまわ)り、持てる至貴の重器を、凡医に委付し、其の措(お)く所を恣(ほしいまま)にす。

 【意訳】

 なんと、あわれなことよ。

 身体は破れてしまい、生命の明かりは消え、変わり果てた死体となってしまった。

 魂もまた、黄泉の国に潜り込み、さまよっているかのようである。

 そうなってしまってから、一族の者はただただ、嘆き悲しみ泣き叫ぶのである。

 なんと痛ましいことであろう。

【原文と読み下し】

咄嗟嗚呼.厥身已斃.神明消滅.変為異物.幽潜重泉.徒為啼泣.痛夫,

咄嗟嗚呼(ああ・・・)、厥(その)身は已(すで)に斃(やぶ)れ、神明は消滅し、変じて異物と為す。重泉に幽潜し、徒(いたず)らに啼泣(ていきゅう)を為す。痛ましいかな。 

【註】

欽望   懇願すること。

咄嗟嗚呼 詠嘆・嘆息の声。二重のなげき声。尋常でない嘆き表現。

【原文と読み下し】

【意訳】 

  世の中の全てが、このような有り様で、昏迷とはまさにこのことである。

 自らが、どのような存在であるのかさえ悟ることなく、自からの生命を惜しむようでもない。

 このように自分の生命を軽んじておいて、栄耀栄華、権勢を手にしたところで一体何になろうというのか。

【原文と読み下し】

挙世昏迷.莫能覚悟.不惜其命.若是軽生.彼何栄勢之云哉.

世を挙げて昏迷し、能く覚え悟ること莫(な)く、其の命を惜まず。是の若く生を軽ろんじ、彼何の栄勢之を云わんや。

【意訳】

  しかも自ずから進んで人を愛そうとしたり、人の苦しみを理解しようとすることもない。

 翻っては、自分に向き合って身体を愛し、己を知ろうとすることもない。

 災いに直面し危険な所に自分の身を置き、愚かで目の前が曖昧模糊としているため、はたから見るとまるで魂がさまよっているかのようである。

 なんと哀れなことであろうか。

 名利を追い求める士は、いずれは消え失せるうわべの華やかさを我先にと追い求め、馳せ競い合っている。

 しかもその最も大切な根を堅固にすることよりも、身を忘れ物欲に追い従うことに懸命になっている。

 今この場この時に、自ら薄氷の上に立っていて、それがいつ割れるのかという危うさの真っ最中であることにさえ、気づいていないことを自覚して欲しい。

【原文と読み下し】

而進不能愛人知人.退不能愛身知己.遭災値禍.身居厄地.蒙蒙昧昧.惷若游魂.哀乎. 

趨世之士.馳競浮華.不固根本.忘徇物.危若冰谷.至於是也.

而して進みては人を愛し人を知ること能わず、退いては身を愛し己を知ること能わず、災に遭(あ)い禍に値(あ)い、身を厄地に居く。蒙蒙昧昧(もうもうまいまい)、惷(とう)なること游魂の若し。哀しいかな。

趨世の士、浮華に馳競し、根本を固めず、軀(み)を忘れ物に徇(した)がい、危うきこと冰谷の若くにして、是に至るなり。

【註】

蒙蒙昧昧  蒙昧、愚昧の意。

惷     愚と同じ。くらい、にぶい。

趨世の士  名利を競い求める世上の士

忘軀徇物  身命の大切さを忘れ、物欲に目をひかれる。

【意訳】

  余の一族は、元々二百に余るほどであった。

 しかし、建安紀年から十年も経たないうちに、三分の二が死んでしまった。

 死んだ者の内、十中に八は傷寒の病であった。

【原文と読み下し】

余宗族素多.向餘二百。建安紀年以来.猶未十稔.其死亡者.三分有二.傷寒十居其七。

余が宗族素多し。向(さ)きに二百に餘(あま)る。建安紀年以来、猶(なお)未だ十稔(ねん)ならざるに、其の死亡したる者、三分の有二、傷寒十其の七に居く。

【註】

建安紀年  西暦196年

 【意訳】

  その昔に死亡者が続出したことが心に刻まれ、まだ生きるべき若者が死んでいくのに、それを救う手段がなかったことに心が痛んだ。

 このような過去を慮り、勤めて古人の訓えを探し求め、今に伝わっている方剤を広く集め、『素問』、『九巻』、『八十一難』、『陰陽大論』、『胎臚薬録』、并びに平脈辨証を撰び用いて、『傷寒雑病論]』合わせて16巻にまとめて著した。

【原文と読み下し】

感往昔之淪喪.傷横夭之莫救.乃勤求古訓.博采衆方.撰用『素問』.『九巻』.『八十一難』.『陰陽大論』.『胎臚薬録』.并平脈辨証.為『傷寒雑病論』.合十六巻.

往昔の淪喪(りんそう)に感じ、横夭(おうよう)の救い莫(な)きを傷み、乃(すなわ)ち勤めて古訓に求め、博く衆方を采(と)り、『素問』、『九巻』、『八十一難』、『陰陽大論』、『胎臚薬録』、并びに平脈辨証を撰用し、『傷寒雑病論』、合せて十六巻を為す。

淪喪  淪は没と同じ。淪喪は死亡のこと。

横夭  生きておれる人々が若くして死ぬこと。

【意訳】

  本書『傷寒雑病論』で、世中の全ての病を治せないかも知れない。

 しかしながら、こい願わくば本書を参考にして、病に際してはその病源を知って欲しい。

 もし、本書を尋ねるように読めば、余の伝えたいことのおおよそは理解できるはずである。

【原文と読み下し】

雖未能尽愈諸病.庶可以見病知源。若能尋余所集.思過半矣

未だ尽ごとく諸病を愈すこと能(あた)わずと雖(いえ)ども、庶(こ)いねがわくば病を見て以て源を知るべし。若し能(よ)く余が集むる所を尋ぬれば、思いは半ばに過ぎん。

【意訳】

  天は木・火・土・金・水の五行を天地の間に配して自然界の全ての変化を生み出している。

 人は仁・義・礼・智・信の五常を受けて生まれ、五臓を生じるのである。

 そして経絡や気血集散の場である府兪などを介して陰陽の気が会通しており、この陰陽の変化は不可思議であり、しかも微かである。

 この変化を極め尽くすのは、容易な事ではないだろう。

 秀でた才能と言い尽くせないほどの知識をもって、この極めがたい陰陽の変化の中に、法則性を探そうではないか。

【原文と読み下し】

夫天布五行.以運万類.人稟五常.以有五臓。経絡付兪.陰陽会通.玄冥幽微.変化難極。

自非才高識妙.豈能探其理致哉。 

夫(そ)れ天は五行を布き、以て万類を運(めぐ)らし、人は五常を稟(う)け、以て五臓有り。経絡付兪、陰陽の会通、玄冥幽微、変化は極め難し。

才高く識妙なるに非らざるよりは、豈(あ)に能く其の理致を探らんや。

【註】

運     生・長・化・収・蔵

五常    仁・義・禮・智・信。

付兪    府は気血の集合するところ。愈は気血の注ぐところ。

玄冥幽微  暗黒で、奥が深く、見通しがきかない。

理致    すじみち

【意訳】

  上古には、神農・黄帝・岐伯・伯公・雷公・少兪・少師・仲文という名医が存在した。

 中世に至っては長桑・扁鵲が、漢の時代になっては公乗の官位にあった陽慶と倉公という名医が存在していた。

 それ以後時代が下り、現在に至っても、なおかつてのような名医の存在を聞くことが無い。

【原文と読み下し】

上古有神農.黄帝.岐伯.伯公.雷公.少兪.少師.仲文.中世有長桑.扁鵲.漢有公乗陽慶及倉公.下此以往.未之聞也.

上古に神農、黄帝、岐伯、伯公、雷公、少兪、少師、仲文有り。中世に長桑、扁鵲有り。漢に公乗陽慶及び倉公有り。此れを下り以て往くも、未だ之れを聞かざるなり。

【註】

神農、黄帝 医薬方術の祖としてあがめられている。

岐伯~少師  黄帝の臣で、伝説上の名医。実在は疑わしい。

長桑     扁鵲の師

公乗陽慶   陽慶は倉公の師で、公乗は官名。

【意訳】

  今の医師を観ると、経典を学んでその趣旨に思いを行らせることもなく、今知っていることだけを話すだけである。

 またそれぞれの家に伝わっている治療法を承け、生涯受け継いだ治療法を何の工夫もなくただ繰り返すのみである。

 病の様子を省みて病状を問うも、口先だけで患者を言いくるめることだけに終始している。

 病人を目の前にすれば、まともに診察などせず、すぐに湯薬を処方するというような有り様である。

【原文と読み下し】

観今之医.不念思求経旨.以演其所知.各承家技.終始順旧.省病問疾.務在口給.相対斯須.便処湯薬.

今の医を観るに、経旨を思求し、以て其の知る所を演(の)ぶるを念(おも)わず、各おの家技を承け.終始旧に順ず。病を省りみ疾を問うも、務めは口給に在り。相対して斯須(ししゅ)すれば、便(すなわ)ち湯薬を処す。

【註】

相対斯須  病人と相対している時間が一寸の間という意味。

【意訳】

  脈診も寸口の脈は診ても尺中までに及ぶこともなく、手は握っても足に触れることもない。

 人迎脈・跌陽脈、三部の脈を交えて考慮することもない。

 脈の去来を候っても、五十動にも満たないほどである。

 このように短い診察であるため、身体の空間の歪みを診る九候の診察などは、脳裏に浮かぶことすらもない。

 顔面の明堂や闕庭などを観る気色診など、ことごとく見て察する事も無い。

 これではまるで、細い管から広大な天をのぞき見るかのようではないか。

 扁鵲が虢(かく)の太子の仮死状態を見破って蘇生させたように、死に直面した危篤の病人を目の前にして、生死を判断するのは実に難しいことである。

【原文と読み下し】

按寸不及尺.握手不及足.人迎趺陽.三部不参.動数発息.不満五十.

短期未知決診.九候曾無髣髴.明堂闕庭.尽不見察.

所謂窺管而已.夫欲視死別生.実為難矣.

寸を按じて尺に及ばず、手を握りて足に及ばず、人迎趺陽、三部参えず、動数発息、五十に満たず。

短期なれば未だ決診を知らず、九候は曾(かつ)て髣髴無し。明堂闕庭、尽(こと)ごとく見察せず。

所謂(いわゆる)管より窺がうのみ。夫れ死を視て生を別たんと欲するは、実に難きと為す。 

【註】

動数発息  動は脈の拍動、発は脈の搏ち出るを言い、息は脈の搏ち去るを言う。

明堂闕庭  明堂は鼻。闕は眉間。庭は顔。

【意訳】

 孔子は、以下のように書き残している。

「生まれながらにして、人の道を理解している者は最上である。

 学んでこれを知るのは、これに次ぐものである。」と。

 自分の努力で到達できる多聞博識の境地は、最上の次である。

 余は、随分と前から医学としての方術を尊崇している者である。

 どうか孔子の言葉を心に留めて、日々精進して方術を行うことを望むものである。

 【原文と読み下し】

孔子云.生而知之者上.学則亜之。多聞博識.知之次也。余宿尚方術.請事斯語。

孔子云う、生まれながらにして之を知る者は上、学ぶは則ち之れに亜(つ)ぐ。多聞博識は知の次なり。

余は宿(つと)に方術を尚(たっ)とぶ。請う斯(こ)の語を事とせん。

 

 

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調經論篇第六十二.

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  本篇の表題は、経絡の気血を調えることを目的として、虚実・補瀉の概念とその方法が説かれているということでつけられたのであろう。

 ところが筆者は経絡よりもむしろ人体を空間として意識した虚実・補瀉概念のように理解される。

 なぜなら本文中に、<陰陽が交流し、身体が充実していると九候もまるで一つのようである>とあり、さらに最後の括りに<謹んで九候を察しなさい>と記載されているからである。

 この九候とは、天人地の三才思想で書かれた、<三部九候論20>の空間的脈診法のことである。

 おそらく本篇は、当時複数存在していたであろう治療学派の内、空間学派が書き著したものだろうと考えている。

 これらのことを踏まえるなら、本篇内の巨刺と繆刺は名称こそ違うものの、同じ空間的歪み・気の偏在という視点で捉えると、かなり整理され臨床に用いることができる。

 

 

  意  訳

 黄帝が申された。

 余は刺法に有余はこれを瀉し、不足はこれを補うと言っているが、有余・不足とはいったい何を指して言っているのじゃ。

 

 岐伯がそれに対して申された。

 有余には五ありまして、不足にもまた五ありますが、帝はどういったことをお聞きになりたいのでしょうか。

 

 帝が申された。

 有余・不足に関するすべてじゃ。

 岐伯が申された。

 神の有余・不足。

 気の有余・不足。

 血の有余・不足。

 形の有余・不足。

 志の有余・不足。

 これら十の有余・不足の気はそれぞれ異なっております。

 

 黄帝が申された。

 人には精気、津液、四支九竅、五藏、十六部、三百六十五節があり、それぞれに百病が生じる。さらに百病には虚実がある。

 今そちは、有余に五あり、不足にもまた五ありと言うが、どうして虚実ということが生じるのであろうか。

 

 岐伯が申された。

 それらのすべては、五臓に生じます。

 それは、心は神を蔵し、肺は気を蔵し、肝は血を蔵し、脾は肉を蔵し、腎は志を蔵しておりまして、これらでひとりの人間の形が出来上がっているのであります。

 そして志意がとどこおりなく通じ、身体内部の骨髄にまで連なっておりますれば、形体と五臓は身体として成り立つのであります。

 さらに五臓の気の道は、すべて経絡に通じておりますからこそ、血気は全身を循ることができるのであります。

 その経絡の血気が調和しておりませんと、その不調和を始まりとして百病が生じるのであります。このような理由で、経絡は正常に流れるように守る必要があるのです。

 

 帝が申された。

 神の有余と不足の症候はどのようであるのか。

 岐伯が申された。

 神が有余しますと、休みなく笑い続け、不足しますと悲しむようになります。

 ところが血気が調和していなくても、五臓が安定しておりますと邪は身体の表面に留まりますので、ゾクゾクとして体毛が立つだけで、経絡に入ることはできないのであります。

 従いましてこれは神が少し動じただけでありますので、神の微と申すのであります。

 

 帝が申された。

 補瀉はどのようにいたすのか。

 岐伯が申された

 神が有余しておりましたなら、小絡の血を瀉して出血させます。

 しかし、肉を深く刺したり、本経に鍼を中ててはなりません。このようにいたしますと、神気は平らかとなります。

 神が不足しておりましたなら、虚絡を探しましてこれを按じて気血を至らせます。さらに刺鍼して経絡を通利させるのであります。

 その際、出血させたり気をもたらすようなことがあってはなりません。このように経絡を通利させますと、神気は平らかとなります。

 

 帝が申された。

 神の微に対する刺し方はどうなのじゃ。

 岐伯が申された。

 虚絡を按摩して手を離すことなく、鍼をぴったりと当てまして肌肉を破らないように致します。

 このようにして不足しているところに気を移してまいりますと、神気は自ずと回復して参ります。

 

 帝が申された。

 よし、よく理解した。それで気の有余と不足の状態はどのようであるのか。

 岐伯が申された。

 気が有余しておりますれば、気が上に突上げますので喘いで咳が出るようになります。

 不足しておりますれば、息はできますが呼吸は浅く力がありません。

 血気が不調和でありましても、五臓が安定しておりますと、皮膚が微かに病みます。ですが肺気が微かに泄(も)れる程度です。これを白気微泄と申します。

 

 帝が申された。

 補瀉はどうなのか。

 岐伯が申された。

 気が有余しておりましたら、五臓に通じております經隧、つまり大絡を瀉します。その際には、経脉を傷ったり出血させたり五臓の気を泄すようなことがあってはなりません。

 気が不足している場合は、その経隧を補いますが、五臓の気を泄すことの無いように留意いたします。

 

 帝が申された。

 では微を刺すにはどのようにすれば良いのか。

 岐伯が申された。按摩をして気を散らしてはなりません。

 鍼を出して患者に視せ、これから深く刺すと申し伝えれば、患者はその脅しに従って気の流れが変化いたします。

 さすれば精気は自ずと内に伏するとともに体表に休息していた邪気は腠理から泄れて散乱してしまいます。そうしますと真気はめぐるようになって参ります。

 

 帝が申された。

 よく理解することが出来た。血の有余と不足の状態はどのようであるのか。

 岐伯が申された。

 血が有余しておりますと怒り、不足していると恐れます。血気が不調和であり、五臓が安定しておりましても孫絡に水が溢れますと、経絡は孫絡に通じなくなり留血を生じるようになります。

 

 帝が申された。

 では補瀉はどのようにするのであるか。

 岐伯が申された。

 血が有余しておりましたら、その盛んなる経を瀉して出血させます。

 血が不足していましたら、その虚している経を視て、その脉中に鍼を入れて久しく留めます。そして脉が大きくなるのを視て疾く抜鍼して血を泄さないようにしなくてはなりません。

 

 帝が申された。

 よし、よく理解できた。では形の有余と不足の状態はどのようであるのか。

 岐伯が申された。

 形が有余しておりますと、腹が脹り小便が不利となります。

 不足しておりますと、四肢が思うように動かせなくなります。

 血気の調和が乱れていても五臓が安定しておりますれば、肌肉が蠕動する程度であります。これを微風と申します。

 

 帝が申された。 

 留血の刺法はどのようであるのか。

 岐伯が申された。

 その血絡をしっかりと確認し、刺して出血させます。つまり悪血が經に入り疾病とならないように致すのであります。

 

 帝が申された。

 補瀉はどのようにいたすのか。

 岐伯が申された。

 形が有余しておりますとその陽経を瀉します。

 不足しておりますと、その陽絡を補います。

 

 帝が申された。

 微の刺法はどのようであるのか。

 岐伯が申された。

 分肉の間を取り、経に中ったり絡を傷ることが無ければ、衛気は回復することが出来ますので、邪気もまた散じるのであります。

 

 帝が申された。

 よく理解できた。志の有余不足とはどうであるのか。

 岐伯が申された。

 志が有余いたしますと、腹が脹れ未消化便を下します。

 不足いたしますと、手足が冷えあがる厥となります。

 血気の調和が乱れていても、五臓が安定しておりますと骨節が多少ずれ動く程度であります。

 

 帝が申された。

 補瀉はどのようにいたすのか。

 志が有余しておりますと、然谷から瀉血いたします。

 不足いたしますと、その復溜を補います。

 

 帝が申された。

 神・気・血・形・志の有余・不足に対して、血気が不調和であっても五臓が安定している場合の刺法はいかなるか。

 岐伯が申された。

 取穴するにあたりましてはその経に中てる必要は無く、邪が居るところを直接取れば、邪は立ちどころに虚すのであります。

 

 帝が申された。

 よく理解できた。余はすでに虚実の状態を聞いたが、それらがどうして生じるのかが分からないのであるが。

 岐伯が申された。

 気血は調和しておりましても、時に陰陽は傾くものであります。

 気が衛に乱れ血もまた経を逆流いたしますと血気は離れ離れとなりまして、一方では実、一方では虚という状態になります。

 血が陰に集まり、気は陽に集まりますと、精神状態も乱れ驚きやすくなったり狂症状となったりいたします。

 反対に、血が陽に集まり、気が陰に集まりますと、内熱を生じたり熱中症状となります。

 血が上に、気が下に集まりますと、心中がイライラと煩悶してよく怒るようになります。

 逆に血が下に、気が上に集まりますと、心が乱れてよく忘れるようになります。

 

 帝が申された。

 血が陰に集まり、反対に気が陽に集まり、気血が分離しているような場合、いずれを実とし、虚とするのであろう。

 岐伯が申された。

 気血は温を喜び、寒を悪むものであります。なぜなら寒は流れを渋らせますが、温は留滞を消し去り通利するからであります。

 従いまして、気が走り集まる所は相対的に血虚となり、血の集まる所は相対的に気虚となるのであります。

 

 帝が申された。

 人にあるのは、血と気のみである。

 今夫子は、血が集まるを虚とし、気が集まるもまた虚であると申したが、これでは実が無いではないか。

 岐伯が申された。

 有るものを実とし、無きものを虚と致します。

 従いまして、気が集まりますと相対的に血は無くなり、血が集まりますと相対的に気は無くなります。

 本来、気血は調和してこそ正常な働きを致します。ところがいま気と血がバラバラとなって相失い、正常な働きができない状態を、虚と申しておるのであります。

 絡と孫絡は、ともに経に気血を輸送いたします。気と血が一緒になって集まり、停滞すると実となります。

 この気血が一緒になって上に走り集中しますと実となります。このような場合、大厥と申しまして、手足が冷えあがり場合によっては即死致します。

 ところが気が再び方向を転じて下りますと生き返ります。そうでなければそのまま死亡いたします。

 

 帝が申された。

 虚実は、どのような道理から生じるのであるか。願わくば、さらにその虚実の要とそのゆえんを聞かせてもらいたいのであるが。

 岐伯が申された。

 陰と陽には、それぞれ注いだり会する所がございます。陽は陰に注ぎまして、陰が充実いたしますと今度は陽である外に向かいます。

 このように陰陽が交流し、陰陽が平衡いたしますと、身体は充実し、九候の脉もまるでひとつであるかのように均衡がとれているものです。これを正常な平人と申します。

 一方、邪が生じますのは、身体内の陰、或いは身体外の陽に生じる場合とがあります。

 陽である身体外に邪が生じます原因は、風雨寒暑などの外因によります。

 また陰である身体内部から邪が生じますのは、飲食や起居、よく怒るなど感情の不調和などの内因に依るのであります。

 

 帝が申された。

 風雨はどのように人を傷るのであろうか。

 岐伯が申された。

 風雨が人を傷る際は、まずその邪は皮膚に舍ります。そこから孫絡に伝入致しまして、孫絡がそれを防いで一杯になりますとさらに絡脉に伝入致します。

 さらに絡脉でも防ぎきれなければ、そこから大きな経脉に入ってしまうことになります。

 また血気と邪が一緒になって、身体の比較的浅い分肉腠理に舍り停滞しますと、内外は通じなくなりますのでその脉もまた、堅く大きくなります。このような状態を実と申します。

 これを体表にみますと、実の部分は抑えると堅く充満しているかのようであり、強く押すと痛みます。

 

 帝が申された。

 寒湿はどのように人を傷るのであろうか。

 岐伯が申された。

 寒湿が人に中りますと、表面の皮膚の腠理が弛んで収まりません。

 さらに少し深い肌肉は堅く緊張しますので、栄血の流れは渋り、栄衛の調和が失われて衛気は散ってしまいます。このような状態になりましたものを虚と申します。

 虚しますと、皮膚は弛んで気も不足いたします。

 そこでこれを按じますと肌肉の栄血が流れ、衛気も張り出してきますので温かくなって参りまして、気持ちよく感じ痛みもなくなるのであります。

 

 帝が申された。

 よく理解できた。では陰はどのようにして実を生じるのであろうか。

 岐伯が申された。

 喜怒に節度というものがありませんと、陰気は逆流して上行いたします。

 そうしますと下に陰気が不足いたします。そうしますと陰気の支えを無くした陽気もまた上に走ります。このような状態を実と申します。

 

 帝が申された。

 では陰はどのようにして虚を生じるのであろうか。

 岐伯が申された。

 人が喜びますと気は下り、悲しみますと気は消え、消散いたしますと脈は空虚になります。

 このような時に、冷たいものを飲み食いいたしますと、体内の寒気は留まり充満いたします。そうなりますと血の循りも渋り、気は血を離れて去ってしまいます。このようにして虚となるのであります。

 

 帝がもうされた。

 古経では、陽が虚すると外が寒し、陰が虚すると内が熱する。また陽が盛んであれば外が熱し、陰が盛んであれば内が寒すると記載されている。

 余はすでにこれらのことを聞いているが、その道理が理解できていないのであるが。

 岐伯が申された。

 体表である陽は、その気を上焦に受けて皮膚や分肉の間を温めます。今寒気が外にありますと、上焦は陽を受けることができず不通となってしまいます。

 上焦が通じませんと、寒気は外に留まることになりますので、寒慄するようになるのであります。

 

 帝が申された。

 陰が虚すると内が熱するのは、どのようなわけであろうか。

 岐伯が申された。

 労働してだらりとなるほど疲れてしまいますと、肉体も気も衰少いたしますので、飲食も進まず穀気も充実させることができません。

 そうしますと上焦の気は行らず、下脘も通じなくなり、胃の気は動くことができずに熱に変じます。

 その胃の熱は胸中を薫ずるようになります。このようなわけで内の熱が生じるのであります。

 

 帝が申された。

 陽が盛んであると外に熱を生じるというのは、どのようなわけであろうか。

 岐伯が申された。

 上焦が通利いたしませんと、皮膚が緻密となりまして腠理が閉塞してしまいます。

 そうしますと玄府であります汗孔が通じませんので、易は外に発泄することができませんので、外が熱するのであります。

 

 帝が申された。

 陰が盛んであれば内に寒を生じるわけはどうなのであろうか。

 岐伯が申された。

 精神的な動揺などにより、手足が冷えてくる厥逆となりますと、寒気が下から胸中に侵入して居座りますと、陽気は退いて拮抗いたします。

 そうしますと血も流れ渋り、脈も盛大でありながら渋ります。これを中寒と申しまして、内に寒を生じる理由であります。

 

 帝が申された。

 邪気が人体を侵すと、陰と陽が併合し血気も併合して、病が形成される。この場合、刺法はどういたすのであろうか。

 岐伯が申された。

 このような場合は、五臓六腑の大絡を取って治療いたします。

 営は血に属し、衛は気に属しますので、それぞれ陰陽・気血・営衛を判別して治療いたします。

 さらに人体に刺鍼いたします時は、四時陰陽の気の消長を考慮するのであります。

 

 帝が申された。

 血気が併合して形成された病は、陰陽どちらかに傾いていると思うが、補瀉はどのようにいたすのであろうか。

 岐伯が申された。

 実を瀉しますには、吸気によって気が盛んになった時に鍼を刺入し、鍼孔は邪気が出ていきやすいように、門を開くようにいたします。

 そうしまして、呼気に合わせて抜鍼しますと、精気は傷れずしかも邪気は排出されます。そして鍼孔は閉じないようにいたします。

 邪気を疾く排出させるために、鍼孔を大きく揺らして邪気の出口の通りを良くいたします。これを大瀉と申しまして、必ずぴったりと呼吸に合わせ鍼孔を開いてやりますと、大邪といえども屈するのであります。

 

 帝が申された。

 では、虚を補うにはどのようにするのであろうか。

 岐伯が申された。

 鍼を手にしてすぐに刺鍼するのではなく、まずは気持ちを落ち着けて補する意図を明確にいたします。そして呼吸のタイミングを候い、呼気時に刺入し、呼気に従って鍼を進めます。

 そうしますと、鍼と肌肉に隙間がなくなりますので、精が漏れ出ることがありません。そしてまさに実してきましたら、吸気に合わせて素早く抜鍼し、鍼孔に集まった熱が元に帰らないようにいたします。そしてその鍼孔をしっかりと指で押さえて閉じますと、邪気は散って精気は存じます。

 さらに時間をかけて気が動くのを候いますと、手元の気は失われず、遠くの気が手元に集まって参ります。これを追うと申しまして、補の方法であります。

 

 帝が申された。

 そちは虚実に十種類があり、五臓に生じると話されたが、五臓には五脉しかない。

 ところが十二経脈は、すべて病を生じるはずであるのに、今そちは五臓の虚実のみを話された。

 十二経脈は、皆三百六十五節を絡い、節に病があれば必ず経脈に影響するはずである。

 経脈の病にも皆虚実があるはずだが、何をどのように解釈すれば五臓の虚実と合致するのであろうか。

 岐伯が申された。

 五臓には、もとより六腑がありまして相表裏しております。経絡・支節にもそれぞれ虚実を生じまして、その病むところに従ってこれを調えるのでございます。

 病が脈にありますと、血を調えます。

 病が血にありますと、絡を調えます。

 病が気にありますと、衛を調えます。

 病が肉にありますと、分肉を調えます。

 病が筋にありますと、筋を調えます。

 病が骨にありますと、骨を調えます。

 燔針(ばんしん)を用いる場合は、筋が引き攣れている時でありまして、劫刺(ごうし)のことであります。

 病が骨にあります場合は、焼鍼を用いたり膏薬を用いて温めます。

 痛む部位がよくわからない病には、陰陽の蹻脉を取穴いたします。

 身体に痛みがあり、九候に病がないものには、繆刺を行います。

 痛む部位が左にあり、右の脉に病があると判断したものには、巨刺を行います。

 このように、必ず細心の注意をもって九候を察して治療いたしますれば、鍼道は自ずと備わって参るのであります。

 

 原文と読み下し

 

 黄帝問曰.余聞刺法言.有餘寫之.不足補之.何謂有餘.何謂不足.

岐伯對曰.有餘有五.不足亦有五.帝欲何問.

黄帝問うて曰く。余は聞くに刺法の言に、有餘はこれを寫し、不足はこれを補うと。何を有餘と謂い、何を不足と謂うか。

岐伯對して曰く。有餘に五有り、不足も亦た五有り。帝、何を問わんと欲するや。

 

帝曰.願盡聞之.

岐伯曰.

神有餘有不足.

氣有餘有不足.

血有餘有不足.

形有餘有不足.

志有餘有不足.凡此十者.其氣不等也.

帝曰く。願わくば盡くこれを聞かん。

岐伯曰く。

神に餘り有り不足有り。

氣に餘り有り不足有り。

血に餘り有り不足有り。

形に餘り有り不足有り。

志に餘り有り不足有り。凡そ此の十なるは、其の氣等しからざるなり。

 

帝曰.

人有精氣津液.四支九竅.五藏十六部.三百六十五節.乃生百病.百病之生.皆有虚實.

今夫子乃言.有餘有五.不足亦有五.何以生之乎.

帝曰く。

人に精氣津液、四支九竅、五藏十六部、三百六十五節有りて、乃ち百病生ず。百病の生ずるに、皆虚實有り。

今夫子乃ち、有餘に五有り、不足も亦た五有りと言う。何を以てこれを生じるや。

 

岐伯曰.皆生於五藏也.

心藏神.肺藏氣.肝藏血.脾藏肉.腎藏志.而此成形.

志意通.内連骨髓.而成身形五藏.

五藏之道.皆出於經隧.以行血氣.血氣不和.百病乃變化而生.是故守經隧焉.

岐伯曰く。皆五藏に生じるなり。

夫れ

心は神を藏し、肺は氣を藏し、肝は血を藏し、脾は肉を藏し、腎は志を藏し、而して此れ形を成す。

志意通じ、内は骨髓に連なりて、身の形、五藏成るなり。

五藏の道は、皆經隧に出で、以て血氣を行らす。血氣和せざれば、百病は乃ち變化して生ず。是れ故に經隧を守るなり。

 

帝曰.神有餘不足何如.

岐伯曰.

神有餘則笑不休.

神不足則悲.

血氣未并.五藏安定.邪客於形.洒淅起於毫毛.未入於經絡也.故命曰神之微.

帝曰く。神の有餘不足とは何んの如きか。

岐伯曰く。

神有餘なれば則ち笑いて休まず。

神不足なれば則ち悲す。

血氣未だ并せず、五藏は安定し、邪形に客せば、洒淅として毫毛起きるも、未だ經絡に入らざるなり。故に命じて曰く神の微と。

 

帝曰.補寫奈何.

岐伯曰.

神有餘.則寫其小絡之血出血.勿之深斥.無中其大經.神氣乃平.

神不足者.視其虚絡.按而致之.刺而利之.無出其血.無泄其氣.以通其經.神氣乃平.

帝曰く。補寫はいかん。

岐伯曰く。

神有餘なれば、則ち其の小絡の血を寫し血を出だす。これを深く斥(せき)すること勿れ。其の大經に中ること無くば、神氣は乃ち平かなり。

神不足なるは、其の虚絡を視、按じてこれを致し、刺してこれを利し、其の血を出すこと無く、其の氣を泄すこと無く、以て其の經を通ずれば、神氣は乃ち平かなり。

 

帝曰.刺微奈何.

岐伯曰.按摩勿釋.著鍼勿斥.移氣於不足.神氣乃得復.

帝曰く。微を刺すこといかん。

岐伯曰く。按摩して釋(す)てること勿れ。鍼を著けて斥すること勿れ。不足に氣を移さば、神氣は乃ち復するを得ん。

 

帝曰善.有餘不足奈何.

岐伯曰.

氣有餘則喘咳上氣.

不足則息利少氣.

血氣未并.五藏安定.皮膚微病.命曰白氣微泄.

帝曰く。善し。有餘不足とはいかん。

岐伯曰く。

氣有餘なれば則ち喘咳して上氣す。

不足なれば則ち息利して少氣たり。

血氣未だ并せず、五藏安定なれば、皮膚微(かす)かに病む。命じて白氣微泄と曰く。

 

帝曰.補寫奈何.

岐伯曰.

氣有餘則寫其經隧.無傷其經.無出其血.無泄其氣.

不足則補其經隧.無出其氣.

帝曰く。補寫はいかん。

岐伯曰く。

氣有餘なれば則ち其の經隧を寫す。其の經を傷ること無く、其の血を出すこと無く、其の気を泄すこと無し。

不足なれば則ち其の經隧を補う。其の氣を出すこと無し。

※經隧・・・経絡に随って深いところに流れている通路

 

帝曰.刺微奈何.

岐伯曰.按摩勿釋.出鍼視之.曰我將深之.適人必革.精氣自伏.邪氣散亂.無所休息.氣泄腠理.眞氣乃相得.

帝曰く。微を刺すこといかん。

岐伯曰く。按摩して釋てること勿れ。鍼を出してこれを視せ、我將にこれを深くせんと曰く。人適(かな)いて必ず革(あらたま)りて、精氣自ずと伏し、邪氣散亂し、休息する所無く、氣腠理に泄れ、真気乃ち相得る。

 

帝曰善.血有餘不足奈何.

岐伯曰.

血有餘則怒.

不足則恐.

血氣未并.五藏安定.孫絡水溢.則經有留血.

帝曰く。善し。血の有餘不足はいかん。

岐伯曰く。

血有餘なれば則ち怒す。

不足なれば則ち恐る。

血氣未だ并せず、五藏安定し、孫絡水溢すれば、則ち經に留血有り。

 

帝曰.補寫奈何.

岐伯曰.

血有餘則寫其盛經.出其血.

不足則視其虚經.内鍼其脉中.久留而視.

脉大.疾出其鍼.無令血泄.

帝曰く。補寫はいかん。

岐伯曰く。

血有餘なれば則ち其の盛んなる經を寫す。その血を出す。

不足なれば則ちその虚する經を視て、鍼を其の脉中に内れ、久しく留めて視、脉大なれば、疾く其の鍼を出し、血をして泄せしむること無し。

 

帝曰.刺留血奈何.

岐伯曰.視其血絡.刺出其血.無令惡血得入於經.以成其疾.

帝曰く。留血を刺すこといかん。

岐伯曰く。其の血絡を視、刺して其の血を出し、悪血をして經に入る得て、以て其の疾を成さしむることなかれ。。

 

帝曰善.形有餘不足奈何.

岐伯曰.

形有餘則腹脹涇溲不利.

不足則四支不用.

血氣未并.五藏安定.肌肉蠕動.命曰微風.

帝曰く、善し。形の有餘不足いかん。

岐伯曰く。

形有餘なれば則ち腹脹し涇溲して利せず。

不足なれば則ち四支用いず。

血氣未だ并せず、五藏安定なり。肌肉蠕動す。命じて微風と曰く。

 

帝曰.補寫奈何.

岐伯曰.

形有餘則寫其陽經.

不足則補其陽絡.

帝曰く。補寫はいかん。

岐伯曰く。

形有餘なれば則ち其の陽經を寫す。

不足なれば則ち其の陽絡を補す。

 

帝曰.刺微奈何.

岐伯曰.取分肉間.無中其經.無傷其絡.衞氣得復.邪氣乃索.

帝曰く。微を刺すこといかん。

岐伯曰く。分肉の間を取り、其の經に中ること無く、其の絡を傷ること無く、衛氣復するを得れば、邪氣は乃ち索(ち)る。

 

帝曰善.志有餘不足奈何.

岐伯曰.

志有餘則腹脹飧泄.

不足則厥.

血氣未并.五藏安定.骨節有動.

帝曰く、善し。志の有餘不足はいかん。

岐伯曰く。

志有餘なれば則ち腹脹飧泄す。

不足なれば則ち厥す。

血氣未だ并せず、五藏安定なれば、骨節は動有り。

 

 

帝曰.補寫奈何.

岐伯曰.

志有餘則寫然筋血者.

不足則補其復溜.

帝曰く。補寫はいかん。

岐伯曰く。

志有餘なれば則ち然筋の血を寫す。

不足なれば則ち其の復溜を補す。

然筋…新校正にならい、然谷に改める。

 

帝曰.刺未并奈何.

岐伯曰.即取之.無中其經.邪所乃能立虚.

帝曰く。未だ并せずを刺すこといかん。

岐伯曰く。即ちこれを取り、其の經に中たること無ければ、邪の所乃ち能く立ちどころに虚す。

 

帝曰善.余已聞虚實之形.不知其何以生.

岐伯曰.

氣血以并.陰陽相傾.氣亂於衞.血逆於經.血氣離居.一實一虚.

血并於陰.氣并於陽.故爲驚狂.

血并於陽.氣并於陰.乃爲炅中.

血并於上.氣并於下.心煩惋善怒.

血并於下.氣并於上.亂而喜忘.

帝曰く、善し。余は已に虚實の形を聞けり。其の何を以て生ずるかを知らず。

岐伯曰く。

氣血以て并し、陰陽相い傾き、氣は衞に亂れ、血は經に逆すれば、血氣離居して、一實一虚す。

血陰に并し、氣陽に并す。故に驚狂を爲す。

血陽に并し、氣陰に并すれば、乃ち炅中(けいちゅう)を爲す。

血上に并し、氣下に并すれば、心煩惋(えん)して善く怒す。

血下に并し、氣上に并すれば、亂れて喜(よ)く忘す。

 

帝曰.血并於陰.氣并於陽.如是血氣離居.何者爲實.何者爲虚.

岐伯曰.

血氣者喜温而惡寒.

寒則泣不能流.

温則消而去之.

是故氣之所并爲血虚.血之所并爲氣虚.

帝曰く、血陰に并し、氣陽に并す。是の如く血氣離居するは、何をば實と爲し、何をば虚と爲や。

岐伯曰く。

血氣なるは、温を喜びて寒を惡む。

寒なれば則ち泣して流れること能わず。

温なれば則ち消して之を去る。

是れ故に氣の并する所は血虚を爲し、血の并する所は氣虚を爲す。

 

帝曰.

人之所有者.血與氣耳.今夫子乃言.血并爲虚.氣并爲虚.是無實乎.

岐伯曰.

有者爲實.無者爲虚.故氣并則無血.血并則無氣.今血與氣相失.故爲虚焉.

絡之與孫脉.倶輸於經.血與氣并.則爲實焉.

血之與氣.并走於上.則爲大厥.厥則暴死.氣復反則生.不反則死.

帝曰く。

人の有するところ、血と氣のみ。今夫子乃ち言う。血并して虚を爲し、氣并して虚を爲すと。是て實無きや。

岐伯曰く。

有る者は実と爲し、無き者は虚と爲す。故に氣并すれば、則ち血無く、血并すれば則ち氣無し。今血と氣相い失す。故に虚を爲すなり。

これ絡と孫脉は、倶に經に輸す。血と氣と并すれば則ち實を爲すなり。

これ血と氣、并して上に走れば、則ち大厥を爲す。厥すれば則ち暴死す。氣復(ま)た反(かえ)れば、則ち生き、反らざれば、則ち死す。

 

帝曰.實者何道從來.虚者何道從去.虚實之要.願聞其故.

岐伯曰.

夫陰與陽.皆有兪會.陽注於陰.陰滿之外.陰陽勻平.以充其形.九候若一.命曰平人.

夫邪之生也.或生於陰.或生於陽.其生於陽者.得之風雨寒暑.

其生於陰者.得之飮食居處.陰陽喜怒.

帝曰く。實なるは何れの道より来たり、虚なるは何れの道より去るや。虚實の要、願わくば其の故を聞かん。

岐伯曰く。

夫て陰と陽、皆兪會有り。陽は陰に注ぎ、陰滿ちて外に之(ゆ)けば、陰陽勻平にして、以て其の形を充し、九候は一の若し。命じて平人と曰く。

夫れ邪の生じるや、或いは陰に生じ、或いは陽に生ず。其の陽に生ずるは、これを風雨寒暑に得る。

其の陰に生じるは、これを飲食居處、陰陽喜怒に得る。

 

帝曰.風雨之傷人奈何.

岐伯曰.

風雨之傷人也.先客於皮膚.傳入於孫脉.孫脉滿.則傳入於絡脉.絡脉滿.則輸於大經脉.血氣與邪并.客於分腠之間.其脉堅大.故曰實.

實者外堅充滿.不可按之.按之則痛.

帝曰く。風雨の人を傷ることいかん。

岐伯曰く。

風雨の人を傷るや、先ず皮膚に客し、傳えて孫絡に入る。孫脉滿つれば、則ち傳えて絡脉に入る。絡脉滿つれば、則ち大經脉に輸し血氣と邪并して分腠の間に客すれば、其の脉堅大なり。故に實と曰く。實なるは外堅く充滿して、これを按之ずべからず。これを按ずれば則ち痛む。

帝曰.寒濕之傷人奈何.

岐伯曰.

寒濕之中人也.皮膚不收.肌肉堅緊.榮血泣.衞氣去.故曰虚.

虚者聶辟氣不足.按之則氣足以温之.故快然而不痛.

帝曰く。寒濕の人を傷ることいかん。

岐伯曰く。

寒濕の人に中るや、皮膚收せず、肌肉堅緊し、榮血泣(しぶ)りて、衞氣去る。故に虚と曰く。

虚なる者は聶辟(じょうへき)し氣足らず、これを按ずれば則ち氣足りて以てこれを温にす。故に快然として痛まず。

 

帝曰善.陰之生實奈何.

岐伯曰.喜怒不節.則陰氣上逆.上逆則下虚.下虚則陽氣走之.故曰實矣.

帝曰く、善し。陰の實を生ずることいかん。

岐伯曰く。喜怒節ならざれば則ち陰氣上に逆す。上に逆すれれば則ち下は虚す。下虚すれば則ち陽氣これに走る。故に實と曰く。

 

帝曰.陰之生虚奈何.

岐伯曰.喜則氣下.悲則氣消.消則脉虚空.因寒飮食.寒氣熏滿.則血泣氣去.故曰虚矣.

帝曰く。陰の虚を生ずるはいかん。

岐伯曰く。喜べば則ち氣下り、悲しめば則ち氣消す。消すれば則ち脉虚して空し。寒の飮食に因りて、寒氣熏滿すれば則ち血泣りて氣去る。故に虚と曰く。

帝曰.

經言.陽虚則外寒.陰虚則内熱.陽盛則外熱.陰盛則内寒.

余已聞之矣.不知其所由然也.

岐伯曰.陽受氣於上焦.以温皮膚分肉之間.今寒氣在外.則上焦不通.上焦不通.則寒氣獨留於外.故寒慄.

帝曰く。

經に言う。陽虚すれば則ち外寒し、陰虚すれば則ち内熱す。陽盛んなれば則ち外熱し、陰盛んなれば則ち内寒す。

余は已にこれを聞けり。其の由りて然る所を知らざるなり。

岐伯曰く。陽は氣を上焦に受け、以て皮膚分肉の間を温むる。今寒氣外に在れば則ち上焦通ぜず。上焦通ぜざれば則ち寒氣獨り外に留る。故に寒慄するなり。

 

帝曰.陰虚生内熱奈何.

岐伯曰.有所勞倦.形氣衰少.穀氣不盛.上焦不行.下脘不通.胃氣熱.熱氣熏胸中.故内熱.

帝曰く。陰虚すれば内熱生ずとはいかん。

岐伯曰く。勞倦する所有り、形氣衰少し、穀氣盛んならず、上焦行らず、下脘通ぜず、胃氣熱し、熱氣胸中を熏ず。故に内熱す。

 

帝曰.陽盛生外熱奈何.

岐伯曰.上焦不通利.則皮膚緻密.腠理閉塞.玄府不通.衞氣不得泄越.故外熱.

帝曰く。陽盛んなれば外熱すとはいかん。

岐伯曰く。上焦通利せざれば則ち皮膚緻密し、腠理閉塞して、玄府通ぜず。衞氣泄越するを得ず。故に外熱す。

 

帝曰.陰盛生内寒奈何.

岐伯曰.厥氣上逆.寒氣積於胸中而不寫.不寫則温氣去.寒獨留.則血凝泣.凝則脉不通.其脉盛大以濇.故中寒.

帝曰く。陰盛んなれば内寒を生ずとはいかん。

岐伯曰く。厥氣上逆し、寒氣胸中に積みて寫さず。寫さざれば則ち温氣去り、寒獨り留まれば則ち血凝泣す。凝すれば則ち脉通ぜず。其の脉盛大にして以て濇(しぶ)る。故に中寒するなり。

 

帝曰.陰與陽并.血氣以并.病形以成.刺之奈何.

岐伯曰.刺此者.取之經隧.取血於營.取氣於衞.用形哉.因四時多少高下.

帝曰く。陰と陽并し、血氣以て并し、病形以て成る。これを刺すこといかん。

岐伯曰く。此れを刺すは、これを經隧に取る。血を營にとり、氣を衞に取る。形を用うるや、四時に因りて多少高下す。

※經隧 五臓六腑の大絡 <霊枢・玉版篇>

 

帝曰.血氣以并.病形以成.陰陽相傾.補寫奈何.

岐伯曰.

寫實者.氣盛乃内鍼.鍼與氣倶内.以開其門.如利其戸.

鍼與氣倶出.精氣不傷.邪氣乃下.外門不閉.以出其疾.搖大其道.如利其路.是謂大寫.必切而出.大氣乃屈.

帝曰く。血氣以て并し、病形以て成る。陰陽相い傾く。補寫はいかん。

岐伯曰く。

實を寫するは、氣盛んなれば乃ち鍼を内れ、鍼と氣倶に内れ、以て其の門を開くこと、其の戸を利するが如くす。

鍼と氣倶に出で、精氣傷れず、邪氣は乃ち下る。外門は閉じず、以て其の疾を出(いだ)す。搖大其の道大いに揺らすこと、其の路を利するが如くす。是れを大寫と謂う。必ず切して出せば、大氣は乃ち屈す。

 

 

帝曰.補虚奈何.

岐伯曰.

持鍼勿置.以定其意.候呼内鍼.氣出鍼入.

鍼空四塞.精無從去.方實而疾出鍼.氣入鍼出.

熱不得還.閉塞其門.邪氣布散.精氣乃得存.

動氣候時.近氣不失.遠氣乃來.是謂追之.

帝曰く。虚を補するはいかん。

岐伯曰く。

鍼を持ちて置くこと勿れ。以て其の意を定む。呼を候いて鍼を内れ、氣出でて鍼入れば、

鍼空は四塞し、精は從いて去ること無し。方(まさ)に實して疾く鍼を出し、氣入りて鍼出だし、

熱還るを得ず、其の門は閉塞し、邪氣は布散し、精氣は乃ち存するを得る。

氣を動するに時を候い、近氣は失せず、遠氣は乃ち來たる。是れこれを追うと謂う。

 

帝曰.

夫子言虚實者有十.生於五藏.五藏五脉耳.夫十二經脉.皆生其病.今夫子獨言五藏.

夫十二經脉者.皆絡三百六十五節.節有病.必被經脉.經脉之病.皆有虚實.何以合之.

帝曰く。

夫子の虚實に十有りて、五藏に生ずと言えり。五藏は五脉のみ。夫れ十二經脉は、皆其の病を生す。今夫子獨り五藏を言えり。

夫れ十二經脉は、皆三百六十五節を絡う。節に病有れば、必ず經脉に被る。經脉の病、皆虚實有り。何を以てこれを合するや。

 

岐伯曰.

五藏者.故得六府.與爲表裏.經絡支節.各生虚實.其病所居.隨而調之.

病在脉.調之血.

病在血.調之絡.

病在氣.調之衞.

病在肉.調之分肉.

病在筋.調之筋.

病在骨.調之骨.

燔鍼劫刺其下.及與急者.

病在骨.焠鍼藥熨.

病不知所痛.兩蹻爲上.

身形有痛.九候莫病.則繆刺之.

痛在於左.而右脉病者.巨刺之.

必謹察其九候.鍼道備矣.

岐伯曰く。

五藏は、故(もと)より六府を得て、ともに表裏を爲す。經絡支節は、各おの虚實を生ず。其の病の居る所に、隨いてこれを調う。

病脉に在れば、これを血に調う。

病血に在れば、これを絡に調う。

病氣に在れば、これを衞に調う。

病肉に在れば、これを分肉に調う。

病筋に在れば、これを筋に調う。

病骨に在れば、これを骨に調う。

燔鍼は其の下、及び急なるにともに劫刺す。

病に骨に在れば、焠鍼(さいしん)藥熨(やくうつ)す。

病痛所を知らざれば、兩蹻を上と爲す。

身形に痛み有りて、九候に病莫ければ、則ちこれを繆刺(びゅうし)す。

痛左に在りて、右脉病むは、これを巨刺す。

必ず謹しみて其の九候を察し、鍼道備わるなり。

 

 

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水熱穴論篇第六十一.

  本篇は、骨空論で記載されている水兪五十七穴の詳細が表題となっているが、腎と肺、腎と胃の生理関係のほか刺法にまで論及されている。


 「腎は胃の関」と「四季の刺法」に関しては、気の動きを筆者なりに臨床に合致するように意訳を試みた。

 諸氏、ご意見を賜れば幸いです。

 

         原 文 意 訳

 

 黄帝が問うて申された。

 少陰が腎を主り水を主るというのは、どのような根拠から申しておるのか。

 

 岐伯がそれに対して申された。

 腎は至陰でありまして、最も低位にございます。低いところでは、水が盛んになるものであります。

 肺は太陰でありまして、少陰は冬の脈であります。冬から次第に陽気が益し、地気が天に昇りますように、少陰の気も脈を通じて肺に昇り注いでおります。

 従いまして肺腎の関係では、腎が本であり肺が末となります。この肺腎は、水が聚るところであります。

 

 帝が申された。

 腎には、なぜよく水が集まって病を生じるのか。

 

 岐伯が申された。

 腎と申しますは、胃の関のような働きをいたします。

 もし関門の調節が効かなくなり、閉じたままとなりますとと水が上に溢れ、開いたままとなりますと水が低位の腎に集まりますので、色々な水の病を生じるのであります。

 ですから上下の皮膚に水が溢れ停滞して動かなくなりますと、浮腫を生じるのであります。

 

 帝が申された。

 諸々の水に起因する病は、すべて腎にその責があるのか。

 

 岐伯が申された。

 腎と申しますは、牝蔵(ひんぞう)と称しまして陰の臓であります。天地に例えますと、大地は腎に相当し、大地から立ち上る蒸気を地気と致しますと、腎の陽気はこの蒸気に相当します。

 この立ち上る蒸気は、大地にあっては水でありますので、腎は大地であり最も低いところでありますので至陰と申し上げているのであります。

 もし人が気合を入れて激しい労働を行いますと、腎は旺じて蒸気もまた激しく立ち昇り、肺が主る皮毛から汗となって出ていきます。この様を腎から汗が出ると申します。

 そして毛穴が開いて汗が出ている時、たまたま寒冷の風などに出会いますと、毛穴が閉じてしまいます。

 汗は腎の熱気で出ようとしているので内裏に入ることができません。かといって毛穴は閉じてしまっているので皮膚の外に出ることもできません。

 そうなりますと、汗は皮毛付近に水となって停滞するようになり、腎の熱気にあおられて出口を求めて皮膚の下を循るようになり、ついには浮腫となってしまうのであります。

 ですから、この類の病の根には、腎が関係しているのであります。このような機序で生じます浮腫を、風水と称しております。

 

 帝が申された。

 水兪五十七処なるは、何を主るのか。

 

 岐伯が申された。

 腎兪五十七穴は、陰気の聚り積もるところであります。ですから水の出入りする所とも言えます。

 尻の上に督脈と足太陽の左右で五行ありまして、各行の五穴が腎兪に相当いたします。

 従いまして、水病の下に現れるものは、下半身の浮腫と共にお腹が大きく膨らんでまいります。また、上に現れるものは、喘ぎを生じて仰向けに寝ることが出来なくなります。これは標本共に病んでいる状態であります。

 故に肺は水のために喘ぎを生じ、腎は水腫を生じ、肺気は水のために塞がって降りることが出来ませんので、臥することも出来なくなるのであります。

 肺と腎は上下に分かれ、水はその間を行き交いますので、何かありますと水が溜まりやすくなるところなのであります。

 また伏菟の上に各二行ありまして、その行ごとに五穴ありますのは、腎気の大通りで足の三陰の脚で交わり結ぶところであります。

 踝の上に各一行ありまして、その行ごとに六穴ありますのは、これは腎気の下行する所でありまして、名づけて太衝と申します。

 これら五十七穴は、すべて臓の陰絡で、水が溜まりやすいところであります。

 

 帝が申された。

 春には絡脉の分肉を取るとはどういうことなのか。

 

 岐伯が申された。

 春という時節は、木気が生じ始めこれが主気となります。人体においても、木性の肝気が旺じ始めます。肝気は、その動きは急でして風のように疾(はや)いものです。

 春季においては、経脉はまだ深部を流注しておりまして、体表の気もまたまだ少ないのですが、邪気もまた侵入したとしましても深部の気が充実しているので、深く入ることができないのであります。従いまして、取穴は邪気が留まる絡脉の分肉の間を取るのであります。

 

 帝が申された。

 夏には盛経の分腠を取るとはどういうことなのか。

 

 岐伯が申された。

 夏という時節は、火気が生じ始めこれが主気となります。身体においても火性の心気が旺じ始めます。脈は盛んとなり体表に向かい散じますので、脈は痩せ気もまた衰えがちになります。

 ところが夏季は自然の陽気を受け、人体もまた陽気が満ち溢れます。そして自然界からの陽気は熱となって分腠を蒸すかのようであり、その熱は内部の経にまで影響が及びます。従いまして邪気もまた皮膚の浅いところに停滞しているものです。

 このような訳で夏は盛んになっている陽経の分腠に浅く取穴を致します。

 

 帝が申された。

 秋には、経・兪を取るとはどういうことか。

 

 岐伯が申された。

 秋という時節は、金気が生じ始めこれが主気となります。身体においても金性の肺気が旺じ始めます。肺はまさに収殺し五行の相尅関係では金は火に勝ちますので、陽気は体幹部に近い合穴に結集いたします。

 すると相対的に陰気が盛んになり始めますので、湿気が身体に影響し始めます。しかしながらまだ陽気は衰え切らず、陰気もまた盛んになりきらないので、邪気もまた深く侵入することができません。

 従いまして体幹から遠位の兪穴で邪気を寫し、近位の合穴で陽邪を寫すのであります。さらに秋が深まり陽気が衰えてきますと、合穴を取って陽気を補うのであります。

 

 帝が申された。

 冬に井・滎を取るとはどういうことか。

 

 岐伯が申された。

 冬の時節は、水気が生じ始めこれが主気となります。身体においても水性の腎気が旺じ始めます。腎は陽気を保持するために深く閉蔵いたします。

 そうしますと体表や四肢末端の陽気は衰少いたしますので、相対的に陰気が堅く盛んになってまいります。さらに足太陽の脈気も隠れるかのように沈んでまいります。

 陽気が下りますと陰気が上がりますので、井穴で陰気の上逆を防ぎ、滎穴でさらに陽気を補って陰陽の平衡を図るのであります。

 あらかじめ冬にこのような処置をしておきますと、盛んになった陰気に閉じ込められた陽気が、春に一気に噴き出すかのような鼻血を防ぐことができるのであります。

 

 帝が申された。 

 そちは熱病を治す五十九兪について申した。

 しかし余はその意味するところを論じるには、まだ兪穴の部位がはっきりと区別できない。願わくばその部位と穴性を聞きたいのであるが。

 

 岐伯が申された。

 頭の上に五行、行ごとの五穴は、諸々の陽経の熱逆を泄すことができます。

 左右の大杼、膺兪、缺盆、背兪の八穴は、胸中の熱を寫すことができます。

 左右の氣街、三里、巨虚上・下廉の八穴は、胃中の熱を寫すことができます。

 左右の雲門、髃骨(肩髃)、委中、髓空(懸鐘or陽兪?)の八穴は、四肢の熱を寫すことができます。

 左右の五臓兪の傍らの五穴。この十穴は五臓の熱を寫すことができます。

 これら五十九穴は、熱が左右に行き交うところであります。

 

 帝が申された。

 人が寒に傷れ伝変すると熱となるのは、どういうことか。

 

 岐伯が申された。

 寒盛んとなり極まりますと鬱して転じ、熱を生じるという陰陽の道理でからであります。

 

        原文と読み下し

 

黄帝問曰.少陰何以主腎.腎何以主水.

岐伯對曰.

腎者至陰也.至陰者盛水也.

肺者太陰也.少陰者冬脉也.

故其本在腎.其末在肺.皆積水也.

黄帝問うて曰く。少陰は何を以て腎を主り、腎は何を以て水を主るや。

岐伯對して曰く。

腎なるは至陰なり。至陰なる者は水盛んなり。

肺なる者は太陰なり。少陰なる者は冬脉なり。

故に其の本は腎に在り。其の末は肺に在り。皆積水なり。

 

帝曰.腎何以能聚水而生病.

岐伯曰.

腎者胃之關也.關門不利.故聚水而從其類也.

上下溢於皮膚.故爲胕腫.胕腫者.聚水而生病也.

帝曰く。腎は何を以て能く水を聚めて病を生じるや。

岐伯曰く。

腎なる者は、胃の關なり。關門利せず。故に水を聚め其の類に從うなり。

上下の皮膚に溢る。故に胕腫を爲す。胕腫なる者は、水を聚めて病を生じるなり。

帝曰.諸水皆生於腎乎.

岐伯曰.

腎者牝藏也.地氣上者屬於腎.而生水液也.故曰至陰.

勇而勞甚.則腎汗出.腎汗出逢於風.内不得入於藏府.外不得越於皮膚.客於玄府.行於皮裏.傳爲胕腫.本之於腎.名曰風水.

所謂玄府者.汗空也.

帝曰く。諸水は皆腎に生ずるや。

岐伯曰く。

腎なる者は牝藏(ひんぞう)なり。地氣の上る者は腎に屬し、水液を生じるなり。故に至陰と曰く。

勇みて勞甚だしければ、則ち腎汗出ず。腎汗出でて風に逢えば、内は藏府に入るを得ず、外は皮膚を越するをえず。玄府に客し、皮裏を行り、傳えて胕腫を爲す。これ腎に本づく。名づけて風水と曰く。

所謂玄府なる者は、汗空なり。

 

帝曰.水兪五十七處者.是何主也.

岐伯曰.

腎兪五十七穴.積陰之所聚也.水所從出入也.

尻上五行.行五者.此腎兪.故水病下爲胕腫大腹.上爲喘呼.不得臥者.標本倶病.故肺爲喘呼.腎爲水腫.肺爲逆不得臥.分爲相輸.倶受者.水氣之所留也.

伏菟上各二行.行五者.此腎之街也.三陰之所交結於脚也.

踝上各一行.行六者.此腎脉之下行也.名曰太衝.

凡五十七穴者.皆藏之陰絡.水之所客也.

帝曰く。水兪五十七處なる者は、是れ何を主るや。

岐伯曰く。

腎兪五十七穴、積陰の聚る所なり。水の從りて出入する所なり。

尻上五行、行に五なる者は、此れ腎兪なり。故に水病の下は胕腫大腹を爲し、上は喘呼を爲す。臥するを得ざる者は、標本倶に病む。故に肺は喘呼を爲し、腎は水腫を爲す。肺は逆を爲して臥するを得ざるなり。分かれて相輸を爲し、倶に受ける者は、水氣の留まる所なり。

伏菟の上に各二行。行に五なる者は、此れ腎の街なり。三陰の脚に交結するところなり。

踝の上に各一行。行に六なる者は、此れ腎脉の下行なり。名づけて太衝と曰く。

凡そ五十七穴なる者は、皆藏の陰絡、水の客する所なり。

 

帝曰.春取絡脉分肉.何也.

岐伯曰.春者木始治.肝氣始生.肝氣急.其風疾.經脉常深.其氣少.不能深入.故取絡脉分肉間.

帝曰く。春は絡脉分肉に取るとは、何なるや。

岐伯曰く。春なるは、木の治め始め、肝氣は生じ始める。肝氣急にして、其の風疾し。經脉は常に深く、其の氣は少なく、深く入ること能わず。故に絡脉分肉の間に取る。

 

帝曰.夏取盛經分腠.何也.

岐伯曰.夏者火始治.心氣始長.脉痩氣弱.陽氣留溢.熱熏分腠.内至於經.故取盛經分腠.絶膚而病去者.邪居淺也.所謂盛經者.陽脉也.

帝曰く。夏は盛經分腠に取るとは、何なるや。

岐伯曰く。夏は火の治め始め、心氣長じ始める。脉は痩せ氣は弱く、陽氣留溢し、熱は分腠を熏じ、内は經に至る。故に盛經分腠に取り、膚を絶して病去る者は、邪淺きに居ればなり。所謂盛經なるは、陽脉なり。

 

帝曰.秋取經兪.何也.

岐伯曰.秋者金始治.肺將收殺.金將勝火.陽氣在合.陰氣初勝.濕氣及體.陰氣未盛.未能深入.故取兪以寫陰邪.取合以虚陽邪.陽氣始衰.故取於合.

帝曰く。秋に經兪を取るとは、何なるや。

岐伯曰く。秋は金の治め始め、肺將に收殺せんとす。金將に火に勝たんとし、陽氣は合に在り、陰氣初めて勝ち、濕氣體に及ぶも、陰氣未だ盛んならず、未だ深く入ること能わず。故に兪をとり以て陰邪を寫し、合を取りて以て陽邪を虚す。陽氣初めて衰う。故に合を取るなり。

 

帝曰.冬取井榮.何也.

岐伯曰.冬者水始治.腎方閉.陽氣衰少.陰氣堅盛.巨陽伏沈.陽脉乃去.故取井以下陰逆.取榮以實陽氣.

故曰.冬取井榮.春不鼽衄.此之謂也.

帝曰く。冬に井榮を取るとは、何なるや。

岐伯曰く。冬は水治め始め、腎方(まさ)に閉じ、陽氣は衰少し、陰氣は堅盛し、巨陽は伏沈し、陽脉は乃ち去る。故に井を取り以て陰逆を下し、榮を取り以て陽気を實す。

故に曰く。冬に井榮を取れば、春に鼽衄せずとは、此れこれを謂うなり。

 

帝曰.夫子言治熱病五十九兪.余論其意.未能領別其處.願聞其處.因聞其意.

岐伯曰.

頭上五行.行五者.以越諸陽之熱逆也.

大杼膺兪缺盆背兪.此八者.以寫胸中之熱也.

氣街三里巨虚上下廉.此八者.以寫胃中之熱也.

雲門髃骨委中髓空.此八者.以寫四支之熱也.

五藏兪傍五.此十者.以寫五藏之熱也.

凡此五十九穴者.皆熱之左右也.

帝曰.人傷於寒.而傳爲熱.何也.

岐伯曰.夫寒盛則生熱也.

帝曰く。夫子熱病をちする五十九兪を言えり。余は其の意を論ずるも、未だ其の處を領別すること能わず。願わくば其の處を聞かん。因りて其の意を聞かん。

岐伯曰く。

頭上の五行。行に五なるは、以て諸陽の熱逆を越するなり。

大杼、膺兪、缺盆、背兪、此の八なるは、以て胸中の熱を寫すなり。

氣街、三里、巨虚上下廉、此の八なるは、以て胃中の熱を寫すなり。

雲門、髃骨、委中、髓空、此の八なるは、以て四支の熱を寫すなり。

五藏の兪の傍らに五。此の十なるは、以て五藏の熱を寫すなり。

凡そ此の五十九穴なるは、皆熱の左右なり。

帝曰く。人寒に傷れ、傳えて熱と爲すは、何なるや。

岐伯曰く。夫れ寒盛んなれば則ち熱を生ずるなり。

 

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辨厥陰病脉證并治 326~381条

 志ある学徒の、簡便な道具にならんことを願って読み下文を記しています。

 また初学者のため、重複の労をいとわずルビをふっています。

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 底本 趙開美刊 「仲景全書」所収 『傷寒論』十巻

                    日本漢方協会学術部 編 東洋学術出版社

 

   辨厥陰病脉證并治 326~381条

                   第十二(厥利嘔噦附合一十九法方一十六首)

厥陰病の脉證、并(なら)びに治を辨ず。第十二。(厥利(けつり)嘔噦(おうえつ)を附す。合わせて一十九法、方一十六首)

 

【三二六条】

厥陰之為病、消渴、氣上撞心、心中疼熱、飢而不欲食、食則吐蚘、下之利不止。

厥陰之病為(た)るや、消渴(しょうかつ)し、氣上りて心を撞(つ)き、心中疼(いた)み熱し、飢えて食を欲せず、食すれば則ち蚘(かい)を吐し、之を下せば利止まず。

 

【三二七条】

厥陰中風、脉微浮為欲愈。不浮為未愈。

厥陰の中風、脉微浮なるとは愈えんと欲すと為す。浮ならざれば未だ愈えずと為す。

 

【三二八条】

厥陰病欲解時、從丑至卯上。

厥陰病解せんと欲する時は、丑(うし)從(よ)り卯(う)の上に至る。

 

【三二九条】

厥陰病、渴欲飲水者、少少與之愈。

厥陰病、渴して飲水せんと欲する者は、少少之を與えれば愈ゆ。

 

【三三〇条】

諸四逆厥者、不可下之。虛家亦然。

諸々の四逆して厥する者は、之を下すべからず。虛家も亦(ま)た然(しか)り。

 

【三三一条】

傷寒先厥後發熱而利者、必自止、見厥復利。

傷寒、先に厥し後(のち)發熱して利する者は、必ず自(おのずか)ら止む。厥を見(あら)わせば復た利す。

 

【三三二条】

傷寒、始發熱六日、厥反九日而利。凡厥利者、當不能食。今反能食者、恐為除中(一云消中)、食以索餅。不發熱者、知胃氣尚在、必愈。恐暴熱来出而復去也。後日脉之、其熱續在者、期之旦日夜半愈。

所以然者、本發熱六日、厥反九日、復發熱三日、并前六日、亦為九日、與厥相應、故期之旦日夜半愈。後三日脉之、而脉數、其熱不罷者、此為熱氣有餘、必發癰膿也。

傷寒、始め發熱すること六日、厥すること反って九日にして利す。凡(およ)そ厥利する者は當に食すること能わざるべし。今反って能く食する者は、恐らくは除中(じょちゅう)と為す。

食するに索餅(さくへい)を以て發熱せざる者は、胃氣尚(な)お在るを知る。必ず愈ゆ。恐らくは暴(にわ)かに熱来(きた)り出ずるも復た去らん。後日之を脉して、其の熱續(つづ)いて在る者は、之を期するに旦日(たんじつ)夜半に愈えん。然る所以(ゆえん)の者は、本(もと)發熱すること六日、厥とすること反って九日、復た發熱すること三日、前の六日を并(あわ)せて、亦(ま)た九日と為し、厥と相い應(おう)ず。故に之を期するに旦日夜半に愈ゆ。後三日之を脉して脉數(さく)、其の熱罷(や)まざる者は、此れ熱氣有餘(ゆうよ)と為す。必ず癰膿(ようのう)を發するなり。

 

【三三三条】

傷寒脉遲六七日、而反與黄芩湯徹其熱。脉遲為寒、今與黄芩湯復除其熱、腹中應冷、當不能食。今反能食、此名除中、必死。

傷寒脉遲なること六、七日、而(しか)るに反って黄芩湯を與えて其の熱を徹(てっ)す。脉遲は寒と為す。今、黄芩湯を與え復た其の熱を除く。腹中應(まさ)に冷ゆべし。當に食すること能わざるべし。

今反って能(よ)く食するは、此れを除中(じょちゅう)と名づく。必ず死す。

 

【三三四条】

傷寒、先厥後發熱、下利必自止。而反汗出、咽中痛者、其喉為痺。發熱無汗、而利必自止。若不止、必便膿血。便膿血者、其喉不痺。

傷寒、先に厥して後に發熱するは、下利必ず自(おのずか)ら止む。而(しか)るに反って汗出で、咽中痛む者は、其の喉痺(こうひ)を為す。發熱し汗無くして、利必ず自ら止む。若し止まざれば、必ず膿血を便す。膿血を便する者は、其の喉痺せず。

 

【三三五条】

傷寒一二日至四五日厥者、必發熱。前熱者、後必厥。厥深者熱亦深、厥微者熱亦微。厥應下之、而反發汗者、必口傷爛赤。

傷寒一、二日より、四、五日に至り、厥する者は、必ず發熱す。前に熱する者は、後必ず厥す。厥深き者は熱も亦(ま)た深く、厥微(び)の者は熱も亦た微なり。厥は應(まさ)に之を下すべし。而(しか)るに反って汗を發する者は、必ず口傷(やぶ)れ爛(ただ)れて赤し。

 

【三三六条】

傷寒病、厥五日、熱亦五日、設六日當復厥。不厥者自愈。厥終不過五日、以熱五日、故知自愈。

傷寒の病、厥すること五日、熱することも亦(ま)た五日、設(も)し六日には當(まさ)に復(ま)た厥すべし。厥せざる者は自(おのずか)ら愈ゆ。厥すること終(つい)に五日を過ぎずして、熱すること五日を以ての故に自ら愈ゆるを知る。

 

【三三七条】

凡厥者、陰陽氣不相順接、便為厥、厥者、手足逆冷者是也。

凡(およ)そ厥する者は、陰陽の氣相(あ)い順接せず、便(すなわ)ち厥を為(な)す、厥する者は、手足の逆冷する者是(こ)れなり 。

 

【三三八条】

傷寒脉微而厥、至七八日膚冷、其人躁、無暫安時者、此為藏厥、非蚘厥也。蚘厥者、其人當吐蚘、令病者靜、而復時煩者、此為藏寒。蚘上入其膈、故煩、須臾復止。得食而嘔、又煩者、蚘聞食臭出、其人常自吐蚘、蚘厥者、烏梅丸主之。又主久利。方一。

傷寒脉微にして厥し、七、八日に至りて膚(はだ)冷え、其の人躁(そう)にして、暫くも安き時無き者は、此れを藏厥(ぞうけつ)と為す。蚘厥(かいけつ)に非ざるなり。蚘厥なる者は、其の人當(まさ)に蚘(かい)を吐すべし。病者をして靜かにして復た時に煩せしむる者は、此れを藏寒(ぞうかん)と為(な)す。蚘上りて其の膈に入るが故に煩し、須臾(しゅゆ)にして復た止(や)む。食を得てして嘔し、又煩する者は、蚘食臭(しょくしゅう)を聞きて出ず。其の人常に自ら蚘を吐す。蚘厥なる者は、烏梅丸(うばいがん)之を主る。又、久利(きゅうり)を主る。方一。

 

 

〔烏梅丸方〕

烏梅(三百枚) 細辛(六兩) 乾薑(十兩) 黄連(十六兩) 當歸(四兩) 附子(六兩炮去皮) 蜀椒(四兩出汗) 桂枝(去皮六兩) 人參(六兩) 

黄檗(六兩)

右十味、異擣篩、合治之。以苦酒漬烏梅一宿、去核、蒸之五斗米下、飯熟擣成泥、和藥令相得。内臼中、與蜜杵二千下、丸如梧桐子大。先食飲服十丸、日三服、稍加至二十丸。禁生冷、滑物、臭食等。

 

烏梅(うばい)(三百枚) 細辛(六兩) 乾薑(十兩) 黄連(十六兩) 當歸(四兩) 附子(六兩、炮じて皮を去る) 蜀椒(しょくしょう)(四兩、汗を出す) 桂枝(皮を去る、六兩) 人參(六兩) 

黄檗(おうばく)(六兩)

右十味、異(こと)にして擣(つ)きて篩(ふる)い、合して之を治む。苦酒(くしゅ)を以て烏梅を漬けること一宿(いっしゅく)、核を去り、之を五斗米の下(もと)に蒸し、飯熟(いじゅく)せば擣きて泥(でい)と成し、

藥に和して相(あ)い得せしむ。臼中(きゅうちゅう)に内(い)れ、蜜とともに杵(つ)くこと二千下(げ)、丸ずること梧桐子大(ごどうしだい)の如くす。食に先だちて十丸を飲服し、日に三服す。

稍(やや)加えて二十丸に至る。生冷(せいれい)、滑物(かつぶつ)、臭食(しゅうしょく)等を禁ず。

 

【三三九条】

傷寒熱少微厥、指(一作稍)頭寒、嘿嘿不欲食、煩躁、數日、小便利、色白者、此熱除也、欲得食、其病為愈。若厥而嘔、胸脇煩滿者、其後必便血。

傷寒熱少なく微厥(びけつ)し、指頭(しとう)寒(ひ)え、嘿嘿(もくもく)として食を欲せず、煩躁す。數日にして小便利し、色白き者は、此れ熱除くなり。食を得んと欲するは、其の病愈ゆること為す。若し厥して嘔し、胸脇煩滿する者は、其の後必ず便血す。

 

【三四〇条】

病者手足厥冷、言我不結胸、小腹滿、按之痛者、此冷結在膀胱關元也。

病者手足厥冷し、我結胸せずと言う。小腹滿し、之を按じて痛む者は、此れ冷(れい)結んで膀胱關元に在(あ)るなり。

 

【三四一条】

傷寒發熱四日、厥反三日、復熱四日。厥少熱多者、其病當愈。四日至七日熱不除者、必便膿血。

傷寒發熱すること四日、厥すること反って三日、復た熱すること四日、厥少なく熱多き者は、其の病當に愈ゆべし。四日より七日に至りて熱除かざる者は、必ず膿血を便す。

 

【三四二条】

傷寒厥四日、熱反三日、復厥五日、其病為進。寒多熱少、陽氣退、故為進也。

傷寒厥すること四日、熱すること反って三日、復た厥すること五日、其の病進むと為(な)す。寒多く熱少なく、陽氣退(しりぞ)くが故に進むと為すなり。

 

【三四三条】

傷寒六七日、脉微、手足厥冷、煩躁、灸厥陰。厥不還者、死。

傷寒六、七日、脉微、手足厥冷し、煩躁するは、厥陰に灸す。厥還(かえ)らざる者は、死す。

 

【三四四条】

傷寒發熱、下利、厥逆、躁不得臥者、死。

傷寒、發熱し、下利し、厥逆し、躁して臥(ふ)すことを得ざる者は死す。

 

【三四五条】

傷寒發熱、下利至甚、厥不止者、死。

傷寒、發熱し、下利甚しきに至り、厥止まざる者は死す。

 

【三四六条】

傷寒六七日不利、便發熱而利、其人汗出不止者、死、有陰無陽故也。

傷寒六、七日利せず、便(すなわ)ち發熱して利し、其の人汗出でて止まざる者は死す。陰有りて陽無きが故なり。

 

【三四七条】

傷寒五六日、不結胸、腹濡、脉虛、復厥者、不可下、此亡血、下之死。

傷寒五六日、結胸せず、腹濡(なん)、脉虛し、復た厥する者は、下すべからず。此れ亡血なり。之を下せば死す。

 

【三四八条】

發熱而厥、七日下利者、為難治。

發熱して厥し、七日にして下利する者は、治し難しと為す。

 

【三四九条】

傷寒脉促(促一作縱)、手足厥逆、可灸之。

傷寒、脉促(そく)、手足厥逆するは、之を灸すべし。

 

【三五〇条】

傷寒脉滑而厥者、裏有熱、白虎湯主之。方二。

傷寒、脉滑にして厥する者は、裏に熱有り、白虎湯之を主る。方二。

 

〔白虎湯方〕

知母(六兩) 石膏(一斤碎綿裹) 甘草(二兩炙) 粳米(六合)

右四味、以水一斗、煮米熟、湯成、去滓、温服一升、日三服。

 

知母(六兩) 石膏(一斤、碎き、綿もて裹(つつ)む) 甘草(二兩、炙る) 粳米(六合)

右四味、水一斗を以て、煮て米熟し、湯成なりて滓を去り、一升を温服し、日に三服す。

 

【三五一条】

手足厥寒、脉細欲絶者、當歸四逆湯主之。方三。

手足厥寒し、脉細にして絶せんと欲する者は、當歸四逆湯(とうきしぎゃくとう)之を主る。方三。

 

〔當歸四逆湯方〕

當歸(三兩) 桂枝(三兩去皮) 芍藥(三兩) 細辛(三兩) 甘草(二兩炙) 通草(二兩) 大棗(二十五枚擘一法十二枚)

右七味、以水八升、煮取三升、去滓、温服一升、日三服。

 

當歸(とうき)(三兩) 桂枝(三兩、皮を去る) 芍藥(三兩) 細辛(三兩) 甘草(二兩、炙る) 通草(二兩) 大棗(二十五枚、擘く、一法に十二枚とす)

右七味、水八升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服し、日に三服す。

 

【三五二条】

若其人内有久寒者、宜當歸四逆加呉茱萸生薑湯。方四。

若し其の人内(うち)に久寒有る者は、當歸四逆加呉茱萸生薑湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)に宜し。方四。

 

〔當歸四逆加呉茱萸生薑湯方〕

當歸(三兩) 芍藥(三兩) 甘草(二兩炙) 通草(二兩) 桂枝(三兩去皮) 細辛(三兩) 生薑(半斤切) 呉茱萸(二升) 大棗(二十五枚擘)

右九味、以水六升、清酒六升和、煮取五升、去滓、温分五服(一方水酒各四升)。

 

當歸(三兩) 芍藥(三兩) 甘草(二兩、炙る) 通草(二兩) 桂枝(三兩、皮を去る) 細辛(三兩) 生薑(半斤、切る) 呉茱萸(二升) 大棗(二十五枚、擘く)

右九味、水六升を以て、清酒六升を以て和し、煮て五升を取り、滓を去り、温め分かち五服す(一方に、水酒各々四升とす)。

 

【三五三条】

大汗出、熱不去、内拘急、四肢疼、又下利厥逆而惡寒者、四逆湯主之。方五。

大いに汗出で、熱去さらず、内拘急(こうきゅう)し、四肢疼(いた)み、又下利厥逆し惡寒する者は、四逆湯之を主る。方五。

 

〔四逆湯方〕

甘草(二兩炙) 乾薑(一兩半) 附子(一枚生用去皮破八片)

右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、分温再服。若強人可用大附子一枚、乾薑三兩。

 

甘草(二兩、炙る) 乾薑(一兩半) 附子(一枚、生を用い、皮を去り、八片に破る)

右三味、水三升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温め再服す。若し強人なれば大附子一枚、乾薑三兩を用うべし。

 

【三五四条】

大汗、若大下利而厥冷者、四逆湯主之。六(用前第五方)。

大いに汗し、若しくは大いに下利して厥冷する者は、四逆湯之を主る。六(前の第五方を用う)。

 

【三五五条】

病人手足厥冷、脉乍緊者、邪結在胸中、心下滿而煩、飢不能食者、病在胸中、當須吐之、宜瓜蔕散。方七。

病人手足厥冷し、脉乍(たちま)ち緊の者は、邪結んで胸中に在り、心下滿して煩し、飢(う)ゆれども食すること能わざる者は、病胸中に在り。當に須(すべから)く之を吐すべし。瓜蔕散(かていさん)宜。方七。

 

〔瓜蔕散方〕

瓜帶 赤小豆

右二味、各等分、異擣篩、合内臼中、更治之、別以香豉一合、用熱湯七合、煮作稀糜、去滓、取汁和散一錢匕、温頓服之。不吐者、少少加、得快吐乃止。諸亡血虛家、不可與瓜蔕散。

 

瓜帶(かてい) 赤小豆

右二味、各々等分し、異(こと)にして擣(つ)きて篩(ふる)い、合わせて臼中に内れ、更に之を治(おさ)む。別に香豉(こうし)一合を以て、熱湯七合を用い、煮て稀糜(きび)を作り、滓を去り、汁を取り散一錢匕(ひ)を和し、温めて之を頓服す。吐かざる者は、少少加え、快吐(かいと)を得れば乃(すなわ)ち止む。諸亡(しょぼう)血虛家は、瓜蔕散(かていさん)を與うべからず。

 

 

【三五六条】

傷寒厥而心下悸、宜先治水、當服茯苓甘草湯、却治其厥、不爾、水漬入胃、必作利也。茯苓甘草湯。方八。

傷寒厥して心下悸するは、宜しく先ず水を治すべし。當に茯苓甘草湯(ぶくりょうかんぞうとう)を服すべし。却って其の厥を治せ。爾(しか)らざれば、水漬(すいし)胃に入り、必ず利を作(な)すなり。茯苓甘草湯。方八。

 

〔茯苓甘草湯方〕

茯苓(二兩) 甘草(一兩炙) 生薑(三兩切) 桂枝(二兩去皮)

右四味、以水四升、煮取二升、去滓、分温三服。

 

茯苓(二兩) 甘草(一兩、炙る) 生薑(三兩、切る) 桂枝(二兩、皮を去る)

右四味、水四升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、分かち温め三服す。

 

【三五七条】

傷寒六七日、大下後、寸脉沈而遲、手足厥逆、下部脉不至、喉咽不利、唾膿血、泄利不止者、為難治。麻黄升麻湯主之。方九。

傷寒六、七日、大いに下したる後、寸脉沈にして遲、手足厥逆し、下部の脉至らず、喉咽(こういん)利せず、膿血を唾(だ)し、泄利(せつり)止まざる者は、治ち難しと為(な)す。麻黄升麻湯(まおうしょうまとう)之を主る。方九。

 

〔麻黄升麻湯方〕

麻黄(二兩半去節) 升麻(一兩一分) 當歸(一兩一分) 知母(十八銖) 黄芩(十八銖) 萎蕤(十八銖一作菖蒲) 芍藥(六銖) 天門冬(六銖去心) 桂枝(六銖去皮) 茯苓(六銖) 甘草(六銖炙) 石膏(六銖碎綿裹) 白朮(六銖) 乾薑(六銖)

右十四味、以水一斗、先煮麻黄一兩沸、去上沫、内諸藥、煮取三升、去滓、分温三服。相去如炊三斗米頃、令盡、汗出愈。

 

麻黄(二兩半、節を去る) 升麻(しょうま)(一兩一分) 當歸(一兩一分) 知母(ちも)(十八銖) 黄芩(十八銖) 萎蕤(いずい)(十八銖、一に菖蒲(しょうぶ)と作(な)す) 芍藥(六銖) 天門冬(てんもんどう)(六銖、心を去る) 桂枝(六銖、皮を去る)

茯苓(六銖) 甘草(六銖、炙る) 石膏(六銖、碎き、綿もて裹(つつ)む) 白朮(六銖) 乾薑(六銖)

右十四味、水一斗を以て、先ず麻黄を煮て一兩沸し、上沫を去り、諸藥を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、分かち温め三服す。相い去ること三斗米を炊く頃の如くにして、盡(つく)せしむ。汗出でて愈ゆ。

 

【三五八条】

傷寒四五日、腹中痛、若轉氣下趣少腹者、此欲自利也。

傷寒四、五日、腹中痛み、若し轉氣(てんき)下り少腹に趣(おもむ)く者は、此れ自利せんと欲するなり。

 

【三五九条】

傷寒本自寒下、醫復吐下之、寒格、更逆吐下。若食入口即吐、乾薑黄芩黄連人參湯主之。方十。

傷寒本(もと)自と寒下(かんげ)するに、醫復た之を吐下して、寒格(かんかく)し、更に逆して吐下す。若し食口に入らば即吐するは、乾薑黄芩黄連人參湯(かんきょうおうごんおうれんにんじんとう)之を主る。方十。

 

〔乾薑黄芩黄連人參湯方〕

乾薑 黄芩 黄連 人參(各三兩)

右四味、以水六升、煮取二升、去滓、分温再服。

 

乾薑 黄芩 黄連 人參(各三兩)

右四味、水六升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、分かち温め再服す。

 

【三六〇条】

下利有微熱而渴、脉弱者、今自愈。

下利し微熱(びねつ)有りて渴し、脉弱の者は、今自(おのずか)ら愈ゆ。

 

【三六一条】

下利脉數、有微熱汗出、今自愈。設復緊(一云設脉浮復緊)、為未解。

下利し、脉數(さく)、微熱有りて汗出ずるは、今自ら愈ゆ。設(も)し復た緊なれば、未だ解せずと為(な)す。

 

【三六二条】

下利、手足厥冷、無脉者、灸之不温、若脉不還、反微喘者、死。少陰負趺陽者、為順也。

下利、手足厥冷し、脉無き者は、之に灸す。温まらず、若し脉還(かえ)らず、反って微喘(びぜん)する者は、死す。少陰、趺陽(ふよう)より負の者は、順と為(な)すなり。

 

【三六三条】

下利、寸脉反浮數、尺中自濇者、必清膿血。

下利し、寸脉反って浮數(さく)。尺中自ら濇(しょく)の者は、必ず膿血(のうけつ)を清す。

 

【三六四条】

下利清穀、不可攻表。汗出必脹滿。

下利清穀(せいこく)するは、表を攻むべからず。汗出ずれば、必ず脹滿す。

 

【三六五条】

下利、脉沈弦者、下重也。脉大者、為未止。脉微弱數者、為欲自止、雖發熱不死。

下利し、脉沈弦の者は、下重(げじゅう)するなり。脉大の者は、未(いま)だ止まずと為す。脉微弱數の者は、自ら止まんと欲すと為す。發熱すると雖も死せず。

 

【三六六条】

下利脉沈而遲、其人面少赤、身有微熱、下利清穀者、必鬱冒汗出而解、病人必微厥、所以然者、其面戴陽、下虛故也。

下利し、脉沈にして遲、其の人面少しく赤く、身に微熱有り。下利清穀する者は、必ず鬱冒(うつぼう)し汗出でて解す。病人必ず微厥(びけつ)す。然る所以(ゆえん)の者は、其の面戴陽(たいよう)して、下虛するが故なり。

 

【三六七条】

下利脉數而渴者、今自愈。設不差、必清膿血、以有熱故也。

下利し、脉數にして渴する者は、今自ら愈ゆ。設(も)し差(い)えざれば、必ず膿血を清す。熱有るを以ての故なり。

 

【三六八条】

下利後、脉絶、手足厥冷、晬時脉還、手足温者生。脉不還者死。

下利の後、脉絶(ぜつ)し、手足厥冷するも、晬時(さいじ)にして脉還(かえ)り、手足温なる者は生く。脉還らざる者は死す。

 

【三六九条】

傷寒下利日十餘行、脉反實者、死。

傷寒、下利すること日に十餘行(こう)、脉反って實する者は死す。

 

【三七〇条】

下利清穀、裏寒外熱、汗出而厥者、通脉四逆湯主之。方十一。

下利清穀、裏寒外熱し、汗出で厥する者は、通脉四逆湯(つうみゃくしぎゃくとう)之を主る。方十一。

 

〔通脉四逆湯方〕

甘草(二兩炙) 附子(大者一枚生去皮破八片) 乾薑(三兩強人可四兩)

右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、分温再服、其脉即出者愈。

 

甘草(二兩、炙る) 附子(大なる者一枚、生、皮を去り、八片に破る) 乾薑(三兩、強人は四兩とすべし)

右三味、水三升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温め再服す。其の脉即ち出ずる者は、愈ゆ。

 

【三七一条】

熱利下重者、白頭翁湯主之。方十二。

熱利(ねつり)して下重(げじゅう)する者は、白頭翁湯(はくとうおうとう)之を主る。方十二。

 

〔白頭翁湯方〕

白頭翁(二兩) 黄檗(三兩) 黄連(三兩) 秦皮(三兩)

右四味、以水七升、煮取二升、去滓、温服一升。不愈、更服一升。

 

白頭翁(はくとうおう)(二兩) 黄檗(三兩) 黄連(三兩) 秦皮(しんぴ)(三兩)

右四味、水七升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、一升を温服す。愈えざれば、更に一升を服す。

 

【三七二条】

下利腹脹滿、身體疼痛者、先温其裏、乃攻其表。温裏宜四逆湯、攻表宜桂枝湯。十三(四逆湯用前第五方)。

下利し、腹脹滿し、身體(しんたい)疼痛する者は、先ず其の裏を温め、乃ち其の表を攻む。裏を温むるは四逆湯に宜しく、表を攻むるは桂枝湯に宜し。十三(四逆湯は前の第五方を用う)。

 

〔桂枝湯方〕

桂枝(三兩去皮) 芍藥(三兩) 甘草(二兩炙) 生薑(三兩切) 大棗(十二枚擘)

右五味、以水七升、煮取三升、去滓、温服一升、須臾啜熱稀粥一升、以助藥力。

 

桂枝(三兩、皮を去る) 芍藥(三兩) 甘草(二兩、炙る) 生薑(三兩、切る) 大棗(十二枚、擘く)

右五味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す、須臾(しゅゆ)にして熱稀粥(ねつきしゅく)一升を啜(すす)り、以て藥力を助く。

 

【三七三条】

下利欲飲水者、以有熱故也、白頭翁湯主之。十四(用前第十二方)。

下利し水を飲まんと欲する者は、熱有るを以ての故なり。白頭翁湯を之を主る。十四(前の第十二方を用う)。

 

【三七四条】

下利讝語者、有燥屎也、宜小承氣湯。方十五。

下利して讝語する者は、燥屎(そうし)有るなり、小承氣湯に宜し。方十五。

 

〔小承氣湯方〕

大黄(四兩酒洗) 枳實(三枚炙) 厚朴(二兩去皮炙) 

右三味、以水四升、取煮一升二合、去滓、分二服。初一服讝語止、若更衣者、停後服、不爾盡服之。

 

大黄(四兩、酒で洗う) 枳實(三枚、炙る) 厚朴(二兩、皮を去り、炙る) 

右三味、水四升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、二服に分かつ。初め一服して讝語止み、若し更衣する者は、後服を停む。爾(しか)らざれば、盡(ことごと)く之を服す。

 

【三七五条】

下利後更煩、按之心下濡者、為虛煩也、宜梔子豉湯。方十六。

下利したる後更に煩し、之を按じて心下濡(なん)の者は、虛煩(きょはん)と為すなり、梔子豉湯に宜し。方十六。

 

〔梔子豉湯方〕

肥梔子(十四箇擘) 香豉(四合綿裹)

右二味、以水四升、先煮梔子、取二升半、内豉、更煮取一升半、去滓、分再服。一服得吐、止後服。

 

肥梔子(十四箇、擘く) 香豉(四合、綿もて裹む)

右二味、水四升を以て、先ず梔子を煮て、二升半を取り、豉(し)を内れ、更に煮て一升半を取り、滓を去り、分かちて再服す。一服にて吐を得れば、後服を止む。

 

【三七六条】

嘔家有癰膿者、不可治嘔、膿盡自愈。

嘔家(おうか)、癰膿(ようのう)有る者は、嘔(おう)治すべからず。膿(のう)盡(つ)きれば自ら愈ゆ。

 

【三七七条】

嘔而脉弱、小便復利、身有微熱、見厥者、難治、四逆湯主之。十七(用前第五方)。

嘔(おう)して脉弱、小便復た利し、身に微熱有りて、厥(けつ)を見(あら)わす者は、治し難(がた)し。四逆湯之を主る。十七(前の第五方を用う)。

 

【三七八条】

乾嘔吐涎沫、頭痛者、呉茱萸湯主之。方十八。

乾嘔(かんおう)し、涎沫(えんまつ)を吐し、頭痛する者は、呉茱萸湯之を主る。方十八。

 

〔呉茱萸湯方〕

呉茱萸(一升湯洗七遍) 人參(三兩) 大棗(十二枚擘) 生薑(六兩切)

右四味、以水七升、煮取二升、去滓、温服七合、日三服。

 

呉茱萸(一升、湯もて洗うこと七遍(へん)) 人參(三兩) 大棗(十二枚、擘く) 生薑(六兩、切る)

右四味、水七升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、七合を温服し、日に三服す。

 

【三七九条】

嘔而發熱者、小柴胡湯主之。方十九。

嘔して發熱する者は、小柴胡湯之を主る。方十九。

 

〔小柴胡湯方〕

柴胡(八兩) 黄芩(三兩) 人參(三兩) 甘草(三兩炙) 生薑(三兩切)  半夏(半升洗) 大棗(十二枚擘)

右七味、以水一斗二升、煮取六升、去滓、更煎取三升、温服一升、日三服。

 

柴胡(八兩) 黄芩(三兩) 人參(三兩) 甘草(三兩、炙る) 生薑(三兩、切る)  半夏(半升、洗う) 大棗(十二枚、擘く)

右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取り、滓を去り、更に煎じて三升を取り、一升を温服し、日に三服す。

 

【三八〇条】

傷寒、大吐、大下之、極虛、復極汗者、其人外氣怫鬱、復與之水以發其汗、因得噦。所以然者、胃中寒冷故也。

傷寒、大いに吐し、大いに之を下し、極めて虛し、復た極めて汗する者は、其の人外氣(がいき)怫鬱(ふつうつ)す。復た之に水を與(あた)え、以て其の汗を發し、因(よ)りて噦(えつ)を得る。。然(しか)る所以(ゆえん)の者は、胃中寒冷するが故なり。

 

【三八一条】

傷寒噦而腹滿、視其前後、知何部不利、利之即愈。

傷寒噦(えつ)して腹滿するは、其の前後を視て、何れの部の利せざるかを知り、之を利すれば即ち愈ゆ。

 

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辨少陰病脉證并治 281~325条

 志ある学徒の、簡便な道具にならんことを願って読み下文を記しています。

 また初学者のため、重複の労をいとわずルビをふっています。

 誤りを見つけられましたら、どうかコメント欄に投稿をお願いいたします。

 

 底本 趙開美刊 「仲景全書」所収 『傷寒論』十巻

                    日本漢方協会学術部 編 東洋学術出版社

 

   辨少陰病脉證并治 281~325条

                        第十一(合二十三法方一十九首)

                少陰病の脉證并びに治を辨ず・第十一(合わせて二十三法、方一十九首)

 

【二八一条】

少陰之為病、脉微細、但欲寐也。

少陰の病為(た)るや、脉微細、但(た)だ寐(いね)んと欲するなり。

 

【二八二条】

少陰病、欲吐不吐、心煩但欲寐、五六日自利而渴者、屬少陰也。虛故引水自救。若小便色白者、少陰病形悉具。小便白者、以下焦虛有寒、不能制水、故令色白也。

少陰病、吐せんと欲して吐せず、心煩し但だ寐(いね)んと欲し、五、六日自利して渴する者は、少陰に屬するなり。虛するが故に、水を引きて自ら救う。若し小便の色白き者は、少陰の病形悉(ことごと)く具わる。小便白き者は、下焦虛して寒有り、水を制すること能わざるを以ての故に色をして白からしむるなり。

 

【二八三条】

病人脉陰陽倶緊、反汗出者、亡陽也。此屬少陰、法當咽痛而復吐利。

病人脉陰陽倶(とも)に緊、反って汗出ずる者は、亡陽なり。此れ少陰に屬ず。法は當に咽痛(いんつう)して復た吐利すべし。

 

【二八四条】

少陰病、欬而下利、讝語者、被火氣劫故也。小便必難、以強責少陰汗也。

少陰病、欬(がい)して下利(げり)し、讝語する者は、火氣に劫(おびや)かさるるが故なり。小便必ず難し。強いて少陰を責め汗しむるを以てなり。

 

【二八五条】

少陰病、脉細沈數、病為在裏、不可發汗。

少陰病、脉細沈數なるは、病裏に在りと為す、汗を發すべからず。

 

【二八六条】

少陰病、脉微、不可發汗、亡陽故也。陽已虛、尺脉弱濇者、復不可下之。

少陰病、脉微、汗を發すべからず、亡陽するが故なり。陽已(すで)に虛し、尺脉弱濇(じゃくしょく)の者は、復た之を下すべからず。

 

【二八七条】

少陰病、脉緊、至七八日自下利、脉暴微、手足反温、脉緊反去者、為欲解也、雖煩下利、必自愈。

少陰病、脉緊、七、八日に至りて自下利し、脉暴(にわ)かに微(び)、手足反って温かく、脉緊反って去る者は、解せんと欲すと為(な)すなり。煩して下利すと雖も、必ず自ら愈ゆ。

 

【二八八条】

少陰病、下利、若利自止、惡寒而踡臥、手足温者、可治。

少陰病、下利(げり)し、若しくは利自(おのずか)ら止み、惡寒して踡臥(けんが)し、手足温の者は、治すべし。

 

【二八九条】

少陰病、惡寒而踡、時自煩、欲去衣被者、可治。

少陰病、惡寒して踡(かがま)り、時に自(おのずか)ら煩し、衣被(いひ)を去らんと欲する者は、治すべし。

 

【二九〇条】

少陰中風、脉陽微陰浮者、為欲愈。

少陰の中風、脉陽微陰浮の者は、愈えんと欲すと為(な)す。

 

【二九一条】

少陰病欲解時、從子至寅上。

少陰病解せんと欲する時は、子(ね)從(よ)り寅(とら)の上に至る。

 

【二九二条】

少陰病、吐、利、手足不逆冷、反發熱者、不死。脉不至(至一作足)者、灸少陰七壮。

少陰病、吐利し、手足逆冷(ぎゃくれい)せず、反って發熱する者は、死せず。脉至らざる者は、少陰に灸すること七壮。

 

【二九三条】

少陰病、八九日、一身手足盡熱者、以熱在膀胱、必便血也。

少陰病、八、九日、一身手足盡(ことごと)く熱する者は、熱膀胱に在るを以て、必ず便血するなり。

 

【二九四条】

少陰病、但厥、無汗、而強發之、必動其血。未知從何道出、或從口鼻、或從目出者、是名下厥上竭、為難治。

少陰病、但だ厥して、汗無し、而(しか)るに強いて之を發すれば、必ず其の血を動ず。未(いま)だ何(いず)れの道從(よ)り出づるかを知らず。或いは口鼻從(よ)りし、或いは目從(よ)り出づる者は、是れを下厥上竭(げけつじょうけつ)と名づく。治し難しと為す。

 

【二九五条】

少陰病、惡寒、身踡而利、手足逆冷者、不治。

少陰病、惡寒し、身踡(かがま)りて利し、手足逆冷する者は、治せず。

 

【二九六条】

少陰病、吐、利、躁煩四逆者、死。

少陰病、吐利し、躁煩、四逆する者は、死す。

 

【二九七条】

少陰病、下利止而頭眩、時時自冒者、死。

少陰病、下利止みて頭眩(づげん)し、時時自ら冒(ぼう)する者は、死す。

 

【二九八条】

少陰病、四逆、惡寒而身踡、脉不至、不煩而躁者、死(一作吐利而躁逆者死)。

少陰病、四逆し、惡寒して身踡(かがま)り、脉至らず、煩せずして躁する者は、死す(一作吐利而躁逆者死)。

 

【二九九条】

少陰病六七日、息高者、死。

少陰病六、七日、息高き者は、死す。

 

【三〇〇条】

少陰病、脉微細沈、但欲臥、汗出不煩、自欲吐、至五六日自利、復煩躁不得臥寐者、死。

少陰病、脉微細沈、但だ臥(ふ)せんと欲し、汗出でて煩せず、自ら吐せんと欲し、五、六日に至って自利し、復た煩躁して臥寐(がしん)することを得ざる者は、死す。

 

【三〇一条】

少陰病始得之、反發熱、脉沈者、麻黄細辛附子湯主之。方一。

少陰病始めて之を得て、反って發熱し、脉沈の者は、麻黄細辛附子湯(まおうさいしんぶしとう)之を主る。方一。

 

〔麻黄細辛附子湯方〕

麻黄(二兩去節) 細辛(二兩) 附子(一枚炮去皮破八片)

右三味、以水一斗、先煮麻黄、減二升、去上沫、内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升、日三服。

麻黄(二兩、節を去る) 細辛(二兩) 附子(一枚、炮(ほう)じて皮を去り、八片に破る)

右三味、水一斗を以て、先ず麻黄を煮て、二升を減じ、上沫を去り、諸藥を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服し、日に三服す。

 

【三〇二条】

少陰病、得之二三日、麻黄附子甘草湯微發汗。以二三日無證、故微發汗也。方二。

少陰病、之を得ること二、三日、麻黄附子甘草湯(まおうぶしかんぞうとう)にて微(すこ)しく汗を發す。二、三日證無きを以ての故に微しく汗を發するなり。方二。

 

〔麻黄附子甘草湯方〕

麻黄(二兩去節) 甘草(二兩炙) 附子(一枚炮去皮破八片)

右三味、以水七升、先煮麻黄一兩沸、去上沫、内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升、日三服。

麻黄(二兩、節を去る) 甘草(二兩、炙る) 附子(一枚、炮じて皮を去り、八片に破る)

右三味、水七升を以て、先ず麻黄を煮て、一、兩沸し、上沫を去り、諸藥を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服し、日に三服す。

 

【三〇三条】

少陰病、得之二三日以上、心中煩、不得臥、黄連阿膠湯主之。方三。

少陰病、之を得ること二、三日以上、心中煩して、臥(ふ)すことを得ざるは、黄連阿膠湯(おうれんあきょうとう)之を主る。方三。

 

〔黄連阿膠湯方〕

黄連(四兩) 黄芩(二兩) 芍藥(二兩) 雞子黄(二枚) 阿膠(三兩一云三挺)

右五味、以水六升、先煮三物、取二升、去滓。内膠烊盡、小冷。内雞子黄、攪令相得。温服七合、日三服。

黄連(四兩) 黄芩(二兩) 芍藥(二兩) 雞子黄(けいしおう)(二枚) 阿膠(三兩、一に三挺(さんてい)と云(い)う)

右五味、水六升を以て、先ず三物を煮て、二升を取り、滓を去る。膠を内れて烊盡(ようじん)し、小(すこ)しく冷やす。雞子黄(けいしおう)を内れ、攪(ま)ぜて相(あ)い得(え)せしむ。七合を温服し、日に三服す。

 

【三〇四条】

少陰病、得之一二日、口中和、其背惡寒者、當灸之、附子湯主之。方四。

少陰病、之を得て一、二日、口中和し、其の背惡寒する者は、當に之を灸すべし。附子湯之を主る。方四。

 

〔附子湯方〕

附子(二枚炮去皮破八片) 茯苓(三兩) 人參(二兩) 白朮(四兩) 芍藥(三兩)

右五味、以水八升、煮取三升、去滓、温服一升、日三服。

附子(二枚、炮じて皮を去り、八片に破る) 茯苓(三兩) 人參(二兩) 白朮(四兩) 芍藥(三兩)

右五味、水八升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す、日に三服す。

 

【三〇五条】

少陰病、身體痛、手足寒、骨節痛、脉沈者、附子湯主之。五(用前第四方)。

少陰病、身體(しんたい)痛み、手足寒(ひ)え、骨節(こっせつ)痛み、脉沈の者は、附子湯之を主る。五(前の第四方を用う)。

 

【三〇六条】

少陰病、下利便膿血者、桃花湯主之。方六。

少陰病、下利して膿血(のうけつ)を便する者は、桃花湯(とうかとう)之を主る。方六。

 

〔桃花湯方〕

赤石脂(一斤一半全用一半篩末) 乾薑(一兩) 粳米(一升)

右三味、以水七升、煮米令熟、去滓。温服七合、内赤石脂末方寸匕、日三服。若一服愈、餘勿服。

赤石脂(しゃくせきし)(一斤、一半は全用、一半は篩(ふる)って末とす) 乾薑(一兩) 粳米(一升)

右三味、水七升を以て、米を煮て熟せしめ、滓を去る。七合を温服し、赤石脂末方寸匕(ひ)を内れ、日に三服す。

若し一服にして愈ゆれば、餘は服すること勿(な)かれ。

 

【三〇七条】

少陰病、二三日至四五日、腹痛、小便不利、下利不止、便膿血者、桃花湯主之。七(用前第六方)。

少陰病、二、三日より四、五日に至り、腹痛し、小便利せず、下利止まず、膿血を便する者は、桃花湯之を主る。七(前の第六方を用う)。

 

【三〇八条】

少陰病、下利便膿血者、可刺。

少陰病、下利膿血を便する者は、刺すべし。

 

【三〇九条】

少陰病、吐利、手足逆冷、煩躁欲死者、呉茱萸湯主之。方八。

少陰病、吐利(とり)、手足逆冷(ぎゃくれい)、煩躁して死せんと欲する者は、呉茱萸湯(ごしゅゆとう)之を主る。方八。

 

〔呉茱萸湯方〕

呉茱萸(一升) 人參(二兩) 生薑(六兩切) 大棗(十二枚擘)

右四味、以水七升、煮取二升、去滓、温服七合、日三服。

呉茱萸(一升) 人參(二兩) 生薑(六兩、切る) 大棗(十二枚、擘く)

右四味、水七升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、七合を温服し、日に三服す。

 

【三一〇条】

少陰病、下利、咽痛、胸滿、心煩、猪膚湯主之。方九。

少陰病、下利し、咽(のど)痛み、胸滿し、心煩するは、猪膚湯(ちょふとう)之を主る。方九。

 

〔猪膚湯方〕

猪膚(一斤)

右一味、以水一斗、煮取五升、去滓、加白蜜一升、白粉五合、熬香、和令相得、温分六服。

猪膚(ちょふ)(一斤)

右一味、水一斗を以て、煮て五升を取り、滓を去り、白蜜(はくみつ)一升、白粉(はくふん)五合を加え、

熬(い)りて香ならしめ、和して相(あ)い得せしめ、温め分かち六服す。

 

【三一一条】

少陰病二三日、咽痛者、可與甘草湯。不差、與桔梗湯。十。

少陰病二、三日、咽痛む者は、甘草湯を與うべし。差(い)えざれば、桔梗湯(ききょうとう)を與う。十。

 

〔甘草湯方〕

甘草(二兩)

右一味、以水三升、煮取一升半、去滓、温服七合、日二服。

甘草(二兩)

右一味、水三升を以て、煮て一升半を取り、滓を去り、七合を温服し、日に二服す。

 

〔桔梗湯方〕

桔梗(一兩) 甘草(二兩)

右二味、以水三升、煮取一升、去滓、温分再服。

桔梗(一兩) 甘草(二兩)

右二味、水三升を以て、煮て一升を取り、滓を去り、分かち温め再服す。

 

【三一二条】

少陰病、咽中傷、生瘡、不能語言、聲不出者、苦酒湯主之。方十一。

少陰病、咽中(いんちゅう)傷れて瘡(そう)を生じ、語言すること能わず、聲(こえ)出でざる者は、苦酒湯(くしゅとう)之を主る。方十一。

 

〔苦酒湯方〕

半夏(洗破如棗核十四枚) 雞子(一枚去黄内上苦酒着雞子殻中)

右二味、内半夏、著苦酒中、以雞子殻置刀環中、安火上、令三沸、去滓。少少含嚥之。不差、更作三劑。

半夏(洗い、破りて棗核(そうかく)の如くす、十四枚) 雞子(けいし)(一枚、黄を去り、上苦酒を内れ、雞子殻(けいしかく)の中に着(つ)ける)

右二味、半夏を内れ、苦酒(くしゅ)中に著(つ)け、雞子殻(けいしかく)を以て刀環(とうかん)の中に置き、火上に安じて、三沸せしめ、滓を去る。少少之を含嚥(がんえん)す。差(い)えざれば、更に三劑を作る。

 

【三一三条】

少陰病、咽中痛、半夏散及湯主之。方十二。

少陰病、咽中(いんちゅう)痛むは、半夏散(はんげさん)及び湯之を主る。方十二。

 

〔半夏散及湯方〕

半夏(洗) 桂枝(去皮) 甘草(炙)

右三味、等分、各別擣篩已、合治之、白飲和服方寸匕、日三服。若不能散服者、以水一升、煎七沸、内散兩方寸匕、更煮三沸、下火令小冷、少少嚥之。半夏有毒、不當散服。

半夏(洗う) 桂枝(皮を去る) 甘草(炙る)

右三味、等分し、各々別に擣(つ)き篩(ふるい)い已(おわ)り、合して之を治め、白飲(はくいん)もて和して方寸匕(ひ)を服し、日に三服す。若そ散服すること能わざる者は、水一升を以て、煎ずること七沸、散兩方寸匕を内れ、更に煮ること三沸、火より下(おろ)し小(すこ)しく冷やさしめ、少少之を嚥(の)む。半夏毒有り、散服するに當(あた)らず。

 

【三一四条】

少陰病、下利、白通湯主之。方十三。

少陰病、下利(げり)するは、白通湯(はくつうとう)之を主る。方十三。

 

〔白通湯方〕

葱白(四莖) 乾薑(一兩) 附子(一枚生去皮破八片)

右三味、以水三升、煮取一升、去滓、分温再服。

葱白(そうはく)(四莖) 乾薑(一兩) 附子(一枚、生、皮を去り、八片に破る)

右三味、水三升を以て、煮て一升を取り、滓を去り、分かち温め再服す。

 

【三一五条】

少陰病、下利、脉微者、與白通湯。利不止、厥逆無脉、乾嘔、煩者、白通加猪膽汁湯主之。服湯、脉暴出者死、微續者生。白通加猪膽湯。方十四(白通湯用上方)。

少陰病、下利し、脉微の者は、白通湯を與う。利止まず、厥逆して脉無く、乾嘔(かんおう)、煩する者は、白通加猪膽汁湯(はくつうかちょたんじゅうとう)之を主る。

湯を服して、脉暴(にわ)かに出づる者は、死す。微しく續(つづ)く者は、生く。白通加猪膽湯。方十四(白通湯は、上方を用う)。

 

〔白通加猪膽汁湯方〕

葱白(四莖) 乾薑(一兩) 附子(一枚生去皮破八片) 人尿(五合) 猪膽汁(一合)

右五味、以水三升、煮取一升、去滓、内膽汁、人尿、和令相得、分温再服。若無膽亦可用。

葱白(四莖) 乾薑(一兩) 附子(一枚、生、皮を去り、八片に破る) 人尿(じんにょう)(五合) 猪膽汁(ちょたんじゅう)(一合)

右五味、水三升を以て、煮て一升を取り、滓を去り、膽汁、人尿を内れ、和して相い得せしめ、分かち温め再服す。若し膽(たん)無くも亦(ま)た、用うべし。

 

【三一六条】

少陰病、二三日不已、至四五日、腹痛、小便不利、四肢沈重疼痛、自下利者、此為有水氣。其人或欬、或小便利、或下利、或嘔者、真武湯主之。方十五。

少陰病、二、三日して已(や)まず、四、五日に至り、腹痛、小便不利、四肢沈重(ちんじゅう)疼痛(とうつう)、自下利する者は、此れ水氣(すいき)有りと為(な)す。其の人或は欬(がい)し、或は小便利し、或は下利し、或は嘔する者は、真武湯之を主る。方十五。

 

〔真武湯方〕

茯苓(三兩) 芍藥(三兩) 白朮(二兩) 生薑(三兩切) 附子(一枚炮去皮破八片)

右五味、以水八升、煮取三升、去滓、温服七合、日三服。若欬者、加五味子半升、細辛一兩、乾薑一兩。若小便利者、去茯苓。若下利者、去芍藥、加乾薑二兩。若嘔者、去附子、加生薑、足前為半斤。

茯苓(三兩) 芍藥(三兩) 白朮(二兩) 生薑(三兩、切る) 附子(一枚、炮じて、皮を去り、八片に破る)

右五味、水八升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、七合を温服し、日に三服す。若し欬(がい)する者は、五味子半升、細辛一兩、乾薑一兩を加う。

若し小便利する者は、茯苓を去る。若し下利する者は、芍藥を去り、乾薑二兩を加う。若し嘔する者は、附子を去り、生薑を加え、前に足して半斤と為す。

 

【三一七条】

少陰病、下利清穀、裏寒外熱、手足厥逆、脉微欲絶、身反不惡寒、其人面色赤。或腹痛、或乾嘔、或咽痛、或利止脉不出者、通脉四逆湯主之。方十六。

少陰病、下利(げり)清穀(せいこく)、裏寒外熱し、手足厥逆、脉微にして絶せんと欲し、身反って惡寒せず、其の人面色赤し。或は腹痛し、或は乾嘔し、或は咽痛し、或は利止みて脉出でざる者は、通脉四逆湯之を主る。方十六。

 

〔通脉四逆湯方〕

甘草(二兩炙) 附子(大者一枚生用去皮破八片) 乾薑(三兩強人可四兩)

右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、分温再服、其脉即出者愈。面色赤者、加葱九莖。腹中痛者、去葱、加芍藥二兩。嘔者、加生薑二兩。咽痛者、去芍藥、加桔梗一兩。利止脉不出者、去桔梗、加人參二兩。病皆與方相應者、乃服之。

甘草(二兩、炙る) 附子(大なる者一枚、生を用い皮を去り、八片に破る) 乾薑(三兩、強人は四兩とすべし)

右三味、水三升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温め再服す。其の脉即ち出づる者は愈ゆ。

面色赤き者は、葱九莖を加う。腹中痛む者は、葱を去り、芍藥二兩を加う。嘔する者は、生薑二兩を加う。咽痛する者は、芍藥を去り、桔梗一兩を加う。

利止みて脉出でざる者は、桔梗を去り、人參二兩を加う。病皆方(ほう)と相應(そうおう)する者は、乃(すなわ)ち之を服す。

 

【三一八条】

少陰病、四逆、其人或欬、或悸、或小便不利、或腹中痛、或泄利下重者、四逆散主之。方十七。

少陰病、四逆し、其の人或は欬(がい)し、或は悸(き)し、或は小便不利し、或は腹中痛み、或は泄利(せつり)下重(げじゅう)する者は、四逆散之を主る。方十七。

 

〔四逆散方〕

甘草(炙) 枳實(破水漬炙乾) 柴胡 芍藥

右四味、各十分、擣篩、白飲和服方寸匕、日三服。欬者、加五味子、乾薑各五分、并主下利。悸者、加桂枝五分。小便不利者、加茯苓五分。腹中痛者、加附子一枚、炮令坼。泄利下重者、先以水五升、煮薤白三升、煮取三升、去滓、以散三方寸匕、内湯中、煮取一升半、分温再服。

甘草(炙る) 枳實(破りて水に漬(ひ)たし、炙り乾かす) 柴胡 芍藥

右四味、各々十分を擣(つ)き篩(ふる)い、白飲もて和し、方寸匕(ひ)を服し、日に三服す。欬する者は、五味子、乾薑各々五分を加え、并(なら)びに下利を主る。悸する者は、桂枝五分を加う。

小便不利の者は、茯苓五分を加う。腹中痛む者は、附子一枚を加え、炮じて坼(き)かしむ。泄利下重の者は、先ず水五升を以て、薤白(がいはく)三升を煮、煮て三升を取り、滓を去り、

散三方寸匕を以て、湯中に内れ、煮て一升半を取り、分かち温め再服す。

 

【三一九条】

少陰病、下利六七日、欬而嘔、渴、心煩、不得眠者、猪苓湯主之。方十八。

少陰病、下利すること六、七日、欬して嘔し、渴し、心煩して眠ることを得ざる者は、猪苓湯之を主る。方十八。

 

〔猪苓湯方〕

猪苓(去皮) 茯苓 阿膠 澤瀉 滑石(各一兩)

右五味、以水四升、先煮四物、取二升、去滓、内阿膠烊盡、温服七合、日三服。

猪苓(皮を去る) 茯苓 阿膠 澤瀉 滑石(各々一兩)

右五味、水四升を以て、先ず四物を煮て、二升を取り、滓を去り、阿膠を内れ烊盡(ようじん)し、七合を温服し、日に三服す。

 

【三二〇条】

少陰病、得之二三日、口燥咽乾者、急下之、宜大承氣湯。方十九。

少陰病、之を得て二、三日、口燥(かわ)き咽(のど)乾く者は、急に之を下す。大承氣湯に宜し。方十九。

 

〔大承氣湯方〕

枳實(五枚炙) 厚朴(半斤去皮炙) 大黄(四兩酒洗) 芒消(三合)

右四味、以水一斗、先煮二味、取五升、去滓、内大黄、更煮取二升、去滓、内芒消、更上火、令一兩沸、分温再服、一服得利、止後服。

枳實(五枚、炙る) 厚朴(半斤、皮を去り、炙る) 大黄(四兩、酒もて洗う) 芒消(三合)

右四味、水一斗を以て、先ず二味を煮て、五升を取り、滓を去り、大黄を内れ、更に煮て二升を取り、滓を去り、芒消を内れ、更に火に上(の)せ、一兩沸せしめ、分かち温め再服す。一服にて利を得れば、後服を止む。

 

【三二一条】

少陰病、自利清水、色純青、心下必痛、口乾燥者、可下之、宜大承氣湯。二十(用前第十九方一法用大柴胡)。

少陰病、清水(せいすい)を自利し、色純青(じゅんせい)、心下必ず痛み、口乾燥する者は、之を下すべし、大承氣湯に宜し。二十(前の第十九方を用う。一法に、大柴胡を用う)。

 

【三二二条】

少陰病、六七日、腹脹、不大便者、急下之、宜大承氣湯。二十一(用前第十九方)。

少陰病、六、七日、腹脹(は)りて、大便せざる者は、急に之を下す、大承氣湯に宜し。二十一(前の第十九方を用う)。

 

【三二三条】

少陰病、脉沈者、急温之、宜四逆湯。方二十二。

少陰病、脉沈の者は、急ぎ之を温む。四逆湯に宜し。方二十二。

 

〔四逆湯方〕

甘草(二兩炙) 乾薑(一兩半) 附子(一枚生用去皮破八片)

右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、分温再服。強人可大附子一枚、乾薑三兩。

甘草(二兩、炙る) 乾薑(一兩、半) 附子(一枚、生を用い、皮を去り、八片に破る)

右三味、水三升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温め再服す。強人は、大附子一枚、乾薑三兩とすべし。

 

【三二四条】

少陰病、飲食入口則吐。心中温温欲吐、復不能吐。始得之、手足寒、脉弦遲者、此胸中實、不可下也、當吐之。若膈上有寒飲、乾嘔者、不可吐也、當温之、宜四逆湯。二十三(方依上法)。

少陰病、飲食口に入れば則ち吐す。心中温温(うんうん)として吐せんと欲すも、復た吐すこと能わず。始め之を得て、手足寒(ひ)え、脉弦遲の者は、此れ胸中實す。下すべからざるなり。當に之を吐すべし。

若し膈上に寒飲(かんいん)有りて、乾嘔(かんおう)する者は、吐すべからざるなり。當に之を温むべし。四逆湯に宜し。二十三(方は上法に依(よ)る)。

 

【三二五条】

少陰病、下利、脉微濇、嘔而汗出、必數更衣、反少者、當温其上、灸之(脉經云灸厥陰可五十壮)。

少陰病、下利し、脉微濇(しょく)、嘔して汗出で、必ず數(しば)しば更衣(こうい)するも、反って少なき者は、當に其の上を温め、之を灸すべし(脉經に云う、厥陰に灸すること五十壮とすべしと)。

 

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辨太陰病脉證并治 273~280条

 志ある学徒の、簡便な道具にならんことを願って読み下し文を記しています。

 また初学者のため、重複の労をいとわずルビをふっています。

 誤りを見つけられましたら、どうかコメント欄に投稿をお願いいたします。

  

 底本 趙開美刊 「仲景全書」所収 『傷寒論』十巻

                    日本漢方協会学術部 編 東洋学術出版社

 

     辨太陰病脉證并治 273~280条

                          第十(合三法方三首)

         太陰病の脉證并(なら)びに治を辨(べん)ず・第十(合わせて三法、方三首)

 

【二七三条】

太陰之為病、腹滿而吐、食不下、自利益甚、時腹自痛。若下之、必胸下結鞕。

太陰の病為(た)るや、腹滿して吐し、食下らず、自利(じり)益々甚だしく、時に腹自ら痛む。若し之を下せば、必ず胸下結鞕(けっこう)す。

 

【二七四条】

太陰中風、四肢煩疼、陽微陰濇而長者、為欲愈。

太陰の中風、四肢煩疼(はんとう)し、陽微(び)陰濇(しょく)にして長の者は、愈(え)えんと欲すと為(な)す。

 

【二七五条】

太陰病欲解時、從亥至丑上。

太陰病解せんと欲する時は、亥(い)從(よ)り丑(うし)の上に至る。

 

【二七六条】

太陰病、脉浮者、可發汗、宜桂枝湯。方一。

太陰病、脉浮の者は、汗を發すべし、桂枝湯に宜し。方一。

 

〔桂枝湯方〕

桂枝(三兩去皮) 芍藥(三兩) 甘草(二兩炙) 生薑(三兩切) 大棗(十二枚擘)

右五味、以水七升、煮取三升、去滓、温服一升、須臾啜熱稀粥一升、以助藥力、温覆取汗。

桂枝(三兩、皮を去る) 芍藥(三兩) 甘草(二兩、炙る) 生薑(三兩、切る) 大棗(十二枚、擘く)

右五味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。須臾(しゅゆ)に熱稀粥(ねつきしゅく)一升を啜(すす)り、以て藥力を助け、温覆(おんぷく)して汗を取る。

 

【二七七条】

自利、不渴者、屬太陰、以其藏有寒故也、當温之。宜服四逆輩。二。

自利して、渴せざる者は、太陰に屬す。其の藏に寒有るを以ての故なり。當に之を温むべし。四逆輩(しぎゃくはい)を服すに宜し。二。

 

【二七八条】

傷寒脉浮而緩、手足自温者、繫在太陰。太陰當發身黄。若小便自利者、不能發黄。至七八日、雖暴煩下利、日十餘行、必自止。以脾家實、腐穢當去故也。

傷寒、脉浮にして緩、手足自ら温かき者は、繫(かか)りて太陰に在り。太陰は當に身に黄を發すべし。若し小便自利する者は、黄を發すること能わず。

七、八日に至りて、暴煩(ぼうはん)し、下利(げり)日に十餘(よ)行(こう)なりと雖も、必ず自ら止む。脾家實し、腐穢(ふあい)當に去るべきを以ての故なり。

 

【二七九条】

本太陽病、醫反下之、因爾腹滿時痛者、屬太陰也、桂枝加芍藥湯主之。大實痛者、桂枝加大黄湯主之。三。

本(もと)太陽病、醫反って之を下し、爾(そ)れに因りて腹滿し、時に痛む者は、太陰に屬するなり。桂枝加芍藥湯(けいしかしゃくやくとう)之を主る。大いに實痛する者は、桂枝加大黄湯(けいしかだいおうとう)之を主る。三。

 

〔桂枝加芍藥湯方〕

桂枝(三兩去皮) 芍藥(六兩) 甘草(二兩炙) 大棗(十二枚擘) 生薑(三兩切)

右五味、以水七升、煮取三升、去滓、温分三服。本云桂枝湯、今加芍藥。

桂枝(三兩、皮を去る) 芍藥(六兩) 甘草(二兩、炙る) 大棗(十二枚、擘く) 生薑(三兩、切る)

右五味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、温め分かち三服す。本(もと)云う、桂枝湯に今芍藥を加うと。

 

〔桂枝加大黄湯方〕

桂枝(三兩去皮) 大黄(二兩) 芍藥(六兩) 生薑(三兩切) 甘草(二兩炙) 大棗(十二枚擘)

右六味、以水七升、煮取三升、去滓、温服一升、日三服。

桂枝(三兩、皮を去り) 大黄(二兩) 芍藥(六兩) 生薑(三兩、切る) 甘草(二兩、炙る) 大棗(十二枚、擘く)

右六味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服し、日に三服す。

 

【二八〇条】

太陰為病、脉弱、其人續自便利、設當行大黄、芍藥者、宜減之、以其人胃氣弱、易動故也(下利者先煎芍藥三沸)。

太陰の病為(た)るや、脉弱、其の人續(つづ)いて自ら便利す。設(も)し當に大黄、芍藥を行(や)るべき者は、宜しく之を減ずべし。其の人胃氣弱く、動じ易きを以ての故なり(下利する者は先ず芍藥を煎じて三沸す)。

 

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辨少陽病脉證并治 263~272条

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 底本 趙開美刊 「仲景全書」所収 『傷寒論』十巻

                    日本漢方協会学術部 編 東洋学術出版社

       辨少陽病脉證并治 263~272条

                              第九(方一首并見三陽合病法)

 少陽病の脉證(みゃくしょう)并(なら)びに治を辨(べん)ず・第九(方一首、并びに三陽の合病の法を見(あらわ)す)

 

【二六三条】

少陽之為病、口苦、咽乾、目眩也。

少陽の病為(た)る、口苦(にが)く、咽(のど)乾き、目眩(くるめ)くなり。

 

【二六四条】

少陽中風、兩耳無所聞、目赤、胸中滿而煩者、不可吐下、吐下則悸而驚。

少陽の中風、兩耳聞く所無く、目赤く、胸中滿ちて煩する者は、吐下すべからず。吐下すれば則ち悸して驚す。

 

【二六五条】

傷寒、脉弦細、頭痛發熱者、屬少陽。少陽不可發汗、發汗則讝語。此屬胃、胃和則愈。胃不和、煩而悸(一云躁)。

傷寒、脉弦細(げんさい)、頭痛發熱する者は、少陽に屬(ぞく)す。少陽は汗を發すべからず。汗を發すれば則ち讝語す。此れ胃に屬す。胃和すれば則ち愈ゆ。胃和せざれば、煩して悸す(一云躁)。

 

【二六六条】

本太陽病不解、轉入少陽者、脇下鞕滿、乾嘔不能食、往来寒熱、尚未吐下、脉沈緊者、與小柴胡湯。方一。

本(もと)太陽病解(げ)せず、轉じて少陽に入る者は、脇下(きょうか)鞕滿(こうまん)し、乾嘔(かんおう)して食すること能わず、往来寒熱す。尚お未だ吐下せず、脉沈緊の者は、小柴胡湯を與う。方一。

 

〔小柴胡湯方〕

柴胡(八兩) 人參(三兩) 黄芩(三兩) 甘草(三兩炙) 半夏(半升洗) 生薑(三兩切) 大棗(十二枚擘)

右七味、以水一斗二升、煮取六升、去滓、再煎取三升、温服一升、日三服。

 

柴胡(八兩) 人參(三兩) 黄芩(三兩) 甘草(三兩、炙る) 半夏(半升、洗う) 生薑(三兩、切る) 大棗(十二枚、擘く)

右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取り、滓を去り、再煎して三升を取り、一升を温服し、日に三服す。

 

【二六七条】

若已吐、下、發汗、温鍼、讝語、柴胡湯證罷、此為壞病、知犯何逆、以法治之。

若し已(すで)に吐し、下し、發汗し、温鍼し、讝語し、柴胡湯の證罷(や)むは、此れを壞病(えびょう)と為(な)す、何れの逆を犯すかを知り、法を以て之を治す。

 

【二六八条】

三陽合病、脉浮大、上關上、但欲眠睡、目合則汗。

三陽の合病、脉浮大にして、關上に上り。但だ眠睡(みんすい)せんと欲し、目合(がっ)すれば則ち汗す。

 

【二六九条】

傷寒六七日、無大熱、其人躁煩者、此為陽去入陰故也。

傷寒六、七日、大熱無く、其の人躁煩する者は、此れ陽去りて陰に入るを為(な)すが故なり。

 

【二七〇条】

傷寒三日、三陽為盡、三陰當受邪。其人反能食而不嘔、此為三陰不受邪也。

傷寒三日、三陽盡(つ)くると為す、三陰當に邪を受くべし。其の人反って能く食して嘔せざるは、此れ三陰邪を受けずと為すなり。

 

【二七一条】

傷寒三日、少陽脉小者、欲已也。

傷寒三日、少陽脉小なる者は、已(や)まんと欲するなり。

 

【二七二条】

少陽病欲解時、從寅至辰上。

少陽病解せんと欲する時は、寅(とら)從(よ)り辰(たつ)の上に至る。

 

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辨陽明病脉證并治 179~262条

 志ある学徒の、簡便な道具にならんことを願って読み下し文を記しています。

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 底本 趙開美刊 「仲景全書」所収 『傷寒論』十巻

                    日本漢方協会学術部 編 東洋学術出版社

 

   辨陽明病脉證并治 179~262条

              第八(合四十四法方一十首一方附并見陽明少陽合病法)

 陽明病の脉證、并(なら)びに治を辨(べん)ず。第八。(合わせて四十四法、方一十首、一方附す、并びに陽明少陽の合病の法を見(あらわ)す)

 

【一七九条】

問曰、病有太陽陽明、有正陽陽明、有少陽陽明、何謂也。答曰、太陽陽明者、脾約(【一云絡)是也。正陽陽明者、胃家實是也。少陽陽明者、發汗、利小便已、胃中燥、煩、實、大便難是也。

 

問いて曰く、病に太陽陽明有り、正陽陽明有り、少陽陽明有りとは、何の謂(い)いぞや。

答えて曰く、太陽陽明なる者は、脾約(ひやく)(一云絡)是れなり。

正陽の陽明なる者は、胃家實是れなり。少陽陽明なる者は、汗を發し、小便利し已(おわ)り、胃中燥き、煩し、實し、大便難是れなり。

 

【一八〇条】

陽明之為病、胃家實(一作寒)是也。

陽明の病為(た)るや、胃家實(一作寒)是れなり。

 

【一八一条】

問曰、何緣得陽明病。答曰、太陽病、若發汗、若下、若利小便、此亡津液、胃中乾燥、因轉屬陽明。不更衣、内實大便難者、此名陽明也。

問いて曰く、何に緣(よ)りて陽明病を得るや。答えて曰く、太陽病、若しくは汗を發し、若しくは下し、若しくは小便利す。此れ津液を亡(なく)し、胃中乾燥し、因(よ)りて陽明に轉屬す。更衣せず、内實し大便難の者は、此れを陽明と名づく。

 

【一八二条】

問曰、陽明病外證云何。答曰、身熱、汗自出、不惡寒反惡熱也。

問いて曰く、陽明病の外證とは何を云うや。答えて曰く、身熱し、自ずと汗出で、惡寒せず、反って惡熱するなり。

 

【一八三条】

問曰、病有得之一日、不發熱而惡寒者、何也。答曰、雖得之一日、惡寒將自罷、即自汗出而惡熱也。

問いて曰く、病之を得ること一日、發熱せずして惡寒する者有りとは、何ぞや。答えて曰く、之を得ること一日と雖も、惡寒し將(まさ)に自ら罷(や)まんとするは、即ち自ずと汗出でて惡熱するなりと。

 

【一八四条】

問曰、惡寒何故自罷。答曰、陽明居中、主土也。萬物所歸、無所復傳。始雖惡寒、二日自止、此為陽明病也。

問いて曰く、惡寒何が故(ゆえ)に自ら罷(や)むと。答えて曰く、陽明は中に居きて、土を主るなり。萬物の歸(き)する所にして、復た傳わる所無しと。始め惡寒すると雖も、二日に自ずと止む。此れ陽明病と為すなり。

 

【一八五条】

本太陽、初得病時、發其汗、汗先出不徹、因轉屬陽明也。傷寒發熱、無汗、嘔不能食、而反汗出濈濈然者、是轉屬陽明也。

本(もと)太陽、初め病を得る時、其の汗を發し、汗先ず出づるも徹せず、因りて陽明に轉屬するなり。傷寒、發熱、汗無く、嘔して食すること能わず。而るに反って汗出ずること濈濈(しゅうしゅう)然たる者は、是れ陽明に轉屬するなり。

 

【一八六条】

傷寒三日、陽明脉大。

傷寒三日、陽明の脉大。

 

【一八七条】

傷寒脉浮而緩、手足自温者、是為繫在太陰。太陰者、身當發黄。若小便自利者、不能發黄。至七八日、大便鞕者、為陽明病也。

傷寒、脉浮にして緩、手足自ら温なる者は、是れ太陰に在りて繫(かか)ると為す。太陰の者、身當(まさ)に黄を發すべし。若し小便自利する者は、黄を發すること能わず。七、八日に至り、大便鞕(かた)き者は、陽明病と為すなり。

 

【一八八条】

傷寒轉繫陽明者、其人濈然微汗出也。

傷寒、轉じて陽明に繫(かか)る者は、其の人濈然(しゅうぜん)として微(すこ)しく汗出ずるなり。

 

【一八九条】

陽明中風、口苦、咽乾、腹滿、微喘、發熱、惡寒、脉浮而緊。若下之、則腹滿小便難也。

陽明の中風、口苦く、咽乾き、腹滿し、微(かす)かに喘(ぜん)し、發熱し、惡寒し、脉浮にして緊。若し之を下せば、則ち腹滿し、小便難なり。

 

【一九〇条】

陽明病、若能食、名中風。不能食、名中寒。

陽明病、若し能(よ)く食するは、中風と名づく。食すること能わざるは、中寒と名づく。

 

【一九一条】

陽明病、若中寒者、不能食、小便不利、手足濈然汗出、此欲作固瘕、必大便初鞕後溏。所以然者、以胃中冷、水穀不別故也。

陽明病、若し中寒する者は、食すること能わず、小便不利し、手足濈然(しゅくぜん)汗出ず。此れ固瘕(こか)を作(な)さんと欲す。必ず大便初め鞕く、後溏(とう)す。然る所以の者は、胃中冷え、水穀別たざるを以ての故なり。

 

【一九二条】

陽明病、初欲食、小便反不利、大便自調、其人骨節疼、翕翕如有熱狀、奄然發狂、濈然汗出而解者、此水不勝穀氣、與汗共并、脉緊則兪。

陽明病、初め食を欲し、小便反って利せず、大便自ら調う、其の人骨節疼(うず)き、翕翕(きゅうきゅう)として熱狀有るが如く、奄然(えんぜん)として狂を發し、濈然(しゅうぜん)として汗出でて解する者は、此れ水穀氣に勝たず、汗と共に并(あわ)さり、脉緊なれば則ち兪ゆ。

 

【一九三条】

陽明病、欲解時、從申至戌上。

陽明病、解せんと欲する時は、申(さる)從(よ)り戌(いぬ)の上に至る。

 

【一九四条】

陽明病、不能食、攻其熱必噦。所以然者、胃中虛冷故也。以其人本虛、攻其熱必噦。

陽明病、食すること能わざるに、其の熱を攻むれば必ず噦(えっ)す。然る所以(ゆえん)の者は、胃中虛冷するが故なり。其の人本(もと)虛するを以て、其の熱を攻むれば必ず噦す。

 

【一九五条】

陽明病、脉遲、食難用飽。飽則微煩頭眩、必小便難、此欲作穀癉、雖下之、腹滿如故。所以然者、脉遲故也。

陽明病、脉遲、食を用いて飽き難し。飽けば則ち微煩(びはん)、頭眩(ずげん)し、必ず小便難。此れ穀癉(こくたん)を作(な)さんと欲す。之を下すと雖も、腹滿故(もと)の如し。然る所以の者は、脉遲なるが故なり。

 

【一九六条】

陽明病、法多汗、反無汗、其身如蟲行皮中狀者、此以久虛故也。

陽明病、法は汗多きに、反って汗無く、其の身蟲(むし)の皮中を行く狀の如き者は、此れ久しく虛するを以ての故なり。

 

【一九七条】

陽明病、反無汗而小便利、二三日嘔而欬、手足厥者、必苦頭痛。若不欬、不嘔、手足不厥者、頭不痛。(一云冬陽明)

陽明病、反って汗無くして小便利し、二、三日嘔して欬(がい)し、手足厥する者は、必ず頭痛を苦しむ。若し欬せず、嘔せず、手足厥せざる者は、頭痛まず。(一云冬陽明)

 

【一九八条】

陽明病、但頭眩、不惡寒。故能食而欬、其人咽必痛。若不欬者、咽不痛。(一云冬陽明)

陽明病、但だ頭眩(ずげん)して、惡寒せず。故に能(よ)く食して欬し、其の人咽(のど)必ず痛む。若し欬せざる者は、咽痛まず。(一云冬陽明)

 

【一九九条】

陽明病、無汗、小便不利、心中懊憹者、身必發黄。

陽明病、汗無く、小便不利し、心中懊憹(おうのう)する者は、身必ず黄を發す。

 

【二〇〇条】

陽明病、被火、額上微汗出、而小便不利者、必發黄。

陽明病、火を被(こおむ)り、額上(がくじょう)微(すこ)しく汗出でて、小便不利する者は、必ず黄を發す。

 

【二〇一条】

陽明病、脉浮而緊者、必潮熱發作有時。但浮者、必盗汗出。

陽明病、脉浮にして緊の者は、必ず潮熱し、發作に時(とき)有り。但だ浮の者は、必ず盗汗(とうかん)出ず。

 

【二〇二条】

陽明病、口燥但欲漱水、不欲嚥者、此必衄。

陽明病、口燥(かわ)き、但だ水を漱(すす)がんと欲し、嚥(の)むことを欲せざる者は、此れ必ず衄(じく)す。

 

【二〇三条】

陽明病、本自汗出。醫更重發汗、病已差、尚微煩不了了者、此必大便鞕故也。以亡津液、胃中乾燥、故令大便鞕。當問其小便日幾行、若本小便日三四行、今日再行、故知大便不久出。今為小便數少、以津液當還入胃中、故知不久必大便也。

陽明病、本(もと)自ずと汗出ず。醫更に重ねて汗を發し、病已(すで)に差(い)ゆるも、尚(な)お微煩して了了とせざる者は、此れ必ず大便鞕(かた)きが故なり。津液を亡(なく)し、胃中乾燥するを以ての故に、大便をして鞕からしむ。當に其の小便日に幾行(いくこう)なるかを問うべし。若し本(もと)小便日に三、四行なるに、今日に再行す。故に大便久しからずして出づるを知る。今、小便の數(かず)少なきが為に、津液當に還(めぐ)りて胃中に入るべきを以ての故に、久しからずして必ず大便するを知るなり。

 

【二〇四条】

傷寒嘔多、雖有陽明證、不可攻之。

傷寒、嘔多きは、陽明の證有りと雖も、之を攻む可からず。

 

【二〇五条】

陽明病、心下鞕滿者、不可攻之。攻之、利遂不止者死。利止者愈。

陽明病、心下鞕滿(こうまん)する者は、之を攻むべからず。之を攻め、利遂(つい)に止まざる者は死す。利止む者は愈ゆ。

 

【二〇六条】

陽明病、面合色赤、不可攻之。必發熱、色黄者、小便不利也。

陽明病、面色赤きを合するは、之を攻むべからず。必ず發熱す。色黄の者は、小便利せざるなり。

 

【二〇七条】

陽明病、不吐、不下、心煩者、可與調胃承氣湯。方一。

陽明病、吐さず、下さず、心煩する者は、調胃承氣湯を與うべし。方一。

 

 

〔調胃承氣湯方〕

甘草(二兩炙) 芒消(半升) 大黄(四兩清酒洗)

右三味、切、以水三升、煮二物至一升、去滓、内芒消。更上微火一二沸、温頓服之、以調胃氣。

甘草(二兩、炙る) 芒消(半升) 大黄(四兩、清酒もて洗う)

右三味、切り、水三升を以て、二物を煮て一升に至り、滓を去り、芒消を内れ。更に微火(びか)に上(の)せて一、二沸し、温めて之を頓服し、以て胃氣を調う。

 

【二〇八条】

陽明病、脉遲、雖汗出不惡寒者、其身必重、短氣、腹滿而喘、有潮熱者、此外欲解、可攻裏也。手足濈然汗出者、此大便已鞕也、大承氣湯主之。若汗多、微發熱惡寒者、外未解也(一法與桂枝湯)。其熱不潮、未可與承氣湯。若腹大滿不通者、可與小承氣湯、微和胃氣、勿令至大泄下。大承氣湯。方二。

陽明病、脉遲(ち)、汗出ずると雖も、惡寒せざる者は、其の身必ず重く、短氣し、腹滿して喘(ぜん)し、潮熱有る者は、此れ外解(げ)せんと欲す、裏を攻むべきなり。手足濈然(しゅうぜん)として汗出づる者は、此れ大便已(すで)に鞕(こう)なり、大承氣湯(だいじょうきとう)之を主る。若し汗多く、微(すこ)しく發熱惡寒する者は、外未(いま)だ解せざるなり(一法與桂枝湯)。其れ熱潮せずんば、未だ承氣湯を與うべからず。若し腹大いに滿ちて通せざる者は、小承氣湯を與え、微(すこ)しく胃氣を和すべし、大いに泄下(せつか)に至らしむことなかれ。大承氣湯。方二。

 

〔大承氣湯方〕

大黄(四兩酒洗) 厚朴(半斤炙去皮) 枳實(五枚炙) 芒消(三合)

右四味、以水一斗、先煮二物、取五升、去滓。内大黄、更煮取二升、去滓。内芒消、更上微火一兩沸、分温再服。得下、餘勿服。

大黄(四兩、酒もて洗う) 厚朴(半斤、炙り、皮を去る) 枳實(きじつ)(五枚、炙る) 芒消(三合)

右四味、水一斗を以て、先ず二物を煮て、五升を取り、滓を去る。大黄を内れ、更に煮て二升を取り、滓を去る。芒消を内れ、

更に微火に上(の)せ、一、兩沸し、分かち温め再服す。下(げ)を得れば、餘は服すことなかれ。

 

〔小承氣湯方〕

大黄(四兩酒洗) 厚朴(二兩炙去皮) 枳實(三枚大者炙)

右三味、以水四升、煮取一升二合、去滓、分温二服。初服湯當更衣、不爾者盡飲之。若更衣者、勿服之。

大黄(四兩、酒もて洗う) 厚朴(二兩、炙り、皮を去る) 枳實(三枚、大なる者、炙る)

右三味、水四升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温め二服す。初め湯を服して當(まさ)に更衣すべし、爾(しか)らざる者は、盡(ことごと)く之を飲む。若し更衣する者は、之を服すなかれ。

 

【二〇九条】

陽明病、潮熱、大便微鞕者、可與大承氣湯。不鞕者、不可與之。若不大便六七日、恐有燥屎、欲知之法、少與小承氣湯、湯入腹中、轉失氣者、此有燥屎也、乃可攻之。若不轉失氣者、此但初頭鞕、後必溏、不可攻之、攻之必脹滿不能食也。欲飲水者、與水則噦。其後發熱者、必大便復鞕而少也、以小承氣湯和之。不轉失氣者、慎不可攻也。小承氣湯。三(用前第二方)。

陽明病、潮熱し、大便微(すこ)しく鞕なる者は、大承氣湯を與うべし。鞕ならざる者は、之を與うべからず。若し大便せざること六、七日なれば、恐らくは燥屎(そうし)有り。之を知らんと欲するの法は、少しく小承氣湯を與え、湯腹中に入り、轉(てん)失氣する者は、此れ燥屎有るなり、乃(すなわ)ち之を攻むべし。若し轉失氣せざる者は、此れ但(た)だ初頭(しょとう)鞕く、後必ず溏(とう)す、之を攻むべからず。之を攻むれば、必ず脹滿し食すること能わざるなり。水を飲まんと欲する者に、水を與えれば則ち噦(えつ)す。其の後發熱する者は、必ず大便復(ま)た鞕くして少なきなり、小承氣湯を以て之を和す。轉失氣せざる者は、慎んで攻むべからざるなり。小承氣湯。三(用前第二方)。

 

【二一〇条】

夫實則讝語、虛則鄭聲。鄭聲者、重語也。直視、讝語、喘滿者死、下利者亦死。

夫(そ)れ實すれば則ち讝語(せんご)し、虛すれば則ち鄭聲(ていせい)す。鄭聲なる者は、重語(じゅうご)なり。直視し、讝語(せんご)し、喘滿(ぜんまん)する者は死す。下利する者も亦た死す。

 

【二一一条】

發汗多、若重發汗者、亡其陽、讝語、脉短者死。脉自和者不死。

汗を發すること多く、若し重ねて發汗する者は、其の陽を亡(なく)し、讝語(せんご)す。脉短(たん)の者は死す。脉自(おのずか)ら和す者は死せず。

 

【二一二条】

傷寒若吐、若下後不解、不大便五六日、上至十餘日、日晡所發潮熱、不惡寒、獨語如見鬼狀。若劇者、發則不識人、循衣摸牀、惕而不安(一云順衣妄撮怵惕不安)、微喘直視、脉弦者生、濇者死。微者、但發熱讝語者、大承氣湯主之。若一服利、則止後服。四(用前第二方)。

傷寒、若しくは吐し、若しくは下したる後解(げ)せず、大便せざること五、六日、上は十餘日に至り、日晡所潮熱(にっぽしょちょうねつ)を發し、惡寒せず、獨語(どくご)して鬼狀を見るが如し。若し劇しき者は、發すれば則ち人を識(し)らず、循衣摸牀(じゅんいもしょう)、惕(てき)して安(やすら)かならず。(一云順衣妄撮怵惕不安)、微喘(びぜん)して直視す。脉弦の者は生き、濇(しょく)の者は死す。微(び)の者、但だ發熱讝語(せんご)する者は、大承氣湯之を主る。若し一服にて利せば、則ち後服(こうふく)を止む。四(用前第二方)。

 

【二一三条】

陽明病、其人多汗、以津液外出、胃中燥、大便必鞕、鞕則讝語、小承氣湯主之。若一服讝語止者、更莫復服。五(用前第二方)。

陽明病、其の人汗多く、津液外に出で、胃中燥くを以て、大便必ず鞕す。鞕なれば則ち讝語す。小承氣湯之を主る。若し一服にて讝語止む者は、更に復た服することなかれ。五(用前第二方)。

 

【二一四条】

陽明病、讝語、發潮熱、脉滑而疾者、小承氣湯主之。因與承氣湯一升、腹中轉氣者、更服一升。若不轉氣者、勿更與之。明日又不大便、脉反微濇者、裏虛也、為難治、不可更與承氣湯也。六(用前第二方)。

陽明病、讝語し、潮熱を發し、脉滑にして疾(しつ)の者は、小承氣湯之を主る。因(よ)りて承氣湯一升を與え、腹中轉氣(てんき)する者は、更に一升を服す。若し轉氣せざる者は、更に之を與うることなかれ。

明日、又、大便せず、脉反って微濇(びしょく)の者は、裏虛するなり、治し難しと為す。更に承氣湯を與うべからざるなり。六(前の第二方を用う)。

 

【二一五条】

陽明病、讝語、有潮熱、反不能食者、胃中必有燥屎五六枚也。若能食者、但鞕耳。宜大承氣湯下之。七(用前第二方)。

陽明病、讝語して、潮熱有り。反って食すること能わざる者は、胃中に必ず燥屎五、六枚有るなり。若し能く食する者は、但だ鞕きのみ。宜しく大承氣湯にて之を下すべし。七(前に第二方を用いる)。

 

【二一六条】

陽明病、下血、讝語者、此為熱入血室。但頭汗出者、刺期門、隨其實而寫之、濈然汗出則愈。

陽明病、下血、讝語する者は、此れ熱血室に入ると為す。但だ頭に汗出ずる者は、期門を刺す。其の實に隨(したが)って之を寫す、濈然(しゅうぜん)として汗出づれば則ち愈ゆ。

 

【二一七条】

汗(汗一作臥)出讝語者、以有燥屎在胃中、此為風也。須下者、過經乃可下之。下之若早、語言必亂、以表虛裏實故也。下之愈、宜大承氣湯。八(用前第二方一云大柴胡湯)。

汗(汗一作臥)出でて讝語する者は、燥屎有りて胃中に在(あ)るを以て、此れを風と為すなり。須(すべから)く下すべき者は、過經(かけい)すれば乃ち之を下すべし。之を下すこと若し早ければ、語言必ず亂る。

表虛し裏實するを以ての故なり。之を下せば愈ゆ。大承氣湯に宜し。八(前の第二方を用う。一に大柴胡湯と云う)。

 

【二一八条】

傷寒四五日、脉沈而喘滿。沈為在裏、而反發其汗、津液越出、大便為難。表虛裏實、久則讝語。

傷寒四、五日、脉沈にして喘滿(ぜんまん)す。沈は裏に在ると為す、而(しか)るに反って其の汗を發し、津液越出(えつしゅつ)し、大便難(がた)きを為し、表虛し裏實す。久しければ則ち讝語す。

 

二一九条】

三陽合病、腹滿、身重、難以轉側、口不仁、面垢(又作枯一云向經)、讝語、遺尿。發汗、則讝語、下之則額上生汗、手足逆冷。若自汗出者、白虎湯主之。方九。

三陽の合病、腹滿し、身重く、以って轉側し難く、口不仁し、面垢(あか)づき(又作枯一云向經)、讝語し、遺尿す。汗を發すれば、則ち讝語す、之を下せば則ち額上に汗を生じ、手足逆冷す。若し自汗出ずる者は、白虎湯之を主る。方九。

 

〔白虎湯方〕

知母(六兩) 石膏(一斤碎) 甘草(二兩炙) 粳米(六合)

右四味、以水一斗、煮米熟、湯成、去滓、一升温服、日三服。

知母(六兩) 石膏(一斤碎) 甘草(二兩炙) 粳米(六合)

右四味、水一斗を以て、煮て米熟し、湯成りて、滓を去り、一升を温服し、日に三服す。

 

【二二〇条】

二陽併病、太陽證罷、但發潮熱、手足漐漐汗出、大便難而讝語者、下之則愈、宜大承氣湯。十(用前第二方)。

二陽の併病、太陽の證罷(や)みて、但だ潮熱を發し、手足漐漐(ちゅうちゅう)として汗出で、大便難くして讝語する者は、之を下せば則ち愈ゆ、大承氣湯に宜し。十(前の第二方を用う)。

 

【二二一条】

陽明病、脉浮而緊、咽燥、口苦、腹滿而喘、發熱汗出、不惡寒反惡熱、身重。若發汗則躁、心憒憒(公對切)反讝語。若加温鍼、必怵惕煩躁不得眠。若下之、則胃中空虛、客氣動膈、心中懊憹。舌上胎者、梔子豉湯主之。方十一。

陽明病、脉浮にして緊、咽(のど)燥(かわ)き、口苦く、腹滿して喘し、發熱汗出で、惡寒せず反って惡熱し、身重し。若し汗發すれば則ち躁(そう)し、心憒憒(しんかいかい)として(公對切)反って讝語す。若し温鍼を加うれば、必ず怵惕(じゅってき)煩躁して眠を得ず。若し之を下せば、則ち胃中空虛し、客氣膈を動じ、心中懊憹(おうのう)す。舌上胎ある者は、梔子豉湯(しししとう)之を主る。方十一。

 

〔梔子豉湯方〕

肥梔子(十四枚擘) 香豉(四合綿裹)

右二味、以水四升、煮梔子、取二升半、去滓、内豉、更煮取一升半、去滓、分二服、温進一服。得快吐者、止後服。

 

肥梔子(十四枚擘く) 香豉(四合、綿もて裹む)

右二味、水四升を以て、梔子を煮て、二升半を取り、滓を去り、豉(し)を内(い)れ、更に煮て一升半を取り、滓を去り、二服に分かち、一服を温進す。快吐(かいと)を得る者は、後服を止む。

 

【二二二条】

若渴欲飲水、口乾舌燥者、白虎加人參湯主之。方十二。

若し渴して飲水せんと欲し、口乾き舌燥(かわ)く者は、白虎加人參湯之を主る。方十二。

 

〔白虎加人參湯方〕

知母(六兩) 石膏(一斤碎) 甘草(二兩炙) 粳米(六合) 人參(三兩)

右五味、以水一斗、煮米熟、湯成、去滓、温服一升、日三服。

 

知母(六兩) 石膏(一斤、碎(くだ)く) 甘草(二兩、炙る) 粳米(六合) 人參(三兩)

右五味、水一斗を以て、煮て米熟し、湯成りて、滓を去り、一升を温服し、日に三服す。

 

【二二三条】

若脉浮、發熱、渴欲飲水、小便不利者、猪苓湯主之。方十三。

若し脉浮、發熱、渴して飲水せんと欲し、小便不利する者は、猪苓湯(ちょれいとう)之を主る。方十三。

 

〔猪苓湯方〕

猪苓(去皮) 茯苓 澤瀉 阿膠 滑石(碎各一兩)

右五味、以水四升、先煮四味、取二升、去滓。内阿膠烊消。温服七合、日三服。

 

猪苓(ちょれい)(皮を去る) 茯苓 澤瀉(たくしゃ) 阿膠(あきょう) 滑石(かっせき)(碎(くだ)く、各一兩)

右五味、水四升を以て、先ず四味を煮て、二升を取り、滓を去る。阿膠を内(い)れて烊消(ようしょう)す。七合を温服し、日に三服す。

 

【二二四条】

陽明病、汗出多而渴者、不可與猪苓湯。以汗多胃中燥、猪苓湯復利其小便故也。

陽明病、汗出ずること多くして渴する者は、猪苓湯を與(あた)うべからず。汗多く胃中燥(かわ)くに、猪苓湯にて復た其の小便を利するを以ての故なり。

 

【二二五条】

脉浮而遲、表熱裏寒、下利清穀者、四逆湯主之。方十四。

脉浮にして遲、表熱し裏寒し、下利(げり)清穀する者は、四逆湯之を主る。方十四。

 

〔四逆湯方〕

甘草(二兩炙) 乾薑(一兩半) 附子(一枚生用去皮破八片)

右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、分温二服、強人可大附子一枚、乾薑三兩。

 

甘草(二兩炙る) 乾薑(一兩半) 附子(一枚、生を用い、皮を去り、八片に破る)

右三味、水三升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温ため二服す、強人は、大附子一枚、乾薑三兩とすべし。

 

【二二六条】

若胃中虛冷、不能食者、飲水則噦。

若し胃中虛冷し、食すること能わざる者は、水を飲めば則ち噦(えっ)す。

 

【二二七条】

脉浮、發熱、口乾、鼻燥、能食者則衄。

脉浮、發熱、口乾き、鼻燥(かわ)き、能く食する者は、則ち衄(じく)す。

 

【二二八条】

陽明病、下之、其外有熱、手足温、不結胸、心中懊憹、飢不能食、但頭汗出者、梔子豉湯主之。十五(用前第十一方)。

陽明病、之を下し、其の外に熱有り、手足温(おん)にして、結胸せず、心中懊憹(おうのう)し、飢えて食すること能わず、但だ頭汗出ずる者は、梔子豉湯(しししとう)之を主る。十五(前の第十一方を用う)。

 

【二二九条】

陽明病、發潮熱、大便溏、小便自可、胸脇滿不去者、與小柴胡湯。方十六。

陽明病、潮熱を發し、大便溏(とう)し、小便自(おのずか)ら可(か)なり、胸脇滿ちて去らざる者は、小柴胡湯を與う。方十六。

 

〔小柴胡湯方〕

柴胡(半斤) 黄芩(三兩) 人參(三兩) 半夏(半升洗) 甘草(三兩炙) 生薑(三兩切) 大棗(十二枚擘)

右七味、以水一斗二升、煮取六升、去滓、再煎取三升、温服一升、日三服。

 

柴胡(半斤) 黄芩(三兩) 人參(三兩) 半夏(半升、洗う) 甘草(三兩、炙る) 生薑(三兩、切る) 大棗(十二枚、擘(つんざ)く)

右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取り、滓を去り、再煎して三升を取り、一升を温服し、日に三服す。

 

【二三〇条】

陽明病、脇下鞕滿、不大便而嘔、舌上白胎者、可與小柴胡湯。上焦得通、津液得下、胃氣因和、身濈然汗出而解。十七(用上方)。

陽明病、脇下鞕滿(こうまん)し、大便せずして嘔し、舌上白胎(はくたい)の者は、小柴胡湯を與うべし。上焦通ずるを得、津液下るを得、胃氣因(よ)りて和し、身濈然(しゅうぜん)として汗出で解す。十七(上方を用う)。

 

【二三一条】

陽明中風、脉弦浮大、而短氣、腹都滿、脇下及心痛、久按之氣不通、鼻乾、不得汗、嗜臥、一身及目悉黄、小便難、有潮熱、時時噦、耳前後腫、刺之小差、外不解。病過十日、脉續浮者、與小柴胡湯。十八(用上方)。

陽明中風、脉弦浮大にして短氣し、腹都(すべ)て滿ち、脇下及び心痛み、久しく之を按ずれども氣通ぜず、鼻乾き、汗を得ず、嗜臥(しが)し、一身及び目悉(ことごと)く黄ばみ、小便難(がた)く、潮熱有り、時時噦(えっ)し、耳の前後腫れ、之を刺せば小しく差(い)ゆれども、外解せず。病十日を過ぎ、脉續いて浮の者は、小柴胡湯を與う。十八(上方を用う)。

 

【二三二条】

脉但浮、無餘證者、與麻黄湯。若不尿、腹滿加噦者、不治。麻黄湯。方十九。

脉但(た)だ浮にして、餘證(よしょう)無き者は、麻黄湯を與う。若し尿せず、腹滿ちて噦(えつ)を加うる者は、治せず。麻黄湯。方十九。

 

〔麻黄湯方〕

麻黄(三兩去節) 桂枝(二兩去皮) 甘草(一兩炙) 杏仁(七十箇去皮尖)

右四味、以水九升、煮麻黄、減二升、去白沫、内諸藥、煮取二升半、去滓、温服八合。覆取微似汗。

 

麻黄(三兩、節を去る) 桂枝(二兩、皮を去る) 甘草(一兩、炙る) 杏仁(七十箇、皮尖を去る)

右四味、水九升を以て、麻黄を煮て、二升を減じ、白沫を去り、諸藥を内れ、煮て二升半を取り、滓を去り、八合を温服す。覆(おお)いて微(すこ)しく汗に似たるを取る。

 

【二三三条】

陽明病、自汗出。若發汗、小便自利者、此為津液内竭、雖鞕不可攻之。當須自欲大便、宜蜜煎導而通之。若土瓜根及大猪膽汁、皆可為導。二十。

陽明病、自汗出ず。若し汗を發し、小便自利する者は、此れ津液内に竭(つ)くると為す。鞕(かた)きと雖も之を攻むべからず。

當に須(すべから)く大便せんと欲は、蜜煎導(みつせんどう)にて之を通じるに宜し。若しくは土瓜根(どかこん)、及び大猪(だいちょ)膽汁(たんじゅう)、皆導(どう)を為すべし。二十。

 

〔蜜煎方〕(みつせんほう)

食蜜(七合)

右一味、於銅器内微火煎、當須凝如飴狀、攪之勿令焦著、欲可丸、併手捻作挺、令頭營鋭、大如指、長二寸許。當熱時急作、冷則鞕。以内穀道中、以手急抱、欲大便時乃去之。疑非仲景意、已試甚良。

又大猪膽一枚、瀉汁、和少許法醋、以灌穀道内、如一食頃、當大便出宿食惡物、甚效。

 

食蜜(七合)

右一味、銅器内に於て微火にて煎ず。當に凝(こ)りて飴狀(いじょう)の如くなるを須(ま)ちて、之を攪(かきま)わして焦げ著(つ)かせしむることなかれ。

丸ずべしと欲せば、手を併(あわ)せて捻(ひね)りて挺(てい)と作(な)し、頭をして鋭ならしめ、大きさ指の如く、長さ二寸許(ばか)りにす。當に熱き時に急に作(つく)るべし。冷ゆれば則ち鞕し。以て穀道の中に内れ、手を以て急に抱え、大便せんと欲する時は、乃ち之を去る。疑うらくは仲景の意に非ざるも、已に試みて甚だ良し。

又、大猪膽(だいちょたん)一枚、汁を瀉(そそ)ぎ、少し許(ばか)りの法醋(ほうさく)に和して、以て穀道の内に灌(そそ)ぐ。一食頃(いっしょくけい)の如きうちに、當に大便して宿食惡物(おぶつ)を出だすべし、甚だ效あり。

 

【二三四条】

陽明病、脉遲、汗出多、微惡寒者、表未解也、可發汗、宜桂枝湯。二十一。

陽明病、脉遲、汗出ずること多く、微惡寒する者は、表未だ解(げ)せざるなり、汗を發すべし、桂枝湯に宜し。二十一。

 

〔桂枝湯方〕

桂枝(三兩去皮) 芍藥(三兩) 生薑(三兩) 甘草(二兩炙) 大棗(十二枚擘)

右五味、以水七升、煮取三升、去滓、温服一升。須臾啜熱稀粥一升、以助藥力、取汗。

 

桂枝(三兩、皮を去る) 芍藥(三兩) 生薑(三兩) 甘草(二兩、炙る) 大棗(十二枚、擘く)

右五味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。須臾(しゅゆ)に熱稀粥(ねつきしゅく)一升を啜(すす)り、以て藥力を助け、汗を取る。

 

【二三五条】

陽明病、脉浮、無汗而喘者、發汗則愈、宜麻黄湯。二十二(用前第十九方)。

陽明病、脉浮、汗無くして喘(ぜん)する者は、汗を發すれば則ち愈ゆ。麻黄湯に宜し。二十二(前の第十九方を用う)。

 

【二三六条】

陽明病、發熱、汗出者、此為熱越、不能發黄也。但頭汗出、身無汗、劑頸而還、小便不利、渴引水漿者、此為瘀熱在裏、身必發黄、茵蔯蒿湯主之。方二十三。

陽明病、發熱し、汗出ずる者は、此れ熱越すと為(な)す、黄を發すること能わざるなり。但だ頭汗(づかん)出で、身に汗無く、頸(けい)を劑(かぎ)りて還(かえ)り、小便不利し、渴して水漿(すいしょう)を引く者は、此れ瘀熱裏に在りと為す。身必ず黄を發す。茵蔯蒿湯(いんちんこうとう)之を主る。方二十三。

 

〔茵蔯蒿湯方〕(いんちんこうとうほう)

茵蔯蒿(六兩) 梔子(十四枚擘) 大黄(二兩去皮)

右三味、以水一斗二升、先煮茵蔯、減六升。内二味、煮取三升、去滓、分三服。小便當利、尿如皁莢汁狀、色正赤、一宿腹減、黄從小便去也。

 

茵蔯蒿(いんちんこう)(六兩) 梔子(しし)(十四枚、擘く) 大黄(二兩、皮を去る)

右三味、水一斗二升を以て、先ず茵蔯(いんちん)を煮て、六升を減ず。二味を内(い)れ、煮て三升を取り、滓を去り、分かちて三服す。小便當に利すべし。尿皁莢(そうきょう)汁の狀の如く、色正赤(せいせき)なり。一宿にして腹減じ、黄(おう)小便從(よ)り去るなり。

 

【二三七条】

陽明證、其人喜忘者、必有畜血。所以然者、本有久瘀血、故令喜忘。屎雖鞕、大便反易、其色必黑者、宜抵當湯下之。方二十四。

陽明の證、其の人喜忘(きぼう)する者、必ず畜血(ちくけつ)有り。然(しか)る所以の者は、本(もと)久しく瘀血有るが故に喜忘せしむ。屎(し)鞕しと雖も、大便反って易く、其の色必ず黑き者は、宜しく抵當湯にて之を下すべし。方二十四。

 

〔抵當湯方〕

水蛭(熬) 蝱蟲(去翅足熬各三十箇) 大黄(三兩酒洗) 桃仁(二十箇去皮尖及兩人者)

右四味、以水五升、煮取三升、去滓、温服一升、不下更服。

 

水蛭(すいてつ)(熬る) 蝱蟲(ぼうちゅう)(翅足を去り、熬る。各三十箇) 大黄(三兩、酒もて洗う) 桃仁(とうにん)(二十箇、皮尖を去り、兩人に及ぶ者なり)

右四味、水五升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。下らざれば、更に服す。

 

【二三八条】

陽明病、下之、心中懊憹而煩、胃中有燥屎者、可攻。腹微滿、初頭鞕、後必溏、不可攻之。若有燥屎者、宜大承氣湯。二十五(用前第二方)。

陽明病、之を下し、心中懊憹(おうのう)として煩し、胃中に燥屎(そうし)有る者は、攻む可し。腹微(すこ)しく滿ちて、初頭(しょとう)鞕く、後必ず溏(とう)なるは、之を攻むべからず。

若し燥屎有る者は、大承氣湯に宜し。二十五(前の第二方を用う)。

 

【二三九条】

病人不大便五六日、繞臍痛、煩躁、發作有時者、此有燥屎、故使不大便也。

病人大便せざること五、六日、臍を繞(めぐ)りて痛み、煩躁し、發作時有る者は、此れ燥屎(そうし)有るが故に大便せざらしむるなり。

 

【二四〇条】

病人煩熱、汗出則解。又如瘧狀、日晡所發熱者、屬陽明也。脉實者、宜下之。脉浮虛者、宜發汗。下之與大承氣湯、發汗宜桂枝湯。二十六(大承氣湯用前第二方桂枝湯用前第二十一方)。

病人煩熱するは、汗出ずれば則ち解す。又、瘧狀(ぎゃくじょう)の如く、日晡所發熱する者は、陽明に屬するなり。脉實の者は、宜しく之を下すべし。脉浮虛の者は、宜しく汗を發すべし。之を下すに大承氣湯を與(あた)え、汗を發するに桂枝湯に宜し。二十六(大承氣湯は前の第二方を用い、桂枝湯は前の第二十一方を用う)。

 

【二四一条】

大下後、六七日不大便、煩不解、腹滿痛者、此有燥屎也。所以然者、本有宿食故也、宜大承氣湯。二十七(用前第二方)。

大いに下したる後、六、七日大便せず、煩解(はんげ)せず、腹滿痛する者は、此れ燥屎(そうし)有るなり。然る所以の者は、本(もと)宿食(しゅくしょく)有るが故なり。大承氣湯に宜し。二十七(前の第二方を用う)。

 

【二四二条】

病人小便不利、大便乍難乍易、時有微熱、喘冒(一作怫鬱)不能臥者、有燥屎也、宜大承氣湯。二十八(用前第二方)。

病人小便不利し、大便乍(たちま)ち難く乍(たちま)ち易く、時に微熱有り、喘冒(ぜんぼう)して臥(ふ)すこと能ざる者は、燥屎有るなり、大承氣湯に宜し。二十八(前の第二方を用う)。

 

【二四三条】

食穀欲嘔、屬陽明也、呉茱萸湯主之。得湯反劇者、屬上焦也。呉茱萸湯。方二十九。

穀を食して嘔せんと欲するは、陽明に屬するなり、呉茱萸湯(ごしゅゆとう)之を主る。湯を得て反って劇しき者は、上焦に屬するなり。呉茱萸湯。方二十九。

 

〔呉茱萸湯方〕

呉茱萸(一升洗) 人參(三兩) 生薑(六兩切) 大棗(十二枚擘)

右四味、以水七升、煮取二升、去滓、温服七合。日三服。

 

呉茱萸(ごしゅゆ)(一升、洗う) 人參(三兩) 生薑(六兩、切る) 大棗(十二枚、擘く)

右四味、水七升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、七合を温服し、日に三服す。

 

【二四四条】

太陽病、寸緩、關浮、尺弱、其人發熱汗出、復惡寒、不嘔、但心下痞者、此以醫下之也。如其不下者、病人不惡寒而渴者、此轉屬陽明也。小便數者、大便必鞕、不更衣十日、無所苦也。渴欲飲水、少少與之、但以法救之。渴者、宜五苓散。方三十。

太陽病、寸緩、關浮、尺弱、其の人發熱して汗出で、復た惡寒し、嘔せず、但だ心下痞(ひ)する者は、此れ醫之を下すを以てなり。如(も)し其の下らざる者、病人惡寒せずして渴する者は、此れ陽明に轉屬(てんぞく)するなり。小便數の者は、大便必ず鞕く、更衣せざること十日なれども、苦しむ所無きなり。渴して飲水せんと欲するは、少少之を與う。但だ法を以て之を救う。渴する者は、五苓散に宜し。方三十。

 

〔五苓散方〕

猪苓(去皮) 白朮 茯苓(各十八銖) 澤瀉(一兩六銖) 桂枝(半兩去皮)

右五味、為散、白飲和、服方寸匕、日三服。

 

猪苓(皮を去る) 白朮 茯苓(各十八銖) 澤瀉(一兩六銖) 桂枝(半兩、皮を去る)

右五味、散と為し、白飲もて和し、方寸匕(ひ)を服し、日に三服す。

 

【二四五条】

脉陽微而汗出少者、為自和(一作如)也。汗出多者、為太過。陽脉實、因發其汗出多者、亦為太過。太過者、為陽絶於裏、亡津液、大便因鞕也。

脉陽微(ようび)にして汗出ずること少なき者は、自ら和すと為すなり。汗出ずること多き者は、太過と為す。陽脉實し、因りて其の汗を發するに、出ずること多き者は、亦(ま)た太過と為す。太過の者は、陽裏に絶すと為し、津液を亡(なく)し、大便因りて鞕きなり。

 

【二四六条】

脉浮而芤、浮為陽、芤為陰。浮芤相搏、胃氣生熱、其陽則絶。

脉浮にして芤(こう)、浮は陽と為し、芤は陰と為す。浮芤相い搏(う)ち、胃氣熱を生じ、其の陽則ち絶す。

 

【二四七条】

趺陽脉浮而濇、浮則胃氣強、濇則小便數。浮濇相搏、大便則鞕、其脾為約、麻子仁丸主之。方三十一。

趺陽(ふよう)の脉浮にして濇(しょく)、浮は則ち胃氣強く、濇は則ち小便數(さく)。浮濇(ふしょく)相い搏ち、大便則ち鞕し。其れ脾約と為す。麻子仁丸(ましにんがん)之を主る。方三十一。

 

〔麻子仁丸方〕

麻子仁(二升) 芍藥(半斤) 枳實(半斤炙) 大黄(一斤去皮) 厚朴(一尺炙去皮) 杏仁(一升去皮尖熬別作脂)

右六味、蜜和丸如梧桐子大。飲服十丸、日三服、漸加、以知為度。

 

麻子仁(ましにん)(二升) 芍藥(半斤) 枳實(半斤、炙る) 大黄(一斤、皮を去る) 厚朴(一尺、炙り、皮を去る) 杏仁(一升皮尖を去り、熬(い)り、別に脂と作(な)す)

右六味、蜜もて和して丸とし、梧桐子(ごどうし)大の如くす。十丸を飲服し、日に三服す。漸(ようや)く加えて、知るを以て度と為す。

 

【二四八条】

太陽病三日、發汗不解、蒸蒸發熱者、屬胃也、調胃承氣湯主之。三十二(用前第一方)。

太陽病三日、發汗して解せず、蒸蒸(じょうじょう)として發熱する者は、胃に屬するなり。調胃承氣湯之を主る。三十二(前の第一方を用う)。

 

【二四九条】

傷寒吐後、腹脹滿者、與調胃承氣湯。三十三(用前第一方)。

傷寒、吐して後、腹脹滿する者は、調胃承氣湯を與う。三十三(前の第一方を用う)。

 

【二五〇条】

太陽病、若吐、若下、若發汗後、微煩、小便數、大便因鞕者、與小承氣湯、和之愈。三十四(用前第二方)。

太陽病、若(も)しくは吐し、若しくは下し、若しくは汗を發して後、微煩(びはん)、小便數、大便因りて鞕き者は、小承氣湯を與え之を和すれば愈ゆ。三十四(前の第二方を用う)。

 

【二五一条】

得病二三日、脉弱、無太陽柴胡證、煩躁、心下鞕。至四五日、雖能食、以小承氣湯、少少與、微和之、令小安。至六日、與承氣湯一升。若不大便六七日、小便少者、雖不受食(一云不大便)、但初頭鞕、後必溏、未定成鞕、攻之必溏。須小便利、屎定鞕、乃可攻之、宜大承氣湯。三十五(用前第二方)。

病を得て二、三日、脉弱、太陽柴胡の證無く、煩躁し、心下鞕し。四、五日に至り、能(よ)く食すと雖も、小承氣湯を以て、少少與えて微(すこ)しく之を和し、小(すこ)しく安からしむ。六日に至らば、承氣湯一升を與う。若し大便せざること六、七日、小便少なき者は、食を受けずと雖も(一云不大便)、但だ初頭鞕く、後必ず溏し、未だ定まりて鞕を成さず。之を攻むれば必ず溏す。小便利し、屎(し)定まり鞕きを須(ま)ちて、乃ち之を攻むべし。大承氣湯に宜し。三十五(前の第二方を用う)。

 

【二五二条】

傷寒六七日、目中不了了、睛不和、無表裏證、大便難、身微熱者、此為實也。急下之、宜大承氣湯。三十六(用前第二方)。

傷寒六、七日、目中了了(りょうりょう)たらず、睛和(せいわ)せず、表裏の證無く、大便難く、身微熱する者は、此れを實と為すなり。急ぎ之を下す。大承氣湯に宜し。三十六(前の第二方を用う)。

 

【二五三条】

陽明病、發熱、汗多者、急下之、宜大承氣湯。三十七(用前第二方一云大柴胡湯)。

陽明病、發熱し、汗多き者は、急ぎ之を下す。大承氣湯に宜し。三十七(前の第二方を用う。一に大柴胡湯と云う)。

 

【二五四条】

發汗不解、腹滿痛者、急下之、宜大承氣湯。三十八(用前第二方)。

汗を發して解せず、腹滿痛するは、急ぎ之を下す。大承氣湯を宜し。三十八(前の第二方を用う)。

 

【二五五条】

腹滿不減、減不足言、當下之、宜大承氣湯。三十九(用前第二方)。

腹滿減ぜず、減ずるも言うに足らざるは、當に之を下すべし。大承氣湯に宜し。三十九(前の第二方を用う)。

 

【二五六条】

陽明少陽合病、必下利。其脉不負者、為順也。負者、失也。互相剋賊、名為負也。脉滑而數者、有宿食也、當下之、宜大承氣湯。四十(用前第二方)。

陽明と少陽の合病、必ず下利す。其の脉負ならざる者は、順と為すなり。負の者は、失なり。互いに相(あ)い剋賊(こくぞく)するを、名づけて負と為すなり。

脉滑にして數の者は、宿食有るなり。當に之を下すべし。大承氣湯に宜し。四十(前の第二方を用う)。

 

【二五七条】

病人無表裏證、發熱七八日、雖脉浮數者、可下之。假令已下、脉數不解、合熱則消穀喜飢、至六七日、不大便者、有瘀血、宜抵當湯。四十一(用前第二十四方)。

病人表裏の證無く、發熱すること七、八日。脉浮數と雖も、之を下すべし。假令(たと)えば已に下し、脉數解(げ)せず、熱を合すれば則ち消穀喜飢(きき)して、六、七日に至るも、大便せざる者は、瘀血有り。抵當湯に宜し。四十一(前の第二十四方を用う)。

 

【二五八条】

若脉數不解、而下不止、必協熱便膿血也。

若し脉數解せず、而(しか)も下(げ)止まざれば、必ず協熱(きょうねつ)して膿血(のうけつ)を便するなり。

 

【二五九条】

傷寒發汗已、身目為黄、所以然者、以寒濕(一作温)在裏不解故也。以為不可下也、於寒濕中求之。

傷寒、發汗已(おわ)り、身目(しんもく)黄を為す。然る所以の者は、寒濕(かんしつ)裏に在りて解せざるを以ての故なり。以て下すべからずと為すなり。寒濕中に於て之を求む。

 

【二六〇条】

傷寒七八日、身黄如橘子色、小便不利、腹微滿者、茵蔯蒿湯主之。四十二(用前第二十三方)。

傷寒七、八日、身黄(おう)なること橘子(きっし)の色の如く、小便不利し、腹微滿する者は、茵蔯蒿湯之を主る。四十二(前の第二十三方を用う)。

 

【二六一条】

傷寒身黄發熱、梔子檗皮湯主之。方四十三。

傷寒、身黄にして發熱するは、梔子檗皮湯(ししはくひとう)之を主る。方四十三。

 

〔梔子檗皮湯方〕

肥梔子(十五箇擘) 甘草(一兩炙) 黄檗(二兩)

右三味、以水四升、煮取一升半、去滓、分温再服。

 

肥梔子(十五箇、擘く) 甘草(一兩、炙る) 黄檗(おうばく)(二兩)

右三味、水四升を以て、煮て一升半を取り、滓を去り、分かち温め再服す。

 

【二六二条条】

傷寒瘀熱在裏、身必黄、麻黄連軺赤小豆湯主之。方四十四。

傷寒瘀熱裏に在り、身必ず黄す、麻黄連軺赤小豆湯(まおうれんしょうせきしょうずとう)之を主る。方四十四。

 

〔麻黄連軺赤小豆湯方〕

麻黄(二兩去節) 連軺(二兩連翹根是) 杏仁(四十箇去皮尖) 赤小豆(一升) 大棗(十二枚擘) 生梓白皮(切一升) 生薑(二兩切) 甘草(二兩炙)

右八味、以潦水一斗、先煮麻黄再沸、去上沫、内諸藥、煮取三升、去滓。分温三服、半日服盡。

 

麻黄(二兩節を去る) 連軺(れんしょう)(二兩、連翹根(れんぎょうこん)、是れなり) 杏仁(四十箇、皮尖を去る) 赤小豆(せきしょうず)(一升) 大棗(十二枚、擘く) 生梓白皮(しょうしんはくひ)(切る、一升) 生薑(二兩、切る) 甘草(二兩、炙る)

右八味、潦水(りょうすい)一斗を以て、先ず麻黄を煮て再沸し、上沫を去り、諸藥を内(い)れ、煮て三升を取り、滓を去る。分かち温め三服し、半日に服し盡(つく)す。

 

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辨太陽病脉證并治下 128条~178条

 志ある学徒の、簡便な道具にならんことを願って読み下文を記しています。

 また初学者のため、重複の労をいとわずルビをふっています。

 誤りを見つけられましたら、どうかコメント欄に投稿をお願いいたします。

  

 底本 趙開美刊 「仲景全書」所収 『傷寒論』十巻

                    日本漢方協会学術部 編 東洋学術出版社

 

       辨太陽病脉證并治下   128条~178条

                第七(合三十九法方三十首并見太陽少陽合病法)

 

【第一二八条】問曰、病有結胸、有藏結、其何如。答曰、按之痛、寸脉浮、關脉沈、名曰結胸也。

問いて曰く、病に結胸(けっきょう)有り、藏結(ぞうけつ)有り、其の狀何如(いかに)と。

答えて曰く、之を按じて痛み、寸脉浮、關脉沈、名づけて結胸と曰うなり。

 

【第一二九条】何謂藏結。答曰、如結胸、飲食如故、時時下利、寸脉浮、關脉小細沈緊、名曰藏結。舌上白胎滑者、難治。

何をか藏結(ぞうけつ)と謂(い)うと。

答えて曰く、結胸狀の如くなるも、飲食故(もと)の如く、時時下利し、寸脉浮、關脉小細(しょうさい)沈緊なるを、名づけて藏結(ぞうけつ)と曰く。舌上白胎滑(はくたいかつ)の者は、治(ち)し難し。

 

【第一三〇条】藏結、無陽證、不往来寒熱(一云寒而不熱)、其人反靜、舌上胎滑者、不可攻也。

藏結、陽證無く、往来寒熱せず(一云寒而不熱)、其の人反って靜にして、舌上胎滑(たいかつ)の者は、攻むべからざるなり。

 

【第一三一条】病發於陽、而反下之、熱入因作結胸。病發於陰、而反下之(一作汗出)、因作痞也。所以成結胸者、以下之太早故也。結胸者、項亦強、如柔痓狀、下之則和、宜大陷胸丸。方一。

病陽に發す、而るに反って之を下し、熱入り因(よ)りて結胸を作(な)す。病陰に發す、而(しか)るに反って之を下し(一作汗出)、因りて痞(ひ)を作(な)すなり。結胸(けっきょう)を成(な)す所以(ゆえん)の者は、之を下すことを太(はなは)だ早きを以ての故なり。結胸の者は、項(うなじ)も亦(ま)た強(こわば)り、柔痓(じゅうけい)の狀の如し、之を下せば則ち和す、大陷胸丸(だいかんきょうがん)に宜し。

方一。

 

〔大陷胸丸方〕

大黄(半斤) 蔕子(半升熬) 芒消(半升) 杏仁(半升去皮尖熬黑)

右四味、擣篩二味、内杏仁、芒消、合研如脂、和散。取如彈丸一枚、別擣甘遂末一錢匕、白蜜二合、水二升、煮取一升、温頓服之、一宿乃下。如不下、更服、取下為效。禁如藥法。

大黄(半斤) 蔕藶子(ていれきし)(半升、熬る) 芒消(半升) 杏仁(半升、皮尖を去り、熬りて黑くす)

右四味、二味を擣(つ)きて篩(ふる)い、杏仁、芒消を内(い)れ、合わせて研(す)りて脂(あぶら)の如くし、散に和す。彈丸の如きもの一枚取り、別に甘遂(かんつい)末一錢匕(ひ)を擣(つ)き、白蜜二合、水二升もて、煮て一升を取り、温めて之を頓服す、一宿(いっしゅく)にして乃ち下る。

如(も)し下らざれば、更に服す、下(げ)を取るを效(こう)と為(な)す。禁ずること藥法の如くす。

 

【第一三二条】結胸證、其脉浮大者、不可下、下之則死。

結胸證、其の脉浮大の者は、下すべからず、之を下せば則ち死す。

 

【第一三三条】結胸證悉具、煩躁者亦死。

結胸證悉(ことごと)く具(そなわ)り、煩躁する者も亦(ま)た死す。

 

【第一三四条】太陽病、脉浮動數、浮則風為、數則熱為、動則為痛、數則為。頭痛、發熱、微盗汗出、而反惡寒者、表未解也。醫反下之、動數變遲、膈内拒痛(一云頭痛即眩)、胃中空、客氣動膈、短氣躁煩、心中懊、陽氣内陷、心下因、則為結胸、大陷胸湯主之。若不結胸、但頭汗出、餘處無汗、劑頸而還、小便不利、身必發黄。大陷胸湯。方二。

太陽病、脉浮にして動數、浮は則ち風と為し、數は則ち熱と為し、動は則ち痛と為し、數は則ち虛と為す。頭痛、發熱、微(すこ)しく盗汗出で、反って惡寒する者は、表未だ解(げ)せざるなり。醫(い)反って之を下し、動數遲(ち)に變(へん)じ、膈内拒痛(きょつう)(一云頭痛即眩)、胃中空虛(くうきょ)、客氣(きゃっき)膈を動じ、短氣して躁煩し、心中懊憹(おうのう)し、陽氣内陷(ないかん)し、心下因(よ)りて鞕(かた)きは、則ち結胸を為す、大陷胸湯(だいかんきょうとう)之を主る。若し結胸せず、但だ頭汗(づかん)のみ出でて、餘處(よしょ)に汗無く、頸(けい)を劑(かぎ)りて還り、小便不利なれば、身必ず黄を發す。大陷胸湯。方二。

 

〔大陷胸湯方〕

大黄(六兩去皮) 芒消(一升) 甘遂(一錢匕)

右三味、以水六升、先煮大黄、取二升、去滓、内芒消、煮一兩沸、内甘遂末、温服一升。得快利、止後服。

大黄(六兩去皮) 芒消(一升) 甘遂(かんつい)(一錢匕(ひ))

右三味、水六升を以て、先ず大黄を煮て二升を取り、滓を去り、芒消を内れ、煮ること一、兩沸、甘遂(かんつい)末を内れ、一升を温服す。快利を得れば、後服を止(とど)む。

 

【第一三五条】傷寒六七日、結胸熱實、脉沈而緊、心下痛、按之石者、大陷胸湯主之。三(用前第二方)。

傷寒六、七日、結胸(けっきょう)熱實(ねつじつ)、脉沈にして緊、心下痛み、之を按じて石鞕(せっこう)の者は、大陷胸湯之を主る。三(用前第二方)。

 

【第一三六条】傷寒十餘日、熱結在裏、復往来寒熱者、與大柴胡湯。但結胸、無大熱者、此為水結在胸脇也。但頭微汗出者、大陷胸湯主之。四(用前第二方)。

傷寒十餘日、熱結んで裏に在(あ)り、復(ま)た往来寒熱する者は、大柴胡湯を與(あた)う。但(た)だ結胸して、大熱無き者は、此れ水を結んで胸脇に在りと為すなり。但だ頭に微(かす)かに汗出ずる者は、大陷胸湯之を主る。四(用前第二方)。

 

〔大柴胡湯方〕

柴胡(半斤) 枳實(四枚炙) 生薑(五兩切) 黄(三兩) 芍藥(三兩) 半夏(半升洗) 大棗(十二枚擘)

右七味、以水一斗二升、煮取六升、去滓再煎、温服一升、日三服。一方、加大黄二兩。若不加、恐不名大柴胡湯。

柴胡(半斤) 枳實(四枚炙る) 生薑(五兩切る) 黄芩(三兩) 芍藥(三兩) 半夏(半升洗う) 大棗(十二枚擘く)

右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取り、滓を去りて再煎し、一升を温服し、日に三服す。一方に、大黄二兩を加う。若し加えざれば、恐らくは大柴胡湯と名づけず。

 

【第一三七条】太陽病、重發汗而復下之、不大便五六日、舌上燥而、日所小有潮熱(一云日所發心胸大煩)、從心下至少腹滿而痛不可近者、大陷胸湯主之。五(用前第二方)。

太陽病、重ねて汗を發して復た之を下し、大便せざるること五、六日、舌上燥きて渴し、日晡所(にっぽしょ)小(すこ)しく潮熱有り(一云日晡所發心胸大煩)、心下從り少腹に至り鞕滿(こうまん)して痛み近づくべからざる者は、大陷胸湯之を主る。五(用前第二方)。

 

【第一三八条】小結胸病、正在心下、按之則痛、脉浮滑者、小陷胸湯主之。方六。

小結胸の病は、正に心下に在り、之を按じれば則ち痛む、脉浮滑の者は、小陷胸湯之主る。方六。

 

〔小陷胸湯方〕

黄連(一兩) 半夏(半升洗) 樓實(大者一枚)

右三味、以水六升、先煮樓、取三升、去滓。内諸藥、煮取二升、去滓、分温三服。

黄連(一兩) 半夏(半升洗う) 栝樓實(かろじつ)(大の者一枚)

右三味、水六升を以て、先ず栝樓(かろ)を煮て、三升を取り、滓を去り。諸藥を内れ、煮て二升を取り、滓を去り、分かち温め三服す。

 

【第一三九条】太陽病、二三日、不能臥、但欲起、心下必結、脉微弱者、此本有寒分也。反下之、若利止、必作結胸。未止者、四日復下之、此作協熱利也。

太陽病、二、三日、臥(ふ)すこと能わず、但だ起きんと欲し、心下必ず結して、脉微弱の者は、此れ本(もと)寒分(かんぶん)有るなり。反って之を下し、若し利止めば、必ず結胸を作(な)す。未(いま)だ止まざる者は、四日にして復た之を下せば、此れ協熱利(きょうねつり)を作(な)すなり。

 

【第一四〇条】太陽病、下之、其脉促(一作縱)、不結胸者、此為欲解也。脉浮者、必結胸。脉緊者、必咽痛。脉弦者、必兩脇拘急。脉細數者、頭痛未止。脉沈緊者、必欲嘔。脉沈滑者、協熱利。脉浮滑者、必下血。

太陽病、之を下し、其の脉促(そく)(一作縱)、結胸せざる者は、此れを解せんと欲すと為すなり。脉浮の者は、必ず結胸す。脉緊の者は、必ず咽痛す。脉弦の者は、必ず兩脇(りょうきょう)拘急す。脉細數の者は、頭痛未だ止まず。脉沈緊の者は、必ず嘔せんと欲す。脉沈滑の者は、協(きょう)熱利す。脉浮滑の者は、必ず下血す。

 

【第一四一条】病在陽、應以汗解之。反以冷水之。若灌之、其熱被劫不得去、彌更益煩、肉上粟起、意欲飲水、反不者、服文蛤散。若不差者、與五苓散。寒實結胸、無熱證者、與三物小陷胸湯(用前第六方)。

白散亦可服(一云與三物小白散)。七。

病陽に在れば、應(おう)は汗を以て之を解すべし。反って冷水を以て之を潠(ふ)く。若も之を灌(そそ)げば、其の熱劫(おびや)かされて去るを得ず、彌(いよ)いよ更に益々(ますます)煩し、肉上粟起(にくじょうぞっき)す、意(こころ)に水を飲まんと欲すれども、反って渴せざる者は、文蛤散(ぶんごうさん)を服す。若し差(い)えざる者は、五苓散を與う。寒實(かんじつ)結胸(けっきょう)、熱證無き者は、三物小陷胸湯(さんもつしょうかんきょうとう)を與う(前の第六方を用う)。白散(はくさん)も亦(ま)た服すべし(一に云う、三物小白散(さんもつしょうはくさん)を與うと)。七。

 

〔文蛤散方〕

文蛤(五兩)

右一味、散為、沸湯以和一方寸匕服。湯用五合。

文蛤(ぶんごう)(五兩)

右一味、散と為し、沸湯を以て一方寸匕(ほうすんひ)和して服す。湯は五合を用う。

 

〔五苓散方〕

猪苓(十八銖去黑皮) 白朮(十八銖) 澤瀉(一兩六銖) 茯苓(十八銖) 桂枝(半兩去皮)

右五味、為散、更於臼中杵之、白飲和方寸匕、服之、日三服。多飲煖水、汗出愈。

猪苓(十八銖、黑皮を去る) 白朮(十八銖) 澤瀉(一兩六銖) 茯苓(十八銖) 桂枝(半兩、皮を去る)

右五味、散と為し、更に臼中に於て之を杵(つ)き、白飲(はくいん)もて方寸匕(ほうすんひ)を和し、之を服し、日に三服す。多く煖水(だんすい)を飲み、汗出でて愈ゆ。

 

〔白散方〕

桔梗(三分) 巴豆(一分去皮心熬黑研如脂) 貝母(三分)

右三味為散、内巴豆、更於臼中杵之、以白飲和服。強人半錢匕、羸者減之。病在膈上必吐、在膈下必利。不利、進熱粥一杯。利過不止、進冷粥一杯。身熱、皮粟不解、欲引衣自覆。若以水之洗之、益令熱劫不得出、當汗而不汗則煩。假令汗出已、腹中痛、與芍藥三兩如上法。

桔梗(三分) 巴豆(はず)(一分、皮心を去り、熬(い)りて黑くし研(す)りて脂の如くす) 貝母(ばいも)(三分)

右三味、散と為し、巴豆を内れ、更に臼中に於て之を杵(つ)き、白飲を以て和し服す。強人は半錢匕、羸者(るいしゃ)は之を減ず。病膈上に在れば必ず吐し、膈下に在れば必ず利す。利せざれば、熱粥(ねつしゅく)一杯を進む。

利過ぎて止まざれば、冷粥(れいしゅく)一杯を進む。身熱して皮粟(ひぞく)解せず、衣を引き自ら覆(おお)わんと欲す。若し水を以て之を潠(ふ)き之を洗えば、益々熱劫(おびや)かされて出ずることを得ざらしむ、

當に汗すべくして汗せざれば則ち煩す。假令(たと)えば汗出で已(おわ)り、腹中痛めば、芍藥三兩を與うること上法の如くす。

 

【第一四二条】太陽與少陽併病、頭項強痛、或眩冒、時如結胸、心下痞者、當刺大椎第一間、肺愈、肝兪、慎不可發汗。發汗則語、脉弦、五日語不止、當刺期門。八。

太陽と少陽の併病(へいびょう)、頭項強痛、或は眩冒(げんぼう)し、時に結胸の如く、心下痞鞕する者は、當に大椎第一間、肺愈、肝兪を刺すべし。慎(つつし)んで汗を發す可からず。汗を發すれば則ち讝語(せんご)す。脉弦、五日にして讝語止まざれば、當に期門を刺すべし。八。

 

【第一四三条】婦人中風、發熱惡寒、經水適来、得之七八日、熱除而脉遲、身涼、胸脇下滿、如結胸語者、此為熱入血室也。當刺期門、隨其實而取之。九。

婦人中風、發熱惡寒し、經水(けいすい)適(たまた)ま来る、之を得て七、八日、熱除きて脉遲、身涼しく、胸脇の下(した)滿ちること結胸狀の如く、讝語する者は、此れ熱血室に入ると為すなり。當に期門を刺すべし、其の實するに隨って之を取る。九。

 

【第一四四条】婦人中風、七八日續得寒熱、發作有時、經水適斷者、此為熱入血室、其血必結、故使如瘧發作有時、小柴胡湯主之。方十。

婦人中風、七、八日續いて寒熱を得(え)、發作に時有り、經水(けいすい)適(たまた)ま斷つ者は、此れ熱血室に入ると為す。其の血必ず結(けっ)す。故に瘧狀(ぎゃくじょう)の如く發作に時有らしむ。小柴胡湯之を主る。方十。

 

〔小柴胡湯方〕

柴胡(半斤) 黄(三兩) 人參(三兩) 半夏(半升洗) 甘草(三兩) 生薑(三兩切) 大棗(十二枚擘)

右七味、以水一斗二升、煮取六升、去滓、再煎取三升、温服一升、日三服。

柴胡(半斤) 黄芩(三兩) 人參(三兩) 半夏(半升洗う) 甘草(三兩) 生薑(三兩切る) 大棗(十二枚擘く)

右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取り、滓を去り、再煎して三升を取り、一升を温服し、日に三服す。

 

【第一四五条】婦人傷寒、發熱、經水適来、晝日明了、暮則語、如見鬼者、此為熱入血室。無犯胃氣、及上二焦、必自愈。十一。

婦人傷寒、發熱し、經水(けいすい)適(たまた)ま来り、晝日(ちゅうじつ)は明了(めいりょう)なるも、暮(くれ)れば則ち讝語し、鬼狀(きじょう)を見(あら)わすが如くなる者は、此れ熱血室(けっしつ)に入ると為す。胃氣及び上の二焦を犯すこと無ければ必ず自(おのずか)ら愈ゆ。十一。

 

【第一四六条】傷寒六、七日、發熱、微惡寒、支節煩疼、微嘔、心下支結、外證未去者、柴胡桂枝湯主之。方十二。

傷寒六、七日、發熱、微惡寒(びおかん)、支節(しせつ)煩疼(はんとう)、微嘔(びおう)、心下支結(しけつ)し、外證未だ去らざる者は、柴胡桂枝湯之を主る。方十二。

 

〔柴胡桂枝湯方〕

桂枝(去皮) 黄(一兩半) 人參(一兩半) 甘草(一兩炙) 半夏(二合半洗) 芍藥(一兩半) 大棗(六枚擘) 生薑(一兩半切) 柴胡(四兩)

右九味、以水七升、煮取三升、去滓、温服一升。本云人參湯、作如桂枝法、加半夏、柴胡、黄、復如柴胡法。今用人參作半劑。

桂枝(皮を去り) 黄芩(一兩半) 人參(一兩半) 甘草(一兩炙る) 半夏(二合半洗う) 芍藥(一兩半) 大棗(六枚擘く) 生薑(一兩半切る) 柴胡(四兩)

右九味、水七升以て、煮て三升取り、滓を去り、一升を温服す。本(もと)云う人參湯、作(つく)ること桂枝の法の如く、半夏、柴胡、黄芩を加え、復た柴胡の法の如く。今、人參を用い半劑(はんざい)と作(な)すと。

 

【第一四七条】傷寒五六日、已發汗而復下之、胸脇滿微結、小便不利、而不嘔、但頭汗出、往来寒熱、心煩者、此為未解也。柴胡桂枝乾薑湯主之。方十三。

傷寒五、六日、已(すで)に汗を發して復た之を下し、胸脇滿微結(びけつ)、小便不利、渴して嘔せず、但だ頭汗(づかん)出で、往来寒熱、心煩する者は、此れ未だ解(げ)せずと為すなり。柴胡桂枝乾薑湯(さいこけいしかんきょうとう)之を主る。方十三。

 

〔柴胡桂枝乾薑湯方〕

柴胡(半斤) 桂枝(三兩去皮) 乾薑(二兩) 樓根(四兩) 黄(三兩) 牡蠣(二兩熬) 甘草(二兩炙) 

右七味、以水一斗二升、煮て六升を取り、去滓、再煎取三升、温服一升、日三服。初服微煩、復服汗出便愈。

柴胡(半斤) 桂枝(三兩皮を去り) 乾薑(二兩) 栝樓根(かろこん)(四兩) 黄芩(三兩) 牡蠣(ぼれい)(二兩熬る) 甘草(二兩炙る) 

右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取り、滓を去り、再煎し三升を取り、一升を温服し、日に三服す。初め服して微煩(びはん)し、復た服して汗出でて便(すなわ)ち愈ゆ。

 

【第一四八条】傷寒五六日、頭汗出、微惡寒、手足冷、心下滿、口不欲食、大便、脉細者、此為陽微結、必有表、復有裏也。脉沈、亦在裏也。汗出、為陽微。假令純陰結、不得復有外證、悉入在裏、此為半在裏半在外也。脉雖沈緊、不得為少陰病。所以然者、陰不得有汗、今頭汗出、故知非少陰也、可與小柴胡湯。設不了了者、得屎而解。十四(用前第十方)。

傷寒五六日、頭汗(づかん)出で、微(び)惡寒し、手足冷え、心下滿ち、口食を欲せず、大便鞕(かた)く、脉細の者は、此れ陽微結(ようびけつ)と為す、必ず表有り、復た裏有るなり。脉沈なるも、亦(ま)た裏在るなり。汗出ずるは、陽微(ようび)と為す。假令(たと)えば純陰(じゅんいん)結すれば、復た外證有ることを得ず、悉(ことごと)く入りて裏在り、此れ半(なか)ば裏に在り半ば外に在りと為すなり。

脉沈緊なりと雖(いえど)も、少陰病と為すを得ず。然(しか)る所以(ゆえん)の者は、陰は汗有るを得ざるに、今頭汗(づかん)出ずるが故に少陰に非ざるを知るなり。小柴胡湯を與うべし。設(も)し了了(りょうりょう)とせざる者は、屎(し)を得て解(げ)す。十四(前の第十方を用う)。

 

【第一四九条】傷寒五六日、嘔而發熱者、柴胡湯證具、而以他藥下之、柴胡證仍在者、復與柴胡湯。此雖已下之、不為逆、必蒸蒸而振、却發熱汗出而解。若心下滿而痛者、此為結胸也、大陷胸湯主之。但滿而不痛者、此為痞、柴胡不中與之、宜半夏瀉心湯。方十五。

傷寒五、六日、嘔して發熱する者は、柴胡湯證具(そな)わる、而(しか)るに他藥(たやく)を以て之を下し、柴胡の證仍(な)お在る者は、復た柴胡湯を與う。此れ已に之を下すと雖も、逆と為さず、必ず蒸蒸(じょうじょう)として振(ふる)い、却って發熱汗出でて解す。若し心下滿して鞕痛(こうつう)する者は、此れを結胸と為すなり。大陷胸湯之を主る。但だ滿して痛まざる者は、此れを痞(ひ)と為す、柴胡之を與(あた)うるに中(あた)らず。半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)に宜し。方十五。

 

〔半夏瀉心湯方〕

半夏(半升洗) 黄 乾薑 人參 甘草(炙各三兩) 黄連(一兩) 大棗(十二枚擘)

右七味、以水一斗、煮取六升、去滓、再煎取三升、温服一升、日三服(一方用半夏一升)。須大陷胸湯者、方用前第二法。

半夏(半升洗う) 黄芩 乾薑 人參 甘草(炙る、各三兩) 黄連(一兩) 大棗(十二枚擘く)

右七味、水一斗を以て、煮て六升を取り、滓を去り、再煎して三升を取り、一升を温服し、日に三服す(一方に半夏一升を用うと)。大陷胸湯を須(もち)いる者は、方前の第二法を用う。

 

【第一五〇条】太陽少陽併病、而反下之、成結胸。心下、下利不止、水漿不下、其人心煩。

太陽と少陽の併病(へいびょう)、而(しか)るに反って之を下し、結胸と成る。心下鞕(かた)く、下利止まず、水漿(すいしょう)入らず、其の人心煩(しんはん)す。

 

【第一五一条】脉浮而緊、而復下之、緊反入裏、則作痞。按之自濡、但氣痞耳。

脉浮にして緊、而(しか)るに復た之を下し、緊反って裏に入れば、則ち痞を作(な)す。之を按じて自(おのずか)ら濡(なん)なるは、但だ氣痞するのみ。

 

【第一五二条】太陽中風、下利、嘔逆、表解者、乃可攻之。其人漐漐汗出、發作有時、頭痛、心下痞滿、引脇下痛、乾嘔、短氣、汗出不惡寒者、此表解裏未和也、十棗湯主之。方十六。

太陽の中風、下利、嘔逆(おうぎゃく)し、表解(げ)する者は、乃ち之を攻むべし。其人漐漐(ちゅうちゅう)として汗出で、發作時有り、頭痛、心下痞して鞕滿(こうまん)し、脇下に引きて痛み、乾嘔、短氣、汗出でて惡寒せざる者は、此れ表解すれども裏未だ和せざるなり、十棗湯(じゅっそうとう)之を主る。方十六。

 

〔十棗湯方〕

芫花(熬) 甘遂 大戟

右三味、等分、各別擣為散。以水一升半、先煮大棗肥者十枚、取八合、去滓、内藥末。強人服一錢匕、羸人服半錢、温服之。平旦服。若下少病不除者、明日更服、加半錢。得快下利後、糜粥自養。

芫花(げんか)(熬る) 甘遂(かんつい) 大戟(だいげき)

右三味、等分し、各別に擣(つ)きて散と為す。水一升半を以て、先ず大棗の肥(ひ)なる者十枚を煮て、八合を取り、滓を去り、藥末(やくまつ)を内(いれ)る。強人(きょうじん)は一錢匕(ひ)を服し、羸人(るいじん)は半錢を服し、之を温服す。平旦(へいたん)に服す。若し下(げ)少なく病除(のぞ)かざる者は、明日更に服し、半錢を加う。快下利(かいげり)を得たる後は、糜粥(びしゅく)もて自(みずか)らを養う。

 

【第一五三条】太陽病、醫發汗、遂發熱、惡寒。因復下之、心下痞。表裏倶、陰陽氣並竭、無陽則陰獨。復加燒鍼、因胸煩、面色青黄、膚者、難治。今色微黄、手足温者、易愈。

太陽病、醫汗を發し、遂に發熱、惡寒す。因りて復た之を下し、心下痞す。表裏倶(とも)に虛し、陰陽の氣並び竭(つ)き、陽無ければ則ち陰獨(ひと)りなり。復た燒鍼(しょうしん)を加え、因りて胸煩す。面色青黄(せいおう)、膚(はだ)瞤(じゅん)する者は、治し難し。今色微黄(びおう)、手足温なる者は、愈え易し。

 

【第一五四条】心下痞、按之濡。其脉關上浮者。大黄黄連瀉心湯主之。方十七。

心下痞し、之を按じて濡(なん)。其の脉關上浮の者は。大黄黄連瀉心湯(だいおうおうれんしゃしんとう)之を主る。方十七。

 

〔大黄黄連瀉心湯方〕

大黄(二兩) 黄連(一兩)

右二味、以麻沸湯二升漬之、須臾絞去滓。分温再服。(臣億等看詳大黄黄連瀉心湯、諸本皆二味、又後附子瀉心湯、用大黄黄連黄附子、恐是前方中亦有黄、後但加附子也、故後云附子瀉心湯、本云加附子也。

大黄(二兩) 黄連(一兩)

右二味、麻沸湯(まふつとう)二升を以て之を漬(ひた)し、須臾(しゅゆ)にして絞り滓を去り。分かち温め再服す。(臣億等看詳大黄黄連瀉心湯、諸本皆二味、又後附子瀉心湯、用大黄黄連黄芩附子、恐是前方中亦有黄芩、後但加附子也、故後云附子瀉心湯、本云加附子也。)

 

【第一五五条】心下痞、而復惡寒、汗出者、附子瀉心湯主之。方十八。

心下痞して復た惡寒し、汗出ずる者は、附子瀉心湯(ぶししゃしんとう)之を主る。方十八。

 

〔附子瀉心湯方〕

大黄(二兩) 黄連(一兩) 黄(一兩) 附子(一枚炮去皮破別煮取汁)

右四味、切三味、以麻沸湯二升漬之、須臾絞去滓、内附子汁、分温再服。

大黄(二兩) 黄連(一兩) 黄芩(一兩) 附子(一枚、炮じて皮を去り、破り別ち、煮て汁を取る)

右四味、三味に切り、麻沸湯(まふつとう)二升を以て之を漬(した)し、須臾(しゅゆ)にして絞り滓を去り、附子汁を内(い)れ、分かち温め再服す。

 

【第一五六条】本以下之、故心下痞、與瀉心湯。痞不解、其人而口燥煩、小便不利者、五苓散主之。十九(用前第七證方)。一方云、忍之一日乃愈。

本(もと)之を下すを以ての故に、心下痞す。瀉心湯(しゃしんとう)を與うれども、痞解(げ)せず、其の人渴して口燥して煩し、小便不利する者は、五苓散之を主る。十九(前の第七證方を用う)。一方に云(い)う、之を忍ぶこと一日にして乃ち愈ゆと。

 

【第一五七条】傷寒汗出解之後、胃中不和、心下痞、乾噫食臭、脇下有水氣、腹中雷鳴下利者、生薑瀉心湯主之。方二十。

傷寒汗出でて解したるの後、胃中和せず、心下痞鞕(ひこう)し、食臭(しょくしゅう)を乾噫(かんあい)し、脇下に水氣有り、腹中雷鳴(ふくちゅうらいめい)、下利する者は、生薑瀉心湯(しょうきょうしゃしんとう)之を主る。方二十。

 

〔生薑瀉心湯方〕

生薑(四兩切) 甘草(三兩炙) 人參(三兩) 乾薑(一兩) 黄(三兩) 半夏(半升洗) 黄連(一兩) 大棗(十二枚擘)

右八味、以水一斗、煮取六升、去滓、再煎取三升。温服一升、日三服。附子瀉心湯、本云加附子、半夏瀉心湯、甘草瀉心湯、同體別名耳。生薑瀉心湯、本云理中人參黄湯、去桂枝、朮、加黄連、并瀉肝法。

生薑(四兩切る) 甘草(三兩炙る) 人參(三兩) 乾薑(一兩) 黄芩(三兩) 半夏(半升洗う) 黄連(一兩) 大棗(十二枚擘く)

右八味、水一斗を以て、煮て六升を取り、滓を去り、再煎して三升を取り。一升を温服し、日に三服す。附子瀉心湯は、本(もと)云う附子を加うと。半夏瀉心湯、甘草瀉心湯は、同體別名なるのみ。生薑瀉心湯は、本云う、理中人參黄芩湯より桂枝、朮を去り、黄連を加う。并(なら)びに瀉肝法(しゃかんほう)なりと。

 

【第一五八条】傷寒中風、醫反下之、其人下利、日數十行、穀不化、腹中雷鳴、心下痞而滿、乾嘔心煩不得安。醫見心下痞、謂病不盡、復下之、其痞益甚。此非結熱、但以胃中、客氣上逆、故使也。甘草瀉心湯主之。方二十一。

傷寒中風、醫反って之を下し、其の人下利すること日に數十行(こう)、穀化(こくか)せず、腹中雷鳴(ふくちゅうらいめい)、心下痞鞕して滿し、乾嘔心煩(かんおうしんぱん)して安を得ず。醫心下痞するを見て、病盡(つ)きずと謂い、復た之を下すに、其の痞(ひ)益々甚し。此れ結熱(けつねつ)に非ず。但だ胃中虛し、客氣上逆するを以ての故に鞕(かた)からしむるなり。甘草瀉心湯之を主る。方二十一。

 

〔甘草瀉心湯方〕

甘草(四兩炙) 黄(三兩) 乾薑(三兩) 半夏(半升洗) 大棗(十二枚擘) 黄連(一兩)

右六味、以水一斗、煮取六升、去滓、再煎取三升。温服一升、日三服。(臣億等謹按、上生薑瀉心湯法、本云理中人參黄湯、今詳瀉心以療痞、痞氣因發陰而生、是半夏生薑甘草瀉心三方、皆本於理中也。其方必各有人參、今甘草瀉心中無者、脱落之也。又按千金并外臺秘要治傷寒𧏾食、用此方、皆有人參、知脱落無疑。

甘草(四兩炙る) 黄芩(三兩) 乾薑(三兩) 半夏(半升洗う) 大棗(十二枚擘く) 黄連(一兩)

右六味、水一斗を以て、煮て六升を取り、滓を去り、再煎して三升を取り。一升を温服し、日に三服す。(臣億等謹按、上生薑瀉心湯法、本云理中人參黄芩湯、今詳瀉心以療痞、痞氣因發陰而生、是半夏生薑甘草瀉心三方、皆本於理中也。其方必各有人參、今甘草瀉心中無者、脱落之也。又按千金并外臺秘要治傷寒𧏾食、用此方、皆有人參、知脱落無疑。)

 

【第一五九条】傷寒服湯藥、下利不止、心下痞、服瀉心湯已、復以他藥下之、利不止。醫以理中與之、利益甚。理中者、理中焦、此利在下焦、赤石脂禹餘粮湯主之。復不止者、當利其小便。赤石脂禹餘粮湯。方二十二。

傷寒、湯藥服して、下利止まず、心下痞鞕す。瀉心湯を服し已(おわ)り、復た他藥を以て之を下すに、利止まず。醫理中(りちゅう)を以て之に與(あた)うるに、利益々甚し。理中なる者は、中焦理(おさ)む、此の利は下焦に在り。赤石脂禹餘粮湯(しゃくせきしうよりようとう)之を主る。復た止まざる者は、當(まさ)に其の小便を利すべし。赤石脂禹餘粮湯。方二十二。

 

〔赤石脂禹餘粮湯方〕

赤石脂(一斤碎) 太一禹餘粮(一斤碎)

右二味、以水六升、煮取二升、去滓、分温三服。

赤石脂(しゃくせきし)(一斤、碎(くだ)く) 太一禹餘粮(たいいつうよりよう)(一斤、碎く)

右二味、水六升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、分かち温め三服す。

 

【第一六〇条】傷寒吐下後、發汗、煩、脉甚微、八九日心下痞、脇下痛、氣上衝咽喉、眩冒、經脉動惕者、久而成痿。

傷寒、吐下の後、汗を發して、虛煩(きょはん)し、脉甚だ微(び)。八、九日にして心下痞鞕し、脇下痛み、氣上りて咽喉に衝(つ)き、眩冒(げんぼう)し、經脉動惕(どうてき)する者は、久しくして痿(い)と成る。

 

【第一六一条】傷寒發汗、若吐、若下、解後、心下痞、噫氣不除者、旋復代赭湯主之。方二十三。

傷寒汗を發し、若くは吐し、若くは下し、解(げ)して後、心下痞鞕し、噫氣(あいき)除かざる者は、旋復代赭湯(せんぷくたいしゃとう)之を主る。方二十三。

 

〔旋復代赭湯方〕

旋復花(三兩) 人參(二兩) 生薑(五兩) 代赭(一兩) 甘草(三兩炙) 半夏(半升洗) 大棗(十二枚擘)

右七味、以水一斗、煮取六升、去滓、再煎取三升。温服一升、日三服。

旋復花(せんぷくか)(三兩) 人參(二兩) 生薑(五兩) 代赭(たいしゃ)(一兩) 甘草(三兩炙る) 半夏(半升洗う) 大棗(十二枚擘く)

右七味、水一斗を以て、煮て六升を取り、滓を去り、再煎して三升を取り。一升を温服し、日に三服す。

 

【第一六二条】下後、不可更行桂枝湯。若汗出而喘、無大熱者、可與麻黄杏子甘草石膏湯。方二十四。

下したる後、更に桂枝湯を行(や)るべからず。若し汗出でて喘(ぜい)し、大熱無き者は、麻黄杏子甘草石膏湯(まおうきょうしかんぞうせっこうとう)を與(あた)うべし。方二十四。

 

〔麻黄杏子甘草石膏湯方〕)

麻黄(四兩) 杏仁(五十箇去皮尖) 甘草(二兩炙) 石膏(半斤碎綿裹)

右四味、以水七升、先煮麻黄、減二升、去白沫、内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升。本云黄耳杯。

麻黄(四兩) 杏仁(五十箇、皮尖を去る) 甘草(二兩、炙る) 石膏(半斤、碎き、綿もて裹む)

右四味、水七升を以て、先ず麻黄を煮て、二升を減じ、白沫を去り、諸藥を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。本(もと)云う黄耳杯(おうじはい)と。

 

【第一六三条】太陽病、外證未除而數下之、遂協熱而利、利下不止、心下痞、表裏不解者、桂枝人參湯主之。方二十五。

太陽病、外證未だ除かざるに數(しば)しば之を下し、遂に協熱(きょうねつ)して利す、利下(りげ)止まず、心下痞鞕し、表裏解せざる者は、桂枝人參湯之を主る。方二十五。

 

〔桂枝人參湯方〕

桂枝(四兩別切) 甘草(四兩炙) 白朮(三兩) 人參(三兩) 乾薑(三兩)

右五味、以水九升、先煮四味、取五升。内桂、更煮取三升、去滓。温服一升、日再夜一服。

桂枝(四兩、別に切る) 甘草(四兩、炙る) 白朮(三兩) 人參(三兩) 乾薑(三兩)

右五味、水九升を以て、先ず四味を煮て、五升を取る。桂(けい)を内れ、更に煮て三升を取り、滓を去る。一升を温服し、日に再び夜に一服す。

 

【第一六四条】傷寒大下後、復發汗、心下痞、惡寒者、表未解也。不可攻痞、當先解表、表解乃可攻痞。解表宜桂枝湯、攻痞宜大黄黄連瀉心湯。二十六(瀉心湯用前第十七方)。

傷寒大いに下したる後、復た發汗し、心下痞し、惡寒する者は、表未(いま)だ解(げ)せざるなり。痞を攻むべからず、當に先ず表を解くべし。表解して乃ち痞を攻むべし。表を解するには桂枝湯に宜しく、痞を攻むるは大黄黄連瀉心湯に宜し。二十六(瀉心湯は前の第十七方を用う)。

 

【第一六五条】傷寒發熱、汗出不解、心中痞、嘔吐而下利者、大柴胡湯主之。二十七(用前第四方)。

傷寒發熱、汗出でて解せず、心中痞鞕し、嘔吐して下利する者は、大柴胡湯之を主る。二十七(前の第四方を用う)。

 

【第一六六条】病如桂枝證、頭不痛、項不強、寸脉微浮、胸中痞、氣上衝咽喉不得息者、此為胸有寒也。當吐之、宜瓜蔕散。方二十八。

病、桂枝の證の如くなるも、頭痛せず、項(うなじ)強らず、寸脉微(すこ)しく浮、胸中痞鞕し、氣咽喉に上衝し、息することを得ざる者は、此れ胸に寒有りと為すなり。當に之を吐すべし。瓜蔕散(かていさん)に宜し。方二十八。

 

〔瓜蔕散方〕

瓜蔕(一分熬黄) 赤小豆(一分)

右二味、各別擣篩、為散已、合治之。取一錢匕、以香一合、用熱湯七合煮作稀糜、去滓、取汁和散、温頓服之。不吐者、少少加。得快吐乃止。諸亡血家、不可與瓜蔕散。

瓜蔕(かてい)(一分、熬(い)りて黄ならしむ) 赤小豆(せきしょうず)(一分)

右二味、各々別に擣(つ)きて篩(ふる)い、散と為し已(おわ)りて、合して之を治(おさ)む。一錢匕(ひ)を取り、香豉(こうし)一合を以て、熱湯七合を用いて煮て稀糜(きび)を作り、滓を去り、汁を取り散に和し、温めて之を頓服す。

吐せざる者は、少少加う。快吐(かいと)を得れば、乃ち止む。諸亡血虛家(しょぼうけっきょか)は、瓜蔕散(かていさん)を與うべからず。

 

【第一六七条】病脇下素有痞、連在臍傍、痛引少腹、入陰筋者、此名藏結、死。二十九。

病、脇下に素(もと)痞有り、連りて臍傍(さいぼう)に在り、痛み少腹に引き、陰筋に入る者は、此れを藏結と名づく、死す。二十九。

 

【第一六八条】傷寒若吐若下後、七八日不解、熱結在裏、表裏倶熱、時時惡風、大、舌上乾燥而煩、欲飲水數升者、白虎加人參湯主之。方三十。

傷寒若しくは吐し、若しくは下したる後、七、八日解せず。熱結裏に在り、表裏倶に熱し、時時惡風し、大いに渴し、舌上乾燥して煩し、水數升飲まんと欲する者は、白虎加人參湯之を主る。方三十。

 

〔白虎加人參湯方〕

知母(六兩) 石膏(一斤碎) 甘草(二兩炙) 人參(二兩) 粳米(六合)

右五味、以水一斗、煮米熟、湯成、去滓、温服一升、日三服。此方、立夏後立秋前、乃可服。立秋後、不可服。正月二月三月尚凛冷、亦不可與服之。與之則嘔利而腹痛、諸亡血家、亦不可與、得之則腹痛利者、但可温之、當愈。

知母(六兩) 石膏(一斤、碎く) 甘草(二兩、炙る) 人參(二兩) 粳米(六合)

右五味、水一斗を以て、煮て米を熟し、湯成りて、滓を去り、一升を温服し、日に三服す。此の方、立夏の後、立秋の前は、乃ち服すべし。立秋の後は、服すべからず。正月二月、三月は尚凛冷(りんれい)にして、亦(ま)た與えて之を服すべからず。

之を與えれば則ち嘔利して腹痛す、諸亡血虛家(しょぼうけっきょか)も、亦ま與うべからず、之を得れば則ち腹痛し利する者は、但(た)だ之を温むべし、當に愈ゆべし。

 

【第一六九条】傷寒無大熱、口燥、心煩、背微惡寒者、白虎加人參湯主之。三十一(用前方)。

傷寒、大熱無く、口燥(かわ)きて渴し、心煩し、背に微(すこ)しく惡寒する者は、白虎加人參湯之を主る。三十一(前方を用いる)。

 

【第一七〇条】傷寒脉浮、發熱、無汗、其表不解、不可與白虎湯。欲飲水、無表證者、白虎加人參湯主之。三十二(用前方)。

傷寒、脉浮、發熱して、汗無く、其の表解せざるは、白虎湯を與うべからず。渴して水を飲まんと欲し、表證無き者は、白虎加人參湯之を主る。三十二(前方を用いる)。

 

【第一七一条】太陽少陽併病、心下、頸項強而眩者、當刺大椎、肺兪、肝兪、慎勿下之。三十三。

太陽と少陽の併病、心下鞕く、頸項強ばりて眩(くら)む者は、當に大椎、肺兪、肝兪を刺すべし、慎んで之を下すなかれ。三十三。

 

【第一七二条】太陽與少陽合病、自下利者、與黄湯。若嘔者、黄加半夏生薑湯主之。三十四。

太陽と少陽の合病、自下利(じげり)する者は、黄芩湯(おうごんとう)を與う。若し嘔する者は、黄芩加半夏生薑湯之を主る。三十四。

 

〔黄湯方〕

(三兩) 芍藥(二兩) 甘草(二兩炙) 大棗(十二枚擘)

右四味、以水一斗、煮取三升、去滓、温服一升、日再、夜一服。

黄芩(三兩) 芍藥(二兩) 甘草(二兩炙る) 大棗(十二枚擘く)

右四味、水一斗以て、煮て三升を取り、去滓、一升を温服す、日に再び、夜に一たび服す。

 

〔黄加半夏生薑湯方〕

(三兩) 芍藥(二兩) 甘草(二兩炙) 大棗(十二枚擘) 半夏(半升洗) 生薑(一兩半一方三兩切)

右六味、以水一斗、煮取三升、去滓、温服一升、日再、夜一服。

黄芩(三兩) 芍藥(二兩) 甘草(二兩炙る) 大棗(十二枚擘く) 半夏(半升洗う) 生薑(一兩半、一方三兩切る)

右六味、水一斗以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す、日に再び、夜に一たび服す。

 

【第一七三条】傷寒、胸中有熱、胃中有邪氣、腹中痛、欲嘔吐者、黄連湯主之。方三十五。

傷寒、胸中に熱有り、胃中に邪氣有り、腹中痛み、嘔吐せんと欲する者は、黄連湯(おうれんとう)之を主る。方三十五。

 

〔黄連湯方〕

黄連(三兩) 甘草(三兩炙) 乾薑(三兩) 桂枝(三兩去皮) 人參(二兩) 半夏(半升洗) 大棗(十二枚擘)

右七味、以水一斗、煮取六升、去滓、温服。晝三夜二。疑非仲景方。

黄連(三兩) 甘草(三兩、炙る) 乾薑(三兩) 桂枝(三兩、皮を去る) 人參(二兩) 半夏(半升洗う) 大棗(十二枚、擘く)

右七味、水一斗を以て、煮て六升を取り、滓を去り、温服す。晝(ひる)に三たび夜に二たびす。疑うらくは仲景の方に非ず。

 

【第一七四条】傷寒八九日、風濕相搏、身體疼煩、不能自轉側、不嘔、不、脉浮者、桂枝附子湯主之。若其人大便(一云臍下心下)、小便自利者、去桂加白朮湯主之。三十六。

傷寒八、九日、風濕(ふうしつ)相(あ)い搏(う)ち、身體疼煩(しんたいとうはん)して、自ら轉側(てんそく)すること能わず、嘔(おう)せず、渴せず、脉浮虛にして濇(しょく)の者は、桂枝附子湯(けいしぶしとう)之を主る。若し其の人大便鞕(かた)く(一云臍下心下鞕)、小便自利する者は、去桂加白朮湯(きょけいかびゃくじゅつとう)之を主る。三十六。

 

〔桂枝附子湯方〕

桂枝(四兩去皮) 附子(三枚炮去皮破) 生薑(三兩切) 大棗(十二枚擘) 甘草(二兩炙)

右五味、以水六升、煮取二升、去滓、分温三服。

桂枝(四兩皮を去る) 附子(三枚、炮じ皮を去り破る) 生薑(三兩切る) 大棗(十二枚擘く) 甘草(二兩炙る)

右五味に、水六升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、分かち温め三服す。

 

〔去桂加白朮湯方〕

附子(三枚炮去皮破) 白朮(四兩) 生薑(三兩切) 甘草(二兩炙) 大棗(十二枚擘)

右五味、以水六升、煮取二升、去滓、分温三服。初一服、其人身如痺、半日許復服之。三服都盡、其人如冒、勿怪。此以附子、朮、併走皮内、逐水氣未得除、故使之耳。法當加桂四兩。此本一方二法。以大便、小便自利、去桂也。以大便不、小便不利、當加桂。附子三枚恐多也、弱家及産婦、宜減服之。

附子(三枚、炮じ皮を去り破る) 白朮(四兩) 生薑(三兩切る) 甘草(二兩炙る) 大棗(十二枚擘く)

右五味、水六升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、分かち温め三服す。初め一服して、其の人身痺(ひ)するが如し、半日許(ばか)りに復た之を服す。三服都(すべ)て盡(つく)し、其の人冒狀(ぼうじょう)の如くなるも、怪しむ勿(な)かれ。此れ附子、朮、併(あわ)せ皮内を走り、水氣を逐(お)いて未だ除くことを得ざるを以ての故に、之をして使(しか)らしむのみ。

法は當に桂(けい)四兩を加うべし。此れ、本(もと)一方に二法あり。大便鞕く、小便自利するを以て、桂を去るなり。大便鞕からず、小便不利するを以て、當に桂を加うべし。附子三枚は、多きを恐るるなり。虛弱家(きょじゃくか)及び産婦は、宜しく減らして之を服すべし。

 

【第一七五条】風濕相搏、骨節疼煩、掣痛不得屈伸、近之則痛劇、汗出短氣、小便不利、惡風不欲去衣、或身微腫者、甘草附子湯主之。方三十七。

風濕(ふうしつ)相い搏(う)ち、骨節疼煩(こっせつとうはん)し、掣痛(せいつう)して屈伸することを得ず、之に近づけば則ち痛み劇しく、汗出でて短氣し、小便不利、惡風して衣を去るを欲せず、或は身(み)微腫(びしゅ)する者は、甘草附子湯(かんぞうぶしとう)之を主る。方三十七。

 

〔甘草附子湯方〕

甘草(二兩炙) 附子(二枚炮去皮破) 白朮(二兩) 桂枝(四兩去皮)

右四味、以水六升、煮取三升、去滓、温服一升、日三服。初服得微汗則解。能食、汗止復煩者、將服五合。恐一升多者、宜服六七合為始。

甘草(二兩、炙る) 附子(二枚、炮じ、皮を去りて破る) 白朮(二兩) 桂枝(四兩、皮を去る)

右四味、水六升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服し、日に三服す。初め服して微汗を得れば則ち解(げ)す。能(よ)く食し、汗止まり、復た煩する者は、

將(まさ)に五合を服すべし。一升の多きを恐るる者は、宜しく服するに六、七合を始めと為す。

 

【第一七六条】傷寒脉浮滑、此以表有熱、裏有寒、白虎湯主之。方三十八。

傷寒脉浮滑なるは、此れ表に熱有り、裏に寒有るを以てなり。白虎湯之を主る。方三十八。

 

〔白虎湯方〕

知母(六兩) 石膏(一斤碎) 甘草(二兩炙) 粳米(六合)

右四味、以水一斗、煮米熟、湯成去滓、温服一升、日三服。(臣億等謹按前篇云熱結在裏、表裏倶熱者、白虎湯主之。又云其表不解、不可與白虎湯。此云脉浮滑、表有熱、裏有寒者、必表裏字差矣。又陽明一證云脉浮遲、表熱裏寒、四逆湯主之。又少陰一證云、裏寒外熱、通脉四逆湯主之、以此表裏自差明矣、千金翼方云白通湯非也。

知母(六兩) 石膏(一斤碎(くだ)く) 甘草(二兩、炙る) 粳米(六合)

右四味、水一斗を以て、煮て米熟し、湯成りて滓を去り、一升を温服し、日に三服す。(臣億等謹按前篇云熱結在裏、表裏倶熱者、白虎湯主之。又云其表不解、不可與白虎湯。此云脉浮滑、表有熱、裏有寒者、必表裏字差矣。又陽明一證云脉浮遲、表熱裏寒、四逆湯主之。又少陰一證云、裏寒外熱、通脉四逆湯主之、以此表裏自差明矣、千金翼方云白通湯非也。)

 

【第一七七条】傷寒脉結代、心動悸、炙甘草湯主之。方三十九。

傷寒脉結代(けったい)、心動悸するは、炙甘草湯(しゃかんぞうとう)之を主る。方三十九。

 

〔炙甘草湯方〕

甘草(四兩炙) 生薑(三兩切) 人參(二兩) 生地黄(一斤) 桂枝(三兩去皮) 阿膠(二兩) 麥門冬(半升去心) 麻仁(半升) 大棗(三十枚擘)

右九味、以清酒七升、水八升、先煮八味、取三升、去滓、内膠消盡、温服一升、日三服。一名復脉湯。

甘草(四兩、炙る) 生薑(三兩、切る) 人參(二兩) 生地黄(しょうじおう)(一斤) 桂枝(三兩、皮を去る) 阿膠(あきょう)(二兩) 麥門冬(ばくもんどう)(半升、心を去る) 麻仁(まにん)(半升) 大棗(三十枚、擘く)

右九味、清酒七升、水八升を以て、先ず八味を煮て、三升を取り、滓を去り、膠烊(きょうよう)を内れて消し盡(つく)し、一升を温服し、日に三服す。一に、復脉湯(ふくみゃくとう)と名づく。

 

【第一七八条】脉按之来緩、時一止復来者、名曰結。又脉来動而中止、更来小數、中有還者反動、名曰結、陰也。脉来動而中止、不能自還、因而復動者、名曰代、陰也、得此脉者必難治。

脉之を按じるに来ること緩(かん)、時に一止(いっし)して復た来る者を、名づけて結と曰う。又、脉来ること動にして中止し、更に来ること小數(しょうさく)、中に還ること有る者の反って動ずるを、名づけて結(けつ)と曰う。陰なり。脉来ること動にして中止し、自(おのずか)ら還ること能わず、因(よ)りて復た動ずる者を、名づけて代(たい)と曰う、陰なり。此の脉を得る者は必ず治し難し。

 

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骨空論篇第六十

 

 本篇は、骨空論であるが、さっと一読して内容に多少まとまりが無いように感じられる。

 おそらく散逸していたものを継ぎ合わせたのではないかと推測されるのですが、読者の方々、いかがでしょう。

 また、治療穴に関しても、全体の気血陰陽の調和という観点から爲されていないように思えるので、筆者はここに記されている治療は取らない。

 骨空とは関係のない督脈流注が記されているが、筆者はこの点が大いに参考になった。

 その理由は、経絡とは一応十四経に分けられているが、本来はひとつのものであるということである。

 王冰の一源三岐論は、太極であると確信した流注の記載である。

 さらに、奇經八脉の位置づけ・意味付けに繋げることが出来たので、いずれ『鍼道 一の会』ブログで公開し、みなさまのご意見を頂きたいと考えております。

 

        原 文 意 訳

 

 黄帝が問うて申された。

 余は風なるものは百病の始まりと聞いているが、鍼でこれらを治するにはどのようにすればよいのであろう。

 岐伯が対して申された。

 風が身体外部から侵入いたしますと、寒さに震えたり汗をかくようになり、頭痛がして身体が重だるく、ゾクゾクとした悪寒がするものであります。

 このような場合、風府穴を用いまして、身体の陰陽を調えます。そして身体の正気が不足していれば補法を用い、邪気が盛んであれば瀉法を用いるのであります。

 風邪が体表にありますと頸項が痛みますが、同じく風府穴を用います。風府穴は椎骨の上方に在ります。

 また風邪を受け、汗をかくようでしたら譩譆穴に施灸します。譩譆穴は、背中の下方に在りまして、脊椎を挟む傍ら三寸のところにあります。

 譩譆穴の所在は、そこを圧して病者にアーアーという声を出させますと、その声の響きが手に伝わってくるところであります。

 風に吹かれることを嫌うものには、眉頭の攅竹穴を刺します。

 後頚部が強ばって寝違えのようになる失枕は、肩の上の横骨の間を取穴いたします。

 また両肘を折り曲げ、肘をそろえた体勢で脊中穴に施灸いたします。

 胸脇から少腹にかけて、痛み脹れる場合は、譩譆を刺します。

 腰痛で、筋が緊張して動かせず、睾丸にまで痛みが及ぶような場合は、八髎と痛むところを刺します。八髎は、腰と尻の間、仙骨部に取ります。

 鼠径部に瘰癧(るいれき)が生じ寒熱するものは、寒府の周囲を刺します。

 寒府は膝の外上部にあります。この寒府は、拝むような体勢を取らせます。足心の湧泉穴は、ひざまずかせて取穴いたします。

 

 任脈は、中極の下の会陰から起こり、毛際に上って腹の深部を循り、さらに関元を上って咽喉に至り、さらに顎に上って顔面を循り目に入ります。

 衝脉は、気街である気衝に起こり、足少陰の経に並びながら臍を挟んで上行し、胸中に至って散じます。

 任脈の病は、男子は腹内が結して七疝となり、女子は帯下と積聚が生じます。

 衝脉の病は、氣逆を起こしまして腹中が引きつり痛みます。

 督脈の病は、背中が強ばってのけぞるかのようになります。

 

 督脈は、少腹から起こり、恥骨中央に下ります。

 女子はここから深部に入り、廷孔に達します。廷孔とは、尿道口です。

 ここから始まる絡脉は、外陰部を循り会陰部を通って肛門側に流れ、ここからの別絡は臀部を繞り足少陰と足太陽の絡脉と合流します。

 そしてその足少陰は、大腿内側後縁を上り、背骨を貫いて腎に属します。

 さらに足太陽は目の内眥に起こり、額を上り百会穴で左右交わり、そこから深く入って脳を絡います。

 さらに脳からまた浅く出て項を下り、肩甲骨の内側を循り、背骨を挟んで腰に下り、ここから深部に入って脊柱起立筋を循ると同時に腎を絡います。

 男子は陰茎をを循り、会陰に至った後は女子と同じであります。

 さらに下腹部から真直ぐに上がる流れは、臍の中央を貫き、さらに上って心を貫いて喉に入り、オトガイに上って唇を環り、さらに上って両目の中央の下に繋がります。

 この督脈が生じる病は、少腹から気が上って心を衝いて痛み、大小便が出なくなる衝疝の病となります。

 女子の場合は、懐妊できない、痔疾、遺溺(尿漏れ)、口乾などの症状が現れます。

 督脈が生じる病には、督脈を治療します。治療点は、督脈上にあります。症状の激しいものは、臍下に取ります。

 

 上気して呼吸音のするものは、缺盆のまん中、喉の中央に取ります。

 その病が、喉に上昇する場合は、その病の進む方向の上方、オトガイを挟むところを取穴します。

 膝の不調で、伸ばすことはできても屈することのできないものは、股部を治します。

 座して膝が痛むものは、環跳穴付近を治します。

 立つと膝に熱を持ったように痛むものは、その膝関節を治します。

 膝の痛みが、足の親指にまで及ぶものは、膝の裏を治します。

 坐ると膝が痛む様子が、何か隠れてはっきりとしないかのようなものは、膝裏の上方を治します。

 膝が痛んで屈伸できないものは背中を治します。

 下肢が折れるかのように痛むものは、足陽明の三里を治するか、もしくは別に足太陽と少陰の滎穴の通谷、然谷を治します。

 膝がだるく痛み、しかも力が入らず長く立っていることのできないものは、足少陽の維である外踝の上五寸の光明穴を治します。

 輔骨の上、横骨の下を楗と申します。

 腸骨・坐骨・恥骨を侠む環跳穴付近を機、

 膝で上下の骨が接するところを骸關、

 膝を挟む骨を連骸、

 連骸の下を輔、

 輔の上を膕、

 膕の上を關、

 頭の横骨を枕とそれぞれ申します。

 

 水に関する兪穴五十七穴は、尻上に五行ありまして、行に五穴あります。

 伏菟の上には二行ありまして、行に五穴あり、左右の一行にそれぞれ五穴あります。

 足の踝上に各一行、行に六穴あります。

 髄空は、脳の後ろ三分の風府穴、頤下の中央部、項で骨にふれない瘂門穴、風府穴の上に在る腦戸穴、尻骨の下の長強穴であります。

 数々の髄空は、面にあって鼻を挟むところ、あるいは口下から両肩にある骨空に在ります。

 両方の肩甲骨の骨空は、肩甲骨の外側にあります。上肢の骨空は、上腕の外側で腕関節からの上方四寸の両骨の間に在ります。

 股骨の上の骨空は、股の外側で膝の上四寸にあります。

 脛の骨空は、輔骨の上端に在ります。股際の骨空は、陰毛中の動脉の下に在ります。

 尻の骨空は、髀骨の後ろから相去る四寸の八髎穴にあります。

 扁骨には、滲み出る筋道にあつまり、髄孔がないのは、髄をおさめているからであります。

 寒熱症状に灸をする方法は、まず項の大椎に患者の年齢と同じ数だけ灸を致します。

 次に尾窮つまり長強穴に同じく年齢に応じた壮数を施します。

 背部の兪穴を視て、陥凹部に施灸いたします。

 上肢を挙げて現れる肩の上の陥凹部に施灸いたします。

 両季脇の間に施灸いたします。

 外踝の上の絶骨の端の陽輔穴に施灸いたします。

 足の小指の次指の間に施灸いたします。

 ふくらはぎの下の陥凹部に施灸いたします。

 外踝の後ろに施灸いたします。

 缺盆の骨の上、これを切して筋のように堅く痛むところに施灸いたします。

 胸の肋間に施灸いたします。

 手の表腕の下に施灸いたします。

 臍下三寸、関元穴に施灸いたします。

 陰毛際の動脉に施灸いたします。

 膝下三寸の分間に施灸いたします。

 足陽明の足の甲の動脉に施灸いたします。

 巓上、百会穴に施灸いたします。

 

 犬に噛まれたところに三壮施灸いたします。つまり噛み傷によって寒熱を生じましたら、犬傷による病を治す方法に従って施灸いたします。

 凡そ、施灸すべきは二十九ヶ所あります。

 食に傷られた場合、施灸しても治らない時は、必ず陽経の実するところを視て何度もその兪穴を刺して実を覗いて後、湯液を処方いたします。

 

          原文と読み下し

黄帝問曰.余聞風者百病之始也.以鍼治之奈何.

岐伯對曰.

風從外入.令人振寒汗出.頭痛身重惡寒.治在風府.調其陰陽.不足則補.有餘則寫.

大風頸項痛.刺風府.風府在上椎.

大風汗出.灸譩譆.譩譆.在背下.侠脊傍三寸所.厭之令病者呼譩譆.譩譆應手.

黄帝問いて曰く。余は聞くに風なるは百病の始めなりと。鍼を以てこれを治するはいかん。

岐伯對して曰く。

風外より入れば、人をして振寒し汗出で、頭痛、身重くして惡寒せしむる。治は風府に在り。其の陰陽を調えるに、不足は則ち補い、有餘は則ち寫す。

大風、頸項痛まば、風府を刺す。風府は上椎に在り。

大風、汗出ずるは、譩譆に灸す。譩譆、背の下、脊を侠む傍ら三寸の所に在り。これを厭(おさ)え、病者をして譩譆と呼ばしめれば、譩譆は手に應ず。

 

從風憎風.刺眉頭.失枕.在肩上横骨間.

折使楡臂齊肘.正灸脊中.

風に從りて風を憎めば、眉頭を刺す。失枕は、肩の上の横骨の間に在り。

折りて楡臂(ゆひ)せしめて、肘に齊(ひと)しく正し、脊中に灸す。

 

絡季脇.引少腹而痛脹.刺譩譆.

䏚絡季脇、少腹に引きて痛脹するは、譩譆を刺す。

 

 

腰痛不可以轉搖.急引陰卵.刺八髎與痛上.八髎.在腰尻分間.

腰痛み以て轉搖すべからず、陰卵に急引するは、八髎と痛上を刺す。八髎、腰と尻の分間に在り。

 

鼠瘻寒熱.還刺寒府.寒府.在附膝外解營.取膝上外者.使之拜.取足心者.使之跪.

鼠瘻の寒熱は、還りて寒府を刺す。寒府、膝に附く外解の營に在り。膝の上の外なる者を取るに、これをして拜せしめ、足心を取るには、これをして跪(ひざまず)かしむ。

 

任脉者.起於中極之下.以上毛際.循腹裏.上關元.至咽喉.上頤.循面入目.

衝脉者.起於氣街.並少陰之經.侠齊上行.至胸中而散.

任脉爲病.男子内結七疝.女子帶下聚.

衝脉爲病.逆氣裏急.

任脉は、中極の下に起こり、以て毛際を上り、腹裏を循り、關元に上り、咽喉に至り、頤を上り、面を循りて目に入る。

衝脉は、氣街に起こり、少陰の經に並び、齊を侠んで上行し、、胸中に至りて散ず。

任脉の病たるや、男子は内結七疝す。女子は帶下瘕聚す。

衝脉の病たるや、逆氣して裏急す。

 

督脉爲病.脊強反折.

督脉者.起於少腹.以下骨中央.

女子入繋廷孔.其孔.溺孔之端也.

其絡循陰器.合簒間.繞簒後.別繞臀.至少陰.與巨陽中絡者合.少陰上股内後廉.貫脊屬腎.與太陽起於目内眥.上額交巓上.入絡腦還出別下項.循肩髆内.侠脊抵腰中.入循膂絡腎.

其男子循莖.下至簒.與女子等.其少腹直上者.貫齊中央.上貫心入喉.上頤環脣.上繋兩目之下中央.

此生病.從少腹上.衝心而痛.不得前後.爲衝疝.

其女子不孕.癃痔遺溺乾.

督脉生病.治督脉.治在骨上.甚者在齊下營.

督脉の病たるや、脊強ばりて反折す。

督脉は、少腹に起こり、以て骨の中央を下る。

女子は入りて廷孔に繋がる。其の孔、溺孔の端なり。

其の絡は陰器を循り、簒間に合し、簒後を繞る。別れて臀を繞り、少陰に至り、巨陽の中絡と合す。少陰は股内の後廉を上り、脊を貫き腎に屬す。太陽と目の内眥に起こり、額を上り巓上に交わる。入りて腦を絡い、還り出でて別れ項を下り、肩髆の内を循り、脊を侠んで腰中に抵(あた)り、入りて膂を循り腎を絡う。

其の男子は莖を循り、下りて簒に至り、と女子等し。其の少腹より直上し、齊の中央を貫き、上りて心を貫き喉に入り、頤を上りて脣を環り、上りて兩目の下の中央に繋がる。

此れ病を生ずるは、少腹より上り、心を衝きて痛み、前後するを得ず。衝疝と爲す。

其の女子は孕(はら)まず、癃痔し遺溺し乾す。

督脉の病を生ずるは、督脉を治す。治は骨上に在り。甚だしきは、齊下の營に在り。

 

其上氣有音者.治其喉中央.在缺盆中者.

其病上衝喉者.治其漸.漸者.上侠頤也.

其の上氣して音有るは、其の喉の中央、缺盆の中に在る者を治す。

其の病、喉に上衝するは、其の漸(ぜん)を治す。漸なるは、上りて頤を挾むなり。

 

蹇膝伸不屈.治其楗.

坐而膝痛.治其機.

立而暑解.治其骸關.

膝痛.痛及拇指.治其膕.

坐而膝痛.如物隱者治其關.

膝痛不可屈伸.治其背内.

連胻若折.治陽明中兪髎.

若別.治巨陽少陰滎.

淫濼脛痠.不能久立.治少陽之維.在外上五寸.

蹇(けん)膝伸びて屈せざるは、其の楗(けん)を治す。

坐して膝痛むは、其の機を治す。

立ちて暑解するは、其の骸關を治す。

膝痛み、痛み拇指に及ぶは、其の膕を治す。

坐して膝痛むこと、物の隱れるが如きは、其の關を治す。

膝痛みて屈伸すべからずは、其の背内を治す。

胻に連なりて折れるが若きは、陽明中の兪髎を治す。

別れるが若きは、巨陽少陰の滎を治す。

淫濼(いんらく)し脛痠して久しく立つこと能わず。少陽の維、外上五寸に在るを治す。

 

輔骨上横骨下爲楗.

侠臗爲機.

膝解爲骸關.

侠膝之骨爲連骸.

骸下爲輔.

輔上爲膕.

膕上爲關.

頭横骨爲枕.

輔骨の上、横骨の下を楗と爲す。

臗を侠むを機と爲す。

膝の解を骸關と爲す。

膝の骨を侠むを連骸と爲す。

骸の下を輔と爲す。

輔の上を膕と爲す。

膕の上を關と爲す。

頭の横骨を枕と爲す。

 

水兪五十七穴者.尻上五行.行五.

伏菟上兩行.行五.左右各一行.行五.

踝上各一行.行六穴.

髓空.在腦後三分.在顱際鋭骨之下.一在斷基下.一在項後中.復骨下.一在脊骨上空.在風府上.

脊骨下空.在尻骨下空.

數髓空.在面侠鼻.或骨空.在口下.當兩肩.

兩髆骨空.在髆中之陽.臂骨空.在臂陽.去踝四寸.兩骨空之間.

股骨上空.在股陽.出上膝四寸.

䯒骨空.在輔骨之上端.股際骨空.在毛中動下.

尻骨空.在髀骨之後.相去四寸.

扁骨有滲理湊.無髓孔.易髓無空.

水兪五十七穴なる者は、尻上に五行、行に五。

伏菟の上に兩行。行に五。左右に各おの一行、行に五。

踝上に各おの一行、行に六穴。

髓空は、腦後三分に在りて、顱際の鋭骨の下に在り。一は斷基の下に在り。一は項の後中、復骨の下に在り。一は脊骨の上空にありて、風府の上に在り。

脊骨の下空は、尻骨の下空に在り。數髓空は、面に在りて鼻を侠む。或いは骨空の口下の兩肩に當たるに在り。

兩髆の骨空は、髆中の陽に在り。臂の骨空は、臂陽、踝を去ること四寸、兩骨空の間に在り。

股骨の上空は、股陽、膝の上を出ること四寸に在り。

䯒の骨空は、輔骨の上端に在り。股際の骨空は、毛中の動下に在り。

尻の骨空は、髀骨の後、相い去ること四寸に在り。

扁骨に滲理在りて湊(あつま)る。髓孔無く、髄を易(おさ)めて空無し。

 

灸寒熱之法.先灸項大椎.以年爲壯數.次灸橛骨.以年爲壯數.

視背兪陷者灸之.

擧臂肩上陷者灸之.

兩季脇之間灸之.

外踝上絶骨之端灸之.

足小指次指間灸之.

腨下陷脉灸之.

外踝後灸之.

缺盆骨上.切之堅痛如筋者.灸之.

膺中陷骨間灸之.

掌束骨下灸之.

齊下關元三寸灸之.

毛際動脉灸之.

膝下三寸分間灸之.

足陽明跗上動脉灸之.

巓上一灸之.

寒熱に灸するの法、先ず項の大椎に灸し、年を以て壯數と爲す。次いで橛骨(けつこつ)に灸し、年を以て壯數と爲す。

背兪を視て陷なる者は、これに灸す。

臂を擧げ肩上陷む者は、これに灸す。

兩季脇の間、これに灸す。

外踝の上、絶骨の端、これに灸す。

足の小指の次指の間、これに灸す。

腨下の陷脉、これに灸す。

外踝の後、これに灸す。

缺盆の骨の上、これを切して堅く痛むこと筋の如き者、これに灸す。

膺中の陷骨の間、これに灸す。

掌の束骨の下、これに灸す。

齊下關元三寸、これに灸す。

毛際の動脉、これに灸す。

膝下三寸の分間、これに灸す。

足の陽明の跗上の動脉、これに灸す。

巓上の一、これに灸す。

 

犬所齧之處.灸之三壯.即以犬傷病法灸之.

凡當灸二十九處.

傷食灸之.不已者.必視其經之過於陽者.數刺其兪而藥之.

犬の齧(か)む所の處、これに灸すること三壯。即ち犬傷病法を以て、これに灸す。

凡(すべ)て當に二十九處に灸すべ。

傷食、これに灸し、已えざる者は、必ず其の經の陽にこれ過ぐるを視て、數しば其の兪を刺してこれに薬す。

 

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辨太陽病脉證并治中(2)81~127条

 志ある学徒の、簡便な道具にならんことを願って読み下し文を記しています。

 また初学者のため、重複の労をいとわずルビをふっています。

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 底本 趙開美刊 「仲景全書」所収 『傷寒論』十巻

                    日本漢方協会学術部 編 東洋学術出版社

  辨太陽病脉證并治中(2)81~127条

                第六(合六十六法方三十九首并見太陽陽明合病法)

 

【第八一条】

凡用梔子湯、病人舊微溏者、不可與服之。

凡(およ)そ梔子湯を用うるに、病人舊微溏(もとびとう)する者は、之を與え服すべからず。

 

【第八二条】

太陽病發汗、汗出不解、其人仍發熱、心下悸、頭眩、身動、振振欲(一作僻)地者、真武湯主之。方四十三。

太陽病、發汗し、汗出でて解けず、其の人仍(な)お發熱、心下悸、頭眩(づげん)、身瞤動(みじゅんどう)し、振振(しんしん)として(一作僻)地に擗(たお)れんと欲する者は、真武湯(しんぶとう)之を主る。方四十三。

 

〔真武湯方〕

茯苓 芍藥 生薑(各三兩切) 白朮(二兩) 附子(一枚炮去皮破八片)

右五味、以水八升、煮取三升、去滓、温服七合、日三服。

茯苓 芍藥 生薑(各三兩切り) 白朮(二兩) 附子(一枚炮(ほう)じて皮を去り八片を破る)

右五味、水八升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、七合を温服す、日に三服す。

 

【第八三条】

咽喉乾燥者、不可發汗。

咽喉乾燥する者、發汗すべからず。

 

【第八四条】

淋家、不可發汗、發汗必便血。

淋家(りんか)、發汗すべからず、發汗すれば必ず便血す。

 

【第八五条】

瘡家、雖身疼痛、不可發汗、汗出則

瘡家(そうか)は、身疼痛すと雖(いえど)も、發汗すべからず、汗出ずれば則ち痓(けい)す。

 

【第八六条】

衄家、不可發汗、汗出必額上陷、脉急緊、直視不能(音喚又胡絹切下同一作瞬)不得眠。

衄家(じくか)、發汗すべからず、汗出ずれば必ず額上(がくじょう)の陷脉(かんみゃく)急緊(きゅうきん)し、直視眴(じゅん)ずること能わず眠ることを得ず(音喚又胡絹切下同一作瞬)。

 

【第八七条】亡血家、不可發汗、發汗則寒慄而振。

亡血家(ぼうけつか)、發汗すべからず、發汗すれば則ち寒慄(かんりつ)して振す。

 

【第八八条】

汗家、重發汗、必恍惚心亂、小便已陰疼、與禹餘粮丸。四十四。(方本闕)

汗家(かんか)、重ねて發汗すれば、必ず恍惚として心亂(みだ)れ、小便已(おわ)りて陰疼(いた)む、禹餘粮丸(うよりょうがん)を與う。四十四。(方は本(もと)闕(か)く)

 

【第八九条】

病人有寒、復發汗、胃中冷、必吐(一作逆)。

病人寒有り、復た發汗し、胃中冷えれば、必ず蚘(かい)を吐す(一作逆)

 

【第九〇条】

本發汗、而復下之、此為逆也。若先發汗、治不為逆。本先下之、而反汗之、為逆。若先下之、治不為逆。

本(もと)發汗し、而(しこう)して復た之を下すは、此れ逆を為すなり。若し先ず發汗するは、治は逆と為さず。本先ず之を下し、而して反って之を汗するは、逆と為す。若し先ず之を下すは、治は逆と為さず。

 

【第九一条】

傷寒、醫下之、續得下利清穀不止、身疼痛者、急當救裏。後身疼痛、清便自調者、急當救表、救裏宜四逆湯、救表宜桂枝湯。四十五(前の第十二方を用う)。

傷寒、醫之を下し、續いて下利を得て清穀止まず、身(み)疼痛する者は、急いで當(まさ)に裏を救うべし。後(のち)身疼痛し、清便自ら調う者は、急いで當に表を救うべし、裏を救うには四逆湯に宜しく、表を救うには桂枝湯に宜し。四十五(前に第十二方を用う)。

 

【第九二条】

病發熱、頭痛、脉反沈、若不差、身體疼痛、當救其裏。

病(やまい)發熱、頭痛し、脉反って沈(ちん)、若し差えず、身體疼痛するは、當に其の裏を救うべし。

 

〔四逆湯方〕

甘草(二兩炙) 乾薑(一兩半) 附子(一枚生用去皮破八片)

右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、分温再服、強人可大附子一枚、乾薑三兩。

甘草(二兩炙る) 乾薑(一兩半) 附子(一枚、生を用い、皮を去り、八片を破る)

右三味、水三升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温め再服す。強人は、大附子一枚、乾薑三兩とすべし。

 

【第九三条】

太陽病、先下而不愈、因復發汗。以此表裏倶虚、其人因致冒、冒家汗出自愈。所以然者、汗出表和故也。裏未和然後復下之。

太陽病、先ず下して愈えず、因(よ)りて復た發汗す。此れを以て表裏倶に虚し、其の人因りて冒(ぼう)を致す、冒家(ぼうか)は汗出ずれば自ら愈ゆ。

然(しか)る所以(ゆえん)の者は、汗出ずれば表和するが故なり。裏未だ和せざれば然る後に復た之を下す。

 

【第九四条】

太陽病未解、脉陰陽倶停(一作微)、必先振慄、汗出而解。但陽脉微者、先汗出而解。但陰脉微(一作尺脉實)者、下之而解。若欲下之、宜調胃承氣湯。四十六(用前第三十三方一云用大柴胡湯)。

太陽病未だ解(げ)せず、脉陰陽倶に停まるは(一作微)、必ず先ず振慄(しんりつ)し、汗出でて解す。但だ陽脉微の者は、先ず汗出でて解す。但だ陰脉微の(一作尺脉實)者は、之を下せば解す。若し之を下さんと欲すれば、調胃承氣湯(ちょういじょうきとう)に宜し。四十六(前の第三十三方を用う、一に云う、大柴胡湯を用う)。

 

【第九五条】

太陽病、發熱、汗出者、此為榮弱衛強、故使汗出。欲救邪風者、宜桂枝湯。四十七(方用前法)。

太陽病、發熱し、汗出ずる者は、此れ榮弱衛強(えいじょくえきょう)と為す、故に汗を出さしむる。邪風(じゃふう)を救わんと欲する者は、桂枝湯に宜し。四十七(方は前法を用う)。

 

【第九六条】

傷寒五六日中風、往来寒熱、胸脇苦滿、嘿嘿不欲飲食、心煩喜嘔、或胸中煩而不嘔、或、或腹中痛、或脇下痞、或心下悸、小便不利、或不、身有微熱、或者、小柴胡湯主之。方四十八。

傷寒五六日中風、往来寒熱、胸脇苦滿、嘿嘿(もくもく)として飲食欲せず、心煩喜嘔(きおう)し、或いは胸中煩して嘔せず、或いは渇っし、或いは腹中痛み、或いは脇下(きょうか)痞鞕し、或いは心下悸し、小便利せず、或いは渇せず、身に微熱有り、或いは欬(がい)する者は、小柴胡湯之を主る。方四十八。

 

〔小柴胡湯方〕

柴胡(半斤) 黄(三兩) 人參(三兩) 半夏(半升洗) 甘草(炙) 生薑(各三兩切) 大棗(十二枚擘)

右七味、以水一斗二升、煮取六升、去滓、再煎取三升、温服一升、日三服。若胸中煩而不嘔者、去半夏人參、加樓實一枚。若、去半夏、加人參合前成四兩半、樓根四兩。若腹中痛者、去黄、加芍藥三兩。若脇下痞、去大棗、加牡蠣四兩。若心下悸、小便不利者、去黄、加茯苓四兩。若不、外有微熱者、去人參、加桂枝三兩、温覆微汗愈。若者、去人參大棗生薑、加五味子半升、乾薑二兩。

柴胡(半斤) 黄芩(三兩) 人參(三兩) 半夏(半升洗う) 甘草(炙る) 生薑(各三兩切る) 大棗(十二枚擘く)

右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取り、滓を去り、再煎して三升を取り、一升を温服し、日に三服す。若し胸中煩して嘔せざる者は、半夏人參を去り、栝樓實(かろじつ)一枚を加う。若し渇するは、半夏を去り、人參を前に合わせて四兩半と成し、栝樓根(かろこん)四兩を加う。若し腹中痛む者は、黄芩を去り、芍藥三兩を加う。若し脇下痞鞕するは、大棗を去り、牡蠣(ぼれい)四兩を加う。若し心下悸し、小便利せざる者は、黄芩を去り、茯苓四兩を加う。若し渇せず、外に微熱有る者は、人參を去り、桂枝三兩を加え、温覆(おんぷく)して微(すこ)しく汗すれば愈ゆ。若し欬する者は、人參、大棗、生薑を去り、五味子半升、乾薑二兩を加う。

 

【第九七条】

血弱、氣盡、理開、邪氣因入、與正氣相搏、結於脇下。正邪分爭、往来寒熱、休作有時、嘿嘿不欲飲食。藏府相連、其痛必下、邪高痛下、故使嘔也(一云藏府相違其病必下脇鬲中痛)、小柴胡湯主之。服柴胡湯已、者屬陽明、以法治之。四十九(用前方)。

血弱く、氣盡(つ)き、腠理開き、邪氣因(よ)りて入り、正氣と相(あ)い搏(う)ち、脇下に結ぶ。正と邪と分ち爭い、往来寒熱休作(きゅうさ)に時有り、嘿嘿(もくもく)として飲食欲せず。藏府相い連り、其の痛み必ず下り、邪高く痛み下(ひく)し。故に嘔せしむるなり(一云藏府相違其病必下脇鬲中痛)、小柴胡湯之を主る。柴胡湯を服し已(おわ)り、渇する者は陽明に屬す、法を以て之を治す。四十九(前方を用う)。

 

【第九八条】

得病六七日、脉遲浮弱、惡風寒、手足温。醫二三下之、不能食而脇下滿痛、面目及身黄、頸項強、小便難者、與柴胡湯、後必下重。本飲水而嘔者、柴胡湯不中與也、食穀者

病を得ること六、七日、脉遲浮弱、惡風寒し、手足温なり。醫、二三之を下し、食すること能わずして脇下滿痛し、面目(めんもく)及び身(み)黄し、頸項(けいこう)強り、小便難の者は、柴胡湯を與(あた)うれば、後必ず下重す。本渇っし水を飲みて嘔する者は、柴胡湯與うるに中(あた)らざるなり、穀を食する者は噦(えつ)す。

 

【第九九条】

傷寒四五日、身熱、惡風、頸項強、脇下滿、手足温而者、小柴胡湯主之。五十(用前方)。

傷寒四五日、身熱、惡風、頸項強り、脇下滿、手足温にして渇する者は、小柴胡湯之を主る。五十(前方を用う)。

 

【第一〇〇条】

傷寒、陽脉、陰脉弦、法當腹中急痛、先與小建中湯。不差者、小柴胡湯主之。五十一(用前方)。

傷寒、陽脉濇、陰脉弦、法は當(まさ)に腹中急痛するに、先ず小建中湯を與う。差(い)えざる者は、小柴胡湯之を主る。五十一(前方を用う)。

 

〔小建中湯方〕

桂枝(三兩去皮) 甘草(二兩炙) 大棗(十二枚擘) 芍藥(六兩) 生薑(三兩切) 膠飴(一升)

右六味、以水七升、煮取三升、去滓、内飴、更上微火消解。温服一升、日三服。嘔家不可用建中湯、以甜故也。

桂枝(三兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 大棗(十二枚擘く) 芍藥(六兩) 生薑(三兩切る) 膠飴(こうい)(一升)

右六味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、飴を内(い)れ、更に微火(びか)に上(の)せて消解し。一升を温服し、日に三服す。嘔家(おうか)は建中湯を用うべからず。甜(あま)きを以ての故なり。

 

【第一〇一条】

傷寒中風、有柴胡證、但見一證便是、不必悉具。凡柴胡湯病證而下之、若柴胡證不罷者、復與柴胡湯、必蒸蒸而振、却復發熱汗出而解。

傷寒中風、柴胡の證有るは、但だ一證を見(あらわ)せば便ち是なり、必ず悉(ことごと)く具えず。凡そ柴胡湯の病證にして之を下す。若し柴胡の證罷(や)まざる者は、復た柴胡湯を與う、必ず蒸蒸(じょうじょう)として振い、却(かえ)って復た發熱し汗出でて解す。

 

【第一〇二条】

傷寒二三日、心中悸して而煩者、小建中湯主之。五十二(用前第五十一方)。

傷寒二三日、心中悸して煩する者は、小建中湯之を主る。五十二(前の第五十一方を用う)。

 

【第一〇三条】

太陽病、過經十餘日、反二三下之。後四五日、柴胡證仍在者、先與小柴胡。嘔不止、心下急(一云嘔止小安)、鬱鬱微煩者、為未解也、與大柴胡湯、下之則愈。方五十三。

太陽病、過經(かけい)すること十餘日、反って二三之を下す。後四、五日、柴胡の證仍(な)お在(あ)る者は、先ず小柴胡を與う。嘔(おう)止まず、心下急(しんかきゅう)し(一云嘔止小安)、鬱鬱(うつうつ)として微煩(びはん)する者は、未だ解せずと為すなり、大柴胡湯を與え、之を下せば則ち愈ゆ。方五十三。

 

〔大柴胡湯方〕

柴胡(半斤) 黄(三兩) 芍藥(三兩) 半夏(半升洗) 生薑(五兩切) 枳實(四枚炙) 大棗(十二枚擘)

右七味、以水一斗二升、煮取六升、去滓再煎、温服一升、日三服。一方、加大黄二兩。若不加、恐不為大柴胡湯。

柴胡(半斤) 黄芩(三兩) 芍藥(三兩) 半夏(半升洗う) 生薑(五兩切る) 枳實(きじつ)(四枚炙る) 大棗(十二枚擘く)

右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取る、滓を去り再煎し、一升を温服し、日に三服す。一方に、大黄二兩を加う。若し加わざれば、恐らくは大柴胡湯と為さず。

 

【第一〇四条】

傷寒十三日不解、胸脇滿而嘔、日所發潮熱、已而微利。此本柴胡證、下之以不得利、今反利者、知醫以丸藥下之、此非其治也。潮熱者、實也。先宜服小柴胡湯以解外、後以柴胡加芒消湯主之。五十四。

傷寒十三日にして解せず、胸脇滿して嘔し、日晡所(にっぽしょ)潮熱(ちょうねつ)を發し、已(おわ)りて微利(びり)す。此れ本(もと)柴胡の證、之を下して以て利を得ず、今反って利する者は、醫、丸藥(がんやく)を以て之を下したるを知る、此れ其の治に非ざるなり。潮熱する者は、實なり。先ず宜しく小柴胡湯を服し以て外を解くべし。後、柴胡加芒消湯(さいこかぼうしょうとう)を以て之を主る。五十四。

 

〔柴胡加芒消湯方〕

柴胡(二兩十六銖) 黄(一兩) 人參(一兩) 甘草(一兩炙) 生薑(一兩切) 半夏(二十銖本云五枚洗) 大棗(四枚擘) 芒消(二兩)

右八味、以水四升、煮取二升、去滓、内芒消、更煮微沸、分温再服。不解更作。(臣億等謹按、金匱玉函方中無芒消、別一方云、以水七升、下芒消二合、大黄四兩、桑蛸五枚、煮取一升半、服五合、微下即愈。本云柴胡再服以解其外、餘二升加芒消大黄桑蛸也。

柴胡(二兩十六銖) 黄芩(一兩) 人參(一兩) 甘草(一兩炙る) 生薑(一兩切る) 半夏(二十銖、本(もと)云う、五枚、洗う) 大棗(四枚擘く) 芒消(二兩)

右八味、水四升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、芒消(ぼうしょう)を内れ、更に煮て微沸(びふつ)し、分かち温め再服す。解せざれば更に作る。(臣億等謹按、金匱玉函方中無芒消、別一方云、以水七升、下芒消二合、大黄四兩、桑螵蛸五枚、煮取一升半、服五合、微下即愈。本云柴胡再服以解其外、餘二升加芒消大黄桑螵蛸也。)

 

【第一〇五条】

傷寒十三日、過經、語者、以有熱也、當以湯下之。若小便利者、大便當、而反下利、脉調和者、知醫以丸藥下之、非其治也。若自下利者、脉當微厥、今反和者、此為内實也、調胃承氣湯主之。五十五(用前第三十三方)。

傷寒十三日、過經(かけい)し、讝語(せんご)する者は、熱有るを以てなり、當に湯を以て之を下すべし。若し小便利する者は、大便當に鞕(こう)たるべし、而(しか)して反って下利し、脉調和する者は、醫、丸藥を以て之を下すを知る、其れ治に非ざるなり。若し自下利する者は、脉當に微(び)、厥(けつ)すべし。今反って和する者は、此れを内實と為(な)すなり、調胃承氣湯之を主る。五十五(用前第三十三方)。

 

【第一〇六条】

太陽病不解、熱結膀胱、其人如狂、血自下、下者愈。其外不解者、尚未可攻、當先解其外。外解已、但少腹急結者、乃可攻之、宜桃核承氣湯。方五十六(後云解外宜桂枝湯)。

太陽病解せず、熱膀胱に結し、其の人狂の如く、血自ら下る、下る者は愈ゆ。其の外解せざる者は、尚未だ攻むべからず、當に先ず其の外を解すべし。外解し已(おわ)り、但だ少腹急結する者は、乃(すなわ)ち之を攻むべし、桃核承氣湯(とうかくじょうきとう)に宜し。方五十六(後に云う外を解すには桂枝湯に宜しと)。

 

〔桃核承氣湯方〕

桃仁(五十箇去皮尖) 大黄(四兩) 桂枝(二兩去皮) 甘草(二兩炙) 芒消(二兩)

右五味、以水七升、煮取二升半、去滓、内芒消、更上火微沸、下火。先食温服五合、日三服、當微利。

桃仁(五十箇去皮尖) 大黄(四兩) 桂枝(二兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 芒消(二兩)

右五味、水七升を以て、煮て二升半を取り、滓を去り、芒消を内れ、更に火に上(の)せ微沸(びふつ)し、火より下ろす。食に先だちて五合を温服し、日に三服す、當に微利(びり)すべし。

 

【第一〇七条】

傷寒八九日、下之、胸滿、煩驚、小便不利、語、一身盡重、不可轉側者、柴胡加龍骨牡蠣湯主之。方五十七。

傷寒八九日、之を下し、胸滿、煩驚、小便不利、讝語(せんご)し、一身盡(ことごと)く重く、轉側(てんそく)す可からざる者は、柴胡加龍骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)之を主る。方五十七。

 

〔柴胡加龍骨牡蠣湯方〕

柴胡(四兩) 龍骨 黄 生薑(切) 鉛丹 人參 桂枝(去皮) 茯苓(各一兩半) 半夏(二合半洗) 大黄(二兩) 牡蠣(一兩半熬) 大棗(六枚擘)

右十二味、以水八升、煮取四升、内大黄、切如碁子、更煮一兩沸、去滓、温服一升。本云柴胡湯、今加龍骨等。

柴胡(四兩) 龍骨 黄芩 生薑(切る) 鉛丹(えんたん) 人參 桂枝(皮を去る) 茯苓(各一兩半) 半夏(二合半洗る) 大黄(二兩) 牡蠣(ぼれい)(一兩半熬る) 大棗(六枚擘く)

右十二味、水八升を以て、煮て四升を取り、大黄を切りて碁子の如きを内れ、更に煮て一兩沸し、滓を去り、一升を温服す。本云う、柴胡湯に今龍骨等を加うと。

 

【第一〇八条】

傷寒、腹滿、語、寸口脉浮而緊、此肝乘脾也、名曰縱、刺期門。五十八。

傷寒、腹滿(ふくまん)、讝語(せんご)し、寸口脉浮にして緊なるは、此れ肝脾に乘(じょう)ずるなり、名づけて縱(じゅう)と曰く、期門を刺す。五十八。

 

【第一〇九条】

傷寒發熱、嗇嗇惡寒、大欲飲水、其腹必滿、自汗出、小便利、其病欲解、此肝乘肺也、名曰横、刺期門。五十九。

傷寒發熱し、嗇嗇(しょくしょく)として惡寒し、大いに渴して飲水せんと欲す、其の腹必ず滿す、自ずと汗出で、小便利するは、其の病解せんと欲す、此れ肝肺に乘ずるなり、名づけて横と曰う、期門を刺す。五十九。

 

【第一一〇条】

太陽病二日、反躁、凡熨其背而大汗出、大熱入胃(一作二日内燒瓦熨背大汗出火氣入胃)、胃中水竭、躁煩必發語。十餘日振慄自下利者、此為欲解也。故其汗從腰以下不得汗、欲小便不得、反嘔、欲失溲、足下惡風、大便、小便當數、而反不數及不多。大便已、頭卓然而痛、其人足心必熱、穀氣下流故也。

太陽病二日、反って躁す、凡(およ)そ其の背を熨(い)すに、大いに汗出で、大熱胃に入り(一作二日内燒瓦熨背大汗出火氣入胃)、胃中の水竭(つ)き、躁煩し、必ず讝語を發す。十餘日にして振慄(しんりつ)し自下利(じげり)する者は、此れ解せんと欲すと為すなり。故に其の汗腰從(よ)り以下汗するを得ず、小便せんと欲するも得ず、反って嘔(おう)し、失溲(しっしゅう)せんと欲す、足下(そっか)惡風し、大便鞕(かた)く、小便當(まさ)に數(さく)なるべくして、反って數ならず、及び多からず。大便已(おわ)り、頭卓然(たくぜん)として痛み、其の人足心(そくしん)必ず熱す。穀氣(こっき)下流(かりゅう)するが故(ゆえ)なり。

 

【第一一一条】

太陽病中風、以火劫發汗。邪風被火熱、血氣流溢、失其常度、兩陽相熏灼、其身發黄。陽盛則欲衄、陰小便難。陰陽倶竭、身體則枯燥、但頭汗出、劑頸而還。腹滿、微喘、口乾、咽爛、或不大便、久則語、甚者至、手足躁擾、捻衣摸牀。小便利者、其人可治。

太陽病中風、火を以て劫(おびや)かして汗を發す。邪風火熱を被(こうむ)り、血氣流溢(りゅういつ)し、其の常度(じょうど)を失す。兩陽(りょうよう)相(あ)い熏灼(くんしゃく)し、其の身黄(おう)を發す。陽盛んなれば則ち衄(じく)せんと欲し、陰虛すれば小便難(がた)し。陰陽倶(とも)に虛竭(きょけつ)すれば、身體則ち枯燥(こそう)し、但(た)だ頭汗(づかん)出でて、劑頸(ざいけい)して還(かえ)る。腹滿し、微(かす)かに喘(ぜい)し、口乾き、咽(のど)爛(ただ)れ、或は大便せず、久しければ則ち讝語し、甚しき者は噦するに至り、手足躁擾(そうじょう)し、捻衣摸牀(ねんいもしょう)す。小便利する者は、其の人治すべし。

 

【第一一二条】

傷寒脉浮、醫以火迫劫之、亡陽、必驚狂、臥起不安者、桂枝去芍藥加蜀漆牡蠣龍骨救逆湯主之。方六十。

傷寒脉浮、醫、火を以て之を迫劫(はくごう)し、亡陽(ぼうよう)すれば、必ず驚狂(きょうきょう)し、臥起(がき)安らかざる者は、桂枝去芍藥加蜀漆牡蠣龍骨救逆湯(けいしきょしゃくやくかしょくしつぼれいりゅうこつきゅうぎゃくとう)之を主る。方六十。

 

〔桂枝去芍藥加蜀漆牡蠣龍骨救逆湯方〕

桂枝(三兩去皮) 甘草(二兩炙) 生薑(三兩切) 大棗(十二枚擘) 牡蠣(五兩熬) 蜀漆(三兩洗去腥) 龍骨(四兩)

右七味、以水一斗二升、先煮蜀漆、減二升。内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升。本云桂枝湯、今去芍藥、加蜀漆牡蠣龍骨。

桂枝(三兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 生薑(三兩切る) 大棗(十二枚擘く) 牡蠣(五兩熬(い)る) 蜀漆(しょくしつ)(三兩洗いて腥(なまぐさ)を去る) 龍骨(四兩)

右七味、水一斗二升を以て、先ず蜀漆を煮て、二升を減ず。諸藥を内(い)れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。本云う桂枝湯、今芍藥を去り、蜀漆(しょくしつ)、牡蠣(ぼれい)、龍骨を加える。

 

【第一一三条】

形作傷寒、其脉不弦緊而弱。弱者必、被火必語。弱者發熱、脉浮、解之當汗出愈。

形傷寒を作(な)すも、其の脉弦緊ならずして弱なり。弱の者は必ず渴す、火を被(こうむ)れば必ず讝語す。弱の者は發熱し、脉浮なり、之を解するに當に汗出でて愈(い)ゆべし。

 

【第一一四条】

太陽病、以火熏之、不得汗、其人必躁。到經不解、必清血、名為火邪。

太陽病、火を以て之を熏(くん)じ、汗を得ず、其の人必ず躁す。經に到りて解せざれば、必ず清血す、名を火邪と為(な)す。

 

【第一一五条】

脉浮、熱甚、而反灸之、此為實。實以治、因火而動、必咽躁、吐血。

脉浮、熱甚し、而(しか)るに反って之に灸す、此れを實と為す。實に虛を以て治す、火に因りて動ずれば、必ず咽(のど)燥(かわ)き、吐血す。

 

【第一一六条】

微數之脉、慎不可灸。因火為邪、則為煩逆。追逐實、血散脉中。火氣雖微、内攻有力、焦骨傷筋、血難復也。脉浮、宜以汗解、用火灸之、邪無從出、因火而盛、病從腰以下、必重而痺、名火逆也。欲自解者、必當先煩、煩乃有汗而解。何以知之。脉浮、故知汗出解。

微數(びさく)の脉は、慎(つつし)んで灸すべからず。火に因(よ)りて邪を為(な)せば、則ち煩逆(はんぎゃく)を為す。虛を追い實を逐(お)い、血、脉中に散ず。火氣微(び)なりと雖も、内に攻むるに力有り、骨を焦がし筋を傷り、血復(ふく)し難きなり。

脉浮なるは、汗を以て解くに宜(よろ)し。火を用いて之に灸すれば、邪從(よ)りて出ずること無し、火に因りて盛んなり、病腰從(よ)り以下、必ず重くして痺(ひ)す。火逆と名づく也。自ら解せんと欲する者は、必ず當に先に煩すべし、煩すれば乃(すなわ)ち汗有りて解す。

何を以てか之を知る。脉浮故に汗出でて解(げ)するを知る。

 

【第一一七条】

燒鍼令其汗、鍼處被寒、核起而赤者、必發奔豚。氣從少腹上衝心者、灸其核上各一壮、與桂枝加桂湯、更加桂二兩也。方六十一。

燒鍼(しょうしん)其れをして汗せしめ、鍼する處(ところ)寒を被(こうむ)り、核(かく)起こりて赤き者は、必ず奔豚(ほんとん)を發す。氣少腹從(よ)り上りて心を衝(つ)く者は、其の核上(かくじょう)に各一壮を灸し、桂枝加桂湯を與(あた)う。更に桂(けい)二兩を加うるなり。方六十一。

 

〔桂枝加桂湯方〕

桂枝(五兩去皮) 芍藥(三兩) 生薑(三兩切) 甘草(二兩炙) 大棗(十二枚擘)

右五味、以水七升、煮取三升、去滓、温服一升。本云桂枝湯、今加桂滿五兩。所以加桂者、以能泄奔豚氣也。

桂枝(五兩皮を去る) 芍藥(三兩) 生薑(三兩切る) 甘草(二兩炙る) 大棗(十二枚擘く)

右五味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。本(もと)云う桂枝湯に今桂(けい)を加えて滿五兩とす。桂を加うる所以(ゆえん)の者は、以て能(よ)く奔豚の氣を泄(も)らすなり。

 

【第一一八条】

火逆下之、因燒鍼煩躁者、桂枝甘草龍骨牡蠣湯主之。方六十二。

火逆之を下し、燒鍼(しょうしん)に因りて煩躁(はんそう)する者は、桂枝甘草龍骨牡蠣湯(けいしかんぞうりゅうこつぼれいとう)之を主る。方六十二。

 

〔桂枝甘草龍骨牡蠣湯方〕

桂枝(一兩去皮) 甘草(二兩炙) 牡蠣(二兩熬) 龍骨(二兩)

右四味、以水五升、煮取二升半、去滓、温服八合、日三服。

桂枝(一兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 牡蠣(二兩熬る) 龍骨(二兩)

右四味、水五升を以て、煮て二升半を取り、滓を去り、八合を温服し、日に三服す。

 

【第一一九条】

太陽傷寒者、加温鍼必驚也。

太陽の傷寒なる者は、温鍼を加うれば必ず驚(きょう)するなり。

 

【第一二〇条】

太陽病、當惡寒、發熱、今自汗出、反不惡寒、發熱、關上脉細數者、以醫吐之過也。一二日吐之者、腹中飢、口不能食。三四日吐之者、不喜糜粥、欲食冷食、朝食暮吐、以醫吐之所致也、此為小逆。

太陽病、當に惡寒、發熱すべし。今自汗出で、反って惡寒、發熱せず。關上の脉細數の者は、醫(い)之を吐すること過(あやま)るを以てなり。一、二日之を吐する者は、腹中飢え、口に食すること能わず。三、四日之を吐する者は、糜粥(びしゅく)を喜(この)まず、冷食を食せんと欲っし、朝に食して暮に吐す。醫之を吐する以て致す所なり。此を小逆と為す。

 

【第一二一条】

太陽病吐之、但太陽病當惡寒、今反不惡寒、不欲近衣、此為吐之内煩也。

太陽病之を吐す、但だ太陽病は當に惡寒すべし。今反って惡寒せず、衣を近づけることを欲せず。此(こ)れ之(これ)を吐して内煩(ないはん)を為(な)すなり。

 

【第一二二条】

病人脉數。數為熱、當消穀引食。而反吐者、此以發汗、令陽氣微、膈氣、脉乃數也。數為客熱、不能消穀。以胃中冷、故吐也。

病人脉數(さく)なり。數は熱と為す、當に穀(こく)を消し食を引くべし。しかして反って吐する者は、此れ汗を發するを以て、陽氣をして微(び)ならしめ、膈氣(かくき)虛し、脉は乃ち數なり。數は客熱(きゃくねつ)と為し、穀を消すことを能わず。胃中虛冷(きょれい)するを以ての故に吐するなり。

 

【第一二三条】

太陽病、過經十餘日、心下温温欲吐而胸中痛、大便反溏、腹微滿、鬱鬱微煩。先此時自極吐下者、與調胃承氣湯。若不爾者、不可與。但欲嘔、胸中痛、微溏者、此非柴胡湯證、以嘔故知極吐下也。調胃承氣湯。六十三(用前第三十三方)。

太陽病、過經(かけい)十餘日、心下温温(うんうん)として吐せんと欲し、しかして胸中痛み、大便反って溏(とう)、腹微滿(びまん)し、鬱鬱(うつうつ)として微煩(びはん)す。此の時に先(さきだ)ちて自(おのずか)ら吐下(とげ)極まる者は、調胃承氣湯を與う。若し爾(しか)らざる者は、與う可(べ)からず。但だ嘔せんと欲し、胸中痛み、微溏する者は、此れ柴胡湯の證に非ず、嘔するを以ての故に、吐下(とげ)を極むることを知るなり。調胃承氣湯。六十三(用前第三十三方)。

 

【第一二四条】

太陽病六七日、表證仍在、脉微而沈、反不結胸。其人發狂者、以熱在下焦、少腹當滿、小便自利者、下血乃愈。所以然者、以太陽隨經、熱在裏故也。抵當湯主之。方六十四。

太陽病、六七日、表證仍(な)お在(あ)り、脉微(び)にして沈(ちん)、反って結胸(けっきょう)せず。其の人發狂する者は、熱下焦に在るを以て、少腹當(まさ)に鞕滿(こうまん)たるべし。小便自利(じり)する者は、血を下せば乃ち愈ゆ。然(しか)る所以(ゆえん)の者は、太陽經に隨(したが)い、瘀熱(おねつ)裏に在るを以ての故なり。抵當湯(ていとうとう)之を主る。方六十四。

 

〔抵當湯方〕

水蛭(熬) 蟲(各三十箇去翅足熬) 桃仁(二十箇去皮尖) 大黄(三兩酒洗)

右四味、以水五升、煮取三升、去滓、温服一升、不下更服。

水蛭(すいてつ)(熬る) 蝱蟲(ぼうちゅう)(各三十箇翅足(しそく)を去り、熬る) 桃仁(二十箇皮尖を去る) 大黄(三兩酒洗)

右四味、水五升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す、下らざれば、更に服す。

 

【第一二五条】

太陽病、身黄、脉沈結、少腹、小便不利者、為無血也。小便自利、其人如狂者、血證諦也、抵當湯主之。六十五(用前方)。

太陽病、身黄(おう)にして、脉沈結(けつ)、少腹鞕(かた)く、小便不利の者は、血無しと為すなり。小便自利し、其の人狂うが如き者は、血證(けっしょう)諦(あきら)かなり、抵當湯之を主る。六十五(用前方)。

 

【第一二六条】

傷寒有熱、少腹滿、應小便不利、今反利者、為有血也、當下之、不可餘藥、宜抵當丸。方六十六。

傷寒熱有り、少腹滿するは、應(まさ)に小便不利すべし、今反って利する者は、血有りと為すなり、當に之を下すべし、餘藥(よやく)すべからず、抵當丸(ていとうがん)に宜し。方六十六。

 

〔抵當丸方〕

水蛭(二十箇熬) 蟲(二十箇去翅足熬) 桃仁(二十五箇去皮尖) 大黄(三兩)

右四味、擣分四丸。以水一升、煮一丸、取七合服之。時、當下血。若不下者、更服。

水蛭(すいてつ)(二十箇熬る) 蝱蟲(ぼうちゅう)(二十箇翅足(しそく)を去り、熬る) 桃仁(二十五箇皮尖を去る) 大黄(三兩)

右四味、擣(つ)きて四丸に分かつ。水一升を以て、一丸を煮て、七合を取り之を服す。晬時(さいじ)にして、當に血を下すべし。若下さざる者は、更に服す。

 

【第一二七条】

太陽病、小便利者、以飲水多、必心下悸。小便少者、必苦裏急也。

太陽病、小便利する者、水を飲むこと多きを以て、必ず心下悸(き)す。小便少なき者は、必ず裏急(りきゅう)を苦しむなり。

 

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