鍼灸医学の懐

黄帝内経の意訳と解説 最後に原文と読み下しを記しています。

骨空論篇第六十

 

 本篇は、骨空論であるが、さっと一読して内容に多少まとまりが無いように感じられる。

 おそらく散逸していたものを継ぎ合わせたのではないかと推測されるのですが、読者の方々、いかがでしょう。

 また、治療穴に関しても、全体の気血陰陽の調和という観点から爲されていないように思えるので、筆者はここに記されている治療は取らない。

 骨空とは関係のない督脈流注が記されているが、筆者はこの点が大いに参考になった。

 その理由は、経絡とは一応十四経に分けられているが、本来はひとつのものであるということである。

 王冰の一源三岐論は、太極であると確信した流注の記載である。

 さらに、奇經八脉の位置づけ・意味付けに繋げることが出来たので、いずれ『鍼道 一の会』ブログで公開し、みなさまのご意見を頂きたいと考えております。

 

        原 文 意 訳

 

 黄帝が問うて申された。

 余は風なるものは百病の始まりと聞いているが、鍼でこれらを治するにはどのようにすればよいのであろう。

 岐伯が対して申された。

 風が身体外部から侵入いたしますと、寒さに震えたり汗をかくようになり、頭痛がして身体が重だるく、ゾクゾクとした悪寒がするものであります。

 このような場合、風府穴を用いまして、身体の陰陽を調えます。そして身体の正気が不足していれば補法を用い、邪気が盛んであれば瀉法を用いるのであります。

 風邪が体表にありますと頸項が痛みますが、同じく風府穴を用います。風府穴は椎骨の上方に在ります。

 また風邪を受け、汗をかくようでしたら譩譆穴に施灸します。譩譆穴は、背中の下方に在りまして、脊椎を挟む傍ら三寸のところにあります。

 譩譆穴の所在は、そこを圧して病者にアーアーという声を出させますと、その声の響きが手に伝わってくるところであります。

 風に吹かれることを嫌うものには、眉頭の攅竹穴を刺します。

 後頚部が強ばって寝違えのようになる失枕は、肩の上の横骨の間を取穴いたします。

 また両肘を折り曲げ、肘をそろえた体勢で脊中穴に施灸いたします。

 胸脇から少腹にかけて、痛み脹れる場合は、譩譆を刺します。

 腰痛で、筋が緊張して動かせず、睾丸にまで痛みが及ぶような場合は、八髎と痛むところを刺します。八髎は、腰と尻の間、仙骨部に取ります。

 鼠径部に瘰癧(るいれき)が生じ寒熱するものは、寒府の周囲を刺します。

 寒府は膝の外上部にあります。この寒府は、拝むような体勢を取らせます。足心の湧泉穴は、ひざまずかせて取穴いたします。

 

 任脈は、中極の下の会陰から起こり、毛際に上って腹の深部を循り、さらに関元を上って咽喉に至り、さらに顎に上って顔面を循り目に入ります。

 衝脉は、気街である気衝に起こり、足少陰の経に並びながら臍を挟んで上行し、胸中に至って散じます。

 任脈の病は、男子は腹内が結して七疝となり、女子は帯下と積聚が生じます。

 衝脉の病は、氣逆を起こしまして腹中が引きつり痛みます。

 督脈の病は、背中が強ばってのけぞるかのようになります。

 

 督脈は、少腹から起こり、恥骨中央に下ります。

 女子はここから深部に入り、廷孔に達します。廷孔とは、尿道口です。

 ここから始まる絡脉は、外陰部を循り会陰部を通って肛門側に流れ、ここからの別絡は臀部を繞り足少陰と足太陽の絡脉と合流します。

 そしてその足少陰は、大腿内側後縁を上り、背骨を貫いて腎に属します。

 さらに足太陽は目の内眥に起こり、額を上り百会穴で左右交わり、そこから深く入って脳を絡います。

 さらに脳からまた浅く出て項を下り、肩甲骨の内側を循り、背骨を挟んで腰に下り、ここから深部に入って脊柱起立筋を循ると同時に腎を絡います。

 男子は陰茎をを循り、会陰に至った後は女子と同じであります。

 さらに下腹部から真直ぐに上がる流れは、臍の中央を貫き、さらに上って心を貫いて喉に入り、オトガイに上って唇を環り、さらに上って両目の中央の下に繋がります。

 この督脈が生じる病は、少腹から気が上って心を衝いて痛み、大小便が出なくなる衝疝の病となります。

 女子の場合は、懐妊できない、痔疾、遺溺(尿漏れ)、口乾などの症状が現れます。

 督脈が生じる病には、督脈を治療します。治療点は、督脈上にあります。症状の激しいものは、臍下に取ります。

 

 上気して呼吸音のするものは、缺盆のまん中、喉の中央に取ります。

 その病が、喉に上昇する場合は、その病の進む方向の上方、オトガイを挟むところを取穴します。

 膝の不調で、伸ばすことはできても屈することのできないものは、股部を治します。

 座して膝が痛むものは、環跳穴付近を治します。

 立つと膝に熱を持ったように痛むものは、その膝関節を治します。

 膝の痛みが、足の親指にまで及ぶものは、膝の裏を治します。

 坐ると膝が痛む様子が、何か隠れてはっきりとしないかのようなものは、膝裏の上方を治します。

 膝が痛んで屈伸できないものは背中を治します。

 下肢が折れるかのように痛むものは、足陽明の三里を治するか、もしくは別に足太陽と少陰の滎穴の通谷、然谷を治します。

 膝がだるく痛み、しかも力が入らず長く立っていることのできないものは、足少陽の維である外踝の上五寸の光明穴を治します。

 輔骨の上、横骨の下を楗と申します。

 腸骨・坐骨・恥骨を侠む環跳穴付近を機、

 膝で上下の骨が接するところを骸關、

 膝を挟む骨を連骸、

 連骸の下を輔、

 輔の上を膕、

 膕の上を關、

 頭の横骨を枕とそれぞれ申します。

 

 水に関する兪穴五十七穴は、尻上に五行ありまして、行に五穴あります。

 伏菟の上には二行ありまして、行に五穴あり、左右の一行にそれぞれ五穴あります。

 足の踝上に各一行、行に六穴あります。

 髄空は、脳の後ろ三分の風府穴、頤下の中央部、項で骨にふれない瘂門穴、風府穴の上に在る腦戸穴、尻骨の下の長強穴であります。

 数々の髄空は、面にあって鼻を挟むところ、あるいは口下から両肩にある骨空に在ります。

 両方の肩甲骨の骨空は、肩甲骨の外側にあります。上肢の骨空は、上腕の外側で腕関節からの上方四寸の両骨の間に在ります。

 股骨の上の骨空は、股の外側で膝の上四寸にあります。

 脛の骨空は、輔骨の上端に在ります。股際の骨空は、陰毛中の動脉の下に在ります。

 尻の骨空は、髀骨の後ろから相去る四寸の八髎穴にあります。

 扁骨には、滲み出る筋道にあつまり、髄孔がないのは、髄をおさめているからであります。

 寒熱症状に灸をする方法は、まず項の大椎に患者の年齢と同じ数だけ灸を致します。

 次に尾窮つまり長強穴に同じく年齢に応じた壮数を施します。

 背部の兪穴を視て、陥凹部に施灸いたします。

 上肢を挙げて現れる肩の上の陥凹部に施灸いたします。

 両季脇の間に施灸いたします。

 外踝の上の絶骨の端の陽輔穴に施灸いたします。

 足の小指の次指の間に施灸いたします。

 ふくらはぎの下の陥凹部に施灸いたします。

 外踝の後ろに施灸いたします。

 缺盆の骨の上、これを切して筋のように堅く痛むところに施灸いたします。

 胸の肋間に施灸いたします。

 手の表腕の下に施灸いたします。

 臍下三寸、関元穴に施灸いたします。

 陰毛際の動脉に施灸いたします。

 膝下三寸の分間に施灸いたします。

 足陽明の足の甲の動脉に施灸いたします。

 巓上、百会穴に施灸いたします。

 

 犬に噛まれたところに三壮施灸いたします。つまり噛み傷によって寒熱を生じましたら、犬傷による病を治す方法に従って施灸いたします。

 凡そ、施灸すべきは二十九ヶ所あります。

 食に傷られた場合、施灸しても治らない時は、必ず陽経の実するところを視て何度もその兪穴を刺して実を覗いて後、湯液を処方いたします。

 

          原文と読み下し

黄帝問曰.余聞風者百病之始也.以鍼治之奈何.

岐伯對曰.

風從外入.令人振寒汗出.頭痛身重惡寒.治在風府.調其陰陽.不足則補.有餘則寫.

大風頸項痛.刺風府.風府在上椎.

大風汗出.灸譩譆.譩譆.在背下.侠脊傍三寸所.厭之令病者呼譩譆.譩譆應手.

黄帝問いて曰く。余は聞くに風なるは百病の始めなりと。鍼を以てこれを治するはいかん。

岐伯對して曰く。

風外より入れば、人をして振寒し汗出で、頭痛、身重くして惡寒せしむる。治は風府に在り。其の陰陽を調えるに、不足は則ち補い、有餘は則ち寫す。

大風、頸項痛まば、風府を刺す。風府は上椎に在り。

大風、汗出ずるは、譩譆に灸す。譩譆、背の下、脊を侠む傍ら三寸の所に在り。これを厭(おさ)え、病者をして譩譆と呼ばしめれば、譩譆は手に應ず。

 

從風憎風.刺眉頭.失枕.在肩上横骨間.

折使楡臂齊肘.正灸脊中.

風に從りて風を憎めば、眉頭を刺す。失枕は、肩の上の横骨の間に在り。

折りて楡臂(ゆひ)せしめて、肘に齊(ひと)しく正し、脊中に灸す。

 

絡季脇.引少腹而痛脹.刺譩譆.

䏚絡季脇、少腹に引きて痛脹するは、譩譆を刺す。

 

 

腰痛不可以轉搖.急引陰卵.刺八髎與痛上.八髎.在腰尻分間.

腰痛み以て轉搖すべからず、陰卵に急引するは、八髎と痛上を刺す。八髎、腰と尻の分間に在り。

 

鼠瘻寒熱.還刺寒府.寒府.在附膝外解營.取膝上外者.使之拜.取足心者.使之跪.

鼠瘻の寒熱は、還りて寒府を刺す。寒府、膝に附く外解の營に在り。膝の上の外なる者を取るに、これをして拜せしめ、足心を取るには、これをして跪(ひざまず)かしむ。

 

任脉者.起於中極之下.以上毛際.循腹裏.上關元.至咽喉.上頤.循面入目.

衝脉者.起於氣街.並少陰之經.侠齊上行.至胸中而散.

任脉爲病.男子内結七疝.女子帶下聚.

衝脉爲病.逆氣裏急.

任脉は、中極の下に起こり、以て毛際を上り、腹裏を循り、關元に上り、咽喉に至り、頤を上り、面を循りて目に入る。

衝脉は、氣街に起こり、少陰の經に並び、齊を侠んで上行し、、胸中に至りて散ず。

任脉の病たるや、男子は内結七疝す。女子は帶下瘕聚す。

衝脉の病たるや、逆氣して裏急す。

 

督脉爲病.脊強反折.

督脉者.起於少腹.以下骨中央.

女子入繋廷孔.其孔.溺孔之端也.

其絡循陰器.合簒間.繞簒後.別繞臀.至少陰.與巨陽中絡者合.少陰上股内後廉.貫脊屬腎.與太陽起於目内眥.上額交巓上.入絡腦還出別下項.循肩髆内.侠脊抵腰中.入循膂絡腎.

其男子循莖.下至簒.與女子等.其少腹直上者.貫齊中央.上貫心入喉.上頤環脣.上繋兩目之下中央.

此生病.從少腹上.衝心而痛.不得前後.爲衝疝.

其女子不孕.癃痔遺溺乾.

督脉生病.治督脉.治在骨上.甚者在齊下營.

督脉の病たるや、脊強ばりて反折す。

督脉は、少腹に起こり、以て骨の中央を下る。

女子は入りて廷孔に繋がる。其の孔、溺孔の端なり。

其の絡は陰器を循り、簒間に合し、簒後を繞る。別れて臀を繞り、少陰に至り、巨陽の中絡と合す。少陰は股内の後廉を上り、脊を貫き腎に屬す。太陽と目の内眥に起こり、額を上り巓上に交わる。入りて腦を絡い、還り出でて別れ項を下り、肩髆の内を循り、脊を侠んで腰中に抵(あた)り、入りて膂を循り腎を絡う。

其の男子は莖を循り、下りて簒に至り、と女子等し。其の少腹より直上し、齊の中央を貫き、上りて心を貫き喉に入り、頤を上りて脣を環り、上りて兩目の下の中央に繋がる。

此れ病を生ずるは、少腹より上り、心を衝きて痛み、前後するを得ず。衝疝と爲す。

其の女子は孕(はら)まず、癃痔し遺溺し乾す。

督脉の病を生ずるは、督脉を治す。治は骨上に在り。甚だしきは、齊下の營に在り。

 

其上氣有音者.治其喉中央.在缺盆中者.

其病上衝喉者.治其漸.漸者.上侠頤也.

其の上氣して音有るは、其の喉の中央、缺盆の中に在る者を治す。

其の病、喉に上衝するは、其の漸(ぜん)を治す。漸なるは、上りて頤を挾むなり。

 

蹇膝伸不屈.治其楗.

坐而膝痛.治其機.

立而暑解.治其骸關.

膝痛.痛及拇指.治其膕.

坐而膝痛.如物隱者治其關.

膝痛不可屈伸.治其背内.

連胻若折.治陽明中兪髎.

若別.治巨陽少陰滎.

淫濼脛痠.不能久立.治少陽之維.在外上五寸.

蹇(けん)膝伸びて屈せざるは、其の楗(けん)を治す。

坐して膝痛むは、其の機を治す。

立ちて暑解するは、其の骸關を治す。

膝痛み、痛み拇指に及ぶは、其の膕を治す。

坐して膝痛むこと、物の隱れるが如きは、其の關を治す。

膝痛みて屈伸すべからずは、其の背内を治す。

胻に連なりて折れるが若きは、陽明中の兪髎を治す。

別れるが若きは、巨陽少陰の滎を治す。

淫濼(いんらく)し脛痠して久しく立つこと能わず。少陽の維、外上五寸に在るを治す。

 

輔骨上横骨下爲楗.

侠臗爲機.

膝解爲骸關.

侠膝之骨爲連骸.

骸下爲輔.

輔上爲膕.

膕上爲關.

頭横骨爲枕.

輔骨の上、横骨の下を楗と爲す。

臗を侠むを機と爲す。

膝の解を骸關と爲す。

膝の骨を侠むを連骸と爲す。

骸の下を輔と爲す。

輔の上を膕と爲す。

膕の上を關と爲す。

頭の横骨を枕と爲す。

 

水兪五十七穴者.尻上五行.行五.

伏菟上兩行.行五.左右各一行.行五.

踝上各一行.行六穴.

髓空.在腦後三分.在顱際鋭骨之下.一在斷基下.一在項後中.復骨下.一在脊骨上空.在風府上.

脊骨下空.在尻骨下空.

數髓空.在面侠鼻.或骨空.在口下.當兩肩.

兩髆骨空.在髆中之陽.臂骨空.在臂陽.去踝四寸.兩骨空之間.

股骨上空.在股陽.出上膝四寸.

䯒骨空.在輔骨之上端.股際骨空.在毛中動下.

尻骨空.在髀骨之後.相去四寸.

扁骨有滲理湊.無髓孔.易髓無空.

水兪五十七穴なる者は、尻上に五行、行に五。

伏菟の上に兩行。行に五。左右に各おの一行、行に五。

踝上に各おの一行、行に六穴。

髓空は、腦後三分に在りて、顱際の鋭骨の下に在り。一は斷基の下に在り。一は項の後中、復骨の下に在り。一は脊骨の上空にありて、風府の上に在り。

脊骨の下空は、尻骨の下空に在り。數髓空は、面に在りて鼻を侠む。或いは骨空の口下の兩肩に當たるに在り。

兩髆の骨空は、髆中の陽に在り。臂の骨空は、臂陽、踝を去ること四寸、兩骨空の間に在り。

股骨の上空は、股陽、膝の上を出ること四寸に在り。

䯒の骨空は、輔骨の上端に在り。股際の骨空は、毛中の動下に在り。

尻の骨空は、髀骨の後、相い去ること四寸に在り。

扁骨に滲理在りて湊(あつま)る。髓孔無く、髄を易(おさ)めて空無し。

 

灸寒熱之法.先灸項大椎.以年爲壯數.次灸橛骨.以年爲壯數.

視背兪陷者灸之.

擧臂肩上陷者灸之.

兩季脇之間灸之.

外踝上絶骨之端灸之.

足小指次指間灸之.

腨下陷脉灸之.

外踝後灸之.

缺盆骨上.切之堅痛如筋者.灸之.

膺中陷骨間灸之.

掌束骨下灸之.

齊下關元三寸灸之.

毛際動脉灸之.

膝下三寸分間灸之.

足陽明跗上動脉灸之.

巓上一灸之.

寒熱に灸するの法、先ず項の大椎に灸し、年を以て壯數と爲す。次いで橛骨(けつこつ)に灸し、年を以て壯數と爲す。

背兪を視て陷なる者は、これに灸す。

臂を擧げ肩上陷む者は、これに灸す。

兩季脇の間、これに灸す。

外踝の上、絶骨の端、これに灸す。

足の小指の次指の間、これに灸す。

腨下の陷脉、これに灸す。

外踝の後、これに灸す。

缺盆の骨の上、これを切して堅く痛むこと筋の如き者、これに灸す。

膺中の陷骨の間、これに灸す。

掌の束骨の下、これに灸す。

齊下關元三寸、これに灸す。

毛際の動脉、これに灸す。

膝下三寸の分間、これに灸す。

足の陽明の跗上の動脉、これに灸す。

巓上の一、これに灸す。

 

犬所齧之處.灸之三壯.即以犬傷病法灸之.

凡當灸二十九處.

傷食灸之.不已者.必視其經之過於陽者.數刺其兪而藥之.

犬の齧(か)む所の處、これに灸すること三壯。即ち犬傷病法を以て、これに灸す。

凡(すべ)て當に二十九處に灸すべ。

傷食、これに灸し、已えざる者は、必ず其の經の陽にこれ過ぐるを視て、數しば其の兪を刺してこれに薬す。

 

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辨太陽病脉證并治中(2)81~127条

 志ある学徒の、簡便な道具にならんことを願って読み下し文を記しています。

 また初学者のため、重複の労をいとわずルビをふっています。

 誤りを見つけられましたら、どうかコメント欄に投稿をお願いいたします。

 

 底本 趙開美刊 「仲景全書」所収 『傷寒論』十巻

                    日本漢方協会学術部 編 東洋学術出版社

  辨太陽病脉證并治中(2)81~127条

                第六(合六十六法方三十九首并見太陽陽明合病法)

 

【第八一条】

凡用梔子湯、病人舊微溏者、不可與服之。

凡(およ)そ梔子湯を用うるに、病人舊微溏(もとびとう)する者は、之を與え服すべからず。

 

【第八二条】

太陽病發汗、汗出不解、其人仍發熱、心下悸、頭眩、身動、振振欲(一作僻)地者、真武湯主之。方四十三。

太陽病、發汗し、汗出でて解けず、其の人仍(な)お發熱、心下悸、頭眩(づげん)、身瞤動(みじゅんどう)し、振振(しんしん)として(一作僻)地に擗(たお)れんと欲する者は、真武湯(しんぶとう)之を主る。方四十三。

 

〔真武湯方〕

茯苓 芍藥 生薑(各三兩切) 白朮(二兩) 附子(一枚炮去皮破八片)

右五味、以水八升、煮取三升、去滓、温服七合、日三服。

茯苓 芍藥 生薑(各三兩切り) 白朮(二兩) 附子(一枚炮(ほう)じて皮を去り八片を破る)

右五味、水八升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、七合を温服す、日に三服す。

 

【第八三条】

咽喉乾燥者、不可發汗。

咽喉乾燥する者、發汗すべからず。

 

【第八四条】

淋家、不可發汗、發汗必便血。

淋家(りんか)、發汗すべからず、發汗すれば必ず便血す。

 

【第八五条】

瘡家、雖身疼痛、不可發汗、汗出則

瘡家(そうか)は、身疼痛すと雖(いえど)も、發汗すべからず、汗出ずれば則ち痓(けい)す。

 

【第八六条】

衄家、不可發汗、汗出必額上陷、脉急緊、直視不能(音喚又胡絹切下同一作瞬)不得眠。

衄家(じくか)、發汗すべからず、汗出ずれば必ず額上(がくじょう)の陷脉(かんみゃく)急緊(きゅうきん)し、直視眴(じゅん)ずること能わず眠ることを得ず(音喚又胡絹切下同一作瞬)。

 

【第八七条】亡血家、不可發汗、發汗則寒慄而振。

亡血家(ぼうけつか)、發汗すべからず、發汗すれば則ち寒慄(かんりつ)して振す。

 

【第八八条】

汗家、重發汗、必恍惚心亂、小便已陰疼、與禹餘粮丸。四十四。(方本闕)

汗家(かんか)、重ねて發汗すれば、必ず恍惚として心亂(みだ)れ、小便已(おわ)りて陰疼(いた)む、禹餘粮丸(うよりょうがん)を與う。四十四。(方は本(もと)闕(か)く)

 

【第八九条】

病人有寒、復發汗、胃中冷、必吐(一作逆)。

病人寒有り、復た發汗し、胃中冷えれば、必ず蚘(かい)を吐す(一作逆)

 

【第九〇条】

本發汗、而復下之、此為逆也。若先發汗、治不為逆。本先下之、而反汗之、為逆。若先下之、治不為逆。

本(もと)發汗し、而(しこう)して復た之を下すは、此れ逆を為すなり。若し先ず發汗するは、治は逆と為さず。本先ず之を下し、而して反って之を汗するは、逆と為す。若し先ず之を下すは、治は逆と為さず。

 

【第九一条】

傷寒、醫下之、續得下利清穀不止、身疼痛者、急當救裏。後身疼痛、清便自調者、急當救表、救裏宜四逆湯、救表宜桂枝湯。四十五(前の第十二方を用う)。

傷寒、醫之を下し、續いて下利を得て清穀止まず、身(み)疼痛する者は、急いで當(まさ)に裏を救うべし。後(のち)身疼痛し、清便自ら調う者は、急いで當に表を救うべし、裏を救うには四逆湯に宜しく、表を救うには桂枝湯に宜し。四十五(前に第十二方を用う)。

 

【第九二条】

病發熱、頭痛、脉反沈、若不差、身體疼痛、當救其裏。

病(やまい)發熱、頭痛し、脉反って沈(ちん)、若し差えず、身體疼痛するは、當に其の裏を救うべし。

 

〔四逆湯方〕

甘草(二兩炙) 乾薑(一兩半) 附子(一枚生用去皮破八片)

右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、分温再服、強人可大附子一枚、乾薑三兩。

甘草(二兩炙る) 乾薑(一兩半) 附子(一枚、生を用い、皮を去り、八片を破る)

右三味、水三升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温め再服す。強人は、大附子一枚、乾薑三兩とすべし。

 

【第九三条】

太陽病、先下而不愈、因復發汗。以此表裏倶虚、其人因致冒、冒家汗出自愈。所以然者、汗出表和故也。裏未和然後復下之。

太陽病、先ず下して愈えず、因(よ)りて復た發汗す。此れを以て表裏倶に虚し、其の人因りて冒(ぼう)を致す、冒家(ぼうか)は汗出ずれば自ら愈ゆ。

然(しか)る所以(ゆえん)の者は、汗出ずれば表和するが故なり。裏未だ和せざれば然る後に復た之を下す。

 

【第九四条】

太陽病未解、脉陰陽倶停(一作微)、必先振慄、汗出而解。但陽脉微者、先汗出而解。但陰脉微(一作尺脉實)者、下之而解。若欲下之、宜調胃承氣湯。四十六(用前第三十三方一云用大柴胡湯)。

太陽病未だ解(げ)せず、脉陰陽倶に停まるは(一作微)、必ず先ず振慄(しんりつ)し、汗出でて解す。但だ陽脉微の者は、先ず汗出でて解す。但だ陰脉微の(一作尺脉實)者は、之を下せば解す。若し之を下さんと欲すれば、調胃承氣湯(ちょういじょうきとう)に宜し。四十六(前の第三十三方を用う、一に云う、大柴胡湯を用う)。

 

【第九五条】

太陽病、發熱、汗出者、此為榮弱衛強、故使汗出。欲救邪風者、宜桂枝湯。四十七(方用前法)。

太陽病、發熱し、汗出ずる者は、此れ榮弱衛強(えいじょくえきょう)と為す、故に汗を出さしむる。邪風(じゃふう)を救わんと欲する者は、桂枝湯に宜し。四十七(方は前法を用う)。

 

【第九六条】

傷寒五六日中風、往来寒熱、胸脇苦滿、嘿嘿不欲飲食、心煩喜嘔、或胸中煩而不嘔、或、或腹中痛、或脇下痞、或心下悸、小便不利、或不、身有微熱、或者、小柴胡湯主之。方四十八。

傷寒五六日中風、往来寒熱、胸脇苦滿、嘿嘿(もくもく)として飲食欲せず、心煩喜嘔(きおう)し、或いは胸中煩して嘔せず、或いは渇っし、或いは腹中痛み、或いは脇下(きょうか)痞鞕し、或いは心下悸し、小便利せず、或いは渇せず、身に微熱有り、或いは欬(がい)する者は、小柴胡湯之を主る。方四十八。

 

〔小柴胡湯方〕

柴胡(半斤) 黄(三兩) 人參(三兩) 半夏(半升洗) 甘草(炙) 生薑(各三兩切) 大棗(十二枚擘)

右七味、以水一斗二升、煮取六升、去滓、再煎取三升、温服一升、日三服。若胸中煩而不嘔者、去半夏人參、加樓實一枚。若、去半夏、加人參合前成四兩半、樓根四兩。若腹中痛者、去黄、加芍藥三兩。若脇下痞、去大棗、加牡蠣四兩。若心下悸、小便不利者、去黄、加茯苓四兩。若不、外有微熱者、去人參、加桂枝三兩、温覆微汗愈。若者、去人參大棗生薑、加五味子半升、乾薑二兩。

柴胡(半斤) 黄芩(三兩) 人參(三兩) 半夏(半升洗う) 甘草(炙る) 生薑(各三兩切る) 大棗(十二枚擘く)

右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取り、滓を去り、再煎して三升を取り、一升を温服し、日に三服す。若し胸中煩して嘔せざる者は、半夏人參を去り、栝樓實(かろじつ)一枚を加う。若し渇するは、半夏を去り、人參を前に合わせて四兩半と成し、栝樓根(かろこん)四兩を加う。若し腹中痛む者は、黄芩を去り、芍藥三兩を加う。若し脇下痞鞕するは、大棗を去り、牡蠣(ぼれい)四兩を加う。若し心下悸し、小便利せざる者は、黄芩を去り、茯苓四兩を加う。若し渇せず、外に微熱有る者は、人參を去り、桂枝三兩を加え、温覆(おんぷく)して微(すこ)しく汗すれば愈ゆ。若し欬する者は、人參、大棗、生薑を去り、五味子半升、乾薑二兩を加う。

 

【第九七条】

血弱、氣盡、理開、邪氣因入、與正氣相搏、結於脇下。正邪分爭、往来寒熱、休作有時、嘿嘿不欲飲食。藏府相連、其痛必下、邪高痛下、故使嘔也(一云藏府相違其病必下脇鬲中痛)、小柴胡湯主之。服柴胡湯已、者屬陽明、以法治之。四十九(用前方)。

血弱く、氣盡(つ)き、腠理開き、邪氣因(よ)りて入り、正氣と相(あ)い搏(う)ち、脇下に結ぶ。正と邪と分ち爭い、往来寒熱休作(きゅうさ)に時有り、嘿嘿(もくもく)として飲食欲せず。藏府相い連り、其の痛み必ず下り、邪高く痛み下(ひく)し。故に嘔せしむるなり(一云藏府相違其病必下脇鬲中痛)、小柴胡湯之を主る。柴胡湯を服し已(おわ)り、渇する者は陽明に屬す、法を以て之を治す。四十九(前方を用う)。

 

【第九八条】

得病六七日、脉遲浮弱、惡風寒、手足温。醫二三下之、不能食而脇下滿痛、面目及身黄、頸項強、小便難者、與柴胡湯、後必下重。本飲水而嘔者、柴胡湯不中與也、食穀者

病を得ること六、七日、脉遲浮弱、惡風寒し、手足温なり。醫、二三之を下し、食すること能わずして脇下滿痛し、面目(めんもく)及び身(み)黄し、頸項(けいこう)強り、小便難の者は、柴胡湯を與(あた)うれば、後必ず下重す。本渇っし水を飲みて嘔する者は、柴胡湯與うるに中(あた)らざるなり、穀を食する者は噦(えつ)す。

 

【第九九条】

傷寒四五日、身熱、惡風、頸項強、脇下滿、手足温而者、小柴胡湯主之。五十(用前方)。

傷寒四五日、身熱、惡風、頸項強り、脇下滿、手足温にして渇する者は、小柴胡湯之を主る。五十(前方を用う)。

 

【第一〇〇条】

傷寒、陽脉、陰脉弦、法當腹中急痛、先與小建中湯。不差者、小柴胡湯主之。五十一(用前方)。

傷寒、陽脉濇、陰脉弦、法は當(まさ)に腹中急痛するに、先ず小建中湯を與う。差(い)えざる者は、小柴胡湯之を主る。五十一(前方を用う)。

 

〔小建中湯方〕

桂枝(三兩去皮) 甘草(二兩炙) 大棗(十二枚擘) 芍藥(六兩) 生薑(三兩切) 膠飴(一升)

右六味、以水七升、煮取三升、去滓、内飴、更上微火消解。温服一升、日三服。嘔家不可用建中湯、以甜故也。

桂枝(三兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 大棗(十二枚擘く) 芍藥(六兩) 生薑(三兩切る) 膠飴(こうい)(一升)

右六味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、飴を内(い)れ、更に微火(びか)に上(の)せて消解し。一升を温服し、日に三服す。嘔家(おうか)は建中湯を用うべからず。甜(あま)きを以ての故なり。

 

【第一〇一条】

傷寒中風、有柴胡證、但見一證便是、不必悉具。凡柴胡湯病證而下之、若柴胡證不罷者、復與柴胡湯、必蒸蒸而振、却復發熱汗出而解。

傷寒中風、柴胡の證有るは、但だ一證を見(あらわ)せば便ち是なり、必ず悉(ことごと)く具えず。凡そ柴胡湯の病證にして之を下す。若し柴胡の證罷(や)まざる者は、復た柴胡湯を與う、必ず蒸蒸(じょうじょう)として振い、却(かえ)って復た發熱し汗出でて解す。

 

【第一〇二条】

傷寒二三日、心中悸して而煩者、小建中湯主之。五十二(用前第五十一方)。

傷寒二三日、心中悸して煩する者は、小建中湯之を主る。五十二(前の第五十一方を用う)。

 

【第一〇三条】

太陽病、過經十餘日、反二三下之。後四五日、柴胡證仍在者、先與小柴胡。嘔不止、心下急(一云嘔止小安)、鬱鬱微煩者、為未解也、與大柴胡湯、下之則愈。方五十三。

太陽病、過經(かけい)すること十餘日、反って二三之を下す。後四、五日、柴胡の證仍(な)お在(あ)る者は、先ず小柴胡を與う。嘔(おう)止まず、心下急(しんかきゅう)し(一云嘔止小安)、鬱鬱(うつうつ)として微煩(びはん)する者は、未だ解せずと為すなり、大柴胡湯を與え、之を下せば則ち愈ゆ。方五十三。

 

〔大柴胡湯方〕

柴胡(半斤) 黄(三兩) 芍藥(三兩) 半夏(半升洗) 生薑(五兩切) 枳實(四枚炙) 大棗(十二枚擘)

右七味、以水一斗二升、煮取六升、去滓再煎、温服一升、日三服。一方、加大黄二兩。若不加、恐不為大柴胡湯。

柴胡(半斤) 黄芩(三兩) 芍藥(三兩) 半夏(半升洗う) 生薑(五兩切る) 枳實(きじつ)(四枚炙る) 大棗(十二枚擘く)

右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取る、滓を去り再煎し、一升を温服し、日に三服す。一方に、大黄二兩を加う。若し加わざれば、恐らくは大柴胡湯と為さず。

 

【第一〇四条】

傷寒十三日不解、胸脇滿而嘔、日所發潮熱、已而微利。此本柴胡證、下之以不得利、今反利者、知醫以丸藥下之、此非其治也。潮熱者、實也。先宜服小柴胡湯以解外、後以柴胡加芒消湯主之。五十四。

傷寒十三日にして解せず、胸脇滿して嘔し、日晡所(にっぽしょ)潮熱(ちょうねつ)を發し、已(おわ)りて微利(びり)す。此れ本(もと)柴胡の證、之を下して以て利を得ず、今反って利する者は、醫、丸藥(がんやく)を以て之を下したるを知る、此れ其の治に非ざるなり。潮熱する者は、實なり。先ず宜しく小柴胡湯を服し以て外を解くべし。後、柴胡加芒消湯(さいこかぼうしょうとう)を以て之を主る。五十四。

 

〔柴胡加芒消湯方〕

柴胡(二兩十六銖) 黄(一兩) 人參(一兩) 甘草(一兩炙) 生薑(一兩切) 半夏(二十銖本云五枚洗) 大棗(四枚擘) 芒消(二兩)

右八味、以水四升、煮取二升、去滓、内芒消、更煮微沸、分温再服。不解更作。(臣億等謹按、金匱玉函方中無芒消、別一方云、以水七升、下芒消二合、大黄四兩、桑蛸五枚、煮取一升半、服五合、微下即愈。本云柴胡再服以解其外、餘二升加芒消大黄桑蛸也。

柴胡(二兩十六銖) 黄芩(一兩) 人參(一兩) 甘草(一兩炙る) 生薑(一兩切る) 半夏(二十銖、本(もと)云う、五枚、洗う) 大棗(四枚擘く) 芒消(二兩)

右八味、水四升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、芒消(ぼうしょう)を内れ、更に煮て微沸(びふつ)し、分かち温め再服す。解せざれば更に作る。(臣億等謹按、金匱玉函方中無芒消、別一方云、以水七升、下芒消二合、大黄四兩、桑螵蛸五枚、煮取一升半、服五合、微下即愈。本云柴胡再服以解其外、餘二升加芒消大黄桑螵蛸也。)

 

【第一〇五条】

傷寒十三日、過經、語者、以有熱也、當以湯下之。若小便利者、大便當、而反下利、脉調和者、知醫以丸藥下之、非其治也。若自下利者、脉當微厥、今反和者、此為内實也、調胃承氣湯主之。五十五(用前第三十三方)。

傷寒十三日、過經(かけい)し、讝語(せんご)する者は、熱有るを以てなり、當に湯を以て之を下すべし。若し小便利する者は、大便當に鞕(こう)たるべし、而(しか)して反って下利し、脉調和する者は、醫、丸藥を以て之を下すを知る、其れ治に非ざるなり。若し自下利する者は、脉當に微(び)、厥(けつ)すべし。今反って和する者は、此れを内實と為(な)すなり、調胃承氣湯之を主る。五十五(用前第三十三方)。

 

【第一〇六条】

太陽病不解、熱結膀胱、其人如狂、血自下、下者愈。其外不解者、尚未可攻、當先解其外。外解已、但少腹急結者、乃可攻之、宜桃核承氣湯。方五十六(後云解外宜桂枝湯)。

太陽病解せず、熱膀胱に結し、其の人狂の如く、血自ら下る、下る者は愈ゆ。其の外解せざる者は、尚未だ攻むべからず、當に先ず其の外を解すべし。外解し已(おわ)り、但だ少腹急結する者は、乃(すなわ)ち之を攻むべし、桃核承氣湯(とうかくじょうきとう)に宜し。方五十六(後に云う外を解すには桂枝湯に宜しと)。

 

〔桃核承氣湯方〕

桃仁(五十箇去皮尖) 大黄(四兩) 桂枝(二兩去皮) 甘草(二兩炙) 芒消(二兩)

右五味、以水七升、煮取二升半、去滓、内芒消、更上火微沸、下火。先食温服五合、日三服、當微利。

桃仁(五十箇去皮尖) 大黄(四兩) 桂枝(二兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 芒消(二兩)

右五味、水七升を以て、煮て二升半を取り、滓を去り、芒消を内れ、更に火に上(の)せ微沸(びふつ)し、火より下ろす。食に先だちて五合を温服し、日に三服す、當に微利(びり)すべし。

 

【第一〇七条】

傷寒八九日、下之、胸滿、煩驚、小便不利、語、一身盡重、不可轉側者、柴胡加龍骨牡蠣湯主之。方五十七。

傷寒八九日、之を下し、胸滿、煩驚、小便不利、讝語(せんご)し、一身盡(ことごと)く重く、轉側(てんそく)す可からざる者は、柴胡加龍骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)之を主る。方五十七。

 

〔柴胡加龍骨牡蠣湯方〕

柴胡(四兩) 龍骨 黄 生薑(切) 鉛丹 人參 桂枝(去皮) 茯苓(各一兩半) 半夏(二合半洗) 大黄(二兩) 牡蠣(一兩半熬) 大棗(六枚擘)

右十二味、以水八升、煮取四升、内大黄、切如碁子、更煮一兩沸、去滓、温服一升。本云柴胡湯、今加龍骨等。

柴胡(四兩) 龍骨 黄芩 生薑(切る) 鉛丹(えんたん) 人參 桂枝(皮を去る) 茯苓(各一兩半) 半夏(二合半洗る) 大黄(二兩) 牡蠣(ぼれい)(一兩半熬る) 大棗(六枚擘く)

右十二味、水八升を以て、煮て四升を取り、大黄を切りて碁子の如きを内れ、更に煮て一兩沸し、滓を去り、一升を温服す。本云う、柴胡湯に今龍骨等を加うと。

 

【第一〇八条】

傷寒、腹滿、語、寸口脉浮而緊、此肝乘脾也、名曰縱、刺期門。五十八。

傷寒、腹滿(ふくまん)、讝語(せんご)し、寸口脉浮にして緊なるは、此れ肝脾に乘(じょう)ずるなり、名づけて縱(じゅう)と曰く、期門を刺す。五十八。

 

【第一〇九条】

傷寒發熱、嗇嗇惡寒、大欲飲水、其腹必滿、自汗出、小便利、其病欲解、此肝乘肺也、名曰横、刺期門。五十九。

傷寒發熱し、嗇嗇(しょくしょく)として惡寒し、大いに渴して飲水せんと欲す、其の腹必ず滿す、自ずと汗出で、小便利するは、其の病解せんと欲す、此れ肝肺に乘ずるなり、名づけて横と曰う、期門を刺す。五十九。

 

【第一一〇条】

太陽病二日、反躁、凡熨其背而大汗出、大熱入胃(一作二日内燒瓦熨背大汗出火氣入胃)、胃中水竭、躁煩必發語。十餘日振慄自下利者、此為欲解也。故其汗從腰以下不得汗、欲小便不得、反嘔、欲失溲、足下惡風、大便、小便當數、而反不數及不多。大便已、頭卓然而痛、其人足心必熱、穀氣下流故也。

太陽病二日、反って躁す、凡(およ)そ其の背を熨(い)すに、大いに汗出で、大熱胃に入り(一作二日内燒瓦熨背大汗出火氣入胃)、胃中の水竭(つ)き、躁煩し、必ず讝語を發す。十餘日にして振慄(しんりつ)し自下利(じげり)する者は、此れ解せんと欲すと為すなり。故に其の汗腰從(よ)り以下汗するを得ず、小便せんと欲するも得ず、反って嘔(おう)し、失溲(しっしゅう)せんと欲す、足下(そっか)惡風し、大便鞕(かた)く、小便當(まさ)に數(さく)なるべくして、反って數ならず、及び多からず。大便已(おわ)り、頭卓然(たくぜん)として痛み、其の人足心(そくしん)必ず熱す。穀氣(こっき)下流(かりゅう)するが故(ゆえ)なり。

 

【第一一一条】

太陽病中風、以火劫發汗。邪風被火熱、血氣流溢、失其常度、兩陽相熏灼、其身發黄。陽盛則欲衄、陰小便難。陰陽倶竭、身體則枯燥、但頭汗出、劑頸而還。腹滿、微喘、口乾、咽爛、或不大便、久則語、甚者至、手足躁擾、捻衣摸牀。小便利者、其人可治。

太陽病中風、火を以て劫(おびや)かして汗を發す。邪風火熱を被(こうむ)り、血氣流溢(りゅういつ)し、其の常度(じょうど)を失す。兩陽(りょうよう)相(あ)い熏灼(くんしゃく)し、其の身黄(おう)を發す。陽盛んなれば則ち衄(じく)せんと欲し、陰虛すれば小便難(がた)し。陰陽倶(とも)に虛竭(きょけつ)すれば、身體則ち枯燥(こそう)し、但(た)だ頭汗(づかん)出でて、劑頸(ざいけい)して還(かえ)る。腹滿し、微(かす)かに喘(ぜい)し、口乾き、咽(のど)爛(ただ)れ、或は大便せず、久しければ則ち讝語し、甚しき者は噦するに至り、手足躁擾(そうじょう)し、捻衣摸牀(ねんいもしょう)す。小便利する者は、其の人治すべし。

 

【第一一二条】

傷寒脉浮、醫以火迫劫之、亡陽、必驚狂、臥起不安者、桂枝去芍藥加蜀漆牡蠣龍骨救逆湯主之。方六十。

傷寒脉浮、醫、火を以て之を迫劫(はくごう)し、亡陽(ぼうよう)すれば、必ず驚狂(きょうきょう)し、臥起(がき)安らかざる者は、桂枝去芍藥加蜀漆牡蠣龍骨救逆湯(けいしきょしゃくやくかしょくしつぼれいりゅうこつきゅうぎゃくとう)之を主る。方六十。

 

〔桂枝去芍藥加蜀漆牡蠣龍骨救逆湯方〕

桂枝(三兩去皮) 甘草(二兩炙) 生薑(三兩切) 大棗(十二枚擘) 牡蠣(五兩熬) 蜀漆(三兩洗去腥) 龍骨(四兩)

右七味、以水一斗二升、先煮蜀漆、減二升。内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升。本云桂枝湯、今去芍藥、加蜀漆牡蠣龍骨。

桂枝(三兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 生薑(三兩切る) 大棗(十二枚擘く) 牡蠣(五兩熬(い)る) 蜀漆(しょくしつ)(三兩洗いて腥(なまぐさ)を去る) 龍骨(四兩)

右七味、水一斗二升を以て、先ず蜀漆を煮て、二升を減ず。諸藥を内(い)れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。本云う桂枝湯、今芍藥を去り、蜀漆(しょくしつ)、牡蠣(ぼれい)、龍骨を加える。

 

【第一一三条】

形作傷寒、其脉不弦緊而弱。弱者必、被火必語。弱者發熱、脉浮、解之當汗出愈。

形傷寒を作(な)すも、其の脉弦緊ならずして弱なり。弱の者は必ず渴す、火を被(こうむ)れば必ず讝語す。弱の者は發熱し、脉浮なり、之を解するに當に汗出でて愈(い)ゆべし。

 

【第一一四条】

太陽病、以火熏之、不得汗、其人必躁。到經不解、必清血、名為火邪。

太陽病、火を以て之を熏(くん)じ、汗を得ず、其の人必ず躁す。經に到りて解せざれば、必ず清血す、名を火邪と為(な)す。

 

【第一一五条】

脉浮、熱甚、而反灸之、此為實。實以治、因火而動、必咽躁、吐血。

脉浮、熱甚し、而(しか)るに反って之に灸す、此れを實と為す。實に虛を以て治す、火に因りて動ずれば、必ず咽(のど)燥(かわ)き、吐血す。

 

【第一一六条】

微數之脉、慎不可灸。因火為邪、則為煩逆。追逐實、血散脉中。火氣雖微、内攻有力、焦骨傷筋、血難復也。脉浮、宜以汗解、用火灸之、邪無從出、因火而盛、病從腰以下、必重而痺、名火逆也。欲自解者、必當先煩、煩乃有汗而解。何以知之。脉浮、故知汗出解。

微數(びさく)の脉は、慎(つつし)んで灸すべからず。火に因(よ)りて邪を為(な)せば、則ち煩逆(はんぎゃく)を為す。虛を追い實を逐(お)い、血、脉中に散ず。火氣微(び)なりと雖も、内に攻むるに力有り、骨を焦がし筋を傷り、血復(ふく)し難きなり。

脉浮なるは、汗を以て解くに宜(よろ)し。火を用いて之に灸すれば、邪從(よ)りて出ずること無し、火に因りて盛んなり、病腰從(よ)り以下、必ず重くして痺(ひ)す。火逆と名づく也。自ら解せんと欲する者は、必ず當に先に煩すべし、煩すれば乃(すなわ)ち汗有りて解す。

何を以てか之を知る。脉浮故に汗出でて解(げ)するを知る。

 

【第一一七条】

燒鍼令其汗、鍼處被寒、核起而赤者、必發奔豚。氣從少腹上衝心者、灸其核上各一壮、與桂枝加桂湯、更加桂二兩也。方六十一。

燒鍼(しょうしん)其れをして汗せしめ、鍼する處(ところ)寒を被(こうむ)り、核(かく)起こりて赤き者は、必ず奔豚(ほんとん)を發す。氣少腹從(よ)り上りて心を衝(つ)く者は、其の核上(かくじょう)に各一壮を灸し、桂枝加桂湯を與(あた)う。更に桂(けい)二兩を加うるなり。方六十一。

 

〔桂枝加桂湯方〕

桂枝(五兩去皮) 芍藥(三兩) 生薑(三兩切) 甘草(二兩炙) 大棗(十二枚擘)

右五味、以水七升、煮取三升、去滓、温服一升。本云桂枝湯、今加桂滿五兩。所以加桂者、以能泄奔豚氣也。

桂枝(五兩皮を去る) 芍藥(三兩) 生薑(三兩切る) 甘草(二兩炙る) 大棗(十二枚擘く)

右五味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。本(もと)云う桂枝湯に今桂(けい)を加えて滿五兩とす。桂を加うる所以(ゆえん)の者は、以て能(よ)く奔豚の氣を泄(も)らすなり。

 

【第一一八条】

火逆下之、因燒鍼煩躁者、桂枝甘草龍骨牡蠣湯主之。方六十二。

火逆之を下し、燒鍼(しょうしん)に因りて煩躁(はんそう)する者は、桂枝甘草龍骨牡蠣湯(けいしかんぞうりゅうこつぼれいとう)之を主る。方六十二。

 

〔桂枝甘草龍骨牡蠣湯方〕

桂枝(一兩去皮) 甘草(二兩炙) 牡蠣(二兩熬) 龍骨(二兩)

右四味、以水五升、煮取二升半、去滓、温服八合、日三服。

桂枝(一兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 牡蠣(二兩熬る) 龍骨(二兩)

右四味、水五升を以て、煮て二升半を取り、滓を去り、八合を温服し、日に三服す。

 

【第一一九条】

太陽傷寒者、加温鍼必驚也。

太陽の傷寒なる者は、温鍼を加うれば必ず驚(きょう)するなり。

 

【第一二〇条】

太陽病、當惡寒、發熱、今自汗出、反不惡寒、發熱、關上脉細數者、以醫吐之過也。一二日吐之者、腹中飢、口不能食。三四日吐之者、不喜糜粥、欲食冷食、朝食暮吐、以醫吐之所致也、此為小逆。

太陽病、當に惡寒、發熱すべし。今自汗出で、反って惡寒、發熱せず。關上の脉細數の者は、醫(い)之を吐すること過(あやま)るを以てなり。一、二日之を吐する者は、腹中飢え、口に食すること能わず。三、四日之を吐する者は、糜粥(びしゅく)を喜(この)まず、冷食を食せんと欲っし、朝に食して暮に吐す。醫之を吐する以て致す所なり。此を小逆と為す。

 

【第一二一条】

太陽病吐之、但太陽病當惡寒、今反不惡寒、不欲近衣、此為吐之内煩也。

太陽病之を吐す、但だ太陽病は當に惡寒すべし。今反って惡寒せず、衣を近づけることを欲せず。此(こ)れ之(これ)を吐して内煩(ないはん)を為(な)すなり。

 

【第一二二条】

病人脉數。數為熱、當消穀引食。而反吐者、此以發汗、令陽氣微、膈氣、脉乃數也。數為客熱、不能消穀。以胃中冷、故吐也。

病人脉數(さく)なり。數は熱と為す、當に穀(こく)を消し食を引くべし。しかして反って吐する者は、此れ汗を發するを以て、陽氣をして微(び)ならしめ、膈氣(かくき)虛し、脉は乃ち數なり。數は客熱(きゃくねつ)と為し、穀を消すことを能わず。胃中虛冷(きょれい)するを以ての故に吐するなり。

 

【第一二三条】

太陽病、過經十餘日、心下温温欲吐而胸中痛、大便反溏、腹微滿、鬱鬱微煩。先此時自極吐下者、與調胃承氣湯。若不爾者、不可與。但欲嘔、胸中痛、微溏者、此非柴胡湯證、以嘔故知極吐下也。調胃承氣湯。六十三(用前第三十三方)。

太陽病、過經(かけい)十餘日、心下温温(うんうん)として吐せんと欲し、しかして胸中痛み、大便反って溏(とう)、腹微滿(びまん)し、鬱鬱(うつうつ)として微煩(びはん)す。此の時に先(さきだ)ちて自(おのずか)ら吐下(とげ)極まる者は、調胃承氣湯を與う。若し爾(しか)らざる者は、與う可(べ)からず。但だ嘔せんと欲し、胸中痛み、微溏する者は、此れ柴胡湯の證に非ず、嘔するを以ての故に、吐下(とげ)を極むることを知るなり。調胃承氣湯。六十三(用前第三十三方)。

 

【第一二四条】

太陽病六七日、表證仍在、脉微而沈、反不結胸。其人發狂者、以熱在下焦、少腹當滿、小便自利者、下血乃愈。所以然者、以太陽隨經、熱在裏故也。抵當湯主之。方六十四。

太陽病、六七日、表證仍(な)お在(あ)り、脉微(び)にして沈(ちん)、反って結胸(けっきょう)せず。其の人發狂する者は、熱下焦に在るを以て、少腹當(まさ)に鞕滿(こうまん)たるべし。小便自利(じり)する者は、血を下せば乃ち愈ゆ。然(しか)る所以(ゆえん)の者は、太陽經に隨(したが)い、瘀熱(おねつ)裏に在るを以ての故なり。抵當湯(ていとうとう)之を主る。方六十四。

 

〔抵當湯方〕

水蛭(熬) 蟲(各三十箇去翅足熬) 桃仁(二十箇去皮尖) 大黄(三兩酒洗)

右四味、以水五升、煮取三升、去滓、温服一升、不下更服。

水蛭(すいてつ)(熬る) 蝱蟲(ぼうちゅう)(各三十箇翅足(しそく)を去り、熬る) 桃仁(二十箇皮尖を去る) 大黄(三兩酒洗)

右四味、水五升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す、下らざれば、更に服す。

 

【第一二五条】

太陽病、身黄、脉沈結、少腹、小便不利者、為無血也。小便自利、其人如狂者、血證諦也、抵當湯主之。六十五(用前方)。

太陽病、身黄(おう)にして、脉沈結(けつ)、少腹鞕(かた)く、小便不利の者は、血無しと為すなり。小便自利し、其の人狂うが如き者は、血證(けっしょう)諦(あきら)かなり、抵當湯之を主る。六十五(用前方)。

 

【第一二六条】

傷寒有熱、少腹滿、應小便不利、今反利者、為有血也、當下之、不可餘藥、宜抵當丸。方六十六。

傷寒熱有り、少腹滿するは、應(まさ)に小便不利すべし、今反って利する者は、血有りと為すなり、當に之を下すべし、餘藥(よやく)すべからず、抵當丸(ていとうがん)に宜し。方六十六。

 

〔抵當丸方〕

水蛭(二十箇熬) 蟲(二十箇去翅足熬) 桃仁(二十五箇去皮尖) 大黄(三兩)

右四味、擣分四丸。以水一升、煮一丸、取七合服之。時、當下血。若不下者、更服。

水蛭(すいてつ)(二十箇熬る) 蝱蟲(ぼうちゅう)(二十箇翅足(しそく)を去り、熬る) 桃仁(二十五箇皮尖を去る) 大黄(三兩)

右四味、擣(つ)きて四丸に分かつ。水一升を以て、一丸を煮て、七合を取り之を服す。晬時(さいじ)にして、當に血を下すべし。若下さざる者は、更に服す。

 

【第一二七条】

太陽病、小便利者、以飲水多、必心下悸。小便少者、必苦裏急也。

太陽病、小便利する者、水を飲むこと多きを以て、必ず心下悸(き)す。小便少なき者は、必ず裏急(りきゅう)を苦しむなり。

 

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辨太陽病脉證并治中(1) 31~80条

 志ある学徒の、簡便な道具にならんことを願って読み下し文を記しています。

 また初学者のため、重複の労をいとわずルビをふっています。

 誤りを見つけられましたら、どうかコメント欄に投稿をお願いいたします。

 

底本 趙開美刊 「仲景全書」所収 『傷寒論』十巻

                    日本漢方協会学術部 編 東洋学術出版社

  辨太陽病脉證并治中(1)31~80条

                第六(合六十六法方三十九首并見太陽陽明合病法)

 

【第三一条】

太陽病、項背強几几、無汗、惡風、葛根湯主之。方一。

太陽病、項背(こうはい)強ばること几几(しゅしゅ)として、汗無く、惡風するは、葛根湯之(これ)を主る。方一。

 

〔葛根湯方〕

葛根(四兩) 麻黄(三兩去節) 桂枝(二兩去皮) 生薑(三兩切) 甘草(二兩炙) 芍藥(二兩) 大棗(十二枚擘)

右七味、以水一斗、先煮麻黄、葛根、減二升、去白沫、内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升、覆取微似汗。餘如桂枝法將息及禁忌、諸湯皆倣此。

葛根(四兩) 麻黄(三兩節を去る) 桂枝(二兩皮を去る) 生薑(三兩切る) 甘草(二兩炙る) 芍藥(二兩) 大棗(十二枚擘く)

右七味、水一斗を以て、先ず麻黄、葛根を煮て、二升を減じ、白沫を去り、諸藥を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。覆(おお)いて微(すこ)しく汗に似たるを取る。

餘(余)は桂枝の法の將息(しょうそく)及び禁忌の如し。諸湯(しょとう)皆此れに倣(なら)え。

 

【第三二条】

太陽與陽明合病者、必自下利、葛根湯主之。方二(用前第一方一云用後第四方)。

太陽と陽明の合病なる者は、必ず自から下利す。葛根湯之を主る。方二

 

【第三三条】

太陽與陽明合病、不下利、但嘔者、葛根加半夏湯主之。方三。

太陽と陽明の合病、下利せず、但だ嘔する者は、葛根加半夏湯(かっこんかはんげとう)之を主る。方三。

〔葛根加半夏湯方〕

葛根(四兩) 麻黄(三兩去節) 甘草(二兩炙) 芍藥(二兩) 桂枝(二兩去皮) 生薑(二兩切) 半夏(半升洗) 大棗(十二枚擘)

右八味、以水一斗、先煮葛根、麻黄、減二升、去白沫、内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升。

覆取微似汗。

葛根(四兩) 麻黄(三兩節を去る) 甘草(二兩炙る) 芍藥(二兩) 桂枝(二兩皮を去る) 生薑(二兩切る) 半夏(半升洗う) 大棗(十二枚擘く)

右八味、水一斗を以て、先ず葛根、麻黄を煮て、二升を減じ、白沫を去り、諸藥を内(い)れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。覆(おお)いて微(すこ)しく汗に似たるを取る。

 

【第四条】

太陽病、桂枝證、醫反下之、利遂不止、脉促(促一作縱)者、表未解也。喘而汗出者、

葛根黄黄連湯主之。方四。

太陽病、桂枝證、醫(い)反って之を下し、利遂(つい)に止まず、脉促の(促一作縱)者は、表未だ解(げ)せざるなり。喘(ぜい)して汗出ずる者は、葛根黄芩黄連湯(かっこんおうごんおうれんとう)之を主る。方四。

 

〔葛根黄黄連湯方〕

葛根(半斤) 甘草(二兩炙) 黄(三兩) 黄連(三兩)

右四味、以水八升、先煮葛根、減二升、内諸藥、煮取二升、去滓、分温再服。

葛根(半斤) 甘草(二兩炙る) 黄芩(おうごん)(三兩) 黄連(三兩)

右四味、水八升を以て、先ず葛根を煮て、二升を減じ、諸藥を内れ、煮て二升を取り、滓を去り、分かち温め再服す。

 

【第三五条】

太陽病、頭痛、發熱、身疼、腰痛、骨節疼痛、惡風無汗而喘者、麻黄湯主之。方五。

太陽病、頭痛、發熱、身疼(とう)し、腰痛、骨節疼痛し、惡風し汗無くして喘(ぜい)する者は、麻黄湯之を主る。方五

 

〔麻黄湯方〕

麻黄(三兩去節) 桂枝(二兩去皮) 甘草(一兩炙) 杏仁(七十箇去皮尖)

右四味、以水九升、先煮麻黄、減二升、去上沫、内諸藥、煮取二升半、去滓、温服八合、

覆取微似汗、不須啜粥、餘如桂枝法將息。

麻黄(三兩節を去る) 桂枝(二兩皮を去る) 甘草(一兩炙る) 杏仁(七十箇、皮尖を去る)

右四味、水九升を以て、先ず煮黄を煮て、二升を減じ、上沫を去り、諸藥を内れ、煮て二升半を取り、滓を去り、八合を温服す、覆いて微(すこ)しく汗に似たるを取る。須(すべ)からず粥を啜(すす)らず。餘(よ)は桂枝法の將息(しょうそく)の如くす。

 

【第三六条】

太陽與陽明合病、喘而胸滿者、不可下、宜麻黄湯。六(用前第五方)。

太陽と陽明の合病、喘(ぜい)して胸滿する者は、下すべからず、麻黄湯に宜し。六(用前第五方)。

 

【第三七条】

太陽病、十日以去、脉浮細而嗜臥者、外已解也。設胸滿脇痛者、與小柴胡湯。脉但浮者、與麻黄湯。七(用前第五方)。

太陽病、十日を以て去り、脉浮細にして嗜臥(しが)する者は、外已(すで)に解(げ)するなり。設(も)し胸滿脇痛する者は、小柴胡湯を與(与)う。脉但(た)だ浮の者は、麻黄湯を與う。七(用前第五方)

 

〔小柴胡湯方〕

柴胡(半斤) 黄 人參 甘草(炙) 生薑(各三兩切) 大棗(十二枚擘) 半夏(半升洗)

右七味、以水一斗二升、煮取六升、去滓、再煎取三升、温服一升、日三服。

柴胡(半斤) 黄芩 人參 甘草(炙る) 生薑(各三兩切る) 大棗(十二枚擘く) 半夏(半升洗う)

右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取り、滓を去り、再び煎じて三升を取り、一升を温服し、日に三服す。

 

【第三八条】

太陽中風、脉浮緊、發熱、惡寒、身疼痛、不汗出而煩躁者、大青龍湯主之。若脉微弱、汗出惡風者、不可服之。服之則厥逆、筋惕肉、此為逆也。大青龍湯方。八。

太陽の中風、脉浮緊、發熱、惡寒し、身疼痛し、汗出でずして煩躁する者は、大青龍湯之を主る。

若し脉微弱、汗出で惡風する者は、之を服すべからず。之を服すれば則ち厥逆し、筋惕(きんてき)肉瞤(にくじゅん)す。此を逆と為すなりなり。大青龍湯方。八。

 

〔大青龍湯方〕

麻黄(六兩去節) 桂枝(二兩去皮) 甘草(二兩炙) 杏仁(四十枚去皮尖) 生薑(三兩切) 大棗(十枚擘) 石膏(如子大碎)

右七味、以水九升、先煮麻黄、減二升、去上沫、内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升、

取微似汗。汗出多者、温粉粉之。一服汗者、停後服。若復服、汗多亡陽、遂(一作逆)

、惡風、煩躁、不得眠也。

麻黄(六兩節を去る) 桂枝(二兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 杏仁(四十枚、皮尖を去る) 生薑(三兩切る) 大棗(十枚擘く)石膏(雞子大(けいしだい)の如きを碎(くだ)く)

右七味、水九升を以て、先ず麻黄を煮て、二升を減じ、上沫を去り、諸藥を内れ、煮て

三升を取り、滓を去り、一升を温服す、微しく汗に似たるを取る。

汗出ずること多き者は、温粉(おんふん)もて之を粉(はた)く。一服にて汗する者

は、後服を停(とど)む。若し復た服すれば、汗多く亡陽(ぼうよう)し、遂に(一作

逆)虚し、惡風し、煩躁し、眠を得ざるなり。

 

【第九条】

傷寒、脉浮緩、身不疼、但重、乍有輕時、無少陰證者、大青龍湯發之。九(用前第八方)。

傷寒、脉浮緩、身疼(とう)せず、但だ重く、乍(たちま)ち輕き時有り。少陰の證無き者は、大青龍湯之を發(発)す。九(用前第八方)。

 

【第四〇条】

傷寒、表不解、心下有水氣、乾嘔、發熱而、或、或利、或噎、或小便不利、少腹滿、或喘者、小青龍湯主之。方十。

傷寒、表解(げ)せず、心下に水氣有り。乾嘔(かんおう)し、發熱して欬(がい)し、或いは渴は(かっ)し、或いは利(り)し、或いは噎(いっ)し、或いは小便不利し、少腹滿し、或いは喘(ぜい)する者は、小青龍湯之を主る。方十。

 

〔小青龍湯方〕

麻黄(去節) 芍藥 細辛 乾薑 甘草(炙) 桂枝(各三兩去皮) 五味子(半升) 半夏(半升洗)

右八味、以水一斗、先煮麻黄減二升、去上沫、内諸藥。煮取三升、去滓、温服一升。

、去半夏、加樓根三兩。若微利、去麻黄、加蕘花、如一子、熬令赤色。若噎者、

去麻黄、加附子一枚、炮。若小便不利、少腹滿者、去麻黄、加茯苓四兩。若喘、去麻

黄、加杏仁半升、去皮尖。且蕘花不治利、麻黄主喘、今此語反之、疑非仲景意。

(臣億等謹按小青龍湯大要治水。又按本草蕘花下十二水、若水去利則止也。又按千金形

腫者應内麻黄、乃内杏仁者、以麻黄發其陽故也、以此證之、豈非仲景意也。

麻黄(節を去る) 芍藥 細辛(さいしん) 乾薑 甘草(炙る) 桂枝(各三兩、皮を去る) 五味子(半升) 半夏(半升洗う)

右八味、水一斗を以て、先ず麻黄を煮て二升を減じ、上沫を去り、諸藥を内れ、煮て三

升を取り、滓を去り、一升を温服す。若し渴すれば、半夏を去り、栝樓根(かろこん)

三兩を加う。若し微利(びり)すれば、麻黄を去り、蕘花(ぎょうか)、一雞子(いち

けいし)の如きを熬(い)りて赤色ならしめ加う。

若し噎(いっ)する者は、麻黄を去り、附子一枚を炮(ほう)じて加える。若し小便不

利し、少腹滿する者は、麻黄を去り、茯苓四兩を加える。若し喘すれば、麻黄を去り、

杏仁半升、皮尖を去りて加える。

且つ蕘花(ぎょうか)は利を治せず、麻黄は喘を主る、今此の語、之に反す。仲景の意

にあらずを疑う。

臣億ら謹んで按ずるに、小青龍湯の要は治水。又た本草を按ずれば、蕘花は十二水を下

し、若し水去らば、利則ち止むなり。又た千金按ずれば、形腫れるものは、応じて麻黄

を内れるべきに、乃ち杏仁を内れるは、麻黄を以て其の陽を発するが故なり。此れを以

て之を証し、豈(あ)に仲景の意にあらざらんや。

 

 

【第四一条】

傷寒、心下有水氣、而微喘、發熱不。服湯已、者、此寒去欲解也、小青龍湯主之。十一(用前第十方)。

傷寒、心下に水氣有り、欬(がい)して微喘(びぜい)し、發熱して渴せず。湯を服し已(おわ)り、渴する者は、此れ寒去りて解せんと欲するなり。小青龍湯之を主る。十一(用前第十方)

 

【第四二条】

太陽病、外證未解、脉浮弱者、當以汗解、宜桂枝湯。方十二。

太陽病、外證(がいしょう)未だ解(げ)せず、脉浮弱の者は、當(まさ)に汗を以て解くべし、桂枝湯に宜し。方十二。

 

〔桂枝湯方〕

桂枝(去皮) 芍藥 生薑(各三兩切) 甘草(二兩炙) 大棗(十二枚擘)

右五味、以水七升、煮取三升、去滓、温服一升。須臾啜熱稀粥一升、助藥力、取微汗。

桂枝(皮を去る) 芍藥 生薑(各三兩切る) 甘草(二兩炙(あぶ)る) 大棗(十二枚擘(つんざ)く)

右五味、水七升を以て、煮て三升を取る、滓を去り、一升を温服す。須臾(しゅゆ)にして熱稀粥(ねっきがゆ)一升を啜り、藥力を助け、微(すこ)しく汗に似たるを取る。

 

【第四三条】

太陽病、下之微喘者、表未解故也、桂枝加厚朴杏子湯主之。方十三。

太陽病、之を下し微喘(びぜい)する者は、表未だ解(げ)せざるが故(ゆえ)なり、桂枝加厚朴杏子湯(けいしかこうぼくきょうしとう)之を主る。方十三。

 

〔桂枝加厚朴杏子湯方〕

桂枝(三兩去皮) 甘草(二兩炙) 生薑(三兩切) 芍藥(三兩) 大棗(十二枚擘) 厚朴(二兩炙去皮) 杏仁(五十枚去皮尖)

右七味、以水七升、微火煮取三升、去滓、温服一升、覆取微似汗。

桂枝(三兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 生薑(三兩切る) 芍藥(三兩) 大棗(十二枚擘く) 厚朴(二兩炙り皮を去る) 杏仁(五十枚皮尖を去る)

右七味、水七升を以て、微火(びか)にて煮て三升を取る、滓を去る、一升を温服す、覆いて微(すこ)しく汗に似たるを取る。

 

【第四四条】

太陽病、外證未解、不可下也、下之為逆。欲解外者、宜桂枝湯。十四(用前第十二方)。

太陽病、外證未だ解(げ)せざるは、下すべからざるなり、之を下すを逆と為す。外を解せんと欲する者は、桂枝湯に宜し。十四(用前第十二方)。

 

【第四五条】

太陽病、先發汗不解、而復下之、脉浮者不愈。浮為在外、而反下之、故令不愈。今脉浮、故在外、當須解外則愈、宜桂枝湯。十五(用前第十二方)。

太陽病、先ず汗を發して解(げ)せず、而(しか)るに復た之を下し、脉浮の者は愈え

ず。浮は外に在りと為す、而(しか)るに反って之を下すが故に愈えざらしむ。今脉浮

なるが故に外に在り、當(まさ)に須(すべから)く外を解せば則ち愈ゆべし、桂枝湯

に宜し。十五(用前第十二方)。

 

【第四六条】

太陽病、脉浮緊、無汗、發熱、身疼痛、八九日不解、表證仍在、此當發其汗。服藥已微除、其人發煩目瞑、劇者必衄、衄乃解。所以然者、陽氣重故也。麻黄湯主之。十六(用前第五方)。

太陽病、脉浮緊、汗無く、發熱、身(み)疼痛し、八、九日解せず。表證仍(な)お在

るは、此れ當に其の汗を發すべし。藥を服し已(おわ)り微(すこ)しく除き、其の人

煩(はん)を發し目瞑(もくめい)す、

劇(はげ)しき者は必ず衄(じく)す、衄すれば乃(すなわ)ち解す。然(しか)る所

以(ゆえん)の者は、陽氣重きが故なり。麻黄湯之を主る。十六(用前第五方)。

 

【第四七条】

太陽病、脉浮緊、發熱、身無汗、自衄者愈。

太陽病、脉浮緊、發熱、身(み)汗無く、自(おのずか)ら衄(じく)する者は愈ゆ。

 

【第四八条】

二陽併病、太陽初得病時、發其汗、汗先出不徹、因轉屬陽明、續自微汗出、不惡寒。

若太陽病證不罷者、不可下、下之為逆。如此可小發汗。設面色緣緣正赤者、陽氣怫鬱在

表、當解之熏之。若發汗不徹、不足言、陽氣怫鬱不得越、當汗不汗、其人躁煩、不知痛

處、乍在腹中、乍在四肢、按之不可得、其人短氣但坐、以汗出不徹故也、更發汗則愈。

何以知汗出不徹、以脉故知也。

二陽の併病(へいびょう)、太陽初め病を得たる時、其の汗を發し、汗先ず出でて徹

(てっ)せず、因りて陽明に轉屬(てんぞく)す。續(つづ)いて自(おのずか)ら微

(すこ)しく汗出でて、惡寒せず。若し太陽病の證罷(や)まざる者は、下すべから

ず、之を下すを逆と為す。此の如きは小(すこ)しく汗を發すべし。設(も)し面色緣

緣(えんえん)として正(まさ)に赤き者は、陽氣怫鬱(ふついく)として表に在り。

當(まさ)に之を解くに之を熏(くん)ずべし。若し發汗し徹(てっ)せず、言うに足

らざれば、陽氣怫鬱(ふついく)として越するを得ず、當に汗すべくして汗せざれば、

其の人躁煩し、痛處を知らず、乍(たちま)ち腹中に在り、乍ち四肢に在り、之を按じ

て得(う)べからず。其の人短氣して但だ坐するは、汗出ずるも徹せざるを以ての故な

り。更に汗を發すれば則ち愈ゆ。何を以て汗出ずること徹せざるを知らん。脉濇を以て

の故に知るなり。

 

【第四九条】

脉浮數者、法當汗出而愈。若下之、身重、心悸者、不可發汗、當自汗出乃解。所以然者、尺中脉微、此裏。須表裏實、津液自和、便自汗出愈。

脉浮數(さく)の者は、法は當(まさ)に汗出でて愈ゆべし。若し之を下し、身重く、

心悸する者は、汗を發すべからず、當に自ずと汗出でれば乃ち解すべし。然る所以(ゆ

えん)の者は、尺中の脉微(び)、此れ裏虚(りきょ)す。須からく表裏實し、津液自

ずと和せば、便(すなわ)ち自ずと汗出で愈ゆる。

 

【第五〇条】

脉浮緊者、法當身疼痛、宜以汗解之。假令尺中遲者、不可發汗。何以知然。以榮氣不足、血少故也。

脉浮緊の者は、法(ほう)は當に身(み)疼痛す。宜しく汗を以て之を解すべし。假令

(たと)えば尺中遲の者は、汗を發すべからず。何を以て然るを知るや。榮氣足らず血

少なきを以ての故なり。

 

【第五一条】

脉浮者、病在表、可發汗、宜麻黄湯。十七。(用前第五方法用桂枝湯)

脉浮の者は、病表に在り、汗を發すべし。麻黄湯に宜し。十七。(前の第五方を用う。法に桂枝湯を用う)

 

【第五二条】脉浮而數者、可發汗、宜麻黄湯。十八(用前第五方)。

脉浮にして數の者は、汗を發すべし、麻黄湯に宜し。十八(前の第五方を用う)。

 

【第五三条】

病常自汗出者、此為榮氣和。榮氣和者、外不諧、以衛氣不共榮氣諧和故爾。以榮行脉中、衛行脉外。復發其汗、榮衛和則愈。宜桂枝湯。十九(用前第十二方)。

病常に自汗出ずる者は、此れ榮氣和すと為す。榮氣和する者は、外諧(ととの)わず、

衛氣、榮氣共に諧和(かいわ)せざるを以ての故に爾(しか)り。榮は脉中を行(め

ぐ)り、衛は脉外を行るを以てなり。復た其の汗を發し、榮衛和すれば則ち愈ゆ。桂枝

湯に宜し。十九(前の第十二方を用う)。

 

【第五四条】

病人藏無他病、時發熱、自汗出、而不愈者、此衛氣不和也。先其時發汗則愈、宜桂枝湯。二十(用前第十二方)。

病人、藏に他病無く、時に發熱し、自ずと汗出で、愈えざる者は、此れ衛氣和せざるなり。其の時に先だちて汗を發すれば則ち愈ゆ、桂枝湯に宜し。二十(前の第十二方用う)

 

【第五五条】

傷寒、脉浮緊、不發汗、因致衄者、麻黄湯主之。二十一(用前第五方)。

傷寒、脉浮緊、汗を發せず、因(よ)りて衄(じく)を致す者は、麻黄湯之を主る。二十一(前の第五方を用う)。

 

【第五六条】

傷寒、不大便六七日、頭痛有熱者、與承氣湯。其小便清(一云大便青)者、知不在裏、仍在表也、當須發汗。若頭痛者必衄。宜桂枝湯。二十二(用前第十二方)。

傷寒、大便せざること六、七日、頭痛し熱有る者は、承氣湯(じょうきとう)を

辨太陽病脉證并治中・第六(合六十六法方三十九首并見太陽陽明合病法)

 

【第三一条】

太陽病、項背強几几、無汗、惡風、葛根湯主之。方一。

太陽病、項背(こうはい)強ばること几几(しゅしゅ)として、汗無く、惡風するは、葛根湯之(これ)を主る。方一。

 

〔葛根湯方〕

葛根(四兩) 麻黄(三兩去節) 桂枝(二兩去皮) 生薑(三兩切) 甘草(二兩炙) 芍藥(二兩) 大棗(十二枚擘)

右七味、以水一斗、先煮麻黄、葛根、減二升、去白沫、内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升、覆取微似汗。餘如桂枝法將息及禁忌、諸湯皆倣此。

葛根(四兩) 麻黄(三兩節を去る) 桂枝(二兩皮を去る) 生薑(三兩切る) 甘草(二兩炙る) 芍藥(二兩) 大棗(十二枚擘く)

右七味、水一斗を以て、先ず麻黄、葛根を煮て、二升を減じ、白沫を去り、諸藥を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。覆(おお)いて微(すこ)しく汗に似たるを取る。

餘(余)は桂枝の法の將息(しょうそく)及び禁忌の如し。諸湯(しょとう)皆此れに倣(なら)え。

 

【第三二条】

太陽與陽明合病者、必自下利、葛根湯主之。方二(用前第一方一云用後第四方)。

太陽と陽明の合病なる者は、必ず自から下利す。葛根湯之を主る。方二

 

【第三三条】

太陽與陽明合病、不下利、但嘔者、葛根加半夏湯主之。方三。

太陽と陽明の合病、下利せず、但だ嘔する者は、葛根加半夏湯(かっこんかはんげとう)之を主る。方三。

〔葛根加半夏湯方〕

葛根(四兩) 麻黄(三兩去節) 甘草(二兩炙) 芍藥(二兩) 桂枝(二兩去皮) 生薑(二兩切) 半夏(半升洗) 大棗(十二枚擘)

右八味、以水一斗、先煮葛根、麻黄、減二升、去白沫、内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升。

覆取微似汗。

葛根(四兩) 麻黄(三兩節を去る) 甘草(二兩炙る) 芍藥(二兩) 桂枝(二兩皮を去る) 生薑(二兩切る) 半夏(半升洗う) 大棗(十二枚擘く)

右八味、水一斗を以て、先ず葛根、麻黄を煮て、二升を減じ、白沫を去り、諸藥を内(い)れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。覆(おお)いて微(すこ)しく汗に似たるを取る。

 

【第四条】

太陽病、桂枝證、醫反下之、利遂不止、脉促(促一作縱)者、表未解也。喘而汗出者、

葛根黄黄連湯主之。方四。

太陽病、桂枝證、醫(い)反って之を下し、利遂(つい)に止まず、脉促の(促一作縱)者は、表未だ解(げ)せざるなり。喘(ぜい)して汗出ずる者は、葛根黄芩黄連湯(かっこんおうごんおうれんとう)之を主る。方四。

 

〔葛根黄黄連湯方〕

葛根(半斤) 甘草(二兩炙) 黄(三兩) 黄連(三兩)

右四味、以水八升、先煮葛根、減二升、内諸藥、煮取二升、去滓、分温再服。

葛根(半斤) 甘草(二兩炙る) 黄芩(おうごん)(三兩) 黄連(三兩)

右四味、水八升を以て、先ず葛根を煮て、二升を減じ、諸藥を内れ、煮て二升を取り、滓を去り、分かち温め再服す。

 

【第三五条】

太陽病、頭痛、發熱、身疼、腰痛、骨節疼痛、惡風無汗而喘者、麻黄湯主之。方五。

太陽病、頭痛、發熱、身疼(とう)し、腰痛、骨節疼痛し、惡風し汗無くして喘(ぜい)する者は、

麻黄湯之を主る。方五

 

〔麻黄湯方〕

麻黄(三兩去節) 桂枝(二兩去皮) 甘草(一兩炙) 杏仁(七十箇去皮尖)

右四味、以水九升、先煮麻黄、減二升、去上沫、内諸藥、煮取二升半、去滓、温服八合、覆取微似汗、不須啜粥、餘如桂枝法將息。

麻黄(三兩節を去る) 桂枝(二兩皮を去る) 甘草(一兩炙る) 杏仁(七十箇、皮尖を去る)

右四味、水九升を以て、先ず煮黄を煮て、二升を減じ、上沫を去り、諸藥を内れ、煮て二升半を取り、滓を去り、八合を温服す、覆いて微(すこ)しく汗に似たるを取る。須(すべ)からず粥を啜(すす)らず。

餘(よ)は桂枝法の將息(しょうそく)の如くす。

 

【第三六条】

太陽與陽明合病、喘而胸滿者、不可下、宜麻黄湯。六(用前第五方)。

太陽と陽明の合病、喘(ぜい)して胸滿する者は、下すべからず、麻黄湯に宜し。六(用前第五方)。

 

【第三七条】

太陽病、十日以去、脉浮細而嗜臥者、外已解也。設胸滿脇痛者、與小柴胡湯。脉但浮者、與麻黄湯。七(用前第五方)。

太陽病、十日を以て去り、脉浮細にして嗜臥(しが)する者は、外已(すで)に解(げ)するなり。設(も)し胸滿脇痛する者は、小柴胡湯を與(与)う。脉但(た)だ浮の者は、麻黄湯を與う。

七(用前第五方)

 

〔小柴胡湯方〕

柴胡(半斤) 黄 人參 甘草(炙) 生薑(各三兩切) 大棗(十二枚擘) 半夏(半升洗)

右七味、以水一斗二升、煮取六升、去滓、再煎取三升、温服一升、日三服。

柴胡(半斤) 黄芩 人參 甘草(炙る) 生薑(各三兩切る) 大棗(十二枚擘く) 半夏(半升洗う)

右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取り、滓を去り、再び煎じて三升を取り、一升を温服し、日に三服す。

 

【第三八条】

太陽中風、脉浮緊、發熱、惡寒、身疼痛、不汗出而煩躁者、大青龍湯主之。若脉微弱、汗出惡風者、不可服之。服之則厥逆、筋惕肉、此為逆也。大青龍湯方。八。

太陽の中風、脉浮緊、發熱、惡寒し、身疼痛し、汗出でずして煩躁する者は、大青龍湯之を主る。

若し脉微弱、汗出で惡風する者は、之を服すべからず。之を服すれば則ち厥逆し、筋惕(きんてき)肉瞤(にくじゅん)す。此を逆と為すなりなり。大青龍湯方。八。

 

〔大青龍湯方〕

麻黄(六兩去節) 桂枝(二兩去皮) 甘草(二兩炙) 杏仁(四十枚去皮尖) 生薑(三兩切) 大棗(十枚擘) 石膏(如子大碎)

右七味、以水九升、先煮麻黄、減二升、去上沫、内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升、取微似汗。汗出多者、温粉粉之。一服汗者、停後服。若復服、汗多亡陽、遂(一作逆)、惡風、煩躁、不得眠也。

麻黄(六兩節を去る) 桂枝(二兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 杏仁(四十枚、皮尖を去る) 生薑(三兩切る) 大棗(十枚擘く)石膏(雞子大(けいしだい)の如きを碎(くだ)く)

右七味、水九升を以て、先ず麻黄を煮て、二升を減じ、上沫を去り、諸藥を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す、微しく汗に似たるを取る。

汗出ずること多き者は、温粉(おんふん)もて之を粉(はた)く。一服にて汗する者

は、後服を停(とど)む。若し復た服すれば、汗多く亡陽(ぼうよう)し、遂に(一作

逆)虚し、惡風し、煩躁し、眠を得ざるなり。

 

【第九条】

傷寒、脉浮緩、身不疼、但重、乍有輕時、無少陰證者、大青龍湯發之。九(用前第八方)。

傷寒、脉浮緩、身疼(とう)せず、但だ重く、乍(たちま)ち輕き時有り。少陰の證無き者は、大青龍湯之を發(発)す。九(用前第八方)。

 

【第四〇条】

傷寒、表不解、心下有水氣、乾嘔、發熱而、或、或利、或噎、或小便不利、少腹滿、或喘者、小青龍湯主之。方十。

傷寒、表解(げ)せず、心下に水氣有り。乾嘔(かんおう)し、發熱して欬(がい)し、或いは渴は(かっ)し、或いは利(り)し、或いは噎(いっ)し、或いは小便不利し、少腹滿し、或いは喘(ぜい)する者は、小青龍湯之を主る。方十。

 

〔小青龍湯方〕

麻黄(去節) 芍藥 細辛 乾薑 甘草(炙) 桂枝(各三兩去皮) 五味子(半升) 半夏(半升洗)

右八味、以水一斗、先煮麻黄減二升、去上沫、内諸藥。煮取三升、去滓、温服一升。、去半夏、加樓根三兩。若微利、去麻黄、加蕘花、如一子、熬令赤色。若噎者、去麻黄、加附子一枚、炮。若小便不利、少腹滿者、去麻黄、加茯苓四兩。若喘、去麻黄、加杏仁半升、去皮尖。且蕘花不治利、麻黄主喘、今此語反之、疑非仲景意。(臣億等謹按小青龍湯大要治水。又按本草蕘花下十二水、若水去利則止也。又按千金形腫者應内麻黄、乃内杏仁者、以麻黄發其陽故也、以此證之、豈非仲景意也。

麻黄(節を去る) 芍藥 細辛(さいしん) 乾薑 甘草(炙る) 桂枝(各三兩、皮を去る) 五味子(半升) 半夏(半升洗う)

右八味、水一斗を以て、先ず麻黄を煮て二升を減じ、上沫を去り、諸藥を内れ、煮て三

升を取り、滓を去り、一升を温服す。若し渴すれば、半夏を去り、栝樓根(かろこん)

三兩を加う。若し微利(びり)すれば、麻黄を去り、蕘花(ぎょうか)、一雞子(いち

けいし)の如きを熬(い)りて赤色ならしめ加う。

若し噎(いっ)する者は、麻黄を去り、附子一枚を炮(ほう)じて加える。若し小便不

利し、少腹滿する者は、麻黄を去り、茯苓四兩を加える。若し喘すれば、麻黄を去り、

杏仁半升、皮尖を去りて加える。

且つ蕘花(ぎょうか)は利を治せず、麻黄は喘を主る、今此の語、之に反す。仲景の意

にあらずを疑う。

臣億ら謹んで按ずるに、小青龍湯の要は治水。又た本草を按ずれば、蕘花は十二水を下

し、若し水去らば、利則ち止むなり。又た千金按ずれば、形腫れるものは、応じて麻黄

を内れるべきに、乃ち杏仁を内れるは、麻黄を以て其の陽を発するが故なり。此れを以

て之を証し、豈(あ)に仲景の意にあらざらんや。

 

【第四一条】

傷寒、心下有水氣、而微喘、發熱不。服湯已、者、此寒去欲解也、小青龍湯主之。十一(用前第十方)。

傷寒、心下に水氣有り、欬(がい)して微喘(びぜい)し、發熱して渴せず。湯を服し已(おわ)り、渴する者は、此れ寒去りて解せんと欲するなり。小青龍湯之を主る。十一(用前第十方)

 

【第四二条】

太陽病、外證未解、脉浮弱者、當以汗解、宜桂枝湯。方十二。

太陽病、外證(がいしょう)未だ解(げ)せず、脉浮弱の者は、當(まさ)に汗を以て解くべし、桂枝湯に宜し。方十二。

 

〔桂枝湯方〕

桂枝(去皮) 芍藥 生薑(各三兩切) 甘草(二兩炙) 大棗(十二枚擘)

右五味、以水七升、煮取三升、去滓、温服一升。須臾啜熱稀粥一升、助藥力、取微汗。

桂枝(皮を去る) 芍藥 生薑(各三兩切る) 甘草(二兩炙(あぶ)る) 大棗(十二枚擘(つんざ)く)

右五味、水七升を以て、煮て三升を取る、滓を去り、一升を温服す。須臾(しゅゆ)にして熱稀粥(ねっきがゆ)一升を啜り、藥力を助け、微(すこ)しく汗に似たるを取る。

 

【第四三条】

太陽病、下之微喘者、表未解故也、桂枝加厚朴杏子湯主之。方十三。

太陽病、之を下し微喘(びぜい)する者は、表未だ解(げ)せざるが故(ゆえ)なり、桂枝加厚朴杏子湯(けいしかこうぼくきょうしとう)之を主る。方十三。

 

〔桂枝加厚朴杏子湯方〕

桂枝(三兩去皮) 甘草(二兩炙) 生薑(三兩切) 芍藥(三兩) 大棗(十二枚擘) 

厚朴(二兩炙去皮) 杏仁(五十枚去皮尖)

右七味、以水七升、微火煮取三升、去滓、温服一升、覆取微似汗。

桂枝(三兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 生薑(三兩切る) 芍藥(三兩) 大棗(十二枚擘く) 厚朴(二兩炙り皮を去る) 杏仁(五十枚皮尖を去る)

右七味、水七升を以て、微火(びか)にて煮て三升を取る、滓を去る、一升を温服す、覆いて微(すこ)しく汗に似たるを取る。

 

【第四四条】

太陽病、外證未解、不可下也、下之為逆。欲解外者、宜桂枝湯。十四(用前第十二方)。

太陽病、外證未だ解(げ)せざるは、下すべからざるなり、之を下すを逆と為す。外を解せんと欲する者は、桂枝湯に宜し。十四(用前第十二方)。

 

【第四五条】

太陽病、先發汗不解、而復下之、脉浮者不愈。浮為在外、而反下之、故令不愈。今脉浮、故在外、當須解外則愈、宜桂枝湯。十五(用前第十二方)。

太陽病、先ず汗を發して解(げ)せず、而(しか)るに復た之を下し、脉浮の者は愈え

ず。浮は外に在りと為す、而(しか)るに反って之を下すが故に愈えざらしむ。今脉浮

なるが故に外に在り、當(まさ)に須(すべから)く外を解せば則ち愈ゆべし、桂枝湯

に宜し。十五(用前第十二方)。

 

【第四六条】

太陽病、脉浮緊、無汗、發熱、身疼痛、八九日不解、表證仍在、此當發其汗。服藥已微除、其人發煩目瞑、劇者必衄、衄乃解。所以然者、陽氣重故也。麻黄湯主之。十六(用前第五方)。

太陽病、脉浮緊、汗無く、發熱、身(み)疼痛し、八、九日解せず。表證仍(な)お在

るは、此れ當に其の汗を發すべし。藥を服し已(おわ)り微(すこ)しく除き、其の人

煩(はん)を發し目瞑(もくめい)す、

劇(はげ)しき者は必ず衄(じく)す、衄すれば乃(すなわ)ち解す。然(しか)る所

以(ゆえん)の者は、陽氣重きが故なり。麻黄湯之を主る。十六(用前第五方)。

 

【第四七条】

太陽病、脉浮緊、發熱、身無汗、自衄者愈。

太陽病、脉浮緊、發熱、身(み)汗無く、自(おのずか)ら衄(じく)する者は愈ゆ。

 

【第四八条】

二陽併病、太陽初得病時、發其汗、汗先出不徹、因轉屬陽明、續自微汗出、不惡寒。若太陽病證不罷者、不可下、下之為逆。如此可小發汗。設面色緣緣正赤者、陽氣怫鬱在表、當解之熏之。若發汗不徹、不足言、陽氣怫鬱不得越、當汗不汗、其人躁煩、不知痛處、乍在腹中、乍在四肢、按之不可得、其人短氣但坐、以汗出不徹故也、更發汗則愈。何以知汗出不徹、以脉故知也。

二陽の併病(へいびょう)、太陽初め病を得たる時、其の汗を發し、汗先ず出でて徹

(てっ)せず、因りて陽明に轉屬(てんぞく)す。續(つづ)いて自(おのずか)ら微

(すこ)しく汗出でて、惡寒せず。若し太陽病の證罷(や)まざる者は、下すべから

ず、之を下すを逆と為す。此の如きは小(すこ)しく汗を發すべし。設(も)し面色緣

緣(えんえん)として正(まさ)に赤き者は、陽氣怫鬱(ふついく)として表に在り。

當(まさ)に之を解くに之を熏(くん)ずべし。若し發汗し徹(てっ)せず、言うに足

らざれば、陽氣怫鬱(ふついく)として越するを得ず、當に汗すべくして汗せざれば、

其の人躁煩し、痛處を知らず、乍(たちま)ち腹中に在り、乍ち四肢に在り、之を按じ

て得(う)べからず。其の人短氣して但だ坐するは、汗出ずるも徹せざるを以ての故な

り。更に汗を發すれば則ち愈ゆ。何を以て汗出ずること徹せざるを知らん。脉濇を以て

の故に知るなり。

 

【第四九条】

脉浮數者、法當汗出而愈。若下之、身重、心悸者、不可發汗、當自汗出乃解。所以然者、尺中脉微、此裏。須表裏實、津液自和、便自汗出愈。

脉浮數(さく)の者は、法は當(まさ)に汗出でて愈ゆべし。若し之を下し、身重く、

心悸する者は、汗を發すべからず、當に自ずと汗出でれば乃ち解すべし。然る所以(ゆ

えん)の者は、尺中の脉微(び)、此れ裏虚(りきょ)す。須からく表裏實し、津液自

ずと和せば、便(すなわ)ち自ずと汗出で愈ゆる。

 

【第五〇条】

脉浮緊者、法當身疼痛、宜以汗解之。假令尺中遲者、不可發汗。何以知然。以榮氣不足、血少故也。

脉浮緊の者は、法(ほう)は當に身(み)疼痛す。宜しく汗を以て之を解すべし。假令

(たと)えば尺中遲の者は、汗を發すべからず。何を以て然るを知るや。榮氣足らず血

少なきを以ての故なり。

 

【第五一条】

脉浮者、病在表、可發汗、宜麻黄湯。十七。(用前第五方法用桂枝湯)

脉浮の者は、病表に在り、汗を發すべし。麻黄湯に宜し。十七。(前の第五方を用う。法に桂枝湯を用う)

 

【第五二条】脉浮而數者、可發汗、宜麻黄湯。十八(用前第五方)。

脉浮にして數の者は、汗を發すべし、麻黄湯に宜し。十八(前の第五方を用う)。

 

【第五三条】

病常自汗出者、此為榮氣和。榮氣和者、外不諧、以衛氣不共榮氣諧和故爾。以榮行脉中、衛行脉外。復發其汗、榮衛和則愈。宜桂枝湯。十九(用前第十二方)。

病常に自汗出ずる者は、此れ榮氣和すと為す。榮氣和する者は、外諧(ととの)わず、

衛氣、榮氣共に諧和(かいわ)せざるを以ての故に爾(しか)り。榮は脉中を行(め

ぐ)り、衛は脉外を行るを以てなり。復た其の汗を發し、榮衛和すれば則ち愈ゆ。桂枝

湯に宜し。十九(前の第十二方を用う)。

 

【第五四条】

病人藏無他病、時發熱、自汗出、而不愈者、此衛氣不和也。先其時發汗則愈、宜桂枝湯。二十(用前第十二方)。

病人、藏に他病無く、時に發熱し、自ずと汗出で、愈えざる者は、此れ衛氣和せざるなり。其の時に先だちて汗を發すれば則ち愈ゆ、桂枝湯に宜し。二十(前の第十二方用う)

 

【第五五条】

傷寒、脉浮緊、不發汗、因致衄者、麻黄湯主之。二十一(用前第五方)。

傷寒、脉浮緊、汗を發せず、因(よ)りて衄(じく)を致す者は、麻黄湯之を主る。二十一(前の第五方を用う)。

 

【第五六条】

傷寒、不大便六七日、頭痛有熱者、與承氣湯。其小便清(一云大便青)者、知不在裏、仍在表也、當須發汗。若頭痛者必衄。宜桂枝湯。二十二(用前第十二方)。

傷寒、大便せざること六、七日、頭痛し熱有る者は、承氣湯(じょうきとう)を與

(与)う。其の小便清き(一云大便青)者は、裏に在らずして、仍(な)お表に在ある

を知るなり。當(まさ)に須(すべから)く汗を發すべし。若し頭痛む者は必ず衄(じ

く)す。桂枝湯に宜し。二十二(前の第十二方を用う)。

 

【第五七条】

傷寒、發汗已解、半日許復煩、脉浮數者、可更發汗、宜桂枝湯。二十三(前の第十二方を用う)。

傷寒、汗を發し已に解(げ)すること半日許(ばか)りにして復(ま)た煩(はん)し、脉浮數の者は、更に汗を發すべし。桂枝湯に宜し。二十三(前の第十二方を用う)。

 

【第五八条】

凡病、若發汗、若吐、若下、若亡血、亡津液、陰陽自和者、必自愈。

凡(おおよ)そ病、若しくは發汗し、若しくは吐し、若しくは下し、若しくは亡血(ぼうけつ)し、津液を亡(うしな)うも、陰陽自(おのずか)ら和す者は、必ず自ら愈ゆ。

 

【第五九条】

大下之後、復發汗、小便不利者、亡津液故也。勿治之、得小便利、必自愈。

大いに之を下したる後、復た發汗し、小便不利の者は、津液を亡(うしな)うが故なり。之を治すること勿(な)かれ。小便利するを得れば、必ず自ら愈ゆ。

 

【第六〇条】

下之後、復發汗、必振寒、脉微細。所以然者、以内外倶故也。

之を下したる後、復た發汗すれば、必ず振寒し、脉微細なり。然る所以の者は、内外倶(とも)に虚するを以ての故なり。

 

【第六一条】

下之後、復發汗、晝日煩躁不得眠、夜而安靜、不嘔、不、無表證、脉沈微、身無大熱者、乾薑附子湯主之。方二十四。

之を下したる後、復た發汗し、晝日(ちゅうじつ)煩躁して眠を得ず、夜にして安靜、嘔せず、渇せず、表證無く、脉沈微(ちんび)、身(み)に大熱無き者は、乾薑附子湯(かんきょうぶしとう)之を主る。方二十四。

 

〔乾薑附子湯方〕

乾薑(一兩) 附子(一枚生用去皮切八片)

右二味、以水三升、煮取一升、去滓、頓服。

乾薑(一兩) 附子(一枚、生を用い、皮を去り、八片に切る)

右二味、水三升を以て、煮て一升を取り、滓を去り、頓服す。

 

【第六二条】

發汗後、身疼痛、脉沈遲者、桂枝加芍藥生薑各一兩人參三兩新加湯主之。方二十五。

發汗後、身疼痛し、脉沈遲の者は、桂枝加芍藥生薑各一兩人參三兩新加湯(けいしかしょくやくしょうきょうかくいちりょうにんじんさんりょうしんかとう)之を主る。方二十五。

 

〔桂枝加芍藥生薑各一兩人參三兩新加湯方〕

桂枝(三兩去皮) 芍藥(四兩) 甘草(二兩炙) 人參(三兩) 大棗(十二枚擘) 生薑(四兩)

右六味、以水一斗二升、煮取三升、去滓、温服一升。本云桂枝湯、今加芍藥生薑人參。

桂枝(三兩皮を去る) 芍藥(四兩) 甘草(二兩炙る) 人參(三兩) 大棗(十二枚擘く) 生薑(四兩)

右六味、水一斗二升を以て、煮て三升を取る、滓を去り、一升を温服す。本(もと)云(い)う桂枝湯に今芍藥、生薑、人參を加えると。

 

【第六三条】

發汗後、不可更行桂枝湯。汗出而喘、無大熱者、可與麻黄杏子甘草石膏湯。方二十六。

發汗後、更(さら)に桂枝湯を行(や)るべからず。汗出でて喘し、大熱無き者は、麻黄杏仁甘草石膏湯(まおうきょうにんかんぞうせっこうとう)を與うべし。方二十六。

 

〔麻黄杏子甘草石膏湯方〕

麻黄(四兩去節) 杏仁(五十箇去皮尖) 甘草(二兩炙) 石膏(半斤碎綿裹)

右四味、以水七升、煮麻黄、減二升、去上沫、内諸藥、煮取二升、去滓、温服一升。本云、黄耳杯。

麻黄(四兩節を去る) 杏仁(五十箇皮尖を去る) 甘草(二兩炙る) 石膏(半斤、碎き、綿もて裹(つつ)む)

右四味、水七升以て、麻黄を煮て、二升を減じ、上沫を去り、諸藥を内(い)れ、煮て二升を取り、滓を去り、一升を温服す。本(もと)云う、黄耳杯(おうじはい)と。

 

【第六四条】

發汗過多、其人叉手自冒心、心下悸欲得按者、桂枝甘草湯主之。方二十七。

發汗過多、其の人叉手(さしゅ)して自ら心を冒(おお)い、心下悸(き)し按を得んと欲する者は、桂枝甘草湯之を主る。方二十七。

 

〔桂枝甘草湯方〕

桂枝(四兩去皮) 甘草(二兩炙)

右二味、以水三升、煮取一升、去滓、頓服。

桂枝(四兩皮を去る) 甘草(二兩炙る)

右二味、水三升を以て、煮て一升を取る、滓を去り、頓服す。

 

【第六五条】

發汗後、其人臍下悸者、欲作奔豚、茯苓桂枝甘草大棗湯主之。方二十八。

發汗後、其の人臍下悸(き)する者は、奔豚(ほんとん)を作(な)さんと欲す、茯苓桂枝甘草大棗湯(ぶくりょうけいしかんぞうだいそうとう)之を主る。方二十八。

 

〔茯苓桂枝甘草大棗湯方〕

茯苓(半斤) 桂枝(四兩去皮) 甘草(二兩炙) 大棗(十五枚擘)

右四味、以甘爛水一斗、先煮茯苓、減二升、内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升、日三服。作甘爛水法、取水二斗、置大盆内、以杓揚之、水上有珠子五六千顆相逐、取用之。

茯苓(半斤) 桂枝(四兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 大棗(十五枚擘く)

右四味、甘爛水(かんらんすい)一斗を以て、先ず茯苓を煮て、二升を減じ、諸藥を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す、日に三服す。甘爛水(かんらんすい)を作るの法、水二斗を取り、

大盆内に置き、杓を以て之を揚げ、水上に珠子(しゅし)五六千顆(か)相(あ)い逐(お)うもの有らば、取りて之を用う。

 

【第六六条】

發汗後、腹脹滿者、厚朴生薑半夏甘草人參湯主之。方二十九。

發汗後、腹脹滿する者は、厚朴生薑半夏甘草人參湯(こうぼくしょうきょうはんげかんぞうにんじんとう)之を主る。方二十九。

 

〔厚朴生薑半夏甘草人參湯方〕

厚朴(半斤炙去皮) 生薑(半斤切) 半夏(半斤洗) 甘草(二兩) 人參(一兩)

右五味、以水一斗、煮取三升、去滓温服一升、日三服。

厚朴(半斤、炙り、皮を去る) 生薑(半斤、切る) 半夏(半斤、洗る) 甘草(二兩) 人參(一兩)

右五味、水一斗を以て、煮て三升を取り、滓を去り一升を温服し、日に三服す。

 

【第六七条】

傷寒、若吐、若下後、心下逆滿、氣上衝胸、起則頭眩、脉沈緊、發汗則經動、身為振振揺者、茯苓桂枝白朮甘草湯主之。方三十。

傷寒、若しくは吐し、若しくは下したる後、心下逆滿し、氣上りて胸を衝き、起きれば

則ち頭眩(ずげん)し、脉沈緊、發汗すれば則ち經動じ、身(み)振振(しんしん)と

して揺(よう)を為(な)す者は、茯苓桂枝白朮甘草湯(ぶくりょうけいしびゃくじゅ

つかんぞうとう)之を主る。方三十。

 

〔茯苓桂枝白朮甘草湯方〕

茯苓(四兩) 桂枝(三兩去皮) 白朮 甘草(各二兩炙)

右四味、以水六升、煮取三升、去滓、分温三服。

茯苓(四兩) 桂枝(三兩皮を去る) 白朮 甘草(各二兩炙る)

右四味、水六升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、分かち温め三服す。

 

【第六八条】

發汗病不解、反惡寒者、故也。芍藥甘草附子湯主之。方三十一。

發汗し、病解(げ)せず、反て惡寒する者は、虚するが故なり。芍藥甘草附子湯(しゃくやくかんぞうぶしとう)之を主る。方三十一。

 

〔芍藥甘草附子湯方〕

芍藥 甘草(各三兩炙) 附子(一枚炮去皮破八片)

右三味、以水五升、煮取一升五合、去滓、分温三服。疑非仲景方。

芍藥 甘草(各三兩、炙る) 附子(一枚炮じて、皮を去り、八片を破る)

右三味、水五升を以て、煮て一升五合を取り、滓を去り、分かち温め三服す。仲景の方に非ざるを疑う。

 

【第六九条】

發汗、若下之、病仍不解、煩躁者、茯苓四逆湯主之。方三十二。

發汗し、若し之を下し、病仍(な)お解せず、煩躁する者は、茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)之を主る。方三十二。

 

〔茯苓四逆湯方〕

茯苓(四兩) 人參(一兩) 附子(一枚生用去皮破八片) 甘草(二兩炙) 乾薑(一兩半)

右五味、以水五升、煮取三升、去滓、温服七合、日二服。

茯苓(四兩) 人參(一兩) 附子(一枚、生を用い、皮を去り、八片に破る) 甘草(二兩炙る) 乾薑(一兩半)

右五味、水五升を以て、煮て三升を取る、滓を去り、七合を温服し、日に二服す。

 

【第七〇条】

發汗後、惡寒者、虚故也。不惡寒、但熱者、實也、當和胃氣、與調胃承氣湯。方三十三。(玉函云與小承氣湯)

發汗後、惡寒する者は、虚するが故なり。惡寒せず、但だ熱する者は、實なり。當に胃氣を和すべし。調胃承氣湯(ちょういじょうきとう)を與う。方三十三。(玉函云與小承氣湯)

 

〔調胃承氣湯方〕

芒消(半升) 甘草(二兩炙) 大黄(四兩去皮清酒洗)

右三味、以水三升、煮取一升、去滓、内芒消、更煮兩沸、頓服。

芒消(半升) 甘草(二兩炙る) 大黄(四兩皮を去り清酒で洗う)

右三味、水三升を以て、煮て一升を取り、滓を去り、芒消を内れ、更に煮て兩沸し、頓服す。

 

【第七一条】

太陽病、發汗後、大汗出、胃中乾、煩躁不得眠、欲得飲水者、少少與飲之、令胃氣和則愈。若脉浮、小便不利、微熱、消者、五苓散主之。方三十四。(即猪苓散是)

太陽病、發汗後、大いに汗出で、胃中乾き、煩躁して眠を得ず、飲水を得んと欲する者

は、少少與(あた)え之を飲み、胃氣をして和せしむれば則ち愈ゆ。若し脉浮、小便利

せず、微熱し、消渇(しょうかつ)する者は、五苓散之を主る。方三十四。(即猪苓散

是)

 

〔五苓散方〕

猪苓(十八銖去皮) 澤瀉(一兩六銖) 白朮(十八銖) 茯苓(十八銖) 桂枝(半兩去皮)

右五味、擣為散、以白飲和服方寸匕、日三服。多飲煖水、汗出愈、如法將息。

猪苓(ちょれい)(十八銖、皮を去る) 澤瀉(たくしゃ)(一兩六銖) 白朮(びゃくじゅつ)(十八銖) 茯苓(十八銖) 桂枝(半兩皮を去る)

右五味、擣(つ)きて散と為し、白飲を以て和し方寸匕(ほうすんひ)にて服し、日に三服す。多く煖水(だんすい)を飲み、汗出でて愈ゆ。法は將息の如し。

 

【第七二条】

發汗已、脉浮數、煩渇者、五苓散主之。三十五(用前第三十四方)。

發汗已(おわ)り、脉浮數、煩渇する者は、五苓散之を主る。三十五(前の第三十四方を用う)。

 

【第七三条】

傷寒、汗出而渇者、五苓散主之。不渇者、茯苓甘草湯主之。方三十六。

傷寒、汗出で渇する者は、五苓散之を主る。渇せざる者は、茯苓甘草湯之を主る。方三十六。

 

〔茯苓甘草湯方〕

茯苓(二兩) 桂枝(二兩去皮) 甘草(一兩炙) 生薑(三兩切)

右四味、以水四升、煮取二升、去滓、分温三服。

茯苓(二兩) 桂枝(二兩去皮) 甘草(一兩炙) 生薑(三兩切)

右四味、水四升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、分かち温め三服す。

 

【第七四条】

中風、發熱六七日不解而煩、有表裏證、欲飲水、水入則吐者、名曰水逆、五苓散主之。三十七(用前第三十四方)。

中風、發熱すること六、七日。解(げ)せずして煩(はん)し、表裏の證有り。渇して飲水せんと欲し、水入れば則ち吐する者は、名づけて水逆と曰く。五苓散之を主る。三十七(前の第三十四方を用う)。

 

【第七五条】

未持脉、病人手叉自冒心。師因教試令、而不者、此必兩耳聾無聞也。所以然者、以重發汗、虚故如此。發汗後、飲水多必喘、以水灌之亦喘。

未(いま)だ脉を持(じ)せざる時、病人手叉(しゅさ)して自ら心を冒(おお)う。

師因(よ)りて試しに欬(がい)せしめんと教す。而(しか)るに欬(がい)せざる者

は、此れ必ず兩耳(りょうじ)聾(し)いて聞くこと無きなり。然(しか)る所以(ゆ

えん)の者は、重ねて發汗する以て、虚するが故に此(か)くの如し。發汗後、飲水多

ければ必ず喘(ぜい)す。水を以て之を灌(そそ)ぐも亦(ま)た喘す。

 

【第七六条】

發汗後、水藥不得入口、為逆。若更發汗、必吐下不止。發汗、吐下後、煩不得眠、若劇者、必反覆顛倒(音到下同)、心中懊、梔子湯主之。若少氣者、梔子甘草湯主之。若嘔者、梔子生薑湯主之。三十八。

發汗後、水藥口に入るを得ざるを、逆と為す。若し更に發汗すれば、必ず吐下(とげ)

止まず。發汗、吐下の後、虚煩(きょはん)して眠を得ず。若し劇しき者は、必ず反覆

顛倒(はんぷくしんとう)(音到下同)し、心中懊憹(しんちゅうおうのう)す(上烏

浩下奴冬切下同)。梔子豉湯(しししとう)之を主る。若し少氣(しょうき)する者

は、梔子甘草豉湯(ししかんぞうしとう)之を主る。若し嘔する者は、梔子生薑豉湯

(しししょうきょうしとう)之を主る。三十八。

 

〔梔子湯方〕

梔子(十四箇擘) 香(四合綿裹)

右二味、以水四升、先煮梔子、得二升半、内、煮取一升半、去滓、分為二服、温進一服、得吐者、止後服。

梔子(しし)(十四箇、擘く) 香豉(こうし)(四合、綿もて裹(つつ)む)

右二味、水四升を以て、先ず梔子を煮て二升半を得、豉(し)を内(い)れ、煮て一升半を取り、滓を去り、分かちて二服と為し、一服を温進(おんしん)す、吐を得る者は、後服を止(とど)む。

 

〔梔子甘草湯方〕

梔子(十四箇擘) 甘草(二兩炙) 香(四合綿裹)

右三味、以水四升、先煮梔子、甘草、取二升半、内、煮取一升半、去滓、分二服。温進一服、得吐者、止後服。

梔子(しし)(十四箇、擘く) 甘草(二兩炙る) 香豉(こうし)(四合綿を裹(つつ)む)

右三味、水四升を以て、先ず梔子、甘草を煮て、二升半を取る、豉(し)を内(い)れ、煮て一升半を取り、滓を去り、二服を分かつ。一服を温進し、吐を得る者は、後服を止む。

 

〔梔子生薑湯方〕

梔子(十四箇擘) 生薑(五兩) 香(四合綿裹)

右三味、以水四升、先煮梔子、生薑、取二升半、内、煮取一升半、去滓、分二服。温進一服、得吐者、止後服。

梔子(しし)(十四箇擘) 生薑(五兩) 香豉(四合綿裹)

右三味、水四升を以て、先ず梔子(しし)と生薑を煮て、二升半を取り、豉(し)を内(い)れ、煮て一升半を取り、滓を去る、二服を分かつ。一服を温進し、吐を得る者は、後服を止む。

 

【第七七条】發汗、若下之、而煩熱胸中窒者、梔子湯主之。三十九(用上初方)。

發汗し、若しくは之を下し、而(しこう)して煩熱胸中窒(ふさ)がる者は、梔子豉湯之を主る。三十九(上の初方を用う)。

 

【第七八条】傷寒五六日、大下之後、身熱不去、心中結痛者、未欲解也、梔子湯主之。四十(用上初方)。

傷寒五六日、大いに之を下した後、身熱去らず、心中結痛(けっつう)する者は、未だ解せんと欲せざるなり、梔子豉湯之を主る。四十(上の初方を用う)。

 

【第七九条】傷寒、下後、心煩、腹滿、臥起不安者、梔子厚朴湯主之。方四十一。

傷寒、下して後、心煩(しんはん)し、腹滿(ふくまん)し、臥起(がき)安からざる者は、梔子厚朴湯(ししこうぼくとう)之を主る。方四十一。

 

〔梔子厚朴湯方〕

梔子(十四箇擘) 厚朴(四兩炙去皮) 枳實(四枚水浸炙令黄)

右三味、以水三升半、煮取一升半、去滓、分二服。温進一服、得吐者、止後服。

梔子(十四箇、擘く) 厚朴(四兩、炙り、皮を去る) 枳實(きじつ)(四枚、水に浸し、炙り黄にならしむ)

右三味、水三升半を以て、煮て一升半を取り、滓を去り、二服に分かち。一服を温進す、吐を得る者は、後服を止む。

 

【第八〇条】傷寒、醫以丸藥大下之、身熱不去、微煩者、梔子乾薑湯主之。方四十二。

傷寒、醫(い)丸藥(がんやく)を以て大いに之を下し、身熱去らず、微煩(びはん)する者は、梔子乾薑湯(ししかんきょうとう)之を主る。方四十二。

 

〔梔子乾薑湯方〕

梔子(十四箇擘) 乾薑(二兩)

右二味、以水三升半、煮取一升半、去滓、分二服、温進一服。得吐者、止後服。

梔子(十四箇擘) 乾薑(二兩)

右二味、水三升半を以て、煮て一升半を取り、滓を去り、二服を分かち、一服を温進す。吐を得る者は、後服を止む。(与)う。其の小便清き(一云大便青)者は、裏に在らずして、仍(な)お表に在ある

を知るなり。當(まさ)に須(すべから)く汗を發すべし。若し頭痛む者は必ず衄(じ

く)す。桂枝湯に宜し。二十二(前の第十二方を用う)。

 

【第五七条】

傷寒、發汗已解、半日許復煩、脉浮數者、可更發汗、宜桂枝湯。二十三(前の第十二方を用う)。

傷寒、汗を發し已に解(げ)すること半日許(ばか)りにして復(ま)た煩(はん)し、脉浮數の者は、更に汗を發すべし。桂枝湯に宜し。二十三(前の第十二方を用う)。

 

【第五八条】

凡病、若發汗、若吐、若下、若亡血、亡津液、陰陽自和者、必自愈。

凡(おおよ)そ病、若しくは發汗し、若しくは吐し、若しくは下し、若しくは亡血(ぼうけつ)し、津液を亡(うしな)うも、陰陽自(おのずか)ら和す者は、必ず自ら愈ゆ。

 

【第五九条】

大下之後、復發汗、小便不利者、亡津液故也。勿治之、得小便利、必自愈。

大いに之を下したる後、復た發汗し、小便不利の者は、津液を亡(うしな)うが故なり。之を治すること勿(な)かれ。小便利するを得れば、必ず自ら愈ゆ。

 

【第六〇条】

下之後、復發汗、必振寒、脉微細。所以然者、以内外倶故也。

之を下したる後、復た發汗すれば、必ず振寒し、脉微細なり。然る所以の者は、内外倶(とも)に虚するを以ての故なり。

 

【第六一条】

下之後、復發汗、晝日煩躁不得眠、夜而安靜、不嘔、不、無表證、脉沈微、身無大熱者、乾薑附子湯主之。方二十四。

之を下したる後、復た發汗し、晝日(ちゅうじつ)煩躁して眠を得ず、夜にして安靜、嘔せず、渇せず、表證無く、脉沈微(ちんび)、身(み)に大熱無き者は、乾薑附子湯(かんきょうぶしとう)之を主る。方二十四。

 

〔乾薑附子湯方〕

乾薑(一兩) 附子(一枚生用去皮切八片)

右二味、以水三升、煮取一升、去滓、頓服。

乾薑(一兩) 附子(一枚、生を用い、皮を去り、八片に切る)

右二味、水三升を以て、煮て一升を取り、滓を去り、頓服す。

 

【第六二条】

發汗後、身疼痛、脉沈遲者、桂枝加芍藥生薑各一兩人參三兩新加湯主之。方二十五。

發汗後、身疼痛し、脉沈遲の者は、桂枝加芍藥生薑各一兩人參三兩新加湯(けいしかしょくやくしょうきょうかくいちりょうにんじんさんりょうしんかとう)之を主る。方二十五。

 

〔桂枝加芍藥生薑各一兩人參三兩新加湯方〕

桂枝(三兩去皮) 芍藥(四兩) 甘草(二兩炙) 人參(三兩) 大棗(十二枚擘) 生薑(四兩)

右六味、以水一斗二升、煮取三升、去滓、温服一升。本云桂枝湯、今加芍藥生薑人參。

桂枝(三兩皮を去る) 芍藥(四兩) 甘草(二兩炙る) 人參(三兩) 大棗(十二枚擘く) 生薑(四兩)

右六味、水一斗二升を以て、煮て三升を取る、滓を去り、一升を温服す。本(もと)云(い)う桂枝湯に今芍藥、生薑、人參を加えると。

 

【第六三条】

發汗後、不可更行桂枝湯。汗出而喘、無大熱者、可與麻黄杏子甘草石膏湯。方二十六。

發汗後、更(さら)に桂枝湯を行(や)るべからず。汗出でて喘し、大熱無き者は、麻黄杏仁甘草石膏湯(まおうきょうにんかんぞうせっこうとう)を與うべし。方二十六。

 

〔麻黄杏子甘草石膏湯方〕

麻黄(四兩去節) 杏仁(五十箇去皮尖) 甘草(二兩炙) 石膏(半斤碎綿裹)

右四味、以水七升、煮麻黄、減二升、去上沫、内諸藥、煮取二升、去滓、温服一升。本云、黄耳杯。

麻黄(四兩節を去る) 杏仁(五十箇皮尖を去る) 甘草(二兩炙る) 石膏(半斤、碎き、綿もて裹(つつ)む)

右四味、水七升以て、麻黄を煮て、二升を減じ、上沫を去り、諸藥を内(い)れ、煮て二升を取り、滓を去り、一升を温服す。本(もと)云う、黄耳杯(おうじはい)と。

 

【第六四条】

發汗過多、其人叉手自冒心、心下悸欲得按者、桂枝甘草湯主之。方二十七。

發汗過多、其の人叉手(さしゅ)して自ら心を冒(おお)い、心下悸(き)し按を得んと欲する者は、桂枝甘草湯之を主る。方二十七。

 

〔桂枝甘草湯方〕

桂枝(四兩去皮) 甘草(二兩炙)

右二味、以水三升、煮取一升、去滓、頓服。

桂枝(四兩皮を去る) 甘草(二兩炙る)

右二味、水三升を以て、煮て一升を取る、滓を去り、頓服す。

 

【第六五条】

發汗後、其人臍下悸者、欲作奔豚、茯苓桂枝甘草大棗湯主之。方二十八。

發汗後、其の人臍下悸(き)する者は、奔豚(ほんとん)を作(な)さんと欲す、茯苓桂枝甘草大棗湯(ぶくりょうけいしかんぞうだいそうとう)之を主る。方二十八。

 

〔茯苓桂枝甘草大棗湯方〕

茯苓(半斤) 桂枝(四兩去皮) 甘草(二兩炙) 大棗(十五枚擘)

右四味、以甘爛水一斗、先煮茯苓、減二升、内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升、日三服。作甘爛水法、取水二斗、置大盆内、以杓揚之、水上有珠子五六千顆相逐、取用之。

茯苓(半斤) 桂枝(四兩皮を去る) 甘草(二兩炙る) 大棗(十五枚擘く)

右四味、甘爛水(かんらんすい)一斗を以て、先ず茯苓を煮て、二升を減じ、諸藥を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す、日に三服す。甘爛水(かんらんすい)を作るの法、水二斗を取り、

大盆内に置き、杓を以て之を揚げ、水上に珠子(しゅし)五六千顆(か)相(あ)い逐(お)うもの有らば、取りて之を用う。

 

【第六六条】

發汗後、腹脹滿者、厚朴生薑半夏甘草人參湯主之。方二十九。

發汗後、腹脹滿する者は、厚朴生薑半夏甘草人參湯(こうぼくしょうきょうはんげかんぞうにんじんとう)之を主る。方二十九。

 

〔厚朴生薑半夏甘草人參湯方〕

厚朴(半斤炙去皮) 生薑(半斤切) 半夏(半斤洗) 甘草(二兩) 人參(一兩)

右五味、以水一斗、煮取三升、去滓温服一升、日三服。

厚朴(半斤、炙り、皮を去る) 生薑(半斤、切る) 半夏(半斤、洗る) 甘草(二兩) 人參(一兩)

右五味、水一斗を以て、煮て三升を取り、滓を去り一升を温服し、日に三服す。

 

【第六七条】

傷寒、若吐、若下後、心下逆滿、氣上衝胸、起則頭眩、脉沈緊、發汗則經動、身為振振揺者、茯苓桂枝白朮甘草湯主之。方三十。

傷寒、若しくは吐し、若しくは下したる後、心下逆滿し、氣上りて胸を衝き、起きれば則ち頭眩(ずげん)し、脉沈緊、發汗すれば則ち經動じ、身(み)振振(しんしん)として揺(よう)を為(な)す者は、茯苓桂枝白朮甘草湯(ぶくりょうけいしびゃくじゅつかんぞうとう)之を主る。方三十。

 

〔茯苓桂枝白朮甘草湯方〕

茯苓(四兩) 桂枝(三兩去皮) 白朮 甘草(各二兩炙)

右四味、以水六升、煮取三升、去滓、分温三服。

茯苓(四兩) 桂枝(三兩皮を去る) 白朮 甘草(各二兩炙る)

右四味、水六升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、分かち温め三服す。

 

【第六八条】

發汗病不解、反惡寒者、故也。芍藥甘草附子湯主之。方三十一。

發汗し、病解(げ)せず、反て惡寒する者は、虚するが故なり。芍藥甘草附子湯(しゃくやくかんぞうぶしとう)之を主る。方三十一。

 

〔芍藥甘草附子湯方〕

芍藥 甘草(各三兩炙) 附子(一枚炮去皮破八片)

右三味、以水五升、煮取一升五合、去滓、分温三服。疑非仲景方。

芍藥 甘草(各三兩、炙る) 附子(一枚炮じて、皮を去り、八片を破る)

右三味、水五升を以て、煮て一升五合を取り、滓を去り、分かち温め三服す。仲景の方に非ざるを疑う。

 

【第六九条】

發汗、若下之、病仍不解、煩躁者、茯苓四逆湯主之。方三十二。

發汗し、若し之を下し、病仍(な)お解せず、煩躁する者は、茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)之を主る。方三十二。

 

〔茯苓四逆湯方〕

茯苓(四兩) 人參(一兩) 附子(一枚生用去皮破八片) 甘草(二兩炙) 乾薑(一兩半)

右五味、以水五升、煮取三升、去滓、温服七合、日二服。

茯苓(四兩) 人參(一兩) 附子(一枚、生を用い、皮を去り、八片に破る) 甘草(二兩炙る) 乾薑(一兩半)

右五味、水五升を以て、煮て三升を取る、滓を去り、七合を温服し、日に二服す。

 

【第七〇条】

發汗後、惡寒者、虚故也。不惡寒、但熱者、實也、當和胃氣、與調胃承氣湯。方三十三。(玉函云與小承氣湯)

發汗後、惡寒する者は、虚するが故なり。惡寒せず、但だ熱する者は、實なり。當に胃氣を和すべし。調胃承氣湯(ちょういじょうきとう)を與う。方三十三。(玉函云與小承氣湯)

 

〔調胃承氣湯方〕

芒消(半升) 甘草(二兩炙) 大黄(四兩去皮清酒洗)

右三味、以水三升、煮取一升、去滓、内芒消、更煮兩沸、頓服。

芒消(半升) 甘草(二兩炙る) 大黄(四兩皮を去り清酒で洗う)

右三味、水三升を以て、煮て一升を取り、滓を去り、芒消を内れ、更に煮て兩沸し、頓服す。

 

【第七一条】

太陽病、發汗後、大汗出、胃中乾、煩躁不得眠、欲得飲水者、少少與飲之、令胃氣和則愈。若脉浮、小便不利、微熱、消者、五苓散主之。方三十四。(即猪苓散是)

太陽病、發汗後、大いに汗出で、胃中乾き、煩躁して眠を得ず、飲水を得んと欲する者

は、少少與(あた)え之を飲み、胃氣をして和せしむれば則ち愈ゆ。若し脉浮、小便利

せず、微熱し、消渇(しょうかつ)する者は、五苓散之を主る。方三十四。(即猪苓散

是)

 

〔五苓散方〕

猪苓(十八銖去皮) 澤瀉(一兩六銖) 白朮(十八銖) 茯苓(十八銖) 桂枝(半兩去皮)

右五味、擣為散、以白飲和服方寸匕、日三服。多飲煖水、汗出愈、如法將息。

猪苓(ちょれい)(十八銖、皮を去る) 澤瀉(たくしゃ)(一兩六銖) 白朮(びゃくじゅつ)(十八銖) 茯苓(十八銖) 桂枝(半兩皮を去る)

右五味、擣(つ)きて散と為し、白飲を以て和し方寸匕(ほうすんひ)にて服し、日に三服す。多く煖水(だんすい)を飲み、汗出でて愈ゆ。法は將息の如し。

 

【第七二条】

發汗已、脉浮數、煩渇者、五苓散主之。三十五(用前第三十四方)。

發汗已(おわ)り、脉浮數、煩渇する者は、五苓散之を主る。三十五(前の第三十四方を用う)。

 

【第七三条】

傷寒、汗出而渇者、五苓散主之。不渇者、茯苓甘草湯主之。方三十六。

傷寒、汗出で渇する者は、五苓散之を主る。渇せざる者は、茯苓甘草湯之を主る。方三十六。

 

〔茯苓甘草湯方〕

茯苓(二兩) 桂枝(二兩去皮) 甘草(一兩炙) 生薑(三兩切)

右四味、以水四升、煮取二升、去滓、分温三服。

茯苓(二兩) 桂枝(二兩去皮) 甘草(一兩炙) 生薑(三兩切)

右四味、水四升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、分かち温め三服す。

 

【第七四条】

中風、發熱六七日不解而煩、有表裏證、欲飲水、水入則吐者、名曰水逆、五苓散主之。三十七(用前第三十四方)。

中風、發熱すること六、七日。解(げ)せずして煩(はん)し、表裏の證有り。渇して飲

水せんと欲し、水入れば則ち吐する者は、名づけて水逆と曰く。五苓散之を主る。三十

七(前の第三十四方を用う)。

 

【第七五条】

未持脉、病人手叉自冒心。師因教試令、而不者、此必兩耳聾無聞也。所以然者、以重發汗、虚故如此。發汗後、飲水多必喘、以水灌之亦喘。

未(いま)だ脉を持(じ)せざる時、病人手叉(しゅさ)して自ら心を冒(おお)う。

師因(よ)りて試しに欬(がい)せしめんと教す。而(しか)るに欬(がい)せざる者

は、此れ必ず兩耳(りょうじ)聾(し)いて聞くこと無きなり。然(しか)る所以(ゆ

えん)の者は、重ねて發汗する以て、虚するが故に此(か)くの如し。發汗後、飲水多

ければ必ず喘(ぜい)す。水を以て之を灌(そそ)ぐも亦(ま)た喘す。

 

【第七六条】

發汗後、水藥不得入口、為逆。若更發汗、必吐下不止。發汗、吐下後、煩不得眠、若劇者、必反覆顛倒(音到下同)、心中懊、梔子湯主之。若少氣者、梔子甘草湯主之。若嘔者、梔子生薑湯主之。三十八。

發汗後、水藥口に入るを得ざるを、逆と為す。若し更に發汗すれば、必ず吐下(とげ)

止まず。發汗、吐下の後、虚煩(きょはん)して眠を得ず。若し劇しき者は、必ず反覆

顛倒(はんぷくしんとう)(音到下同)し、心中懊憹(しんちゅうおうのう)す(上烏

浩下奴冬切下同)。梔子豉湯(しししとう)之を主る。若し少氣(しょうき)する者

は、梔子甘草豉湯(ししかんぞうしとう)之を主る。若し嘔する者は、梔子生薑豉湯

(しししょうきょうしとう)之を主る。三十八。

 

〔梔子湯方〕

梔子(十四箇擘) 香(四合綿裹)

右二味、以水四升、先煮梔子、得二升半、内、煮取一升半、去滓、分為二服、温進一服、得吐者、止後服。

梔子(しし)(十四箇、擘く) 香豉(こうし)(四合、綿もて裹(つつ)む)

右二味、水四升を以て、先ず梔子を煮て二升半を得、豉(し)を内(い)れ、煮て一升半を取り、滓を去り、分かちて二服と為し、一服を温進(おんしん)す、吐を得る者は、後服を止(とど)む。

 

〔梔子甘草湯方〕

梔子(十四箇擘) 甘草(二兩炙) 香(四合綿裹)

右三味、以水四升、先煮梔子、甘草、取二升半、内、煮取一升半、去滓、分二服。温進一服、得吐者、止後服。

梔子(しし)(十四箇、擘く) 甘草(二兩炙る) 香豉(こうし)(四合綿を裹(つつ)む)

右三味、水四升を以て、先ず梔子、甘草を煮て、二升半を取る、豉(し)を内(い)れ、煮て一升半を取り、滓を去り、二服を分かつ。一服を温進し、吐を得る者は、後服を止む。

 

〔梔子生薑湯方〕

梔子(十四箇擘) 生薑(五兩) 香(四合綿裹)

右三味、以水四升、先煮梔子、生薑、取二升半、内、煮取一升半、去滓、分二服。温進一服、得吐者、止後服。

梔子(しし)(十四箇擘) 生薑(五兩) 香豉(四合綿裹)

右三味、水四升を以て、先ず梔子(しし)と生薑を煮て、二升半を取り、豉(し)を内(い)れ、煮て一升半を取り、滓を去る、二服を分かつ。一服を温進し、吐を得る者は、後服を止む。

 

【第七七条】發汗、若下之、而煩熱胸中窒者、梔子湯主之。三十九(用上初方)。

發汗し、若しくは之を下し、而(しこう)して煩熱胸中窒(ふさ)がる者は、梔子豉湯之を主る。三十九(上の初方を用う)。

 

【第七八条】傷寒五六日、大下之後、身熱不去、心中結痛者、未欲解也、梔子湯主之。四十(用上初方)。

傷寒五六日、大いに之を下した後、身熱去らず、心中結痛(けっつう)する者は、未だ解せんと欲せざるなり、梔子豉湯之を主る。四十(上の初方を用う)。

 

【第七九条】傷寒、下後、心煩、腹滿、臥起不安者、梔子厚朴湯主之。方四十一。

傷寒、下して後、心煩(しんはん)し、腹滿(ふくまん)し、臥起(がき)安からざる者は、梔子厚朴湯(ししこうぼくとう)之を主る。方四十一。

 

〔梔子厚朴湯方〕

梔子(十四箇擘) 厚朴(四兩炙去皮) 枳實(四枚水浸炙令黄)

右三味、以水三升半、煮取一升半、去滓、分二服。温進一服、得吐者、止後服。

梔子(十四箇、擘く) 厚朴(四兩、炙り、皮を去る) 枳實(きじつ)(四枚、水に浸し、炙り黄にならしむ)

右三味、水三升半を以て、煮て一升半を取り、滓を去り、二服に分かち。一服を温進す、吐を得る者は、後服を止む。

 

【第八〇条】傷寒、醫以丸藥大下之、身熱不去、微煩者、梔子乾薑湯主之。方四十二。

傷寒、醫(い)丸藥(がんやく)を以て大いに之を下し、身熱去らず、微煩(びはん)する者は、梔子乾薑湯(ししかんきょうとう)之を主る。方四十二。

 

〔梔子乾薑湯方〕

梔子(十四箇擘) 乾薑(二兩)

右二味、以水三升半、煮取一升半、去滓、分二服、温進一服。得吐者、止後服。

梔子(十四箇擘) 乾薑(二兩)

右二味、水三升半を以て、煮て一升半を取り、滓を去り、二服を分かち、一服を温進す。吐を得る者は、後服を止む。

辨太陽病脉證并治上 1-30条

 志ある学徒の、簡便な道具にならんことを願って読み下文を記しています。

 また初学者のため、重複の労をいとわずルビをふっています。

 誤りを見つけられましたら、どうかコメント欄に投稿をお願いいたします。

 

底本 趙開美刊 「仲景全書」所収 『傷寒論』十巻

                    日本漢方協会学術部 編 東洋学術出版社

   辨太陽病脉證并治上・第五(合一十六法方一十四首)

 

【一条】

太陽之為病、脉浮、頭項強痛而惡寒。

太陽の病為(た)るや、脉浮、頭項強痛して惡寒す。

 

【二条】

太陽病、發熱、汗出、惡風、脉緩者、名為中風。

太陽病、發熱(はつねつ)、汗出で、惡風し、脉緩(かん)なる者は、名づけて中風と為(な)す。

 

【三条】

太陽病、或已發熱、或未發熱、必惡寒、體痛、嘔逆、脉陰陽倶緊者、名為傷寒。

太陽病、或いは已(すで)に發熱し、或いは未(いまだ)發熱せずとも、必ず惡寒し、體痛(たいつう)、嘔逆(おうぎゃく)、脉陰陽倶(とも)に緊なる者は、名づけて傷寒と為す。

 

【四条】   

傷寒一日、太陽受之。脉若靜者、為不傳。頗吐欲、若躁煩、脉數急者、為傳也。

傷寒一日、太陽之を受く。脉若し靜なる者は、傳(つた)えずと為す。頗(すこぶ)る吐(と)さんと欲し、若しくは躁煩(そうはん)し、脉數急(さくきゅう)なる者は、傳(つた)うと為すなり。

 

【五条】

傷寒二三日、陽明、少陽證不見者、為不傳也。

傷寒二三日、陽明、少陽の證(しょう)見(あらわ)れざる者は、傳えずと為すなり。

 

【六条】

太陽病、發熱而渴、不惡寒者、為温病。若發汗已、身灼熱者、名風温。風温為病、脉陰陽倶浮、自汗出、身重、多眠睡、鼻息必鼾、語言難出。若被下者、小便不利、直視、失溲。若被火者、微發黄色、劇則如驚癇、時瘲。火熏之、一逆尚引日、再逆促命期。

太陽病、發熱して渇し、惡寒せざる者は、温病(うんびょう)と為す。若し發汗し已(おわ)り、身(み)灼熱する者は、風温(ふうおん)と名づく。風温(ふうおん)の病為(た)るや、脉陰陽倶(とも)に浮(ふ)、自ずと汗出で、身重く、眠睡(みんすい)多く、鼻息必ず鼾(かん)し、語言出で難し。若し下(くだし)を被(こうむ)る者は、小便利せず、直視して、失溲(しっしゅう)す。若し火を被(こうむ)る者は、微(すこ)しく黄色を發し、劇しければ則ち驚癇(きょうかん)の如く、時に瘈瘲(けいじゅう)す。火之を熏(くん)ずるは、一逆(いちぎゃく)にして尚(な)お日を引き、再逆(さいぎゃく)すれば命期(めいき)を促す。

 

【七条】

病有發熱惡寒者、發於陽也。無熱惡寒者、發於陰也。發於陽、七日愈。發於陰、六日愈。以陽數七、陰數六故也。

病にして發熱有りて惡寒する者は、陽に發するなり。熱無くして惡寒する者は、陰に發するなり。陽に發すれば、七日にして愈(い)ゆ。陰に發すれば、六日にして愈ゆ。陽數(ようすう)七、陰數(いんすう)六を以ての故(ゆえ)なり。

 

【八条】

太陽病、頭痛至七日以上自愈者、以行其經盡故也。若欲作再經者、鍼足陽明、使經不傳則愈。

太陽病、頭痛七日以上に至り自ずと愈ゆる者は、其の經を行(めぐ)り盡(つ)くすを以ての故なり(其の經を行るを以て盡(つ)くる故なり)。若し再經(さいけい)を作(な)さんと欲する者は、足の陽明に鍼し、經をして傳えざらしめば則ち愈ゆ。

 

【九条】

太陽病欲解時、從巳至未上。

太陽病、解(げ)せんと欲する時は、巳(み)より未(ひつじ)の上に至る。

 

【一〇条】

風家、表解而不了了者、十二日愈。

風家(ふうけ)、表解(げ)して了了(りょうりょう)たらざる者は、十二日にして愈ゆ。

 

【一一条】

病人身大熱、反欲得衣者、熱在皮膚、寒在骨髓也。身大寒、反不欲近衣者、寒在皮膚、熱在骨髓也。

病人身(み)大いに熱し、反って衣を得んと欲する者は、熱は皮膚に在り、寒が骨髓に在るなり。身(み)大いに寒(ひ)え、反って衣を近づけんと欲せざる者は、寒は皮膚に在り、熱が骨髓に在るなり。

 

【一二条】

太陽中風、陽浮而陰弱、陽浮者、熱自發。陰弱者、汗自出。嗇嗇惡寒、淅淅惡風、翕翕發熱、鼻鳴乾嘔者、桂枝湯主之。方一。

太陽の中風、陽浮にして陰弱(いんじゃく)、陽浮なる者は、熱自ずと發す。陰弱なる者は、汗自ずと出ず。嗇嗇(しょくしょく)として惡寒し、淅淅(せきせき)として惡風し、翕翕(きゅうきゅう)として發熱し、鼻鳴(びめい)乾嘔(かんおう)する者は、桂枝湯之(これ)を主る。方一。

 

〔桂枝湯方〕

桂枝(三兩去皮)芍藥(三兩)甘草(二兩炙)生薑(三兩切)大棗(十二枚擘)

右五味、㕮咀三味、以水七升、微火煮取三升、去滓、適寒温、服一升。服已須臾、歠熱稀粥一升餘、以助藥力、温覆令一時許、遍身漐漐微似有汗者益佳。不可令如水流離、病必不除、若一服汗出病差、停後服、不必盡劑。若不汗、更服、依前法。

又不汗、後服小促其間、半日許令三服盡。若病重者、一日一夜服、周時觀之、服一劑盡、病證猶在者、更作服。若汗不出、乃服至二三劑。禁生冷、粘滑、肉麺、五辛、酒酪、臭惡等物。

 

桂枝(三兩、皮を去る)芍藥(三兩)甘草(二兩、炙(あぶる))生薑(しょうきょう)(三兩、切る)大棗(たいそう)(十二枚、擘(つんざ)く)

右の五味、三味を㕮咀(ふそ)し、水七升を以て、微火(びか)にて煮て三升を取り、滓(かす)を去り、寒温に適(かな)えて、一升を服す。服し已(おわ)り須臾(しゅゆ)にして、熱稀粥(ねっきかゆ)一升餘(あまり)を歠(すす)り、以て藥力を助け、温覆(おんぷく)すること一時許(ばか)りならしめ、遍身(へんしん)漐漐(ちゅうちゅう)として微(すこ)しく汗有るに似たる者は益々佳(よ)し。水の流離(りゅうり)するが如くならしむべからず。病必ず除かれず。若し一服し汗出で病差(い)ゆれば、後服(ごふく)を停め、必ずしも劑(ざい)を盡(つ)くさず。若し汗せざれば、更に服すること、前法(ぜんぽう)に依(よ)る。

又、汗せざれば、後服は小(すこ)しく其の間を促し、半日許(ばか)りにして三服を盡(つ)くさしむ。若し病重き者は、一日一夜服し、周時(しゅうじ)之を觀る、一劑を服し盡(つ)くし、病證猶(な)お在る者は、更に作りて服す。若し汗出でざれば、乃ち服すること二、三劑に至る。生冷(せいれい)、粘滑(ねんかつ)、肉麺(にくめん)、五辛(ごしん)、酒酪(しゅらく)、臭惡(しゅうあく)等の物を禁ず。

 

【一三条】

太陽病、頭痛、發熱、汗出、惡風、桂枝湯主之。方二(用前第一方)。

太陽病、頭痛、發熱、汗出で、惡風するは、桂枝湯之を主る。方二(前の第一方を用う)。

 

【一四条】

太陽病、項背強几几、反汗出惡風者、桂枝加葛根湯主之。方三。

太陽病、項背(こうはい)強(こわ)ばること几几(しゅしゅ)とし、反って汗出で惡風する者は、桂枝加葛根湯之を主る。方三。

 

〔桂枝加葛根湯方〕

葛根(四兩)麻黄(三兩去節)芍藥(二兩)生薑(三兩切)甘草(二兩炙)大棗(十二枚擘)桂枝(二兩去皮)

右七味、以水一斗、先煮麻黄、葛根、減二升、去上沫、内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升。覆取微似汗、不須啜粥、餘如桂枝法將息及禁忌。(臣億等謹按仲景本論、太陽中風自汗用桂枝、傷寒無汗用麻黄、今證云汗出惡風、而方中麻黄、恐非本意也。第三巻有葛根湯證云、無汗惡風、正與此方向、是合用麻黄也。此云桂枝加葛根湯、恐是桂枝中但加葛根耳。)

葛根(四兩)麻黄(三兩、節を去る)芍藥(二兩)生薑(しょうきょう)(三兩、切る)甘草(二兩、炙(あぶ)る)大棗(たいそう)(十二枚、擘(つんざ)く)桂枝(二兩、皮を去る)

右七味、水一斗を以て、先ず麻黄、葛根を煮て、二升を減じ、上沫(じょうまつ)を去り、諸藥を内(い)れ、煮て三升を取り、滓(かす)を去り、一升を温服す。覆(ふく)して微(すこ)しく汗に似たるを取り、須(すべから)く粥を啜(すす)らず、餘は桂枝の法の將息(しょうそく)及び禁忌の如くす。(臣億等謹んで仲景本論を按ずるに、太陽中風の自汗は桂枝を用い、傷寒の無汗は麻黄を用う。今の證は汗出で惡風すと云う。而して方中の麻黄、恐らく本意に非ざるなり。第三巻に葛根湯證は、無汗にして惡風すと云う有り、正に此の方と向かい、是れ麻黄を合して用うなり。此れ桂枝加葛根湯と云うは、恐らく是れ桂枝中に但だ葛根を加うるのみ。)

 

【一五条】

太陽病、下之後、其氣上衝者、可與桂枝湯、方用前法。若不上衝者、不得與之。四。

太陽病、之を下したる後、其の氣上衝する者は、桂枝湯を與(あた)うべし。方は前法を用う。若し上衝せざる者は、之を與(あた)うることを得ず。四。

 

【一六条】

太陽病三日、已發汗、若吐、若下、若温鍼、仍不解者、此為壞病、桂枝不中與之也。觀其脉證、知犯何逆、隨證治之。桂枝本為解肌、若其人脉浮緊、發熱、汗不出者、不可與之也。常須識此、勿令誤也。五。

太陽病三日、已に發汗し、若しくは吐し、若しくは下し、若しくは温鍼し、仍(な)お解せざる者は、此れ壞病(えびょう)と為す、桂枝之を與(あた)うるに中(あた)らざるなり。其の脉證を觀て、何の逆を犯すかを知り、證に隨いて之を治す。桂枝本(もと)解肌(げき)と為す、若し其の人脉浮緊、發熱、汗出でざる者は、之を與(あた)うべからざるなり。常に須(すべから)く此を識(し)りて、誤らしむること勿(な)かれ。五。

 

【一七条】

若酒客病、不可與桂枝湯、得之則嘔、以酒客不喜甘故也。

若し酒客(しゅきゃく)病めば、桂枝湯を與うべからず、之を得(う)れば則ち嘔(おう)す、酒客は甘きを喜(この)まざるを以ての故(ゆえ)なり。

 

【一八条】

喘家、作桂枝湯、加厚朴、杏子佳。六。

喘家(ぜんか)、桂枝湯を作るに、厚朴(こうぼく)、杏子(きょうし)を加うるを佳(よ)しとす。六。

 

【一九条】

凡服桂枝湯吐者、其後必吐膿血也。

凡(およ)そ桂枝湯を服して吐する者は、其の後必ず膿血(のうけつ)を吐するなり。

 

【二〇条】

太陽病、發汗、遂漏不止、其人惡風、小便難、四肢微急、難以屈伸者、桂枝加附子湯主之。方七。

太陽病、發汗し、遂に漏れ止まず、其の人惡風し、小便難、四肢微急(びきゅう)し、屈伸以て難き者は、桂枝加附子湯(けいしかぶしとう)之を主る。方七。

 

〔桂枝加附子湯方〕

桂枝(三兩去皮)芍藥(三兩)甘草(三兩炙)生薑(三兩切)大棗(十二枚擘)附子(一枚炮去皮破八片)

右六味、以水七升、煮取三升、去滓、温服一升。本云桂枝湯、今加附子、將息如前法。

桂枝(三兩、皮を去る)芍藥(三兩)甘草(三兩、炙(あぶ)る)生薑(三兩、切る)大棗(十二枚、擘(つんざ)く)附子(一枚、炮(ほう)じて皮を去り八片に破る)

右六味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓(かす)を去り、一升を温服す。本(もと)云う桂枝湯に、今附子を加うと。將息(しょうそく)は前法の如くす。

 

【二一条】

太陽病、下之後、脉促(促一作縱)、胸滿者、桂枝去芍藥湯主之。方八。

太陽病、之を下したる後、脉促(そく)(促を一つは縱と作す)、胸滿する者は、桂枝去芍藥湯(けいしきょしゃくやくとう)之を主る。方八。

 

〔桂枝去芍藥湯方〕

桂枝(三兩去皮)甘草(二兩炙)生薑(三兩切)大棗(十二枚擘)

右四味、以水七升、煮取三升、去滓、温服一升。本云桂枝湯、今去芍藥、將息如前法。

桂枝(三兩、皮を去る)甘草(二兩、炙る)生薑(三兩、切る)大棗(十二枚、擘(つんざ)く)

右四味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。本(もと)云う桂枝湯より、今芍藥を去ると。將息(しょうそく)は前法の如くす。

 

【二二条】

若微寒者、桂枝去芍藥加附子湯主之。方九。

若し微寒する者は、桂枝去芍藥加附子湯(けいしきょしゃくやくかぶしとう)之を主る。方九。

 

〔桂枝去芍藥加附子湯方〕

桂枝(三兩去皮)甘草(二兩炙)生薑(三兩切)大棗(十二枚擘)附子(一枚炮去皮破八片)

右五味、以水七升、煮取三升、去滓、温服一升。本云桂枝湯、今去芍藥、加附子、將息如前法。

桂枝(三兩、皮を去る)甘草(二兩、炙る)生薑(三兩、切る)大棗(十二枚、擘く)附子(一枚、炮(ほう)じて皮を去り八片に破る)

右五味、水七升を以て、煮て三升を取る、滓を去り、一升を温服す。本(もと)云う桂枝湯より、今芍藥を去り、附子を加うと。將息(しょうそく)は前法の如くす。

 

【二三条】

太陽病、得之八九日、如瘧狀、發熱惡寒、熱多寒少、其人不嘔、清便欲自可、一日二三度發。脉微緩者、為欲愈也。脉微而惡寒者、此陰陽倶虛、不可更發汗、更下、更吐也。面色反有熱色者、未欲解也、以其不能得小汗出、身必痒、宜桂枝麻黄各半湯。方十。

太陽病、之を得て八、九日、瘧狀(ぎゃくじょう)の如く、發熱惡寒するも、熱多く寒少なく、其の人嘔せず、清便自可せんと欲し、一日二、三度發す。脉微緩なる者は、愈えんと欲すと為すなり。脉微にして惡寒する者は、此れ陰陽倶(とも)に虚す、更に發汗し、更に下し、更に吐(と)すべからざるなり。面色反って熱色有る者は、未だ解せんと欲さざるなり、其の小(すこ)しく汗出づるを得ること能わざるを以て、身必ず痒し。桂枝麻黄各半湯(けいしまおうかくはんとう)に宜し。方十。

 

〔桂枝麻黄各半湯方〕

桂枝(一兩十六銖去皮)芍藥生薑(切)甘草(炙)麻黄(各一兩去節)大棗(四枚擘)杏仁(二十四枚湯浸去皮尖及兩仁者)

右七味、以水五升、先煮麻黄一二沸、去上沫、内諸藥、煮取一升八合、去滓、温服六合。本云桂枝湯三合、麻黄湯三合、併為六合、頓服、將息如上法。

(臣億等謹按桂枝湯方、桂枝芍藥生薑各三兩、甘草二兩、大棗十二枚。麻黄湯方、麻黄三兩、桂枝二兩、甘草一兩、杏仁七十箇。今以算法約之、二湯各取三分之一、即得桂枝一兩十六銖、芍藥生薑甘草各一兩、大棗四枚、杏仁二十三箇零三分枚之一、收之得二十四箇、合方。詳此方乃三分之一、非各半也、宜云合半湯。)

桂枝(一兩十六銖(しゅ)、皮を去る)芍藥生薑(切る)甘草(炙る)麻黄(各一兩、節を去る)大棗(四枚、擘く)杏仁(二十四枚、湯に浸け皮尖(ひせん)及び兩仁(りょうにん)の者を去る)

右七味、水五升を以て、先ず麻黄を煮ること一、二沸、上沫(じょうまつ)を去り、諸藥を内(い)れ、煮て一升八合を取り、滓を去り、六合を温服す。本(もと)云う桂枝湯三合、麻黄湯三合、併せて六合と為し、頓服(とんぷく)すと。將息(しょうそく)は上法の如くす。

(臣億等謹んで桂枝湯方を按ずるに、桂枝、芍藥、生薑各三兩、甘草二兩、大棗十二枚。麻黄湯方は、麻黄三兩、桂枝二兩、甘草一兩、杏仁七十箇。今算法を以て之を約するに、二湯各三分の一を取り、即ち桂枝一兩十六銖、芍藥、生薑、甘草各一兩、大棗四枚を得、杏仁二十三箇零三分枚の一、之を收めて二十四箇を得、合方とす。此の方を詳らかにすれば乃ち三分の一、各半に非ざるなり、合半湯と云うに宜し。)

 

【二四条】

太陽病、初服桂枝湯、反煩、不解者、先刺風池、風府、却與桂枝湯則愈。十一(用前第一方)。

太陽病、初め桂枝湯を服し、反って煩し、解(げ)せざる者は、先ず風池、風府を刺し、却って桂枝湯を與(あた)うれば則ち愈ゆ。十一(前の第一方を用う)。

 

【二五条】

服桂枝湯、大汗出、脉洪大者、與桂枝湯、如前法。若形似瘧、一日再發者、汗出必解、宜桂枝二麻黄一湯。方十二。

桂枝湯を服し、大いに汗出で、脉洪大なる者は、桂枝湯を與うること、前法の如くす。若し形瘧(おこり)に似て、一日に再發する者は、汗出ずれば必ず解(げ)す、桂枝二麻黄一湯(けいしにまおういっとう)に宜し。方十二。

 

〔桂枝二麻黄一湯方〕

桂枝(一兩十七銖去皮)芍藥(一兩六銖)麻黄(十六銖去節)生薑(一兩六銖切)杏仁(十六箇去皮尖)甘草(一兩二銖炙)大棗(五枚擘)

右七味、以水五升、先煮麻黄一二沸、去上沫、内諸藥、煮取二升、去滓、温服一升、日再服。本云桂枝湯二分、麻黄湯一分、合為二升、分再服。今合為一方、將息如前法。

(臣億等謹按桂枝湯方、桂枝芍藥生薑各三兩、甘草二兩、大棗十二枚。麻黄湯方、麻黄三兩、桂枝二兩、甘草一兩、杏仁七十箇。今以算法約之、桂枝湯取十二分之五、即得桂枝芍藥生薑各一兩六銖、甘草二十銖、大棗五枚。麻黄湯取九分之二、即得麻黄十六銖、桂枝十銖三分銖之二、收之得十一銖、甘草五銖三分銖之一、收之得六銖、杏仁十五箇九分枚之四、收之得十六箇。二湯所取相合、即共得桂枝一兩十七銖、麻黄十六銖、生薑芍藥各一兩六銖、甘草一兩二銖、大棗五枚、杏仁十六箇、合方。)

桂枝(一兩十七銖(しゅ)、皮を去る)芍藥(一兩六銖)麻黄(十六銖、節を去る)生薑(一兩六銖、切る)杏仁(十六箇、皮尖を去る)甘草(一兩二銖、炙る)大棗(五枚、擘く)

右七味、水五升を以て、先ず麻黄を煮ること一、二沸、上沫を去り、諸藥を内れ、煮て二升を取り、滓を去り、一升を温服し、日に再服す。本(もと)云う桂枝湯二分、麻黄湯一分、合して二升と為し、分かちて再服すと。今合して一方と為す、將息は前法の如くす。

(臣億等謹んで桂枝湯方を按ずるに、桂枝、芍藥、生薑各三兩、甘草二兩、大棗十二枚。麻黄湯方、麻黄三兩、桂枝二兩、甘草一兩、杏仁七十箇。今算法を以て之を約するに、桂枝湯十二分の五を取り、即ち桂枝、芍藥、生薑各一兩六銖、甘草二十銖、大棗五枚を得。麻黄湯九分の二を取り、即ち麻黄十六銖、桂枝十銖三分銖の二を得、之を收めて十一銖を得、甘草五銖三分銖の一、之を收めて六銖を得、杏仁十五箇九分枚の四、之を收めて十六箇を得。二湯取る所は相合して、即ち共に桂枝一兩十七銖、麻黄十六銖、生薑、芍藥各一兩六銖、甘草一兩二銖、大棗五枚、杏仁十六箇を得、合方とす。)

 

【二六条】

服桂枝湯、大汗出後、大煩渴不解、脉洪大者、白虎加人參湯主之。方十三。

桂枝湯を服し、大いに汗出でたる後、大いに煩渴して解せず、脉洪大なる者は、白虎加人參湯(びゃっこかにんじんとう)之を主る。方十三。

 

〔白虎加人參湯方〕

知母(六兩)石膏(一斤碎綿裹)甘草(炙二兩)粳米(六合)人參(三兩)

右五味、以水一斗、煮米熟、湯成去滓、温服一升、日三服。

知母(ちも)(六兩)石膏(一斤、碎(くだ)き綿もて裹(つつ)む)甘草(二兩を炙る)粳米(こうべい)(六合)人參(三兩)

右五味、水一斗を以て、煮て米を熟し、湯成りて滓を去り、一升を温服し、日に三服す。

 

【二七条】

太陽病、發熱惡寒、熱多寒少、脉微弱者、此無陽也。不可發汗、宜桂枝二越婢一湯。方十四。

太陽病、發熱惡寒し、熱多く寒少なく、脉微弱なる者は、此れ陽無きなり。發汗すべからず、

桂枝二越婢一湯(けいしにえっぴいっとう)に宜し。方十四。

 

〔桂枝二越婢一湯〕

桂枝(去皮)芍藥麻黄甘草(各十八銖炙)大棗(四枚擘)生薑(一兩二銖切)石膏(二十四銖碎綿裹)

右七味、以水五升、煮麻黄一二沸、去上沫、内諸藥、煮取二升、去滓、温服一升。

本云、當裁為越婢湯、桂枝湯、合之飲一升。今合為一方、桂枝湯二分、越婢湯一分。

(臣億等謹按桂枝湯方、桂枝芍藥生薑各三兩、甘草二兩、大棗十二枚。越婢湯方、麻黄二兩、生薑三兩、甘草二兩、石膏半斤、大棗十五枚。今以算法約之、桂枝湯取四分之一、即得桂枝芍藥生薑各十八銖、甘草十二銖、大棗三枚。越婢湯取八分之一、即得麻黄十八銖、生薑九銖、甘草六銖、石膏二十四銖、大棗一枚八分之七、棄之、二湯所取相合、即共得桂枝芍藥甘草麻黄各十八銖、生薑一兩三銖、石膏二十四銖、大棗四枚、合方。舊云桂枝三、今取四分之一、即當云桂枝二也。越婢湯方見仲景雜方中、外臺秘要一云起脾湯。)

桂枝(皮を去る)芍藥麻黄甘草(各十八銖、炙る)大棗(四枚、擘く)生薑(一兩二銖、切る)石膏(二十四銖、碎き綿もて裹(つつ)む)

右七味、水五升を以て、麻黄を煮ること一、二沸、上沫を去り、諸藥を内(い)れ、煮て二升を取り、滓を去り、一升を温服す。

本(もと)云う、當(まさ)に裁(た)ちて越婢湯(えっぴとう)、桂枝湯と為るべくして、之を合して一升を飲む。今、合して一方と為す、桂枝湯二分、越婢湯一分とす。

(臣億等謹んで桂枝湯方を按ずるに、桂枝、芍藥、生薑各三兩、甘草二兩、大棗十二枚。越婢湯方、麻黄二兩、生薑三兩、甘草二兩、石膏半斤、大棗十五枚。今算法を以て之を約するに、桂枝湯四分の一を取り、即ち桂枝、芍藥、生薑各十八銖、甘草十二銖、大棗三枚を得。越婢湯八分の一を取り、即ち麻黄十八銖、生薑九銖、甘草六銖、石膏二十四銖、大棗一枚八分の七を得、之を棄て、二湯取る所は相合して、即ち共に桂枝、芍藥、甘草、麻黄各十八銖、生薑一兩三銖、石膏二十四銖、大棗四枚を得、合方とす。舊(ふる)くは桂枝三と云い、今は四分の一を取る、即ち當に桂枝二と云うべきなり。越婢湯方は仲景雜方中に見え、外臺秘要は一つに起脾湯と云う。)

 

【二八条】

服桂枝湯、或下之、仍頭項強痛、翕翕發熱、無汗、心下滿微痛、小便不利者、桂枝去桂加茯苓白朮湯主之。方十五。

桂枝湯を服し、或は之を下し、仍(な)お頭項強痛し、翕翕(きゅきゅう)として發熱し、汗無く、心下滿微痛(まんびつう)し、小便利せざる者は、桂枝去桂加茯苓白朮湯(けいしきょけいかぶくりょうびゃくじゅつとう)之を主る。方十五。

 

桂枝去桂加茯苓白朮湯方〕

芍藥(三兩)甘草(二兩炙)生薑(切)白朮茯苓(各三兩)大棗(十二枚擘)

右六味、以水八升、煮取三升、去滓、温服一升、小便利則愈。本云桂枝湯、今去桂枝、加茯苓、白朮。

芍藥(三兩)甘草(二兩、炙る)生薑(切る)白朮茯苓(各三兩)大棗(十二枚、擘く)

右六味、水八升を以て、煮て三升を取る、滓を去り、一升を温服す、小便利すれば則ち愈ゆ。本(もと)云う桂枝湯より、今、桂枝を去り、茯苓、白朮を加うと。

 

【二九条】

傷寒脉浮、自汗出、小便數、心煩、微惡寒、脚攣急、反與桂枝、欲攻其表、此誤也。得之便厥、咽中乾、煩躁吐逆者、作甘草乾薑湯與之、以復其陽。若厥愈足温者、更作芍藥甘草湯與之、其脚即伸。若胃氣不和讝語者、少與調胃承氣湯。若重發汗、復加燒鍼者、四逆湯主之。方十六。

傷寒の脉浮、自ずと汗出で、小便數(さく)、心煩、微惡寒し、脚(きゃく)攣急(れんきゅう)するに、反って桂枝を與(あた)え、其の表を攻めんと欲するは、此れ誤りなり。之を得れば便(すなわ)ち厥(けつ)し、咽中乾き、煩躁吐逆する者は、甘草乾薑湯(かんぞうかんきょうとう)を作り之に與え、以て其の陽を復す。若し厥愈え足温かなる者は、更に芍藥甘草湯を作り之を與うれば、其の脚即ち伸びる。若し胃氣和せず讝語(せんご)する者は、少しく調胃承氣湯(ちょうきじょういとう)を與う。若し重ねて汗を發し、復た燒鍼(しょうしん)を加うる者は、四逆湯之を主る。方十六。

 

〔甘草乾薑湯方〕

甘草(四兩炙)乾薑(二兩)

右二味、以水三升、煮取一升五合、去滓、分温再服。

甘草(四兩、炙る)乾薑(二兩)

右二味、水三升を以て、煮て一升五合を取る、滓を去り、分かちて温め再服す。

 

〔芍藥甘草湯方〕

白芍藥甘草(各四兩炙)

右二味、以水三升、煮取一升五合、去滓、分温再服。

白芍藥甘草(各四兩、炙る)

右二味、水三升を以て、煮て一升五合を取る、滓を去り、分かちて温め再服す。

 

〔調胃承氣湯方〕

大黄(四兩去皮清酒洗)甘草(二兩炙)芒消(半升)

右三味、以水三升、煮取一升、去滓、内芒消、更上火微煮令沸、少少温服之。

大黄(四兩、皮を去り清酒で洗う)甘草(二兩、炙る)芒消(ぼうしょう)(半升)

右三味、水三升を以て、煮て一升を取る、滓を去り、芒消を内(い)れ、更に火に上(の)せて微(すこ)しく煮て沸(わか)せしめ、少少之を温服す。

 

〔四逆湯方〕

甘草(二兩炙)乾薑(一兩半)附子(一枚生用去皮破八片)

右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、分温再服。強人可大附子一枚、乾薑三兩。

甘草(二兩、炙る)乾薑(一兩半)附子(一枚、生を用い皮を去り八片に破る)

右三味、水三升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かちて温め再服す。強人は大附子一枚、乾薑三兩とすべし。

 

【三〇条】

問曰、證象陽旦、按法治之而増劇、厥逆、咽中乾、兩脛拘急而讝語。師曰、言夜半手足當温、兩脚當伸。後如師言、何以知此。答曰、寸口脉浮而大、浮為風、大為虛。風則生微熱、虛則兩脛攣。病形象桂枝、因加附子參其間、増桂令汗出、附子温經、亡陽故也。厥逆、咽中乾、煩躁、陽明内結、讝語煩亂、更飲甘草乾薑湯、夜半陽氣還、兩足當熱、脛尚微拘急、重與芍藥甘草湯、爾乃脛伸。以承氣湯微溏、則止其讝語。故知病可愈。

問いて曰く、證(しょう)は陽旦(ようたん)に象(かたど)り、法を按じて之を治す。而(しか)れども増して劇しく、厥逆(げつぎゃく)し、咽中乾き、兩脛(りょうけい)拘急して讝語(せんご)す、と。師曰く、夜半に手足當(まさ)に温まるべし、兩脚(りょうきゃく) 當に伸ぶべし、と。後(のち)師の言の如し。何を以てか此れを知らん。答えて曰く、寸口脉浮にして大、浮は風と為し、大は虚と為す。風は則ち微熱を生じ、虚は則ち兩脛(りょうけい)攣(れん)す。病形桂枝に象(かたど)り、因りて附子を加え其の間に參(まじ)え、桂を増して汗を出さしむ、附子は經を温む、亡陽(ぼうよう)するが故(ゆえ)なり。厥逆し、咽中乾き、煩躁す、陽明内結(ないけつ)し、讝語(せんご)し煩亂(はんらん)す、更に甘草乾薑湯(かんぞうかんきょうとう)を飲む、夜半陽氣還(めぐ)り、兩足當に熱すべし、脛尚(な)お微(すこ)しく拘急し、重ねて芍藥甘草湯を與う、爾(しか)らば乃(すなわ)ち脛伸ぶ。承氣湯を以て微しく溏すれば、則ち其の讝語(せんご)止む。故に病愈ゆべきを知る、と。

 

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傷寒論 - 序文

底本 趙開美刊 「仲景全書」所収 『傷寒論』十巻

                    日本漢方協会学術部 編 東洋学術出版社

 

 

                               張仲景撰

余毎覧越人入之診.望斉侯之色.未嘗不慨然嘆其才秀也。

余は越人の虢(かく)に入るの診、斉侯の色を望むを覧(み)る毎(ごと)に、未だ嘗(かつ)て慨然として其の才の秀でたるを嘆ぜずんばにあらさるなり。

越人  戦国時代の名医扁鵲の名

虢(かく)   戦国時代の国の名

斉侯  斉の桓公。斉は山東省付近。

 

怪当今居世之士.曾不留神医薬.精究方術.上以療君親之疾.下以救貧賤之厄.中以保身長全.以養其生.

怪しむべし。当今居世の士。曾(か)つて神を医薬に留め、方術を精究し、上は以って君親の疾を療し、下は以って貧賤の厄を救い、中は以って身を保ち長全し、以って其の生を養なわず。

 当今居世之士:当今は現代。居世之士は世上(世間のうわさ)の士。 士は文武を学ぶ者の総称。

                 

但競逐栄勢.企踝権豪.孜孜汲汲.惟名利是務.

但栄勢に競逐し、踝(きびす)を権豪に企て、孜孜汲汲(ししきゅうきゅう)として、惟(ただ)名利に是れ務む。

孜孜汲汲  努めて怠らない様。

 

崇飾其末.忽棄其本.華其外而悴其内。皮之不存.毛将安附焉。

其の末を崇飾し、其の本を忽棄(こっき)し、其の外を華とし、而(しか)して其の内を悴(すい)にす。皮之れ存ぜずんば、毛将(は)たいずくんぞに附(つ)かんや。

崇飾其末.忽棄其本  枝葉末節の権勢を求めるため、外見を勿体らしく飾り、身体をも粗末にして根本を捨て去ること。

悴(すい)やつれること。

皮之不存.毛将安附焉 皮がないと毛のつくところはないのである。名利は、命があってのことである。

 

卒然遭邪風之気.嬰非常之疾.患及禍至.而方震慄.

卒然として邪風の気に遭(あ)い、非常の疾に嬰(かか)り、患及び禍に至り、而して方(まさ)に震慄す。

 

降志屈節.欽望巫祝.告窮帰天.束手受敗。

賚百年之寿命.持至貴之重器.委付凡医.恣其所措。

志を降ろし節を屈し、巫祝(ふしゅく)を欽望(きんぼう)す。窮(きゅう)を告ぐれば天に帰し、手を束(つか)ねて敗を受く。

百年の寿命を賚(たまわ)り、持てる至貴の重器を、凡医に委付し、其の措(お)く所を恣(ほしいまま)にす。

 

咄嗟嗚呼.厥身已斃.神明消滅.変為異物.幽潜重泉.徒為啼泣.痛夫,

咄嗟嗚呼(ああ・・・)、厥(その)身は已(すで)に斃(やぶ)れ、神明は消滅し、変じて異物と為す。重泉に幽潜し、徒(いたず)らに啼泣(ていきゅう)を為す。痛ましいかな。 

欽望   懇願すること。

咄嗟嗚呼 詠嘆・嘆息の声。二重のなげき声。尋常でない嘆き表現。

 

挙世昏迷.莫能覚悟.不惜其命.若是軽生.彼何栄勢之云哉.

世を挙げて昏迷し、能く覚え悟ること莫(な)く、其の命を惜まず。是の若く生を軽ろんじ、彼何の栄勢之を云わんや。

 

而進不能愛人知人.退不能愛身知己.遭災値禍.身居厄地.蒙蒙昧昧.惷若游魂.哀乎. 

趨世之士.馳競浮華.不固根本.忘徇物.危若冰谷.至於是也.

而して進みては人を愛し人を知ること能わず、退いては身を愛し己を知ること能わず、災に遭(あ)い禍に値(あ)い、身を厄地に居く。蒙蒙昧昧(もうもうまいまい)、惷(とう)なること游魂の若し。哀しいかな。

趨世の士、浮華に馳競し、根本を固めず、軀(み)を忘れ物に徇(した)がい、危うきこと冰谷の若くにして、是に至るなり。

蒙蒙昧昧  蒙昧、愚昧の意。

惷     愚と同じ。くらい、にぶい。

趨世の士  名利を競い求める世上の士

忘軀徇物  身命の大切さを忘れ、物欲に目をひかれる。

 

余宗族素多.向餘二百。建安紀年以来.猶未十稔.其死亡者.三分有二.傷寒十居其七。

余が宗族素多し。向(さ)きに二百に餘(あま)る。建安紀年以来、猶(なお)未だ十稔(ねん)ならざるに、其の死亡したる者、三分の有二、傷寒十其の七に居く。

建安紀年  西暦196年

 

感往昔之淪喪.傷横夭之莫救.乃勤求古訓.博采衆方.撰用『素問』.『九巻』.『八十一難』.『陰陽大論』.『胎臚薬録』.并平脈辨証.為『傷寒雑病論』.合十六巻.

往昔の淪喪(りんそう)に感じ、横夭(おうよう)の救い莫(な)きを傷み、乃(すなわ)ち勤めて古訓に求め、博く衆方を采(と)り、『素問』、『九巻』、『八十一難』、『陰陽大論』、『胎臚薬録』、并びに平脈辨証を撰用し、『傷寒雑病論』、合せて十六巻を為す。

淪喪  淪は没と同じ。淪喪は死亡のこと。

横夭  生きておれる人々が若くして死ぬこと。

 

雖未能尽愈諸病.庶可以見病知源。若能尋余所集.思過半矣

未だ尽ごとく諸病を愈すこと能(あた)わずと雖(いえ)ども、庶(こ)いねがわくば病を見て以て源を知るべし。若し能(よ)く余が集むる所を尋ぬれば、思いは半ばに過ぎん。

 

夫天布五行.以運万類.人稟五常.以有五臓。経絡付兪.陰陽会通.玄冥幽微.変化難極。

自非才高識妙.豈能探其理致哉。 

夫(そ)れ天は五行を布き、以て万類を運(めぐ)らし、人は五常を稟(う)け、以て五臓有り。経絡付兪、陰陽の会通、玄冥幽微、変化は極め難し。

才高く識妙なるに非らざるよりは、豈(あ)に能く其の理致を探らんや。

運      生・長・化・収・蔵

五常    仁・義・禮・智・信。

付兪    府は気血の集合するところ。愈は気血の注ぐところ。

玄冥幽微  暗黒で、奥が深く、見通しがきかない。

理致    すじみち

 

上古有神農.黄帝.岐伯.伯公.雷公.少兪.少師.仲文.中世有長桑.扁鵲.漢有公乗陽慶及倉公.下此以往.未之聞也.

上古に神農、黄帝、岐伯、伯公、雷公、少兪、少師、仲文有り。中世に長桑、扁鵲有り。漢に公乗陽慶及び倉公有り。此れを下り以て往くも、未だ之れを聞かざるなり。

神農、黄帝 医薬方術の祖としてあがめられている。

岐伯~少師  黄帝の臣で、伝説上の名医。実在は疑わしい。

長桑     扁鵲の師

公乗陽慶   陽慶は倉公の師で、公乗は官名。

 

観今之医.不念思求経旨.以演其所知.各承家技.終始順旧.省病問疾.務在口給.相対斯須.便処湯薬.

今の医を観るに、経旨を思求し、以て其の知る所を演(の)ぶるを念(おも)わず、各おの家技を承け.終始旧に順ず。病を省りみ疾を問うも、務めは口給に在り。相対して斯須(ししゅ)すれば、便(すなわ)ち湯薬を処す。

相対斯須  病人と相対している時間が一寸の間という意味。

 

按寸不及尺.握手不及足.人迎趺陽.三部不参.動数発息.不満五十.

短期未知決診.九候曾無髣髴.明堂闕庭.尽不見察.

所謂窺管而已.夫欲視死別生.実為難矣.

寸を按じて尺に及ばず、手を握りて足に及ばず、人迎趺陽、三部参えず、動数発息、五十に満たず。

短期なれば未だ決診を知らず、九候は曾(かつ)て髣髴無し。明堂闕庭、尽(こと)ごとく見察せず。

所謂(いわゆる)管より窺がうのみ。夫れ死を視て生を別たんと欲するは、実に難きと為す。 

動数発息  動は脈の拍動、発は脈の搏ち出るを言い、息は脈の搏ち去るを言う。

明堂闕庭  明堂は鼻。闕は眉間。庭は顔。

 

孔子云.生而知之者上.学則亜之。多聞博識.知之次也。余宿尚方術.請事斯語。

孔子云う、生まれながらにして之を知る者は上、学ぶは則ち之れに亜(つ)ぐ。多聞博識は知の次なり。

余は宿(つと)に方術を尚(たっ)とぶ。請う斯(こ)の語を事とせん。

 

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氣府論篇第五十九.

梅の蕾もほころんで
 筆者は、本篇「気府論」は、前篇「気穴論」の続編と捉えても差し支えはないと思っている。
 ところで、ここに記されている経絡の巡行と経穴は、他経と入り混じっている。この点の意味においては、次篇「骨空論」の内容が示唆している。
 
 このことの意味を、筆者なりに感じたままに開示したい。

 諸家の主張するように、時代的進歩に従って経絡概念もまた完成されていったという意見も、確かに肯首できる意見である。

 しかしながら筆者は以前から、経絡そのものがデジタルな感覚で理解しようとすることに、少々抵抗感を持っている。

 このことは、朝と昼の区別をどこでつけるのか、という問いと同じ感覚なのである。

 現代的感覚では、時計という機械を用いてデジタルに区分することも可能であると思うが、朝昼の身体的感覚は、各人によって微妙に異なるであろう。

 各人によって異なる感覚であっても、それぞれが会話の中で朝昼の感覚を伝え合うとき、アナログ的な共通認識が持てないだろうか。

 それと同様に、筆者にとって経絡とは、地球に引かれている子午線のようなデジタルなものでなく、もっとアバウトなアナログ的なものだとの感覚を持っている。

 清濁の気がうごめき、天地の気がアナログ的に交じり合って流転している人体の在り様に思いを至す時、むしろこのようなとらえ方が、どうも筆者の感覚にしっくりと来るのだが、読者諸氏はいかがでしょうか。

※本文中の経穴名に関しては、諸説あるのでこれを取り上げず、原文のままにそれらを記した。


原 文 意 訳

 足の太陽経脉の脈気が発する所、七十八穴。

 両眉頭に各一。

 髪際中央、督脈に沿って頭頂までの三寸半に神庭・上星・顖会の三穴。

 その督脈をから相去ること三寸に、督脈、足太陽二行、足少陽二行の五行がある。

 その頭部に浮き上がる気が頭皮中にあるのは、一行中にそれぞれ五穴あるので、五五二十五穴となる。

 さらに頭頂から項に下り、項の大筋の両傍に天柱穴各一。

 風府穴の両傍の風池穴各一。

 背を挟んで尾骶骨に下る間に二十一節あり、その内の十五椎間にそれぞれ一穴ある。

 五臓の兪穴はそれぞれ五穴、六腑の兪穴はそれぞれ六穴ある。

 委中穴から小指に至るまでに各六穴ある。


 足少陽の脈気の発する所、六十二穴。

 両方の頭角に各二穴。

 目の中央から真直ぐに上がった髪際の内に各五穴。

 耳の前上角に頷厭穴各一穴。

 耳の前下角に懸釐穴各一穴。

 鋭髪の下に和髎各一穴。

 客主人(上関)各一穴。

 耳後の陥中に翳風各一穴。

 下関穴各一穴。

 耳下、牙車の後ろに各一穴

 缺盆各一穴。

 腋下三寸、脇下から季肋に至る八肋間に各一穴。

 髀枢中の傍らに各一穴。

 膝から下って足の小指の次指に至るまでに各六兪。



 足陽明の脈気の発する所、六十八穴。

 額顱から髪際に入った傍らに各三穴。

 顴骨の骨空に各一穴。

 人迎各一穴。

 缺盆の外の骨空に各一穴。

 胸中の骨間に各一穴。

 鳩尾を挟む外側、乳の下三寸のところから胃脘を挟んで各五穴。

 臍を挟み、横に三寸に各三穴。

 臍を下ること二寸の左右に各三穴。

 気街の動脉に各一穴。

 伏菟の上に各一穴。

 三里から足の中指に至る間に各八穴。分肉のところに穴空がある。


 手太陽の脈気の発する所、三十六穴。

 目の内眥に各一穴。

 目の外眥に各一穴。

 顴骨の下に各一穴。

 耳輪の上に各一穴。

 耳中に各一穴。

 巨骨穴各一穴。

 曲掖の上の骨穴に各一。

 柱骨の上の陷なるところに各一。

 天窓の上四寸に各一。

 肩解に各一。

 肩解の下三寸に各一。

 肘から下って手小指の端に至る間に、各六兪。

 手少陽の脈気の発する所、三十二穴。

 顴骨の下に各一穴。

 眉の後ろに各一穴。

 額の角上に各一穴。

 完骨の下の後ろに各一穴。

 項中の足太陽の前に各一穴。

 扶突を挟んで各一穴。

 肩貞に各一穴。

 肩貞の下三寸の分間に各一穴。

 肘から小指の次指の端に至るまでの間に、各六兪。



 督脈の気の発する所、二十八穴。

 項の中央に二穴。

 前髪際から後ろにかけて八穴。

 顔面に三穴。

 大椎から尾骶骨にかけてと尾骶骨の傍ら併せて十五穴。

 大椎穴から尾骶骨の下に至るまで二十一節とするのが、脊椎の定法である。



 任脈の気の発する所は、二十八穴。

 喉の中央に一穴。

 胸中の骨間中に各一穴。

 鳩尾の下三寸に上脘穴があり、上脘穴から神闕までの五寸で一寸ごとに一穴、計五穴あり、これがが胃脘に相当する。

 臍から横骨までを六寸とし、一寸ごとに一穴、計六穴がある。これらは腹部の脉の定法である。

 陰に下って前陰と後陰を分かつ会陰に一穴。

 目の下に各一穴。

 唇を下に承漿穴、齦交穴がある。

 衝脉の気の発する所、二十二穴。

 鳩尾を挟んで外に各半寸のところから臍に至る一寸毎に一穴。

 臍を挟むその傍ら五分のところから、横骨に至る一寸毎に一穴。これらも腹部の脉の定法である。

 足少陰の気の発する所の舌下と、足厥陰の気の発する所、陰毛中の急脉に各一穴。

 手少陰各一穴。

 陰陽蹻脉に各一穴。


手足の諸々の魚際もまた、脉気の発する所である。以上、すべて合わせると三百六十五穴となる。

原文と読み下し 

足太陽脉氣所發者.七十八穴.
兩眉頭各一.
入髮至※項三寸半.
傍五.相去三寸.
其浮氣在皮中者.凡五行.行五.五五二十五.
項中大筋兩傍各一.
風府兩傍各一.
侠背以下至尻尾.二十一節.十五間各一.
五藏之兪各五.六府之兪各六.
委中以下.至足小指傍.各六兪.
足の太陽の脉氣の發する所の者、七十八穴。
兩眉頭、各一。
髮に入りて項に至ること三寸半.傍に五.相い去ること三寸。
其の浮氣の皮中にある者、凡て五行、行に五.五五二十五たり。
項中の大筋の兩傍に各一。
風府の兩傍に各一。
侠背以下より尻尾に至る、二十一節.十五間に各一。
五藏の兪各五、六府の兪各六。
委中以下、足の小指の傍に至る、各六兪。

※項 :諸家に倣い頂に改める

足少陽脉氣所發者.六十二穴.
兩角上各二.
直目上髮際内各五.
耳前角上各一.
耳前角下各一.
鋭髮下各一.
客主人各一.
耳後陷中各一.
下關各一.
耳下牙車之後各一.
缺盆各一.
掖下三寸.脇下至.八間各一.
髀樞中傍各一.
膝以下.至足小指次指.各六兪.
足の少陽の脉氣の發するところの者、六十二穴。
兩角の上各二。
直目上の髮際内に各五。
耳前の角上に各一。
耳前角下に各一。
鋭髮の下に各一。
客主人各一。
耳後の陷中に各一。
下關各一。
耳下牙車之後各一。
缺盆各一。
掖下三寸、脇下より胠に至る八間、各一。
髀樞中の傍ら、各一。
膝以下、足小指の次指に至る、各六兪。

足陽明脉氣所發者.六十八穴.
額顱髮際傍各三.
骨空各一.
大迎之骨空各一.
人迎各一.
缺盆外骨空各一.
膺中骨間各一.
侠鳩尾之外.當乳下三寸.侠胃脘.各五.
侠齊廣三寸.各三.
下齊二寸侠之.各三.
氣街動脉各一.
伏菟上各一.
三里以下.至足中指.各八兪.分之所在穴空.
足の陽明の脉氣の發するところの者、六十八穴。
額顱より髮際の傍ら各三。
鼽の骨空に各一。
大迎の骨空に各一。
人迎に各一。
缺盆の外の骨空に各一。
膺中の骨間に各一。
鳩尾を侠むの外、乳下三寸に當り、胃脘を侠む、各五。
齊を侠む廣さ三寸、各三。
齊を下る二寸、これを侠むに、各三。
氣街の動脉に各一。
伏菟の上に各一。
三里以下、足の中指に至るに、各八兪。分はこれ穴空の在る所なり。

手太陽脉氣所發者.三十六穴.
目内眥各一.
目外各一.
骨下各一.
耳郭上各一.
耳中各一.
巨骨穴各一.
曲掖上骨穴各一.
柱骨上陷者各一.
上天窓四寸各一.
肩解各一.
肩解下三寸各一.
肘以下.至手小指本.各六兪.
手の太陽の脉氣の發するところの者、三十六穴。
目の内眥に各一。
目の外に各一。
骨の下に各一。
耳郭の上に各一。
耳中に各一。
巨骨穴各一。
曲掖の上の骨穴に各一。
柱骨の上の陷なる者に各一。
天窓の上四寸に各一。
肩解に各一。
肩解の下三寸に各一。
肘以下、手小指本に至るに、各六兪。

手陽明脉氣所發者.二十二穴.
鼻空外廉項上各二.
大迎骨空各一.
柱骨之會各一.
髃骨之會各一.
肘以下.至手大指次指本.各六兪.
手の陽明の脉氣の發する所の者、二十二穴。
鼻空の外廉、項上に各二。
大迎の骨空に各一。
柱骨の會に各一。
髃骨の會に各一。
肘以下、手の大指の次指本に至るに、各六兪。

手少陽脉氣所發者.三十二穴.
骨下各一.
眉後各一.
角上各一.
下完骨後各一.
項中足太陽之前各一.
侠扶突各一.
肩貞各一.
肩貞下三寸分間各一.
肘以下.至手小指次指本.各六兪.
手の少陽の脉氣の發する所の者、三十二穴。
骨の下に各一。
眉後に各一。
角上に各一。
完骨の下の後に各一。
項中の足の太陽の前に各一。
扶突を挟む、各一。
肩貞に各一。
肩貞の下三寸、分間に各一。
肘以下、手の小指の次指本に至るに、各六兪。

督脉氣所發者.二十八穴.
項中央二.
髮際後中八.
面中三.
大椎以下.至尻尾.及傍.十五穴.
骶骨下.凡二十一節.脊椎法也.
督脉の氣の發する所の者、二十八穴。
項の中央に二。
髮際の後中に八。
面中に三。
大椎以下、尻尾に至り、傍らに及ぶ、十五穴。
下に至る、凡て二十一節、脊椎の法なり。

任脉之氣所發者.二十八穴.
喉中央二.
膺中骨陷中各一.
鳩尾下三寸胃脘.五寸胃脘.以下至横骨.六寸半一.腹脉法也.
下陰別一.
目下各一.
下脣一.
齦交一.
任脉の氣の發する所の者、二十八穴。
喉の中央に二。
膺中の骨陷中に各一。
鳩尾下三寸、胃脘五寸、胃脘以下横骨に至ること六寸半に一.腹脉の法なり。
陰別を下るに一。
目下に各一。
脣の下に一。
齦交一。

衝脉氣所發者.二十二穴.
侠鳩尾外各半寸.至齊寸一.
侠齊下傍各五分.至横骨寸一.腹脉法也.
衝脉の氣の發する所の者、二十二穴。
鳩尾を挟む外に各半寸.齊に至る寸に一。
齊を挟み下る傍ら各五分。横骨に至る寸に一。腹脉の法なり。

足少陰舌下.厥陰毛中急脉.各一.
手少陰各一.
陰陽蹻各一.
手足諸魚際脉氣所發者.凡三百六十五穴也.
足の少陰は舌下なり。厥陰毛中の急脉、各一。
手の少陰に各一。
陰陽蹻に各一。
手足の諸々の魚際、脉氣の發する所の者、凡て三百六十五穴なり。





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氣穴論篇第五十八.


  本篇は天人合一思想に基づいて、主に経穴の数と位置について述べられている。

 筆者自身、本篇と次篇(気府論)は、あまり取るべきところを感じないが、それはすでに経絡・経穴を伝承されているからである。(ありがたいことです)

 それはさておき経穴の数に関しては、一年三百六十五日に応じて、経穴もまた三百六十五穴存在していることになっているが、現代に伝わっているものは三百六十一穴である。(WHOの定義に基づく)

 実際、背部兪穴を見ても、空白部位があり、おそらくは欠落して現代に伝わっていないのであろうと推測している。

 おそらく黄帝内経以後、何度も経絡・経穴の伝承は途絶えたのであろう。

 そのように推測したきっかけは、元代の滑伯仁が著した『十四経発揮』(1341年)の自序に目を落とした時である。

 著者、滑伯仁(かつはくじん)は、その自序で以下のように述べている。(筆者意訳)

 「黄帝内経に目を通すと、その内容のほとんどが鍼についての解説とその効果の大なることを説いている。
 にもかかわらず、世間で湯液は広く行われているのに、鍼道はかすかにしか行われていない。(灸法はわずかに存在しているが)
 このような世相を反映して、経絡・経穴もまた明確なものが無くなってしまっている現状に発奮して、初学者のために『十四経発揮』を現した。」と述べている。

 現代に翻ってさらに考えてみると、黄帝と岐伯が説いている鍼道を行う困難さは、現在も引き続き進行中との感覚がある。

 鍼は、ただ単に刺すだけの針金(はりがね)である。

 誰にでもすぐに簡単に行えるという利点はあるが、内経に記されているように、万病を治すとなるとかなり高度な眼力と技を要求される。

 ただ単なる金属で出来た「はりがね」1本を用いて、拡がる世界がどの程度の視野になるのか。

 鍼はまさに、仙術。

 鍼術家のロマンと思っているのですが、読者諸氏はいかがでしょうか。


原 文 意 訳

 黄帝が問うて申された。
 人体の気穴には、三百六十五があり、一年三百六十五日に応じていると聞き及んでいる。

  しかしながら、その部位については不明瞭なままである。願わくば、ここで直ぐに聞きたいのであるが。

 岐伯はうやうやしく頭を地につけること二拝し、答えて申された。
  まことに難しく困った問いでありますこと。
  聖帝でなければ誰がよくこのような道を極めることが出来ましょうや。
  ありあまる意と言葉を尽くして気穴の部位をお伝えいたします。

 帝は手を捧げてうやうやしく退いて申された。
 そちが余の道を開くこと、目にはまだその部位を見ず、耳にその数を聞いていないにも関わらず、既に目に明らかで耳ですでに聞いたかのようである。

 岐伯が申された。
 聖人はすでに下地が出来ておいでなので、語りやすいものでございます。それは良馬が御しやすいことと同じでございます。

 帝は手を捧げてうやうやしく退いて申された。
 そちが余の道を開くこと、目にはまだその部位を見ず、耳にその数を聞いていないにも関わらず、既に目は明らかで耳ですでに聞いたかのようである。

 岐伯が申された。
 聖人はすでに下地が出来ておいでなので、語りやすいものでございます。それは良馬が御しやすいことと同じでございます。

 余は、聖人の語りやすきではないが、世には真数は人の意を開くと申すではないか。
 今余が問い訪ねるところは真数である。蒙(くら)きを発し、惑を解くには、未だに論ずるに足りないのである。

 しかるに、余願わくばそちの溢れんばかりの志で、言葉を尽くしてその部位を聞かせてもらいたい。そして余の蒙い意を解いて頂きたい。これが叶うなら、この教えを金匱に蔵して、敢えて再び出さぬようしっかりと意に刻むであろう。

 岐伯は再拝して身を起こして申された。
 臣、それらについて言わせていただきます。

五臓の五行穴二十五穴、左右併せて五十穴。

六腑の五行穴に原穴三十六穴、左右併せて七十二穴。

熱兪五十九穴。

水兪五十七穴。

頭上には五行があり、行に五穴あるので、五五二十五穴。

背骨の兩傍に各五。凡そ十穴。

大椎の上兩傍に各一。凡そ二穴。

目瞳子浮白の二穴。

兩髀厭の分中に二穴。

犢鼻二穴。

耳中の多所聞に二穴。

眉本に二穴。

完骨の二穴。

項の中央に一穴。

枕骨に二穴。

上關の二穴。

大迎の二穴。

下關の二穴。

天柱の二穴。

巨虚上下廉の四穴。

曲牙の二穴。

天突一穴。

天府二穴。

天牖二穴。

扶突二穴。

天窓二穴。

肩解二穴。

關元一穴。

委陽二穴。

肩貞二穴。

瘖門一穴。

齊一穴。

胸兪に十二穴。

背兪二穴。

膺兪十二穴。

分肉に二穴。

踝上の横に二穴。

陰陽蹻四穴。

水兪は諸分に在り。

熱兪は氣穴に在り。

寒熱兪は兩骸厭中の二穴に在り。

大禁二十五。天府は下五寸に在り。

凡そ三百六十五穴。これらは鍼行うところであります。

 帝が申された。
 余はすでに気穴の部位と自在に鍼をする所も理解した。願わくば孫絡と谿谷について聞きたいのだが。これらもまた一年三百六十五日と応じているのであろうか。

 岐伯が申された。
 孫絡三百六十五穴の会もまた、一年に応じております。
 奇邪が客した場合、孫絡を通じて外に溢れさせ、栄衛を通じさせます。
 邪気が留まりますと栄衛もまた稽留し、衛気は散じて栄気は内に溢れ、そのままですと気は尽きて血は動かなくなってしまいます。
 すると身体は発熱して衛気を散じますので、内は少気します。
 このような場合は、グズグズせずに疾くこれを瀉して、栄衛の気を通じさせなければなりません。
 鬱滞箇所を見つけたならば、穴所であろうがなかろうがそのようなことに拘わらずこれを瀉すのであります。

 帝が申された。
 よく理解できた。では願わくば谿谷の会を聞きたいのであるが。

 岐伯が申された。
 肉の大会を谷、肉の小会を谿と申します。分肉の間、谿谷の会を栄衛の気は流れ、また大気とも会するのであります。
 邪が溢れて気が塞がり、脉は熱し肉は敗れて栄衛は行らないようになりますと、必ず膿を生じ、内の骨髄はとけ、外は股の肉が破られるようになります。骨節に留まりますと、必ず腐って敗れてしまいます。

 寒邪に何度も侵され、積もり積もって舍ってしまうと、栄衛の気は本来あるべきところに居ることが出来ず、肉は巻き上がり筋は縮み、肋骨と肘は屈伸できなくなります。
 内は骨痹となり、外は知覚麻痺の不仁となります。これは正気が不足してしまったからで、大寒が谿谷に留まってしまったからであります。

 谿谷の三百六十五穴の会もまた一年に応じております。もし小痹がひつこく留まり絡に溢れて脉を循って往来するような場合は、微鍼が適応し、一般的な方法と同じようにいたします。

 帝は、左右の者を退けて立ち、再拝して申された。
 今日は余の蒙(くら)きを発し、惑を解いて下された。これを金匱に蔵し敢えて再び出さないように致す。このようにして金蘭の室にこれを蔵し、「気穴の所在」と署名された。

 岐伯が申された。
 孫絡の脈で經と別れているものは、その穴が盛んであれば瀉すべきものもまた、三百六十五脉ございます。
 邪気は孫絡に並んで絡に注ぎ、さらに十二絡脉に伝え注ぐのであって、ひとり十四絡脉だけが邪に侵されているのではありません。
 関節に邪が入りますと、中を瀉すとは、五臓の十脉を瀉しなさいということであります。

原文と読み下し

黄帝問曰.余聞氣穴三百六十五.以應一歳.未知其所.願卒聞之.
岐伯稽首再拜對曰.窘乎哉問也.其非聖帝.孰能窮其道焉.因請溢意.盡言其處.
黄帝問うて曰く。余は聞くに、氣穴三百六十五を以て一歳に應ずと。未だ其の所を知らず。願わくば卒にこれを聞かん。
岐伯稽首再拜して對えて曰く。窘(きん)なるかな問いや。其れ聖帝にあらざれば、孰れか能く其の道を窮めん。因りて請う。意を溢(いつ)にして盡く其の處を言わん。

帝捧手逡巡而却曰.夫子之開余道也.目未見其處.耳未聞其數.而目以明.耳以聰矣.
岐伯曰.此所謂聖人易語.良馬易御也.
帝手を捧げて逡巡し却きて曰く。夫子の余の道を開くや、目未だ其の處を見ず、耳未だ其の數を聞かず、しかして目は以て明らかにし、耳以て聰くす。
岐伯曰く。此れ所謂聖人は語り易く、良馬は御し易きなり。

帝曰.
余非聖人之易語也.世言眞數開人意.今余所訪問者眞數.發蒙解惑.未足以論也.
然余願聞夫子溢志.盡言其處.令解其意.請藏之金匱.不敢復出.
帝曰く。
余は聖人の語り易きに非ざるなり。世に言う。眞數は人意を開くと。今余が訪ね問う所のものは、眞數の蒙を發し惑を解くなるも、未だ以て論ずるに足らざるなり。
然るに余は願わくば夫子の志を溢にし、言を盡して其の處を言い、其の意を解きさしめよ。請う、これを金匱に臧し、敢えて復た出さざらん。

岐伯再拜而起曰.臣請言之.
※1背與心相控而痛.所治天突與十椎及上紀.上紀者胃也.下紀者關元也.背胸邪繋陰陽左右如此.其病前後痛.胸脇痛.而不得息.不得臥.上氣短氣偏痛.脉滿起.斜出尻脉.絡胸脇.支心貫鬲.上肩加天突.斜下肩.交十椎下.
岐伯再拜して起きて曰く。臣請う、これを言わん。
※1背と心相い控(ひ)いて痛まば、治する所は天突と十椎及び上紀なり。上紀なるものは胃脘なり。下紀なるものは關元なり。背胸の邪の陰陽左右に繋がること此の如し。其の病、前後に痛みり、胸脇痛みて、息するを得ず、臥するを得ず、上氣し短氣して偏痛す。脉滿ちて起り斜めに尻脉に出で、胸脇を絡い、心を支え鬲を貫き、肩を上りて天突に加わり、斜めに肩に下りて十椎下に交わる。

※1 前後につながらない文章であるため意訳せず。

藏兪五十穴.
府兪七十二穴.
熱兪五十九穴.
水兪五十七穴.
頭上五行.行五.五五二十五穴.
中(月呂)兩傍各五.凡十穴.
大椎上兩傍各一.凡二穴.
目瞳子浮白二穴.
兩髀厭分中二穴.
犢鼻二穴.
耳中多所聞二穴.
眉本二穴.
完骨二穴.
項中央一穴.
枕骨二穴.
上關二穴.
大迎二穴.
下關二穴.
天柱二穴.
巨虚上下廉四穴.
曲牙二穴.
天突一穴.
天府二穴.
二穴.
扶突二穴.
天窓二穴.
肩解二穴.
關元一穴.
委陽二穴.
肩貞二穴.
門一穴.
齊一穴.
胸兪十二穴.
背兪二穴.
膺兪十二穴.
分肉二穴.
踝上横二穴.
陰陽蹻四穴.
水兪在諸分.
熱兪在氣穴.
寒熱兪.
在兩骸厭中二穴.
大禁二十五.在天府下五寸.
凡三百六十五穴.鍼之所由行也.
藏兪五十穴。
府兪七十二穴。
熱兪五十九穴。
水兪五十七穴。
頭上五行。行五。五五二十五穴。
中(月呂)兩傍各五。凡十穴。
大椎上兩傍各一。凡二穴。
目瞳子浮白二穴。
兩髀厭分中二穴。
犢鼻二穴。
耳中多所聞二穴。
眉本二穴。
完骨二穴。
項中央一穴。
枕骨二穴。
上關二穴。
大迎二穴。
下關二穴。
天柱二穴。
巨虚上下廉四穴。
曲牙二穴。
天突一穴。
天府二穴。
二穴。
扶突二穴。
天窓二穴。
肩解二穴。
關元一穴。
委陽二穴。
肩貞二穴。
門一穴。
齊一穴。
胸兪十二穴。
背兪二穴。
膺兪十二穴。
分肉二穴。
踝上横二穴。
陰陽蹻四穴。
水兪は諸分に在り。
熱兪は氣穴に在り。
寒熱兪は兩骸厭中の二穴に在り。
大禁二十五。天府は下五寸に在り。
凡そ三百六十五穴。鍼の由りて行うところなり。

帝曰.余已知氣穴之處.遊鍼之居.願聞孫絡谿谷.亦有所應乎.
岐伯曰.孫絡三百六十五穴會.亦以應一歳.以溢奇邪.以通榮衞.榮衞稽留.衞散榮溢.氣竭血著.外爲發熱.内爲少氣.疾寫無怠.以通榮衞.見而寫之.無問所會.
帝曰く。余は已に氣穴の處、遊鍼の居を知れり。願わくば孫絡谿谷を聞かん。亦た應ずる所有るや。
岐伯曰く。孫絡と三百六十五穴と會し、亦た以て一歳に應ず。以て奇邪を溢し、以て榮衞を通ず。榮衞稽留すれば、衞は散じ榮は溢し、氣竭(つ)き血著(つ)きれば、外は發熱を爲し、内は少氣を爲す。疾(と)く寫して怠ることなく、以て榮衞を通じ、見われればこれを寫し、會する所を問うこと無かれ。

帝曰善.願聞谿谷之會也.
岐伯曰.
肉之大會爲谷.肉之小會爲谿.肉分之間.谿谷之會.以行榮衞.以會大氣.邪溢氣壅.脉熱肉敗.榮衞不行.必將爲膿.内銷骨髓.外破大膕.留於節湊.必將爲敗.
帝曰く善し。願わくば谿谷の會を聞かん。
岐伯曰く。
肉の大會を谷と爲し、肉の小會を谿と為す。肉分の間、谿谷の會、以て榮衞を行らし、以て大気を會す。邪は溢し氣は壅(ふさ)がれ、脉は熱し肉は敗れ、榮衞行らざれば、必ず將(まさ)に膿を爲さんとす。内は骨髄を銷(と)かし、外は大膕(だいかく)を破る。節湊(せつそう)に留まれば、必ず將に敗を爲さんとす。

積寒留舍.榮衞不居.卷肉縮筋.肋肘不得伸.内爲骨痺.外爲不仁.命曰不足.大寒留於谿谷也.
積寒留舍すれば、榮衞居せず、肉は卷き筋は縮み、肋肘伸びるを得ず。内は骨痺を爲し、外は不仁をなす。命じて不足と曰く。大寒谿谷に留まれり。

谿谷三百六十五穴會.亦應一歳.其小痺淫溢.循脉往來.微鍼所及.與法相同.
谿谷三百六十五穴と會し亦た一歳の應ず。其の小痺淫溢し、脉に循(したが)いて往來するは、微鍼の及ぶ所、法と相い同じ。

帝乃辟左右而起.再拜曰.今日發蒙解惑.藏之金匱.不敢復出.乃藏之金蘭之室.署曰氣穴所在.
岐伯曰.孫絡之脉別經者.其血盛而當寫者.亦三百六十五脉.並注於絡.傳注十二絡脉.非獨十四絡脉也.内解寫於中者十脉.
帝乃ち左右を辟(ひら)きて起き、再拜して曰く。今日蒙を發し惑を解けり。これを金匱に藏し、敢えて復た出さずと。乃ちこれを金蘭の室に藏し、署して氣穴の在る所と曰く。
岐伯曰く。孫絡の脉、經と別れる者は、其の血盛んにして當に寫すべき者も、亦た三百六十五脉、並びに絡に注ぎて、十二絡脉に傳注し、獨り十四絡脉に非ざるなり。解に内(い)るは、中を寫すとは、十脉なり。

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經絡論篇第五十七.



 本篇は、前篇『皮部論篇』の続編であるように感じる。

 筆者の感覚では、例えば手足を診た時、経絡別に五色が現れているとは認識できない。

 しかし、顔面の気色だけでなく体幹部や四肢が現す色は、大変重要と感じている。

 本篇で取るべきところは、四時陰陽の盛衰によって様々に変化する色艶の、常と変を噛分けることの重要性であると筆者は考えている。



原 文 意 訳 

 黄帝が問うて申された。体表に現れる浅い絡脉の色は、青、黄、赤、白、黒とそれぞれ一様でないのは、いったいどういう訳であろうか。


 岐伯が答えて申された。

 経脉には、それぞれ常とする色がございますが、絡脉は常に一定しておらず、その時々の状況に応じて色が変化いたします。


 黄帝が申された。

 経脉の定まった本来の色とは、どのようであるのか。

 岐伯が申された。

 心は赤、肺は白、肝は青、脾は黄、腎は黒でありまして、これらは全て十二経脉の色に応じております。

 帝が申された。絡脉の陰陽もまた、十二經脉の色に応じているのであろうか。

 岐伯が申された。

 陰経の絡脉の色は、それぞれの經脉の色に応じております。

 ところが陽経の絡脉の色は、経脉の色に応じておらず、一定しておりません。

 それよりもむしろ、四時陰陽の盛衰に従ってその色を現します。

 従いまして、冬季のように寒が多いときは、気血の運行が渋りますので、青黒くなってまいります。

 また夏期のように熱が多い時には、気血の運行が盛んになりますので、肌も潤い艶も良くなりますので、黄赤となって参ります。

 このように陽経の絡脉の色の変化が、四時陰陽の盛衰に適っておりますれば、まずは病の無い状態と判断することが出来ます。

 ところが、五色の全てが現れておりましたら、寒熱が錯綜していると判断することが出来るのであります。

 帝が申された。

 なるほど、よく理解できた。


原文と意訳

黄帝問曰.夫絡脉之見也.其五色各異.青黄赤白黒不同.其故何也.
岐伯對曰.經有常色.而絡無常變也.


黄帝問うて曰く。夫れ絡脉の見れるや、其の五色各おの異にし、青黄赤白黒同じからず。其の故は何なるや。
岐伯對えて曰く。經に常色有り。而して絡に常無くして變ずるなり。

帝曰.經之常色何如.
岐伯曰.心赤.肺白.肝青.脾黄.腎黒.皆亦應其經脉之色也.


帝曰く。經の常色は何如。
岐伯曰く。心は赤、肺は白、肝は青、脾は黄、腎は黒、皆亦其の經脉の色に應ずるなり。

帝曰.絡之陰陽.亦應其經乎.
岐伯曰.
陰絡之色.應其經.陽絡之色.變無常.隨四時而行也.
寒多則凝泣.凝泣則青黒.
熱多則淖澤.淖澤則黄赤.
此皆常色.謂之無病.五色具見者.謂之寒熱.
帝曰善.


帝曰く。絡の陰陽も亦其の經に應ずるや。
岐伯曰く。
陰絡の色は、其の經に應じ、陽絡の色は、變じて常なし。四時に隨いて行くなり。
寒多ければ則ち凝泣し、凝泣すれば則ち青黒なり。
熱多則ち淖澤なり。淖澤なれば則ち黄赤なり。
此れ皆常の色にして、これを無病と謂う。五色具(そな)わり見われる者は、これを寒熱と謂う。
帝曰く。善し。


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皮部論篇第五十六.

七種山 虹の滝
 東洋医学は、体表に現れる気色や肌の色つやなどによって、五臓六腑の充実度を観る。

 瓜やスイカなど、外から眺めて触って軽く叩いて、中の状態を候うようなものである。

 ただ、候うに、瓜やスイカと違う点は、命がけだということである。

 本篇では、外邪がどのように伝変していくかということ。

 そして外邪に侵され始めた時には、体表にその変化が現れるので、それをつぶさに見て治療につなげなさいということだろう。

 当時の外感病は、いったいどのようなものであったのかなど、色々と想像した。

 明の王陽明が、地方に左遷された時、人々がまだ洞穴に住んでおり統制が取れないと、何かの本で目にしたことがある。

 まして素問が著されたと言われている春秋戦国時代にあっては、中央と地方の格差はどのようであったのだろう。

 当時と現代とでは、その衣食住の有様は、大きくかけ離れていたのだろうことは容易に推測できる。

 そして『傷寒論』の序文に在るような、村が全滅するような疫病が、幾度となく横行したのであろう。

 治病は、戦いと同じく機先を制するのが最上である。

 その機先は、体表に在る。

 本篇の邪は、外邪と意訳した。

 主に外感病を扱った『傷寒論』を内傷病に応用するように、内邪もまた逆のルートを通じて体表に現れる。

 直接臨床と繋がるような記載は無いと思われるが、このような見方、捉え方、考え方は大いに学ぶべきものがあると感じている。

 
原 文 意 訳

 黄帝が問うて申された。

 余は皮には十二經脉に分けた部位があり、脈には経の筋道があり、筋には結び絡う部位があり、骨には大小・長短の尺度がある。

 そしてその生じる病は、各々異なっていると聞いている。

 その各部位を明確に別ち、病が上下左右、陰陽のどちらにあるのか、病の始まりと予後など、それらの道理を聞かせてもらいたいのであるが。



 岐伯が答えて申された。

 皮の分部を知ろうとされるのでしたら、経脉を基準とすればよろしいのであります。これは全ての分部と經脉も同じでございます。

 陽明の陽は、害蜚(がいひ)と申しまして、陽明の気がさらに陽に傾きますと、陽気は消散してしまいます。上下、手足の陽明も同様であります。

 意識的に見て皮部に浮絡が存在するのは、すべて陽明の絡を見ているのであります。

 その浮絡の色が、青が多いようでしたら、それは痛みを現しているのでして、黒が多ければ痹を、黄赤が多ければ熱を、白が多ければ寒を、五色の全てが現れているようでしたら寒熱錯綜をそれぞれ表しております。

 絡に外邪が盛んとなりますと、経脉に入って留まるようになります。

 陽である絡は皮部でありますから外を主り、陰である経は臓腑に連なっておりますので内を主っております。

 少陽の陽は、その機能から枢持と言われておりまして、開の太陽、閉の陽明の枢軸を握っております。

 上下・手足の少陽も同様であります。

 意識的に見て皮部に浮絡が存在するのは、すべて少陽の絡を見ているのであります。

 絡に外邪が盛んとなりますと、経脉に入って留まるようになります。

 従いまして、陽である絡に在ります外邪は、陰である経を伝って内に入り込みますし、陰である經脉に在ります邪は、経脉を離れて次第に内の臓腑に滲むように入り込むのであります。

 これは、すべての經脉についても同じであります。

 太陽の陽は、外邪が最初に侵す部位であり、腠理開合の関所であります。

 ですからその機能から関枢と言われております。上下・手足の太陽も同様であります。

 意識的に見て皮部に浮絡が存在するのは、すべて太陽の絡を見ているのであります。

 絡に外邪が盛んとなりますと、経脉に入って留まるようになります。

 少陰の陰は、太陰と厥陰の枢であり、水を主っているところから、枢儒(濡)を言われております。

 意識的に見て皮部に浮絡が存在するのは、すべて少陰の絡を見ているのであります。

 絡に外邪が盛んとなりますと、経脉に入って留まるようになります。

 そして邪気は経脉から臓腑にはいり、さらに内の骨に注ぐのであります。

 心主の陰は、害肩と申しまして、厥陰の陰がさらに傾きますと、陰気は万物を塞ぎとめてしまうことになります。上下・手足の厥陰も同様であります。

 意識的に見て皮部に浮絡が存在するのは、すべて心主の絡を見ているのであります。

 絡に外邪が盛んとなりますと、経脉に入って留まるようになります。

 太陰の陰は、土中に潜む虫の出入りする関所の如く、体内の気血の出入りを主るので関蟄(かんちつ)と申します。

 意識的に見て皮部に浮絡が存在するのは、すべて太陰の絡を見ているのであります。

 おおよそ、十二經脉の絡脉と申しますは、皮部のことであります。

 でありますから百病が生じ始めるのは、必ず皮毛にその兆しが現れるのであります。

 もし、外邪が皮部に中りますと、腠理は開いて参ります。そうしますと外邪は絡脉に入って居座る様になり、そのまま留まって去りませんと経脉に伝入致します。

 さらにそのまま去らずに留まりますと、腑に入りまして腸胃に集まる様になるのであります。

 外邪が皮部に入り始めますと、ゾクゾクとして寒気がして体表の毛は逆立ち、そして腠理は開いてしまいます。

 そして絡脉に入ってしまいますと、絡脉は正邪抗争の結果、盛んとなり変色致します。

 また絡脉から経脉に入りますと、正気の不足を感じるようになり、経脉もまた陷下して参ります。

 さらに邪気が筋骨の間に留まり、外邪が寒に傾いているようでしたら筋が引きつれ骨もまた痛んで参ります。

 熱に傾いているようでしたら、筋は弛み骨は衰えて細り、肉は融ける様にやせ衰え、力こぶのような充実した肉は破れたかのように無力となり、毛は立ち枯れのようになってしまいます。

 帝が申された。

 夫子はこれまで、十二の皮部について話された。

 その皮部に病を生じる共通点はいかようなのか。

 岐伯が申された。

 皮と申しますは、経脉の一部でございます。

 ですから外邪が皮に舍りますと正気は敗れて腠理が開きます。

 そうしますと外邪は勢いに乗って絡脉に侵入し、絡脉で正邪の抗争が起こり、脉が満ちたにもかかわらず追い出すことが出来ないと、経脉に注ぎ入り、経脉でもまた外邪の侵入を防ぎきれないと臓腑にまで達してそこに舍るようになります。

 従いまして、皮には分部があり、皮の異変に気がつかないで治療の機会を失いますと、やがて大病を患うことになるのであります。


 帝が申された。 

 よく理解できた、と。



原文と読み下し



黄帝問曰.
余聞皮有分部.脉有經紀.筋有結絡.骨有度量.其所生病各異.別其分部.左右上下.陰陽所在.病之始終.願聞其道.
黄帝問うて曰く。
余は聞く。皮に分部有り、脉に經紀有り、筋に結絡り有り、骨に度量有り。其の生ずる所の病、各おの異なる、と。其の分部を別ち、左右上下、陰陽の在る所、病の始終、願わくば其の道を聞かん。

岐伯對曰.
欲知皮部.以經脉爲紀者.諸經皆然.
陽明之陽.名曰害蜚.上下同法.
視其部中有浮絡者.皆陽明之絡也.
其色多青則痛.多黒則痺.黄赤則熱.多白則寒.五色皆見.則寒熱也.
絡盛則入客於經.陽主外.陰主内.


岐伯對えて曰く。
皮部を知らんと欲すれば、經脉を以て紀と爲す者なり。諸經皆然り。
陽明の陽、名づけて害蜚(がいひ)と曰く。上下法を同じくす。
其の部中を視て、浮絡有る者は、皆陽明の絡なり。
其の色青多きは則ち痛み、黒多きは則ち痺し、黄赤なれば則ち熱し、白多きは則ち寒し、五色皆見われれば則ち寒熱なり。
絡盛んなれば則ち入りて經に客す。陽は外を主り、陰は内を主る。

少陽之陽.名曰樞持.上下同法.
視其部中有浮絡者.皆少陽之絡也.
絡盛則入客於經.
故在陽者主内.在陰者主出以滲於内.諸經皆然.


少陽の陽、名づけて樞持と曰く。上下法を同じくす。
其の部中を視て、浮絡有る者は、皆少陽の絡なり。
絡盛んなれば則ち入りて經に客す。
故に陽に在る者は内を主り、陰に在る者は出るを主り以て内に滲(にじ)む。諸經皆然り。

太陽之陽.名曰關樞.上下同法.
視其部中有浮絡者.皆太陽之絡也.
絡盛則入客於經.


太陽の陽、名づけて關樞と曰く。上下法を同じくす。
其の部中を視て、浮絡有る者は、皆太陽の絡なり。
絡盛んなれば則ち入りて經に客す。

少陰之陰.名曰樞儒.上下同法.
視其部中有浮絡者.皆少陰之絡也.
絡盛則入客於經.其入經也.從陽部注於經.

其出者.從陰内注於骨.
少陰の陰、名づけて樞儒と曰く。上下法を同じくす。
其の部中を視て、浮絡有る者は、皆少陰之の絡なり。
絡盛んなれば則ち入りて經に客す。其の經に入るや、陽部より經に注ぐ。
其の出ずる者は、陰より内りて骨に注ぐ。

心主之陰.名曰害肩.上下同法.
視其部中有浮絡者.皆心主之絡也.
絡盛則入客於經.


心主の陰、名づけて害肩と曰く。上下法を同じくす。
其の部中を視て、浮絡有る者は、皆心主の絡なり。
絡盛んなれば則ち入りて經に客す。

太陰之陰.名曰關蟄.上下同法.
視其部中有浮絡者.皆太陰之絡也.絡盛則入客於經.

太陰の陰、名づけて關蟄(かんちつ)と曰く。上下法を同じくす。
其の部中を視て、浮絡有る者は、皆太陰の絡なり。絡盛んなれば則ち入りて經に客す。

凡十二經絡脉者.皮之部也.
是故百病之始生也.必先於皮毛.邪中之.則腠理開.開則入客於絡脉.留而不去.傳入於經.留而不去.傳入於府.廩於腸胃.
邪之始入於皮也.泝然起毫毛.開腠理.
其入於絡也.則絡脉盛色變.
其入客於經也.則感虚.乃陷下.
其留於筋骨之間.寒多則筋攣骨痛.
熱多則筋弛骨消.肉爍䐃破.毛直而敗.

凡そ十二經の絡脉は、皮の部なり。
是れ故に百病の始めて生ずるや、必ず皮毛に先んず。邪これに中れば、則ち腠理開く。開けば則ち入りて絡脉に客し、留まりて去らずんば、傳えて經に入る。留まりて去らずんば、傳えて府に入り、腸胃に廩(あつ)まる。
邪の始めて皮に入るや、泝然(そぜん)として毫毛起き、腠理開く。
其の絡に入れば、則ち絡脉盛んにして色變ず。
其の入りて經に客すれば、則ち虚に感じて、乃ち陷下す。
其の筋骨の間に留まりて、寒多きは則ち筋攣し骨痛む。
熱多きは則ち筋弛み骨消し、肉爍(と)け䐃(きん)破れ、毛直して敗す。

帝曰.夫子言皮之十二部.其生病皆何如.
岐伯曰.
皮者脉之部也.邪客於皮.則腠理開.開則邪入客於絡脉.絡脉滿則注於經脉.經脉滿則入舍於府藏也.
故皮者有分部.※不癒而生大病也.
帝曰善.


帝曰く。夫子皮の十二部を言えり。其の病を生ずるは皆いかん。
岐伯曰く。
皮は脉の部なり。邪皮に客せば、則ち腠理開く。開けば則ち邪入りて絡脉に客し、絡脉滿つれば則ち經脉に注ぐ。經脉滿つれば則ち入りて府藏に舍す。
故に皮に分部有り、癒せざれば大病を生じるなり。
帝曰く、善し。



※原文、不與(不与)を甲乙経に倣い不癒に作る。


 鍼専門 いおり 鍼灸院

長刺節論篇第五十五.

慶良間
 前篇に引き続き鍼法について述べられているが、鍼の補寫、遅速、深浅に関しては、他篇と矛盾することが多々ある。 

 これらから推測できることは、刺法に関しては当時から様々な流派ややり方があったことが分かる。

 これは巨刺と繆刺も同じである。

 巨刺と繆刺の鍼法は異なるが、生体全体を見渡し、気の偏在を空間的にとらえ、陰陽の平衡を計ろうとした鍼術としてみれば、同じ視点に立った鍼法であることが分かる。

 気の偏在を捉えること無く、巨刺、繆刺を固定的に捉え鍼を下すと、確実に誤る。

 このように臨床に際しては、原則に囚われず、生体が表現している状態に従って自由に遅速、深浅を加減することこそが大事と解釈することが出来る。

 人体は、一時も静止することなく千変万化するものである。

 その様々に変化する現象の中から、不変のものを見出しその場その場に応じて、一鍼を下すのが鍼灸医学である。

 このような生体の在り様に対して、原則は参考にすれども、定まった鍼法など無いに等しいのだと筆者は考えている。

 当然、本篇で取り上げられている病証と刺法は、ひとつのやり方であり例であって、決して固定的に捉えるべきではないと筆者は考える。

 この例から、何を読み取るかこそが大事と思う。

 固定的に捉えると、対象は実態から離れ、死んでしまうからである。

 また本篇で筆者が注目したのは、以下の一文である。

 <深專者.刺大藏.迫藏刺背.背兪也.刺之迫藏.藏會.腹中寒熱去而止.>

 この記載によって、腹部募穴と背部兪穴間の気の動きを明確にすることが出来る。

 気の動きを概念で捉えることができれば、あとはそのような視点で臨床的に照合していく過程に入ることが出来る。

 このあたりの詳細は、ブログ『一の会 東洋医学講座』 <背部兪穴と胸腹部募穴①~④>筆者の思惑を述べているので、興味のある方は訪れて頂けたらと思います。

 またこの篇は、誤字、脱字の類が多かったので、甲乙経、新校正などを参考に筆者なりに理解しやすいように読み替えたので、含みおいて頂けたらと思う。 
 

 

原 文 意 訳

 鍼の治療家は、診察前に病人の話し方に耳を傾けるものである。

 病が頭に在り、頭が急に痛むときは、鍼が骨に達すると治まるものである。


 その際には、皮は、鍼の出入りする部位であるが、骨肉と皮を傷害するようであってはならない。

 陰刺というは、一か所に刺し入れ、その傍らの四方に刺すのである。

 四方の面積大に気を集めたり散らしたりできるので、寒熱の病を治することができるのである。

 邪気が深い時には、五臓を刺す。

 邪気が五臓に迫ろうとしている時に背兪を刺すのは、五臓の気が背兪に会するからである。

 従って、正邪抗争の場を五臓から背兪に引くために刺鍼するのである。

 そして腹中の寒熱の症状が去れば、鍼もまた止めるのである。

 その際の要は、鍼を速く瞬間的に抜針し、浅いところで少し出血させることである。

 化膿した腫れ物を治するには、化膿部位を直接刺し、できものの大小を意識的に視て鍼の深浅を決めるのである。

 大きなものは、多く刺し、しかも深くするのである。

 その際には、鍼を真直ぐに持って刺入するのが、古来からの方法である。

 小腹部に固いしこりのある病は、皮肉の盛り上がっているところを刺し、そこから少腹部に至ったところで止める。

 さらに第四胸椎の傍らの厥陰兪を刺し、さらに腰骨の両側にある居髎付近と、さらに季脇肋の章門、京門付近を刺し、腹中の凝り固まった気を刺鍼部位に導き、熱所見が無くなれば治まるのである。

 少腹に病があって、腹痛がして大小便が無いのは、疝という病名である。これは寒邪に侵されたことが原因である。

 寒邪に傷られた疝には、小腹部と両方の内股、環跳付近を数多く刺す。下腹部以下全体が、はっきりと温かくなって来ると治まるのである。

 病が筋に在り、筋肉が痙攣して関節も痛み、歩くことが出来ないものを、筋痹と申します。

 筋痹には、筋上を刺すのが古来からの方法である。

 分肉の間を刺して、骨に中らないようにしなければならない。

 病が起こっても、筋が熱するようになると病は癒えて止まるのである。

 病が肌膚に在り、肌膚の尽くが痛むのを、肌痹と申します。寒湿に傷られたからであります。

 大肉・小肉の分間に、多く深く鍼を発し、肌膚が熱するようにするのが、古来からの方法です。

 その際には、筋骨を傷らないように致します。

 もし筋骨を傷りますと、廱(よう=できもの)を発するようになるか、思わぬ病変を生じます。

 大肉・小肉の分間の尽くが熱するようになりますと、病は癒えて止まります。

 病が骨に在り、骨が重く感じて挙動することが出来ず、骨髄は酸痛(だるく痛む)し、寒気の影響を受けるようになるものを、骨痹と申します。

 骨に届くように深く刺すが、脉肉を傷らないようにするのが、古来からの方法である。運鍼は、大肉・小肉の分間を進め、骨が熱するようになると、病は癒えて止まります。

 病が諸陽経に在り、寒と熱の症状が混在し、大肉・小肉の分間もまた、寒と熱の症状が混在しているのを、名づけて狂と申します。

 このような場合、虚脈を刺し、大肉・小肉の分間をしっかりと見て、寒熱の気が交流して、全体が熱すると病は癒えて止まるのである。

 この狂症が初めて発病し、一年に一度発作を起こして治らず、また月に一度発作を起こして治らず、さらに月に四五度発作を起こすようになりますと、これを癲病と申します。

 この際、諸分肉、諸経脉を刺すのであるが、寒の症状が無い場合は、鍼を以てこれを調え熱を平にすれば、病は癒えて止まるのである。

 風を病み、寒熱の症状があり、一日数回発熱して汗が出るような場合は、まず諸の分理絡脉を刺す。

 発汗して寒熱の症状があっても、三日に一度鍼をし、百日すると癒えるのであります。

 大風を病み、骨節が重く、髭や眉が抜け落ちてしまうのを、名づけて大風と申します。

 肌肉を刺すのが、古来からの方法である。発汗すること百日。

 骨髄を刺して発汗させること百日。

 凡そ合計二百日刺鍼し、髭と眉毛が生じて来たら、刺鍼もまた止めるのであります。




原文と読み下し



刺家不診.聽病者言.※1(病)在頭.頭疾痛.爲※2(藏)鍼之.刺至骨.病已※3止(上).無傷骨肉及皮.皮者道也.

陰刺入一.傍四處.治寒熱.

深專者.刺大藏.迫藏刺背.背兪也.

刺之迫藏.藏會.腹中寒熱去而止.

※4(與)刺之要.發鍼而淺出血.


刺家診せず、病者の言を聽く。病は頭に在り、頭疾痛めば、爲にこれに鍼す。刺して骨に至らば、病已み止まる。骨肉及び皮を傷ること無かれ。皮なるは、道なり。

陰刺は一を入れて傍ら四處す。寒熱を治す。

深さ專らなるは、大藏を刺す。

藏に迫るは、背を刺す。背の兪なり。

これ藏に迫るを刺すは、藏會なればなり。腹中の寒熱去りて止む。

刺の要は、鍼を發して淺く血を出すなり。

※1在のうえに病の文字ありとす。

※2(藏)全元起本には蔵の文字がない。これにならう。

※3上を止に改める。

※4與を読まず。



治腐腫者.刺腐上.視癰小大.深淺刺.
※刺大者多而深之.必端内鍼爲故止.必端内鍼爲故止.

腐腫を治するは、腐の上を刺す。癰の小大を視て、深く淺く刺す。

大なるを刺すは、多くしてこれを深くし、必ず端(ただ)しく鍼を内れるを故止と爲す。

※原文は「刺大者多血.小者深之.」甲乙経は、刺大者多而深之.必端内鍼爲故止.とあるに従う。


病在少腹有積.刺皮[骨盾].以下至少腹而止.

刺侠脊兩傍四椎間.刺兩[骨客]髎.季脇肋間.導腹中氣.熱下已.

病少腹に在りて積有るは、皮[骨盾](ひとつ)以下を刺し、少腹に至りて止む。

侠脊の兩傍四椎の間を刺し、兩[骨客]髎(かりょう)、季脇肋の間を刺す。腹中の氣を導き、熱下れば已む。


病在少腹.腹痛不得大小便.病名曰疝.得之寒.

刺少腹兩股間.刺腰髁骨間.刺而多之.盡炅病已.

病少腹に在り。腹痛みて大小便を得ず。病名づけて疝と曰く。これを寒に得る。

少腹兩股の間を刺し、刺腰髁骨(かこつ)の間を刺す。刺してこれを多くす。盡く炅(けい)して病已む。


病在筋.筋攣節痛.不可以行.名曰筋痺.

刺筋上爲故.刺分肉間.不可中骨也.病起.筋炅病已止.


病筋に在り。筋攣し節痛み、以て行くべからず。名づけて筋痺と曰く。

筋上を刺す故と爲す。分肉の間を刺して、骨に中るべからず。病起.筋炅すれば病已(や)みて止る。


在肌膚.肌膚盡痛.名曰肌痺.傷於寒濕.

刺大分小分.多發鍼而深之.以熱爲故.

無傷筋骨.傷筋骨.癰發若變.

諸分盡熱.病已止.


病肌膚に在りて、肌膚盡く痛む。名づけて肌痺と曰く。寒濕に傷らる。

大分小分を刺す。多く鍼を發してこれを深くし、以て熱するを故と爲す。

筋骨を傷ること無かれ。筋骨を傷れば、癰を發し若しくは變ず。

諸分盡く熱すれば、病已えて止む。


病在骨.骨重不可擧.骨髓酸痛.寒氣至.名曰骨痺.

深者刺無傷脉肉爲故.其道大分小分.骨熱病已止.


病骨に在り。骨重くして擧げるべからず。骨髓酸痛し、寒氣至る。名づけて骨痺と曰く。

深き者は刺して脉肉を傷ること無きを故と爲す。其の道は大分小分、骨熱すれば病已えて止む。


病在諸陽脉.且寒且熱.諸分且寒且熱.名曰狂.

刺之虚脉.視分盡熱.病已止.

病初發.歳一發不治.月一發不治.月四五發.名曰癲病.

刺諸分諸脉.其無寒者.以鍼調之.病止.


病諸陽の脉に在り。且つ寒し且つ熱す。諸分且つ寒し且つ熱するは、名づけて狂と曰く。

これを虚脉に刺し、分盡く熱するを視れば、病已えて止む。

病初めて發し、歳に一たび發して治せず。月に一たび發して治せず。月に四五たび發するを、名づけて癲病と曰く。

諸分諸脉を刺す。其の寒無き者は、鍼を以てこれを調えれば、病止む。


病風.且寒且熱.炅汗出.一日數過.先刺諸分理絡脉.

汗出且寒且熱.三日一刺.百日而已.

風を病みて、且つ寒し且つ熱し、炅汗出ずること、一日に數過するは、先ず諸の分理絡脉を刺す。

汗出で且つ寒し且つ熱するは、三日に一たび刺す。百日にして已む。


病大風.骨節重.鬚眉墮.名曰大風.刺肌肉爲故.汗出百日.

刺骨髓.汗出百日.凡二百日.鬚眉生而止鍼.


大風を病みて、骨節重く、鬚眉墮つるを、名づけて大風と曰く。肌肉を刺すを故と爲す。汗出ずること百日、

骨髓を刺して、汗出ずること百日、凡そ二百日、鬚眉生じて鍼を止む。



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鍼解篇第五十四.

花咲き虫が飛び交う・・・盛夏

 本篇は、鍼の基本的な補瀉法と、それを施したのちの変化の目安について述べられている。

 さらに、内経医学で一貫している『天人相応』思想が、ここでも記載されているが、これをこじつけと思ってしまうと、内経医学の深いところが見えなくなってしまうので一考されたい。

 『天人相応』を、日常生活の中で常に観ていくことが、臨床につながる。


 鍼の遅速に関しては、本篇の内容は基礎的なことで、例えば瀉法を用いる際に陽邪と陰邪とでは大きく異なる。

 また瀉法を施した後、鍼穴を閉じるとの記載もあるが、これもその時々の状態によるので、全般的な補瀉の記載に関しては、決して固定的に捉えないのが良いと思う。

 また、補瀉に関しては、技術的なことは脇に置いておいて、術者の意念がその効果を大きく作用すると付け加えたい。

 言い換えると、「瀉す」、「補う」、という術者の確信が効果を左右する。

 基本的な補瀉について述べられているが、鍼の技術的なことはすでにクリア出来ていて、そこからさらに一歩進んでより効果を上げるため、また鍼の本質を伝えるために、術者の『心持ちの大事』を説いていると、筆者は感じている。




原 文 意 訳

 
  帝が問うて申された。願わくば九鍼の解釈と虚実の道理を聞きたいのであるが。

 それに対して岐伯が申された。

 虚を刺してこれを実しますと、鍼下に熱感が生じます。気が集まりますと熱となるからであります。

 満ちているものを泄する場合は、鍼下が寒するものであります。気が散ってしまいますと、冷えるからであります。

 宛陳、つまり鬱滞して久しいものを取り除こうとする場合は、悪血を出してやります。

 邪が勝つときは、これを虚すとは、抜鍼後に鍼穴を按じて邪が出ていくのを妨げてはならないということです。

 徐にして疾なれば則ち實すとは、補法のことであります。つまり鍼は徐々に刺入し、抜鍼は疾くして鍼穴を按ずるのであります。

 疾くして徐なれば則ち虚すとは、瀉法のことであります。つまり鍼を疾く刺入し、抜針は徐々に行ってから鍼穴を按ずるのであります。

 虚と実について申しますなら、寒温の気の多少を判断材料に致します。

 有るが如き無きが如しとは、鍼を疾く操作する瞬間瞬間のことで、それを言葉で知ることはできないものであります。

 先と後を察するとは、病の新旧、病因病理を察知することであります。

 虚と実を爲すと申しますは、医師は正確に補瀉を行い、補瀉の法を意識から決して離してはなりません。

 気を得たのか失したのかが曖昧な時は、補瀉を明確に判断せず、補瀉の法を離れてしまったからであります。

 補瀉を的確に行うには、九鍼が最も優れております。と申しますのは、九鍼には、それぞれ病態に適うように考案されているからであります。

 補瀉にあたりましては、気の去来に従ってタイミングよく鍼穴を開闔いたします。

 九鍼とは、それぞれ異なった形をしておりまして、まさに補瀉を行うべきところをよく見極めて、九種類の鍼を用いるということであります。

 実を刺して虚するのを待つと申しますは、鍼を刺して留め置き、陰気が盛んになりましてから鍼を去るということであります。

 虚を刺して実するのを待つと申しますは、同じく陽気が盛んになり、鍼下が熱してから鍼を去るということであります。

 経気がすでに至りましたら、慎重にそれを守り失することがあってはなりません。途中で迷って補瀉を変更してはなりません。

 鍼の深浅は志にありとは、病が内外のどこにあるのかを心を専一にして知ることであります。

 遠近は一の如しとは、鍼の深浅・病位を伺うのは、気が至る感覚と同じであるということであります。

 深淵に臨むが如しとは、油断せず慎重になるということであります。

 手に虎を握るが如しとは、慎重にしかも鍼をしっかりと持ち、鍼下の正邪を掴むことであります。

 術者の意識は、周りの様々なことに囚われることなく心を静かにし、病人を観て集中し、左右のものに気を取られキョロキョロ見てはなりません。

 鍼は斜めに下してはならないという意味は、襟を正して偏らず、まっすぐに刺し下すということであります。

 必ずその神を正すとは、病人の目を見てその神を制して落ち着かせ、病人の気がめぐりやすくすることであります。


 それはつまり、互いの目を合わすことにより、患者の神が鎮まるかどうかは、互いの信頼関係と治療効果に大きく影響するということであります。

 いわゆる三里は、膝を下ること三寸にあります。

 跗上(足の甲)は、膝を挙げますと指の間がはっきりとして見やすいものであります。

 巨虚と申しますは、足の向う脛を挙げますと、ひとりくぼむところで、下廉は陥下しているところです。

 帝が申された。余は九鍼が上は天地・四時・陰陽に応ずと聞いている。願わくばその有様を聞いて、後世に伝え、以て鍼の常道にしたいと思うのだが。

 岐伯が申された。

 一は天、二は地、三は人、四は時、五は音、六は律、七は星、八は風、九は野でありまして、人の身体もまたこれに応じておるのであります。


 そして鍼にも、それぞれ適応するところがありますので、九鍼と申すのであります。

 人の皮膚は、人体を包んでおり、天もまた万物を覆っているのと相関いたします。


 同様に人の肉は土に属し、身体に起伏を生じ適度に潤っている様が大地と相関いたします。

 人の脉は状況に応じて常に変化しておりますので、天地の気が交流して様々に変化する様と相関いたします。

 人の筋は、しっかりと骨を束ねているので、人体を移動させることが出来ます。時もまた連続して流れ四時はばらばらにやってくるのではなく、規則的に移り変わる様と相関しております。

 人の声は五音を備え発しますので、五音に応じます。

 人の陰陽消長の気は、大自然の気に応じており、三陰三陽六律の音階変化に応じております。

 人の歯や面目の位置は定まっているように、これらは天の星と相関いたします。

 人の気が出入りする様は、風と相関いたします。

 人には九竅三六五絡がありますが、これは野に湧水があり、また河川が縦横無尽に流れている様に応じます。

 従いまして、一鑱鍼(ざんしん)は皮を刺し、二員針(えんしん)は肉を刺し、三鍉針は脉を刺し、四鋒針は筋を刺し、五鈹針は骨を刺し、六員利鍼は陰陽気血を調和し、七毫鍼は精気を補益し、八長鍼は風邪を駆除し、九大鍼は九竅を疎通します。


 このように三六五節の邪気を除くため、各病状と病位に適うように九鍼を用いるのであります。

 人の心意は、自然界の
気まぐれに吹く八風と同じで、千変万化致します。

 ですから人の気は天の気に応ずと申すのであります。

 人の髪、歯、耳目、五声が調和して聡明なのは、五音六律に調和があることに応じています。

 そして人の陰陽脉血気は、大地に応じているのであります。


原文と読み下し



黄帝問曰.願聞九鍼之解.虚實之道.

岐伯對曰.

刺虚則實之者.鍼下熱也.氣實乃熱也.

滿而泄之者.鍼下寒也.氣虚乃寒也.

宛陳則除之者.出惡血也.

邪勝則虚之者.出鍼勿按.

徐而疾則實者.徐出鍼而疾按之.

疾而徐則虚者.疾出鍼而徐按之.

言實與虚者.寒温氣多少也.

若無若有者.疾不可知也.

察後與先者.知病先後也.

爲虚與實者.工勿失其法.

若得若失者.離其法也.

虚實之要.九鍼最妙者.爲其各有所宜也.

補寫之時者.與氣開闔相合也.

九鍼之名.各不同形者.鍼窮其所當補寫也.


黄帝問うて曰く。願わくば九鍼の解、虚實の道を聞かん。

岐伯對して曰く。

虚を刺して則ちこれを實すとは、鍼下熱するなり。氣實すれば乃ち熱するなり。

滿つればこれを泄すとは、鍼下寒也するなり。氣虚すれば寒するなり。

宛陳(えんちん)なれば則ちこれを除くとは、惡血を出すなり。

邪勝てば則ちこれを虚すとは、鍼出して按ずること勿れ。

徐にして疾なれば則ち實すとは、徐に鍼を出だし疾くこれを按ずるなり。

疾くして徐なれば則ち虚すとは、疾く鍼を出だし、徐にこれを按ず。

實と虚を言うは、寒温の氣の多少なり。

無きが若く有るが如きとは、疾くして知るべからざるなり。

後と先を察するとは、病の先後也を知るなり。

虚と實を爲すとは、工はその法を失すること勿れ。

得るが如く失するが如しとは、その法を離れるなり。

虚實の要、九鍼最も妙なりとは、その各々に宜しき所有るが爲なり。

補寫の時とは、氣の開闔と相い合するなり。

九鍼の名、各々形同じからずとは、鍼はその當に補寫する所を窮むるなり。



刺實須其虚者.留鍼陰氣隆至.乃去鍼也.

刺虚須其實者.陽氣隆至.鍼下熱.乃去鍼也.

經氣已至.愼守勿失者.勿變更也.

深淺在志者.知病之内外也.

近遠如一者.深淺其候等也.

如臨深淵者.不敢墮也.

手如握虎者.欲其壯也.

神無營於衆物者.靜志觀病人無左右視也.

義無邪下者.欲端以正也.

必正其神者.欲瞻病人目.制其神.令氣易行也.

所謂三里者.下膝三寸也.

所謂跗之者.擧膝分易見也.

巨虚者.䯒足蹻獨陷者.

下廉者.陷下者也.

實を刺しその虚を須(ま)つとは、鍼を留め陰氣隆(さか)んに至りて、乃ち鍼を去るなり。

虚を刺しその実を實須(ま)つとは、陽氣隆んに至りて、鍼下熱すれば、乃ち鍼を去るなり。

經氣已に至れば、、愼しみ守りて失すること勿れ、變更すること勿れ。

深淺は志に在りとは、病の内外を知るなり。

近遠一如しとは、深淺その候等しきなり。

深淵に臨むが如しとは、敢えて墮ちざるなり。

手に虎を握るが如しとは、その壯なることを欲するなり。

神衆物を營すること無かれとは、志靜にして病人を觀て左右を視ること無かれとなり。

義にして邪(ななめ)に下すこと無かれとは、端にして以て正ならんことを欲するなり。

必ずその神を正すとは、病人の目を瞻(み)て、その神を制し、氣をして行ること易からしめんと欲するなり。

所謂三里は、膝の下三寸なり。

所謂跗之(ふし)は、膝を擧ぐれば分けて見易きなり。

巨虚は、足の䯒(こう)を蹻(あ)ぐれば、獨り陷するものなり。

下廉は、陷の下なるものなり。



帝曰.余聞九鍼.上應天地四時陰陽.願聞其方.令可傳於後世.以爲常也.

岐伯曰.

夫一天.二地.三人.四時.五音.六律.七星.八風.九野.

身形亦應之.鍼各有所宜.故曰九鍼.


帝曰く。余は聞くに、九鍼は上は天地四時陰陽に應ずと。願わくばその方を聞き、後世に傳え以て常と爲すべからしめんなり。

岐伯曰く。

夫れ一は天。二は地。三は人。四は時。五は音。六は律。七は星。八は風。九は野。

身の形も亦たこれに應ず。鍼各々宜しき所有り。故に九鍼と曰く。



 

人皮應天.人肉應地.人脉應人.人筋應時.人聲應音.人陰陽合氣應律.人齒面目應星.人出入氣應風.人九竅三百六十五絡應野.

故一鍼皮.二鍼肉.三鍼脉.四鍼筋.五鍼骨.六鍼調陰陽.七鍼益精.八鍼除風.九鍼通九竅.除三百六十五節氣.此之謂各有所主也.


人心意應八風.人氣應天.人髮齒耳目五聲.應五音六律.人陰陽脉血氣應地.
人の皮は天に應ず。人の肉は地に應ず。人の脉は人に應ず。人の筋は時に應ず。人の聲は音に應ず。人の陰陽は気に合し律に應ず。人の齒面目は星に應星ず。人の出入の氣派〕風に應風ず。人の九竅三百六十五絡は野に應ず。

故に一鍼は皮。二鍼は肉。三鍼は脉。四鍼は筋。五鍼は骨。六鍼は陰陽を調し、七鍼は精を益し、八鍼は封を除き、九鍼は九竅に通じ、三百六十五節の氣を除く。此れをこれ各々主る所有りと謂うなり。

人の心意は八風に應ず。人の氣は天に應天ず。人の髮齒耳目五聲は、五音六律に應ず。人の陰陽脉血氣は地に應ず。






※以下、王冰の注釈以来、虫損、残欠にのため意味不明であるとされ、後世新たに発見されるのを待つ部分とされているので、原文のみを記すにとどめる。

人肝目應之九.九竅三百六十五.人一以觀動靜.天二以候五色.七星應之以候髮毋澤.五音一以候宮商角徴羽.六律有餘不足應之.二地一以候高下有餘.九野一節兪應之以候閉.節.三人變一分人候齒泄多血少.十分角之變.五分以候緩急.六分不足.三分寒關節.第九分四時人寒温燥濕.四時一應之以候相反一.四方各作解.

九竅三百六十五.人一以觀動靜.天二以候五色.七星應之以候髮毋澤.五音一以候宮商角徴羽.六律有餘不足應之.二地一以候高下有餘.九野一節兪應之以候閉.節.三人變一分人候齒泄多血少.十分角之變.五分以候緩急.六分不足.三分寒關節.第九分四時人寒温燥濕.四時一應之以候相反一.四方各作解.


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刺志論篇第五十三.


 本篇は、基本的な虚実の概念と、変証について述べられている。また初歩的な刺鍼後の手技についても記載されている。

 実に関しては、邪気実としての解説と外邪侵入との解説を多く見るが、「鬱滞即邪」の概念からすると、正気の鬱滞・有余もまた即邪気と転化する視点を見落とさないようにするのが肝要かと思う。

 さらに虚実の概念も、内経では一貫しておらず、単に緊張や充実していることを指して実と表現しているので、実=邪気(もしくは外邪)と短絡しないように気をつけるのが良いと思う。

 さらに言えば、読者諸氏は文中の虚実が何を軸にして論じているのかを明確にしながら読み進めると、より一層理解の幅が広がると思うので参考にされたい。

 また、常と変に関しては、臨床的には常見するので、筆者の独断で意訳に加えた。千変万化する現象から、真仮・虚実の見極めはやはり巧拙に関わってくると実感している。

 さて、本篇の表題『 刺志論』であるが、馬蒔は「志」は「記」と注しているが、「志」が「誌」に通じるためであろう。

 本文最初に、黄帝が「虚実の要」を聞かせてもらいたいとの記述から、虚実は決して誤ってはならない重要な診断であることが知れる。

 「志」とは本来、こころがある方向に向かうことであるから、刺鍼に際しては、決して曲げたり曖昧にしてはならない虚実の概念を述べているからこそ、表題を『 刺志論』としたのではなかろうかと、筆者は考えている。

 読者諸氏は、如何。





原 文 意 訳

  黄帝が問うて申された。願わくば、虚実の要となることを聞きたいのであるが。

 岐伯がそれに対して申された。

 気が実しておれば形もまた実しており、気が虚しておれば形もまた虚しているというのが理に適った常の状態であります。これに反しておりますと、変でありますので病んでおります。

 食を十分に摂取できるものは、気もまた盛んであります。反対にあまり食べることが出来ないものは、気が虚しているというのが常であり、これに反した変でありますと、病んでいるのであります。

 脉力が充実しておれば血色も良く、血もまた充実しており、脉力が弱ければ血色も悪く、血もまた不足しているのが常であります。これに反した変でありますと、病んでいるのであります。

 帝が申された。理に適っていない反・変の状態とはいかなるか。

 岐伯が申された。

 気が盛んであるにもかかわらず、身体が寒していたり、気が不足しているにもかかわらず、身体が熱しておりますと、理に適わない反・変であります。

 しっかりと食物を摂っているにもかかわらず、気が少ないのも反・変であります。


 反対に、あまり食べることが出来ないにもかかわらず、気が多いのも反・変であります。

 脉が盛んで血が少なく血色が悪い、脉が弱いのに血が多く血色が良いというのも、また反・変であります。

 気が盛んであるにもかかわらず身体が寒しているのは、これは寒邪に傷られたからであります。

 気が不足しているにもかかわらず身体が熱しているのは、暑邪に傷られたからであります。

 たくさん食しているのに気が虚している者は、身体のどこかに出血しているところがあり、湿が下焦に在って気を阻んでいるからであります。

 少ししか食していないのに気が多い者は、邪気が胃と肺に在って正気と抗争しているからであります。

 脉が弱いのに血が多く血色が良いのは、水飲が中焦に留まり気と結んで熱しているためである。

 脉が大きく打っているのに血が少なく血色が悪いのは、脉が風気を受け、飲み物も取れないからであります。

 実と申しますは、気が内に入って一杯になった状態で、虚とは正気が抜け出でて不足した状態であります。

 気が実している者は、有余している分だけ身体が熱するものであり、気が虚している者は、不足している分だけ身体が冷えるものです。

 気有余の実でありましたら、鍼の押手であります左手の指で鍼穴を開くようにしまして、気不足の虚でありましたら、同じく鍼穴を閉じるように手技を致すのであります。




原文と読み下し

黄帝問曰.願聞虚實之要.

岐伯對曰.

氣實形實.氣虚形虚.此其常也.反此者病.

穀盛氣盛.穀虚氣虚.此其常也.反此者病.

脉實血實.脉虚血虚.此其常也.反此者病.


黄帝問うて曰く。願わくば虚實の要を聞かん。

岐伯對して曰く。

氣實して形實し、氣虚して形虚す。此れ其の常なり。此れに反するものは病む。

穀盛んにして氣盛ん、穀虚して氣虚す。此れ其の常なり。此れに反するものは病む。

脉實して血實し、脉虚して血虚す。此れ其の常なり。此れに反するものは病む。



帝曰.如何而反.

岐伯曰.

氣虚身熱.此謂反也.

穀入多而氣少.此謂反也.

穀不入而氣多.此謂反也.

脉盛血少.此謂反也.

脉少血多.此謂反也.


帝曰く。如何にしてか反すや。

岐伯曰く。

氣虚して身熱す。此れを反と謂うなり。

穀入ること多くして氣少なし。此れを反と謂うなり。

穀入らずして氣多し。此れを反と謂うなり。

脉盛んにして血少し。此れを反と謂うなり。

脉少く血多し。此れを反と謂うなり。



氣盛身寒.得之傷寒.

氣虚身熱.得之傷暑.

穀入多而氣少者.得之有所脱血.濕居下也.

穀入少而氣多者.邪在胃及與肺也.

脉小血多者.飮中熱也.

脉大血少者.脉有風氣.水漿不入.此之謂也.


氣盛んにして身寒するは、これを傷寒に得る。

氣虚して身熱す。これを傷暑に得る。

穀入ること多くして氣少き者は、これ脱血する所有りて、濕下に居るに得る。

穀入ること少くなくして氣多き者は、邪は胃と肺に在るなり。

脉小にして血多き者は、飮して中は熱するなり。

脉大にして血少き者は、脉に風氣有り、水漿入らず。此れを之れ謂うなり。


夫實者氣入也.虚者氣出也.

氣實者熱也.氣虚者寒也.

入實者.左手開鍼空也.

入虚者.左手閉鍼空也.


夫れ實するとは、氣の入るなり。虚するとは、氣出ずるなり。

氣實する者は熱するなり。氣虚する者は寒するなり。

實に入る者は、左手もて鍼空(はりあな)を開くなり。

虚に入る者は、左手もて鍼空を閉すなり。


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刺禁論篇第五十二.

もうすぐ梅雨明けでしょうか


 この篇では、禁鍼穴と過誤の起こりやすい部位を明確にし、同時に深く刺すことを戒めている。

 この篇を読み返す度に、病に苦しむ人を、治してあげたいという想いで行った鍼治療で、反って患者が目の前で悪化したり死亡する情景に接して、術者はどのような気持ちになったのだろうかと想像してしまう。

 治すことが出来ないと、治療者も病人も共に苦しむものだ。まして悪化・死亡など、あってはならないことが、過去に起きたからこそ、ここに記述されているのである。

 このことに深く思いを至らせて、過誤の無いように努めるのは最低のことで、術者は、はるかにそれ以上のでなければならない。

 深刺しと局所治療は、よほどの根拠がない限り、施すべきでないというのが筆者の考えである。

 内経医学では、全身の『気の偏在』を視野に入れ、心身ともに人としての本来の姿に戻すことを第一の目的として刺鍼する。

 外後頭隆起の下方、腦戸穴・瘂門穴に深刺しして、脳に中ると即死であるとの記載は、当時から脳の重要性を一定認識していることが知れる。

 にもかかわらず、内経医学では脳は腎精の余りであるとして、さほど重要視していないのは、重要である。

 そして東洋医学では、生命の中枢は脳ではなく、五臓に求めている。

 西洋医学とは、人体観・生命観が異なるためである。

 実際の臨床において、現代医学的に脳の疾患と診断されたものであっても、五臓の虚実を調えることで治癒した筆者の臨床症例は、数えてはないがかなり存在する。

 現代医学的病名は、参考にはなるが東洋医学とは世界が異なる。

 現象として現れている症状を無視するのではないが、それにとらわれず全体性の回復を図り、結果として症状が消失するのが東洋医学の基本的な視点であることを、再確認しておきたい。

 



原 文 意 訳

 黄帝が問うて申された。願わくば、刺鍼に際しての禁忌を聞きたいのであるが。

 岐伯が申された。

 臓には要害となるところがございますので、必ずこれらを知っておかなくてはなりません。

 肝の気は、左に生じまして、肺の気は右に蔵されております。

 心の気は、表在部を流れており、腎の気は深在部を流れて諸臓を治めております。


 脾は土で中央でありますれば、他の四臓それぞれの必要に応じて気血を送り、胃は水穀五味が聚る所であります。

 膈の上は、人体の父母である心肺があり、七節下・至陽穴の傍ら膈兪穴には、心の気の根である腎気が昇ってきております。

 これらのことを十分にわきまえて治療すれば福とすることが出来ますが、そうでなければ咎を負うことになります。

 もし、刺して心に中れば一日で死し、その変動は噫(おくび)となって現れます。

 同様に、刺して肝に中れば五日で死し、その変動はやたらと多言となって現れます。

 刺して腎に中れば、六日で死し、その変動は嚔(くさめ=くしゃみ)となって現れます。

 刺して脾に中れば、十日で死し、その変動は呑(どん)、つまり嚥下困難な状態に現れます。

 刺して胆に中れば、一日半で死し、その変動は、嘔(おう)、つまり吐き気となって現れます。

 刺して足の甲の大きな脉に中りますと、出血が止まらず死します。

 刺して顔面の脉の支別が浮いて見える溜脉に中りますと、不幸にして失明致します。

 刺して頭の腦戸に中りますと、鍼が脳に入って即死致します。

 刺して舌下の脉に中り、それが大いに過ぎますと出血が止まらなくなり、瘖(いん)、つまり言語障害になります。

 足下に分布する絡を刺し、脉に中ってしまうと、内出血となるので腫れて参ります。

 郄中、つまり委中穴の大脉に中りますと、顔面の気色を失い昏倒致します。

 気街、つまり気衝穴に刺して脉に中り、出血しない場合は鼠蹊部が腫れます。

 椎間を刺し、髄に中りますとせむしとなります。

 乳の上を刺して乳房に中りますと、腫れて内部から腐って参ります。

 缺盆穴の中を刺し、深刺しすると気が泄れ、あえぎながら咳をするようになります。

 手の魚腹を刺し、深刺しすると腫れて参ります。

 大いに酒に酔っているものを刺してはなりません。陽気過多であるので、気が乱れて収拾がつかなくなります。

 大いに起こっているものを刺してはなりません。怒気で上逆しているのが、さらにひどくなります。

 その他、疲労困憊している人、食後満腹となっている人、大いに餓えている人、大いに渇している人、大いに驚いて気が乱れている人、これらの人は、刺してはなりません。

 ですので、疲労困憊している人はしばらく休ませ回復を待ち、満腹の人は飲食が臓腑になじむのを待ち、餓えているものは少し食を進め、渇しているものは少し飲水をさせ、驚いて乱れている気が落ち着つくのを待ってからなど、刺鍼までには工夫が必要であります。

 陰股、つまり股の内側を刺して大脉に中り、出血が止まらなければ死します。

 客主人(上関)穴を深刺して脉に中りますと、頭内の気が漏れ、聾となります。

 膝蓋骨を刺し、液が出るとビッコとなります。

 腕の太陰脉を刺し、出血が多いと、たちどころに死します。

 すでに虚している足少陰を刺し、重ねて出血させて虚となりますと、舌が思うように動かなくなり言葉も話せなくなります。

 胸を深刺しし、肺に中りますと喘いで仰向けになって呼吸するようになります。

 肘窩を深刺し、気が鬱滞すると肘の屈伸が出来なくなります。

 大腿内側の下三寸を深刺しすると、小便を失禁するようになります。

 少腹を刺し、膀胱に中りますと腹腔内に小便が流出し、少腹が満となります。

 ふくらはぎを深刺しすると、その部位が腫れます。

 眼窩を刺して、脉に中りますと、涙が漏れ出たり失明致します。

 関節を刺し、液が出ると屈伸できなくなります。 



原文と読み下し

黄帝問曰.願聞禁數.

岐伯對曰.

藏有要害.不可不察.

肝生於左.

肺藏於右.

心部於表.

腎治於裏.

脾爲之使.

胃爲之市.

鬲肓之上.中有父母.七節之傍.中有小心.從之有福.逆之有咎.


黄帝問うて曰く。願わくば禁數を聞かん。

岐伯對して曰く。

藏に要害有り。察せざるべからず・

肝は左に生ず。

肺は右に藏す。

心は表に部す。

腎は裏に治まる。

脾はこれが使たり。

胃はこれが市たり。

鬲肓の上、中に父母有り。七節の傍、中に小心あり。これに從えば福有り。これに逆えば咎有り。 


刺中心.一日死.其動爲噫.

刺中肝.五日死.其動爲語.

刺中腎.六日死.其動爲嚔.

刺中肺.三日死.其動爲欬.

刺中脾.十日死.其動爲呑.

刺中膽.一日半死.其動爲嘔.


刺して心に中れば、一日にて死す。其の動は噫を爲す。

刺して肝に中れば、五日にて死す。其の動は語を爲す。

刺して腎に中れば、六日にて死す。其の動は嚔を爲す。

刺して肺に中れば、三日にて死す。其の動は欬を爲す。

刺して脾に中れば、十日にて死す。其の動は呑を爲す。

刺して膽に中れば、一日半にて死す。其の動は嘔を爲す。


刺跗上.中大脉.血出不止死.

刺面中溜脉.不幸爲盲.

刺頭中腦戸.入腦立死.

刺舌下中脉太過.血出不止.爲瘖.

刺足下布絡中脉.血不出.爲腫.

刺郄中大脉.令人仆脱色.

刺氣街中脉.血不出.爲腫鼠僕.

刺脊間.中髓.爲傴.

刺乳上.中乳房.爲腫根蝕.

刺缺盆中.内陷氣泄.令人喘欬逆.

刺手魚腹.内陷爲腫.


跗上を刺して大脉に中れば、血出でて止ざれば死す。

面を刺して溜脉に中れば、不幸なるは盲を爲す。

頭を刺して腦戸に中れば、腦に入れば立ちどころに死す。

舌下を刺して脉に中ること太過なれば、血出でて止まざれば、瘖となる。

足下の布絡を刺して脉に中り、血出でざれば、腫となる。

郄中の大脉を刺せば、人をして仆(たお)れ色脱せしむ。

氣街を刺し脉に中りて、血出でざれば、鼠僕は腫となる。

脊間を刺し、髄に中れば、傴(く)となる。

乳上を刺し、乳房に中れば、腫れて根蝕む。

缺盆の中を刺し、内陷して氣泄れれば、人をして喘し欬逆せしむ。

手の魚腹を刺して、内陷すれば腫となる。 


無刺大醉.令人氣亂.

無刺大怒.令人氣逆.

無刺大勞人.

無刺新飽人.

無刺大饑人.

無刺大渇人.

無刺大驚人.


大醉を刺すこと無かれ。人をして氣亂れしむ。

大怒をを刺すこと無かれ。ひとをして氣逆せしむ。

大勞の人を刺すこと無かれ。

新飽の人を刺すこと無かれ。

大饑の人を刺すこと無かれ。

大渇の人を刺すこと無かれ。

大驚の人を刺すこと無かれ。 


刺陰股中大脉.血出不止死.

刺客主人.内陷中脉.爲内漏.爲聾.

刺膝髕.出液爲跛.

刺臂太陰脉.出血多.立死.

刺足少陰脉.重虚出血.爲舌難以言.

刺膺中.陷中肺.爲喘逆仰息.

刺肘中.内陷氣歸之.爲不屈伸.

刺陰股下三寸.内陷.令人遺溺.

刺掖下脇間.内陷.令人欬.

刺少腹.中膀胱溺出.令人少腹滿.

刺腨腸.内陷.爲腫.

刺匡上.陷骨中脉.爲漏爲盲.

刺關節中.液出.不得屈伸.


陰股を刺し大脉に中り、血出でて止まざれば死す。

客主人を刺し、内陷して脉に中れば、内漏を爲し、聾となる。

膝髕(しつひん)を刺し、液出ずれば跛(は)となる。

臂の太陰の脉を刺し、出血多ければ、立ちどころに死す。

足の少陰の脉を刺し、重ねて虚し血出だせば、舌言うを以て難きを爲す。

膺中を刺し、陷して肺に中れば、喘逆し仰息となる。

肘中を刺し、内陷し氣これに歸すれば、屈伸せざるを爲す。

陰股の下三寸を刺し、内陷すれば、人をして遺溺せしむ。

掖下脇間を刺し、内陷すれば、人をして欬せしむ。

少腹を刺し、膀胱に中りて溺出ずれば、人をして少腹滿せしむ。

腨腸(せんちょう)を刺し、内陷すれば、腫を爲す。

匡上(きょうじょう)の陥骨を刺して脉に中れば、漏を爲し盲を爲す。

關節の中を刺し、液出ずれば、屈伸を得ず。 


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刺齊論篇第五十一.

梅雨明けが待ち遠しい

 本篇『刺齊論』は、前篇「刺要論」の続編となっている。筆者の考えは、前編ですでに述べているので、特筆すべき事柄はない。

 ただ、なぜ『刺齊論』として別に論じているのだろうという漠然とした疑問は残る。

 『刺齊論』の齊の文字は、古代祭壇の前で奉仕することを意味している。

 そこから、心身を清めて慎む意味となった経緯を思うと、患者を目の前にして術者は心身を清め、つつしんで鍼の深浅を図らなければならないということなのであろうか。




原文意訳



 黄帝が問うて申された。願わくば、刺鍼の深浅の区別を聞きたいのであるが。

 それに対して岐伯が申された。

 骨を目標として刺鍼する場合には、肉を傷ってはなりません。

 同様に筋を刺すには肉を、肉を刺すには脉を、脉を刺す場合には皮を、皮を刺すには肉を、肉を刺すには筋を、筋を刺すには骨をそれぞれ傷ってはならないのであります。

 帝が申された。余は未だその言わんとする所の意味がいまひとつよく分からない。

 願わくば、言わんとする所をさらに解いて頂きたいのであるが。

 岐伯が申された。

 骨を刺して筋を傷ること無かれと申しますのは、鍼が筋に至ったところで去ってしまい、骨に及ばないことを申します。

 同様にそれぞれ筋を目標に刺し肉には至ったところで去ってしまい筋に及ばず、

 肉を目標に刺し脉に至ったところで去ってしまい肉に及ばず、

 脉を目標に刺し皮に至ったところで去ってしまい脉に及ばない、ということであります。

 つまり、浅すぎるのであります。

 いわゆる、皮を刺して肉を傷ること無かれと申しますは、病邪が皮の表在部にあれば、鍼もまた浅く皮の部分を刺して肉を傷ってはならないのであります。

 また、肉を刺して筋を傷ること無かれと申しますは、病邪の存在する肉を過ぎて深刺しすると筋に中って障害してしまいます。

 同様に、筋を刺して骨を傷ること無かれと申しますは、病邪の存在する筋を過ぎて深刺しすると、骨に中って障害してしまいます。つまり深すぎるのであります。

 以上、謹んで鍼の深度を考慮せず刺鍼することを、道理に反すると申すのであります。





原文と読み下し

黄帝問曰.願聞刺淺深之分.

岐伯對曰.

刺骨者無傷筋.

刺筋者無傷肉.

刺肉者無傷脉.

刺脉者無傷皮.

刺皮者無傷肉.

刺肉者無傷筋.

刺筋者無傷骨.


黄帝問いて曰く。願わくが刺の淺深の分を聞かん。

岐伯對して曰く。

骨を刺す者は、筋を傷ること無かれ。

筋を刺す者は、肉を傷ること無かれ。

肉を刺す者は、脉を傷ること無かれ。

脉を刺す者は、皮を傷ること無かれ。

皮を刺す者は、肉を傷ること無かれ。

肉を刺す者は、筋を傷ること無かれ。

筋を刺す者は、骨を傷ること無かれ。


帝曰.余未知其所謂.願聞其解.

岐伯曰.

刺骨無傷筋者.鍼至筋而去.不及骨也.

刺筋無傷肉者.至肉而去.不及筋也.

刺肉無傷脉者.至脉而去.不及肉也.

刺脉無傷皮者.至皮而去.不及脉也.


帝曰く。余は未だ其の謂う所を知らず。願わくば其の解を聞かん。

岐伯曰く。

骨を刺して筋を傷ること無かれとは、鍼筋に至りて去れば、骨に及ばざるなり。

筋を刺して肉を傷ること無かれとは、肉に至りて去れば、筋に及ばざるなり。

肉を刺して脉を傷ること無かれとは、脉に至りて去れば、肉に及ばざるなり。

脉を刺して皮を傷ること無かれとは、皮に至りて去れば、脉に及ばざるなり。



所謂

刺皮無傷肉者.病在皮中.鍼入皮中.無傷肉也.

刺肉無傷筋者.過肉中筋也.

刺筋無傷骨者.過筋中骨也.此之謂反也.


所謂

皮を刺して肉を傷ること無かれとは、病皮中に在り、鍼皮中に入れば、肉を傷ること無きなり。

肉を刺して筋を傷ること無かれとは、肉を過れば筋に中るなり。

筋を刺して骨を傷ること無かれとは、筋を過れば骨に中るなり。此れ之を反と謂うなり。


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刺要論篇第五十.

梅雨と言えば紫陽花

 本篇は、刺鍼に際しての基本的な深度について述べられている。

 <素問・金匱真言論篇、宣明五気篇>に記されている五主(皮・肉・脉・筋・骨髄)を例に挙げて、どこを狙って針先を進めるのかを説いている。

 ちなみに、筆者は五主を目標に鍼を下すことは無い。

 それよりもむしろ、本篇を意訳したように、正邪抗争の場=病位と、生体の正気の状態と邪気の種類、その勢いを念頭にし、刺鍼後の深度は意識に無い。

 あるのは、瀉法であればいかにして邪気を捕まえるか、補法であればいかにして気を集めるか、のみである。

 だた刺鍼は、たとえ補法であっても生体を傷つけるので、「いかに浅く刺すか」「いかに数少なく刺すか」は、よくよく工夫が必要である。

 歴史的に禁鍼穴として禁忌の穴所があるが、いわゆる解剖学的な安全深度を意識しなくてもよい鍼法を目指すのが良いと筆者は考えている。

 諸氏は、如何。


原文意訳

黄帝が問うて申された。願わくば、刺法の要となることを聞きたいのであるが。

 それに対して、岐伯が申された。

 病には、浮沈。つまり正邪が争う病位がございます。従いまして刺法にも深浅がございまして、その時々において正邪の状態と病位を捉えて、浅すぎず深すぎず的確に刺すのであります。

 病位を過ぎますと、裏であります身体内部の気が傷れますし、及ばざれば身体の浅いところに鬱滞を生じますので、そこに反って邪が聚るようになります。

 病位をわきまえずに刺鍼しますと、良くしてあげようという気持ちで行ったとしても大きな害を与える大賊となってしまいます。そうなると五臓六腑の気は動じて正常に機能しなくなり、後々大病を生じてしまうのであります。

 ですから、以下のように言うのであります。

 病が毫毛・腠理に在るもの、皮膚に在るもの、肌肉に在るもの、脈に在るもの、筋に在るもの、骨に在るもの、髄に在るものがあります。

 このようでありますから、毫毛・腠理を刺す場合は皮を傷ってはなりませんし、皮を傷ってしまいますと肺の気が動じて秋に温瘧の病となり、ゾクゾクとして振るえるかのような悪寒症状が現れます。

 皮を刺す場合は、肉を傷ってはなりません。肉を傷ってしまいますと脾の気が動じ、四季の終わりの土用十二日間、合計七十二日に腹が脹満して煩悶する病が現れ、食欲もなくなります。

 肉を刺す場合は、脉を傷ってはなりません。脉を傷ってしまいますと心の気が動じ、夏になりますと心痛の病が現れます。

 脉を刺す場合は、筋を傷ってはなりません。筋を傷ってしまいますと肝の気が動じ、春になりますと熱を生じて筋がだらりと弛む病が現れます。

 筋を刺す場合は、骨を傷ってはなりません。骨を傷ってしまいますと腎のきが動じ、冬になりますと腹が脹り、腰痛がする病が現れます。

 骨を刺す場合は、髄を傷ってはなりません。髄を傷ってしまいますと次第に髄が溶け出して漏れてしまい、脛は重だるくなり、身体もまた重だるくて動けなくなる感覚が、いつまで経っても去らない病が現れます。




原文と読み下し

黄帝問曰.願聞刺要.
岐伯對曰.
病有浮沈.刺有淺深.各至其理.無過其道.
過之則内傷.不及則生外壅.壅則邪從之.
淺深不得.反爲大賊.内動五藏.後生大病.

黄帝問いて曰く。願わくば刺要を聞かん。
岐伯對して曰く。
病に浮沈有り、刺に淺深有り。各おの其の理に至りて、其の道を過ぐることなかれ。
これを過ぐれば則ち内傷り、及ばざれば則ち外に壅を生ず。壅すれば則ち邪これに從う。
淺深を得ざれば、反って大賊を爲し、内は五藏動じ、後に大病を生ず。



故曰.
病有在毫毛腠理者.
有在皮膚者.
有在肌肉者.
有在脉者.
有在筋者.
有在骨者.
有在髓者.


故に曰く。
病毫毛腠理に在る者有り。
皮膚に者在る者有り。
肌肉に者在る者有り。
脉に者在る者有り。
筋に者在る者有り。
骨に者在る者有り。
髓に者在る者有り。


是故刺毫毛腠理無傷皮.皮傷則内動肺.肺動.則秋病温瘧.泝泝然寒慄.
刺皮無傷肉.肉傷則内動脾.脾動.則七十二日四季之月.病腹脹煩.不嗜食.
刺肉無傷脉.脉傷則内動心.心動.則夏病心痛.
刺脉無傷筋.筋傷則内動肝.肝動.則春病熱而筋弛.
刺筋無傷骨.骨傷則内動腎.腎動.則冬病脹腰痛.
刺骨無傷髓.髓傷則銷鑠䯒酸.體解㑊然不去矣.


是の故に、毫毛腠理を刺すに皮を傷ることなかれ。皮傷るれば則ち内は肺を動ず。肺動ずれば則ち秋に温瘧を病み、泝泝(そそ)然として寒慄す。
皮を刺すに肉を傷ることなかれ。肉傷るれば則ち内は脾を動ず。脾動ずれば則ち七十二日四季の月、腹脹煩を病み、食を嗜なまず。
肉を刺して脉を傷ることなかれ。脉傷るれば則ち内は心動ず。心動ずれば則ち夏に心痛を病む。
脉を刺すに筋を傷ることなかれ。筋傷るれば則ち内は肝動ず。肝動ずれば則ち春に熱して筋弛むを病む。
筋を刺すに骨を傷ることなかれ。骨傷るれば則ち内は腎動ず。腎動ずれば則ち冬に脹腰痛を病む。
骨を刺すに髓を傷ることなかれ。髓傷るれば則ち銷鑠(しょうしゃく)して䯒(こう)酸し、體は解㑊(かいえき)然として去らざるなり。


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