鍼灸医学の懐

黄帝内経の意訳と解説 最後に原文と読み下しを記しています。

上古天真論(一)-天寿を全うする(5)

 どうでしょう、ここまでかなり難しく感じられるかもしれません。

 ここに書いておりますことは、鍼灸専門学校の教育課程でも扱っていないことですし、一般的な人体の認識概念とは全く異なるので、難しく感じられるのも無理はありません。

これまでに書いてきた内容を、もう一度丁寧に読み返して頂き、なんとなくイメージとして掴むことができると、日常に応用無辺に使うことが出来ます。


上古天真論2段目の続き。今回は男子の成長と老化の過程です。


 あらかじめ原文中の天癸(てんき)について少しだけ触れておきます。というのは、歴代の医家がこの解釈をめぐって様々なことを言っているからです。

 これは十干の壬癸(みずのえみずのと)で、腎の臓の陰陽を現わしており、癸(みずのと)は、腎精を現わしています。

 天癸の天が何を指しているのかによって解釈もまた様々なのですが、臨床的にはあまり意味がないように思うので、自然によってもたらされた生殖の精と解釈して問題は無いと思います。

 大切なことは、この生殖に関する天癸(てんき)は、尽きてしまうことがあるわけなのですが、自然の理にかなった養生如何によっては、長く保つことが出来るという点です。これこそが内経医学で最も大事な視点であります。

 つまり、世間で大流行のアンチエイジングについて述べている訳です。

 次いで、女性と男性を比べてみると、女性にとっては、任脈と太衝脉(衝脈)について触れられていますが、男性については触れられていない点です。


 任脈=体の前面の正中線を走る経絡。
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督脉=体の背面の正中線を走る経絡。
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衝脈=体の前後中心部を走る経絡のことで、これらの経絡は、一源三岐と称されて下腹部丹田の部位。両腎の臓の間から始まって3本に枝分かれしています。
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図参照(図解 十四経絡発揮 本間祥白著 医道の日本社)

 少々専門的になりますが、源は腰部丹田であっても、任脈のコントロール穴は手太陰肺経の列缺(れっけつ)穴。

 督脉のコントロール穴は手太陽小腸経の後溪(こうけい)穴。衝脈のコントロール穴は足の太陰脾経の公孫(こうそん)穴となっている。

要するに成長と老化と生殖の源である腎の陰陽の気の調節は、心肺の臓によって行われており、補充は脾の臓(後天の元気の源)によって行われているという関係が見えてきませんでしょうか。

人間が充実した生活を行い、老いて後も元気を保つには、心肺(精神状態)と脾の臓(消化器)を安定させ、腎の臓(生命の源)を充実させることが必須であるということです。

 アンチエイジングなどと称して、サプリメントや健康食品、様々な健康法や美容法等のように安易なものではなく、もっと基本的な人としての有り様を説いているのです。

心と身体を充実させること=捕らわれの無い伸び伸びとした心と腎の臓の充実こそが、本当のアンチエイジングだと説いているのである。


以下、意訳です。

 男子は8歳にて、女子と同じく腎気が盛んになり、歯が生え換わって髪の毛も長く伸びるようになってくる。

 二八、16歳になると腎気がいよいよ旺盛となって射精することが出来るようになり、射精したとしても腎の陽気によって食べ物を消化して腎精を補うことが出来る能力が完成する。
 従って、陰陽男女が交合して子供を創ることが出来るようになる。

 三八、24歳で陰陽が調和するので成長が止まり、筋骨は張りつめたように強くなり、歯も生え換わって髪の毛も長く伸びるようになる
 四八、32歳で筋骨は隆盛となり肌肉も充実してたくましくなり、男性として最も盛んな時期を迎える。

 五八、40歳になると腎気が衰え始め、髪の毛が落ち始めて歯も枯れたように艶が無くなってくる。

 六八、48歳では、頭顔面部の陽気が衰える次第に尽きてくるので、顔面部もやつれ、髪の毛や揉みあげの付近に白髪が混じるようになってくる。

 七八、56歳になると、血を蓄えておく肝の臓がいよいよ衰えるので、血の養うところである筋肉も動きにくくなり、自然に備わった精も少なくなってくるので、腎の臓そのものも弱って来る。そうなると体の形もいよいよ極まって衰えがはっきりとして来る。

 八八、64歳では、歯も髪も抜け落ちてしまう。

 腎の蔵というのは、身体の水を動きや変化を主っており、他の五臓六腑の精を受けて、これを蔵の中にしまい込むような働きをするのである。
 だから五臓が盛んであればこそ腎の臓も充実し、男性であれば射精ですることもできるのである。
 今五臓全てが衰えてしまうと筋骨も緩んでしまい子種も尽きてしまう。
 そうなると髪の毛は真っ白となり、体の運びも重く、真っ直ぐに歩くこともできなくなる。
 そうなれば当然子を産むこともできなくなるのである。


 続けて黄帝が申されるには、十分年老いていても子が出来ることがあるが、どのような道理によるものであるのか、と。
 
 岐伯が答えて謂うのには、一般的な人に比べて天与の腎気が大きい人がおり、それによって気血もまた十分に全身を循り、さらに腎の精気もまたこれを受けて充実することが出来ているからである。

 しかしながら、子を作ることが出来ると言っても、すべて男は八八、64歳、女七七、49歳を過ぎることは無く、生殖の精気は枯渇するものである。


 さらに黄帝が申されるには、生き方そのものが、自然の理にかなっておれば、100歳を超えても子を作ることができるのか、とお聞きになられた。


 岐伯は答えて謂った。はい、自然の理に適った者は、老いることなく身体を充実させることが出来ます。そうであるならば、肉体年齢が、もう十分に長いと言っても子を作ることは可能です、と。


原文と読み下し


丈夫八歳.腎氣實.髮長齒更.
丈夫八歳にして腎氣實し、髮長く齒更(か)わる。
二八腎氣盛.天癸至.精氣溢寫.陰陽和.故能有子.
二八は腎氣盛んにして天癸(てんき)至り、精氣溢寫(いっしゃ)して陰陽和す。故に能く子有り。
三八腎氣平均.筋骨勁強.故眞牙生而長極.
三八は腎氣平均し、筋骨勁強たり。故に眞牙生じて長(た)け極まる。
四八筋骨隆盛.肌肉滿壯.
四八は筋骨隆盛、肌肉滿壯たり。
五八腎氣衰.髮墮齒槁.
五八は腎氣衰え、髮墮ち齒槁れる。
六八陽氣衰竭於上.面焦.髮鬢頒白.
六八は陽氣上に衰え竭(つ)き、面焦げ、髮鬢(はつびん)は頒白(はんぱく)す。
七八肝氣衰.筋不能動.天癸竭.精少.腎藏衰.形體皆極.
七八は肝氣衰え、筋動ずること能わず。天癸竭(つ)き、精少く、腎藏衰え、形體(けいたい)皆極る。
八八則齒髮去.腎者主水.受五藏六府之精而藏之.故五藏盛乃能寫.
八八は則ち齒髮去る。腎なる者は水を主り、五藏六府の精を受けてこれを藏す。故に五藏盛んなれば乃ち能く寫す。
今五藏皆衰.筋骨解墮.天癸盡矣.故髮鬢白.身體重.行歩不正.而無子耳.
今五藏皆衰え、筋骨解墮し、天癸は盡(つ)きるなり。故に髮鬢(はつびん)は白く、身體は重く、行歩は正しからず。しかして子無きのみ。
 
帝曰.有其年已老而有子者.何也.
帝曰く、其の年已(すで)に老いて子有る者有るは、何なるや。
岐伯曰.此其天壽過度.氣脉常通.而腎氣有餘也.
岐伯曰く。此れ其の天壽過度にして、氣脉は常に通じ、しかして腎氣有餘すればなり。
此雖有子.男不過盡八八.女不過盡七七.而天地之精氣皆竭矣.
此れ子有りと雖ども、男は盡(ことごと)く八八を過ぎず、女は盡(ことごと)く七七を過ず。しかして天地の精氣、皆竭(つき)るなり。

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