鍼灸医学の懐

黄帝内経の意訳と解説 最後に原文と読み下しを記しています。

五藏生成論篇第十(2)




 本篇の後半は、顔に現れる色を脈状と兼ね合わせ、論じられている。

 また鍼灸医学独特の世界観に基づいた病因病理が記載されており、さらに診察に当たっては、何が大切であるかを説いてある。

 一定の理論を示しながらも、やはり治療者の感覚に訴えてきているように感じてならない。



原 文 意 訳

 各臓腑の精気を受けた經脉は、すべて目に連なります。
 すべての髄は、みな脳に連なります。
 各所の筋肉は、すべて関節に連なります。
 全身の血は、すべて心に連なります。
 全身の気は、すべて肺に連なります。
 そして手足の四肢や手足首、肘・膝関節の八谿は、経脉・髄・筋肉・気・血と共に盛衰するのであります。

 一般的には、人が活動している時に全身を巡っている血は、横になって臥した状態になりますと、肝の臓に戻って来るので安息することができます。

 目は、この血に養われてよく視ることができ、足も同様に血に養われてしっかり歩くことができ、手掌は握り、指は小さなものをつまむことができるのであります。

 寝ている時に夜具から露出した部分に風が中りますと、血は肝の臓に戻っているので肌表の血は容易に凝滞致します。

そうなりますと肌表で気血が詰まってしまい、しびれなどの感覚の異常である証を起こします。

 また、経脉に凝滞すると流れは渋り、足に凝滞すれば厥冷を起こして冷えあがるようになります。

 この三種は、血は巡ろうとするのだが、外邪が途中でその流れを阻むので凝滞し、元の場所に帰ることが出来ない状態となってしまいます。  これが証と厥証の病理であります。

 人は、大きくは十二経絡の部分に分けることができ、小さくは三百五十三の穴名と十二臓腑の背部兪穴十二穴の、合わせて三百六十五穴があります。

これらの穴は、衛気が留止して防衛するところでありますが、邪気が外から侵入するところでもあります。

したがいまして、もし外邪の侵襲を受けて病となってしまいましたら、鍼石を用いてこれらの穴から邪気を取り去るのであります。

病を治そうとして最初にすることは、五決を原則とすることであります。

さらには、そもそもこの病がどういったことから、何故生じたのかを知ろうとするならば、まずはその原因を、四季などの自然界の変化や飲食、起き伏し・精神状態などの生活全般の事柄を、過去にさかのぼってはっきりとさせることであります。

いわゆる、五決と申しますのは、五臓の脈気の盛衰のことであります。

 これらのことを踏まえて、頭痛や癲疾は、下部が虚し上部が実の状態になっているものであります。その異変は、足少陰と足太陽に在ります。甚だしい場合は、腎そのものに異変を起こします。

 目の前が朦朧としてめまいがしたり、目の前が暗くなったり耳が聞こえなくなったりするのは、下部が実し、上部が虚の状態になっているからであります。その異変は、足少陽と足厥陰に在ります。甚だしい場合は、肝そのものに異変を起こします。

 腹部がパンパンに脹り、脇から膈にかけて支(つか)えてしまうのは、下半身の気が逆流して上半身を冒すからであります。異変は、足太陰と足陽明に在ります。

 せわしく咳が出て、気が上に突き上げてくるのは、胸中の気が逆流しているからであります。異常は、手陽明と手太陰に在ります。

 胸のあたりがそわそわ・モヤモヤとして落ち着かず、頭も痛むのは、膈付近に病が在るためであります。異常は、手太陽と手少陰に在ります。

脉の大小・滑浮沈は、指先でみ分けることができます。
五臓の気の現れは、様々な現象を五行でまとめた括りでもって、察知することができます。
五臓に相応じた角・徴・宮・商・羽の五音は、こころに感じる感覚で見分けることができます。
五色の微かな状態を診るには、目をもって察します。

しかして、五臓が現す青・赤・黄・白・黒の五色と弦・鈎・緩・毛・石の五脉の色脉を総合して判断することができれば、診断・治療に際して万全であります。

顔面に赤色が現れている時の脉の至り様は、激しくやって来てしかも堅い感じがします。
このようであれば、腹中に積気があると診ることができます。この積気は、時に食によって害されて生じることがあります。これを心痺と称します。

思慮の度を過ごし、心が虚してしまい、その上さらに外疾を得てなります。つまり、虚に乗じて外邪が侵入したということであります。


同じく白色が現れている時の脉の至り様は、激しくやって来て,しかも体表のごく浅いところで拍動を捉えることができます。

上が虚し下が実し、ちょっとしたことで驚くようになるのは、胸中に気が充満しているためであります。力無く喘ぐのを、肺と称します。

身体は寒さと熱の両面あるのですが、これは酒に酔いて房事を行うことに起因しております。


青色が現れている時の脉の至り様は、長くて弓の弦が左右に振動しているかのように、弾くように緊張している感じがします。

心下に積気があり、脇が支えているようになります。これを肝と称します。

寒湿を得たことに起因しまして、腹が急に痛み出す疝気と機序は同じであります。腰が痛んだり足が冷え、頭が痛んだり致します。


黄色が現れている時の脉の至り様は、大きく拍っているようでありますが、少し力を加えて押さえると力が無いように感じられます。

腹中に積気があり、手足の気が逆流して冷えてまいります。これを厥疝と称します。男子のみならず女子にも同様に起こりうることです。

これは急激に四肢を使い、発汗して陽気が失われ、そこに風が当ったことに起因します。


黒色が現れている時の脉の至り様は、脉の表面が堅く感じて大きく拍っている感じがします。

下腹部と陰器に積気があります。これを腎と称します。

これは冷たい水で沐浴した後に、眠ってしまったことに起因します。


 一般的に五色と、まれにみる脉を総合的に見た場合、顔面が黄色であれば、目の色が青・赤・白・黒であっても、まだ死病というほどのものではありません。胃の気の現れが、黄色であるからです。

 これに反しまして、顔色が青・赤・黒色というように黄色以外の色でありますと、目の色に関係なく死病であります。つまり、胃の気が無い状態であるからであります。



原文と読み下し

諸脉者皆屬於目.
諸髓者皆屬於腦.
諸筋者皆屬於節.
諸血者皆屬於心.
諸氣者皆屬於肺.此四支八谿之朝夕也.

諸脉なる者は、皆目に屬し、
諸髓なる者は、皆腦に屬し、
諸筋なる者は、皆節に屬し、
諸血なる者は、皆心に屬し、
諸氣なる者は、皆肺に屬す。此れ四支八谿の朝夕なり。

故人臥.血歸於肝.目(肝)受血而能視.足受血而能歩.掌受血而能握.指受血而能攝.
臥出而風吹之.血凝於膚者爲痺.凝於脉者爲泣.凝於足者爲厥.此三者.血行而不得反其空.故爲痺厥也.
人有大谷十二分.小谿三百五十三(四)名.少十二兪.此皆衞氣之所留止.邪氣之所客也.鍼石縁而去之.

故に、人臥(ふ)せば血は肝に歸す。目(肝)は血を受けて能く視、足は血を受けて能く歩む。掌は血を受けて能く握り、指は血を受けて能く攝(と)る。
臥して出でて風これ吹けば、血、膚に凝(ぎょう)する者は痺を爲し、脉い凝する者泣を爲し、足に凝する者は厥を為す。此の三者、血行りて其の空に反(かえ)るを得ず。故に痺厥を為すなり。
人に大谷十二分.小谿三百五十四名有り。十二兪少なし。此れ皆衞氣の留止する所、邪氣の客する所なり。鍼石に縁(より)てこれを去る。

診病之始.五決爲紀.欲知其始.先建其母.
所謂五決者.五脉也.

病を診するの始めは、五決を紀と為す。其の始めを知らんと欲すれば、先ず其の母を建つ。
いわゆる五決なる者は、五脉なり。

是以頭痛巓疾.下虚上實.過在足少陰巨陽.甚則入腎.
徇蒙招尤.目冥耳聾.下實上虚.過在足少陽厥陰.甚則入肝.
腹滿脹.支鬲脇.下厥上冒.過在足太陰陽明.
咳嗽上氣.厥在胸中.過在手陽明太陰.
心煩頭痛.病在鬲中.過在手巨陽少陰.

是を以て頭痛巓疾は、下虚上實し、過は足少陰巨陽に在り。甚だしければ則ち腎に入る。
徇蒙招尤(じゅんもうしょうゆう)し、目冥し耳聾するは、下實上虚し、過は足少陽厥陰に在り。甚だしければ則ち肝に入る。
腹滿 脹(ふくまんしんちょう)し、支鬲脇(しかくきょうきょう)、下厥し上冒(ぼう)するは、過は足太陰、陽明に在り。
咳嗽し上氣するは、厥胸中に在り。過は手陽明と太陰に在り。心煩し頭痛するは、病鬲中に在り。過は手巨陽と少陰に在り。

夫脉之小大滑浮沈.可以指別.
五藏之象.可以類推.
五藏相音.可以意識.
五色微診.可以目察.

夫れ脉の小大・滑浮沈は、指を以て別つべし。
五藏の象、類を以て推すべし。
五藏の相音、意を以て識るべし。
五色の微診.目を以て察すべし。

能合脉色.可以萬全.
赤脉之至也.喘而堅.診曰.有積氣在中.時害於食.名曰心痺.得之外疾思慮而心虚.故邪從之.
白脉之至也.喘而浮.上虚下實.驚有積氣在胸中.喘而虚.名曰肺痺.寒熱.得之醉而使内也.
青脉之至也.長而左右彈.有積氣在心下支.名曰肝痺.得之寒濕.與疝同法.腰痛足清頭痛.
黄脉之至也.大而虚.有積氣在腹中.有厥氣.名曰厥疝.女子同法.得之疾使四支.汗出當風.
黒脉之至也.上堅而大.有積氣在小腹與陰.名曰腎痺.得之沐浴清水而臥.

能く脉色を合すれば、以て萬全たるべし。
赤脉の至るや、喘して堅し。診して曰く。積氣中に在りて有り。時に食に害さる。名づけて心痺と曰く。思慮して心虚し、これを外疾に得る。故に邪これに從う。
白脉るや、喘して浮なり。上虚下實し、驚きて積氣胸中に在りて有り。喘して虚。名づけて肺痺、寒熱と曰く。これを醉いて内を使うに得るなり。
青脉の至るや、長にして左右に彈ず。積氣の心下支在りて有り。名づけて肝痺と曰く。これを寒濕に得て、疝と法を同じくす。腰痛み、足清(つめた)く頭痛す。
黄脉の至るや、大にして虚。積氣の腹中に在りて有りて厥氣有り。名づけて厥疝と曰く。女子も法を同じくす。これ疾(と)く四支を使い、汗出でて風に當りて得る。
黒脉の至るや、上堅くして大。積氣の小腹と陰に在りて有り。名づけて腎痺と曰く。これ清水に沐浴して臥するに得る。

凡相五色之奇脉.
面黄目青.面黄目赤.面黄目白.面黄目黒者.皆不死也.
面青目赤.面赤目白.面青目黒.面黒目白.面赤目青.皆死也.

凡そ五色の奇脉を相(み)るに、
面黄にして目青く、面黄にして目赤く、面黄にして目白く、面黄にして目黒き者は、皆死せざるなり。
面青にして目赤く、面赤にして目白く、面青にして目黒く、面黒にして目白く、面赤にして目青きは、皆死するなり。


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