読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

鍼灸医学の懐

黄帝内経の意訳と解説 最後に原文と読み下しを記しています。

刺腰痛篇第四十一.

金剛山系から秋空に臨んで
 
 
 
 本篇では、古来から現代にいたるまで、人を苦しめてきた腰痛に焦点を当て、その治療法が記されている。
 
 我々がすでに知っている十二経絡と奇経以外の脉証も記されており、それらが現代のどの経絡を指しているのか、さらにまた治療穴の特定を歴代の医家が解説しているが、筆者は敢てそれを取らなかった。
 
 内経の時代の人の労働形態、住居や飲食、心の状態は、現代人とは大きくかけ離れている上に、腰痛という症状に対して、病変経絡を特定して臨床に用いるには、かなりの不足を感じるからである。
 
 記述されている内容からは、治療点の多くは下肢であり、しかも多く瀉血を行っている。
 
 このことから、当時の腰痛の多くは実証であり、病変部位である腰部には、陰邪と熱邪が結んで停滞して痛みを起こしていたと推測される。
 
 現代人は、正気の虚の上に、精神的鬱滞と実邪が存在し、非常に複雑な様相を呈している。
 
 ことは、単純に腰痛だけで納まらない場合がほとんどである。
 
 腰痛に限らず現代人の病は、絡んだ糸球を紐解くように、病因病理と発症に至るまでの病理変化を捉える必要がある。
 
 
 
原 文 意 訳
 
 足太陽病変の腰痛は、項背から臀部にかけて引きつれ、まるで重いものを持っているかのようである。足太陽正経の中(委中穴)を刺して血を出す。春であれば、出血させてはならない。
 
 足少陽病変の腰痛は、鍼で皮中を刺すような鋭い痛みで、次第に痛みが伝わり、うつむいたり仰いだりすることができず、ふり返ることもできない。足少陽の陽陵泉穴を刺し、血を出す。夏であれば、出血させてはならない。
 
 足陽明病変の腰痛は、ふり返ることができず、ふり返れば幻でも見るかのようであり、よく悲しむ。足陽明の三里穴を三度刺し、上下の気を和してその血を出す。秋に出血させてはならない。
 
 足少陰病変の腰痛は、背骨の内側にまで引きつれて痛む。足少陰の内踝の上の復溜穴を二度刺す。春であれば、出血させてはならない。大量に出血させると、腰痛は回復しない。
 
 足厥陰病変の腰痛は、腰の中が弓やクロスボウの弦を張ったかのように堅く緊張する。足厥陰の脉の踵の上、ふくらはぎの側面にある蠡溝穴付近を撫で、珠を連ねたかのような血絡を刺す。この病人は、よくしゃべったり、あるいは黙々としてしゃべらず、ぼんやりとしているようであれば、三度刺す。
 
 
 解脉である足太陽の分枝脉病変の腰痛は、肩に引いて痛み、目はぼんやりとしてはっきりと見えなくなり、時に小便を漏らすことがある。解脉を刺すには、膝の筋肉の分かれ目、委中穴の横の穴から出血させる。血の色が黒から赤になると止める。
 
 もうひとつの解脉病変の腰痛は、帯をきつく締めたかのようで、常に腰が折れるかのようであり、よく恐れる。解脉を刺すには、委中穴付近に黍(きび)粒くらいの血絡を探してこれを刺す。黒色の血が、噴き出すように出るが、赤色になれば止める。
 
 同陰脉病変の腰痛は、小さな錘(おもり)が腰の中にあるように重く痛み、突然腰が腫れてくる。足少陽別絡を刺すには、外踝の上の絶骨端を三度刺す。
 
 
陽維脉病変の腰痛は、痛むところが突然腫れる。陽維脈を刺すには、脉と太陽が合流しているふくらはぎのところで、地面から一尺ばかりのところを刺す。
 
 衡絡脉病変の腰痛は、うつ伏せにも仰向けにもなることができず、仰向けになろうとすると痛みのために倒れそうになる。これは重いものを持ち上げて腰を傷ったことに起因し、衡絡が不通となり血が停滞しているためである。これを刺すには、である委中穴と陽である委陽穴の両筋の間と、委中穴の上方数寸付近のうっ血部位を探し、二度刺して血を出す。
 
 会陰脉病変の腰痛は、川の水が流れるように発汗し、発汗が止まって乾くと口が渇いて水を飲みたがり、水を飲むと走り出そうとする。直陽の脉を三度刺す。その部位は、陽脉の上のの下方五寸付近を視て、血絡が盛り上がっているところをから血を出す。
 
 飛陽脉病変の腰痛は、痛む部位が降って沸いたかのように突然で、甚だしいと悲しんだり恐れたりと情緒が不安定となる。飛陽の脉を刺すのには、内踝の上五寸で少陰の前と陰維脉との交会するところを取る。
 
 昌陽の脉病変の腰痛は、痛みが胸にまで引き、目がぼんやりとしてはっきりと見えず、甚だしければ背骨が反り返り、舌も巻き上がってものが言えなくなる。内筋を二度刺す。その部位は、内踝の上のふくらはぎの前、太陰の後ろで内踝の上二寸に取る。
 
 散脉病変の腰痛は、発熱し、熱が甚だしければ心中がモヤモヤとして落ち着かない煩を生じる。腰の下付近の中に、木が横たわっているかのように痛む。甚だしいと小便が洩れてしまう。散脉を刺すには、膝の前の骨肉の間、その外側の絡の集まっているところを三度刺す。
 
 肉里脉病変の腰痛は、痛みのために咳もできない。咳をすると筋が縮んで引きつれる。肉里の脉は、二度刺す。その部位は、太陽の外側、少陽の絶骨の後ろである。
 
 腰痛で背骨を挟んで痛み、その痛みが頭にまで及んで首が強ばって引きつり、目がボーっとしてはっきりと見えず、ふらふらとして倒れそうになる。この場合は、足太陽の中を刺して血を出す。
 腰痛し、上部が寒するのは、足太陽と陽明を刺す。上半身が熱する場合は、足厥陰を刺し、仰向けになればければ足少陽を刺す。腹部に熱があり喘ぐものは、足少陰を刺し、から出血させる。
 
 腰痛し、上部が寒し振り向くことができなければ足陽明を刺し、上部が熱している場合は、足太陰を刺し、腹部に熱があり喘ぐものは、足少陰を刺す。
 
 大便が出難い場合は、足少陰を刺し、少腹が膨満する場合は、足厥陰を刺す。
 
腰が折れるように痛み、仰向けにもなれず、腰を挙げることもできない場合は、足太陽を刺し、背骨の内側に引いて痛む場合は、足少陰を刺す。
 
 腰痛が少腹と脇の下から引きつり痛み、仰向けになることもできない場合は、腰と尻の交わるところ、両側の骨と髀骨(大腿骨)の交わる上を刺す。
 
 月の満ち欠けを考慮して、刺数を決める。このようにして鍼をすれば、たちどころに治るものである。
 
 痛む部位が左であれば右を取り、右であれば左を取る。
 
 
原文と読み下し
 
 
足太陽脉.令人腰痛.引項脊尻背.如重状.刺其.太陽正經出血.春無見血.
少陽.令人腰痛.如以鍼刺其皮中.循循然不可以俛仰.不可以顧.刺少陽成骨之端出血.成骨.在膝外廉之骨獨起者.夏無見血.
陽明.令人腰痛.不可以顧.顧如有見者.善悲.刺陽明於前三.上下和之出血.秋無見血.
足少陰.令人腰痛.痛引脊内廉.刺少陰於内踝上二.春無見血.出血太多.不可復也.
厥陰之脉.令人腰痛.腰中如張弓弩弦.刺厥陰之脉.在踵魚腹之外.循之累累然.乃刺之.其病令人善言.黙黙然不慧.刺之三
足太陽の脉、人をして腰痛せしむ。項脊尻背(こうせきこうはい)に引くこと、重状の如し。其の中、太陽正經を刺し血を出だす。春に血を見(あら)わすことなかれ。
少陽、人をして腰痛せしむ。鍼を以て其の皮中を刺すが如し。循循然として以て俛仰(ふぎょう)すべからず。以て顧(かえりみ)るべからず。足少陽の成骨の端を刺し血を出だす。成骨は、膝外廉の骨、獨(ひと)り起こる者に在り。夏に血を見わすこと無し。
陽明.人をして腰痛せしむ。以て顧(けいるみ)るべからず。顧れば見る者有るが如し。善く悲しむ。陽明の前を刺すこと三(い)。上下これに和して血を出だす。秋に血を見わすこと無し。
足少陰、人をして腰痛せしむ。痛み脊の内廉に引く。少陰の内踝上を刺すこと二(ゆう)春に血を見わすこと無し。血を出すこと太(はなは)だ多ければ、復すべからざるなり。
厥陰の脉、人をして腰痛せしむ。腰中弓弩の弦を張るが如し。厥陰の脉を刺す。踵(ぜんしょう)魚腹の外に在り。これを循(なず)るに累累然たるに、乃ちこれを刺す。其の病人をして善く言わしめ、黙黙然として慧(けい)ならざしむる。これを刺すこと三(ゆう)
 
 
解脉.令人腰痛.痛引肩.目然.時遺溲.刺解脉.在膝筋肉分間.外廉之横脉.出血.血變而止.
解脉.令人腰痛.如引帶.常如折腰状.善恐.刺解脉.在中.結絡如黍米.刺之.血射以黒.見赤血而已.
同陰之脉.令人腰痛.痛如小錘居其中.怫然腫.刺同陰之脉.在外踝上絶骨之端.爲三
解脉、人をして腰痛せしむ。痛み肩に引き、目(こうこう)然として、時に遺溲す。解脉の刺は、膝の筋肉の分間、の外廉の横脉に在り。血出だし、血變じて止む。
解脉.人をして腰痛せしむ。帶を引くが如く、常に腰折れるが状の如し。善く恐す。解脉の刺は、在中、結絡の黍米(しょまい)如きに在り。これを刺すに、血射するに黒を以てす。赤を見れば已む。
同陰の脉、人をして腰痛せしむ。痛むこと小錘その中に居くが如し。怫然として腫す。同陰の脉刺は外踝の上、絶骨の端に在り。三(ゆう)をす。
 
※□は上の文字
 
 
 
 
 
 
陽維之脉.令人腰痛.痛上怫然腫.刺陽維之脉.脉與太陽合下間.去地一尺所.
衡絡之脉.令人腰痛.不可以俛仰.仰則恐仆.得之擧重傷腰.衡絡絶.惡血歸之.刺之在陽.筋乗間.上數寸.衡居.爲二.出血.
會陰之脉.令人腰痛.痛上漯漯然汗出.汗乾令人欲飮.飮已欲走.刺直陽之脉上三.在下五寸横居.視其盛者出血. 
陽維の脉、人をして腰痛せしむ。痛みの上怫然として腫す。陽維の脉を刺し、脉と太陽合下間に合し、地を去ること一尺の所なり。
衡絡の脉、人をして腰痛せしむ。以て俛仰すげからず。仰げば則ち恐仆す。これ重きを擧げ腰傷りてこれを得る。衡絡絶し、惡血これに歸之す。これを刺すに陽、筋の間、を上ること數寸、衡居するに在り。二爲し、血出だす。
會陰の脉、人をして腰痛せしむ。痛みの上漯漯然として汗出ず。汗乾けば人をして飮を欲せしむ。飮已りて走らんと欲す。直陽の脉上を刺すこと三下五寸に在りて横居す。その盛んなる者を視て血を出だす。
 
飛陽之脉.令人腰痛.痛上拂拂然.甚則悲以恐.刺飛陽之脉.在内踝上五寸.少陰之前.與陰維之會.
昌陽之脉.令人腰痛.痛引膺.目然.甚則反折.舌卷不能言.刺内筋.爲二.在内踝上.大筋前.太陰後.上踝二寸所.
散脉.令人腰痛而熱.熱甚生煩.腰下如有横木居其中.甚則遺溲.刺散脉.在膝前.骨肉分間.絡外廉.束脉.爲三
肉里之脉.令人腰痛.不可以則筋縮急.刺肉里之脉.爲二.在太陽之外.少陽絶骨之後.
飛陽の脉、人をして腰痛せしむ。痛の上拂拂然たり。甚しければ則ち悲し以て恐す。飛陽の脉を刺すは、内踝の上五寸、少陰の前、と陰維の會に在り。
昌陽の脉、人をして腰痛せしむ。痛に膺に引き、目(こうこう)然たり。甚だしければ則ち反折し、舌を卷きて言うこと能わず。内筋を刺すこと、二爲す。内踝の上、大筋の前、太陰の後、踝を上ること二寸の所に在り。
散脉、人をして腰痛みて熱せしむ。熱甚だしければ煩を生じ、腰の下に横木有りてその中に居するが如し。甚だしければ則ち遺溲す。散脉を刺すは、膝の前、骨肉の分間、外廉を絡する束脉に在り。三爲す。
肉里の脉、人をして腰痛せしむ。.以てすべからず。すれば則ち筋縮急す。肉里の脉を刺す。二爲す。太陽の外、少陽絶骨の後に在り。
 
腰痛侠脊而痛.至頭几几然.目欲僵仆.刺足太陽中出血.
腰痛上寒.刺足太陽陽明.上熱.刺足厥陰.不可以俛仰.刺足少陽.中熱而喘.刺足少陰.刺中出血.
腰痛脊を侠みて痛み、頭に至りて几几(しゅしゅ)然たり。目として僵仆(きょうぼく)せんと欲す。足太陽の中を刺し、血を出だす。
腰痛上寒するは、足太陽陽明を刺す。
上熱するは、足厥陰を刺す。
以て俛仰すべからざるは、足少陽を刺す。
中熱して喘ぐは、足少陰を刺す。中を刺し血を出だす。
 
腰痛上寒不可顧.刺足陽明.上熱.刺足太陰.中熱而喘.刺足少陰.
大便難.刺足少陰.
少腹滿.刺足厥陰.
如折.不可以俛仰.不可擧.刺足太陽.引脊内廉.刺足少陰.
腰痛上寒して顧(かえり)みるべからざるは、足陽明を刺す。
上熱するは、足太陰を刺す。
中熱して喘ぐは、足少陰を刺す。
大便難きは、足少陰を刺す。
少腹滿は、足厥陰を刺す。
折れるが如く、以て俛仰すべからず、擧ぐるべからざるは、足太陽を刺し、脊の内廉に引くは、足少陰を刺す。
 
腰痛引少腹控.不可以仰.
刺腰尻交者.兩上.以月生死爲數.發鍼立已.
左取右.右取左.
腰痛少腹に引き、控(こうびょう)し、以て仰ぐべからざるは、
腰尻の交わる者、兩上を刺す。月の生死を以て數と爲す。鍼を發すれば立ちどころに已む。
左は右を取り、右は左を取る。
 
 鍼専門 いおり鍼灸院