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鍼灸医学の懐

黄帝内経の意訳と解説 最後に原文と読み下しを記しています。

厥論篇第四十五.

可憐です。11月といえども、まだ草花を楽しめます。


 本編で述べられている厥(けつ)の病理は、陰陽の偏盛・偏衰により、気が本来の流れから逸脱して逆流する様を指している。

 厥逆は、その逆流の激しいもので、現代ではさしずめ、単に冷えのぼせといったものから、脳血管障害、癲癎発作、躁病、統合失調、バセドウ氏病、心臓病などを彷彿とさせる。

 本篇を意訳するにあたっては、用いられている陰陽表現が、何を指しているのかが少々難解であった。

 さらに歴代の医家は、経絡流注を用いて詳細に解説しているが、筆者はそれを取らなかった。

 その理由として、細い管から大きな世界を覗き見るような感がし、全身気血のダイナミックな動向性と全体性が失われと考えたからである。

 また些細なことと感じられるかもしれないが、<治主病者>「病を主る者を治す」の部分の意訳は、あらかじめ病理が述べられていることに鑑み、これも病んでいる経絡を取るとの諸家の説を取らず、「現われている症状に囚われず、病の原因となっているところを治す」とした。

 同様に、盛則寫之.虚則補之.不盛不虚.以經取之.>「盛んなれば則ちこれを寫し、虚すれば則ちこれを補す。盛んならず虚ならざれば、經を以てこれを取る」

 この下りも、諸家の説を取らなかった。

 筆者は、鍼術には、補瀉以外の術は無いと考えているからである。

 邪気が盛んでもなく、正気の虚でもない状態で、しかも気の流れが阻まれて病は現に存在しているのである。

 正気の虚が無く、邪気が無いのであれば病は生じない。ここでは、邪気が盛んでないとは言っているが、無いとは言っていないと筆者は考えた。

 しかしながら盛んならず、虚ならざる場合とは、いったいどのようなことが想定できるのか。

 正気を補えば、小邪は自然と退く。小邪といえども駆邪を行えば、正気は伸びやかに流れる。どちらを取るのか。

 想像することが、生きた現場の臨床に繋がると筆者は考えている。


  読者諸氏のご意見を、賜りたい。


 



原 文 意 訳


  黄帝が問うて申された。
 厥には、寒と熱があるが、どういうことであろうか。

 岐伯が申された。
 陽気が下で衰えますと、寒厥となり、陰気が下で衰えますと熱厥となります。

 帝が申された。
 熱厥の熱が、必ず足下で起こるのは、どういうことか。

 岐伯が申された。
 陽気は五指の表、足の甲から起こります。陰脉は足下に集まり、足心に結集いたします。
 従いまして、陽気が勝ちますと足下に逆流しますので足下が熱するようになるのであります。


 帝が申された。
 寒厥の寒が、必ず足の五指から膝に上るのは、どういうことか。

 岐伯が申された。
 陰気は五指の下裏に起こり、膝下に集まり、膝の上に結集いたします。
 従いまして、陰気が勝ちますと、足の五指から膝上に至るまで寒が上るのであります。
 この寒は、外因によるものでなく、内因によるものであります。

 帝が申された。
 寒厥は、何が失調してそのようになるのか。

 岐伯が申された。
 前陰つまり下腹部から陰器にかけてのところは、宗筋の結集するところでありまして、太陰と陽明が合する所でもあります。

 春夏と申しますは、陽気が多く陰気は少なく、反対に秋冬は陰気が多く陽気は少ないものであります。

 ところが体質的に壮健な者が、それに任せて秋冬に過度に房事などを行いますと、下部の陰気が損なわれます。

 すると相対的に陽気過剰となって上部に上り、下ることが出来ませんので上部の胸陽と相争い、元に戻ることができなくなってしまいます。

 すると僅かとなった下部の精気は陽気の温煦と固摂を受けられず、さらに下ってしまします。

 そうなりますと陰邪は虚に乗じて下から侵入し、次第に上に昇って行くことになるのであります。

 ことは、それだけではすみません。

 下部の陽気が損なわれますと、中焦は鍋の火を失ったかのように水穀を腐熟し気血を生じることが出来ません。

 そうなれば経絡を栄気で満たすことができなくなり、陽気は日を追うごとに衰え、陰気は動くことができないので孤立いたします。

 その結果、手足は寒え上がる、いわゆる虚寒となるのであります。

 帝が申された。
 では、熱厥はどのようであるのか。

 岐伯が申された。
 辛熱・散の気である酒が胃に入りますと、辛熱・散の気を受け気血は酒熱と共に、経脉から絡脉に向かいますので、経脉虚、絡脉実となります。

 また、脾と申しますは、胃のために津液を行らす働きをいたします。

 そして深酒をいたしますと、気血は絡脉に満ちますので、陰気である脾気は相対的に虚となります。

 その脾に絡脉に満ちた酒熱が流れ込むと、津液を胃に送ることができなくなり、胃気が和さないので飲食を摂ることも出来ず、たとえ食したとしても化すことができなくなります。

 そうなりますと精気は尽きてまいりますので、手足は養われないので衰えてまいります。

このような人は、しばしば深酒をしたか飽食した上に、房に入り性関係を設けて下焦を弱らせますので、中焦で酒気と穀気が迫り合って相和せず、激しい熱を生じさせるのであります。

そうなりますと熱が全身に蔓延し、内熱が盛んとなりますので、小便の色が火の色、熱の極みである赤を呈するようになるのであります。

そもそも辛熱・散である酒気は、何もしなくとも全身の気を盛んにし、しかも猛々しく動き回るものであります。

ですので過ごすことが度々でありますと、熱は腎精を燃やすかのようにして腎を衰えさせ、陽気はひとり盛んとなりますので、手足が熱したり火照る、いわゆる陰虚陽盛となるのであります。


 帝が申された。
 厥が原因で、腹がいっぱいに膨らむ者、突然人事不詳になる者、人事不詳となって半日から遅い者では一日経てようやく意識がもどる者など、様々あるがそれはどういうことなのか。

 岐伯が申された。
 脾気であります陰気が上で盛んとなりますと、下は相対的に虚すものであります。ですから下部の腹は脾気不足のために脹満するのであります。

 反対に、熱であります陽気が上で盛んとなりますと、下部の気は邪気と共に昇ってまいります。

 その勢いに乗じて盛んである邪気が熱と共に上昇しますと、神明を乱し、その程度が激しいと神明を塞いでしまい、人事不詳となるのであります。


 帝が申された。
 おお、そうであったか。では、願わくばさらに三陰三陽の六経の厥状である病態を聞かせてもらいたいのであるが。

 岐伯が申された。
 太陽の厥状は、首が腫れ頭は重く、足を運ぶこともできず、めまいを起こして発作的に倒れます。

 陽明の厥状は、癲発作を起こすような病となり、叫びながら走ったり、腹が膨満して寝ることもできず、顔は赤くて熱く、幻覚を生じて訳のわからないことを口走ったりいたします。

 少陽の厥状は、突然耳が聞こえなくなり、頬が腫れて熱を持ち、脇が痛み、脛を動かすことができなくなります。

 太陰の厥状は、腹がパンパンに膨満して便が出ず、食欲も無くなるが強いて食べると吐き、横になって寝ることができなくなります。

 少陰の厥状は、口にツバキが出なくなって乾き、小便は赤くなり、腹が張って心痛いたします。

 厥陰の厥状は、少腹が腫れ痛みて腹は膨満し、大小便は出ずに好んで膝を屈し、横になりたがります。陰嚢は縮み上がって腫れ、みこうずねの内側が熱します。

 邪が盛んであるものは、これを瀉し、正気が虚していればこれを補います。

 正邪の盛衰の差があまりない者に対しては、はっきりと病んでいる経に邪気が存在していることに目を付け、補瀉のどちらを前後するのかを考慮して治療いたします。


 太陰の厥逆は、みこうずねが引きつれて痙攣し、腹にまで引くように心痛いたします。心痛症状に囚われず、病の原因となる所を治すのであります。

 少陰の厥逆は、腹が膨満して張りが無く、膨満が治まってくると嘔吐するようになり、未消化物の下痢をいたします。嘔吐下痢など、脾胃の症状に囚われず、病の原因となる所を治すのであります。

厥陰の厥逆は、腰が引きつれ痛み、腹は膨満して張りが無く、小便が出なくなってうわごとを言うようになります。腰痛や小便が出ないなどの症状に囚われず、病の原因となる所を治すのであります

三陰がすべて厥逆し、大小便が出なくなり、手足が冷え上がってくるものは、陰陽が相交わらない陰陽離決となっておりますので、おおよそ三日で陽気が尽きて死するものであります。
 
 太陽の厥逆は、全身が硬直して倒れ吐血し、場合によっては鼻血が見られることもあります。これもまた、症状に囚われず、病の原因となる所を治すのであります。

 少陽の厥逆は、関節が不自由となりますので、腰もまた動かせず、首もまた回らまくなります。その上さらに、膿癰ができますと、治す術がございません。その上、ちょっとしたことでハッとして驚くようなものは、間もなく死します。

 陽明の厥逆は、あえぐように咳をし、身体が発熱し、ちょっとしたことにもびっくりするかのように驚きやすく、鼻血や吐血をいたします。

 手太陰の厥逆は、虚満の腹となり咳をし、咳と共に泡沫を吐きます。症状に囚われず、病の原因となる所を治します。

 手心主の厥逆は、喉に引くように心痛し、身体が発熱するものは、治す術がありませんので死します。

 手太陽の厥逆は、耳が聞こえなくなり勝手に涙がこぼれ、項はこわばって振り返ることができず、腰もまた痛んで仰向けに寝ることができないものであります。症状に囚われず、病の原因となる所を治します。

 手陽明と手少陽の厥逆は、咽喉が腫れる口を発症し、咽喉が塞がる【至】(じ)を発病します。症状に囚われず、病の原因となる所を治します。


原文と読み下し

黄帝問曰.厥之寒熱者.何也.
岐伯對曰.陽氣衰於下.則爲寒厥.陰氣衰於下.則爲熱厥.
黄帝問うて曰く。厥の寒熱なる者は、何なるや。
岐伯對して曰く。陽氣下に衰えれば、則ち寒厥と爲し、陰氣下に衰えれば、則ち熱厥と爲す。

帝曰.熱厥之爲熱也.必起於足下者.何也.
岐伯曰.陽氣起於足五指之表.陰脉者.集於足下.而聚於足心.故陽氣勝.則足下熱也.
帝曰く、熱厥の熱たるや、必ず足下に起こる者は、何なるや。
岐伯曰く.陽氣足五指の表に起こり、陰脉なる者は、足下に集まりて足心に聚まる。故に陽氣勝てば、則ち足下熱するなり。

帝曰.寒厥之爲寒也.必從五指而上於膝者.何也.
岐伯曰.陰氣起於五指之裏.集於膝下.而聚於膝上.故陰氣勝.則從五指至膝上寒.其寒也不從外.皆從内也.
帝曰く、寒厥の寒たるや、必ず五指從りして、膝に上る者は、何なるや。
岐伯曰く.陰氣五指の裏に起こり、膝下に集まりて、膝上に聚る。故に陰氣勝てば、則ち五指より膝上に至りて寒す。其の寒するや、外從りならず、皆内從りなり。

帝曰.寒厥何失而然也.
岐伯曰.
前陰者.宗筋之所聚.太陰陽明之所合也.
春夏則陽氣多而陰氣少.
秋冬則陰氣盛而陽氣衰.
此人者質壯.以秋冬奪於所用.下氣上爭.不能復.精氣溢下.邪氣因從之而上也.
氣因於中.陽氣衰.不能滲營其經絡.陽氣日損.陰氣獨在.故手足爲之寒也.
帝曰く、寒厥は何を失して然りや。
岐伯曰く。
前陰なる者は、宗筋の聚る所、太陰陽明の合する所なり。
春夏は則ち陽氣多くして陰氣少なし。
秋冬は則ち陰氣盛んにして陽氣衰う。
此の人なる者は質壯なり。秋冬を以て用うる所を奪す。下氣上り爭い、復すること能わず。精氣溢下し、邪氣因りてこれに從いて上るなり。
氣中に因りて、陽氣衰え、其の經絡を滲營すること能わず。陽氣日に損じ、陰氣獨り在り。故に手足これが爲に寒するなり。

帝曰.熱厥何如而然也.
岐伯曰.
酒入於胃.則絡脉滿而經脉虚.
脾主爲胃行其津液者也.陰氣虚則陽氣入陽氣入則胃不和.胃不和則精氣竭.精氣竭則不營其四支也.
此人必數醉若飽.以入房.氣聚於脾中.不得散.酒氣與穀氣相薄.熱盛於中.故熱於身.内熱而溺赤也.
夫酒氣盛而慓悍.腎氣有衰.陽氣獨勝.故手足爲之熱也.
帝曰く、熱厥は何如にして然るや。
岐伯曰く。
酒胃に入れば、則ち絡脉滿ちて經脉虚す。
脾は胃の爲に其の津液を行らすを主る者なり。陰氣虚すれば則ち陽氣入る。陽氣入れば則ち胃和せず。胃和せざれば則ち精氣竭(つ)く。精氣竭きれば則ち其の四支を營まざるなり。
此の人必ず數しば醉いて若しくは飽し、以て房に入る。氣脾中に聚りて、散ずるを得ず。酒氣と穀氣相薄(せま)り、熱中に盛ん。故に熱身にし、内熱して溺赤きなり。
夫れ酒氣は盛んにして慓悍なり。腎氣衰え有り、陽氣獨り勝つ。故に手足これが為に熱するなり。

帝曰.厥或令人腹滿.或令人暴不知人.或至半日.遠至一日.乃知人者.何也.
岐伯曰.
陰氣盛於上.則下虚.下虚則腹脹滿.
陽氣盛於上.則下氣重上.而邪氣逆.逆則陽氣亂.陽氣亂則不知人也.
帝曰く、厥、或いは人をして腹滿せしめ、或いは人をして暴(にわか)に人を知らず。或いは半日に至り、遠きは一日に至りて、乃ち人を知る者は、何なるや。
岐伯曰く。
陰氣上に盛んなれば、則ち下虚す。下虚せば則ち腹脹滿す。
陽氣上に盛んなれば、則ち下氣重ねて上り、しかして邪氣逆す。逆すれば則ち陽氣亂れ、陽氣亂れれば則ち人を知らざるなり。

帝曰善.願聞六經脉之厥状病能也.
岐伯曰.
巨陽之厥.則腫首頭重.足不能行.發爲仆.
陽明之厥.則癲疾欲走呼.腹滿不得臥.面赤而熱.妄見而妄言.
少陽之厥.則暴聾頬腫而熱.脇痛.【月行】不可以運.
太陰之厥.則腹滿脹.後不利.不欲食.食則嘔.不得臥.
少陰之厥.則口乾溺赤.腹滿心痛.
厥陰之厥.則少腹腫痛.腹脹.涇溲不利.好臥屈膝.陰縮腫.【月行】内熱.
盛則寫之.虚則補之.不盛不虚.以經取之.
帝曰く、善し。願わくば六經脉の厥状と病能を聞かん。
岐伯曰く。
巨陽の厥は、則ち首腫れ頭重く、足行くこと能わず。發して仆(くぼく)を爲す。
陽明の厥は、則ち癲疾し、走りて呼ばんと欲っし、腹滿して臥するを得ず。面赤くして熱し、妄見して妄言す。
少陽の厥は、則ち暴かに聾し頬腫れて熱し、脇痛み、【月行】以て運ぶべからず。
太陰の厥は、則ち腹滿して脹(しちょう)し、後利せず、食を欲せず。食すれば則ち嘔し、臥するを得ず。
少陰の厥は、則ち口乾き溺(じゃく)赤く、腹滿して心痛す。
厥陰の厥は、則ち少腹腫痛し、腹脹し、涇溲(けいしゅう)利せず、臥するを好み膝を屈し、陰縮み腫れ、【月行】内熱す。
盛んなれば則ちこれを寫し、虚すれば則ちこれを補す。盛んならず虚ならざれば、經を以てこれを取る。

太陰厥逆.【月行】急攣.心痛引腹.治主病者.
少陰厥逆.虚滿嘔變.下泄清.治主病者.
厥陰厥逆.攣腰痛虚滿.前閉譫言.治主病者.
三陰倶逆.不得前後.使人手足寒.三日死.
太陰の厥逆は、【月行】急攣し、心痛みて腹に引く。病を主る者を治す。
少陰の厥逆は、虚滿して嘔變し、下泄して清す。病を主る者を治す。
厥陰の厥逆は、攣し腰痛して虚滿す。前閉し譫言す。病を主る者を治す。
三陰倶に逆するは、前後を得ず、人をして手足寒ならしむる。三日にして死す。

太陽厥逆.僵仆嘔血善衄.治主病者.
少陽厥逆.機關不利.機關不利者.腰不可以行.項不可以顧.發腸癰.不可治.驚者死.
陽明厥逆.喘身熱.善驚.衄嘔血.
太陽の厥逆は、僵仆(きょうぼく)し血を嘔して善く衄す。病を主る者を治す。
少陽の厥逆は、機關利せず、機關利せざる者は、腰以て行くべからず。項以て顧(かえり)みるべからず。腸癰を發すれば、治すべからず。驚する者は死す。
陽明の厥逆は.喘身熱す。善く驚し、衄し血を嘔す。

手太陰厥逆.虚滿而.善嘔沫.治主病者.
手心主少陰厥逆.心痛引喉.身熱.死不可治.
手太陽厥逆.耳聾泣出.項不可以顧.腰不可以俛仰.治主病者.
手陽明少陽厥逆.發喉痹嗌腫【至】.治主病者.
手太陰の厥逆は、虚滿してす。善く沫を嘔す。病を主る者を治す。
手心主少陰の厥逆は、心痛み喉に引く。身熱するは、死して治すべからず。
手太陽の厥逆は、耳聾し泣出で、項以て顧みるべからず。腰以て俛仰すべからず。病を主る者を治す。
手陽明少陽の厥逆は、喉れ【至】(じ)を發す。病を主る者を治す。



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