読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

鍼灸医学の懐

黄帝内経の意訳と解説 最後に原文と読み下しを記しています。

氣厥論篇第三十七.

黄帝内経 素問
花壇にて


 さてさて、ここに至っていまさらながら日常よく使っている 『厥』 の意味について改めて再考せざるを得なかった。

 六経の厥陰と、この篇で用いられている氣厥とは、意味するところが別であると認識するのが良いのであろうと考える。

 厥陰の意味は、(素問・至真要大論)<両陰こもごも尽くるが故に厥陰というなり>と記載されているので、この場合は「つきる」の意味で問題ないと考える。

 して、氣厥の『厥』とは、正常な気の流れが何らかの原因によって逆流する状態であると、筆者なりに理解しているのだが、読者諸氏はいかがお考えでしょうか。

 また、部分的な異常は臓腑間を伝変して様々な症状を呈することになるが、本篇中の寒邪、熱邪が、外因であるのか内因であるのかも特定できず、病因・病理がイメージしにくいと感じた。

 本篇を臨床的にどのように読むのか・・・筆者は、今もって釈然としないままである。
 


原 文 意 訳

 黄帝が、問うて申された。五臓六腑の間で、寒熱が互いに相移り、生じる病はどのようであるのか。

 岐伯が申された。
 腎の寒邪が脾に移動いたしますと、おできや腫れ物を生じて呼吸が微弱となる少気となります。

 脾の寒邪が肝に移動しますと、おできや腫れ物を生じて、筋が引きつります。

 肝の寒邪が心に移動しますと、心陽が胸中で閉塞して狂症となります。

 心の寒邪が肺に移動しますと、肺消となります。肺消と申しますは、飲んだ水の倍くらいの小便が出るようになりまして、これは死病でありますので治りません。

 肺の寒邪が腎に移動しますと、湧水となります。湧水と申しますは、お腹を按じましても堅くなく、大腸に水気が停滞しております。
 この水気が速く移動いたしますと、精気が感じられないような水の移動する音がしまして、それはあたかも袋に水を入れたかのようであります。これは水気病であります。


 脾の熱邪が肝に移動しますと、驚きやすくなり鼻血が出ます。

 肝の熱邪が心に移動しますと、これは死するものです。

 心の熱邪が肺に移動しますと、鬲消、つまり多飲しても渇きが治まらない状態となります。

 肺の熱邪が腎に移動しますと、柔痙つまり痙攣を起こすようになります。

 腎の熱邪が脾に移動しますと、精気が虚して激しい下痢を起こすようになります。これは死症で治すことができません。

 子宮や精室の熱邪が膀胱に移動いたしますと、尿閉となり小便に血が混じるようになります。

 膀胱の熱邪が小腸に移動いたしますと、腸が閉塞して便が出なくなり、上は口がただれるようになります。

 小腸の熱邪が大腸に移動いたしますと、腹部の深い部分に腫瘍を生じます。

 大腸の熱邪が胃に移動いたしますと、食欲が亢進するのに、身体は痩せてまいります。これを食亦(しょくえき)と言います。

 胃の邪熱が胆に移動いたしますと、これもまた食亦となります。

 胆の熱邪が脳に移動いたしますと、鼻の山根部にツーンとした感覚が生じて鼻渕となります。
 鼻渕となりますと濁った鼻水が出て止まらなくなり、さらに鼻血が出るようになり、目もはっきりと見えなくなります。

 これらの病は、寒熱の邪気が厥逆することによって起きるものであります。



原文と読み下し


黄帝問曰.五藏六府.寒熱相移者何.
岐伯曰.
腎移寒於※1脾.癰腫少氣.
脾移寒於肝.癰腫筋攣.
肝移寒於心.狂隔中.
心移寒於肺.肺消.肺消者.飮一溲二.死不治.
肺移寒於腎.爲涌水.涌水者.按腹不堅.水氣客於大腸.疾行則鳴濯濯.如嚢裹漿.水之病也.
黄帝問うて曰く。五藏六府、寒熱相い移る者は何なるや。
岐伯曰く。
腎、寒を脾に移せば、癰腫して少氣す。
脾、寒を肝に移せば、癰腫して筋攣す。
肝、寒を心に移せば、狂し隔中す。
心、寒を肺に移せば、肺消す。肺消なる者は、一飮二溲す。死して治せず。
肺、寒を腎に移せば、涌水を爲す。涌水なる者は、腹を按じて堅からず。水氣大腸に客し、疾く行けば則ち鳴ること濯濯(たくたく)として、嚢(のう)に漿を裹(つつ)むが如し。水の病なり。

※1 全元起本、甲乙経 肝を脾に作るに倣う。

脾移熱於肝.則爲驚衄.
肝移熱於心.則死.
心移熱於肺.傳爲鬲消.
肺移熱於腎.傳爲柔※1痙.
腎移熱於脾.傳爲虚腸.死不可治.
胞移熱於膀胱.則溺血.
膀胱移熱於小腸.鬲腸不便.上爲口麋.
小腸移熱於大腸.爲虙瘕.爲沈.
大腸移熱於胃.善食而痩.謂之食亦.
胃移熱於膽.亦曰食亦.
膽移熱於腦.則辛頞鼻淵.鼻淵者.濁涕下不止也.傳爲衄衊瞑目.故得之氣厥也.
脾、熱を肝に移せば、則ち驚衄(きょうじく)を爲す。
肝、熱を心に移せば、則ち死す。
心、熱を肺に移せば、則ち傳えて鬲消を爲す。
肺、熱を腎に移せば、則ち傳えて柔痙を爲す。
腎、熱を脾に移せば、傳えて虚を爲し腸澼すれば、死して治すべからず。
胞、熱を膀胱に移せば、則ち癃して溺血す。
膀胱、熱を小腸に移せば、腸を鬲(かく)して便せず、上は口麋(こうび)を爲す。
小腸、熱を大腸に移せば、虙瘕(ふくか)を爲し、沈と爲す。
大腸、熱を胃に移せば、善く食して痩す。これを食亦(しょくえき)と謂う。
胃、熱を膽に移せば、また食亦(しょくえき)と曰く。
膽、熱を腦に移せば、則ち辛頞(しんあつ)鼻淵す。鼻淵なる者は、濁涕下りて止まざるなり。傳わりて衄衊(じくべつ)瞑目を爲す。故にこれを氣厥に得るなり。


※1 原文 +至を痙につくる。