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鍼灸医学の懐

黄帝内経の意訳と解説 最後に原文と読み下しを記しています。

玉版論要篇第十五




 本篇は、難解に感じるところが多いのだが、大いに臨床に用いることのできる記述も散見できる。

 もちろん、読解者の力量に依るのではあるが。

 筆者は、顔面の気色の深浅が物語る意味合いと、気色の上下の変化が非常に重要に感じている。

 気色の深浅は、そのような意識で患者の顔色を観察していると、自ずと感得することができるものである。

 孤脉に関しては、胃の気の無い脉と意訳した。

 「胃の気」に関しては、『胃の気の脈診』 藤本 蓮風著 に、詳細に述べられているので、難病を扱う先生方には、一読をお勧めしたい。

 病の順逆を判断する場合、本篇で述べられている以外に、術者自身の腕前によることもまた付記しておきたい。

 過去・現在、術者自身の認識が至らず治せない病は、他の人が治すことができても、自分にとっては、すべて逆証である。

 世の鍼灸師のすべてが、逆証を順証にすべく努力している姿を願うものである。



原 文 意 訳

 黄帝が問うて申された。

余は揆度(きど)と奇恒は、その指し示す所が同じでないと聞き及んでいるが、これを用いるには、どのようにすればよいのだろうか。

 岐伯が、これに対して申された。

 揆度と申しますのは、病の深浅を度(はか)る方法であります。

 また奇恒と申しますのは、いわゆる奇病のことであります。

 どうかまず、道の原理とその変化について言わせて頂きたい。

 五色と脉の変化と、揆度・奇恒の原理は、ひとつであります。

 神の変化はめまぐるしいですが、同じところを回ることはありません。もし同じところを回るようでありますと、変化しなくなります。そうなりますと、身体の生理機能は、失調してしまいます。

 道の現れである変化を捉える要は、すぐ目の前にありながらも微かでありますので、これを玉版に著しまして、天文を測定する璇璣玉衡(せんきぎょくこう)、つまり玉機の理に合わせて、命名致します。

 人の気色は、顔の上下左右に現れますが、それらの色を診て判断するに際しましては、要となるものがあります。

 そのひとつに、現れている色の深浅がございます。

 その色が浅く感じます時は、湯液を用いて十日で治癒するものであります。

 さらにその色が深く感じます時は、必齊と申します薬草を絞った薬を用いまして、二十一日で治癒するものであります。

 その色が、大いに深く感じます時には、醪酒(れいしゅ)を用いまして、百日で治癒するものであります。

 顔色が弱々しく、顔から神気が抜けているようなものは、治りません。百日で生命は終わりを迎えるでありましょう。

 脈状が短く脉全体を満たすことが出来ず、脈が絶えようとするものは、死に至ります。

 温邪を病み、正気の虚が甚だしいものもまた、死するものであります。

 顔の上下左右にあらわれます色を観て判断いたしますに、要となる点がございます。

 下から上にかけて面色が脱していくものは、逆証でありまして悪化していることを示します。

 反対に、上から下に面色が回復してくるものは、順証でありまして好転していることを示しています。

 また女子は右が逆証で、左が順証であります。

 男子は、左が逆証で、右が順証であります。

 これらが変易致しまして、陽である男子の左にその色が現れますと重陽となり、陰である女子の右にその色が現れますと重陰となりまして、重陽・重陰は、共に死に至ります。

相反する陰陽の働きが、本来の動きと逆に作用するとバランスを失ってしまいます。

治療は、補瀉を加えて、その陰陽を本来の働きに戻してやるのでございますが、その方法として奇恒の事があり、揆度の事があるのでございます。

 脉はしっかり搏っておりますが手足がしびれて動かなくなりますのは、寒熱が激しく打ち合っているからであります。

 胃の気の無い脉は、消気と申します。

脉に力が無く押さえると散じてなにも無いように感じるのは、亡血であります。

 胃の気の無い脉は、逆証でありまして、虚脉は順証であります。

 奇恒の法を行いますには、太陰を以てその始めと致します。

 五行の相克関係において、本来勝てないところに行きますと、これは逆証でありますので、死亡いたします。

 勝つところに行きますのは、順証でありますので活きるものであります。

 自然界の八風と四季は、一定の順序に従って移り変わるものでありまして、夏の後に春がやって来るようなことはありません。これが自然界の法則であります。

 この自然界の法則に一度でも狂いが生じますと、四季の終始そのものが存在しなくなりますので、人もまた同様に、一度逆証となりますとその流れを変えることは、できないのであります。

 以上で本篇は終わりでございます。



原文と読み下し


黄帝問曰.余聞揆度奇恒.所指不同.用之奈何.
岐伯對曰.
揆度者.度病之淺深也.
奇恒者.言奇病也.
請言道之至數.五色脉變.揆度奇恒.道在於一.
神轉不回.回則不轉.乃失其機.至數之要.迫近以微.著之玉版.命曰合玉機.

黄帝問うて曰く。余は聞くに揆度(きど)奇恒、指す所同じからずと。これを用いるは奈何にせん。
岐伯對して曰く。
揆度なる者は、病の淺深を度(はか)るなり。
奇恒なる者は、奇病を言うなり。
請う。道の至數を言わん。五色脉の變、揆度奇恒は、道は一に在り。
神は轉ずるも回らず、回れば則ち轉ぜず。乃ち其の機を失するなり。至數の要は、迫近にして以て微なり。これを玉版に著し、命じて玉機に合すると曰く。

容色見.上下左右.各在其要.其色見淺者.湯液主治.十日已.
其見深者.必齊主治.二十一日已.
其見大深者.醪酒主治.百日已.
色夭面脱.不治.
百日盡已.
脉短氣絶.死.
病温虚甚.死.

容色は、上下左右に見わる。各おの其の要在り。其の色淺きに見わる者は、湯液もて主治し、十日にして已ゆ。
其の深く見わる者は、必齊もて主治し、二十一日にして已ゆ。
其の大いに深く見わる者は、醪酒(れいしゅ)もて主治し、百日にして已ゆ。
色夭(よわ)くして面脱するは、治せず。
百日にして盡く已む。
脉短かく氣絶するは、死す。
温を病み虚甚だしきは、死す。

色見上下左右.各在其要.上爲逆.下爲從.
女子右爲逆.左爲從.
男子左爲逆.右爲從.
易.重陽死.重陰死.
陰陽反作(他).治在權衡相奪.奇恒事也.揆度事也.

色上下左右に見われるは、各おの其の要在り。上るを逆と爲し、下るを從と爲す。
女子は右を逆と爲し、左を從と爲す。
男子は左を逆と爲し、右を從と爲す。
易して重陽すれば死し、重陰も死す。
陰陽反作(他)、治は權衡相奪に在りとは、奇恒の事なり。揆度の事なり。

搏脉痺躄.寒熱之交.
脉孤爲消氣.虚泄爲奪血.
孤爲逆.虚爲從.
行奇恒之法.以太陰始.
行所不勝曰逆.逆則死.
行所勝曰從.從則活.
八風四時之勝.終而復始.逆行一過.不復可數.
論要畢矣.

搏脉痺躄は、寒熱の交なり。
脉の孤なるを消氣と爲し、虚泄なるを奪血と爲す。
孤は逆と爲し、虚は從と爲す。
奇恒の法を行うに、太陰を以て始とす。
勝たざる所に行くを逆と曰く。逆なれば則ち死す。
勝つ所に行くを從と曰く。從なれば則ち活く。
八風四時の勝、終りて復た始まる。逆行一過すれば、復た數う可からず。
論要畢んぬ。

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