鍼灸医学の懐

黄帝内経の意訳と解説 最後に原文と読み下しを記しています。

診要經終論篇第十六



 本篇は、表題の通り診察の要となることと、経気が尽きてしまう症候について記載されている。
 
 その際、四季の変化に従って陰陽は消長し、人体の気の流れの深浅も変化するという大前提。

 これは、内経医学に一貫している天人相応思想である。

 人工的な環境に身を置いている現代人の診察に際しては、まず今現在、本来の季節と人体との正常な相関関係を理解した上で、人工的な環境がどのような機序で患者の気の流れに影響しているのかを把握する必要がある。

 刺鍼に際しては、季節の脈状と深浅。顔面の気色と肌表の状態などを参伍して、鍼先の深度を決定するが、実際の臨床においては、思考の入るスキはない。

 また、胸腹部の刺鍼に際しては、深刺しを厳に戒めている。

 脈診・気色診を行っている術者なら理解できると思うが、僅か1本の鍼でがらりと変化する。

 場合によっては深刺しすることもあるが、患者の状態と自分の腕前とを計ってのことで、術者に自信がない場合は、厳に慎まなくてはならない。

 気胸事故など、言語道断である。

 一見症状が取れているように思えても、正気を漏らしてしまい、正邪抗争が止むことによって症状が治まったかのように見えることもある。

転院してきた患者の状態から、それと知れることが多々ある。

 経気が尽る際の症候について、その病理を説く解説も多々あるも、自分にとってしっくりと納得できるものはなかった。かといって、残念ながら自分なりの解釈もおぼつかないので、意訳するに留めた。

 ただ、本文中の太陽の脉気の異常は、今まで度々遭遇した経験がある。

白目をむいて倒れた患者を、鍼で何度か蘇生させたが、確かに珠のような汗が流れ出ていた記憶はない。もし、そのようであれば陽気が脱する危険な兆候であることは、論を待たない。

 その際、脉が細く深く次第に絶えようとしている者に、1鍼を下すことで脉が一気に太く浅く浮き上がり、その生命力を術者の指先に伝えてきたとき、術者もまた、同時に救われるのだ。



原 文 意 訳

黄帝が問うて申された。診察の要はどのようであるのか。

岐伯が対して申された。

正月二月は、天気が四方に始まろうとする時で、地気もまた天気に呼応して発する時期であります。この時期には、人の気は肝にございます。

三月四月は、天気が四方一面にひろがり、地気もまた発して安定してまいります。この時期には、人の気は脾にございます。

五月六月は、天気は盛んとなりまして、地気もまた上昇致します。この時期には、人の気は頭にございます。

七月八月は、陰気の粛殺の気が生じ始めます。この時期には、人の気は肺にございます。

九月十月は、陰気が盛んとなりまして氷始め、地気もまた発から閉蔵へと閉じ始めます。この時期には、人の気は心にございます。

十一月十二月は、何度も氷結し、地気もまた万物を閉ざすようになります。この時期には、人の気は腎にございます。

 従いまして、春は兪穴と分肉と理の浅いところを刺しまして、血を見ましたらそこで止めるのであります。病状の激しいものは、五行の相尅関係を考慮し、軽いものは相生関係を考慮して治療致します。

 夏は、孫絡などのごく浅いところを刺しまして、血を見ましたらそこで止めます。このようにして、邪気をすべて瀉し、穴を閉じて正気を巡らせますと、痛病は必ず下火となって緩解いたします。

 秋は皮膚の肌理に沿って刺します。身体の上下も同じように施しまして、神気が変化して回復しましたら、そこで止めます。

 冬は、分肉の間に在ります兪穴を刺します。病状が甚だしいものは、兪穴を直刺し、軽いものは陽気の状態を意識しながら兪穴の気滞が散じるように刺します。

春夏秋冬の四季に応じて、人気の流れる深さも変化致します。それらに応じてそれぞれ刺すべき穴所と深さの程度にも、一定の規律があるのであります。

 春に夏の分を刺しますと、心気が漏れてしまい、脈は乱れて弱くなり、虚に乗じて病は骨髄を冒すようになりますので、当然病も治ることはありません。そのようになりますと、食欲も衰え息も絶え絶えとなってしまうのであります。

 春に秋の分を刺しますと、肺気が障害され、筋が痙攣を起こし、氣逆を起こしてを生じるようになります。病は治らず、時に突然驚いたり哭くようになります。

 春に冬の分を刺しますと、腎気が障害され、邪気は深く体内の臓に著いてしまい、お腹が脹り、病も当然治りません。その上、やたらと話したがるようになります。

 夏に春の分を刺しますと、病は治らないだけでなく、肝気が障害され、筋が無力となり動かなくなります。

 夏に秋の分を刺しますと、病は治らないだけでなく、肺気が障害されるため、なにも話したくなくなり、誰かが自分を捕まえに来るような感じがして、常にビクビクとした不安定な気持ちとなります。

 夏に冬の分を刺しますと、病は治らないだけでなく、腎気が障害され、呼吸に力が無くなり、突然怒り出すようになります。


 秋に春の分を刺しますと、病は治らないだけでなく、肝気が障害され、恐れおののくような気持ちになって、何かをしようと思い立ったとたんに、なにをしようとしていたのかを忘れるようになります。

 秋に夏の分を刺しますと、病は治らないだけでなく、心気が障害され、益々横になって寝ることを嗜むようになり、さらによく夢を見るようになります。

 秋に冬の分を刺しますと、病は治らないだけでなく、腎気が障害され、ガタガタと震えるように時に寒くなります。


冬に春の分を刺しますと、病は治らないだけでなく、肝気が障害され、横になって眠ろうとしても眠れず、眠ったとしても訳のわからないものを見るようになります。

 冬に夏の分を刺しますと、病は治らないだけでなく、心気が障害され、気は上って発散して散ってしまい、虚となった脉道を邪気が塞いでしまいますので諸々のとなってしまうのであります。

 冬に秋の分を刺しますと、病は治らないだけでなく、肺気が障害され、気が内に鬱して熱化するため、たくさん水を飲んで冷やそうとするので、渇するようになります。


 おおよそ、胸腹部を刺す場合には、必ず五臓に直接当たらないように注意すべきであります。

 心に中(あた)りますと、その時から24時間で死にます。

 脾に中りますと、5日で死にます。

 腎に中りますと、7日で死にます。

 肺に中りますと、5日で死にます。

 鬲に中りますと、胸腹内の臓腑を傷害してしまいますので、病は一旦癒えたかのようでありましても、1年を過ぎることなく必ず死ぬものであります。


 五臓に中らないように刺そうとするためには、従逆の道理を明確に知ることが肝要であります。

 いわゆる従と申しますのは、鬲と脾腎の部位を明らかにしてこれに中らないようにすることであります。このようなことを知らずに刺針することを逆と申すのであります。

 胸腹を刺す時には、深刺しを避けるために、必ず乾いた木綿の布を刺鍼部位に敷きます。つまり平らな布の上から刺すのであります。刺鍼致しまして、期待した効果がないようでありましたら、再度刺します。

 刺鍼に際しては、必ず心を慎み、身を引き締めなければなりません。

腫物を刺す場合は、膿血を出す目的で鍼を揺らせますが、脉を刺す場合は、気血を漏らしてしまうので決して揺らすようなことがあってはなりません。これは刺鍼の道であります。


帝が申された。願わくば十二経脉の脉気が尽きる時はどのようであるのかを聞かせてもらいたいのだが、と。

 岐伯が申された。

 太陽の脉気が尽きます時は、眼球が上を向いて白目になり、身体はのけぞって手足は痙攣し、顔面は真っ白となり、珠のような汗が出てまいりますと陽気が尽きて死に赴くのであります。

 少陽の脉気が尽きます時は、耳聾し、全身の関節が緩んでしまいます。目は丸く見開いて、眼球が動かなくなりますと1日半で死に至ります。その死に際しては、顔面がまず青くなり、白くなりましたら死に赴くのであります。

 陽明の脉気が尽きます時は、口や目の異常な動きが現れまして、ちょっとしたことでよく驚いたり、何を言っているのか分からない言葉を発するようになります。顔面は黄色となり上下・手足の陽明経が躁盛となってバタバタとし、痺れて感覚が無くなってまいりますと経気が尽きて死に至るのであります。

 少陰の脉気が尽きます時は、顔面が黒くなりまして、歯茎が痩せて歯が長く露出して歯垢が溜まりやすくなります。そしてお腹が脹って食べることもできず、大小便も出なくなりますと経気が尽きて死に赴くのであります。

 太陰の脉気が尽きます時は、お腹が脹ってパンパンとなり、息もしずらくなります。よくげっぷをし、また吐き気を催します。吐き気を催しますと気が上逆致しますので、顔面は赤くなります。上逆しないようでありましたら、上下は通じなくなりまして、そうなりますと顔色は黒くなり、皮毛も枯れやつれたようになってまいりますと、経気が尽きて死に赴くのであります。

 厥陰の脉気が尽きます時は、体内に熱を生じるため食道が乾きます。そしてよく小便に行くようになり胸の当たりがモヤモヤと落ち着きが無くなり、さらに甚だしくなりますと舌が巻き上がってしまい、睾丸もまた縮み上がるようになります。このような状態になりますと、経気が尽きて死に赴くのであります。

 これらが、十二経脉の脉気が尽きる症候であります。



原文と読み下し

黄帝問曰.診要何如.
岐伯對曰.
正月二月.天氣始方.地氣始發.人氣在肝.
三月四月.天氣正方.地氣定發.人氣在脾.
五月六月.天氣盛.地氣高.人氣在頭.
七月八月.陰氣始殺.人氣在肺.
九月十月.陰氣始冰.地氣始閉.人氣在心.
十一月十二月.冰復.地氣合.人氣在腎.

黄帝問うて曰く。診要は何如.
岐伯對して曰く。
正月二月、天氣方(まさ)に始まり、地氣發し始める。人氣は肝に在り。
三月四月、天氣方に正しく、地氣發し定まる。人氣は脾に在り。
五月六月、天氣盛んにして、地氣高し。人氣は頭に在り。
七月八月、陰氣殺し始める。人氣は肺に在り。
九月十月、陰氣冰り始め、地氣は閉じ始める。人氣は心に在り。
十一月十二月、冰復し、地氣合す。人氣は腎に在り。

故春刺散兪.及與分理.血出而止.甚者傳氣.間者環也.
夏刺絡兪.見血而止.盡氣閉環.痛病必下.
秋刺皮膚循理.上下同法.神變而止.
冬刺兪竅於分理.甚者直下.間者散下.

故に春は散兪及び分理とを刺し、血出ずれば止む。甚しき者は氣を傳え、間なる者は環るなり。
夏は絡兪を刺し、血を見れば止む。氣を盡し閉じて環らせば、痛病必ず下る。
秋は皮膚循理を刺す。上下法を同じくす。神變じて止む。

春夏秋冬.各有所刺.法其所在.
春刺夏分.脉亂氣微.入淫骨髓.病不能愈.令人不嗜食.又且少氣.
春刺秋分.筋攣.逆氣環爲.病不愈.令人時驚.又且哭.
春刺冬分.邪氣著藏.令人脹.病不愈.又且欲言語.

冬は分理の兪竅を刺す。甚しき者は直下し、間なる者は散下す。春夏秋冬、各おの刺す所有り。其の在る所に法る。
春に夏の分を刺せば、脉亂れ氣微となり入りて骨髓を淫す。病愈ゆること能わず。人をして食を嗜なまず、又且つ少氣せしめる。
春に秋分を刺せば、筋攣し、逆氣環りて嗽を爲す。病愈えず。人をして時に驚し、又且つ哭(なか)しむる。
春に冬分を刺せば、邪氣は藏に著く。人をして脹せしめ、病は愈えず、又且つ言語するを欲す。

夏刺春分.病不愈.令人解墮.
夏刺秋分.病不愈.令人心中欲無言.惕惕如人將捕之.
夏刺冬分.病不愈.令人少氣.時欲怒.

夏に春の分を刺せば、病は愈えず。人をして解墮せしむ。
夏に秋の分を刺せば、病は愈えず。人をして心中言う無からんことを欲せしむる。惕惕(てきてき)として人の將(まさ)に之を捕縁とするが如し。
夏に冬の分を刺せば、病は愈えず。人ひとをして少氣し、時に怒せんと欲す。

秋刺春分.病不已.令人然.欲有所爲.起而忘之.
秋刺夏分.病不已.令人益嗜臥.又且善夢.
秋刺冬分.病不已.令人洒洒時寒.

秋に春の分を刺せば、病は已まず。人をして然として爲す所有らんと欲し、起きて之を忘れせしむ。
秋に夏の分を刺せば、病は已まず。人をして益ます臥するを嗜なみ、又且つ善く夢す。
秋に冬の分を刺せば、病は已まず。人をして洒洒(さいさい)として時に寒からしむる。
 
冬刺春分.病不已.令人欲臥不能眠.眠而有見.
冬刺夏分.病不愈.氣上發爲諸痺.
冬刺秋分.病不已.令人善渇.

冬に春の分を刺せば、病は已まず。人をして臥するを欲するも眠ること能わず。眠りて見るもの有り。
冬に夏の分を刺せば、病は愈えず。氣は上りて發し、諸痺を爲す。
冬に秋の分を刺せば、病は已まず。人をして善く渇せしむ。

凡刺胸腹者.必避五藏.
中心者.環死.
中脾者.五日死.
中腎者.七日死.
中肺者.五日死.
中鬲者.皆爲傷中.其病雖愈.不過一歳必死.

凡そ胸腹を刺す者は、必ず五藏を避く。
心に中る者は、環りて死す。
脾に中る者は、五日にして死す。
腎に中る者は、七日にして死す。
肺に中る者は、五日にして死す。
鬲に中る者は、皆傷中と爲す。
其の病愈ゆと雖ども、一歳を過ずして必ず死す。

刺避五藏者.知逆從也.
所謂從者.鬲與脾腎之處.不知者反之.
刺胸腹者.必以布著之.乃從單布上刺.刺之不愈.復刺.
刺鍼必肅.刺腫搖鍼.經刺勿搖.此刺之道也.

刺すに五藏を避くる者は、逆從を知るなり。
所謂從なる者は、鬲と脾腎の處、知らざる者はこれに反す。
胸腹を刺す者は、必ず布(ふぎょう)を以てこれに著け、乃ち單布の上より刺す。これを刺して愈えざれば、復た刺す。
鍼を刺すには必ず肅す。腫を刺すには鍼を搖がす。經を刺すは搖らすこと勿れ。此れ刺の道なり。

帝曰.願聞十二經脉之終奈何.
岐伯曰.
太陽之脉.其終也.戴眼.反折瘈瘲.其色白.絶汗乃出.出則死矣.
少陽終者.耳聾.百節皆縱.目絶系.絶系一日半死.其死也.色先青白.乃死矣.
陽明終者.口目動作.善驚妄言.色黄.其上下經盛不仁.則終矣.
少陰終者.面黒.齒長而垢.腹脹閉.上下不通而終矣.
太陰終者.腹脹閉.不得息.善噫.善嘔.嘔則逆.逆則面赤.不逆則上下不通.不通則面黒.皮毛焦.而終矣.
厥陰終者.中熱乾.善溺.心煩.甚則舌卷卵上縮.而終矣.
此十二經之所敗也.

帝曰く。願わくば十二經脉の終は奈何なるかを聞かん。
岐伯曰く。
太陽の脉、其の終(つ)きたるや、戴眼、反折、瘈瘲し、其の色は白、絶汗乃ち出ず。出づれば則ち死す。
少陽の終くる者は、耳聾し、百節皆縱み、目(かん)して絶系す。絶系するは一日半にして死す。其の死するや、色先ず青く、白にして乃ち死す。
陽明の終くる者は、口目動作し、善く驚し妄言し、色黄たり。其の上下の經盛んにして不仁なれば、則ち終わる。
少陰の終くる者は、面黒く、齒長くして垢づき、腹脹りて閉じ、上下通ぜずして終わる。
太陰の終くる者は、腹脹りて閉じ、息するを得ずして、善く噫し、善く嘔す。嘔すれば則ち逆す。逆すれば則ち面赤し。逆せざれば則ち上下通ぜず。通ぜざれば則ち面黒く、皮毛焦して終る。
厥陰の終くる者は、中熱し乾き、善く溺し、心煩す。甚だしければ則ち舌卷き、卵上り縮みて終わる。

此れ十二經の敗らるる所なり。

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