鍼灸医学の懐

黄帝内経の意訳と解説 最後に原文と読み下しを記しています。

靈蘭祕典論(八)



 内経医学の思想の一つに、天人合一・相応がある。

 国の有り様を人体に相応させ、国の中枢を君主とし、

人体の中枢である心の臓を相応させて説いてある。


 中国では、自然界の気が乱れると国が乱れ、

国の君主が乱れると自然界も乱れるという相応思想がある。


 小さく見れば、家族がバラバラになって乱れると個人も乱れ、

個人が乱れると家族全体が乱れるということになる。


 人体の生理だけでなく、価値ある思想というものは、あらゆるところに応用が利く。


 十二官については、十分にイメージを膨らませ、

印象として脳裏に刻まれるのが宜しいかと思う。


 最終段の意訳は、困難であったが、臨床の極意とも思える重要な内容を含んでいると思われた。


 私自身の印象としては、微細な兆候を多面的に広く集積し、

陰陽の条理に照らして観れば、複雑極まりない人体の気の動向が、

手に取るように分かるようになるのだと述べているように思われる。


 読者のご意見を乞う!



原 文 意 訳

黄帝が次のように問われた。

「人体の十二蔵間において、互いに使い使われるという相使の関係と、その任務とするところの上下関係は、いかようなものかをお聞かせ願いたい。」

 岐伯が応えて申された。 なんと核心の的を尽くされたご質問でありましょうや。

ついにこれをお話しする時が参りましたので、述べさせて頂きたい。

 以下は、身体を国の治世に例えてお話致します。

心は、君主に相当します。生命を明るく輝かせる、中心的な働きを担っています。
ここで大切なことは、君主といえども『官』でありますので、勝手気ままなことは出来ないのであります。
やはり大自然の陰陽の法則、つまり『道』に適った治世を施さなくてはなりません。


肺は、君主に付き従い、君主の意向が全身に行き渡るように、日頃より準備しておりますので、相傅の官と申します。
また、下々の状態も、肺を通じて君主に伝えるという、大変ご苦労なところに位置しております。


肝は、猛々しく常に外敵の侵入から身を守る将軍であります。
たとえば、衛気を巡らしながら、しかも衛気が散じてしまわないように、様々な状況に応じて防衛のため、はかりごとをめぐらせている激務の官職を担っています。


胆は、時に右に行き、時に左に行き、時に太陽に加担して『開』を促し、時に陽明に加担して『合』を促したりと、左右に揺れながらも公明正大、天道に適うように常にその時々の重心を正すことから、中正の官と称されます。その時々に、瞬時に適切な判断を下します。


膻中は、胸の中央に位置し、直接君主に仕えて、生命の喜びを表現する役割を担っています。


 脾胃の両者は、共に倉に穀物を納め蓄え、また配給する役割を担っているので、倉廩の官と申します。人体を養い育てる五味は、この脾胃から作り出されるのであります。


 大腸は、口から入った水穀が場所により姿を変えながら、最後に糟粕に姿を変え、肛門から排泄されるまでの、一連の動きと流れを司っておりますので、伝導の官と申します。水穀を糟粕に変える大きな働きをしております。


 小腸は、胃で腐熟された水穀を受け取り、臓腑に盛り付ける役割がありますので、受盛の官と申します。胃から送られてきた腐熟された水穀を、全く別の性質のものに変える働きがありますので、化物は小腸が司っているのです。


 腎は、国全体がシャキンとする力強さの根源となる役割を担っておりまして、他の官に根気と粘り強さが維持できる力を与える役割を担っています。
 ですから細かい技術や才能を発揮することができるのでありまして、巧みな技が可能になるのであります。


 三焦は、溝の流れを監視し、時にその溝を切り開いて水を通す働きがありますので、水の流れる道筋は、三焦が担っているのであります。


 膀胱は、周囲を水で囲まれた地方都市を司っている官でありまして、君主の命によって津液を貯めたり排出する役割を担っております。


 これら十二官の働きは、必ず相互に協調すべきで、どれ一つ欠けても生命は維持できないのであります。

 特に君主が聡明で天道に適った治世を施せば、下々の者は安心してその責務を全うすることができるのであります。

 このようにして養生をすれば、めでたく長寿を楽しむことができ、この世を去るまで、病に侵されることもないのであります。

 さらに、このように天下を治めれば、大いに明るく栄えるのであります。


 ところが、もし君主が天道に暗い場合は、十二官の働きも危ぶまれるようになり、各臓腑間の連絡通路は閉塞されて通じなくなるので、身体は当然の如く、大いに傷害されるのであります。

 このようにして養生すれば、人生を中断して早死にするのがおちであります。

 さらに、このように天下を治めるようであれば、国の大本である宗族までもが滅ぶことにつながり、国家そのものが、大いに危うい状態となるのであります。


 君主は、戒めをもって治世を施し、人体にあっては、心にくもり無きよう、天道に逆らわないよう、常に戒めを持って養生に努めなければならないのであります。



 陰陽変化の法則の奥深さは、ほんのわずかの兆しである、微妙なるところに窺うことができるものであります。

 その陰陽の変化は、行き詰まるというところが無いのでありまして、しかも陰陽変化の始まりの根源については、誰も明確にすることができない困難なことであります。

 凡人にとっては、あれこれと探し回っても、陰陽変化の要を知ることは、容易ではありません。

 こうであろうか、どうであろうかと迷うに際して、だれが的を得た答えを用意することができますでしょうか。

 ぼんやりとしてつかみどころのないものを条理として数えることができるものは、微細なところに現れるものであります。

この微細な現れを条理として数えることができますと、長さや容積として測ることができるようになります。

 このように、度量で測ることができるようになったものを、千にも万にも益々大きく蓄積し、さらにはそれらを根拠にして類推していけば、玄妙なるその形状や状態などは、自分の認識の及ぶところとなります。

黄帝が申された。

素晴らしい講義であった。

余は、精しく、しかもはっきりとした陰陽の要を聞くことができた。これは大聖人の業績である。そのおかげで余は、大いなる道にひろく通じることができた。

斎戒して心身を清め、吉日を選んでからでなければ、敢えてこの教えを受けるわけにはならない程である。

そして黄帝は、良い兆しが現れた吉日を選び、霊蘭の部屋に蔵して、長く伝承保存された。


原文と読み下し


黄帝問曰.願聞十二藏之相使貴賎何如.
岐伯對曰.悉乎哉問也.請遂言之.

 

黄帝問うて曰く。願わくば十二藏の相使、貴賎いかなるかを聞かん。
岐伯對えて曰く。悉(しつ)なるかな問や。請う、遂にこれを言わん。

心者.君主之官也.神明出焉.
肺者.相傅之官.治節出焉.
肝者.將軍之官.謀慮出焉.
膽者.中正之官.決斷出焉.
中者.臣使之官.喜樂出焉.
脾胃者.倉廩之官.五味出焉.
大腸者.傳道之官.變化出焉.
小腸者.受盛之官.化物出焉.
腎者.作強之官.伎巧出焉.
三焦者.決涜之官.水道出焉.
膀胱者.州都之官.津液藏焉.氣化則能出矣.

心なる者は、君主の官なり。神明出ず。
肺なる者は、相傅の官。治節出ず。
肝なる者は、將軍の官。謀慮出ず。
膽なる者は、中正の官。決斷出ず。
中なる者は、臣使の官。喜樂出ず。
脾胃なる者は、倉廩の官。五味出ず。
大腸なる者は、傳道の官。變化出ず。
小腸なる者は、受盛の官。化物出ず。
腎なる者は、作強の官。伎巧出ず。
三焦なる者は、決涜の官。水道出ず。
膀胱なる者は、州都の官。津液藏す。氣化すれば則ち能く出ず。

凡此十二官者.不得相失也.
故主明則下安.以此養生.則壽.歿世不殆.以爲天下.則大昌.
主不明.則十二官危.使道閉塞而不通.形乃大傷.以此養生.則殃.以爲天下者.其宗大危.戒之戒之.

至道在微.變化無窮.孰知其原.窘乎哉.
肖(消)者瞿瞿.孰知其要.
閔閔之當.孰者爲良.
恍惚之數.生於毫.毫之數.起於度量.
千之萬之.可以益大.推之大之.其形乃制.

凡そ此の十二官なる者、相い失するを得ざるなり。
故に主明らかなれば則ち下は安んず。此を以って養生すれば則ち壽。世歿(お)わりて殆(あや)うからず。以って天下を爲せば則ち大いに昌ん。
主明らかならざれば則ち十二官危うし。道をして閉塞して通ぜざらしむる。形乃ち大いに傷る。此を以って養生すれば則ち殃す。以って天下を爲す者は、其の宗大いに危うし。これを戒しめよ、これを戒しめよ。

至道は微に在り、變化は窮まり無し。孰れか其の原を知らん。窘(たしな)まれるかな。
肖(消)なる者は、瞿瞿。孰れか其の要を知らん。
閔閔としてこれに當たる。孰れの者か良と為さん。
恍惚の數、毫に生ず。毫の數、度量に起こる。
これを千にし、これを萬にし、以って益ます大にすべし。これを推しこれを大にし、其の形乃ち制す。

黄帝曰.善哉.余聞精光之道.大聖之業.而宣明大道.非齋戒擇吉日.不敢受也.
黄帝乃擇吉日良兆.而藏靈蘭之室.以傳保焉.

黄帝曰く、善き哉な。余は精光の道、大聖の業を聞く。しかして大道を宣明にす。齋戒して吉日を擇ぶに非らざれば、敢えて受けざるなり。
黄帝乃ち吉日良兆を擇び、しかして靈蘭の室に藏し、以って傳え保つなり。