鍼灸医学の懐

黄帝内経の意訳と解説 最後に原文と読み下しを記しています。

四時刺逆從論篇第六十四.

  本篇は、四時陰陽の消長により気血が浮沈し、それによって気血が大きく偏った場合の、モデルになる病症を挙げ、さらに鍼の深度の目安を述べているに過ぎないと考えています。

 本編で述べられている、例えば冒頭の厥陰が臓或いは経脉を指しているのかは定かではないように思います。

 そこにこだわるよりも、季節による病理変化の法則性を捉えることが、臨床上有益かと考えています。

 また、例えば意訳文中の狐疝風や脾風疝などの五臓風疝に関しては、様々な解釈がされていますので、意訳しておりません。

 また痹病に関しては、過去ブログを参照して頂けたらと思います。

  痹論篇第四十三.

 

          意 訳

 厥陰が有余すると、陰気が盛んとなって塞がるようになり、陰痺を病みます。

 反対に、不足すると相対的に陽気が盛んとなりますので、熱痺の病を生じます。

 脈滑であれば、狐疝風を病みます。

 脈濇でありますと、小腹が積気となり結塊を生じます。

 

 少陰が有余しますと、皮痺や小さなおできである隠疹を病みます。

 不足すると、肺痹を病みます。

 脈滑であれば、肺風疝を病みます。

 脈濇であれば、積して尿に血が混じるようになります。

 

 太陰が有余しますと、肉痹寒中を病みます。

 不足しますと、脾痹を病みます。

 脈滑であれば、脾風疝を病みます。

 脈濇であれば、積して時に心腹が満となる病となります。

 

 陽明が有余しますと、脉痺となり時に身体が熱します。

 不足しますと、心痹を病みます。

 脈滑であれば、心風疝を病みます。

 脈濇であれば、積して時によく驚する病となります。

 

 太陽が有余しますと、骨痹となり、身体が重くなります。

 不足しますと、腎痹を病みます。

 脈滑であれば、腎風疝を病みます。

 脈濇であれば、積してよく突然巓疾を起こす病となります。

 

 少陽が有余しますと、筋痹を病み、胸満となります。

 不足しますと、肝痹を病みます。

 脈滑であれば、肝風疝を病みます。

 脈濇であれば、積して時に筋が引きつり目痛を病みます。

 

 これらの理由は、人体の気が四時の気に応じているからであります。

 従って、春の気は経脈に在り、夏の気は孫絡に在り、長夏の気は肌肉に在り、秋の気は皮膚に在り、冬の気は骨髄に在ります。

 

 黄帝が申された。

 願わくばその理由を聞きたいのであるが。

 岐伯が申された。

 春は天の気が開き始め、地気は泄れ始める時であります。

 凍ったものは解け、氷は水となって流れるように、経脈もまた通じる時期であります。ですから、人の気もまた脉にあるのであります。

 夏は経がいっぱいとなって孫絡に流れ込み、その血を受けて皮膚もまた充実するものであります。

 長夏は、経も絡もすべて盛んでありますので、肌中にあふれるようになります。

 秋は天の気が閉じ始め、湊理もまた閉塞するので皮膚もまた収斂して縮みます。

 冬は臓の気を密閉する蓋蔵の時期で、血気は体内に在って深いところでは骨髄を満たし、五臓の気血に通じています。

 

 ですから、邪気もまた四時の変化に応じて動く気血に随って、侵入して舍るようになります。

 ところがその四時の変化に至っては、きっちりと予測はできませんが、その経気の流れに従って邪を取り除けば、邪によって気が乱れて病を生じることも無いのであります。

 

 帝が申された。

 四時の気の変化に逆らい、乱気を生じるというのは、どういうことなのか。

 岐伯が申された。

 春は、気が経脈に在ります。その春に絡脉を刺しますと血気は外にあふれ、息切れなどの少気を起こします。

 同様に春に肌肉を刺しますと、血気は同じところを逆流するので、上気致します。

 そして筋骨を刺しますと、血気は内にこもって腹脹となります。

 

 夏は、気が孫絡に在ります。その夏に経脈を刺しますと、血気が尽きてしまい、身体がだらりと無力になります。

 夏に肌肉を刺しますと、血気は内に退いてしまい、よく恐れるようになります。

 夏に筋骨を刺しますと、血気は上逆し、よく怒るようになります。

 

 秋は、気が皮膚に在ります。その秋に経脈を刺しますと、血気は上逆して健忘となります。

 そして秋に、絡脉を刺しますと、気が外に行らなくなり、横になって寝たがり、動くことを欲しなくなります。

 さらに秋に、筋骨を刺しますと、血気は身体内で散ってしまい、寒慄するようになります。

 

 冬は、気が骨髄に在ります。その冬に経脈を刺しますと、血気はすべて脱してしまい、目がはっきりと見えなくなります。

 そして冬に絡脉を刺しますと、体内の気は外に泄れてしまい、そこに邪が入り込んで留まり大痹となります。

 さらに冬に肌肉を刺しますと、陽気は絶えてしまい、よく健忘するようになります。

 

 おおよそこれらは四時の刺法に大いに逆したためであり、この法則には従うべきである。

 もしこの法則に反すると気が乱れ、また邪気も侵入して居座るので病となるのであります。

 ですから、刺鍼の際には四時の法則と、病がどこに生じているのかを知らないで逆治を行いますと、正気は体内で乱れ、邪気と精は互いにせめぎ合って病を生じるのであります。

 

 また誤って五臓を刺した場合、

 心に中りますと、一日で死にます。その兆候は、ゲップ、つまり噫(い)であります。

 肝に中りますと、五日で死にます。その兆候は、多語であります。

 肺に中りますと、三日で死にます。その兆候は、咳であります。

 腎に中りますと、六日で死にます。その兆候は、くしゃみ、つまり嚔(てい)とあくび、つまり欠であります。

 脾に中りますと、十日で死にます。その兆候は、飲み込む動作、呑を繰り返すようになります。

 このように、五臓に直接刺して傷るようなことがありますと、必ず死亡致します。

 五臓に中ってしまった場合、五臓それぞれの現す兆候によって、その死亡するのを知ることが出来るのであります。

 

              原文と読み下し

厥陰有餘.病陰痺.

不足.病生熱痺.

滑則病狐疝風.

濇則病少腹積氣.

厥陰有餘すれば、陰痺を病む。

不足すれば、熱痺を生ずるを病む。

滑なれば則ち狐疝風を病む。

濇なれば則ち少腹積氣を病む。

 

少陰有餘.病皮痺隱軫.

不足.病肺痺.

滑則病肺風疝.

濇則病積溲血.

少陰有餘なれば皮痺隱軫を病む。

不足なれば、肺痺を病む。

滑なれば則ち肺風疝を病む。濇なれば則ち積して溲血を病む。

 

太陰有餘.病肉痺寒中.

不足.病脾痺.

滑則病脾風疝.

濇則病積.心腹時滿.

太陰有餘なれば、肉痺寒中を病む。

不足なれば、脾痺を病む。

滑なれば則ち脾風疝を病む。

濇なれば則ち積して心腹時に滿つるを病む。

 

陽明有餘.病脉痺身時熱.

不足.病心痺.

滑則病心風疝.

濇則病積.時善驚.

陽明有餘なれば、脉痺を病む。身時に熱す。

不足なれば、心痺を病む。

滑なれば則ち心風疝を病む。

濇なれば則ち積して時に善く驚するを病む。

 

太陽有餘.病骨痺身重.

不足.病腎痺.

滑則病腎風疝.

濇則病積.善時巓疾.

太陽有餘すれば、骨痺身重を病む。

不足すれば、腎痺を病む。

滑なれば則ち腎風疝を病む。

濇なれば則ち積して善く時に巓疾するを病む。

 

少陽有餘.病筋痺脇滿.

不足.病肝痺.

滑則病肝風疝.

濇則病積.時筋急目痛.

少陽有餘すれば、筋痺脇滿を病む。

不足すれば、肝痺を病む。

滑なれば則ち肝風疝を病む。

濇なれば則ち積して時に筋急して目痛するを病む。

 

是故

春氣在經脉.

夏氣在孫絡.

長夏氣在肌肉.

秋氣在皮膚.

冬氣在骨髓中.

是の故は、

春氣は經脉に在り。

夏氣は孫絡に在り。

長夏氣は肌肉に在り。

秋氣は皮膚に在り。

冬氣は骨髓中に在ればなり。

 

帝曰.余願聞其故.

岐伯曰.

春者.天氣始開.地氣始泄.凍解冰釋.水行經通.故人氣在脉.

夏者.經滿氣溢.入孫絡受血.皮膚充實.

長夏者.經絡皆盛.内溢肌中.

秋者.天氣始收.湊理閉塞.皮膚引急.

冬者.蓋藏.血氣在中.内著骨髓.通於五藏.

帝曰く。余願わくば其の故を聞かん。

岐伯曰く。

春は、天氣始めて開き、地氣始めて泄れ、凍解冰釋し、水行きて經通ず。故に人の氣は脉に在り。

夏は、經滿ちて氣溢れ、孫絡に入りて血を受け、皮膚充實す。

長夏は、經絡皆盛んにして、内は肌中に溢れる。

秋は、天氣始めて收し、湊理は閉塞し、皮膚引きて急す。

冬は、蓋藏し、血氣は中に在り、内は骨髓に著き、五藏に通ず。

 

是故邪氣者.常隨四時之氣血而入客也.至其變化.不可爲度.然必從其經氣.辟除其邪.除其邪則亂氣不生.

是の故に邪氣は、常に四時の気血に隨いて入りて客するなり。其の變化に至りて、度を爲すべからず。然れども必ず其の經氣に從い、其の邪を辟除し、其の邪を除けば則ち亂氣生ぜず。

 

帝曰.逆四時而生亂氣奈何.

岐伯曰.

春刺絡脉.血氣外溢.令人少氣.

春刺肌肉.血氣環逆.令人上氣.

春刺筋骨.血氣内著.令人腹脹.

夏刺經脉.血氣乃竭.令人解【亻亦】.

夏刺肌肉.血氣内却.令人善恐.

夏刺筋骨.血氣上逆.令人善怒.

秋刺經脉.血氣上逆.令人善忘.

秋刺絡脉.氣不外行.令人臥不欲動.

秋刺筋骨.血氣内散.令人寒慄.

冬刺經脉.血氣皆脱.令人目不明.

冬刺絡脉.内氣外泄.留爲大痺.

冬刺肌肉.陽氣竭絶.令人善忘.

帝曰く。四時に逆らいて亂氣を生じることいかん。

岐伯曰く。

春に絡脉を刺すは、血氣外に溢れ、人をして少氣せしめる。

春に肌肉を刺すは、血氣環逆し、人をして上氣せしめる。

春に筋骨を刺すは、血氣内に著き、人をして腹脹せしめる。

 

夏に經脉を刺すは、血氣乃ち竭き、人をして解【亻亦】(かいえき)せしめる。

夏に肌肉を刺すは、血氣内に却(しり)ぞきて、人をして善く恐せしめる。

夏に筋骨を刺すは、血氣上逆し、人をして善く怒せしめる。

 

秋に經脉を刺すは、血氣上逆し、人をして善く忘せしめる。

秋に絡脉を刺せば、氣は外を行かず、人をして臥して動くを欲せざるしむる。

秋に筋骨を刺せば、血氣内に散じ、人をして寒慄せしめる。

 

冬に經脉を刺せば、血氣皆脱し、人をして目明らかならざらしむる。

冬に絡脉を刺せば、内氣は外に泄れ、留まりて大痺を爲す。

冬に肌肉を刺せば、陽氣竭絶し、人をして善く忘せしめる。

 

凡此四時刺者.大逆之病.不可不從也.反之則生亂氣.相淫病焉.

故刺不知四時之經.病之所生.以從爲逆.正氣内亂.與精相薄.

必審九候.正氣不亂.精氣不轉.

帝曰善.

 

刺五藏.

中心一日死.其動爲噫.

中肝五日死.其動爲語.

中肺三日死.其動爲欬.

中腎六日死.其動爲嚔欠.

中脾十日死.其動爲呑.

刺傷人五藏.必死.其動則依其藏之所變.候知其死也.

五藏を刺し、

心に中れば一日にして死す。其の動は噫(い)を爲す。

肝に中れば五日にして死す。其の動は語を爲す。

肺に中れば三日にして死す。其の動は欬を爲す。

腎に中れば六日にして死す。其の動は嚔欠(ていけつ)と爲す。

脾に中れば十日にして死す。其の動は呑を爲す。

刺して人の五藏を傷れば、必ず死す。其の動は則ち其の藏の變ずる所に依りて、其の死するを候い知るなり。