鍼灸医学の懐

主に黄帝内経の意訳と解説 最後に原文と読み下しを記しています。その他、随時古典資料を追加しています。

1.手太陰 肺

   志ある学徒の、簡便な道具にならんことを願って読み下文を記しています。

 また初学者のため、重複の労をいとわずルビをふっています。

 誤りを見つけられましたら、どうかコメント欄に投稿をお願いいたします。

  底本 『霊枢』明刊無名氏本『新刊黄帝内経霊枢』日本内経医学会所蔵

 

正經

肺手太陰之脉.起于中焦.下絡大腸.還循胃口.上膈.屬肺.從肺系横出腋下.下循臑内.行少陰心主之前.下肘中.循臂内上骨下廉.入寸口.上魚.循魚際.出大指之端.

其支者.從腕後.直出次指内廉.出其端.

肺手の太陰の脉、①中焦に起こり、②下りて大腸を絡(まと)う。還(かえ)りて③胃口を循(めぐ)り、膈を上りて、肺に屬(ぞく)す。

肺系より④横に腋下(えきか)に出で、下りて臑内(じゅない)を循(めぐ)り、少陰心主の前を行き、肘中に下りて、臂内(ひない)上骨下廉を循(めぐ)り、寸口に入り、魚を上り、魚際を循(めぐ)り、大指の端に出ず。

その支なる者は、⑤腕後より直(ただ)ちに次指の内廉に出で、其の端に出ず。 

【解説】

① 中焦に起こり:中脘穴から、脾気昇清、肝昇発の気、任脈=腎の陰気を受け、肺は機能する。

② 下りて大腸を絡う:水分穴で大腸と表裏関係を繋ぐ。

水分穴は、文字通り腸胃の津液に関係する重要穴所であり、大腸と小腸の繋ぎ目である。すなわち大腸の上口であり、小腸の下口である。また下脘穴は胃の下口と小腸の上口であり、ここで足太陰は脾に属し、足陽明はこの部で脾を絡う。

③ 胃口を循り:上脘穴:足陽明が中脘穴と共に胃に属している。

④ 横に腋下に出で:肺募穴:中府穴。中焦の腑気を受ける。足太陰脾経と交会。肩髃穴と同様に、上焦の左右差が現れやすい。

⑤ 腕後より直ちに:絡穴:列欠 任脈主治穴。

 

正經病症

是動則病肺脹滿膨膨.而喘咳.缺盆中痛.甚則交兩手而.此爲臂厥.

是主肺所生病者..上氣喘渇(喝).煩心胸滿.臑臂内前廉痛.厥.掌中熱.

氣盛有餘則肩背痛.風寒汗出中風.小便數而欠.

氣虚則肩背痛寒.少氣不足以息.溺色變.

是れ動ずれば則ち病む。肺脹満し膨膨(ぼうぼう)として喘欬(ぜんがい)し、缺盆の中痛み、甚だしければ則ち両手を交えて①瞀(ぼう)す。此れ臂厥(ひけつ)と為す。

是れ肺を主として生ずる所の病の者は、欬(がい)し、上氣して※1喘渇(ぜいかつ)(喝(かつ))し、煩心し胸満し、臑臂(じゅひ)の内前廉痛みて厥(けつ)し、掌中熱す。

氣盛んにして有餘なれば則ち肩背痛み、風寒汗出で風に中(あた)れば、小便數(さく)にして欠す。

氣虚すれば則ち肩背痛みて寒す。少氣し息するに以って不足し、②溺色(じゃくしょく)攣(へん)ず。

【解説】

①瞀(ぼう):目がくらむこと。

②溺色(じゃくしょく):小便の色。

※原文は喘喝(ぜいかつ)で、あえぎながら声が大きい、太いこと。

 

經別

手太陰之正.別入淵腋.少陰之前.入走肺.散之大腸.上出缺盆.循喉.復合陽明.此六合也.

手太陰の正、別れて①淵腋(えんえき)少陰の前に入り、入りて肺に走り、②散じて大腸に之(ゆ)き、上りて缺盆に出で、喉嚨(こうろう)を循(めぐ)り、復(また)③陽明に合す。此れ六合なり。

 

【解説】

① 淵腋少陰の前に入り:淵腋:足少陽胆経 少陰:手少陰心経-極泉穴。腋下一寸五分のところ。

<霊枢・経脈篇>「脾之大絡.名曰大包.出淵腋下三寸.布胸脇.」大包穴は、腋下六寸。

肺経は、広く少陽部位にまで流注している。

② 散じて大腸に之き:肺・大腸の表裏関係が強調されている。散とは、広範囲を示す。部位的には、水分穴と天枢穴(大腸募)付近に連絡している。

③ 陽明に合す:水分穴・天枢穴と連絡し、頸部で再度手陽明と表裏関係を結んでいる。

 

經筋

手太陰之筋.起于大指之上.循指上行.結于魚後.行寸口外側.上循臂.結肘中.上臑内廉.入腋下.出缺盆.結肩前.上結缺盆.下結胸裏.散貫賁.合賁.下抵季脇.

手太陰の筋、大指の上に起こり、指を循(めぐ)りて上行し、魚後に結び、寸口の外側を行き、上りて臂(ひ)を循(めぐ)り、肘中に結び、臑(じゅ)の内廉を上り、①腋下に入り、缺盆に出で、肩の②前髃(ぜんぐう)に結び、上りて缺盆に結び、下りて胸裏に結び、③散じて賁を貫ぬき、賁に合し、下りて④季脇(きょう)に抵(あた)る。

【解説】

① 腋下:現代の腋より範囲が広く、当時は肩周囲を指していた。

② 前髃:交会穴、肩髃穴。ここでも表裏関係が結ばれる。

③ 散じて:広範囲であることの表現

④ 季脇に抵る:手足の少陽部位と合流する。

 

經筋病症

其病當所過者.支轉筋痛.甚成息賁.脇急吐血.

其の病、過ぐる所に當(あた)る者は、①支(つか)え転筋して痛む。甚しければ②息賁を為し、③脇急して④吐血す。

【解説】

① 支え転筋して痛む:つっぱり、引きつれるということ。

② 息賁:喘息様発作 経筋病症に裏証が現れているので、経筋の病は、運動器疾患が中心とはせず、臓腑こそ属絡していないが、正経と同じように扱うべきだろう。

③ 脇急:脇がひきつれる。

④ 吐血:ここでも裏証が記されているので、経筋は単に運動器のみと関係しているのではない。

 

絡脈

手太陰之別.名曰列缺.起于腕上分間.並太陰之經.直入掌中.散入于魚際.

手太陰の別、名づけて列缺と曰く。腕上分間に起こり、太陰の經に並び、直(ただ)ちに掌中に入り、①散じて魚際に入る。

【解説】

① 散じて魚際に入る:魚腹に現れる血絡の色で、寒熱を候うことができる。

 

絡脈病症

其病實則手鋭掌熱.虚則欠.小便遺數.取之去腕半寸.別走陽明也.

其の病、實すれば則ち①手の鋭(えい)掌熱す。虚すれば則ち②欠㰦(けっきょ)し、③小便遺數(いさく)す。之(これ)を腕を去ること半寸に取る。別れて陽明に走るなり。

【解説】

①手の鋭:舟状骨、母指球部の体感側。

② 欠㰦:欠-あくび 㰦-背伸び。陽気を巡らそうとする動作。

③小便遺數:小便が漏れたり回数が増えること。小便を貯留:保持できなくなる。腎気不固症状。