鍼灸医学の懐

主に黄帝内経の意訳と解説 最後に原文と読み下しを記しています。その他、随時古典資料を追加しています。

12.足厥陰 肝

   志ある学徒の、簡便な道具にならんことを願って読み下文を記しています。

 また初学者のため、重複の労をいとわずルビをふっています。

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  底本 『霊枢』明刊無名氏本『新刊黄帝内経霊枢』日本内経医学会所蔵

 

正經

肝足厥陰之脉.起于大指叢毛之際.上循足上廉.去内踝一寸.上踝八寸.交出太陰之後.上膕内廉.循股陰.入毛中.過陰器.抵小腹.挾胃.屬肝.絡膽.上貫膈.布脇肋.循喉之後.上入頏.連目系.上出額.與督脉會于巓.

其支者.從目系.下頬裏.環脣内.

其支者.復從肝別.貫膈.上注肺.

肝足厥陰の脉は、大指叢毛(そうもう)の際に起こり、上りて足跗(そくふ)の上廉を循(めぐ)り、内踝(ないか)を去ること一寸、踝(か)を上ること八寸、①太陰の後に交り出で、膕(かく)の内廉を上り、②股陰を循(めぐ)り、毛中に入り、③陰器を過ぎ、小腹に抵(あた)り、④胃を挾(はさ)み肝に屬(ぞく)し膽(たん)を絡(まと)う。上りて膈を貫き、⑤脇肋に布き、喉嚨(こうろう)の後を循(めぐ)り、上りて頏顙(こうそう)に入り、⑥目系に連なり、上りて額に出で、督脉と巓(てん)で會(かい)す。

其の支なる者は、目系より、頬裏を下り、⑦脣内(しんない)を環(めぐ)る。其の支なる者は、復(ま)た肝より別れ、膈を貫ぬき、上りて肺に注ぐ。

【解説】

①太陰の後に交り出で:陰陵泉付近で足太陰と交差する。足を走行する経絡は、互いに交わりながら主に身体を支える土台を形成する。

②股陰を循(めぐ)り:男女の生殖器を流注しており、妊娠・出産のほか、生殖器疾患に深くかかわる。

③陰器を過ぎ、小腹に抵(あた)り:女性の卵巣・子宮疾患には、瘀血が関係することが多々ある。この場合、脾統血、肝蔵血、腎固摂を破り肺気の粛降作用を利用して駆瘀血する。用いる経穴は合谷、三陰交、臨泣、刺法は瀉法である。

④胃を挾(はさ)み肝に屬(ぞく)し膽(たん)を絡(まと)う:肝は昇発、胃は和降であるため、虚実の兼ね合いはあるが、流注によって肝胃不和を説明することができる。また、肝の熱が胃に伝わると、過食や嘈雜を来しやすい。胃腸症状の主従の主が肝であれば、肝を治療すると奏功する。

⑤脇肋に布き:脇は胸の側面から脇腹にかけての広範囲の部分で、章門は、肝脾不和など肝と脾の状態が現れやすい。

⑥目系に連なり:目の裏に流注し、手少陰と交会して百会で督脈と交会する。このことから、眼底出血や視野の欠損などは、心・肝・胆を治療すれば回復を望むことができる。また百会を用いて、肝気上逆や内風を治めることができる。

⑦脣内(しんない)を環(めぐ)る:唇周囲は多くの経絡が関係するが、主に脾と肝の状態が現れる。唇の内側に生じる口内炎などは、肝を中心に肝脾との兼ね合いで診る。

 

正經病症

是動則病腰痛不可以俛仰.丈夫疝.婦人少腹腫.甚則乾.面塵脱色.是主肝所生病者.胸滿嘔逆.泄.狐疝.遺溺.閉

是れ動ずれば則ち病む。腰痛し以って俛仰(ふぎょう)すべからず。①丈夫は㿗疝(たいせん)し、婦人は少腹腫れ、甚だしければ則ち嗌(のど)乾き、②面塵(ちり)づいて色脱す。

是れ肝を主として生ずる所の病の者は、③胸満して嘔逆し、④飧泄(そんせつ)、⑤狐疝(こせん)、⑥遺溺(いじゃく)、⑦閉癃(へいりゅう)す。

【解説】

①丈夫は㿗疝(たいせん)し、婦人は少腹腫れ:男性は睾丸が腫れ痛み、女性は下腹部が腫れ痛む。女性は、生理痛などが連想される。

②面塵(ちり)づいて色脱す:顔面が煤けたようになり、顔色がさえない様子。

③胸満して嘔逆し:胸がいっぱいになり吐き気を催すこと。

④飧泄(そんせつ):筒下しの下痢、未消化便。

⑤狐疝(こせん):陰嚢ヘルニア

⑥遺溺(いじゃく):小便が漏れやすい、失禁する。

⑦閉癃(へいりゅう):「閉」は小便が全くでない状態。「瘤」は、小便がしたたり、スムーズに排泄できない状態。

 

經別

足厥陰之正.別上.上至毛際.合于少陽.與別倶行.此爲二合也.

足厥陰の正、跗(ふ)上に別れ、①上りて毛際に至り、少陽に合し、別と倶(とも)に行く。此れ二合と為すなり。

【解説】

①上りて毛際に至り、少陽に合し:足少陽正経と経別と合流し、主に足少陽の経別と関係を深める。

 

經筋

足厥陰之筋.起于大指之上.上結于内踝之前.上循脛.上結内輔之下.上循陰股.結于陰器.絡諸筋.

足厥陰の筋、大指の上に起り、上りて内踝(か)の前に結び、上りて脛を循(めぐ)り、上りて内輔(ないほ)の下に結び、上りて陰股を循(めぐ)り、陰器に結び、①諸筋を絡(まと)う。

【解説】

①諸筋を絡(まと)う:<類経>「陰器者、合太陰、厥陰、陽明、足少陽之筋、以及衝、任、督之脉皆聚于此、故曰宗筋」

 

經筋病症

其病足大指支内踝之前痛.内輔痛.陰股痛轉筋.陰器不用.傷於内.則不起.傷於寒.則陰縮入.傷於熱.則縱挺不收.

其の病足の大指支(つか)え、内踝(か)の前痛み、内輔(ないほ)痛み、陰股痛みて轉筋(てんきん)し、陰器用いず、内傷れば則ち起きず、寒に傷らるれば則ち陰縮み入り、熱に傷らるれば則ち縦挺(じゅうてい)して収まらず。

 

絡脈

足厥陰之別.名曰蠡溝.去内踝五寸.別走少陽.其別者.循脛上睾.結于莖.

足厥陰の別、名づけて蠡溝と曰く。内踝(か)を去ること五寸、別れて少陽に走る。其の別なる者は、脛を循(めぐ)り睾(こう)に上り、莖(けい)に結ぶ。

 

絡脈病症

其病氣逆則睾腫卒疝.實則挺長.虚則暴癢.取之所別也.

其の病、氣逆すれば則ち睾(こう)腫れ卒疝(そつせん)す。實すれば則ち挺(てい)長し、虚すれば則ち暴癢(ぼうよう)す。之(これ)を別れる所に取るなり。

 

※挺(てい)長…異常勃起 暴癢(ぼうよう)…異常に痒くなる