鍼灸医学の懐

主に黄帝内経の意訳と解説 最後に原文と読み下しを記しています。その他、随時古典資料を追加しています。

6.手太陽 小腸

   志ある学徒の、簡便な道具にならんことを願って読み下文を記しています。

 また初学者のため、重複の労をいとわずルビをふっています。

 誤りを見つけられましたら、どうかコメント欄に投稿をお願いいたします。

  底本 『霊枢』明刊無名氏本『新刊黄帝内経霊枢』日本内経医学会所蔵

 

正經

小腸手太陽之脉.起于小指之端.循手外側.上腕.出踝中.直上循臂骨下廉.出肘内側兩筋之閒.上循臑外後廉.出肩解.繞肩胛.交肩上.入缺盆.絡心.循咽下膈.抵胃.屬小腸.

其支者.從缺盆.循頚.上頬.至目鋭眥.却入耳中.

其支者.別頬.上抵鼻.至目内眥.斜絡于顴.

小腸手太陽の脉は、小指の端に起り、手の外側を循(めぐ)り、腕を上り、踝中(かちゅう)に出で、直(ただ)ちに上りて臂骨(ひこつ)の下廉を循(めぐ)り、肘の内側兩筋の閒(かん)に出で、上りて臑(じゅ)の外後廉を循(めぐ)り、①肩解に出で、肩胛(けんこう)を繞(めぐ)り、肩上に交り、缺盆に入り心を絡(まと)い、咽を循(めぐ)り膈を下り、②胃に抵(あた)りて小腸に屬(ぞく)す。

其の支なる者は、缺盆より頚を循(めぐ)り頬に上り、目の鋭眥(えいし)に至り、却(しりぞ)きて③耳中に入る。

其の支なる者は、頬に別れ④䪼(せつ)を上り鼻に抵(あた)り、⑤目の内眥(ないし)に至り、斜(なな)めに顴(けん)を絡(まと)う。

【解説】

① 肩解:肩峰~肩甲骨内上角~大椎穴付近。

② 胃に抵あたりて小腸に屬(ぞく)す:上脘・中脘穴と流注して下脘穴で小腸に属する。

③ 耳中:聴宮穴

④ 䪼を上り鼻に抵り:手足の陽明と合流。

⑤ 目の内眥:足太陽へと繋がる。

 

正經病症

是動則病痛頷腫.不可以顧.肩似拔.臑似折.是主液所生病者.耳聾.目黄.頬腫.頚頷肩臑肘臂外後廉痛.

是れ動ずれば則ち病む。嗌(のど)痛み頷(がん)腫れ、以て顧(かえり)みるべからず。肩抜けるに似(に)て臑(じゅ)折れるに似(に)る。①是れ液を主として生ずる所の病の者は、耳聾(じろう)し、目黄し、頬(ほほ)腫れ頚、頷(がん)、肩、臑(じゅ)、肘、臂(ひ)の外後廉痛む。

【解説】

① 液を主として生ずる所の病:津液の津は、比較的薄くさらりとしたもので移動し、液とは粘稠で関節や脳髄を満たして移動しにくい性質がある。この場合の液とは、精気(陰気)を指すのか、また小腸の泌別清濁機能・水湿運化機能の異常を指しているのか今後の臨床家の判断を待つところである。

 

經別

手太陽之正.指地.別于肩解.入腋.走心.繋小腸也.

手太陽の正、①地を指し、肩解に別れ、腋に入りて心に走り、②小腸に繋(つなが)るなり。

【解説】

① 地を指し:下行するという意味。

② 小腸に繋つながる:下脘穴であるのか、関元穴であるのか。今後の臨床に委ねる。

 

經筋

手太陽之筋.起于小指之上.結于腕.上循臂内廉.結于肘内鋭骨之後.彈之應小指之上.入結于腋下.

其支者.後走腋後廉.上繞肩胛.循頚.出走太陽之前.結于耳後完骨.

其支者.入耳中.直者.出耳上.下結于頷.上屬目外眥.

手太陽の筋、小指の上に起り、腕に結び、上りて臂(ひ)の内廉を循(めぐ)り、肘内鋭(えい)骨の後に結び、①之を弾ずれば小指の上に應(おう)じ、入りて腋下に結ぶ。

其の支なる者は、腋の後廉を後走し、上りて肩胛(けんこう)を繞(めぐ)り、頚を循(めぐ)り、出でて②太陽の前に走り、耳後の③完骨に結ぶ。其の支なる者は、耳中に入る。直なる者は、④耳上に出で、下りて頷(がん)に結び、上りて目の外眥(がいし)に屬(ぞく)す。

【解説】

① 之を弾ずれば小指の上に應おうじ:小海穴を弾じると、小指まで響く様。

② 太陽:足太陽

③ 完骨:足少陽と交会

④ 耳上に出で:角孫穴

 

經筋病症

其病小指支.肘内鋭骨後廉痛.循臂陰入腋下.腋下痛.腋後廉痛.繞肩胛.引頚而痛.應耳中鳴痛引頷.目瞑.良久乃得視.頚筋急則爲筋瘻頚腫.

其の病小指支(つか)え、肘内鋭骨(えいこつ)の後廉痛み、臂陰(ひいん)を循(めぐ)り腋下に入りて、腋下痛み、腋の後廉痛み、肩胛(けんこう)を繞(めぐ)り、頚に引きて痛み、耳中に應(おう)じて鳴り痛み頷(がん)に引き、①目瞑(もくめい)して良(やや)久しくすれば乃ち視ることを得、頚筋急すれば則ち②筋瘻(きんろう)し頚腫を為す。

【解説】

① 目瞑:視界がはっきりとしないこと。

② 筋瘻:瘰癧

 

絡脈

手太陽之別.名曰支正.上腕五寸.内注少陰.其別者.上走肘.絡肩

手太陽の別、名づけて支正と曰く。腕を上ること五寸、内(い)りて少陰に注ぐ。其の別なる者は、上りて肘に走り、肩髃を絡(まと)う。

 

絡脈病症

實則節弛肘廢.虚則生肬.小者如指痂疥.取之所別也.

實すれば則ち節弛(ゆる)み肘廢(すた)れる。虚すれば則ち①肬(ゆう)を生じ、小さき者は指の②痂疥(かかい)の如し。之(これ)を別れる所に取るなり。

【解説】

① 肬:イボ

② 痂疥:数が多く、カサブタができるイボ。

 

5.手少陰 心

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  底本 『霊枢』明刊無名氏本『新刊黄帝内経霊枢』日本内経医学会所蔵

 

正經

心手少陰之脉.起于心中.出屬心系.下膈.絡小腸.

其支者.從心系.上挾咽.繋目系.其直者.復從心系.却上肺.下出腋下.下循臑内後廉.行太陰心主之後.下肘内.循臂内後廉.抵掌後鋭骨之端.入掌内後廉.循小指之内.出其端.

心手少陰の脉は、①心中に起こり、出て心系に屬(ぞく)し、膈を下り、②小腸を絡まとう。

其の支なる者は、③心系より上りて咽を挾ばさみ、④目系に繋つながる。

其の直なる者は、復また心系より、却(しりぞき)て肺に上り、下りて腋下に出で、下りて臑内(じゅない)の後廉を循めぐり、太陰心主の後を行き、肘の内を下り、臂(ひ)の内後廉を循めぐり、⑤掌後鋭骨の端に抵あたり、掌の内の後廉に入り、小指の内を循めぐり、其の端に出ず。

【解説】

① 心中に起こり:<足太陰、其支者、復從胃別上膈、注心中>の流れを受けて。

② 小腸を絡う:下脘穴:足太陰と密接につながる。

③ 心系:四本の釣り糸と密接につながる。

④ 目系に繋がる:目の深いところ。足厥陰と合流する。足厥陰は、ここから百会へと流注する。

⑤ 掌後鋭骨の端:手根骨の豆状骨

 

正經病症

是動則病乾心痛.渇而欲飮.是爲臂厥.是主心所生病者.目黄.脇痛.臑臂内後廉痛厥.掌中熱痛.

是れ動ずれば則ち病む。嗌(のど)乾き①心痛し、渇して飲(いん)を欲す。是れ臂厥(ひけつ)と為す。是れ心を主として生ずる所の病の者は、目黄し、脇痛し、臑臂(じゅひ)の内後廉痛みて厥(けつ)し、掌中熱痛す。

【解説】

① 心痛:心下から膻中辺り。広範囲に捉える。

 

經別

手少陰之正.別入于淵腋兩筋之間.屬于心.上走喉.出于面.合目内眥.此爲四合也.

手少陰の正、別れて①淵腋兩筋の間に入り、心に屬(ぞく)し、上りて喉嚨(こうろう)に走り、面に出で、②目の内眥に合す。此れ四合と為すなり。

【解説】

① 淵腋兩筋の間:淵腋と極泉の間。

② 目の内眥に合す:足太陽、手太陽、足陽明と交会。神気の状態が現れる。

 

經筋

手少陰之筋.起于小指之内側.結于鋭骨.上結肘内廉.上入腋.交太陰.挾乳裏.結于胸中.循臂(賁).下繋于臍.

手少陰の筋、小指の内側に起り、鋭骨(えいこつ)に結び、上りて肘の内廉に結び、上りて腋に入り、太陰に交わり、乳裏に①伏し、胸中に結び、②賁を循(めぐり)、下りて③臍(さい)に繋つながる。

【解説】

① 伏し:原文は、「挟(はさ)み」。黄帝内経太素と楊上善の注釈に従って「伏」に改める。

②賁:原文は「臂(ひ)」。黄帝内経太素と鍼灸甲乙経に従って「賁」に改める。

③ 臍に繋がる:足太陰経筋と合流。

 

經筋病症

其病内急.心承伏梁.下爲肘網.其病當所過者.支轉筋筋痛.

…其成伏梁唾血膿者.死不治

其の病内(うち)急し、心は①伏梁(ぶくりょう)を承(う)け、下りて②肘網を為す。其の病の過ぎる所に當(あた)る者は、支(つか)え轉筋(てんきん)し筋痛む。

…其の伏梁成りて血膿を唾するは、③死して治せず。 

【解説】

①伏梁:心下の塊。心積。

②肘網:肘網とは、網に絡まったように稼働制限がある状態。

③死して治せず:ここでも経筋病が、単に筋肉の病で無いことを示している。

 

絡脈

手少陰之別.名曰通里.去腕一寸半.別而上行.循經入于心中.繋舌本.屬目系.

手の少陰の別、名づけて通里と曰く。腕を去ること一寸半、別れて上行し、經を循(めぐ)り心中に入り、舌本に繋(つな)がり、目系に屬す。

 

絡脈病症

其實則支膈.虚則不能言.取之掌後一寸.別走太陽也.

其れ實すれば則ち①支膈(しかく)し、虚すれば則ち言うこと能(あた)わず。之(これ)を掌後一寸に取る。別れて太陽に走るなり。

【解説】

①支膈(しかく):膈が痞えること。心下から胸元にかけて痞えた感じがする。

4.足太陰 脾

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正經

脾足太陰之脉.起于大指之端.循指内側白肉際.過核骨後.上内踝前廉.上内.循脛骨後.交出厥陰之前.上膝股内前廉.入腹.屬脾.絡胃.上膈.挾咽.連舌本.散舌下.

其支者.復從胃別上膈.注心中.

脾足の太陰の脉は、大指の端に起こり、①指の内側の白肉際を循(めぐ)り、核骨の後を過ぎて、②内踝の前廉を上り、踹(せん)内を上り、③脛骨(けいこつ)の後を循(めぐ)り、交わりて厥陰の前に出で、膝股の内の前廉を上り、腹に入り④脾に屬し胃を絡(まと)う。膈を上りて⑤咽を挾み、舌本に連なり、⑥舌下に散ず。

其の支なる者は、復(また)胃より別れて膈を上り、⑦心中に注ぐ。

【解説】

① 指の内側の白肉際を循(めぐ)り:湧泉・然谷ゾーンと重なる。衝脉は公孫から大衝へと流注する。

② 内踝の前廉を上り:足厥陰のゾーンと重なる。

③ 脛骨(けいこつ)の後を循(めぐ)り、交わりて厥陰の前に出で:陰陵泉付近で足厥陰と交差。

④ 脾に屬し胃を絡(まと)う:下脘穴で脾に属し、中脘穴で胃を絡う。

⑤ 咽:食道

⑥ 舌下に散ず:足太陰正経、足少陰正経・経別、足太陽経筋、手少陰絡脉が交会。舌裏に脾の状態が現れる。

⑦ 心中に注ぐ:心と脾は、心血と脾気などと深い関係にある。脾胃に異常があると、直ちに心神に影響が及ぶ。また心神の異常は、脾に及ぶこととなる。心脾両虚証の場合、病理過程を明らかにして、標本をよく噛分ける必要がある。

 

正經病症

是動則病舌本強.食則嘔.胃痛.腹脹善噫.得後與氣則快然如衰.身體皆重.

是主脾所生病者.舌本痛.體不能動搖.食不下.煩心.心下急痛.溏..泄.水閉.黄疸.不能臥.強立.股膝内腫厥.足大指不用.

是動ずれば則ち病む。①舌本強ばり、食すれば則ち嘔(おう)し、胃脘痛み、腹脹して善(よく)く②噫(い)す。③後(こう)と氣を得れば則ち快然として衰うが如し。身體(しんたい)皆重し。

是れ脾を主として生ずる所の病の者は、舌本痛み、④體(たい)動搖すること能(あた)わず。食下らず、⑤煩心し、心下急痛し、⑥溏(とう)し、⑦瘕(か)し、⑧泄(せっ)し、⑨水閉じ、⑩黄疸し臥(が)すること能(あた)わず、強いて立てば、股膝の内腫れて厥(けっ)し、足の大指用いず。

【解説】

① 舌本強ばり:話しづらい、しゃべりにくい、言語を明確に発することができないなども、脾気の失調と捉えてもよい。

② 噫(い)す:おくび。いわゆるゲップのこと。これら病症は、胃の和降失調症状である。

③ 後(こう)と氣:後ろとは、大便。気はガス。下に出るべきものが出ない不快感が、大便とガスの排泄によって解消されること。

④ 體(たい)動搖すること能(あた)わず:身体が重だるく、動きたくない、動かしがたい。

⑤ 煩心:この場合の心は、膻中付近から心下にかけての広い範囲。煩とは、何らかの熱によってモヤモヤとした感覚がして、落ち着かない様子。

⑥ 溏:泥状の軟便で、一度にすっきりと出ない状態。

⑦ 瘕:腹部に生じる堅いしこり。

⑧ 泄:下痢のこと。

⑨ 水閉じ:いわゆる癃閉のことで、排尿障害である。

⑩黄疸:陽黄と陰黄、虚実の別がある。陽黄は湿熱内蘊、陰黄は脾陽虚などによる寒湿内蘊などを考慮する。

 

經別

足太陰之正.上至髀.合于陽明.與別倶行.上結于咽.貫舌中.此爲三合也.

足太陰の正、①上りて髀(ひ)に至り、陽明に合し、②別與(と)倶(とも)に行(い)き、上りて咽に結び、舌中を貫く。此れ三合を為すなり。

【解説】

① 上りて髀(ひ)に至り:凡そ大腿部全面、血海穴付近から足陽明の経別と合流する。

② 別:足陽明経別のこと。<足陽明之正.上至髀.入于腹裏.屬胃.散之脾.上通于心.上循咽.出于口.上頞䪼.還繋目系.合于陽明也.>

 

經筋

足太陰之筋.起于大指之端内側.上結于内踝.其直者.絡于膝内輔骨.上循陰股.結于髀.聚于陰器.上腹.結于臍.循腹裏.結于肋.散于胸中.其内者.著于脊.

足太陰の筋、大指の端の内側に起り、上りて内踝に結(むす)ぶ。其の直なる者は、膝の①内輔骨(ないほこつ)を絡(まと)い、上りて陰股を循(めぐ)り、髀(ひ)に結(むす)び、②陰器に聚(あつ)まり、腹を上りて、③臍(さい)に結(むす)び、腹裏を循(めぐ)り、④肋に結(むす)び、胸中に散ず。其の内なる者は、⑤脊に著(つ)く。

【解説】

① 内輔骨(ないほこつ):陽陵泉付近。ここで足陽明、足少陽、足太陰が合する。

② 陰器に聚(あつ)まり:宗筋と合する。足少陰、足厥陰、足陽明、衝脉などが流注する。

③ 臍(さい)に結(むす)び:心の経筋と合す。臍が赤く爛れている場合、相当心神が病んで心脾内熱を起こしていることを示している。

④ 肋に結(むす)び:肝胆と合す。脾募章門穴、肝募期門穴との関係を示唆。

⑤ 脊に著(つ)く:陰器から他の陰経と深部を流注し、脊中穴付近に流注するのであろうか。(衝脉の流れに追随)

 

經筋病症

其病足大指支.内踝痛.轉筋痛.膝内輔骨痛.陰股引髀而痛.陰器紐痛.下(上)引臍兩脇痛.引膺中脊内痛.

其の病、足の大指支(つか)え、内踝痛み、轉筋(てんきん)して痛み、膝の内輔骨(ないほこつ)痛み、陰股より髀(ひ)に引きて痛み、陰器①紐痛(ちゅうつう)し、下(上)は臍(さい)と兩脇に引きて痛み、膺中(ようちゅう)に引きて脊の内痛む。

【解説】

① 紐痛:引っ張られるような痛み

 

絡脈

足太陰之別.名曰公孫.去本節之後一寸.別走陽明.其別者.入絡腸胃.

足太陰の別、名づけて①公孫と曰く。本節の後を去ること一寸、別れて陽明に走る。其の別なる者は、入りて腸胃を絡(まと)う。

【解説】

① 公孫:衝脉主治穴。衝脉流注は足の三陰経に関わり、さらに足陽明と深く関わる。三陰交との違いを明確にする必要がある。

 

絡脈病症

厥氣上逆則霍亂.實則腸中切痛.虚則鼓脹.取之所別也.

① 厥氣(けっき)上逆すれば則ち②霍亂(かくらん)し、實すれば則ち腸中③切痛(せっつう)し、虚すれば則ち④鼓脹(こちょう)す。之(これ)を別れる所に取るなり。

【解説】

① 厥気上逆:衝脉病症を意識し、上逆して心下が閉塞したものが虚証であれば、公孫穴で下に引いて開竅することができる。

② 霍乱:吐き下しが同時に起きる。

③ 切痛:切られるような、激しく鋭い痛み。

④鼓脹(こちょう):脹満のさらに進んだもの。お腹が大きく膨らむ様。腹水などもこの範疇に入る。

 

脾之大絡

脾之大絡.名曰大包.出淵腋下三寸.布胸脇.

脾の大絡(たいらく)、名づけて①大包と曰く。淵腋の下三寸に出で、②胸脇に布く。

【解説】

① 大包:心包との関係を重視。腋下三寸が淵腋穴。大包穴は腋下六寸となる。この付近は少陽部位であり、水邪が関係する懸飲との関係を思わせる。<金匱要略:脇下有水気>

② 胸脇に布く:肝胆と合して広く流注する。

※他経と異なり、足太陰にのみ脾の大絡が存在していることの意味は、心包概念とも深くかかわってくる。

 

絡脈病症

實則身盡痛.虚則百節盡皆縱.此脉若羅絡之血者.皆取之脾之大絡脈也.

實すれば則ち身盡(ことごと)く痛む。虚すれば則ち百節盡(ことごと)く皆縦(ゆる)む。此の脉①羅絡(ららく)の血の若き者は、皆之(これ)を脾の大絡(たい らく)に取るなり。

【解説】

①羅絡(ららく)の血の若き者:身体表面に現れる細絡。細絡は一般的には瘀血所見であるが、懸飲との関係をし察している。

3.足陽明 胃

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  底本 『霊枢』明刊無名氏本『新刊黄帝内経霊枢』日本内経医学会所蔵

 

正經

胃足陽明之脉.起於鼻.之交中.旁納太陽之脉(約).下循鼻外.入上齒中.還出挾口.環脣.下交承漿.却循頤後下廉.出大迎.循頬車.上耳前.過客主人.循髮際.至額顱.

其支者.從大迎前.下人迎.循喉.入缺盆.下膈.屬胃.絡脾.其直者.從缺盆.下乳内廉.下挾臍.入氣街中.

其支者.起于胃口.下循腹裏.下至氣街中而合.以下髀關.抵伏兔.下膝中.下循脛外廉.下足.入中指内閒.

其支者.下廉三寸而別.下入中指外閒.

其支者.別上.入大指間.出其端.

胃足陽明の脉、鼻に起こり、之(ゆ)きて①頞(あつ)中に交わり、旁(かたわ)ら太陽の脉を納め(約し)、下りて鼻外を循(めぐ)り、②上歯の中に入る。還(かえ)り出でて③口を扶み唇を環(めぐ)り、下りて承漿に交わる。却(しりぞ)いて頤(い)後の下廉を循(めぐ)り、大迎に出で、頬車を循(めぐ)り、耳前に上り、客主人を過ぎ、④髪際を循(めぐ)りて、額顱(がくろ)に至る。

其の支なる者は、大迎の前より、人迎に下り、喉嚨(こうろう)を循(めぐ)り、缺盆に入り、膈を下り⑤胃に屬(ぞく)し脾を絡(まと)う。

其の直なる者は、缺盆より、⑥乳の内廉を下り、下りて⑦臍(さい)を挾み、⑧氣街の中に入る。

⑨其の支なる者は、胃口に起り、下りて腹裏を循(めぐ)り、下りて氣街の中に至りて合す。以って髀關(ひかん)を下り、伏兎に抵(あた)り、⑩膝臏(しつびん)の中に下り、下って脛の外廉を循(めぐ)り、足附(そくふ)を下り、中指の内閒(ないかん)に入る。

⑪其の支なる者は、下廉三寸にして別れ、下りて中指の外閒に入る。

其の支なる者は、⑫跗上(ふじょう)に別れ、大指の間に入り其の端に出ず。

【解説】

① 頞中:いわゆる山根。両内眼角の中央で、気色診では心神を窺う。

② 上歯:主に手陽明は下歯、足陽明は上歯に関係する。

③ 口を扶み唇を環り:脾胃の状態がよく現れるところである。

④ 髪際を循りて、額顱に至る:頭維穴から任脈、神庭穴。この流注で、手足の陽明経が交わる。

⑤ 胃に屬し脾を絡う:上脘穴、下脘穴。

⑥ 乳の内廉を下り:乳房と関係する。乳輪は足厥陰との関係が深く、月経前後で色の変化がみられる。

⑦ 臍を挾み:大腸募穴:天枢穴

⑧ 氣街:気衝穴の別名。交会穴。 衝脉と交わる。

⑨ 其の支なる者は:前述の「膈を下り胃に屬し脾を絡う」流れを受けて再び流注する。

⑩ 膝臏の中に下り、下って脛の外廉を循り、足附を下り、中指の内閒に入る:缺盆穴から気衝穴に流注する二本の流れが、足三里から再び二本に分かれ、第二趾と第三趾へと流注する。

⑪ 其の支なる者は、下廉三寸にして別れ、下りて中指の外閒に入る:足三里穴から豊隆を通って第2厲兌へと流注する。

⑫ 跗上に別れ、大指の間に入り其の端に出ず:衝陽穴から足厥陰肝経の太衝穴・行間穴に流注して隱白穴へと繋がる。

 

正經病症

是動則病洒洒振寒.善呻數欠.顏黒.病至則惡人與火.聞木聲則然而驚.心欲動.獨閉戸塞而處.甚則欲上高而歌.棄衣而走.賁響腹脹.是爲骭厥.

是主血所生病者.狂瘧.温淫汗出.衄.口..頚腫喉痺.大腹水腫.膝腫痛.循膺.乳.氣街.股.伏兔.骭外廉.足上皆痛.中指不用.氣盛則身以前皆熱.其有餘于胃則消穀善飢.溺色黄.氣不足則身以前皆寒慄.胃中寒則脹滿.

是れ動ずれば則ち病む。洒洒(さいさい)として振寒し、善(よ)く呻(うめ)き數(しば)しば①欠し、②顔黒し。病至れば則ち人と火を惡(にく)み、③木聲(もくせい)を聞けば則ち④惕然(てきぜん)として驚き、⑤心動ぜんと欲し、⑥獨り戸を閉じ牖(まど)を塞ぎて處(しょ)す。甚だしければ則ち高きに上りて歌い、衣を棄てて走らんと欲す。⑦賁響(ふんぎょう)し腹脹す。是れ骭厥(かんけつ)と為す。

是れ血を主として生ずる所の病の者は、⑧狂瘧(きょうがい)し、⑨温淫(うんいん)して汗出で、鼽衄(きゅうじく)し、⑩口喎(こうか)し⑪唇胗(しんしん)し、⑫頚腫れ喉痺(こうひ)し、大腹水腫し、膝臏(しつびん)腫れ痛み、膺乳(ようにゅう)・氣街・股・伏兎・骭(かん)の外廉・足跗(そくふ)の上を循(めぐ)りて皆痛み、中指用いず。

氣盛んなれば則ち身より以て前皆熱す。其れ胃有餘(ゆうよ)すれば、則ち穀を消して善く飢え、⑬溺色(じゃくしょく)黄す。氣不足すれば則ち身より以て⑭前皆寒慄(かんりつ)し、胃中寒なれば則ち⑮脹滿す。

【解説】

① 欠:あくびの事。陽気が胃に鬱し、全身をめぐらないために生じる。

② 顔黒し:足少陽・足厥陰・足少陰の是動病でも見られる。熱で煤けるイメージと、足少陰の陽気の衰退、水邪の存在などが連想される。

③ 木聲:かん高い音。

④ 惕然:びくびくしたかのように。ハッとして驚く。

⑤ 心動ぜんと欲し:心が動揺して治まらない。

⑥ 濁り戸を閉し牖を塞ぎて處す:外界の刺激を避け、心神を安定させたいため。

⑦ 賁響し腹脹す:腸鳴がしてお腹が脹る。

⑧ 狂瘧:狂:興奮性の精神障害。瘧:悪寒戦慄と発熱が交互に現れる。

⑨ 温淫して汗出で:温邪に侵され、発汗している状態。同気相求む。

⑩ 口喎:口眼喎斜

⑪ 唇胗:口の周囲に出来物を生じる。

⑫ 頚腫れ:手大腸正経病証と同じく、甲状腺腫などに深く関係する。

⑬ 溺色:小便

⑭ 前皆寒慄:主に腹部が冷たくなり、ガタガタと震える様。

⑮ 脹滿:津液の代謝異常で、腹部が緩んでやや膨満した状態。

 

經別

足陽明之正.上至髀.入于腹裏.屬胃.散之脾.上通于心.上循咽.出于口.上頞䪼.還繋目系.合于陽明也.

足陽明の正、上りて髀(ひ)に至り、腹裏に入り、胃に屬(ぞく)し、散じて脾に之(ゆ)き、上りて①心に通じ、上りて咽を循(めぐ)り、口に出で、頞䪼(あんせつ)を上り、還(めぐ)りて②目系に繋(つな)がり、陽明に合するなり。

【解説】

①心に通じ:胃の腑の虚実が、心神に影響を与える。

②目系に繋がり:比較的浅い肌肉と関わり、麦粒腫などが現れるのは、胃の湿熱に因ることが多い。

 

經筋

足陽明之筋.起于中三指.結于上.邪外上加于輔骨.上結于膝外廉.直上結于髀樞.上循脇屬脊.其直者.上循骭.結于膝.

其支者.結于外輔骨.合少陽. 其直者.上循伏兔.上結于髀.聚于陰器.上腹而布.至缺盆而結.上頚.上挾口.合于.下結于鼻.上合于太陽.太陽爲目上網.陽明爲目下網.

其支者.從頬結于耳前.

足陽明の筋、①中三指に起り、跗上(ふじょう)に結び、邪(なな)めに外に上り②輔骨(ほこつ)に加わり、上りて膝の外廉に結ぶ。直(ただ)ちに上りて③髀枢(ひすう)に結び、上りて脇を循(めぐ)り脊に屬(ぞく)す。

其の直なる者は、上りて骭(かん)を循(めぐ)り、膝に結ぶ。

其の支なる者は、外輔骨(がいほこつ)に結び、少陽に合す。其の直なる者は、上りて伏兎を循(めぐ)り、上りて髀(ひ)に結び、④陰器に聚(あつ)まり、上りて腹に布き、缺盆に至りて結び、頚に上り、上りて口を挟み、頄(きゅう)に合し、下りて鼻に結び、上りて太陽に合す。⑤太陽は目の上網と爲(な)り、陽明は目の下網と爲(な)る。

其の支なる者は、頬より耳前に結ぶ。

【解説】

①中三指:足陽明と足少陽が関係しつつ衝陽穴に結ぶ。

②輔骨(ほこつ):陽陵泉穴。この部で足少陽と合流。

③髀枢(ひすう):環跳穴。ここから少陽部位の脇に流注する。脇の緊張・痛みは、足陽明が中心の場合もあるので、斟酌して判断する必要がある。

④陰器に聚(あつ)まり:陰器と宗筋は、関係が深く、足陽明と衝脉は宗筋で会する。

⑤太陽は目の上網と爲(な)り、陽明は目の下網と爲(な)る:上眼瞼は足太陽、下眼瞼は足陽明が主るが、拘泥しないこと。上眼瞼下垂や、麦粒腫などの上下眼瞼の疾患に関与する。

 

經筋病症

其病足中指支.脛轉筋.脚跳堅.伏兔轉筋.髀前腫.疝.腹筋急.引缺盆及頬.卒口僻.急者.目不合.熱則筋縱目不開.頬筋有寒則急.引頬移口.有熱則筋弛縱緩不勝收.故僻.

其の病、足の中指支(つか)え、脛(けい)轉筋(てんきん)し、脚跳(おど)りて堅く、伏兎轉筋(てんきん)し、髀(ひ)の前腫れ、①㿉疝(たいせん)し、腹筋急し、缺盆及び頬に引き、卒(にわ)かに②口僻(こうへき)す。急なる者は、目合わず。③熱すれば則ち筋縦(ゆる)み目開かず。頬筋に寒有れば則ち急し、頬を引きて口移す。熱有れば則ち筋弛縦(しじゅう)して緩み、収まるに勝たず。故に僻(へき)す。

【解説】

①㿉疝(たいせん):鼠経ヘルニアなど、陰嚢が腫れる病。

②口僻(こうへき):口眼喎斜。この場合、表裏を明確にすることが必要な場合が多い。

③熱すれば則ち:原則として熱気は弛緩、寒気は収斂させる。

 

絡脈

足陽明之別.名曰豐隆.去踝八寸.別走太陰.其別者.循脛骨外廉.上絡頭項.合諸經之氣.下絡喉

足陽明の別、名づけて豊隆と曰く。踝(か)を去ること八寸、別れて太陰に走る。其の別なる者は、脛骨(けいこつ)の外廉を循(めぐ)り、上りて①頭項を絡(まと)い、②諸經の氣に合し、下りて喉嚨(こうろう)を絡(まと)う。

【解説】

①頭項を絡(まと)い:陽明頭痛は額を中心であるが、項もまた凝ったり痛んだりする。

②諸經の氣に合し:複数の経絡が入り混じるため、病根となっている経絡を特定し、選穴するためには、多面的に斟酌して決定する必要がある。

 

絡脈病症

其病氣逆則喉痺瘁.實則狂顛.虚則足不收脛枯.取之所別也.

其の病、氣逆すれば則ち喉痺(こうひ)し①瘁瘖(そついん)す。實すれば則ち②狂顛(きょうてん)し、虚すれば則ち足収まらず脛(けい)枯れる。之(これ)を別れる所に取るなり。

【解説】

①瘁瘖(そついん):突然話せなくなる。聾唖。

②狂顛(きょうてん):狂ったかのような精神異常。

2.手陽明 大腸

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 また初学者のため、重複の労をいとわずルビをふっています。

 誤りを見つけられましたら、どうかコメント欄に投稿をお願いいたします。

  底本 『霊枢』明刊無名氏本『新刊黄帝内経霊枢』日本内経医学会所蔵

 

【正經】

大腸手陽明之脉.起于大指次指之端.循指上廉.出合谷兩骨之間.上入兩筋之中.循臂上廉.入肘外廉.上臑外前廉.上肩.出骨之前廉.上出于柱骨之會上.下入缺盆.絡肺.下膈.屬大腸.

其支者.從缺盆.上頚.貫頬.入下齒中.還出挾口.交人中.左之右.右之左.上挾鼻孔.

大腸手の陽明の脉、大指の次指の端に起こり、指の上廉を循(めぐ)り、合谷兩骨の間に出で、上りて兩筋の中に入り、臂(ひ)の上廉を循(めぐ)り、肘の外廉に入り、臑(じゅ)外の前廉を上り、肩に上り、①髃骨(ぐうこつ)の前廉に出ず。上りて②柱骨の會上(かいじょう)に出で、下りて缺盆に入り肺を絡(まと)い、膈を下りて③大腸に屬す。

其の支なる者は、缺盆より頚に上りて頬を貫き、④下齒中に入り、還(かえ)り出でて口を挾み人中に交わり、左は右に之(ゆ)き、右は左に之(ゆ)き、上りて鼻孔を挾む。

【解説】

① 髃骨:肩髃 交会穴

② 柱骨の會上:大椎 交会穴。手足の陽経は、すべて大椎穴に流注している。

③ 大腸に屬す:水分、天枢の両説有り。

④ 下齒中に入り:別名歯脉と称されるゆえん。

 

正經病症

是動則病齒痛頚腫.是主津液所生病者.目黄.口乾.衄.喉痺.肩前臑痛.大指次指痛不用.氣有餘則當脉所過者熱腫.虚則寒慄不復.

是れ勤ずれば則ち病む。①歯痛んで②頚腫る。是れ③津液を主として生ずる所の病の者は、目黄し口乾き、④鼽衄(きゅうじく)し⑤喉痹(こうひ)す。肩前の臑(じゅ)痛み、大指の次指痛みて用いず。氣有餘なれば則ち脉の過ぐる所に當(あた)る者は熱腫す。虚すれば則ち寒慄(かんりつ)して復せず。

【解説】

① 歯痛:別名歯脉と称されるゆえん。どちらかと言えば、下歯。上歯は足陽明との関係が深い。

② 頚腫:現代の甲状腺腫などが想起される。

③ 津液を主として生ずる所の病:津液との関係が深いことが分かる。病症を分析すれば、何らかの熱によって津液が障害されることが分かる。

④鼽衄(きゅうじく):鼻血

⑤喉痹(こうひ):扁桃腺炎。広く喉痛を指すこともある。

 

經別

手陽明之正.從手循膺乳.別于肩.入柱骨.下走大腸.屬于肺.上循喉.出缺盆.合于陽明也.

手陽明の正、手より①膺乳(ようにゅう)を循(めぐ)り、肩髃に別れ、柱骨に入り、下りて大腸に走り、肺に屬し、上りて喉嚨(こうろう)を循(めぐ)り、缺盆に出で、陽明に合するなり。

【解説】

① 膺乳を循り:足陽明と乳房で交わる。

 

經筋

手陽明之筋.起于大指次指之端.結于腕.上循臂.上結于肘外.上臑.結于

其支者.繞肩胛.挾脊.直者.從肩上頚.

其支者.上頬.結于.直者.上出手太陽之前.上左角.絡頭.下右頷.

手陽明の筋、大指の次指の端に起り、腕に結び、上りて臂(ひ)を循(めぐ)り、上りて肘外に結び、臑(じゅ)を上り、①髃(ぐう)に結ぶ。其の支なる者は、肩胛(けんこう)を繞(めぐ)り、脊を挾む。直なる者は、肩髃より頚を上る。

其の支なる者は、頬に上り、頄(きゅう)に結ぶ。直なる者は、上りて手太陽の前に出で、②左角を上り、頭を絡(まと)い、右頷(がん)に下る。

【解説】

① 髃に結ぶ:肩髃

② 左角を上り、頭を絡い、右頷に下る:陽明頭痛の部位。前額髪際を大きくめぐり、左右交差し、手足の陽経を束ねるように交わる。(維筋相交:足少陽経筋病症参考)

 

經筋病症

其病當所過者.支痛及轉筋.肩不擧.頚不可左右視.

其の病、過ぎる所に當(あた)る者は、支(つか)え痛み及び転筋し、肩擧(あが)らず、頚左右を視るべからず。

 

絡脈

手陽明之別.名曰偏歴.去腕三寸.別入太陰.其別者.上循臂.乘肩.上曲頬偏齒.其別者.入耳.合于宗脉.

手陽明の別、名づけて偏歴と曰く。腕を去ること三寸、別れて太陰に入る。其の別なる者は、上りて臂(ひ)を循(めぐ)り、肩髃に乗じ、曲頬(きょくきょう)を上り齒に偏す。其の別なる者は、耳に入りて①宗脉に合す。

【解説】

 ①宗脉:宗とは、大元、本源的との意味があり、耳で音を聞くことができるのは、腎の納気・固摂作用との関係が深い。

1.手太陰 肺

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正經

肺手太陰之脉.起于中焦.下絡大腸.還循胃口.上膈.屬肺.從肺系横出腋下.下循臑内.行少陰心主之前.下肘中.循臂内上骨下廉.入寸口.上魚.循魚際.出大指之端.

其支者.從腕後.直出次指内廉.出其端.

肺手の太陰の脉、①中焦に起こり、②下りて大腸を絡(まと)う。還(かえ)りて③胃口を循(めぐ)り、膈を上りて、肺に屬(ぞく)す。

肺系より④横に腋下(えきか)に出で、下りて臑内(じゅない)を循(めぐ)り、少陰心主の前を行き、肘中に下りて、臂内(ひない)上骨下廉を循(めぐ)り、寸口に入り、魚を上り、魚際を循(めぐ)り、大指の端に出ず。

その支なる者は、⑤腕後より直(ただ)ちに次指の内廉に出で、其の端に出ず。 

【解説】

① 中焦に起こり:中脘穴から、脾気昇清、肝昇発の気、任脈=腎の陰気を受け、肺は機能する。

② 下りて大腸を絡う:水分穴で大腸と表裏関係を繋ぐ。

水分穴は、文字通り腸胃の津液に関係する重要穴所であり、大腸と小腸の繋ぎ目である。すなわち大腸の上口であり、小腸の下口である。また下脘穴は胃の下口と小腸の上口であり、ここで足太陰は脾に属し、足陽明はこの部で脾を絡う。

③ 胃口を循り:上脘穴:足陽明が中脘穴と共に胃に属している。

④ 横に腋下に出で:肺募穴:中府穴。中焦の腑気を受ける。足太陰脾経と交会。肩髃穴と同様に、上焦の左右差が現れやすい。

⑤ 腕後より直ちに:絡穴:列欠 任脈主治穴。

 

正經病症

是動則病肺脹滿膨膨.而喘咳.缺盆中痛.甚則交兩手而.此爲臂厥.

是主肺所生病者..上氣喘渇(喝).煩心胸滿.臑臂内前廉痛.厥.掌中熱.

氣盛有餘則肩背痛.風寒汗出中風.小便數而欠.

氣虚則肩背痛寒.少氣不足以息.溺色變.

是れ動ずれば則ち病む。肺脹満し膨膨(ぼうぼう)として喘欬(ぜんがい)し、缺盆の中痛み、甚だしければ則ち両手を交えて①瞀(ぼう)す。此れ臂厥(ひけつ)と為す。

是れ肺を主として生ずる所の病の者は、欬(がい)し、上氣して※1喘渇(ぜいかつ)(喝(かつ))し、煩心し胸満し、臑臂(じゅひ)の内前廉痛みて厥(けつ)し、掌中熱す。

氣盛んにして有餘なれば則ち肩背痛み、風寒汗出で風に中(あた)れば、小便數(さく)にして欠す。

氣虚すれば則ち肩背痛みて寒す。少氣し息するに以って不足し、②溺色(じゃくしょく)攣(へん)ず。

【解説】

①瞀(ぼう):目がくらむこと。

②溺色(じゃくしょく):小便の色。

※原文は喘喝(ぜいかつ)で、あえぎながら声が大きい、太いこと。

 

經別

手太陰之正.別入淵腋.少陰之前.入走肺.散之大腸.上出缺盆.循喉.復合陽明.此六合也.

手太陰の正、別れて①淵腋(えんえき)少陰の前に入り、入りて肺に走り、②散じて大腸に之(ゆ)き、上りて缺盆に出で、喉嚨(こうろう)を循(めぐ)り、復(また)③陽明に合す。此れ六合なり。

 

【解説】

① 淵腋少陰の前に入り:淵腋:足少陽胆経 少陰:手少陰心経-極泉穴。腋下一寸五分のところ。

<霊枢・経脈篇>「脾之大絡.名曰大包.出淵腋下三寸.布胸脇.」大包穴は、腋下六寸。

肺経は、広く少陽部位にまで流注している。

② 散じて大腸に之き:肺・大腸の表裏関係が強調されている。散とは、広範囲を示す。部位的には、水分穴と天枢穴(大腸募)付近に連絡している。

③ 陽明に合す:水分穴・天枢穴と連絡し、頸部で再度手陽明と表裏関係を結んでいる。

 

經筋

手太陰之筋.起于大指之上.循指上行.結于魚後.行寸口外側.上循臂.結肘中.上臑内廉.入腋下.出缺盆.結肩前.上結缺盆.下結胸裏.散貫賁.合賁.下抵季脇.

手太陰の筋、大指の上に起こり、指を循(めぐ)りて上行し、魚後に結び、寸口の外側を行き、上りて臂(ひ)を循(めぐ)り、肘中に結び、臑(じゅ)の内廉を上り、①腋下に入り、缺盆に出で、肩の②前髃(ぜんぐう)に結び、上りて缺盆に結び、下りて胸裏に結び、③散じて賁を貫ぬき、賁に合し、下りて④季脇(きょう)に抵(あた)る。

【解説】

① 腋下:現代の腋より範囲が広く、当時は肩周囲を指していた。

② 前髃:交会穴、肩髃穴。ここでも表裏関係が結ばれる。

③ 散じて:広範囲であることの表現

④ 季脇に抵る:手足の少陽部位と合流する。

 

經筋病症

其病當所過者.支轉筋痛.甚成息賁.脇急吐血.

其の病、過ぐる所に當(あた)る者は、①支(つか)え転筋して痛む。甚しければ②息賁を為し、③脇急して④吐血す。

【解説】

① 支え転筋して痛む:つっぱり、引きつれるということ。

② 息賁:喘息様発作 経筋病症に裏証が現れているので、経筋の病は、運動器疾患が中心とはせず、臓腑こそ属絡していないが、正経と同じように扱うべきだろう。

③ 脇急:脇がひきつれる。

④ 吐血:ここでも裏証が記されているので、経筋は単に運動器のみと関係しているのではない。

 

絡脈

手太陰之別.名曰列缺.起于腕上分間.並太陰之經.直入掌中.散入于魚際.

手太陰の別、名づけて列缺と曰く。腕上分間に起こり、太陰の經に並び、直(ただ)ちに掌中に入り、①散じて魚際に入る。

【解説】

① 散じて魚際に入る:魚腹に現れる血絡の色で、寒熱を候うことができる。

 

絡脈病症

其病實則手鋭掌熱.虚則欠.小便遺數.取之去腕半寸.別走陽明也.

其の病、實すれば則ち①手の鋭(えい)掌熱す。虚すれば則ち②欠㰦(けっきょ)し、③小便遺數(いさく)す。之(これ)を腕を去ること半寸に取る。別れて陽明に走るなり。

【解説】

①手の鋭:舟状骨、母指球部の体感側。

② 欠㰦:欠-あくび 㰦-背伸び。陽気を巡らそうとする動作。

③小便遺數:小便が漏れたり回数が増えること。小便を貯留:保持できなくなる。腎気不固症状。

標本病傳論篇第六十五.

 ともすれば、今現在目の前に現れた症状に対して、どのように捉え、どこからアプローチするのかという問題提示されているところです。

 これは、<傷寒論>における原則のひとつである「先表後裏」にも通じる概念であると思います。

 <傷寒論>の原則は「先表後裏」であっても、逆の「先裏後標」にすべき病態であったり、「表裏同治」すべき病態があります。

 これらのことは、原文中の以下の文章に端的に述べられています。

 

「夫れ陰陽の逆從、標本の道たるや、小にして大なり。一を言いて百病の害を知る。

少にして多なり、淺にして博し。以て一を言いて百を知るべきなり。淺を以て深きを知り、近きを察して遠きを知る。標と本とを言うは、易くして及ぶことなし。」

 

 また病の伝変に関しては、五行論的に解かれていますが、この記述をそのまま臨床に用いるには難があると思います。

 筆者なりに論旨を取るならば、病は一定のものでなく、伝変して変化するものであるから、やはり「陰陽の逆従、標本の道」に法り病態把握し、治療するのが良いと説いていると考えています。

 全体としては、本篇で述べられている標本の考え方の重要性を、改めて認識した次第です。

 

           意 訳

 黄帝が申された。

 病には、標本の区別があり、刺法にもまた柔逆があるが、これはどういうことであろうか。

 岐伯が答えて申された。

 おおよそ刺法の法則は、まず必ず陽病と陰病を明確に別けることであります。

 そして病が、どのような症状から始まり、新たにどのような症状が加わったのかなどの先病・後病、病の経過を明確に捉えます。

 このような前提を満たしますと、刺鍼に際しては正誤を正確に弁えることが出来ます。

 そしてさらには、標治・本治のどちらを優先し、どちらを後に施すのかが、自由に行えるようになるのであります。

 従いまして、標証を目標として標治を行う場合。

 本証を目標として本治を行う場合。

 本証を目標にして標治を行う場合。

 標証を目標にして本治を行う場合があります。

 

 また、標治を行って治るもの、本治を行って治るものがあります。

 また先病を治して治るもの、後病を治して治るものがありますので、この道理を知って正しく治療を行いますと、疑念すら生じません。

 そして、標本の道理を知れば、どのような治療に治療を施しても、すべて治すことが出来ます。

 反対に、標本の道理を知らないで施す治療を、妄行というのであります。

 陰陽の逆従と標本の道理は、簡素ではありますがその意味するところは広大であります。

 此の道理を心得ておるものが一言語る背景には、あらゆる病の害をすでに知り得ているものであります。

 数少ない症候をサッと聞いただけで多くを推し測ることができますので、語るに僅か一言であっても、すべてを見通しているものです。

 ですから表面から候って深部を知ることが出来ますし、現在の証候を聞いて病を発した過去にまでその見識が及ぶものであります。

 標本の道理は、簡単ではありますが、実際に用いるとなるとなかなか容易ではありません。

 治療して悪化するのは逆であり、効果を得る場合は、従であります。

 先に病が生じた後になって次第に気血が逆乱する場合は、先病を本として治します。

 先に気血が逆乱した後に病を生じたのであれば、本である気血の逆乱を先病として治します。

 先に身体が寒して後に病を生じた場合は、寒証を本として治します。

 先に病を得て後に寒証となった場合は、その先病を本として治します。

 先に身体が熱して後に中満を生じた場合は、邪実が進行するので、後に生じた中満を標として先に治します。

 先に下痢を起こし、後に他病を生じる場合は、正気が泄れますので下痢を本として先に治療します。

 このような場合、必ず時間をかけてでも下痢症状を調え治まってから、その後に生じた病を治すのであります。

 先ず病を得て後に中満とするものは、やはり邪実が進行しますので、中満を標として先に治します。

 先に中満となり、煩心するようでしたら、邪実である中満を本として先に治します。

 人の病の原因には、客気である外邪によるものと、同気である内邪によるものとがあります。

 病を得て大小便が通じなくなっているのでしたら、邪実を通利させるために大小便の不通を標として治します。

 反対に、大小便が通利しておりましたなら、先病を本として先に治します。

 

 以下、一般的な病の伝変していく証候を述べます。

 心の病は、先ず心痛するのが特徴で、一日しますと肺に伝変して咳をするようになります。

 三日しますと、病は肝に伝変して脇が支えて痛みます。

 五日しますと脾に伝変して大小便が閉塞して通じなくなり、身体が痛む上に重く感じるようになります。

 ここからさらに三日経って治らないようでしたら、死します。冬であれば夜半に、夏であれば日中がその死する時期であります。

 

 肺の病は、喘咳が起こります。

 三日しますと肝に伝変して脇が支えて痛みます。

 さらに一日経ちますと脾に伝変して身体が重い上に痛むようになります。

 さらに五日経ちますと胃に伝変してお腹が脹るようになります。

 さらに十日経って治らないようでしたら、死します。

 冬であれば日没時、夏であれば日の出がその死する時期です。

 

 脾の病は、身体が痛んで重く感じます。

 一日しますと胃に伝変して脹ってきます。

 二日しますと腎に伝変して少腹や腰脊部が痛んで脛がだるくなります。

 三日しますと膀胱に伝変して背部の筋骨が痛んで小便が出なくなります。

 十日経って治らないようでしたら、死します。

 冬でありましたら人が寝静まったころ、夏ですと夕食頃がその死する時期であります。

 

 肝の病は、頭や目がクラクラとしてめまいがし、脇が支えて満となります。

 三日しますと、脾に伝変して身体が重く感じるようになりまして痛みます。

 さらに五日経ちますと胃に伝変してお腹が脹ります。

 さらに三日しますと、腎に伝変して腰脊部や少腹部が痛み、脛がだるくなります

 さらに三日経って治らないようでしたら、死します。

 冬でありましたら、日没時、夏でしたら朝食頃がその死する時期であります。

 

 腎の病は、小腹や腰脊部が痛み、脛がだるくなります。

 三日しますと、膀胱に伝変して背部の筋骨が痛んで小便が出なくなります。

 さらに三日しますと胃に伝変してお腹が脹ってきます。

 さらに三日しますと、肝に伝変して両脇が支えて痛みます。

 三日経って治らないようでしたら、死します。

 冬でしたら夜明けの頃、夏でしたら夕暮れ時がその死する時期であります。

 

 胃の病は、お腹が脹滿します。

 五日しますと腎に伝変して少腹と腰脊部が慰安で脛がだるくなります。

 さらに三日しますと、膀胱に伝変して背部の筋骨が痛んで小便が出なくなります。

 さらに五日しますと脾に伝変して身体が重く感じます。

 六日経って治らないようでしたら、死します。

 冬でしたら夜半に、夏は夕方頃がその死する時期です。

 

 膀胱の病は、小便が止まります。

 五日しますと腎に伝変して少腹が脹り、腰脊が痛んで脛がだるくなります。

 一日しますと、胃に伝変してお腹が脹ります。さらに一日しますと、脾に伝変して身体が痛みます。

 二日経って治らないようでしたら、死します。

 冬は夜明けの鶏鳴の頃、夏は午後過ぎから夕方頃がその死する時期です。

 

 諸病は、上述のように、順序に従って伝変して参ります。

 このように次々に伝変する経過をたどるものは、すべて死期がありますので、刺鍼は行いません。

 ところが病の伝変が一臓の間で留まる場合、例えば木が土に伝変しただけの場合は刺鍼します。

 さらにまた伝変が三、四臓に至るも、そこで伝変が止まるような場合は、刺鍼して治すべきであります。

 

        原文と読み下し

 

黄帝問曰.病有標本.刺有逆從.奈何.

岐伯對曰.

凡刺之方.必別陰陽.前後相應.逆從得施.標本相移.

故曰.

有其在標而求之於標.

有其在本而求之於本.

有其在本而求之於標.

有其在標而求之於本.

故治有取標而得者.

有取本而得者.

有逆取而得者.

有從取而得者.

故知逆與從.正行無問.

知標本者.萬擧萬當.

不知標本.是謂妄行.

黄帝問うて曰く。病に標本有り、刺に逆從有りとは、いかなるや。

岐伯對えて曰く。

凡そ刺の方は、必ず陰陽を別ち、前後相い應じ、逆從施すを得、標本相移す。

故に曰く。

其れ標に在りて之を標に求むる有り。

其れ本に在りて之を本に求むる有り。

其れ本に在りて之を標に求むる有り。

其れ標に在りて之を本に求むる有り。

故に治には標を取りて得るもの有り。

本を取りて得るもの有り。

逆を取りて得るもの有り。

從を取りて得るもの有り。

故に逆と從を知れば、正しく行きて問うこと無し。

標本を知る者は、萬擧して萬當す。

標本を知らざるは、是れ妄行と謂う。

 

夫陰陽逆從.標本之爲道也.小而大.言一而知百病之害.

少而多.淺而博.可以言一而知百也.

以淺而知深.察近而知遠.言標與本.易而勿及.

治反爲逆.治得爲從.

先病而後逆者.治其本.

先逆而後病者.治其本.

先寒而後生病者.治其本.

先病而後生寒者.治其本.

先熱而後生病者.治其本.

先熱而後生中滿者.治其標.

先病而後泄者.治其本.

先泄而後生他病者.治其本.

必且調之.乃治其他病.

先病而後中滿者.治其標.

先中滿而後煩心者.治其本.

人有客氣.有同氣.

小大不利.治其標.

小大利.治其本.

夫れ陰陽の逆從、標本の道たるや、小にして大なり。一を言いて百病の害を知る。

少にして多なり、淺にして博し。以て一を言いて百を知るべきなり。淺を以て深きを知り、近きを察して遠きを知る。

標と本とを言うは、易くして及ぶことなし。

治して反するを逆と爲し、治して得るを從と爲す。

先ず病みて後に逆する者は、其の本を治す。

先ず逆して後に病む者は、其の本を治す。

先ず寒して後に病を生ずる者は、其の本を治す。

先ず病みて後に寒を生ずる者は、其の本を治す。

先ず熱して後に病を生ずる者は、其の本を治す。

先ず熱して後に中滿を生ずる者は、其の標を治す。

先ず病みて後に泄する者は、其の本を治す。

先ず泄して後に他病を生ずる者は、其の本を治す。

必ず且(しばら)くこれを調えて、乃ち其の他病を治す。

先ず病みて後に中滿する者は、其の標を治す。

先ず中滿して後に煩心する者は、其の本を治す。

人に客氣有り、同氣有り。

小大利ならざれば、其の標を治す。

小大利なれば、其の本を治す。

 

病發而有餘.本而標之.先治其本.後治其標.

病發而不足.標而本之.先治其標.後治其本.

病發して有餘なれば、本にしてこれを標とす。先ず其の本を治し、後に其の標を治す。

病發して不足なれば、標にしてこれを本とす。先ず其の標を治し、後に其の本を治す。

 

夫病傳者.心病.先心痛.一日而欬.

三日脇支痛.五日閉塞不通.身痛體重.

三日不已死.冬夜半.夏日中.

夫れ病の傳うる者は、心病むは先ず心痛す。

一日にして欬す。三日にして脇支痛す。五日にして閉塞して通ぜず、身痛し體重す。

三日にして已えざれば死す。冬は夜半、夏は日中。

 

肺病.喘欬.三日而脇支滿痛.

一日身重體痛.五日而脹.

十日不已死.

冬日入.夏日出.

肺病めば、喘欬す。三日にして脇支滿して痛む。

一日にして身重く體痛す。五日にして脹す。

十日にして已えざれば死す。

冬は日入、夏は日出。

 

肝病.頭目眩.脇支滿.三日體重身痛.

五日而脹.三日腰脊少腹痛.脛痠.

三日不已死.

冬日入.夏早食.

肝病めば、頭目は眩(くら)み、脇は支滿す。三日にして體重し身痛す。

五日にして脹す。三日にして腰脊少腹痛み、脛痠(さん)す。

三日にして已えざれば死す。

冬は日入、夏は早食。

 

脾病.身痛體重.一日而脹.

二日少腹腰脊痛.脛痠.

三日背月呂筋痛.小便閉.

十日不已死.

冬人定.夏晏食.

脾病めば、身痛し體重す。一日にして脹す。

二日にして少腹腰脊痛み、脛痠す。

三日にして背【月呂】筋痛み、小便閉す。

十日にして已えざれば死す。

冬人定、夏晏食。

 

腎病.少腹腰脊痛.【月行】痠.三日背月呂筋痛.小便閉.

三日腹脹.

三日兩脇支痛.三日不已死.

冬大晨.夏晏昳.

腎病めば、少腹腰脊痛みて【月行】痠す。三日にして背【月呂】筋痛み、小便閉す。

三日にして腹脹る。

三日して兩脇支痛す。三日にして已えざれば死す。

冬は大晨、夏は晏昳(あんてつ)。

 

 

胃病.脹滿.五日少腹腰脊痛.【月行】痠.

三日背月呂筋痛.小便閉.

五日身體重.

六日不已死.

冬夜半後.夏日昳.

胃病めば、脹滿す。五日にして少腹腰脊痛み、【月行】痠す。

三日にして背【月呂】筋痛み、小便閉す。

五日にして身體重し。

六日にして已えざれば死す。

冬は夜半後、夏は日昳。

 

膀胱病.小便閉.五日少腹脹.腰脊痛.【月行】痠.

一日腹脹.

一日身體痛.

二日不已死.

冬鷄鳴.夏下晡.

膀胱病めば、小便閉ず。五日にして少腹脹し、腰脊痛みて【月行】痠す。

一日にして腹脹す。

一日にして身體痛む。

二日にして已えざれば死す。

冬鷄鳴.夏下晡.

諸病以次是相傳.如是者.皆有死期.不可刺.間一藏止.及至三四藏者.乃可刺也.

諸病は次(ついで)を以て是れ相い傳う。是の如き者は、皆死期有り。刺すべからず。間一藏に止まり、及び三四藏に至る者は、乃ち刺す可きなり。

 

四時刺逆從論篇第六十四.

  本篇は、四時陰陽の消長により気血が浮沈し、それによって気血が大きく偏った場合の、モデルになる病症を挙げ、さらに鍼の深度の目安を述べているに過ぎないと考えています。

 本編で述べられている、例えば冒頭の厥陰が臓或いは経脉を指しているのかは定かではないように思います。

 そこにこだわるよりも、季節による病理変化の法則性を捉えることが、臨床上有益かと考えています。

 また、例えば意訳文中の狐疝風や脾風疝などの五臓風疝に関しては、様々な解釈がされていますので、意訳しておりません。

 また痹病に関しては、過去ブログを参照して頂けたらと思います。

  痹論篇第四十三.

 

          意 訳

 厥陰が有余すると、陰気が盛んとなって塞がるようになり、陰痺を病みます。

 反対に、不足すると相対的に陽気が盛んとなりますので、熱痺の病を生じます。

 脈滑であれば、狐疝風を病みます。

 脈濇でありますと、小腹が積気となり結塊を生じます。

 

 少陰が有余しますと、皮痺や小さなおできである隠疹を病みます。

 不足すると、肺痹を病みます。

 脈滑であれば、肺風疝を病みます。

 脈濇であれば、積して尿に血が混じるようになります。

 

 太陰が有余しますと、肉痹寒中を病みます。

 不足しますと、脾痹を病みます。

 脈滑であれば、脾風疝を病みます。

 脈濇であれば、積して時に心腹が満となる病となります。

 

 陽明が有余しますと、脉痺となり時に身体が熱します。

 不足しますと、心痹を病みます。

 脈滑であれば、心風疝を病みます。

 脈濇であれば、積して時によく驚する病となります。

 

 太陽が有余しますと、骨痹となり、身体が重くなります。

 不足しますと、腎痹を病みます。

 脈滑であれば、腎風疝を病みます。

 脈濇であれば、積してよく突然巓疾を起こす病となります。

 

 少陽が有余しますと、筋痹を病み、胸満となります。

 不足しますと、肝痹を病みます。

 脈滑であれば、肝風疝を病みます。

 脈濇であれば、積して時に筋が引きつり目痛を病みます。

 

 これらの理由は、人体の気が四時の気に応じているからであります。

 従って、春の気は経脈に在り、夏の気は孫絡に在り、長夏の気は肌肉に在り、秋の気は皮膚に在り、冬の気は骨髄に在ります。

 

 黄帝が申された。

 願わくばその理由を聞きたいのであるが。

 岐伯が申された。

 春は天の気が開き始め、地気は泄れ始める時であります。

 凍ったものは解け、氷は水となって流れるように、経脈もまた通じる時期であります。ですから、人の気もまた脉にあるのであります。

 夏は経がいっぱいとなって孫絡に流れ込み、その血を受けて皮膚もまた充実するものであります。

 長夏は、経も絡もすべて盛んでありますので、肌中にあふれるようになります。

 秋は天の気が閉じ始め、湊理もまた閉塞するので皮膚もまた収斂して縮みます。

 冬は臓の気を密閉する蓋蔵の時期で、血気は体内に在って深いところでは骨髄を満たし、五臓の気血に通じています。

 

 ですから、邪気もまた四時の変化に応じて動く気血に随って、侵入して舍るようになります。

 ところがその四時の変化に至っては、きっちりと予測はできませんが、その経気の流れに従って邪を取り除けば、邪によって気が乱れて病を生じることも無いのであります。

 

 帝が申された。

 四時の気の変化に逆らい、乱気を生じるというのは、どういうことなのか。

 岐伯が申された。

 春は、気が経脈に在ります。その春に絡脉を刺しますと血気は外にあふれ、息切れなどの少気を起こします。

 同様に春に肌肉を刺しますと、血気は同じところを逆流するので、上気致します。

 そして筋骨を刺しますと、血気は内にこもって腹脹となります。

 

 夏は、気が孫絡に在ります。その夏に経脈を刺しますと、血気が尽きてしまい、身体がだらりと無力になります。

 夏に肌肉を刺しますと、血気は内に退いてしまい、よく恐れるようになります。

 夏に筋骨を刺しますと、血気は上逆し、よく怒るようになります。

 

 秋は、気が皮膚に在ります。その秋に経脈を刺しますと、血気は上逆して健忘となります。

 そして秋に、絡脉を刺しますと、気が外に行らなくなり、横になって寝たがり、動くことを欲しなくなります。

 さらに秋に、筋骨を刺しますと、血気は身体内で散ってしまい、寒慄するようになります。

 

 冬は、気が骨髄に在ります。その冬に経脈を刺しますと、血気はすべて脱してしまい、目がはっきりと見えなくなります。

 そして冬に絡脉を刺しますと、体内の気は外に泄れてしまい、そこに邪が入り込んで留まり大痹となります。

 さらに冬に肌肉を刺しますと、陽気は絶えてしまい、よく健忘するようになります。

 

 おおよそこれらは四時の刺法に大いに逆したためであり、この法則には従うべきである。

 もしこの法則に反すると気が乱れ、また邪気も侵入して居座るので病となるのであります。

 ですから、刺鍼の際には四時の法則と、病がどこに生じているのかを知らないで逆治を行いますと、正気は体内で乱れ、邪気と精は互いにせめぎ合って病を生じるのであります。

 

 また誤って五臓を刺した場合、

 心に中りますと、一日で死にます。その兆候は、ゲップ、つまり噫(い)であります。

 肝に中りますと、五日で死にます。その兆候は、多語であります。

 肺に中りますと、三日で死にます。その兆候は、咳であります。

 腎に中りますと、六日で死にます。その兆候は、くしゃみ、つまり嚔(てい)とあくび、つまり欠であります。

 脾に中りますと、十日で死にます。その兆候は、飲み込む動作、呑を繰り返すようになります。

 このように、五臓に直接刺して傷るようなことがありますと、必ず死亡致します。

 五臓に中ってしまった場合、五臓それぞれの現す兆候によって、その死亡するのを知ることが出来るのであります。

 

              原文と読み下し

厥陰有餘.病陰痺.

不足.病生熱痺.

滑則病狐疝風.

濇則病少腹積氣.

厥陰有餘すれば、陰痺を病む。

不足すれば、熱痺を生ずるを病む。

滑なれば則ち狐疝風を病む。

濇なれば則ち少腹積氣を病む。

 

少陰有餘.病皮痺隱軫.

不足.病肺痺.

滑則病肺風疝.

濇則病積溲血.

少陰有餘なれば皮痺隱軫を病む。

不足なれば、肺痺を病む。

滑なれば則ち肺風疝を病む。濇なれば則ち積して溲血を病む。

 

太陰有餘.病肉痺寒中.

不足.病脾痺.

滑則病脾風疝.

濇則病積.心腹時滿.

太陰有餘なれば、肉痺寒中を病む。

不足なれば、脾痺を病む。

滑なれば則ち脾風疝を病む。

濇なれば則ち積して心腹時に滿つるを病む。

 

陽明有餘.病脉痺身時熱.

不足.病心痺.

滑則病心風疝.

濇則病積.時善驚.

陽明有餘なれば、脉痺を病む。身時に熱す。

不足なれば、心痺を病む。

滑なれば則ち心風疝を病む。

濇なれば則ち積して時に善く驚するを病む。

 

太陽有餘.病骨痺身重.

不足.病腎痺.

滑則病腎風疝.

濇則病積.善時巓疾.

太陽有餘すれば、骨痺身重を病む。

不足すれば、腎痺を病む。

滑なれば則ち腎風疝を病む。

濇なれば則ち積して善く時に巓疾するを病む。

 

少陽有餘.病筋痺脇滿.

不足.病肝痺.

滑則病肝風疝.

濇則病積.時筋急目痛.

少陽有餘すれば、筋痺脇滿を病む。

不足すれば、肝痺を病む。

滑なれば則ち肝風疝を病む。

濇なれば則ち積して時に筋急して目痛するを病む。

 

是故

春氣在經脉.

夏氣在孫絡.

長夏氣在肌肉.

秋氣在皮膚.

冬氣在骨髓中.

是の故は、

春氣は經脉に在り。

夏氣は孫絡に在り。

長夏氣は肌肉に在り。

秋氣は皮膚に在り。

冬氣は骨髓中に在ればなり。

 

帝曰.余願聞其故.

岐伯曰.

春者.天氣始開.地氣始泄.凍解冰釋.水行經通.故人氣在脉.

夏者.經滿氣溢.入孫絡受血.皮膚充實.

長夏者.經絡皆盛.内溢肌中.

秋者.天氣始收.湊理閉塞.皮膚引急.

冬者.蓋藏.血氣在中.内著骨髓.通於五藏.

帝曰く。余願わくば其の故を聞かん。

岐伯曰く。

春は、天氣始めて開き、地氣始めて泄れ、凍解冰釋し、水行きて經通ず。故に人の氣は脉に在り。

夏は、經滿ちて氣溢れ、孫絡に入りて血を受け、皮膚充實す。

長夏は、經絡皆盛んにして、内は肌中に溢れる。

秋は、天氣始めて收し、湊理は閉塞し、皮膚引きて急す。

冬は、蓋藏し、血氣は中に在り、内は骨髓に著き、五藏に通ず。

 

是故邪氣者.常隨四時之氣血而入客也.至其變化.不可爲度.然必從其經氣.辟除其邪.除其邪則亂氣不生.

是の故に邪氣は、常に四時の気血に隨いて入りて客するなり。其の變化に至りて、度を爲すべからず。然れども必ず其の經氣に從い、其の邪を辟除し、其の邪を除けば則ち亂氣生ぜず。

 

帝曰.逆四時而生亂氣奈何.

岐伯曰.

春刺絡脉.血氣外溢.令人少氣.

春刺肌肉.血氣環逆.令人上氣.

春刺筋骨.血氣内著.令人腹脹.

夏刺經脉.血氣乃竭.令人解【亻亦】.

夏刺肌肉.血氣内却.令人善恐.

夏刺筋骨.血氣上逆.令人善怒.

秋刺經脉.血氣上逆.令人善忘.

秋刺絡脉.氣不外行.令人臥不欲動.

秋刺筋骨.血氣内散.令人寒慄.

冬刺經脉.血氣皆脱.令人目不明.

冬刺絡脉.内氣外泄.留爲大痺.

冬刺肌肉.陽氣竭絶.令人善忘.

帝曰く。四時に逆らいて亂氣を生じることいかん。

岐伯曰く。

春に絡脉を刺すは、血氣外に溢れ、人をして少氣せしめる。

春に肌肉を刺すは、血氣環逆し、人をして上氣せしめる。

春に筋骨を刺すは、血氣内に著き、人をして腹脹せしめる。

 

夏に經脉を刺すは、血氣乃ち竭き、人をして解【亻亦】(かいえき)せしめる。

夏に肌肉を刺すは、血氣内に却(しり)ぞきて、人をして善く恐せしめる。

夏に筋骨を刺すは、血氣上逆し、人をして善く怒せしめる。

 

秋に經脉を刺すは、血氣上逆し、人をして善く忘せしめる。

秋に絡脉を刺せば、氣は外を行かず、人をして臥して動くを欲せざるしむる。

秋に筋骨を刺せば、血氣内に散じ、人をして寒慄せしめる。

 

冬に經脉を刺せば、血氣皆脱し、人をして目明らかならざらしむる。

冬に絡脉を刺せば、内氣は外に泄れ、留まりて大痺を爲す。

冬に肌肉を刺せば、陽氣竭絶し、人をして善く忘せしめる。

 

凡此四時刺者.大逆之病.不可不從也.反之則生亂氣.相淫病焉.

故刺不知四時之經.病之所生.以從爲逆.正氣内亂.與精相薄.

必審九候.正氣不亂.精氣不轉.

帝曰善.

 

刺五藏.

中心一日死.其動爲噫.

中肝五日死.其動爲語.

中肺三日死.其動爲欬.

中腎六日死.其動爲嚔欠.

中脾十日死.其動爲呑.

刺傷人五藏.必死.其動則依其藏之所變.候知其死也.

五藏を刺し、

心に中れば一日にして死す。其の動は噫(い)を爲す。

肝に中れば五日にして死す。其の動は語を爲す。

肺に中れば三日にして死す。其の動は欬を爲す。

腎に中れば六日にして死す。其の動は嚔欠(ていけつ)と爲す。

脾に中れば十日にして死す。其の動は呑を爲す。

刺して人の五藏を傷れば、必ず死す。其の動は則ち其の藏の變ずる所に依りて、其の死するを候い知るなり。

 

 

繆刺論篇第六十三.

 本編では、絡脉の病と経脈の病との違いで、巨刺と繆刺を使い分けることを説いている。

 実際問題として、絡脉と経脈の病証の違いや診断については触れられていない。

 また巨刺と繆刺を刺法として、明確に湧ける必要性も感じていない。

 痛んでいる部位がすなわち、病んでいる部位としているきらいがあるが、表現方法として単にこのように記したのだろう考えている。

 筆者は、左が痛んでいても右に補瀉を加えて病を治そうとする視点は、おそらくは、身体全体の気の偏在を時空間的に認識しえてこそ可能なのではないかと考えている。

 したがって本篇の著者は、時空間の気の偏在を捉える視点を持ち得ていたのであろうとも推測している。

 そうであるならば、左は左に、右は右に取るのが的を得る場合もあるだろう。

 いわゆる太極治療であるが、時に局所治療も行っているが、全体を視野に入れての事だろうと思われます。

          意 訳

 黄帝が問うて申された。

 余は繆刺について聞いているのだが、まだ自分のものにできていない。どのような考えの刺法を繆刺というのであろうか。

 岐伯が応えて申された。

 外邪が身体を犯します時は、まず皮毛に舍ります。そのまま外邪が去りませんと、孫絡、絡脉、経脈と次々に侵入し、ついに五臓に達しますと腸胃に蔓延致します。

 このように、陰陽表裏がともに外邪の侵すところとなりますと、五臓は傷害されてしまいます。

 つまり五臓が傷害されるまでの順序は、まず皮毛から外邪が侵入して五臓に至って極まり、重病となるのであります。

 このような場合は、経脈を治療いたします。

 今回の繆刺法は、外邪が皮毛から侵入して孫絡で留まり、まだ経脈に達していいない状態に行うものであります。

 孫絡で留まった外邪は、比較的浅い部位である大絡に満ちるようになり、奇病を生じることとなるのであります。

 大絡に満ちた邪気は、行き場所を探して右往左往し、上下に行ったり来たり致します。経絡に正気が満ちておりますと、互いに反発しながら邪気は次第に四肢末端に追いやられます。

 このように、正気と邪気のせめぎあう場所が移動するので痛む場所も一定せず、しかも絡脉や大絡に邪が留まっている状態を刺す場合の刺法を、繆刺と申すのであります。

 

黄帝が申された。

 願わくば、左は右に取り、右は左に取るという繆刺とは、どのようにいたすのか。また巨刺とどのように見分けるのかを、聞かせてもらいたいのであるが。

 岐伯が申された。

 邪が経に舍りまして、左が盛んとなりますと右が病みます。右が盛んでありますと左が病みます。

 さらに邪気が移動しやすい場合は、左の痛みが治まらないうちに右の脈が先に病み始めていることがあります。

 このような場合は、必ず巨刺をして必ず絡脉ではなく、病んでいる経に中てなければなりません。

 なぜなら絡を病んでいるのと経脈が病んでいる場合とでは、痛みの場所が異なっているからであります。

 この絡脉が病んでいる場合に用いる鍼法を、繆刺と称するのであります。

 

 黄帝が申された。

 願わくば、繆刺はどのようにするのか、そしてどのようにして取るのかを聞かせて欲しいのだが。

 岐伯が申された。

 邪が足少陰の絡に客するときは、人はにわかに心痛したり激しく腹が脹ったり、胸脇支満を起こします。

 もし腹部に積聚が無いときは、然骨の前を刺して出血させますと、食事を摂るわずかの時間に治るものであります。

 治らないようでありましたら、左は右に取り、右は左に取ります。

 また新たに病を発しましたら、5日間刺せば治るものであります。

 

 邪が手少陽の絡に客するときは、人は喉痺し、舌が巻き上がって口乾し、心煩がする上に上肢の外側が痛んで手を頭に持って行くことが出来なくなります。

 この場合、手の中指の次の指の爪甲上の端を去ること一分の関衝穴を刺します。

 壮者は立ちどころに治まり、老者はしばらくして治まります。

 左は右に取り、右は左に取ります。また新たに病みましたら、数日刺しましたら治まります。

 

 邪が足厥陰の絡に客するときは、人は突然睾丸が腫れて激しく痛む疝気をなります。

 足の大指の爪甲と肉の交わるところの太敦穴をそれぞれ一回刺します。

 男子は立ちどころに良くなり、女子はしばらくしてから良くなります。

 左は右に取り、右は左に取ります。

 

 邪が足太陽の絡に客しますと、人は頭や項、肩が痛むようになります。

 足の小指の爪甲と肉の交わる至陰に左右一回刺すと、たちどころに良くなります。

 もし、良くならなければ外踝の下の金門穴をそれぞれ三回刺します。

 左は右に取り、右は左に取れば、しばらくしてから良くなります。

 

 邪が手陽明の絡に客しますと、人は胸中に気がいっぱいとなり、喘息や脇の下が支えたりして、胸中に熱を生じさせます。

 手の大指の次の指の爪甲を去ること一部の商陽穴を各一回刺します。

 左は右に取り、右は左に取れば、しばらくしてから良くなります。

 

 邪が前腕内側の中央、つまり手厥陰に客しますと、前腕を屈することが出来なくなります。その際には、指で腕後を按じて痛む部位を探し、そこに刺します。

 刺す回数は、月の満ち欠けに随います。

 つまり新月初日は一回。二日目は二回。満月となります15日には十五回。月が欠け始める16日からは回数を減じて十四回といった具合です。

 

 邪が足の陽蹻脉に客しますと、人は目の内眥からから痛み始めます。

 外踝の下半寸のところ、申脈穴に各二回刺します。

 左は右に取り、右は左に取れば、凡そ十里を行く間の時間に良くなります。

 

 人が墜落して外傷を受け、瘀血が体内に停留すると、腹部が脹滿して大小便が通じなくなります。

 このような場合は、まず気血を通利させる湯液を服用させます。

 全身を打撲した場合、上は厥陰の脈を傷り、下は少陰の絡を傷ることになります。

 そこで足の内踝の下、然骨の前の血絡を瀉血し、足の甲の動脈拍動部を刺します。

 治らないようであれば、三毛すなわち大指の太敦穴を各一回刺し、出血が見られると立ちどころに治ります。

 左は右に取り、右は左に取ります。

 また墜落後、しばしば悲しんだり驚いたりして精神状態が落ち着かず、こころが楽しまないと言った症状が現れた場合にも、先ほどのように刺します。

 

 邪が手陽明の絡に客しますと、人は耳聾となり時に音が聞こえなくなります。

 手の大指の次の指の爪甲を去る一分の上を各一回刺すと、立ちどころに聞こえるようになります。

 治らなければ、中指の爪甲と肉が交わるところを刺せば、立ちどころに聞こえます。

 全く聞こえることがない者は、刺しても効果がありません。

 耳中に風のような音を生じる場合もまた、このように刺します。

 左は右に取り、右は左に取ります。

 

 凡そ痹証で、病変部位が往来して一定しない場合は、分肉の間にある痛所を刺し、月の満ち欠けに応じて刺数とし、鍼を用いる場合は、気の盛衰に随うようにいたします。 

 鍼数が日数を過ぎると気は脱し、日数に及ばなければ気を瀉すことが出来ません。

 その場合、左は右に取り、右は左に取れば、病は止みます。

 治らなければ、再度同法を行います。

 すなわち月が生じると一日一回、二日目は二回と次第に刺数を増やします。

 そして十五日目に十五回、十六日目に十四回と、次第に刺数を減じるのであります。

 

 邪が、足陽明の経に客しますと、人は鼻血がでて上歯が寒えるようになります。

 その際には、足の中指の次の指の爪甲と肉の交わるところを各一回刺します。

 左は右に取り、右は左に取ります。

 

 邪が足少陽の絡に客しますと、人は脇が痛んで息がし難くなり、咳をして汗が出るようになります。

 その際には、足の小指の次の指の爪甲と肉と交わるところを各一回刺します。

 息がし難いのは、立ちどころに治り、汗もまた立ちどころに止まります。

 咳は、衣服を着て飲食を摂り温かくしておれば、一日で治ります。

 左は右に取り、右は左に取れば立ちどころに治りますが、治らなければ再度同法を行います。

 

 邪が少陰の絡に客しますと、人は咽喉が痛んで食べることが出来なくなります。理由なく良く怒り気が上に走って噴き上がります。

 その際には、足下の中央の脉、湧泉を各々三回、凡そ六刺すれば立ちどころに治ります。

 左は右に取り、右は左に取ります。

 

 咽がはげしく腫れ、唾を飲み込むことも出すこともできないような場合は、然谷の前を刺して出血させると、立ちどころに治ります。

 左は右に取り、右は左に取ります。

 

 邪が足太陽の絡に客しますと、人は背部が引きつって動かなくなり、脇にまで引いて痛むようになります。

 この場合、項から順に脊椎の両傍を按じて、圧痛のあるところに三回刺すと、立ちどころに治ります。

 

 邪が太陰の絡に客しますと、人は腰が痛むようになります。

 その痛みは少腹から脇下にまで及んで、仰向けになって呼吸が出来なくなります。

 この場合、腰と臀部の合わせ目にある陽兪を刺します。

 刺数は、月の満ち欠けによって決め、刺鍼後立ちどころに治ります。

 左は右に取り、右は左に取ります。

 

 諸経の病を治療する場合は、その経に邪が客していない場合は、これを繆刺いたします。

 耳聾には、手陽明を刺し、治らなければ手陽明の流注が耳の前に出ているところを刺します。

 歯齲には、手陽明を刺します。治らない場合は、手陽明の流注が歯中に入っているところを刺しますと、立ちどころに治ります。

 

 邪が足少陽の絡に客しますと、環跳に固定痛が生じて下肢を挙げることが出来なくなります。

 環跳を指す場合は、毫鍼を用います。

 寒邪であれば、しばらく置針しておきます。

 この場合も、月の満ち欠けを基準にして、刺数を決めますと、立ちどころに治ります。

 

 邪が五臓の間に客しますと、経脉が引きつる様に痛み、時に痛んだり止まったりいたします。

 病の状態を良く確認して、手足の爪甲上に繆刺を行い、その脉のうっ滞を視て出血させます。一日おきに一刺し、治らなければ五刺で治ります。

 

 邪が誤って上歯に引かれて伝わり、歯と唇に寒痛が生じるようであれば、手背のうっ血を視て出血させてこれを去ります。

 そして足陽明の中指の爪甲上と手の示指の爪甲上をひと刺しすれば、立ちどころに治ります。

 左は右を刺し、右は左を刺します。

 

 邪が手足の少陰太陰と足の陽明の絡に客しますと、これらの五絡はすべて耳中で会し、そこから上って左角を絡っていますので、五絡の気がすべて尽きてしまいますと、人身の脈はすべて動じているのに、自分の身体が知覚出来なくなります。

 これはあたかも死人同様で、尸厥(しけつ)とも称されます。

 足の大指の内側の爪甲上の端を去ること一分のところを刺します。

 その後に足心を刺し、その後足の中指の爪甲上を各1回刺し、さらに手の大指の内側で端を去ること一分のところを刺します。

 さらに手の心主と掌後兌骨の端の少陰を、それぞれ1回刺せば、立ちどころに治ります。

 治らなければ、竹の管で両耳を吹き、左角の髪を一寸角に剃り、その髪を焼いて美酒で飲ませます。

 意識が無く、飲むことが出来ない場合は、口に注ぎこませると立ちどころに治ります。

 

 おおよそ、刺す回数は、まずその経脉を視て、実際に切してその状態に適うようにします。

 そして虚実を審らかに明確にして、これを調えるように治療します。調わないようでしたら、経脉に刺します。

 痛みがあるのに、経脉が病んでいなければ、繆刺致します。

 この場合、皮部を視て血絡がありましたら、ことごとくそれらを取って出血させます。これらは、繆刺の順序であります。

 

         原文と読み下し

 

黄帝問曰.余聞繆刺.未得其意.何謂繆刺.

岐伯對曰.

夫邪之客於形也.必先舍於皮毛.留而不去.入舍於孫脉.

留而不去.入舍於絡脉.

留而不去.入舍於經脉.内連五藏.散於腸胃.

陰陽倶感.五藏乃傷.此邪之從皮毛而入.極於五藏之次也.

如此則治其經焉.

今邪客於皮毛.入舍於孫絡.留而不去.

閉塞不通.不得入於經.流溢於大絡.而生奇病也.

夫邪客大絡者.左注右.右注左.上下左右.與經相干.而布於四末.

其氣無常處.不入於經兪.命曰繆刺.

黄帝問うて曰く。余は繆刺(びゅうし)を聞けども、未だ其の意を得ず。何をか繆刺と謂うや。

岐伯對えて曰く。

夫れ邪の形に客するや、必ず先ず皮毛に舍る。留まりて去らざれば、入りて孫絡に舍る。

留まりて去らざれば、入りて絡脉に舍る。

留まりて去らざれば、入りて經脉に舍り、内は五藏に連なり、腸胃に散ず。

陰陽倶に感ずれば、五藏は乃ち傷る。此れ邪の皮毛從りして入り、五藏に極まるの次(ついじ)なり。

此の如くなれば則ち其の經を治すなり。

今邪皮毛に客し、入りて孫絡に舍り、留まりて去らざれば、

閉塞して通ぜず。經に入るを得ず。大絡に流溢し、しかして奇病を生ず。

夫れ邪の大絡に客するは、左は右に注ぎ、右は左に注ぎ、上下左右.經と相い干(おか)して.四末に布ず。

其の氣常處無く、經兪に入らず。命じて繆刺と曰く。

 

帝曰.願聞繆刺.以左取右.以右取左.奈何.其與巨刺.何以別之.

岐伯曰.

邪客於經.左盛則右病.右盛則左病.

亦有移易者.左痛未已.而右脉先病.

如此者.必巨刺之.

必中其經.非絡脉也.

故絡病者.其痛與經脉繆處.故命曰繆刺.

帝曰く。願わくば繆刺を聞かん。左を以て右を取り、右を以て左を取るとは、いかなるや。

其の巨刺と、何を以てこれを別つや。

岐伯曰く。

邪經に客し、左盛んなれば則ち右病み、右盛んなれば則ち左病む。

亦た移易する者り。左の痛み未だ已えずして右脉先ず病む。

此の如きは、必ずこれを巨刺す。

必ず其の經に中りて、絡脉に非ざるなり。

故に絡病むは、其の痛み經脉と繆處す。故に命じて繆刺と曰く。

 

帝曰.願聞繆刺奈何.取之何如.

岐伯曰.

邪客於足少陰之絡.令人卒心痛暴脹.胸脇支滿.

無積者.刺然骨之前.出血.如食頃而已.

不已.左取右.右取左.

病新發者.取五日已.

帝曰く。願わくば繆刺はいかなるかを聞かん。これを取ることいかん。

岐伯曰く。

邪足少陰の絡に客せば、人をして卒(にわ)かに心痛、暴脹、胸脇支滿せしむ。

積無き者は、然骨の前を刺し、血出だせば、食頃の如くにして已ゆ。

已えざれば、左は右を取り、右は左に取る。

病新たに發する者は、取りて五日にして已ゆ。

 

邪客於手少陽之絡.令人喉痺.舌卷口乾.心煩.臂外廉痛.手不及頭.

刺手中指次指爪甲上.去端如韭葉.各一痏.

壯者立已.老者有頃已.

左取右.右取左.

此新病.數日已.

邪手少陽の絡に客せば、人をして喉痺、舌卷、口乾、心煩し、臂の外廉痛み、手頭に及ばざらしめる。

手の中指の次指の爪甲上、端を去ること韭葉(きゅうよう)の如きを刺すこと、各おの一痏(ゆう)。

壯なる者は立ちどころに已え、老なる者は頃有りて已ゆ。

左は右に取り、右は左に取る。

此の新病は、數日にして已ゆ。

 

邪客於足厥陰之絡.令人卒疝暴痛.

刺足大指爪甲上.與肉交者.各一痏.

男子立已.女子有頃已.

左取右.右取左.

邪足厥陰の絡に客せば、人をして卒かに疝暴痛せしむ。

足の大指の爪甲上、肉と交わるを刺すこと、各おの一痏。

男子は立ちどころに已え、女子は頃有りて已ゆ。

左は右に取り、右は左に取る。

 

邪客於足太陽之絡.令人頭項肩痛.

刺足小指爪甲上.與肉交者.各一痏.立已.

不已.刺外踝下三痏.

左取右.右取左.如食頃已.

邪足太陽の絡に客せば、人をして頭項肩痛せしむ。

足の小指の爪甲上、肉と交わるを刺すこと、各おの一痏。立ちどころに已ゆ。

已えざれば、外踝下を三痏す。

左は右に取り、右は左に取る。食頃の如くにして已ゆ。

 

邪客於手陽明之絡.令人氣滿胸中.喘息而支胠.胸中熱.

刺手大指次指爪甲上.去端如韭葉.各一痏.

左取右.右取左.如食頃已.

邪手陽明の絡に客於せば、人をして氣胸中に滿ち、喘息して支胠、胸中熱せしむ。

手の大指の次指の爪甲上、端を去ること韭葉の如きを刺すこと、各一痏。

左は右に取り、右は左に取る。食頃の如くにして已ゆ。

 

邪客於臂掌之間.不可得屈.刺其踝後.

先以指按之.痛乃刺之.

以月死生爲數.

月生一日一痏.二日二痏.十五日十五痏.十六日十四痏.

邪臂掌の間に客せば、屈するを得べからず。其の踝後を刺す。

先ず指を以てこれを按じ、痛めば乃ちこれを刺す。

月の死生を以て數と爲す。

月生じて一日は一痏。二日にして二痏。十五日にして十五痏。十六日は十四痏。

 

邪客於足陽蹻之脉.令人目痛.從内眥始.

刺外踝之下半寸所.各二痏.

左刺右.右刺左.

如行十里頃而已.

邪足の陽蹻の脉に客せば、人をして目痛せしめ、内眥より始む。

外踝の下半寸の所を刺すこと、各二痏。

左は右を刺し、右は左を刺す。

十里を行く頃の如くにして已ゆ。

 

人有所墮墜.惡血留内.腹中滿脹.不得前後.

先飮利藥.

此上傷厥陰之脉.下傷少陰之絡.刺足内踝之下.然骨之前血脉.出血.刺足跗上動脉.

不已.刺三毛上.各一痏.見血立已.

左刺右.右刺左.

善悲驚不樂.刺如右方.

人墮墜する所有り。惡血内に留し、腹中滿脹して、前後を得ず。

先ず利藥を飮む。

此れ上は厥陰の脉傷れ、下は少陰の絡傷る。足の内踝の下、然骨の前の血脉を刺し、血を出す。足の跗上の動脉を刺す。

已えざれば、三毛上を刺すこと、各一痏。血見われれば立ちどころに已ゆ。

左は右を刺し、右は左を刺す。

善く悲しみ驚し樂しまざるは、刺すこと右の方の如くす。

邪客於手陽明之絡.令人耳聾.時不聞音.

刺手大指次指爪甲上.去端如韭葉.各一痏.立聞.

不已.刺中指爪甲上.與肉交者.立聞.

其不時聞者.不可刺也.

耳中生風者.亦刺之如此數.

左刺右.右刺左.

邪手陽明の絡に客すれば、人をして耳聾し、時に音を聞からざらしむ。

手の大指の次指の爪甲上、端を去ること韭葉の如きを、各一痏。立ちどころに聞こゆ。

已えざれば、中指の爪甲上と、肉と交わるを刺せば、立ちどころに聞こゆ。

其の時に聞こゆるものにあらざる者は、刺すべからざるなり。

耳中に風を生ずる者も、亦たこれを刺すこと此の數の如くす。

左は右を刺し、右は左を刺す。

 

凡痺往來行無常處者.在分肉間痛而刺之.

以月死生爲數.用鍼者.隨氣盛衰.以爲痏數.鍼過其日數.則脱氣.不及日數.則氣不寫.

左刺右.右刺左.病已止.

不已.復刺之如法.

月生一日一痏.二日二痏.漸多之.

十五日十五痏.十六日十四痏.漸少之.

凡そ痺往來し行くに常無きは、分肉の間に痛み在りしてこれを刺す。

月の死生を以て數と爲す。鍼を用うる者は、氣の盛衰に随いて、以て痏數と爲す。鍼其の日數を過ぐるは、則ち脱氣す。日數に及ばざるは、則ち氣寫せず。

左は右を刺し、右は左を刺す。病已に止む。

已まざれば、復たこれを刺すこと法の如くす。

月生まれて一日は一痏。二日は二痏。漸くこれを多くし、

十五日にして十五痏。十六日にして十四痏。漸くこれを少くするなり。

 

邪客於足陽明之經.令人鼽衄.上齒寒.

刺足中指次指爪甲上.與肉交者.各一痏.

左刺右.右刺左.

邪足陽明の經に客すれば、人をして鼽衄せしめ、上齒寒からしむ。

足の中指の次指の爪甲上、肉と交わるを刺すこと、各おの一痏。

左は右を刺し、右は左を刺す。

 

邪客於足少陽之絡.令人脇痛不得息.欬而汗出.

刺足小指次指爪甲上.與肉交者.各一痏.

不得息立已.汗出立止.

欬者温衣飮食.一日已.

左刺右.右刺左.病立已.

不已復刺如法.

邪足少陽の絡に客すれば、人をして脇痛して息するを得ざらしむ。欬して汗出ず。

足の小指の次指の爪甲上、肉と交わるを刺すこと、各おの一痏。

息するを得るは、立ちどころに已ゆ。汗出ずるは立ちどころに止む。

欬なるは、温衣飮食すること、一日にして已ゆ。

左は右を刺し、右は左を刺す。病立ちどころに已ゆ。

已えざえば復た刺すこと法の如くす。

邪客於足少陰之絡.令人嗌痛.不可内食.無故善怒.氣上走賁上.

刺足下中央之脉.各三痏.凡六刺.立已.

左刺右.右刺左.

邪足少陰の絡に客すれば、人をして嗌痛み、食を内れざらしむ。故無くして善く怒しり、氣上上りて賁上に走る。

足下の中央の脉を刺すこと、各おの三痏。凡そ六刺すれば、立ちどころに已ゆ。

左は右を刺し、右は左を刺す。

 

嗌中腫.不能内唾.時不能出唾者.刺然骨之前.出血立已.

左刺右.右刺左.

嗌中腫れ、唾を内れること能わず、時に唾を出すこと能わざるは、然骨之の前を刺し、血出でれば立ちどころに已ゆ。

左は右を刺し、右は左を刺す。

 

邪客於足太陰之絡.令人腰痛.引少腹控.不可以仰息.

刺腰尻之解.兩(月申)之上.是腰兪.

以月死生爲痏數.

發鍼立已.

左刺右.右刺左.

邪足太陰の絡に客すれば、人をして腰痛し、少腹に引いて䏚(びょう)に控(こう)し以て仰息すべからざらしむ。

腰尻の解、兩(月申)の上を刺す。是れ腰兪なり。

月の死生を以て痏數と爲す。

鍼を發すれば立ちどころに已ゆ。

左は右を刺し、右は左を刺す。

 

邪客於足太陽之絡.令人拘攣背急.引脇而痛.

刺之從項始.數脊椎.侠脊疾按之.應手如痛.刺之傍三痏.立已.

邪足太陽の絡に客すれば、人をして拘攣し背急し。脇に引きて痛ましむ。

これを刺すに項從り始め、脊椎を數脊え、脊を侠に疾くこれを按じ、手に應じて如(み)し痛めば、これを傍に刺すこと三痏、立ちどころに已ゆ。

 

邪客於足少陽之絡.令人留於樞中痛.髀不可擧.

刺樞中.以毫鍼.

寒則久留鍼.

以月死生爲數.立已.

邪足少陽の絡に客すれば、人をして樞中に留まりて痛み、髀擧ぐべからざらしむ。

樞中を刺すは、毫鍼を以てす。

寒なれば則ち久しく鍼を留む。

月の死生を以て數と爲す。立ちどころに已ゆ。

 

治諸經.刺之所過者.不病則繆刺之.

耳聾.刺手陽明.

不已.刺其通脉出耳前者.

齒齲.刺手陽明.

不已.刺其脉入齒中.立已.

諸經を治するは、これを過ぎる所の者を刺す。病ざれば則ちこれを繆刺す。

耳聾するは、手陽明を刺す。

已まざれば、其の通脉の耳前に出ずる者を刺す。

齒齲は、手陽明を刺す。

已まざれば、其の脉齒中に入るを刺す。立ちどころに已ゆ。

 

邪客於五藏之間.其病也.脉引而痛.時來時止.視其病.繆刺之於手足爪甲上.

視其脉.出其血.間日一刺.一刺不已.五刺已.

邪五藏の間に客すれば、其の病なるや、脉引きて痛む。時に來たり時に止む。其の病を視て、これを手足爪甲上に繆刺す。

其の脉を視て、其の血を出す。間日に一刺し、一刺して已まざれば、五刺にて已ゆ。

 

繆傳引上齒.齒脣寒痛.

視其手背脉血者去之.足陽明中指爪甲上一痏.手大指次指爪甲上各一痏.立已.

左取右.右取左.

繆傳して上齒に引き、齒脣寒痛すれば、

其の手背の脉を視て血する者はこれを去る。足陽明中指の爪甲上一痏、手の大指の次指の爪甲上各おの一痏す。立ちどころに已ゆ。

左は右を刺し、右は左を刺す。

 

邪客於手足少陰太陰足陽明之絡.此五絡皆會於耳中.

上絡左角.五絡倶竭.令人身脉皆動.而形無知也.其状若尸.或曰尸厥.

刺其足大指内側爪甲上.去端如韭葉.後刺足心.後刺足中指爪甲上.各一痏.後刺手大指内側.去端如韭葉.後刺手心主.少陰鋭骨之端.各一痏.立已.

不已.以竹管吹其兩耳.鬄其左角之髮.方一寸.燔治.飮以美酒一杯.

不能飮者潅之.立已.

邪手足少陰太陰足陽明の絡に客するは、此の五絡は皆耳中に會し、

上りて左角を絡う。五絡倶に竭きれば、人をして身の脉皆動じて、形知ること無からしむる。

其の状尸(し)の若し。或いは尸厥(しけつ)と曰く。

其の足大指の内側爪甲上、端を去ること韭葉の如きを刺す。後に足心を刺す。後に足の中指の爪甲上、各おの一痏を刺す。後に手の大指内側、端を去ること韭葉の如きを刺す。後に手の心主、少陰の鋭骨の端、各おの一痏を刺す。立ちどころに已ゆ。

已えざれば、竹管を以て其の兩耳を吹く。

其の左角の髮を鬄(そ)ること、方一寸。燔治し、飮ますに美酒一杯を以てす。

飮むこと能わざる者は、これを潅(そそ)ぐ。立ちどころに已ゆ。

 

凡刺之數.先視其經脉.切而從之.

審其虚實而調之.不調者.經刺之.

有痛而經不病者.繆刺之.

因視其皮部有血絡者.盡取之.此繆刺之數也.

凡そ刺を図るには、先ず其の經脉を視て、切してこれに從い、

其の虚實を審らかにしてこれを調う。調わざる者は、これを經刺す。

痛み有りて經病まざる者は、これを繆刺す。

因りて其の皮部を視て、血絡有る者は、これを盡く取る。此れ繆刺の數なり。

 

難経 62~65難 臓腑井兪

六十二難曰

藏井滎有五,府獨有六者,何謂也。

然、府者,陽也。三焦行於諸陽,故置一俞,名曰原。府有六者,亦與三焦共一氣也。

六十二難に曰く。
臓に井栄は五有るに、腑は独り六有るとは、何の謂いぞや。
然るに.腑は、陽なり。
三焦は諸陽に行く。故に一兪を置き、名づけて原と曰う。
腑に六有るとは、亦た三焦と共に気を一つにすればなり。

臓には井・経・兪・経・合の五の要穴がある。

ところが腑には六の要穴があるが、これはどういうことだろう。

しかるに腑は陽であり、三焦の気は諸経にめぐっている。

この三焦の気を「原」として、一兪を五腑に加えているからである。

腑にある六の要穴はまた、三焦の気と共にひとつの気である。


六十三難曰

十變言,五藏六府滎合,皆以井為始者,何也。

然:井者,東方春也,萬物之始生。諸蚑行喘息,蜎飛蠕動。當生之物,莫不以春而生。故歲數始於春,日數始於甲。故以井為始也。

六十三難に曰く。

十変に言う、五臓六腑の滎合、皆井を始めと以てすとは、何ぞや。

然るに、井は東方の春なり。万物始めて生じ、諸は蚑行(きこう)し、喘息し、蜎飛(けんひ)し、蠕動す。当に生の物は、春を以て生ぜざるはなし.
故に歳の数は春に始り、日の数は甲に始まる。故に井を以て始めと為すなり。

古書の<十変>に、五臓六腑の滎合は全て井を始めとして、滎・兪・経・合と流れているが、これはどうしてなのだろう。

しかるに、井は東方で春に相当します。

東方・春は、万物が生じ始める時で、蚑(き=はう虫)は動き、息吹き、蜎(けん=青虫のように体を曲げる虫・ボウフラ)は飛び、全てが動き始める。

ゆえに1年は春から始まり、1年365日は、甲(きのえ=木の兄)から始まる。

そして経脉も、万物が生じ始める東方・春・甲(きのえ=木の兄)に相当する井をその始まりとするのである。

六十四難曰:

十變又言,陰井木,陽井金。陰滎火,陽滎水。陰俞土,陽俞木。陰經金、陽經火。陰合水,陽合土。陰陽皆不同,其意何也。

然、是剛柔之事也。陰井乙木,陽井庚金。陽井庚,庚者,乙之剛也。陰井乙,乙者,庚之柔也。乙為木,故言陰井木也。庚為金,故言陽井金也。餘皆倣此。

六十四難に曰く。
十変にまた言う。
陰の井は木、陽の井は金。
陰の滎は火、陽の滎は水。
陰の兪は土、陽の兪は木。
陰の経は金、陽の経は火。
陰の合は水、陽の合は土なり、と。
陰陽皆同じからず、其の意は何ぞや。
然るに、是れ剛柔のことなり。
陰の井は乙木、陽の井は庚金なり。
陽の井は庚とは、庚は乙の剛なり。
陰の井は乙とは、乙は庚の柔なり。
乙は木と為す。故に陰と言い、井木なり。
庚は金と為すが、故に陽と言い、井金なり。
余は皆な此に倣う(ならう)なり。

十変には、また以下のように言われている。
陰の井は木、陽の井は金。
陰の滎は火、陽の滎は水。
陰の兪は土、陽の兪は木。
陰の経は金、陽の経は火。
陰の合は水、陽の合は土であると。


これら陰経と陽経は井・滎・兪・軽・合の始まる順序が異なるが、その意味するところは、どういったことなのであろうか
それは陽経と陰経、それぞれの剛柔を性質を表しているからです。
陰経の井は乙木(きのとの木=陰木)、陽経の井は庚金(かのえの金=陽金)です。
陽経の井が庚であるのは、庚(かのえの金=陽金)が乙(きのとの木=陰木)の剛であるからです。
陰の井は乙(きのとの木=陰木)であるのは、乙(きのとの木=陰木)が庚(かのえの金=陽金)の柔であるからです。
乙は木で陰ですから、陰経は井木となります。
庚は金で陽ですから、陽経は井金となります。
このようにして、後はすべて同様にしてみます。

以下、同様にして整理すると、

陰経 井穴 乙木 きのえ  柔

陽経 井穴 庚金 かのえ  剛

陰経 滎穴 丁火 ひのと  柔

陽経 滎穴 壬火 みずのえ 剛

陰経 兪穴 己土 つちのと 柔

陽経 兪穴 甲木 きのえ  剛

陰経 経穴 辛金 かのと  柔

陽経 経穴 丙火 ひのえ  剛

陰経 合穴 癸水 みずのと 柔

陽経 合穴 戊土 つちのえ 剛

となります。

 
六十五難曰:

經言所出為井,所入為合,其法奈何

然、所出為井,井者,東方春也,萬物之始生,故言所出為井也。

所入為合,合者,北方冬也,陽氣入藏,故言所入為合也。

六十五難に曰く.
経に言う、出ずる所を井と為し、入る所を合と為す。其の法は奈何なるや。
然るに、出ずる所を井と為すとは、井は東方の春なり。万物の始めて生ず。故に出る所を井と為すと言うなり.
入る所を合と為すとは、合は北方の冬なり。陽気入りて蔵す。故に入る所を合と為すなり。

経に言うところの、出ずる所を井とし、入る所を合とするとは、その法はどういうことなのか。

出ずるところを井とするのは、井の性質が東方の春に相当するからである。

東方・春は、万物が生じ始める時であるが故に、出ずる所を井というのである。

入る所を合とするのは、合の性質が北方の冬に相当するからである。

北方・冬は陽気が深く入って蔵される時であるが故に、入る所を合というのである。

傷寒論 序文 意訳

 傷寒論の序文を、自分の感性に随って意訳してみました。

 明らかな誤りやご意見がございましたら、どうかコメントで正して下さるよう、お願いいたします。

                    底本 趙開美刊 「仲景全書」所収 『傷寒論』十巻

                              日本漢方協会学術部 編 東洋学術出版社

 

 【意訳】

 序

 越人である扁鵲が中国の古代国家、虢(かく)に立ち入った時、皆が太子が死んだと嘆き悲しんでいる有り様を診て、実は死んでいるのではないと診断し、蘇生させたことがある。

 また扁鵲が斉の国に滞在しているとき、国王である恒公の顔の気色を視て病の深さを知り得たということが、史記の扁鵲伝に記載されている。

 余は、この伝記に接するたびに、扁鵲の才能がずば抜けていた事が感じ取れて、気持ちが高ぶってため息が出なかったためしが無いほどである。

 

 【原文と読み下し】

余毎覧越人入之診.望斉侯之色.未嘗不慨然嘆其才秀也。

余は越人の虢(かく)に入るの診、斉侯の色を望むを覧(み)る毎(ごと)に、未だ嘗(かつ)て慨然として其の才の秀でたるを嘆ぜずんばにあらさるなり。

【註】

越人  戦国時代の名医扁鵲の名

虢(かく)   戦国時代の国の名

斉侯  斉の桓公。斉は山東省付近。

 

 【意訳】

 みなさま、おかしいとは思いませんでしょうか。

 世に言う、志し高く文武を志すと言われている士が、人を救わんがために医薬に心を留め、医術を精(くわ)しく究めようとしていないことを。

 しかも上は仕えてる君主や両親・親族の病を治療し、下は貧しく賤しいとされている人々の厄を救うとすることすら眼中には無い。

 翻っては、さらさら自らの心身の健康を保ち、長寿になるよう努めることも意識に無い。

 このように自他共にその生命を軽んじ、生を養う心も無いようである。

 【原文と読み下し】

怪当今居世之士.曾不留神医薬.精究方術.上以療君親之疾.下以救貧賤之厄.中以保身長全.以養其生.

怪しむべし、当今居世の士。曾(か)つて神を医薬に留め、方術を精究し、上は以って君親の疾を療し、下は以って貧賤の厄を救い、中は以って身を保ち長全し、以って其の生を養なわず。

【註】

当今居世之士:当今は現代。居世之士は世上(世間のうわさ)の士。 士は文武を学ぶ者の総称。

【意訳】

  このような一大事を捨て置いて、ただ目先の栄華の勢いばかりを追い求め、どうやって権勢のあるものに取り入ろうかなどと、そのことばかりに心を忙しく働かせている。 

 このような者の頭にあるのは、どうやって名を上げ、利を得ようかということばかりである。               

【原文と読み下し】

但競逐栄勢.企踝権豪.孜孜汲汲.惟名利是務.

但栄勢に競逐し、踝(きびす)を権豪に企て、孜孜汲汲(ししきゅうきゅう)として、惟(ただ)名利に是れ務む。

【註】

孜孜汲汲  努めて怠らない様。

【意訳】

  末である外見ばかりを飾り、もっとも大切であるはずの中身の事など、どうでも良いと捨て去り、外見は華やかなようであるが、その内面は心がすさんでまるで身体がやつれているかのようである。

 とりつくべき皮が無いのに、毛は一体どこに附くのであろうか。

【原文と読み下し】

崇飾其末.忽棄其本.華其外而悴其内。皮之不存.毛将安附焉。

其の末を崇飾し、其の本を忽棄(こっき)し、其の外を華とし、而(しか)して其の内を悴(すい)にす。皮之れ存ぜずんば、毛将(は)たいずくんぞに附(つ)かんや。

【註】

崇飾其末.忽棄其本  枝葉末節の権勢を求めるため、外見を勿体らしく飾り、身体をも粗末にして根本を捨て去ること。

悴(すい)やつれること。

皮之不存.毛将安附焉 皮がないと毛のつくところはないのである。名利は、命があってのことである。

【意訳】 

 そのような有り様である文武を志す居世の士が、ひとたび突然外邪に侵されたり、傷寒のような大病に罹ろうものなら、自分の身に起きたことが理解できず、ただただ怯え震え上がってしまうような有り様である。

【原文と読み下し】

卒然遭邪風之気.嬰非常之疾.患及禍至.而方震慄.

卒然として邪風の気に遭(あ)い、非常の疾に嬰(かか)り、患及び禍に至り、而して方(まさ)に震慄す。

【意訳】

  それだけでなく、それまで高らかに人に胸張っていた志を降ろしてしまい、曲げられないはずであった節を曲げ、恥も外聞もなく何もかも投げ捨て、ただ拝み屋を呼んでくれとばかりに、巫祝を頼りとするようになるのである。

 人は天から百年の寿命を授かっているものである。

 その入れ物である、この上ない貴重な器である身体を、医者の見極めも出来ず、ありきたりの医師にすべてを任してしまい、でたらめな治療を受け、結果むなしく死んでいくのである。

【原文と読み下し】

志屈節.欽望巫祝.告窮帰天.束手受敗。

賚百年之寿命.持至貴之重器.委付凡医.恣其所措。

志を降ろし節を屈し、巫祝(ふしゅく)を欽望(きんぼう)す。窮(きゅう)を告ぐれば天に帰し、手を束(つか)ねて敗を受く。

百年の寿命を賚(たまわ)り、持てる至貴の重器を、凡医に委付し、其の措(お)く所を恣(ほしいまま)にす。

 【意訳】

 なんと、あわれなことよ。

 身体は破れてしまい、生命の明かりは消え、変わり果てた死体となってしまった。

 魂もまた、黄泉の国に潜り込み、さまよっているかのようである。

 そうなってしまってから、一族の者はただただ、嘆き悲しみ泣き叫ぶのである。

 なんと痛ましいことであろう。

【原文と読み下し】

咄嗟嗚呼.厥身已斃.神明消滅.変為異物.幽潜重泉.徒為啼泣.痛夫,

咄嗟嗚呼(ああ・・・)、厥(その)身は已(すで)に斃(やぶ)れ、神明は消滅し、変じて異物と為す。重泉に幽潜し、徒(いたず)らに啼泣(ていきゅう)を為す。痛ましいかな。 

【註】

欽望   懇願すること。

咄嗟嗚呼 詠嘆・嘆息の声。二重のなげき声。尋常でない嘆き表現。

【原文と読み下し】

【意訳】 

  世の中の全てが、このような有り様で、昏迷とはまさにこのことである。

 自らが、どのような存在であるのかさえ悟ることなく、自からの生命を惜しむようでもない。

 このように自分の生命を軽んじておいて、栄耀栄華、権勢を手にしたところで一体何になろうというのか。

【原文と読み下し】

挙世昏迷.莫能覚悟.不惜其命.若是軽生.彼何栄勢之云哉.

世を挙げて昏迷し、能く覚え悟ること莫(な)く、其の命を惜まず。是の若く生を軽ろんじ、彼何の栄勢之を云わんや。

【意訳】

  しかも自ずから進んで人を愛そうとしたり、人の苦しみを理解しようとすることもない。

 翻っては、自分に向き合って身体を愛し、己を知ろうとすることもない。

 災いに直面し危険な所に自分の身を置き、愚かで目の前が曖昧模糊としているため、はたから見るとまるで魂がさまよっているかのようである。

 なんと哀れなことであろうか。

 名利を追い求める士は、いずれは消え失せるうわべの華やかさを我先にと追い求め、馳せ競い合っている。

 しかもその最も大切な根を堅固にすることよりも、身を忘れ物欲に追い従うことに懸命になっている。

 今この場この時に、自ら薄氷の上に立っていて、それがいつ割れるのかという危うさの真っ最中であることにさえ、気づいていないことを自覚して欲しい。

【原文と読み下し】

而進不能愛人知人.退不能愛身知己.遭災値禍.身居厄地.蒙蒙昧昧.惷若游魂.哀乎. 

趨世之士.馳競浮華.不固根本.忘徇物.危若冰谷.至於是也.

而して進みては人を愛し人を知ること能わず、退いては身を愛し己を知ること能わず、災に遭(あ)い禍に値(あ)い、身を厄地に居く。蒙蒙昧昧(もうもうまいまい)、惷(とう)なること游魂の若し。哀しいかな。

趨世の士、浮華に馳競し、根本を固めず、軀(み)を忘れ物に徇(した)がい、危うきこと冰谷の若くにして、是に至るなり。

【註】

蒙蒙昧昧  蒙昧、愚昧の意。

惷     愚と同じ。くらい、にぶい。

趨世の士  名利を競い求める世上の士

忘軀徇物  身命の大切さを忘れ、物欲に目をひかれる。

【意訳】

  余の一族は、元々二百に余るほどであった。

 しかし、建安紀年から十年も経たないうちに、三分の二が死んでしまった。

 死んだ者の内、十中に八は傷寒の病であった。

【原文と読み下し】

余宗族素多.向餘二百。建安紀年以来.猶未十稔.其死亡者.三分有二.傷寒十居其七。

余が宗族素多し。向(さ)きに二百に餘(あま)る。建安紀年以来、猶(なお)未だ十稔(ねん)ならざるに、其の死亡したる者、三分の有二、傷寒十其の七に居く。

【註】

建安紀年  西暦196年

 【意訳】

  その昔に死亡者が続出したことが心に刻まれ、まだ生きるべき若者が死んでいくのに、それを救う手段がなかったことに心が痛んだ。

 このような過去を慮り、勤めて古人の訓えを探し求め、今に伝わっている方剤を広く集め、『素問』、『九巻』、『八十一難』、『陰陽大論』、『胎臚薬録』、并びに平脈辨証を撰び用いて、『傷寒雑病論]』合わせて16巻にまとめて著した。

【原文と読み下し】

感往昔之淪喪.傷横夭之莫救.乃勤求古訓.博采衆方.撰用『素問』.『九巻』.『八十一難』.『陰陽大論』.『胎臚薬録』.并平脈辨証.為『傷寒雑病論』.合十六巻.

往昔の淪喪(りんそう)に感じ、横夭(おうよう)の救い莫(な)きを傷み、乃(すなわ)ち勤めて古訓に求め、博く衆方を采(と)り、『素問』、『九巻』、『八十一難』、『陰陽大論』、『胎臚薬録』、并びに平脈辨証を撰用し、『傷寒雑病論』、合せて十六巻を為す。

淪喪  淪は没と同じ。淪喪は死亡のこと。

横夭  生きておれる人々が若くして死ぬこと。

【意訳】

  本書『傷寒雑病論』で、世中の全ての病を治せないかも知れない。

 しかしながら、こい願わくば本書を参考にして、病に際してはその病源を知って欲しい。

 もし、本書を尋ねるように読めば、余の伝えたいことのおおよそは理解できるはずである。

【原文と読み下し】

雖未能尽愈諸病.庶可以見病知源。若能尋余所集.思過半矣

未だ尽ごとく諸病を愈すこと能(あた)わずと雖(いえ)ども、庶(こ)いねがわくば病を見て以て源を知るべし。若し能(よ)く余が集むる所を尋ぬれば、思いは半ばに過ぎん。

【意訳】

  天は木・火・土・金・水の五行を天地の間に配して自然界の全ての変化を生み出している。

 人は仁・義・礼・智・信の五常を受けて生まれ、五臓を生じるのである。

 そして経絡や気血集散の場である府兪などを介して陰陽の気が会通しており、この陰陽の変化は不可思議であり、しかも微かである。

 この変化を極め尽くすのは、容易な事ではないだろう。

 秀でた才能と言い尽くせないほどの知識をもって、この極めがたい陰陽の変化の中に、法則性を探そうではないか。

【原文と読み下し】

夫天布五行.以運万類.人稟五常.以有五臓。経絡付兪.陰陽会通.玄冥幽微.変化難極。

自非才高識妙.豈能探其理致哉。 

夫(そ)れ天は五行を布き、以て万類を運(めぐ)らし、人は五常を稟(う)け、以て五臓有り。経絡付兪、陰陽の会通、玄冥幽微、変化は極め難し。

才高く識妙なるに非らざるよりは、豈(あ)に能く其の理致を探らんや。

【註】

運     生・長・化・収・蔵

五常    仁・義・禮・智・信。

付兪    府は気血の集合するところ。愈は気血の注ぐところ。

玄冥幽微  暗黒で、奥が深く、見通しがきかない。

理致    すじみち

【意訳】

  上古には、神農・黄帝・岐伯・伯公・雷公・少兪・少師・仲文という名医が存在した。

 中世に至っては長桑・扁鵲が、漢の時代になっては公乗の官位にあった陽慶と倉公という名医が存在していた。

 それ以後時代が下り、現在に至っても、なおかつてのような名医の存在を聞くことが無い。

【原文と読み下し】

上古有神農.黄帝.岐伯.伯公.雷公.少兪.少師.仲文.中世有長桑.扁鵲.漢有公乗陽慶及倉公.下此以往.未之聞也.

上古に神農、黄帝、岐伯、伯公、雷公、少兪、少師、仲文有り。中世に長桑、扁鵲有り。漢に公乗陽慶及び倉公有り。此れを下り以て往くも、未だ之れを聞かざるなり。

【註】

神農、黄帝 医薬方術の祖としてあがめられている。

岐伯~少師  黄帝の臣で、伝説上の名医。実在は疑わしい。

長桑     扁鵲の師

公乗陽慶   陽慶は倉公の師で、公乗は官名。

【意訳】

  今の医師を観ると、経典を学んでその趣旨に思いを行らせることもなく、今知っていることだけを話すだけである。

 またそれぞれの家に伝わっている治療法を承け、生涯受け継いだ治療法を何の工夫もなくただ繰り返すのみである。

 病の様子を省みて病状を問うも、口先だけで患者を言いくるめることだけに終始している。

 病人を目の前にすれば、まともに診察などせず、すぐに湯薬を処方するというような有り様である。

【原文と読み下し】

観今之医.不念思求経旨.以演其所知.各承家技.終始順旧.省病問疾.務在口給.相対斯須.便処湯薬.

今の医を観るに、経旨を思求し、以て其の知る所を演(の)ぶるを念(おも)わず、各おの家技を承け.終始旧に順ず。病を省りみ疾を問うも、務めは口給に在り。相対して斯須(ししゅ)すれば、便(すなわ)ち湯薬を処す。

【註】

相対斯須  病人と相対している時間が一寸の間という意味。

【意訳】

  脈診も寸口の脈は診ても尺中までに及ぶこともなく、手は握っても足に触れることもない。

 人迎脈・跌陽脈、三部の脈を交えて考慮することもない。

 脈の去来を候っても、五十動にも満たないほどである。

 このように短い診察であるため、身体の空間の歪みを診る九候の診察などは、脳裏に浮かぶことすらもない。

 顔面の明堂や闕庭などを観る気色診など、ことごとく見て察する事も無い。

 これではまるで、細い管から広大な天をのぞき見るかのようではないか。

 扁鵲が虢(かく)の太子の仮死状態を見破って蘇生させたように、死に直面した危篤の病人を目の前にして、生死を判断するのは実に難しいことである。

【原文と読み下し】

按寸不及尺.握手不及足.人迎趺陽.三部不参.動数発息.不満五十.

短期未知決診.九候曾無髣髴.明堂闕庭.尽不見察.

所謂窺管而已.夫欲視死別生.実為難矣.

寸を按じて尺に及ばず、手を握りて足に及ばず、人迎趺陽、三部参えず、動数発息、五十に満たず。

短期なれば未だ決診を知らず、九候は曾(かつ)て髣髴無し。明堂闕庭、尽(こと)ごとく見察せず。

所謂(いわゆる)管より窺がうのみ。夫れ死を視て生を別たんと欲するは、実に難きと為す。 

【註】

動数発息  動は脈の拍動、発は脈の搏ち出るを言い、息は脈の搏ち去るを言う。

明堂闕庭  明堂は鼻。闕は眉間。庭は顔。

【意訳】

 孔子は、以下のように書き残している。

「生まれながらにして、人の道を理解している者は最上である。

 学んでこれを知るのは、これに次ぐものである。」と。

 自分の努力で到達できる多聞博識の境地は、最上の次である。

 余は、随分と前から医学としての方術を尊崇している者である。

 どうか孔子の言葉を心に留めて、日々精進して方術を行うことを望むものである。

 【原文と読み下し】

孔子云.生而知之者上.学則亜之。多聞博識.知之次也。余宿尚方術.請事斯語。

孔子云う、生まれながらにして之を知る者は上、学ぶは則ち之れに亜(つ)ぐ。多聞博識は知の次なり。

余は宿(つと)に方術を尚(たっ)とぶ。請う斯(こ)の語を事とせん。

 

 

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調經論篇第六十二.

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  本篇の表題は、経絡の気血を調えることを目的として、虚実・補瀉の概念とその方法が説かれているということでつけられたのであろう。

 ところが筆者は経絡よりもむしろ人体を空間として意識した虚実・補瀉概念のように理解される。

 なぜなら本文中に、<陰陽が交流し、身体が充実していると九候もまるで一つのようである>とあり、さらに最後の括りに<謹んで九候を察しなさい>と記載されているからである。

 この九候とは、天人地の三才思想で書かれた、<三部九候論20>の空間的脈診法のことである。

 おそらく本篇は、当時複数存在していたであろう治療学派の内、空間学派が書き著したものだろうと考えている。

 これらのことを踏まえるなら、本篇内の巨刺と繆刺は名称こそ違うものの、同じ空間的歪み・気の偏在という視点で捉えると、かなり整理され臨床に用いることができる。

 

 

  意  訳

 黄帝が申された。

 余は刺法に有余はこれを瀉し、不足はこれを補うと言っているが、有余・不足とはいったい何を指して言っているのじゃ。

 

 岐伯がそれに対して申された。

 有余には五ありまして、不足にもまた五ありますが、帝はどういったことをお聞きになりたいのでしょうか。

 

 帝が申された。

 有余・不足に関するすべてじゃ。

 岐伯が申された。

 神の有余・不足。

 気の有余・不足。

 血の有余・不足。

 形の有余・不足。

 志の有余・不足。

 これら十の有余・不足の気はそれぞれ異なっております。

 

 黄帝が申された。

 人には精気、津液、四支九竅、五藏、十六部、三百六十五節があり、それぞれに百病が生じる。さらに百病には虚実がある。

 今そちは、有余に五あり、不足にもまた五ありと言うが、どうして虚実ということが生じるのであろうか。

 

 岐伯が申された。

 それらのすべては、五臓に生じます。

 それは、心は神を蔵し、肺は気を蔵し、肝は血を蔵し、脾は肉を蔵し、腎は志を蔵しておりまして、これらでひとりの人間の形が出来上がっているのであります。

 そして志意がとどこおりなく通じ、身体内部の骨髄にまで連なっておりますれば、形体と五臓は身体として成り立つのであります。

 さらに五臓の気の道は、すべて経絡に通じておりますからこそ、血気は全身を循ることができるのであります。

 その経絡の血気が調和しておりませんと、その不調和を始まりとして百病が生じるのであります。このような理由で、経絡は正常に流れるように守る必要があるのです。

 

 帝が申された。

 神の有余と不足の症候はどのようであるのか。

 岐伯が申された。

 神が有余しますと、休みなく笑い続け、不足しますと悲しむようになります。

 ところが血気が調和していなくても、五臓が安定しておりますと邪は身体の表面に留まりますので、ゾクゾクとして体毛が立つだけで、経絡に入ることはできないのであります。

 従いましてこれは神が少し動じただけでありますので、神の微と申すのであります。

 

 帝が申された。

 補瀉はどのようにいたすのか。

 岐伯が申された

 神が有余しておりましたなら、小絡の血を瀉して出血させます。

 しかし、肉を深く刺したり、本経に鍼を中ててはなりません。このようにいたしますと、神気は平らかとなります。

 神が不足しておりましたなら、虚絡を探しましてこれを按じて気血を至らせます。さらに刺鍼して経絡を通利させるのであります。

 その際、出血させたり気をもたらすようなことがあってはなりません。このように経絡を通利させますと、神気は平らかとなります。

 

 帝が申された。

 神の微に対する刺し方はどうなのじゃ。

 岐伯が申された。

 虚絡を按摩して手を離すことなく、鍼をぴったりと当てまして肌肉を破らないように致します。

 このようにして不足しているところに気を移してまいりますと、神気は自ずと回復して参ります。

 

 帝が申された。

 よし、よく理解した。それで気の有余と不足の状態はどのようであるのか。

 岐伯が申された。

 気が有余しておりますれば、気が上に突上げますので喘いで咳が出るようになります。

 不足しておりますれば、息はできますが呼吸は浅く力がありません。

 血気が不調和でありましても、五臓が安定しておりますと、皮膚が微かに病みます。ですが肺気が微かに泄(も)れる程度です。これを白気微泄と申します。

 

 帝が申された。

 補瀉はどうなのか。

 岐伯が申された。

 気が有余しておりましたら、五臓に通じております經隧、つまり大絡を瀉します。その際には、経脉を傷ったり出血させたり五臓の気を泄すようなことがあってはなりません。

 気が不足している場合は、その経隧を補いますが、五臓の気を泄すことの無いように留意いたします。

 

 帝が申された。

 では微を刺すにはどのようにすれば良いのか。

 岐伯が申された。按摩をして気を散らしてはなりません。

 鍼を出して患者に視せ、これから深く刺すと申し伝えれば、患者はその脅しに従って気の流れが変化いたします。

 さすれば精気は自ずと内に伏するとともに体表に休息していた邪気は腠理から泄れて散乱してしまいます。そうしますと真気はめぐるようになって参ります。

 

 帝が申された。

 よく理解することが出来た。血の有余と不足の状態はどのようであるのか。

 岐伯が申された。

 血が有余しておりますと怒り、不足していると恐れます。血気が不調和であり、五臓が安定しておりましても孫絡に水が溢れますと、経絡は孫絡に通じなくなり留血を生じるようになります。

 

 帝が申された。

 では補瀉はどのようにするのであるか。

 岐伯が申された。

 血が有余しておりましたら、その盛んなる経を瀉して出血させます。

 血が不足していましたら、その虚している経を視て、その脉中に鍼を入れて久しく留めます。そして脉が大きくなるのを視て疾く抜鍼して血を泄さないようにしなくてはなりません。

 

 帝が申された。

 よし、よく理解できた。では形の有余と不足の状態はどのようであるのか。

 岐伯が申された。

 形が有余しておりますと、腹が脹り小便が不利となります。

 不足しておりますと、四肢が思うように動かせなくなります。

 血気の調和が乱れていても五臓が安定しておりますれば、肌肉が蠕動する程度であります。これを微風と申します。

 

 帝が申された。 

 留血の刺法はどのようであるのか。

 岐伯が申された。

 その血絡をしっかりと確認し、刺して出血させます。つまり悪血が經に入り疾病とならないように致すのであります。

 

 帝が申された。

 補瀉はどのようにいたすのか。

 岐伯が申された。

 形が有余しておりますとその陽経を瀉します。

 不足しておりますと、その陽絡を補います。

 

 帝が申された。

 微の刺法はどのようであるのか。

 岐伯が申された。

 分肉の間を取り、経に中ったり絡を傷ることが無ければ、衛気は回復することが出来ますので、邪気もまた散じるのであります。

 

 帝が申された。

 よく理解できた。志の有余不足とはどうであるのか。

 岐伯が申された。

 志が有余いたしますと、腹が脹れ未消化便を下します。

 不足いたしますと、手足が冷えあがる厥となります。

 血気の調和が乱れていても、五臓が安定しておりますと骨節が多少ずれ動く程度であります。

 

 帝が申された。

 補瀉はどのようにいたすのか。

 志が有余しておりますと、然谷から瀉血いたします。

 不足いたしますと、その復溜を補います。

 

 帝が申された。

 神・気・血・形・志の有余・不足に対して、血気が不調和であっても五臓が安定している場合の刺法はいかなるか。

 岐伯が申された。

 取穴するにあたりましてはその経に中てる必要は無く、邪が居るところを直接取れば、邪は立ちどころに虚すのであります。

 

 帝が申された。

 よく理解できた。余はすでに虚実の状態を聞いたが、それらがどうして生じるのかが分からないのであるが。

 岐伯が申された。

 気血は調和しておりましても、時に陰陽は傾くものであります。

 気が衛に乱れ血もまた経を逆流いたしますと血気は離れ離れとなりまして、一方では実、一方では虚という状態になります。

 血が陰に集まり、気は陽に集まりますと、精神状態も乱れ驚きやすくなったり狂症状となったりいたします。

 反対に、血が陽に集まり、気が陰に集まりますと、内熱を生じたり熱中症状となります。

 血が上に、気が下に集まりますと、心中がイライラと煩悶してよく怒るようになります。

 逆に血が下に、気が上に集まりますと、心が乱れてよく忘れるようになります。

 

 帝が申された。

 血が陰に集まり、反対に気が陽に集まり、気血が分離しているような場合、いずれを実とし、虚とするのであろう。

 岐伯が申された。

 気血は温を喜び、寒を悪むものであります。なぜなら寒は流れを渋らせますが、温は留滞を消し去り通利するからであります。

 従いまして、気が走り集まる所は相対的に血虚となり、血の集まる所は相対的に気虚となるのであります。

 

 帝が申された。

 人にあるのは、血と気のみである。

 今夫子は、血が集まるを虚とし、気が集まるもまた虚であると申したが、これでは実が無いではないか。

 岐伯が申された。

 有るものを実とし、無きものを虚と致します。

 従いまして、気が集まりますと相対的に血は無くなり、血が集まりますと相対的に気は無くなります。

 本来、気血は調和してこそ正常な働きを致します。ところがいま気と血がバラバラとなって相失い、正常な働きができない状態を、虚と申しておるのであります。

 絡と孫絡は、ともに経に気血を輸送いたします。気と血が一緒になって集まり、停滞すると実となります。

 この気血が一緒になって上に走り集中しますと実となります。このような場合、大厥と申しまして、手足が冷えあがり場合によっては即死致します。

 ところが気が再び方向を転じて下りますと生き返ります。そうでなければそのまま死亡いたします。

 

 帝が申された。

 虚実は、どのような道理から生じるのであるか。願わくば、さらにその虚実の要とそのゆえんを聞かせてもらいたいのであるが。

 岐伯が申された。

 陰と陽には、それぞれ注いだり会する所がございます。陽は陰に注ぎまして、陰が充実いたしますと今度は陽である外に向かいます。

 このように陰陽が交流し、陰陽が平衡いたしますと、身体は充実し、九候の脉もまるでひとつであるかのように均衡がとれているものです。これを正常な平人と申します。

 一方、邪が生じますのは、身体内の陰、或いは身体外の陽に生じる場合とがあります。

 陽である身体外に邪が生じます原因は、風雨寒暑などの外因によります。

 また陰である身体内部から邪が生じますのは、飲食や起居、よく怒るなど感情の不調和などの内因に依るのであります。

 

 帝が申された。

 風雨はどのように人を傷るのであろうか。

 岐伯が申された。

 風雨が人を傷る際は、まずその邪は皮膚に舍ります。そこから孫絡に伝入致しまして、孫絡がそれを防いで一杯になりますとさらに絡脉に伝入致します。

 さらに絡脉でも防ぎきれなければ、そこから大きな経脉に入ってしまうことになります。

 また血気と邪が一緒になって、身体の比較的浅い分肉腠理に舍り停滞しますと、内外は通じなくなりますのでその脉もまた、堅く大きくなります。このような状態を実と申します。

 これを体表にみますと、実の部分は抑えると堅く充満しているかのようであり、強く押すと痛みます。

 

 帝が申された。

 寒湿はどのように人を傷るのであろうか。

 岐伯が申された。

 寒湿が人に中りますと、表面の皮膚の腠理が弛んで収まりません。

 さらに少し深い肌肉は堅く緊張しますので、栄血の流れは渋り、栄衛の調和が失われて衛気は散ってしまいます。このような状態になりましたものを虚と申します。

 虚しますと、皮膚は弛んで気も不足いたします。

 そこでこれを按じますと肌肉の栄血が流れ、衛気も張り出してきますので温かくなって参りまして、気持ちよく感じ痛みもなくなるのであります。

 

 帝が申された。

 よく理解できた。では陰はどのようにして実を生じるのであろうか。

 岐伯が申された。

 喜怒に節度というものがありませんと、陰気は逆流して上行いたします。

 そうしますと下に陰気が不足いたします。そうしますと陰気の支えを無くした陽気もまた上に走ります。このような状態を実と申します。

 

 帝が申された。

 では陰はどのようにして虚を生じるのであろうか。

 岐伯が申された。

 人が喜びますと気は下り、悲しみますと気は消え、消散いたしますと脈は空虚になります。

 このような時に、冷たいものを飲み食いいたしますと、体内の寒気は留まり充満いたします。そうなりますと血の循りも渋り、気は血を離れて去ってしまいます。このようにして虚となるのであります。

 

 帝がもうされた。

 古経では、陽が虚すると外が寒し、陰が虚すると内が熱する。また陽が盛んであれば外が熱し、陰が盛んであれば内が寒すると記載されている。

 余はすでにこれらのことを聞いているが、その道理が理解できていないのであるが。

 岐伯が申された。

 体表である陽は、その気を上焦に受けて皮膚や分肉の間を温めます。今寒気が外にありますと、上焦は陽を受けることができず不通となってしまいます。

 上焦が通じませんと、寒気は外に留まることになりますので、寒慄するようになるのであります。

 

 帝が申された。

 陰が虚すると内が熱するのは、どのようなわけであろうか。

 岐伯が申された。

 労働してだらりとなるほど疲れてしまいますと、肉体も気も衰少いたしますので、飲食も進まず穀気も充実させることができません。

 そうしますと上焦の気は行らず、下脘も通じなくなり、胃の気は動くことができずに熱に変じます。

 その胃の熱は胸中を薫ずるようになります。このようなわけで内の熱が生じるのであります。

 

 帝が申された。

 陽が盛んであると外に熱を生じるというのは、どのようなわけであろうか。

 岐伯が申された。

 上焦が通利いたしませんと、皮膚が緻密となりまして腠理が閉塞してしまいます。

 そうしますと玄府であります汗孔が通じませんので、易は外に発泄することができませんので、外が熱するのであります。

 

 帝が申された。

 陰が盛んであれば内に寒を生じるわけはどうなのであろうか。

 岐伯が申された。

 精神的な動揺などにより、手足が冷えてくる厥逆となりますと、寒気が下から胸中に侵入して居座りますと、陽気は退いて拮抗いたします。

 そうしますと血も流れ渋り、脈も盛大でありながら渋ります。これを中寒と申しまして、内に寒を生じる理由であります。

 

 帝が申された。

 邪気が人体を侵すと、陰と陽が併合し血気も併合して、病が形成される。この場合、刺法はどういたすのであろうか。

 岐伯が申された。

 このような場合は、五臓六腑の大絡を取って治療いたします。

 営は血に属し、衛は気に属しますので、それぞれ陰陽・気血・営衛を判別して治療いたします。

 さらに人体に刺鍼いたします時は、四時陰陽の気の消長を考慮するのであります。

 

 帝が申された。

 血気が併合して形成された病は、陰陽どちらかに傾いていると思うが、補瀉はどのようにいたすのであろうか。

 岐伯が申された。

 実を瀉しますには、吸気によって気が盛んになった時に鍼を刺入し、鍼孔は邪気が出ていきやすいように、門を開くようにいたします。

 そうしまして、呼気に合わせて抜鍼しますと、精気は傷れずしかも邪気は排出されます。そして鍼孔は閉じないようにいたします。

 邪気を疾く排出させるために、鍼孔を大きく揺らして邪気の出口の通りを良くいたします。これを大瀉と申しまして、必ずぴったりと呼吸に合わせ鍼孔を開いてやりますと、大邪といえども屈するのであります。

 

 帝が申された。

 では、虚を補うにはどのようにするのであろうか。

 岐伯が申された。

 鍼を手にしてすぐに刺鍼するのではなく、まずは気持ちを落ち着けて補する意図を明確にいたします。そして呼吸のタイミングを候い、呼気時に刺入し、呼気に従って鍼を進めます。

 そうしますと、鍼と肌肉に隙間がなくなりますので、精が漏れ出ることがありません。そしてまさに実してきましたら、吸気に合わせて素早く抜鍼し、鍼孔に集まった熱が元に帰らないようにいたします。そしてその鍼孔をしっかりと指で押さえて閉じますと、邪気は散って精気は存じます。

 さらに時間をかけて気が動くのを候いますと、手元の気は失われず、遠くの気が手元に集まって参ります。これを追うと申しまして、補の方法であります。

 

 帝が申された。

 そちは虚実に十種類があり、五臓に生じると話されたが、五臓には五脉しかない。

 ところが十二経脈は、すべて病を生じるはずであるのに、今そちは五臓の虚実のみを話された。

 十二経脈は、皆三百六十五節を絡い、節に病があれば必ず経脈に影響するはずである。

 経脈の病にも皆虚実があるはずだが、何をどのように解釈すれば五臓の虚実と合致するのであろうか。

 岐伯が申された。

 五臓には、もとより六腑がありまして相表裏しております。経絡・支節にもそれぞれ虚実を生じまして、その病むところに従ってこれを調えるのでございます。

 病が脈にありますと、血を調えます。

 病が血にありますと、絡を調えます。

 病が気にありますと、衛を調えます。

 病が肉にありますと、分肉を調えます。

 病が筋にありますと、筋を調えます。

 病が骨にありますと、骨を調えます。

 燔針(ばんしん)を用いる場合は、筋が引き攣れている時でありまして、劫刺(ごうし)のことであります。

 病が骨にあります場合は、焼鍼を用いたり膏薬を用いて温めます。

 痛む部位がよくわからない病には、陰陽の蹻脉を取穴いたします。

 身体に痛みがあり、九候に病がないものには、繆刺を行います。

 痛む部位が左にあり、右の脉に病があると判断したものには、巨刺を行います。

 このように、必ず細心の注意をもって九候を察して治療いたしますれば、鍼道は自ずと備わって参るのであります。

 

 原文と読み下し

 

 黄帝問曰.余聞刺法言.有餘寫之.不足補之.何謂有餘.何謂不足.

岐伯對曰.有餘有五.不足亦有五.帝欲何問.

黄帝問うて曰く。余は聞くに刺法の言に、有餘はこれを寫し、不足はこれを補うと。何を有餘と謂い、何を不足と謂うか。

岐伯對して曰く。有餘に五有り、不足も亦た五有り。帝、何を問わんと欲するや。

 

帝曰.願盡聞之.

岐伯曰.

神有餘有不足.

氣有餘有不足.

血有餘有不足.

形有餘有不足.

志有餘有不足.凡此十者.其氣不等也.

帝曰く。願わくば盡くこれを聞かん。

岐伯曰く。

神に餘り有り不足有り。

氣に餘り有り不足有り。

血に餘り有り不足有り。

形に餘り有り不足有り。

志に餘り有り不足有り。凡そ此の十なるは、其の氣等しからざるなり。

 

帝曰.

人有精氣津液.四支九竅.五藏十六部.三百六十五節.乃生百病.百病之生.皆有虚實.

今夫子乃言.有餘有五.不足亦有五.何以生之乎.

帝曰く。

人に精氣津液、四支九竅、五藏十六部、三百六十五節有りて、乃ち百病生ず。百病の生ずるに、皆虚實有り。

今夫子乃ち、有餘に五有り、不足も亦た五有りと言う。何を以てこれを生じるや。

 

岐伯曰.皆生於五藏也.

心藏神.肺藏氣.肝藏血.脾藏肉.腎藏志.而此成形.

志意通.内連骨髓.而成身形五藏.

五藏之道.皆出於經隧.以行血氣.血氣不和.百病乃變化而生.是故守經隧焉.

岐伯曰く。皆五藏に生じるなり。

夫れ

心は神を藏し、肺は氣を藏し、肝は血を藏し、脾は肉を藏し、腎は志を藏し、而して此れ形を成す。

志意通じ、内は骨髓に連なりて、身の形、五藏成るなり。

五藏の道は、皆經隧に出で、以て血氣を行らす。血氣和せざれば、百病は乃ち變化して生ず。是れ故に經隧を守るなり。

 

帝曰.神有餘不足何如.

岐伯曰.

神有餘則笑不休.

神不足則悲.

血氣未并.五藏安定.邪客於形.洒淅起於毫毛.未入於經絡也.故命曰神之微.

帝曰く。神の有餘不足とは何んの如きか。

岐伯曰く。

神有餘なれば則ち笑いて休まず。

神不足なれば則ち悲す。

血氣未だ并せず、五藏は安定し、邪形に客せば、洒淅として毫毛起きるも、未だ經絡に入らざるなり。故に命じて曰く神の微と。

 

帝曰.補寫奈何.

岐伯曰.

神有餘.則寫其小絡之血出血.勿之深斥.無中其大經.神氣乃平.

神不足者.視其虚絡.按而致之.刺而利之.無出其血.無泄其氣.以通其經.神氣乃平.

帝曰く。補寫はいかん。

岐伯曰く。

神有餘なれば、則ち其の小絡の血を寫し血を出だす。これを深く斥(せき)すること勿れ。其の大經に中ること無くば、神氣は乃ち平かなり。

神不足なるは、其の虚絡を視、按じてこれを致し、刺してこれを利し、其の血を出すこと無く、其の氣を泄すこと無く、以て其の經を通ずれば、神氣は乃ち平かなり。

 

帝曰.刺微奈何.

岐伯曰.按摩勿釋.著鍼勿斥.移氣於不足.神氣乃得復.

帝曰く。微を刺すこといかん。

岐伯曰く。按摩して釋(す)てること勿れ。鍼を著けて斥すること勿れ。不足に氣を移さば、神氣は乃ち復するを得ん。

 

帝曰善.有餘不足奈何.

岐伯曰.

氣有餘則喘咳上氣.

不足則息利少氣.

血氣未并.五藏安定.皮膚微病.命曰白氣微泄.

帝曰く。善し。有餘不足とはいかん。

岐伯曰く。

氣有餘なれば則ち喘咳して上氣す。

不足なれば則ち息利して少氣たり。

血氣未だ并せず、五藏安定なれば、皮膚微(かす)かに病む。命じて白氣微泄と曰く。

 

帝曰.補寫奈何.

岐伯曰.

氣有餘則寫其經隧.無傷其經.無出其血.無泄其氣.

不足則補其經隧.無出其氣.

帝曰く。補寫はいかん。

岐伯曰く。

氣有餘なれば則ち其の經隧を寫す。其の經を傷ること無く、其の血を出すこと無く、其の気を泄すこと無し。

不足なれば則ち其の經隧を補う。其の氣を出すこと無し。

※經隧・・・経絡に随って深いところに流れている通路

 

帝曰.刺微奈何.

岐伯曰.按摩勿釋.出鍼視之.曰我將深之.適人必革.精氣自伏.邪氣散亂.無所休息.氣泄腠理.眞氣乃相得.

帝曰く。微を刺すこといかん。

岐伯曰く。按摩して釋てること勿れ。鍼を出してこれを視せ、我將にこれを深くせんと曰く。人適(かな)いて必ず革(あらたま)りて、精氣自ずと伏し、邪氣散亂し、休息する所無く、氣腠理に泄れ、真気乃ち相得る。

 

帝曰善.血有餘不足奈何.

岐伯曰.

血有餘則怒.

不足則恐.

血氣未并.五藏安定.孫絡水溢.則經有留血.

帝曰く。善し。血の有餘不足はいかん。

岐伯曰く。

血有餘なれば則ち怒す。

不足なれば則ち恐る。

血氣未だ并せず、五藏安定し、孫絡水溢すれば、則ち經に留血有り。

 

帝曰.補寫奈何.

岐伯曰.

血有餘則寫其盛經.出其血.

不足則視其虚經.内鍼其脉中.久留而視.

脉大.疾出其鍼.無令血泄.

帝曰く。補寫はいかん。

岐伯曰く。

血有餘なれば則ち其の盛んなる經を寫す。その血を出す。

不足なれば則ちその虚する經を視て、鍼を其の脉中に内れ、久しく留めて視、脉大なれば、疾く其の鍼を出し、血をして泄せしむること無し。

 

帝曰.刺留血奈何.

岐伯曰.視其血絡.刺出其血.無令惡血得入於經.以成其疾.

帝曰く。留血を刺すこといかん。

岐伯曰く。其の血絡を視、刺して其の血を出し、悪血をして經に入る得て、以て其の疾を成さしむることなかれ。。

 

帝曰善.形有餘不足奈何.

岐伯曰.

形有餘則腹脹涇溲不利.

不足則四支不用.

血氣未并.五藏安定.肌肉蠕動.命曰微風.

帝曰く、善し。形の有餘不足いかん。

岐伯曰く。

形有餘なれば則ち腹脹し涇溲して利せず。

不足なれば則ち四支用いず。

血氣未だ并せず、五藏安定なり。肌肉蠕動す。命じて微風と曰く。

 

帝曰.補寫奈何.

岐伯曰.

形有餘則寫其陽經.

不足則補其陽絡.

帝曰く。補寫はいかん。

岐伯曰く。

形有餘なれば則ち其の陽經を寫す。

不足なれば則ち其の陽絡を補す。

 

帝曰.刺微奈何.

岐伯曰.取分肉間.無中其經.無傷其絡.衞氣得復.邪氣乃索.

帝曰く。微を刺すこといかん。

岐伯曰く。分肉の間を取り、其の經に中ること無く、其の絡を傷ること無く、衛氣復するを得れば、邪氣は乃ち索(ち)る。

 

帝曰善.志有餘不足奈何.

岐伯曰.

志有餘則腹脹飧泄.

不足則厥.

血氣未并.五藏安定.骨節有動.

帝曰く、善し。志の有餘不足はいかん。

岐伯曰く。

志有餘なれば則ち腹脹飧泄す。

不足なれば則ち厥す。

血氣未だ并せず、五藏安定なれば、骨節は動有り。

 

 

帝曰.補寫奈何.

岐伯曰.

志有餘則寫然筋血者.

不足則補其復溜.

帝曰く。補寫はいかん。

岐伯曰く。

志有餘なれば則ち然筋の血を寫す。

不足なれば則ち其の復溜を補す。

然筋…新校正にならい、然谷に改める。

 

帝曰.刺未并奈何.

岐伯曰.即取之.無中其經.邪所乃能立虚.

帝曰く。未だ并せずを刺すこといかん。

岐伯曰く。即ちこれを取り、其の經に中たること無ければ、邪の所乃ち能く立ちどころに虚す。

 

帝曰善.余已聞虚實之形.不知其何以生.

岐伯曰.

氣血以并.陰陽相傾.氣亂於衞.血逆於經.血氣離居.一實一虚.

血并於陰.氣并於陽.故爲驚狂.

血并於陽.氣并於陰.乃爲炅中.

血并於上.氣并於下.心煩惋善怒.

血并於下.氣并於上.亂而喜忘.

帝曰く、善し。余は已に虚實の形を聞けり。其の何を以て生ずるかを知らず。

岐伯曰く。

氣血以て并し、陰陽相い傾き、氣は衞に亂れ、血は經に逆すれば、血氣離居して、一實一虚す。

血陰に并し、氣陽に并す。故に驚狂を爲す。

血陽に并し、氣陰に并すれば、乃ち炅中(けいちゅう)を爲す。

血上に并し、氣下に并すれば、心煩惋(えん)して善く怒す。

血下に并し、氣上に并すれば、亂れて喜(よ)く忘す。

 

帝曰.血并於陰.氣并於陽.如是血氣離居.何者爲實.何者爲虚.

岐伯曰.

血氣者喜温而惡寒.

寒則泣不能流.

温則消而去之.

是故氣之所并爲血虚.血之所并爲氣虚.

帝曰く、血陰に并し、氣陽に并す。是の如く血氣離居するは、何をば實と爲し、何をば虚と爲や。

岐伯曰く。

血氣なるは、温を喜びて寒を惡む。

寒なれば則ち泣して流れること能わず。

温なれば則ち消して之を去る。

是れ故に氣の并する所は血虚を爲し、血の并する所は氣虚を爲す。

 

帝曰.

人之所有者.血與氣耳.今夫子乃言.血并爲虚.氣并爲虚.是無實乎.

岐伯曰.

有者爲實.無者爲虚.故氣并則無血.血并則無氣.今血與氣相失.故爲虚焉.

絡之與孫脉.倶輸於經.血與氣并.則爲實焉.

血之與氣.并走於上.則爲大厥.厥則暴死.氣復反則生.不反則死.

帝曰く。

人の有するところ、血と氣のみ。今夫子乃ち言う。血并して虚を爲し、氣并して虚を爲すと。是て實無きや。

岐伯曰く。

有る者は実と爲し、無き者は虚と爲す。故に氣并すれば、則ち血無く、血并すれば則ち氣無し。今血と氣相い失す。故に虚を爲すなり。

これ絡と孫脉は、倶に經に輸す。血と氣と并すれば則ち實を爲すなり。

これ血と氣、并して上に走れば、則ち大厥を爲す。厥すれば則ち暴死す。氣復(ま)た反(かえ)れば、則ち生き、反らざれば、則ち死す。

 

帝曰.實者何道從來.虚者何道從去.虚實之要.願聞其故.

岐伯曰.

夫陰與陽.皆有兪會.陽注於陰.陰滿之外.陰陽勻平.以充其形.九候若一.命曰平人.

夫邪之生也.或生於陰.或生於陽.其生於陽者.得之風雨寒暑.

其生於陰者.得之飮食居處.陰陽喜怒.

帝曰く。實なるは何れの道より来たり、虚なるは何れの道より去るや。虚實の要、願わくば其の故を聞かん。

岐伯曰く。

夫て陰と陽、皆兪會有り。陽は陰に注ぎ、陰滿ちて外に之(ゆ)けば、陰陽勻平にして、以て其の形を充し、九候は一の若し。命じて平人と曰く。

夫れ邪の生じるや、或いは陰に生じ、或いは陽に生ず。其の陽に生ずるは、これを風雨寒暑に得る。

其の陰に生じるは、これを飲食居處、陰陽喜怒に得る。

 

帝曰.風雨之傷人奈何.

岐伯曰.

風雨之傷人也.先客於皮膚.傳入於孫脉.孫脉滿.則傳入於絡脉.絡脉滿.則輸於大經脉.血氣與邪并.客於分腠之間.其脉堅大.故曰實.

實者外堅充滿.不可按之.按之則痛.

帝曰く。風雨の人を傷ることいかん。

岐伯曰く。

風雨の人を傷るや、先ず皮膚に客し、傳えて孫絡に入る。孫脉滿つれば、則ち傳えて絡脉に入る。絡脉滿つれば、則ち大經脉に輸し血氣と邪并して分腠の間に客すれば、其の脉堅大なり。故に實と曰く。實なるは外堅く充滿して、これを按之ずべからず。これを按ずれば則ち痛む。

帝曰.寒濕之傷人奈何.

岐伯曰.

寒濕之中人也.皮膚不收.肌肉堅緊.榮血泣.衞氣去.故曰虚.

虚者聶辟氣不足.按之則氣足以温之.故快然而不痛.

帝曰く。寒濕の人を傷ることいかん。

岐伯曰く。

寒濕の人に中るや、皮膚收せず、肌肉堅緊し、榮血泣(しぶ)りて、衞氣去る。故に虚と曰く。

虚なる者は聶辟(じょうへき)し氣足らず、これを按ずれば則ち氣足りて以てこれを温にす。故に快然として痛まず。

 

帝曰善.陰之生實奈何.

岐伯曰.喜怒不節.則陰氣上逆.上逆則下虚.下虚則陽氣走之.故曰實矣.

帝曰く、善し。陰の實を生ずることいかん。

岐伯曰く。喜怒節ならざれば則ち陰氣上に逆す。上に逆すれれば則ち下は虚す。下虚すれば則ち陽氣これに走る。故に實と曰く。

 

帝曰.陰之生虚奈何.

岐伯曰.喜則氣下.悲則氣消.消則脉虚空.因寒飮食.寒氣熏滿.則血泣氣去.故曰虚矣.

帝曰く。陰の虚を生ずるはいかん。

岐伯曰く。喜べば則ち氣下り、悲しめば則ち氣消す。消すれば則ち脉虚して空し。寒の飮食に因りて、寒氣熏滿すれば則ち血泣りて氣去る。故に虚と曰く。

帝曰.

經言.陽虚則外寒.陰虚則内熱.陽盛則外熱.陰盛則内寒.

余已聞之矣.不知其所由然也.

岐伯曰.陽受氣於上焦.以温皮膚分肉之間.今寒氣在外.則上焦不通.上焦不通.則寒氣獨留於外.故寒慄.

帝曰く。

經に言う。陽虚すれば則ち外寒し、陰虚すれば則ち内熱す。陽盛んなれば則ち外熱し、陰盛んなれば則ち内寒す。

余は已にこれを聞けり。其の由りて然る所を知らざるなり。

岐伯曰く。陽は氣を上焦に受け、以て皮膚分肉の間を温むる。今寒氣外に在れば則ち上焦通ぜず。上焦通ぜざれば則ち寒氣獨り外に留る。故に寒慄するなり。

 

帝曰.陰虚生内熱奈何.

岐伯曰.有所勞倦.形氣衰少.穀氣不盛.上焦不行.下脘不通.胃氣熱.熱氣熏胸中.故内熱.

帝曰く。陰虚すれば内熱生ずとはいかん。

岐伯曰く。勞倦する所有り、形氣衰少し、穀氣盛んならず、上焦行らず、下脘通ぜず、胃氣熱し、熱氣胸中を熏ず。故に内熱す。

 

帝曰.陽盛生外熱奈何.

岐伯曰.上焦不通利.則皮膚緻密.腠理閉塞.玄府不通.衞氣不得泄越.故外熱.

帝曰く。陽盛んなれば外熱すとはいかん。

岐伯曰く。上焦通利せざれば則ち皮膚緻密し、腠理閉塞して、玄府通ぜず。衞氣泄越するを得ず。故に外熱す。

 

帝曰.陰盛生内寒奈何.

岐伯曰.厥氣上逆.寒氣積於胸中而不寫.不寫則温氣去.寒獨留.則血凝泣.凝則脉不通.其脉盛大以濇.故中寒.

帝曰く。陰盛んなれば内寒を生ずとはいかん。

岐伯曰く。厥氣上逆し、寒氣胸中に積みて寫さず。寫さざれば則ち温氣去り、寒獨り留まれば則ち血凝泣す。凝すれば則ち脉通ぜず。其の脉盛大にして以て濇(しぶ)る。故に中寒するなり。

 

帝曰.陰與陽并.血氣以并.病形以成.刺之奈何.

岐伯曰.刺此者.取之經隧.取血於營.取氣於衞.用形哉.因四時多少高下.

帝曰く。陰と陽并し、血氣以て并し、病形以て成る。これを刺すこといかん。

岐伯曰く。此れを刺すは、これを經隧に取る。血を營にとり、氣を衞に取る。形を用うるや、四時に因りて多少高下す。

※經隧 五臓六腑の大絡 <霊枢・玉版篇>

 

帝曰.血氣以并.病形以成.陰陽相傾.補寫奈何.

岐伯曰.

寫實者.氣盛乃内鍼.鍼與氣倶内.以開其門.如利其戸.

鍼與氣倶出.精氣不傷.邪氣乃下.外門不閉.以出其疾.搖大其道.如利其路.是謂大寫.必切而出.大氣乃屈.

帝曰く。血氣以て并し、病形以て成る。陰陽相い傾く。補寫はいかん。

岐伯曰く。

實を寫するは、氣盛んなれば乃ち鍼を内れ、鍼と氣倶に内れ、以て其の門を開くこと、其の戸を利するが如くす。

鍼と氣倶に出で、精氣傷れず、邪氣は乃ち下る。外門は閉じず、以て其の疾を出(いだ)す。搖大其の道大いに揺らすこと、其の路を利するが如くす。是れを大寫と謂う。必ず切して出せば、大氣は乃ち屈す。

 

 

帝曰.補虚奈何.

岐伯曰.

持鍼勿置.以定其意.候呼内鍼.氣出鍼入.

鍼空四塞.精無從去.方實而疾出鍼.氣入鍼出.

熱不得還.閉塞其門.邪氣布散.精氣乃得存.

動氣候時.近氣不失.遠氣乃來.是謂追之.

帝曰く。虚を補するはいかん。

岐伯曰く。

鍼を持ちて置くこと勿れ。以て其の意を定む。呼を候いて鍼を内れ、氣出でて鍼入れば、

鍼空は四塞し、精は從いて去ること無し。方(まさ)に實して疾く鍼を出し、氣入りて鍼出だし、

熱還るを得ず、其の門は閉塞し、邪氣は布散し、精氣は乃ち存するを得る。

氣を動するに時を候い、近氣は失せず、遠氣は乃ち來たる。是れこれを追うと謂う。

 

帝曰.

夫子言虚實者有十.生於五藏.五藏五脉耳.夫十二經脉.皆生其病.今夫子獨言五藏.

夫十二經脉者.皆絡三百六十五節.節有病.必被經脉.經脉之病.皆有虚實.何以合之.

帝曰く。

夫子の虚實に十有りて、五藏に生ずと言えり。五藏は五脉のみ。夫れ十二經脉は、皆其の病を生す。今夫子獨り五藏を言えり。

夫れ十二經脉は、皆三百六十五節を絡う。節に病有れば、必ず經脉に被る。經脉の病、皆虚實有り。何を以てこれを合するや。

 

岐伯曰.

五藏者.故得六府.與爲表裏.經絡支節.各生虚實.其病所居.隨而調之.

病在脉.調之血.

病在血.調之絡.

病在氣.調之衞.

病在肉.調之分肉.

病在筋.調之筋.

病在骨.調之骨.

燔鍼劫刺其下.及與急者.

病在骨.焠鍼藥熨.

病不知所痛.兩蹻爲上.

身形有痛.九候莫病.則繆刺之.

痛在於左.而右脉病者.巨刺之.

必謹察其九候.鍼道備矣.

岐伯曰く。

五藏は、故(もと)より六府を得て、ともに表裏を爲す。經絡支節は、各おの虚實を生ず。其の病の居る所に、隨いてこれを調う。

病脉に在れば、これを血に調う。

病血に在れば、これを絡に調う。

病氣に在れば、これを衞に調う。

病肉に在れば、これを分肉に調う。

病筋に在れば、これを筋に調う。

病骨に在れば、これを骨に調う。

燔鍼は其の下、及び急なるにともに劫刺す。

病に骨に在れば、焠鍼(さいしん)藥熨(やくうつ)す。

病痛所を知らざれば、兩蹻を上と爲す。

身形に痛み有りて、九候に病莫ければ、則ちこれを繆刺(びゅうし)す。

痛左に在りて、右脉病むは、これを巨刺す。

必ず謹しみて其の九候を察し、鍼道備わるなり。

 

 

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水熱穴論篇第六十一.

  本篇は、骨空論で記載されている水兪五十七穴の詳細が表題となっているが、腎と肺、腎と胃の生理関係のほか刺法にまで論及されている。


 「腎は胃の関」と「四季の刺法」に関しては、気の動きを筆者なりに臨床に合致するように意訳を試みた。

 諸氏、ご意見を賜れば幸いです。

 

         原 文 意 訳

 

 黄帝が問うて申された。

 少陰が腎を主り水を主るというのは、どのような根拠から申しておるのか。

 

 岐伯がそれに対して申された。

 腎は至陰でありまして、最も低位にございます。低いところでは、水が盛んになるものであります。

 肺は太陰でありまして、少陰は冬の脈であります。冬から次第に陽気が益し、地気が天に昇りますように、少陰の気も脈を通じて肺に昇り注いでおります。

 従いまして肺腎の関係では、腎が本であり肺が末となります。この肺腎は、水が聚るところであります。

 

 帝が申された。

 腎には、なぜよく水が集まって病を生じるのか。

 

 岐伯が申された。

 腎と申しますは、胃の関のような働きをいたします。

 もし関門の調節が効かなくなり、閉じたままとなりますとと水が上に溢れ、開いたままとなりますと水が低位の腎に集まりますので、色々な水の病を生じるのであります。

 ですから上下の皮膚に水が溢れ停滞して動かなくなりますと、浮腫を生じるのであります。

 

 帝が申された。

 諸々の水に起因する病は、すべて腎にその責があるのか。

 

 岐伯が申された。

 腎と申しますは、牝蔵(ひんぞう)と称しまして陰の臓であります。天地に例えますと、大地は腎に相当し、大地から立ち上る蒸気を地気と致しますと、腎の陽気はこの蒸気に相当します。

 この立ち上る蒸気は、大地にあっては水でありますので、腎は大地であり最も低いところでありますので至陰と申し上げているのであります。

 もし人が気合を入れて激しい労働を行いますと、腎は旺じて蒸気もまた激しく立ち昇り、肺が主る皮毛から汗となって出ていきます。この様を腎から汗が出ると申します。

 そして毛穴が開いて汗が出ている時、たまたま寒冷の風などに出会いますと、毛穴が閉じてしまいます。

 汗は腎の熱気で出ようとしているので内裏に入ることができません。かといって毛穴は閉じてしまっているので皮膚の外に出ることもできません。

 そうなりますと、汗は皮毛付近に水となって停滞するようになり、腎の熱気にあおられて出口を求めて皮膚の下を循るようになり、ついには浮腫となってしまうのであります。

 ですから、この類の病の根には、腎が関係しているのであります。このような機序で生じます浮腫を、風水と称しております。

 

 帝が申された。

 水兪五十七処なるは、何を主るのか。

 

 岐伯が申された。

 腎兪五十七穴は、陰気の聚り積もるところであります。ですから水の出入りする所とも言えます。

 尻の上に督脈と足太陽の左右で五行ありまして、各行の五穴が腎兪に相当いたします。

 従いまして、水病の下に現れるものは、下半身の浮腫と共にお腹が大きく膨らんでまいります。また、上に現れるものは、喘ぎを生じて仰向けに寝ることが出来なくなります。これは標本共に病んでいる状態であります。

 故に肺は水のために喘ぎを生じ、腎は水腫を生じ、肺気は水のために塞がって降りることが出来ませんので、臥することも出来なくなるのであります。

 肺と腎は上下に分かれ、水はその間を行き交いますので、何かありますと水が溜まりやすくなるところなのであります。

 また伏菟の上に各二行ありまして、その行ごとに五穴ありますのは、腎気の大通りで足の三陰の脚で交わり結ぶところであります。

 踝の上に各一行ありまして、その行ごとに六穴ありますのは、これは腎気の下行する所でありまして、名づけて太衝と申します。

 これら五十七穴は、すべて臓の陰絡で、水が溜まりやすいところであります。

 

 帝が申された。

 春には絡脉の分肉を取るとはどういうことなのか。

 

 岐伯が申された。

 春という時節は、木気が生じ始めこれが主気となります。人体においても、木性の肝気が旺じ始めます。肝気は、その動きは急でして風のように疾(はや)いものです。

 春季においては、経脉はまだ深部を流注しておりまして、体表の気もまたまだ少ないのですが、邪気もまた侵入したとしましても深部の気が充実しているので、深く入ることができないのであります。従いまして、取穴は邪気が留まる絡脉の分肉の間を取るのであります。

 

 帝が申された。

 夏には盛経の分腠を取るとはどういうことなのか。

 

 岐伯が申された。

 夏という時節は、火気が生じ始めこれが主気となります。身体においても火性の心気が旺じ始めます。脈は盛んとなり体表に向かい散じますので、脈は痩せ気もまた衰えがちになります。

 ところが夏季は自然の陽気を受け、人体もまた陽気が満ち溢れます。そして自然界からの陽気は熱となって分腠を蒸すかのようであり、その熱は内部の経にまで影響が及びます。従いまして邪気もまた皮膚の浅いところに停滞しているものです。

 このような訳で夏は盛んになっている陽経の分腠に浅く取穴を致します。

 

 帝が申された。

 秋には、経・兪を取るとはどういうことか。

 

 岐伯が申された。

 秋という時節は、金気が生じ始めこれが主気となります。身体においても金性の肺気が旺じ始めます。肺はまさに収殺し五行の相尅関係では金は火に勝ちますので、陽気は体幹部に近い合穴に結集いたします。

 すると相対的に陰気が盛んになり始めますので、湿気が身体に影響し始めます。しかしながらまだ陽気は衰え切らず、陰気もまた盛んになりきらないので、邪気もまた深く侵入することができません。

 従いまして体幹から遠位の兪穴で邪気を寫し、近位の合穴で陽邪を寫すのであります。さらに秋が深まり陽気が衰えてきますと、合穴を取って陽気を補うのであります。

 

 帝が申された。

 冬に井・滎を取るとはどういうことか。

 

 岐伯が申された。

 冬の時節は、水気が生じ始めこれが主気となります。身体においても水性の腎気が旺じ始めます。腎は陽気を保持するために深く閉蔵いたします。

 そうしますと体表や四肢末端の陽気は衰少いたしますので、相対的に陰気が堅く盛んになってまいります。さらに足太陽の脈気も隠れるかのように沈んでまいります。

 陽気が下りますと陰気が上がりますので、井穴で陰気の上逆を防ぎ、滎穴でさらに陽気を補って陰陽の平衡を図るのであります。

 あらかじめ冬にこのような処置をしておきますと、盛んになった陰気に閉じ込められた陽気が、春に一気に噴き出すかのような鼻血を防ぐことができるのであります。

 

 帝が申された。 

 そちは熱病を治す五十九兪について申した。

 しかし余はその意味するところを論じるには、まだ兪穴の部位がはっきりと区別できない。願わくばその部位と穴性を聞きたいのであるが。

 

 岐伯が申された。

 頭の上に五行、行ごとの五穴は、諸々の陽経の熱逆を泄すことができます。

 左右の大杼、膺兪、缺盆、背兪の八穴は、胸中の熱を寫すことができます。

 左右の氣街、三里、巨虚上・下廉の八穴は、胃中の熱を寫すことができます。

 左右の雲門、髃骨(肩髃)、委中、髓空(懸鐘or陽兪?)の八穴は、四肢の熱を寫すことができます。

 左右の五臓兪の傍らの五穴。この十穴は五臓の熱を寫すことができます。

 これら五十九穴は、熱が左右に行き交うところであります。

 

 帝が申された。

 人が寒に傷れ伝変すると熱となるのは、どういうことか。

 

 岐伯が申された。

 寒盛んとなり極まりますと鬱して転じ、熱を生じるという陰陽の道理でからであります。

 

        原文と読み下し

 

黄帝問曰.少陰何以主腎.腎何以主水.

岐伯對曰.

腎者至陰也.至陰者盛水也.

肺者太陰也.少陰者冬脉也.

故其本在腎.其末在肺.皆積水也.

黄帝問うて曰く。少陰は何を以て腎を主り、腎は何を以て水を主るや。

岐伯對して曰く。

腎なるは至陰なり。至陰なる者は水盛んなり。

肺なる者は太陰なり。少陰なる者は冬脉なり。

故に其の本は腎に在り。其の末は肺に在り。皆積水なり。

 

帝曰.腎何以能聚水而生病.

岐伯曰.

腎者胃之關也.關門不利.故聚水而從其類也.

上下溢於皮膚.故爲胕腫.胕腫者.聚水而生病也.

帝曰く。腎は何を以て能く水を聚めて病を生じるや。

岐伯曰く。

腎なる者は、胃の關なり。關門利せず。故に水を聚め其の類に從うなり。

上下の皮膚に溢る。故に胕腫を爲す。胕腫なる者は、水を聚めて病を生じるなり。

帝曰.諸水皆生於腎乎.

岐伯曰.

腎者牝藏也.地氣上者屬於腎.而生水液也.故曰至陰.

勇而勞甚.則腎汗出.腎汗出逢於風.内不得入於藏府.外不得越於皮膚.客於玄府.行於皮裏.傳爲胕腫.本之於腎.名曰風水.

所謂玄府者.汗空也.

帝曰く。諸水は皆腎に生ずるや。

岐伯曰く。

腎なる者は牝藏(ひんぞう)なり。地氣の上る者は腎に屬し、水液を生じるなり。故に至陰と曰く。

勇みて勞甚だしければ、則ち腎汗出ず。腎汗出でて風に逢えば、内は藏府に入るを得ず、外は皮膚を越するをえず。玄府に客し、皮裏を行り、傳えて胕腫を爲す。これ腎に本づく。名づけて風水と曰く。

所謂玄府なる者は、汗空なり。

 

帝曰.水兪五十七處者.是何主也.

岐伯曰.

腎兪五十七穴.積陰之所聚也.水所從出入也.

尻上五行.行五者.此腎兪.故水病下爲胕腫大腹.上爲喘呼.不得臥者.標本倶病.故肺爲喘呼.腎爲水腫.肺爲逆不得臥.分爲相輸.倶受者.水氣之所留也.

伏菟上各二行.行五者.此腎之街也.三陰之所交結於脚也.

踝上各一行.行六者.此腎脉之下行也.名曰太衝.

凡五十七穴者.皆藏之陰絡.水之所客也.

帝曰く。水兪五十七處なる者は、是れ何を主るや。

岐伯曰く。

腎兪五十七穴、積陰の聚る所なり。水の從りて出入する所なり。

尻上五行、行に五なる者は、此れ腎兪なり。故に水病の下は胕腫大腹を爲し、上は喘呼を爲す。臥するを得ざる者は、標本倶に病む。故に肺は喘呼を爲し、腎は水腫を爲す。肺は逆を爲して臥するを得ざるなり。分かれて相輸を爲し、倶に受ける者は、水氣の留まる所なり。

伏菟の上に各二行。行に五なる者は、此れ腎の街なり。三陰の脚に交結するところなり。

踝の上に各一行。行に六なる者は、此れ腎脉の下行なり。名づけて太衝と曰く。

凡そ五十七穴なる者は、皆藏の陰絡、水の客する所なり。

 

帝曰.春取絡脉分肉.何也.

岐伯曰.春者木始治.肝氣始生.肝氣急.其風疾.經脉常深.其氣少.不能深入.故取絡脉分肉間.

帝曰く。春は絡脉分肉に取るとは、何なるや。

岐伯曰く。春なるは、木の治め始め、肝氣は生じ始める。肝氣急にして、其の風疾し。經脉は常に深く、其の氣は少なく、深く入ること能わず。故に絡脉分肉の間に取る。

 

帝曰.夏取盛經分腠.何也.

岐伯曰.夏者火始治.心氣始長.脉痩氣弱.陽氣留溢.熱熏分腠.内至於經.故取盛經分腠.絶膚而病去者.邪居淺也.所謂盛經者.陽脉也.

帝曰く。夏は盛經分腠に取るとは、何なるや。

岐伯曰く。夏は火の治め始め、心氣長じ始める。脉は痩せ氣は弱く、陽氣留溢し、熱は分腠を熏じ、内は經に至る。故に盛經分腠に取り、膚を絶して病去る者は、邪淺きに居ればなり。所謂盛經なるは、陽脉なり。

 

帝曰.秋取經兪.何也.

岐伯曰.秋者金始治.肺將收殺.金將勝火.陽氣在合.陰氣初勝.濕氣及體.陰氣未盛.未能深入.故取兪以寫陰邪.取合以虚陽邪.陽氣始衰.故取於合.

帝曰く。秋に經兪を取るとは、何なるや。

岐伯曰く。秋は金の治め始め、肺將に收殺せんとす。金將に火に勝たんとし、陽氣は合に在り、陰氣初めて勝ち、濕氣體に及ぶも、陰氣未だ盛んならず、未だ深く入ること能わず。故に兪をとり以て陰邪を寫し、合を取りて以て陽邪を虚す。陽氣初めて衰う。故に合を取るなり。

 

帝曰.冬取井榮.何也.

岐伯曰.冬者水始治.腎方閉.陽氣衰少.陰氣堅盛.巨陽伏沈.陽脉乃去.故取井以下陰逆.取榮以實陽氣.

故曰.冬取井榮.春不鼽衄.此之謂也.

帝曰く。冬に井榮を取るとは、何なるや。

岐伯曰く。冬は水治め始め、腎方(まさ)に閉じ、陽氣は衰少し、陰氣は堅盛し、巨陽は伏沈し、陽脉は乃ち去る。故に井を取り以て陰逆を下し、榮を取り以て陽気を實す。

故に曰く。冬に井榮を取れば、春に鼽衄せずとは、此れこれを謂うなり。

 

帝曰.夫子言治熱病五十九兪.余論其意.未能領別其處.願聞其處.因聞其意.

岐伯曰.

頭上五行.行五者.以越諸陽之熱逆也.

大杼膺兪缺盆背兪.此八者.以寫胸中之熱也.

氣街三里巨虚上下廉.此八者.以寫胃中之熱也.

雲門髃骨委中髓空.此八者.以寫四支之熱也.

五藏兪傍五.此十者.以寫五藏之熱也.

凡此五十九穴者.皆熱之左右也.

帝曰.人傷於寒.而傳爲熱.何也.

岐伯曰.夫寒盛則生熱也.

帝曰く。夫子熱病をちする五十九兪を言えり。余は其の意を論ずるも、未だ其の處を領別すること能わず。願わくば其の處を聞かん。因りて其の意を聞かん。

岐伯曰く。

頭上の五行。行に五なるは、以て諸陽の熱逆を越するなり。

大杼、膺兪、缺盆、背兪、此の八なるは、以て胸中の熱を寫すなり。

氣街、三里、巨虚上下廉、此の八なるは、以て胃中の熱を寫すなり。

雲門、髃骨、委中、髓空、此の八なるは、以て四支の熱を寫すなり。

五藏の兪の傍らに五。此の十なるは、以て五藏の熱を寫すなり。

凡そ此の五十九穴なるは、皆熱の左右なり。

帝曰く。人寒に傷れ、傳えて熱と爲すは、何なるや。

岐伯曰く。夫れ寒盛んなれば則ち熱を生ずるなり。

 

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辨厥陰病脉證并治 326~381条

 志ある学徒の、簡便な道具にならんことを願って読み下文を記しています。

 また初学者のため、重複の労をいとわずルビをふっています。

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 底本 趙開美刊 「仲景全書」所収 『傷寒論』十巻

                    日本漢方協会学術部 編 東洋学術出版社

 

   辨厥陰病脉證并治 326~381条

                   第十二(厥利嘔噦附合一十九法方一十六首)

厥陰病の脉證、并(なら)びに治を辨ず。第十二。(厥利(けつり)嘔噦(おうえつ)を附す。合わせて一十九法、方一十六首)

 

【三二六条】

厥陰之為病、消渴、氣上撞心、心中疼熱、飢而不欲食、食則吐蚘、下之利不止。

厥陰之病為(た)るや、消渴(しょうかつ)し、氣上りて心を撞(つ)き、心中疼(いた)み熱し、飢えて食を欲せず、食すれば則ち蚘(かい)を吐し、之を下せば利止まず。

 

【三二七条】

厥陰中風、脉微浮為欲愈。不浮為未愈。

厥陰の中風、脉微浮なるとは愈えんと欲すと為す。浮ならざれば未だ愈えずと為す。

 

【三二八条】

厥陰病欲解時、從丑至卯上。

厥陰病解せんと欲する時は、丑(うし)從(よ)り卯(う)の上に至る。

 

【三二九条】

厥陰病、渴欲飲水者、少少與之愈。

厥陰病、渴して飲水せんと欲する者は、少少之を與えれば愈ゆ。

 

【三三〇条】

諸四逆厥者、不可下之。虛家亦然。

諸々の四逆して厥する者は、之を下すべからず。虛家も亦(ま)た然(しか)り。

 

【三三一条】

傷寒先厥後發熱而利者、必自止、見厥復利。

傷寒、先に厥し後(のち)發熱して利する者は、必ず自(おのずか)ら止む。厥を見(あら)わせば復た利す。

 

【三三二条】

傷寒、始發熱六日、厥反九日而利。凡厥利者、當不能食。今反能食者、恐為除中(一云消中)、食以索餅。不發熱者、知胃氣尚在、必愈。恐暴熱来出而復去也。後日脉之、其熱續在者、期之旦日夜半愈。

所以然者、本發熱六日、厥反九日、復發熱三日、并前六日、亦為九日、與厥相應、故期之旦日夜半愈。後三日脉之、而脉數、其熱不罷者、此為熱氣有餘、必發癰膿也。

傷寒、始め發熱すること六日、厥すること反って九日にして利す。凡(およ)そ厥利する者は當に食すること能わざるべし。今反って能く食する者は、恐らくは除中(じょちゅう)と為す。

食するに索餅(さくへい)を以て發熱せざる者は、胃氣尚(な)お在るを知る。必ず愈ゆ。恐らくは暴(にわ)かに熱来(きた)り出ずるも復た去らん。後日之を脉して、其の熱續(つづ)いて在る者は、之を期するに旦日(たんじつ)夜半に愈えん。然る所以(ゆえん)の者は、本(もと)發熱すること六日、厥とすること反って九日、復た發熱すること三日、前の六日を并(あわ)せて、亦(ま)た九日と為し、厥と相い應(おう)ず。故に之を期するに旦日夜半に愈ゆ。後三日之を脉して脉數(さく)、其の熱罷(や)まざる者は、此れ熱氣有餘(ゆうよ)と為す。必ず癰膿(ようのう)を發するなり。

 

【三三三条】

傷寒脉遲六七日、而反與黄芩湯徹其熱。脉遲為寒、今與黄芩湯復除其熱、腹中應冷、當不能食。今反能食、此名除中、必死。

傷寒脉遲なること六、七日、而(しか)るに反って黄芩湯を與えて其の熱を徹(てっ)す。脉遲は寒と為す。今、黄芩湯を與え復た其の熱を除く。腹中應(まさ)に冷ゆべし。當に食すること能わざるべし。

今反って能(よ)く食するは、此れを除中(じょちゅう)と名づく。必ず死す。

 

【三三四条】

傷寒、先厥後發熱、下利必自止。而反汗出、咽中痛者、其喉為痺。發熱無汗、而利必自止。若不止、必便膿血。便膿血者、其喉不痺。

傷寒、先に厥して後に發熱するは、下利必ず自(おのずか)ら止む。而(しか)るに反って汗出で、咽中痛む者は、其の喉痺(こうひ)を為す。發熱し汗無くして、利必ず自ら止む。若し止まざれば、必ず膿血を便す。膿血を便する者は、其の喉痺せず。

 

【三三五条】

傷寒一二日至四五日厥者、必發熱。前熱者、後必厥。厥深者熱亦深、厥微者熱亦微。厥應下之、而反發汗者、必口傷爛赤。

傷寒一、二日より、四、五日に至り、厥する者は、必ず發熱す。前に熱する者は、後必ず厥す。厥深き者は熱も亦(ま)た深く、厥微(び)の者は熱も亦た微なり。厥は應(まさ)に之を下すべし。而(しか)るに反って汗を發する者は、必ず口傷(やぶ)れ爛(ただ)れて赤し。

 

【三三六条】

傷寒病、厥五日、熱亦五日、設六日當復厥。不厥者自愈。厥終不過五日、以熱五日、故知自愈。

傷寒の病、厥すること五日、熱することも亦(ま)た五日、設(も)し六日には當(まさ)に復(ま)た厥すべし。厥せざる者は自(おのずか)ら愈ゆ。厥すること終(つい)に五日を過ぎずして、熱すること五日を以ての故に自ら愈ゆるを知る。

 

【三三七条】

凡厥者、陰陽氣不相順接、便為厥、厥者、手足逆冷者是也。

凡(およ)そ厥する者は、陰陽の氣相(あ)い順接せず、便(すなわ)ち厥を為(な)す、厥する者は、手足の逆冷する者是(こ)れなり 。

 

【三三八条】

傷寒脉微而厥、至七八日膚冷、其人躁、無暫安時者、此為藏厥、非蚘厥也。蚘厥者、其人當吐蚘、令病者靜、而復時煩者、此為藏寒。蚘上入其膈、故煩、須臾復止。得食而嘔、又煩者、蚘聞食臭出、其人常自吐蚘、蚘厥者、烏梅丸主之。又主久利。方一。

傷寒脉微にして厥し、七、八日に至りて膚(はだ)冷え、其の人躁(そう)にして、暫くも安き時無き者は、此れを藏厥(ぞうけつ)と為す。蚘厥(かいけつ)に非ざるなり。蚘厥なる者は、其の人當(まさ)に蚘(かい)を吐すべし。病者をして靜かにして復た時に煩せしむる者は、此れを藏寒(ぞうかん)と為(な)す。蚘上りて其の膈に入るが故に煩し、須臾(しゅゆ)にして復た止(や)む。食を得てして嘔し、又煩する者は、蚘食臭(しょくしゅう)を聞きて出ず。其の人常に自ら蚘を吐す。蚘厥なる者は、烏梅丸(うばいがん)之を主る。又、久利(きゅうり)を主る。方一。

 

 

〔烏梅丸方〕

烏梅(三百枚) 細辛(六兩) 乾薑(十兩) 黄連(十六兩) 當歸(四兩) 附子(六兩炮去皮) 蜀椒(四兩出汗) 桂枝(去皮六兩) 人參(六兩) 

黄檗(六兩)

右十味、異擣篩、合治之。以苦酒漬烏梅一宿、去核、蒸之五斗米下、飯熟擣成泥、和藥令相得。内臼中、與蜜杵二千下、丸如梧桐子大。先食飲服十丸、日三服、稍加至二十丸。禁生冷、滑物、臭食等。

 

烏梅(うばい)(三百枚) 細辛(六兩) 乾薑(十兩) 黄連(十六兩) 當歸(四兩) 附子(六兩、炮じて皮を去る) 蜀椒(しょくしょう)(四兩、汗を出す) 桂枝(皮を去る、六兩) 人參(六兩) 

黄檗(おうばく)(六兩)

右十味、異(こと)にして擣(つ)きて篩(ふる)い、合して之を治む。苦酒(くしゅ)を以て烏梅を漬けること一宿(いっしゅく)、核を去り、之を五斗米の下(もと)に蒸し、飯熟(いじゅく)せば擣きて泥(でい)と成し、

藥に和して相(あ)い得せしむ。臼中(きゅうちゅう)に内(い)れ、蜜とともに杵(つ)くこと二千下(げ)、丸ずること梧桐子大(ごどうしだい)の如くす。食に先だちて十丸を飲服し、日に三服す。

稍(やや)加えて二十丸に至る。生冷(せいれい)、滑物(かつぶつ)、臭食(しゅうしょく)等を禁ず。

 

【三三九条】

傷寒熱少微厥、指(一作稍)頭寒、嘿嘿不欲食、煩躁、數日、小便利、色白者、此熱除也、欲得食、其病為愈。若厥而嘔、胸脇煩滿者、其後必便血。

傷寒熱少なく微厥(びけつ)し、指頭(しとう)寒(ひ)え、嘿嘿(もくもく)として食を欲せず、煩躁す。數日にして小便利し、色白き者は、此れ熱除くなり。食を得んと欲するは、其の病愈ゆること為す。若し厥して嘔し、胸脇煩滿する者は、其の後必ず便血す。

 

【三四〇条】

病者手足厥冷、言我不結胸、小腹滿、按之痛者、此冷結在膀胱關元也。

病者手足厥冷し、我結胸せずと言う。小腹滿し、之を按じて痛む者は、此れ冷(れい)結んで膀胱關元に在(あ)るなり。

 

【三四一条】

傷寒發熱四日、厥反三日、復熱四日。厥少熱多者、其病當愈。四日至七日熱不除者、必便膿血。

傷寒發熱すること四日、厥すること反って三日、復た熱すること四日、厥少なく熱多き者は、其の病當に愈ゆべし。四日より七日に至りて熱除かざる者は、必ず膿血を便す。

 

【三四二条】

傷寒厥四日、熱反三日、復厥五日、其病為進。寒多熱少、陽氣退、故為進也。

傷寒厥すること四日、熱すること反って三日、復た厥すること五日、其の病進むと為(な)す。寒多く熱少なく、陽氣退(しりぞ)くが故に進むと為すなり。

 

【三四三条】

傷寒六七日、脉微、手足厥冷、煩躁、灸厥陰。厥不還者、死。

傷寒六、七日、脉微、手足厥冷し、煩躁するは、厥陰に灸す。厥還(かえ)らざる者は、死す。

 

【三四四条】

傷寒發熱、下利、厥逆、躁不得臥者、死。

傷寒、發熱し、下利し、厥逆し、躁して臥(ふ)すことを得ざる者は死す。

 

【三四五条】

傷寒發熱、下利至甚、厥不止者、死。

傷寒、發熱し、下利甚しきに至り、厥止まざる者は死す。

 

【三四六条】

傷寒六七日不利、便發熱而利、其人汗出不止者、死、有陰無陽故也。

傷寒六、七日利せず、便(すなわ)ち發熱して利し、其の人汗出でて止まざる者は死す。陰有りて陽無きが故なり。

 

【三四七条】

傷寒五六日、不結胸、腹濡、脉虛、復厥者、不可下、此亡血、下之死。

傷寒五六日、結胸せず、腹濡(なん)、脉虛し、復た厥する者は、下すべからず。此れ亡血なり。之を下せば死す。

 

【三四八条】

發熱而厥、七日下利者、為難治。

發熱して厥し、七日にして下利する者は、治し難しと為す。

 

【三四九条】

傷寒脉促(促一作縱)、手足厥逆、可灸之。

傷寒、脉促(そく)、手足厥逆するは、之を灸すべし。

 

【三五〇条】

傷寒脉滑而厥者、裏有熱、白虎湯主之。方二。

傷寒、脉滑にして厥する者は、裏に熱有り、白虎湯之を主る。方二。

 

〔白虎湯方〕

知母(六兩) 石膏(一斤碎綿裹) 甘草(二兩炙) 粳米(六合)

右四味、以水一斗、煮米熟、湯成、去滓、温服一升、日三服。

 

知母(六兩) 石膏(一斤、碎き、綿もて裹(つつ)む) 甘草(二兩、炙る) 粳米(六合)

右四味、水一斗を以て、煮て米熟し、湯成なりて滓を去り、一升を温服し、日に三服す。

 

【三五一条】

手足厥寒、脉細欲絶者、當歸四逆湯主之。方三。

手足厥寒し、脉細にして絶せんと欲する者は、當歸四逆湯(とうきしぎゃくとう)之を主る。方三。

 

〔當歸四逆湯方〕

當歸(三兩) 桂枝(三兩去皮) 芍藥(三兩) 細辛(三兩) 甘草(二兩炙) 通草(二兩) 大棗(二十五枚擘一法十二枚)

右七味、以水八升、煮取三升、去滓、温服一升、日三服。

 

當歸(とうき)(三兩) 桂枝(三兩、皮を去る) 芍藥(三兩) 細辛(三兩) 甘草(二兩、炙る) 通草(二兩) 大棗(二十五枚、擘く、一法に十二枚とす)

右七味、水八升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服し、日に三服す。

 

【三五二条】

若其人内有久寒者、宜當歸四逆加呉茱萸生薑湯。方四。

若し其の人内(うち)に久寒有る者は、當歸四逆加呉茱萸生薑湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)に宜し。方四。

 

〔當歸四逆加呉茱萸生薑湯方〕

當歸(三兩) 芍藥(三兩) 甘草(二兩炙) 通草(二兩) 桂枝(三兩去皮) 細辛(三兩) 生薑(半斤切) 呉茱萸(二升) 大棗(二十五枚擘)

右九味、以水六升、清酒六升和、煮取五升、去滓、温分五服(一方水酒各四升)。

 

當歸(三兩) 芍藥(三兩) 甘草(二兩、炙る) 通草(二兩) 桂枝(三兩、皮を去る) 細辛(三兩) 生薑(半斤、切る) 呉茱萸(二升) 大棗(二十五枚、擘く)

右九味、水六升を以て、清酒六升を以て和し、煮て五升を取り、滓を去り、温め分かち五服す(一方に、水酒各々四升とす)。

 

【三五三条】

大汗出、熱不去、内拘急、四肢疼、又下利厥逆而惡寒者、四逆湯主之。方五。

大いに汗出で、熱去さらず、内拘急(こうきゅう)し、四肢疼(いた)み、又下利厥逆し惡寒する者は、四逆湯之を主る。方五。

 

〔四逆湯方〕

甘草(二兩炙) 乾薑(一兩半) 附子(一枚生用去皮破八片)

右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、分温再服。若強人可用大附子一枚、乾薑三兩。

 

甘草(二兩、炙る) 乾薑(一兩半) 附子(一枚、生を用い、皮を去り、八片に破る)

右三味、水三升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温め再服す。若し強人なれば大附子一枚、乾薑三兩を用うべし。

 

【三五四条】

大汗、若大下利而厥冷者、四逆湯主之。六(用前第五方)。

大いに汗し、若しくは大いに下利して厥冷する者は、四逆湯之を主る。六(前の第五方を用う)。

 

【三五五条】

病人手足厥冷、脉乍緊者、邪結在胸中、心下滿而煩、飢不能食者、病在胸中、當須吐之、宜瓜蔕散。方七。

病人手足厥冷し、脉乍(たちま)ち緊の者は、邪結んで胸中に在り、心下滿して煩し、飢(う)ゆれども食すること能わざる者は、病胸中に在り。當に須(すべから)く之を吐すべし。瓜蔕散(かていさん)宜。方七。

 

〔瓜蔕散方〕

瓜帶 赤小豆

右二味、各等分、異擣篩、合内臼中、更治之、別以香豉一合、用熱湯七合、煮作稀糜、去滓、取汁和散一錢匕、温頓服之。不吐者、少少加、得快吐乃止。諸亡血虛家、不可與瓜蔕散。

 

瓜帶(かてい) 赤小豆

右二味、各々等分し、異(こと)にして擣(つ)きて篩(ふる)い、合わせて臼中に内れ、更に之を治(おさ)む。別に香豉(こうし)一合を以て、熱湯七合を用い、煮て稀糜(きび)を作り、滓を去り、汁を取り散一錢匕(ひ)を和し、温めて之を頓服す。吐かざる者は、少少加え、快吐(かいと)を得れば乃(すなわ)ち止む。諸亡(しょぼう)血虛家は、瓜蔕散(かていさん)を與うべからず。

 

 

【三五六条】

傷寒厥而心下悸、宜先治水、當服茯苓甘草湯、却治其厥、不爾、水漬入胃、必作利也。茯苓甘草湯。方八。

傷寒厥して心下悸するは、宜しく先ず水を治すべし。當に茯苓甘草湯(ぶくりょうかんぞうとう)を服すべし。却って其の厥を治せ。爾(しか)らざれば、水漬(すいし)胃に入り、必ず利を作(な)すなり。茯苓甘草湯。方八。

 

〔茯苓甘草湯方〕

茯苓(二兩) 甘草(一兩炙) 生薑(三兩切) 桂枝(二兩去皮)

右四味、以水四升、煮取二升、去滓、分温三服。

 

茯苓(二兩) 甘草(一兩、炙る) 生薑(三兩、切る) 桂枝(二兩、皮を去る)

右四味、水四升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、分かち温め三服す。

 

【三五七条】

傷寒六七日、大下後、寸脉沈而遲、手足厥逆、下部脉不至、喉咽不利、唾膿血、泄利不止者、為難治。麻黄升麻湯主之。方九。

傷寒六、七日、大いに下したる後、寸脉沈にして遲、手足厥逆し、下部の脉至らず、喉咽(こういん)利せず、膿血を唾(だ)し、泄利(せつり)止まざる者は、治ち難しと為(な)す。麻黄升麻湯(まおうしょうまとう)之を主る。方九。

 

〔麻黄升麻湯方〕

麻黄(二兩半去節) 升麻(一兩一分) 當歸(一兩一分) 知母(十八銖) 黄芩(十八銖) 萎蕤(十八銖一作菖蒲) 芍藥(六銖) 天門冬(六銖去心) 桂枝(六銖去皮) 茯苓(六銖) 甘草(六銖炙) 石膏(六銖碎綿裹) 白朮(六銖) 乾薑(六銖)

右十四味、以水一斗、先煮麻黄一兩沸、去上沫、内諸藥、煮取三升、去滓、分温三服。相去如炊三斗米頃、令盡、汗出愈。

 

麻黄(二兩半、節を去る) 升麻(しょうま)(一兩一分) 當歸(一兩一分) 知母(ちも)(十八銖) 黄芩(十八銖) 萎蕤(いずい)(十八銖、一に菖蒲(しょうぶ)と作(な)す) 芍藥(六銖) 天門冬(てんもんどう)(六銖、心を去る) 桂枝(六銖、皮を去る)

茯苓(六銖) 甘草(六銖、炙る) 石膏(六銖、碎き、綿もて裹(つつ)む) 白朮(六銖) 乾薑(六銖)

右十四味、水一斗を以て、先ず麻黄を煮て一兩沸し、上沫を去り、諸藥を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、分かち温め三服す。相い去ること三斗米を炊く頃の如くにして、盡(つく)せしむ。汗出でて愈ゆ。

 

【三五八条】

傷寒四五日、腹中痛、若轉氣下趣少腹者、此欲自利也。

傷寒四、五日、腹中痛み、若し轉氣(てんき)下り少腹に趣(おもむ)く者は、此れ自利せんと欲するなり。

 

【三五九条】

傷寒本自寒下、醫復吐下之、寒格、更逆吐下。若食入口即吐、乾薑黄芩黄連人參湯主之。方十。

傷寒本(もと)自と寒下(かんげ)するに、醫復た之を吐下して、寒格(かんかく)し、更に逆して吐下す。若し食口に入らば即吐するは、乾薑黄芩黄連人參湯(かんきょうおうごんおうれんにんじんとう)之を主る。方十。

 

〔乾薑黄芩黄連人參湯方〕

乾薑 黄芩 黄連 人參(各三兩)

右四味、以水六升、煮取二升、去滓、分温再服。

 

乾薑 黄芩 黄連 人參(各三兩)

右四味、水六升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、分かち温め再服す。

 

【三六〇条】

下利有微熱而渴、脉弱者、今自愈。

下利し微熱(びねつ)有りて渴し、脉弱の者は、今自(おのずか)ら愈ゆ。

 

【三六一条】

下利脉數、有微熱汗出、今自愈。設復緊(一云設脉浮復緊)、為未解。

下利し、脉數(さく)、微熱有りて汗出ずるは、今自ら愈ゆ。設(も)し復た緊なれば、未だ解せずと為(な)す。

 

【三六二条】

下利、手足厥冷、無脉者、灸之不温、若脉不還、反微喘者、死。少陰負趺陽者、為順也。

下利、手足厥冷し、脉無き者は、之に灸す。温まらず、若し脉還(かえ)らず、反って微喘(びぜん)する者は、死す。少陰、趺陽(ふよう)より負の者は、順と為(な)すなり。

 

【三六三条】

下利、寸脉反浮數、尺中自濇者、必清膿血。

下利し、寸脉反って浮數(さく)。尺中自ら濇(しょく)の者は、必ず膿血(のうけつ)を清す。

 

【三六四条】

下利清穀、不可攻表。汗出必脹滿。

下利清穀(せいこく)するは、表を攻むべからず。汗出ずれば、必ず脹滿す。

 

【三六五条】

下利、脉沈弦者、下重也。脉大者、為未止。脉微弱數者、為欲自止、雖發熱不死。

下利し、脉沈弦の者は、下重(げじゅう)するなり。脉大の者は、未(いま)だ止まずと為す。脉微弱數の者は、自ら止まんと欲すと為す。發熱すると雖も死せず。

 

【三六六条】

下利脉沈而遲、其人面少赤、身有微熱、下利清穀者、必鬱冒汗出而解、病人必微厥、所以然者、其面戴陽、下虛故也。

下利し、脉沈にして遲、其の人面少しく赤く、身に微熱有り。下利清穀する者は、必ず鬱冒(うつぼう)し汗出でて解す。病人必ず微厥(びけつ)す。然る所以(ゆえん)の者は、其の面戴陽(たいよう)して、下虛するが故なり。

 

【三六七条】

下利脉數而渴者、今自愈。設不差、必清膿血、以有熱故也。

下利し、脉數にして渴する者は、今自ら愈ゆ。設(も)し差(い)えざれば、必ず膿血を清す。熱有るを以ての故なり。

 

【三六八条】

下利後、脉絶、手足厥冷、晬時脉還、手足温者生。脉不還者死。

下利の後、脉絶(ぜつ)し、手足厥冷するも、晬時(さいじ)にして脉還(かえ)り、手足温なる者は生く。脉還らざる者は死す。

 

【三六九条】

傷寒下利日十餘行、脉反實者、死。

傷寒、下利すること日に十餘行(こう)、脉反って實する者は死す。

 

【三七〇条】

下利清穀、裏寒外熱、汗出而厥者、通脉四逆湯主之。方十一。

下利清穀、裏寒外熱し、汗出で厥する者は、通脉四逆湯(つうみゃくしぎゃくとう)之を主る。方十一。

 

〔通脉四逆湯方〕

甘草(二兩炙) 附子(大者一枚生去皮破八片) 乾薑(三兩強人可四兩)

右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、分温再服、其脉即出者愈。

 

甘草(二兩、炙る) 附子(大なる者一枚、生、皮を去り、八片に破る) 乾薑(三兩、強人は四兩とすべし)

右三味、水三升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温め再服す。其の脉即ち出ずる者は、愈ゆ。

 

【三七一条】

熱利下重者、白頭翁湯主之。方十二。

熱利(ねつり)して下重(げじゅう)する者は、白頭翁湯(はくとうおうとう)之を主る。方十二。

 

〔白頭翁湯方〕

白頭翁(二兩) 黄檗(三兩) 黄連(三兩) 秦皮(三兩)

右四味、以水七升、煮取二升、去滓、温服一升。不愈、更服一升。

 

白頭翁(はくとうおう)(二兩) 黄檗(三兩) 黄連(三兩) 秦皮(しんぴ)(三兩)

右四味、水七升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、一升を温服す。愈えざれば、更に一升を服す。

 

【三七二条】

下利腹脹滿、身體疼痛者、先温其裏、乃攻其表。温裏宜四逆湯、攻表宜桂枝湯。十三(四逆湯用前第五方)。

下利し、腹脹滿し、身體(しんたい)疼痛する者は、先ず其の裏を温め、乃ち其の表を攻む。裏を温むるは四逆湯に宜しく、表を攻むるは桂枝湯に宜し。十三(四逆湯は前の第五方を用う)。

 

〔桂枝湯方〕

桂枝(三兩去皮) 芍藥(三兩) 甘草(二兩炙) 生薑(三兩切) 大棗(十二枚擘)

右五味、以水七升、煮取三升、去滓、温服一升、須臾啜熱稀粥一升、以助藥力。

 

桂枝(三兩、皮を去る) 芍藥(三兩) 甘草(二兩、炙る) 生薑(三兩、切る) 大棗(十二枚、擘く)

右五味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す、須臾(しゅゆ)にして熱稀粥(ねつきしゅく)一升を啜(すす)り、以て藥力を助く。

 

【三七三条】

下利欲飲水者、以有熱故也、白頭翁湯主之。十四(用前第十二方)。

下利し水を飲まんと欲する者は、熱有るを以ての故なり。白頭翁湯を之を主る。十四(前の第十二方を用う)。

 

【三七四条】

下利讝語者、有燥屎也、宜小承氣湯。方十五。

下利して讝語する者は、燥屎(そうし)有るなり、小承氣湯に宜し。方十五。

 

〔小承氣湯方〕

大黄(四兩酒洗) 枳實(三枚炙) 厚朴(二兩去皮炙) 

右三味、以水四升、取煮一升二合、去滓、分二服。初一服讝語止、若更衣者、停後服、不爾盡服之。

 

大黄(四兩、酒で洗う) 枳實(三枚、炙る) 厚朴(二兩、皮を去り、炙る) 

右三味、水四升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、二服に分かつ。初め一服して讝語止み、若し更衣する者は、後服を停む。爾(しか)らざれば、盡(ことごと)く之を服す。

 

【三七五条】

下利後更煩、按之心下濡者、為虛煩也、宜梔子豉湯。方十六。

下利したる後更に煩し、之を按じて心下濡(なん)の者は、虛煩(きょはん)と為すなり、梔子豉湯に宜し。方十六。

 

〔梔子豉湯方〕

肥梔子(十四箇擘) 香豉(四合綿裹)

右二味、以水四升、先煮梔子、取二升半、内豉、更煮取一升半、去滓、分再服。一服得吐、止後服。

 

肥梔子(十四箇、擘く) 香豉(四合、綿もて裹む)

右二味、水四升を以て、先ず梔子を煮て、二升半を取り、豉(し)を内れ、更に煮て一升半を取り、滓を去り、分かちて再服す。一服にて吐を得れば、後服を止む。

 

【三七六条】

嘔家有癰膿者、不可治嘔、膿盡自愈。

嘔家(おうか)、癰膿(ようのう)有る者は、嘔(おう)治すべからず。膿(のう)盡(つ)きれば自ら愈ゆ。

 

【三七七条】

嘔而脉弱、小便復利、身有微熱、見厥者、難治、四逆湯主之。十七(用前第五方)。

嘔(おう)して脉弱、小便復た利し、身に微熱有りて、厥(けつ)を見(あら)わす者は、治し難(がた)し。四逆湯之を主る。十七(前の第五方を用う)。

 

【三七八条】

乾嘔吐涎沫、頭痛者、呉茱萸湯主之。方十八。

乾嘔(かんおう)し、涎沫(えんまつ)を吐し、頭痛する者は、呉茱萸湯之を主る。方十八。

 

〔呉茱萸湯方〕

呉茱萸(一升湯洗七遍) 人參(三兩) 大棗(十二枚擘) 生薑(六兩切)

右四味、以水七升、煮取二升、去滓、温服七合、日三服。

 

呉茱萸(一升、湯もて洗うこと七遍(へん)) 人參(三兩) 大棗(十二枚、擘く) 生薑(六兩、切る)

右四味、水七升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、七合を温服し、日に三服す。

 

【三七九条】

嘔而發熱者、小柴胡湯主之。方十九。

嘔して發熱する者は、小柴胡湯之を主る。方十九。

 

〔小柴胡湯方〕

柴胡(八兩) 黄芩(三兩) 人參(三兩) 甘草(三兩炙) 生薑(三兩切)  半夏(半升洗) 大棗(十二枚擘)

右七味、以水一斗二升、煮取六升、去滓、更煎取三升、温服一升、日三服。

 

柴胡(八兩) 黄芩(三兩) 人參(三兩) 甘草(三兩、炙る) 生薑(三兩、切る)  半夏(半升、洗う) 大棗(十二枚、擘く)

右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取り、滓を去り、更に煎じて三升を取り、一升を温服し、日に三服す。

 

【三八〇条】

傷寒、大吐、大下之、極虛、復極汗者、其人外氣怫鬱、復與之水以發其汗、因得噦。所以然者、胃中寒冷故也。

傷寒、大いに吐し、大いに之を下し、極めて虛し、復た極めて汗する者は、其の人外氣(がいき)怫鬱(ふつうつ)す。復た之に水を與(あた)え、以て其の汗を發し、因(よ)りて噦(えつ)を得る。。然(しか)る所以(ゆえん)の者は、胃中寒冷するが故なり。

 

【三八一条】

傷寒噦而腹滿、視其前後、知何部不利、利之即愈。

傷寒噦(えつ)して腹滿するは、其の前後を視て、何れの部の利せざるかを知り、之を利すれば即ち愈ゆ。

 

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辨少陰病脉證并治 281~325条

 志ある学徒の、簡便な道具にならんことを願って読み下文を記しています。

 また初学者のため、重複の労をいとわずルビをふっています。

 誤りを見つけられましたら、どうかコメント欄に投稿をお願いいたします。

 

 底本 趙開美刊 「仲景全書」所収 『傷寒論』十巻

                    日本漢方協会学術部 編 東洋学術出版社

 

   辨少陰病脉證并治 281~325条

                        第十一(合二十三法方一十九首)

                少陰病の脉證并びに治を辨ず・第十一(合わせて二十三法、方一十九首)

 

【二八一条】

少陰之為病、脉微細、但欲寐也。

少陰の病為(た)るや、脉微細、但(た)だ寐(いね)んと欲するなり。

 

【二八二条】

少陰病、欲吐不吐、心煩但欲寐、五六日自利而渴者、屬少陰也。虛故引水自救。若小便色白者、少陰病形悉具。小便白者、以下焦虛有寒、不能制水、故令色白也。

少陰病、吐せんと欲して吐せず、心煩し但だ寐(いね)んと欲し、五、六日自利して渴する者は、少陰に屬するなり。虛するが故に、水を引きて自ら救う。若し小便の色白き者は、少陰の病形悉(ことごと)く具わる。小便白き者は、下焦虛して寒有り、水を制すること能わざるを以ての故に色をして白からしむるなり。

 

【二八三条】

病人脉陰陽倶緊、反汗出者、亡陽也。此屬少陰、法當咽痛而復吐利。

病人脉陰陽倶(とも)に緊、反って汗出ずる者は、亡陽なり。此れ少陰に屬ず。法は當に咽痛(いんつう)して復た吐利すべし。

 

【二八四条】

少陰病、欬而下利、讝語者、被火氣劫故也。小便必難、以強責少陰汗也。

少陰病、欬(がい)して下利(げり)し、讝語する者は、火氣に劫(おびや)かさるるが故なり。小便必ず難し。強いて少陰を責め汗しむるを以てなり。

 

【二八五条】

少陰病、脉細沈數、病為在裏、不可發汗。

少陰病、脉細沈數なるは、病裏に在りと為す、汗を發すべからず。

 

【二八六条】

少陰病、脉微、不可發汗、亡陽故也。陽已虛、尺脉弱濇者、復不可下之。

少陰病、脉微、汗を發すべからず、亡陽するが故なり。陽已(すで)に虛し、尺脉弱濇(じゃくしょく)の者は、復た之を下すべからず。

 

【二八七条】

少陰病、脉緊、至七八日自下利、脉暴微、手足反温、脉緊反去者、為欲解也、雖煩下利、必自愈。

少陰病、脉緊、七、八日に至りて自下利し、脉暴(にわ)かに微(び)、手足反って温かく、脉緊反って去る者は、解せんと欲すと為(な)すなり。煩して下利すと雖も、必ず自ら愈ゆ。

 

【二八八条】

少陰病、下利、若利自止、惡寒而踡臥、手足温者、可治。

少陰病、下利(げり)し、若しくは利自(おのずか)ら止み、惡寒して踡臥(けんが)し、手足温の者は、治すべし。

 

【二八九条】

少陰病、惡寒而踡、時自煩、欲去衣被者、可治。

少陰病、惡寒して踡(かがま)り、時に自(おのずか)ら煩し、衣被(いひ)を去らんと欲する者は、治すべし。

 

【二九〇条】

少陰中風、脉陽微陰浮者、為欲愈。

少陰の中風、脉陽微陰浮の者は、愈えんと欲すと為(な)す。

 

【二九一条】

少陰病欲解時、從子至寅上。

少陰病解せんと欲する時は、子(ね)從(よ)り寅(とら)の上に至る。

 

【二九二条】

少陰病、吐、利、手足不逆冷、反發熱者、不死。脉不至(至一作足)者、灸少陰七壮。

少陰病、吐利し、手足逆冷(ぎゃくれい)せず、反って發熱する者は、死せず。脉至らざる者は、少陰に灸すること七壮。

 

【二九三条】

少陰病、八九日、一身手足盡熱者、以熱在膀胱、必便血也。

少陰病、八、九日、一身手足盡(ことごと)く熱する者は、熱膀胱に在るを以て、必ず便血するなり。

 

【二九四条】

少陰病、但厥、無汗、而強發之、必動其血。未知從何道出、或從口鼻、或從目出者、是名下厥上竭、為難治。

少陰病、但だ厥して、汗無し、而(しか)るに強いて之を發すれば、必ず其の血を動ず。未(いま)だ何(いず)れの道從(よ)り出づるかを知らず。或いは口鼻從(よ)りし、或いは目從(よ)り出づる者は、是れを下厥上竭(げけつじょうけつ)と名づく。治し難しと為す。

 

【二九五条】

少陰病、惡寒、身踡而利、手足逆冷者、不治。

少陰病、惡寒し、身踡(かがま)りて利し、手足逆冷する者は、治せず。

 

【二九六条】

少陰病、吐、利、躁煩四逆者、死。

少陰病、吐利し、躁煩、四逆する者は、死す。

 

【二九七条】

少陰病、下利止而頭眩、時時自冒者、死。

少陰病、下利止みて頭眩(づげん)し、時時自ら冒(ぼう)する者は、死す。

 

【二九八条】

少陰病、四逆、惡寒而身踡、脉不至、不煩而躁者、死(一作吐利而躁逆者死)。

少陰病、四逆し、惡寒して身踡(かがま)り、脉至らず、煩せずして躁する者は、死す(一作吐利而躁逆者死)。

 

【二九九条】

少陰病六七日、息高者、死。

少陰病六、七日、息高き者は、死す。

 

【三〇〇条】

少陰病、脉微細沈、但欲臥、汗出不煩、自欲吐、至五六日自利、復煩躁不得臥寐者、死。

少陰病、脉微細沈、但だ臥(ふ)せんと欲し、汗出でて煩せず、自ら吐せんと欲し、五、六日に至って自利し、復た煩躁して臥寐(がしん)することを得ざる者は、死す。

 

【三〇一条】

少陰病始得之、反發熱、脉沈者、麻黄細辛附子湯主之。方一。

少陰病始めて之を得て、反って發熱し、脉沈の者は、麻黄細辛附子湯(まおうさいしんぶしとう)之を主る。方一。

 

〔麻黄細辛附子湯方〕

麻黄(二兩去節) 細辛(二兩) 附子(一枚炮去皮破八片)

右三味、以水一斗、先煮麻黄、減二升、去上沫、内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升、日三服。

麻黄(二兩、節を去る) 細辛(二兩) 附子(一枚、炮(ほう)じて皮を去り、八片に破る)

右三味、水一斗を以て、先ず麻黄を煮て、二升を減じ、上沫を去り、諸藥を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服し、日に三服す。

 

【三〇二条】

少陰病、得之二三日、麻黄附子甘草湯微發汗。以二三日無證、故微發汗也。方二。

少陰病、之を得ること二、三日、麻黄附子甘草湯(まおうぶしかんぞうとう)にて微(すこ)しく汗を發す。二、三日證無きを以ての故に微しく汗を發するなり。方二。

 

〔麻黄附子甘草湯方〕

麻黄(二兩去節) 甘草(二兩炙) 附子(一枚炮去皮破八片)

右三味、以水七升、先煮麻黄一兩沸、去上沫、内諸藥、煮取三升、去滓、温服一升、日三服。

麻黄(二兩、節を去る) 甘草(二兩、炙る) 附子(一枚、炮じて皮を去り、八片に破る)

右三味、水七升を以て、先ず麻黄を煮て、一、兩沸し、上沫を去り、諸藥を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服し、日に三服す。

 

【三〇三条】

少陰病、得之二三日以上、心中煩、不得臥、黄連阿膠湯主之。方三。

少陰病、之を得ること二、三日以上、心中煩して、臥(ふ)すことを得ざるは、黄連阿膠湯(おうれんあきょうとう)之を主る。方三。

 

〔黄連阿膠湯方〕

黄連(四兩) 黄芩(二兩) 芍藥(二兩) 雞子黄(二枚) 阿膠(三兩一云三挺)

右五味、以水六升、先煮三物、取二升、去滓。内膠烊盡、小冷。内雞子黄、攪令相得。温服七合、日三服。

黄連(四兩) 黄芩(二兩) 芍藥(二兩) 雞子黄(けいしおう)(二枚) 阿膠(三兩、一に三挺(さんてい)と云(い)う)

右五味、水六升を以て、先ず三物を煮て、二升を取り、滓を去る。膠を内れて烊盡(ようじん)し、小(すこ)しく冷やす。雞子黄(けいしおう)を内れ、攪(ま)ぜて相(あ)い得(え)せしむ。七合を温服し、日に三服す。

 

【三〇四条】

少陰病、得之一二日、口中和、其背惡寒者、當灸之、附子湯主之。方四。

少陰病、之を得て一、二日、口中和し、其の背惡寒する者は、當に之を灸すべし。附子湯之を主る。方四。

 

〔附子湯方〕

附子(二枚炮去皮破八片) 茯苓(三兩) 人參(二兩) 白朮(四兩) 芍藥(三兩)

右五味、以水八升、煮取三升、去滓、温服一升、日三服。

附子(二枚、炮じて皮を去り、八片に破る) 茯苓(三兩) 人參(二兩) 白朮(四兩) 芍藥(三兩)

右五味、水八升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す、日に三服す。

 

【三〇五条】

少陰病、身體痛、手足寒、骨節痛、脉沈者、附子湯主之。五(用前第四方)。

少陰病、身體(しんたい)痛み、手足寒(ひ)え、骨節(こっせつ)痛み、脉沈の者は、附子湯之を主る。五(前の第四方を用う)。

 

【三〇六条】

少陰病、下利便膿血者、桃花湯主之。方六。

少陰病、下利して膿血(のうけつ)を便する者は、桃花湯(とうかとう)之を主る。方六。

 

〔桃花湯方〕

赤石脂(一斤一半全用一半篩末) 乾薑(一兩) 粳米(一升)

右三味、以水七升、煮米令熟、去滓。温服七合、内赤石脂末方寸匕、日三服。若一服愈、餘勿服。

赤石脂(しゃくせきし)(一斤、一半は全用、一半は篩(ふる)って末とす) 乾薑(一兩) 粳米(一升)

右三味、水七升を以て、米を煮て熟せしめ、滓を去る。七合を温服し、赤石脂末方寸匕(ひ)を内れ、日に三服す。

若し一服にして愈ゆれば、餘は服すること勿(な)かれ。

 

【三〇七条】

少陰病、二三日至四五日、腹痛、小便不利、下利不止、便膿血者、桃花湯主之。七(用前第六方)。

少陰病、二、三日より四、五日に至り、腹痛し、小便利せず、下利止まず、膿血を便する者は、桃花湯之を主る。七(前の第六方を用う)。

 

【三〇八条】

少陰病、下利便膿血者、可刺。

少陰病、下利膿血を便する者は、刺すべし。

 

【三〇九条】

少陰病、吐利、手足逆冷、煩躁欲死者、呉茱萸湯主之。方八。

少陰病、吐利(とり)、手足逆冷(ぎゃくれい)、煩躁して死せんと欲する者は、呉茱萸湯(ごしゅゆとう)之を主る。方八。

 

〔呉茱萸湯方〕

呉茱萸(一升) 人參(二兩) 生薑(六兩切) 大棗(十二枚擘)

右四味、以水七升、煮取二升、去滓、温服七合、日三服。

呉茱萸(一升) 人參(二兩) 生薑(六兩、切る) 大棗(十二枚、擘く)

右四味、水七升を以て、煮て二升を取り、滓を去り、七合を温服し、日に三服す。

 

【三一〇条】

少陰病、下利、咽痛、胸滿、心煩、猪膚湯主之。方九。

少陰病、下利し、咽(のど)痛み、胸滿し、心煩するは、猪膚湯(ちょふとう)之を主る。方九。

 

〔猪膚湯方〕

猪膚(一斤)

右一味、以水一斗、煮取五升、去滓、加白蜜一升、白粉五合、熬香、和令相得、温分六服。

猪膚(ちょふ)(一斤)

右一味、水一斗を以て、煮て五升を取り、滓を去り、白蜜(はくみつ)一升、白粉(はくふん)五合を加え、

熬(い)りて香ならしめ、和して相(あ)い得せしめ、温め分かち六服す。

 

【三一一条】

少陰病二三日、咽痛者、可與甘草湯。不差、與桔梗湯。十。

少陰病二、三日、咽痛む者は、甘草湯を與うべし。差(い)えざれば、桔梗湯(ききょうとう)を與う。十。

 

〔甘草湯方〕

甘草(二兩)

右一味、以水三升、煮取一升半、去滓、温服七合、日二服。

甘草(二兩)

右一味、水三升を以て、煮て一升半を取り、滓を去り、七合を温服し、日に二服す。

 

〔桔梗湯方〕

桔梗(一兩) 甘草(二兩)

右二味、以水三升、煮取一升、去滓、温分再服。

桔梗(一兩) 甘草(二兩)

右二味、水三升を以て、煮て一升を取り、滓を去り、分かち温め再服す。

 

【三一二条】

少陰病、咽中傷、生瘡、不能語言、聲不出者、苦酒湯主之。方十一。

少陰病、咽中(いんちゅう)傷れて瘡(そう)を生じ、語言すること能わず、聲(こえ)出でざる者は、苦酒湯(くしゅとう)之を主る。方十一。

 

〔苦酒湯方〕

半夏(洗破如棗核十四枚) 雞子(一枚去黄内上苦酒着雞子殻中)

右二味、内半夏、著苦酒中、以雞子殻置刀環中、安火上、令三沸、去滓。少少含嚥之。不差、更作三劑。

半夏(洗い、破りて棗核(そうかく)の如くす、十四枚) 雞子(けいし)(一枚、黄を去り、上苦酒を内れ、雞子殻(けいしかく)の中に着(つ)ける)

右二味、半夏を内れ、苦酒(くしゅ)中に著(つ)け、雞子殻(けいしかく)を以て刀環(とうかん)の中に置き、火上に安じて、三沸せしめ、滓を去る。少少之を含嚥(がんえん)す。差(い)えざれば、更に三劑を作る。

 

【三一三条】

少陰病、咽中痛、半夏散及湯主之。方十二。

少陰病、咽中(いんちゅう)痛むは、半夏散(はんげさん)及び湯之を主る。方十二。

 

〔半夏散及湯方〕

半夏(洗) 桂枝(去皮) 甘草(炙)

右三味、等分、各別擣篩已、合治之、白飲和服方寸匕、日三服。若不能散服者、以水一升、煎七沸、内散兩方寸匕、更煮三沸、下火令小冷、少少嚥之。半夏有毒、不當散服。

半夏(洗う) 桂枝(皮を去る) 甘草(炙る)

右三味、等分し、各々別に擣(つ)き篩(ふるい)い已(おわ)り、合して之を治め、白飲(はくいん)もて和して方寸匕(ひ)を服し、日に三服す。若そ散服すること能わざる者は、水一升を以て、煎ずること七沸、散兩方寸匕を内れ、更に煮ること三沸、火より下(おろ)し小(すこ)しく冷やさしめ、少少之を嚥(の)む。半夏毒有り、散服するに當(あた)らず。

 

【三一四条】

少陰病、下利、白通湯主之。方十三。

少陰病、下利(げり)するは、白通湯(はくつうとう)之を主る。方十三。

 

〔白通湯方〕

葱白(四莖) 乾薑(一兩) 附子(一枚生去皮破八片)

右三味、以水三升、煮取一升、去滓、分温再服。

葱白(そうはく)(四莖) 乾薑(一兩) 附子(一枚、生、皮を去り、八片に破る)

右三味、水三升を以て、煮て一升を取り、滓を去り、分かち温め再服す。

 

【三一五条】

少陰病、下利、脉微者、與白通湯。利不止、厥逆無脉、乾嘔、煩者、白通加猪膽汁湯主之。服湯、脉暴出者死、微續者生。白通加猪膽湯。方十四(白通湯用上方)。

少陰病、下利し、脉微の者は、白通湯を與う。利止まず、厥逆して脉無く、乾嘔(かんおう)、煩する者は、白通加猪膽汁湯(はくつうかちょたんじゅうとう)之を主る。

湯を服して、脉暴(にわ)かに出づる者は、死す。微しく續(つづ)く者は、生く。白通加猪膽湯。方十四(白通湯は、上方を用う)。

 

〔白通加猪膽汁湯方〕

葱白(四莖) 乾薑(一兩) 附子(一枚生去皮破八片) 人尿(五合) 猪膽汁(一合)

右五味、以水三升、煮取一升、去滓、内膽汁、人尿、和令相得、分温再服。若無膽亦可用。

葱白(四莖) 乾薑(一兩) 附子(一枚、生、皮を去り、八片に破る) 人尿(じんにょう)(五合) 猪膽汁(ちょたんじゅう)(一合)

右五味、水三升を以て、煮て一升を取り、滓を去り、膽汁、人尿を内れ、和して相い得せしめ、分かち温め再服す。若し膽(たん)無くも亦(ま)た、用うべし。

 

【三一六条】

少陰病、二三日不已、至四五日、腹痛、小便不利、四肢沈重疼痛、自下利者、此為有水氣。其人或欬、或小便利、或下利、或嘔者、真武湯主之。方十五。

少陰病、二、三日して已(や)まず、四、五日に至り、腹痛、小便不利、四肢沈重(ちんじゅう)疼痛(とうつう)、自下利する者は、此れ水氣(すいき)有りと為(な)す。其の人或は欬(がい)し、或は小便利し、或は下利し、或は嘔する者は、真武湯之を主る。方十五。

 

〔真武湯方〕

茯苓(三兩) 芍藥(三兩) 白朮(二兩) 生薑(三兩切) 附子(一枚炮去皮破八片)

右五味、以水八升、煮取三升、去滓、温服七合、日三服。若欬者、加五味子半升、細辛一兩、乾薑一兩。若小便利者、去茯苓。若下利者、去芍藥、加乾薑二兩。若嘔者、去附子、加生薑、足前為半斤。

茯苓(三兩) 芍藥(三兩) 白朮(二兩) 生薑(三兩、切る) 附子(一枚、炮じて、皮を去り、八片に破る)

右五味、水八升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、七合を温服し、日に三服す。若し欬(がい)する者は、五味子半升、細辛一兩、乾薑一兩を加う。

若し小便利する者は、茯苓を去る。若し下利する者は、芍藥を去り、乾薑二兩を加う。若し嘔する者は、附子を去り、生薑を加え、前に足して半斤と為す。

 

【三一七条】

少陰病、下利清穀、裏寒外熱、手足厥逆、脉微欲絶、身反不惡寒、其人面色赤。或腹痛、或乾嘔、或咽痛、或利止脉不出者、通脉四逆湯主之。方十六。

少陰病、下利(げり)清穀(せいこく)、裏寒外熱し、手足厥逆、脉微にして絶せんと欲し、身反って惡寒せず、其の人面色赤し。或は腹痛し、或は乾嘔し、或は咽痛し、或は利止みて脉出でざる者は、通脉四逆湯之を主る。方十六。

 

〔通脉四逆湯方〕

甘草(二兩炙) 附子(大者一枚生用去皮破八片) 乾薑(三兩強人可四兩)

右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、分温再服、其脉即出者愈。面色赤者、加葱九莖。腹中痛者、去葱、加芍藥二兩。嘔者、加生薑二兩。咽痛者、去芍藥、加桔梗一兩。利止脉不出者、去桔梗、加人參二兩。病皆與方相應者、乃服之。

甘草(二兩、炙る) 附子(大なる者一枚、生を用い皮を去り、八片に破る) 乾薑(三兩、強人は四兩とすべし)

右三味、水三升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温め再服す。其の脉即ち出づる者は愈ゆ。

面色赤き者は、葱九莖を加う。腹中痛む者は、葱を去り、芍藥二兩を加う。嘔する者は、生薑二兩を加う。咽痛する者は、芍藥を去り、桔梗一兩を加う。

利止みて脉出でざる者は、桔梗を去り、人參二兩を加う。病皆方(ほう)と相應(そうおう)する者は、乃(すなわ)ち之を服す。

 

【三一八条】

少陰病、四逆、其人或欬、或悸、或小便不利、或腹中痛、或泄利下重者、四逆散主之。方十七。

少陰病、四逆し、其の人或は欬(がい)し、或は悸(き)し、或は小便不利し、或は腹中痛み、或は泄利(せつり)下重(げじゅう)する者は、四逆散之を主る。方十七。

 

〔四逆散方〕

甘草(炙) 枳實(破水漬炙乾) 柴胡 芍藥

右四味、各十分、擣篩、白飲和服方寸匕、日三服。欬者、加五味子、乾薑各五分、并主下利。悸者、加桂枝五分。小便不利者、加茯苓五分。腹中痛者、加附子一枚、炮令坼。泄利下重者、先以水五升、煮薤白三升、煮取三升、去滓、以散三方寸匕、内湯中、煮取一升半、分温再服。

甘草(炙る) 枳實(破りて水に漬(ひ)たし、炙り乾かす) 柴胡 芍藥

右四味、各々十分を擣(つ)き篩(ふる)い、白飲もて和し、方寸匕(ひ)を服し、日に三服す。欬する者は、五味子、乾薑各々五分を加え、并(なら)びに下利を主る。悸する者は、桂枝五分を加う。

小便不利の者は、茯苓五分を加う。腹中痛む者は、附子一枚を加え、炮じて坼(き)かしむ。泄利下重の者は、先ず水五升を以て、薤白(がいはく)三升を煮、煮て三升を取り、滓を去り、

散三方寸匕を以て、湯中に内れ、煮て一升半を取り、分かち温め再服す。

 

【三一九条】

少陰病、下利六七日、欬而嘔、渴、心煩、不得眠者、猪苓湯主之。方十八。

少陰病、下利すること六、七日、欬して嘔し、渴し、心煩して眠ることを得ざる者は、猪苓湯之を主る。方十八。

 

〔猪苓湯方〕

猪苓(去皮) 茯苓 阿膠 澤瀉 滑石(各一兩)

右五味、以水四升、先煮四物、取二升、去滓、内阿膠烊盡、温服七合、日三服。

猪苓(皮を去る) 茯苓 阿膠 澤瀉 滑石(各々一兩)

右五味、水四升を以て、先ず四物を煮て、二升を取り、滓を去り、阿膠を内れ烊盡(ようじん)し、七合を温服し、日に三服す。

 

【三二〇条】

少陰病、得之二三日、口燥咽乾者、急下之、宜大承氣湯。方十九。

少陰病、之を得て二、三日、口燥(かわ)き咽(のど)乾く者は、急に之を下す。大承氣湯に宜し。方十九。

 

〔大承氣湯方〕

枳實(五枚炙) 厚朴(半斤去皮炙) 大黄(四兩酒洗) 芒消(三合)

右四味、以水一斗、先煮二味、取五升、去滓、内大黄、更煮取二升、去滓、内芒消、更上火、令一兩沸、分温再服、一服得利、止後服。

枳實(五枚、炙る) 厚朴(半斤、皮を去り、炙る) 大黄(四兩、酒もて洗う) 芒消(三合)

右四味、水一斗を以て、先ず二味を煮て、五升を取り、滓を去り、大黄を内れ、更に煮て二升を取り、滓を去り、芒消を内れ、更に火に上(の)せ、一兩沸せしめ、分かち温め再服す。一服にて利を得れば、後服を止む。

 

【三二一条】

少陰病、自利清水、色純青、心下必痛、口乾燥者、可下之、宜大承氣湯。二十(用前第十九方一法用大柴胡)。

少陰病、清水(せいすい)を自利し、色純青(じゅんせい)、心下必ず痛み、口乾燥する者は、之を下すべし、大承氣湯に宜し。二十(前の第十九方を用う。一法に、大柴胡を用う)。

 

【三二二条】

少陰病、六七日、腹脹、不大便者、急下之、宜大承氣湯。二十一(用前第十九方)。

少陰病、六、七日、腹脹(は)りて、大便せざる者は、急に之を下す、大承氣湯に宜し。二十一(前の第十九方を用う)。

 

【三二三条】

少陰病、脉沈者、急温之、宜四逆湯。方二十二。

少陰病、脉沈の者は、急ぎ之を温む。四逆湯に宜し。方二十二。

 

〔四逆湯方〕

甘草(二兩炙) 乾薑(一兩半) 附子(一枚生用去皮破八片)

右三味、以水三升、煮取一升二合、去滓、分温再服。強人可大附子一枚、乾薑三兩。

甘草(二兩、炙る) 乾薑(一兩、半) 附子(一枚、生を用い、皮を去り、八片に破る)

右三味、水三升を以て、煮て一升二合を取り、滓を去り、分かち温め再服す。強人は、大附子一枚、乾薑三兩とすべし。

 

【三二四条】

少陰病、飲食入口則吐。心中温温欲吐、復不能吐。始得之、手足寒、脉弦遲者、此胸中實、不可下也、當吐之。若膈上有寒飲、乾嘔者、不可吐也、當温之、宜四逆湯。二十三(方依上法)。

少陰病、飲食口に入れば則ち吐す。心中温温(うんうん)として吐せんと欲すも、復た吐すこと能わず。始め之を得て、手足寒(ひ)え、脉弦遲の者は、此れ胸中實す。下すべからざるなり。當に之を吐すべし。

若し膈上に寒飲(かんいん)有りて、乾嘔(かんおう)する者は、吐すべからざるなり。當に之を温むべし。四逆湯に宜し。二十三(方は上法に依(よ)る)。

 

【三二五条】

少陰病、下利、脉微濇、嘔而汗出、必數更衣、反少者、當温其上、灸之(脉經云灸厥陰可五十壮)。

少陰病、下利し、脉微濇(しょく)、嘔して汗出で、必ず數(しば)しば更衣(こうい)するも、反って少なき者は、當に其の上を温め、之を灸すべし(脉經に云う、厥陰に灸すること五十壮とすべしと)。

 

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